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銀色の月15

乱馬とあかねの、それぞれの思いが切なく交差したまま、無常にも時だけは刻々と過ぎていた。
そして、 双方の良い解決策が見つけられないまま…ついに紫苑とあかねの婚礼の式が始める時間を迎えようとしていた。

ゴー…ン…
ゴー…ン…

普段は鳴ることがない、教会の大鐘が、国王の婚礼の式を国民に告げるべく、大きく鳴り響いていた。
音楽隊も華やかな音楽を演奏しては、国王の婚礼の式を彩る手伝いをしている。
それに伴い、教会内の参列席には次々と国民が集まり始め、 集まった皆が皆、これから行われる予定の国王の婚礼の式を今か今かと楽しみに待ち望んでいた。
そんな中、物々しい数の兵に警護されながら、紫苑が教会の中へと姿を表した。
紫苑は教会の最奥部、祭壇の前であかねの現われるのを待ち望んでいるようだった。

 

…そんな華やかな雰囲気の教会の中。
式の警護にあたっている兵達と同じ格好をした乱馬・良牙・ムース・九能。
そして、「若つくり」の魔法で若者の姿に変身をした翠麗は、教会の中央の小広間付近の隊列へと紛れ込んで様子 を覗っていた。
『銀色の月』が見つからない乱馬達は結局、
「紫苑の元へあかねが歩み寄る途中、隙を見てあかねを奪還して外へと飛び出す」
…そんなありきたりな作戦を立てる以外方法は無かった。
念のため、あかねを紫苑の元まで誘う晶ババにも、「タイミングを見計らって煙幕をたてろ」と入れ知恵はしたのだけ れど、
(…そんなタイミングよく出来るとは思えねえな…)
乱馬は最後まで、翠麗が立てたその作戦に納得する事は出来なかった。
…第一。
乱馬には、もしも目の前の通路を、あかねが通りかかったら…それを冷静な心で見送るなんて事はできないと、自 分でも自覚をしていた。
自分の許婚が、他の男の為にドレスで身を着飾り、そして他の男と婚礼の式を挙げるために道を歩んでいくのだ。
冷静に見送れという方が無理だ…と、乱馬は自分でもそう分かっていた。
ざっと見ても、物々しい数の兵が教会内にはいた。
こんな兵の隙を見て、しかも紫苑が見ている前で…晶ババが煙幕の魔法など出せるはずがないと、乱馬は思って いた。
(どうにかならないのか…)
乱馬は、ギリっと唇をかみつつ思わず天井を仰ぎながらため息ばかりついていた。
(くそ!何とか…何とかならねえのかよ!ッ)
徐々に、婚礼の式を開始を物語っているかのような音楽隊の演奏が派手に鳴り響く中、乱馬は気持ちだけを、焦らせていた。
そんな中、
わあッ…という観客達のどよめきと、ホウ…というため息。
そして、教会中に、建物が割れんばかりの拍手が急に沸き起こった。
乱馬がはっとして教会の入り口の方を見ると、そこには、紫苑のために美しく着飾ったあかねと、そのあかねについてやって来た晶ババが姿を見せていた。

黒いドレスに身を包まれたあかねは、表情は晴れなく暗いものの、はたから見ている乱馬が思わず腹が立ってしまうほど、妖しい美しさを放っていた。

(あかねッ…)
他の男の元へと続く道を歩いていく自分の許婚に、乱馬は駆け寄らずに入られない衝動に駆られ、思わず列を掻き分けあかねの前へと飛び出してゆこうとしたが、
「まだじゃ!まだならぬッ…」
そんな乱馬の腕を、翠麗は慌てて掴んだ。
「でもッ…!」
「今飛び出したらッ…何もかも終わりじゃ!時を待つのじゃ…青年よ!」
「…くそ!」
気持ちばかりが焦る乱馬は、翠麗から乱暴に腕を振り解き、近くの壁を拳で叩いた。
そして、
(どうすりゃ良いんだよ!このままじゃあかねが紫苑の所に…ッ)
目の前を通り過ぎていくあかねの姿を、どうにもでいないまま見送るしか出来なかった乱馬は、いまだ見つからない『銀色の月』そして、突破口を求めて思わず天を仰いだ。
天を仰いだ乱馬の瞳には、
「スポットライトじゃねーっつんだよ」
式が始まる前に乱馬が何度となくそうぼやいていた通り、式が始まればそれから尚も派手に、 天窓からの光がいろんな方向へと照らし出されている光景が映っていた。
円形の教会にランダムに差し込む、無数の光の筋。
きっと心に余裕があるのなら、
「お、結婚式にしゃれた余興だな」
そんな風に思えるのかもしれない。
しかし今の乱馬には、そんな風にランダムに差し込む光の筋は単なるイラツキの対象他ならなかった。
(くそッ…)
乱馬は、ギリ…と唇をかんだ。
が、焦ってばかりいても何も解決はしないことも分かってはいるので、気持ちを紛らわせる意味を込めつつ…その光を見ながら、乱馬は『銀色の月』についての手掛かりとなる例のフレ ーズをぼんやりと思い浮かべてみた。

    
赤き涙を誘う月、選ばれしものを守りたもう。
その月、人魅了しては次々と赤き涙、誘わん。
選ばれしもの道迷うときあれば、
九時の方向より光さすとき、古の扉の向こうに銀色の月あらわる。
二つの月が交わりしとき、 真実の光そこにさす。
真の宝もそこに現れん

 

(…あれ?)
…その時ふと。
昨夜、夜にこの教会にきたときは全然思いつかなかったのだけれど、乱馬はそれが「なんなのか」は分からずとも、何か…何かがキラリと、頭の中を駆け抜けたような気がした。
「あれ…?」
乱馬は、その頭の中を駆け抜けたものの正体を駆け抜けるべく、もう一度注意深く、天を仰いだ。

天窓からランダムに差し込む無数の光の筋。
その何本かは、差し込む角度の関係で偶然、教会内の、乱馬達が昨夜調査した部屋の扉に向って真っ直ぐにあたっているものもあった。

「光…」
乱馬は、そのままその光と、そして光溢れる教会の内部をじっくりと観察していった。

光がランダムに差し込む教会。
円形の広場を中心に、その円に沿って立てられている十二の燭台。
その十二の燭台のうち、その台の位置と扉の位置がかぶる四つの部屋。
十二の台に、四つの部屋。
「十二」の内の、「四つ」だけ目立つ印。

「時計…?」
その時ふと、乱馬は、この教会内部「自体」の作りを、そんな風に捉えてみた。

ランダムに差し込む光。
「時計」を思わせる教会の内部。
(…だとすると…)
乱馬はそんなことを考えながら、もう一度例のフレーズを思い浮かべてみた。

 

赤き涙を誘う月、選ばれしものを守りたもう。
その月、人魅了しては次々と赤き涙、誘わん。
選ばれしもの道迷うときあれば、
九時の方向より光さすとき、古の扉の向こうに銀色の月あらわる。
二つの月が交わりしとき、 真実の光そこにさす。
真の宝もそこに現れん
… この教会自体を「時計」のように考えると…九時の方向より光さすときって事は…?

「おい、じいさん」
「なんじゃ?」
「…この教会さ…北というか…上座の方角はどっちだ?」
乱馬は、ランダムに差し込まれる光に目を奪われたままの状態で、翠麗に尋ねた。
「上座というか…そりゃ、今紫苑様が立ってらっしゃる場所が一番奥、じゃろうな」
翠麗は、そんな乱馬のぼやきに不思議そうに応える。
「上座が十二時。じゃあ、九時の方角は…」
乱馬はそんな事を呟きながら、ランダムに差し込む光の中の一つで、尚且つ十二の燭台と部屋の扉が重なっているその場所に差し込んでいる光に目をつけた。
ランダムに光が差し込む中、ほんの一瞬だけれど、その扉を照らし出す光。
天窓から、「九時」の方向に差す、一筋の光。

「あそこだ…」
「え?」
「あそこに、『銀色の月』がある!」

そう思った瞬間、乱馬は走り出していた。
「お、おい青年!」
翠麗も慌てて、そんな乱馬の後を追う。
運が良い事に、教会内の人々、客も兵も式の進行に夢中になっていて、乱馬と翠麗が、ある部屋の扉の前へと走り出した事など気にもとめてはいないようだった。
「ここだ!」
…乱馬は、とある扉の前へと立った。
その扉は、例の「懺悔部屋」…・
ではなく、「懺悔部屋」の隣にある、昔は倉庫として使われていたという、鍵の無い部屋だった。
「青年、無駄じゃよ。その部屋の鍵は行方不明じゃし、それに魔法でも開かんのじゃ。
大体その部屋は、懺悔部屋の隣で、気味悪がって誰も使ってないんじゃよ…」
鍵のかかったドアノブをガチャガチャとやりながらイラついている乱馬に、
翠麗は諦めるように声をかけるが、
「懺悔部屋の隣だから、気味悪がって部屋を使わなくなったんじゃねえよ!たぶん、部屋に人を近付けさせたくないから、この部屋の隣を懺悔部屋にしたんだ!」
乱馬は、翠麗にそう叫んだ。
「なんと…」
翠麗は、そんな乱馬の「逆転の発想」に驚いている様子だったが、
「じいさん!ぐずぐずしてる暇はねえッ。この部屋、鍵がねえんだろ!?」
「そうじゃ。魔法の力でもあかないんじゃよ…」
「だったら!魔法で鍵を開けることが出来ねえなら、魔力じゃなくて腕力でこじ開ける!」
「そんな…無茶を言うな、青年よ!お主の腕力では到底…」
「だったら!じいさん、俺の手に…俺の手に、一時的にパワーを増す魔法をかけてくれ!時間がねえんだよ!あかねを助けなくちゃいけねえんだ!俺、約束したんだッ」
乱馬は険しい表情で翠麗のほうを振り返り、勢いよく右腕を差し出した。
そんな乱馬の真剣な眼差しと、有無を言わせない剣幕に、
「分かった」
翠麗は戸惑いながらも頷いた。
そして、差し出された乱馬のその腕に自分の左手のひらをかざし、
「…むんッ…」
そんな掛け声とともに、ぐっ…と乱馬の腕を掴んだ。
その瞬間、
「!?」
グォン…!
…乱馬の腕の中に、一言では言い表せないような「重い力」が注ぎ込まれた。
「わ!」
あまりの急な重力に、乱馬はガクン、と一瞬体のバランスを崩してしまうほどだった。
「何だ,今の…」
乱馬がそんな事をぼやきながらよろよろと立ち上がると、
「お主の望むとおり…ワシの、今出せる限りの魔力を最大限生かして、力を注ぎ込んでやったぞい」
翠麗はそう言って乱馬に向って笑いかけたが、その直後にヘナヘナヘナ…と床にへたり込んでしまった。
それと同時に、翠麗が若つくりの為に自分自身にかけていた魔法が解けてしまったようだった。
「じいさん、大丈夫か!?」
急に老人の姿になってしまった翠麗の身体を慌てて乱馬は支えるが、
「なあに、しばらく休めばすぐに魔力も復活するわい。それよりも青年、時間がないんじゃろ?ワシに構うな」
翠麗は、本当はすぐにでも気を失ってしまいそうなほど体力と魔力を消耗しているにも関わらず、乱馬にわらって見せた。
「…すまねえ、じいさん!」
乱馬はそんな翠麗の心使いに感謝した。
そして、
「良牙!」
乱馬達の方へと駆けてきた良牙やムース・九能に翠麗を託すと、
「はあ…」
翠麗の注ぎ込んでくれた、魔力の篭った右腕に全神経を集中させ、気を溜めた。
そして、

「やああ!」

…ドオン!

教会内の、式に対する拍手や歓声に紛れさせながら、乱馬は部屋の扉を大破させた。
「おい!何をやっている!」
…さすがにその行為と、爆音にはあたりの兵士たちも気がついたようで、
「紫苑様の式の最中に、何をしているのだ!」
兵たちは武器を片手に乱馬達のところへと走り寄ってくるが、
「不審者がいたから排除をしているだけじゃ」
「ここは我らに任せよ」
乱馬の元へ向おうとしている兵を、ムースと九能が上手く塞き止める。
(すまねえ、皆!)
乱馬は心の中では感謝しつつも、礼を言っている暇はない…と、大破したドアから部屋の中へと飛び込んだ。
…部屋は、何の変哲もない、ただの物置部屋だった。
長い事扉を閉ざされていただけあり、ヒンヤリとした空気とかび臭さが立ち込めていた。
そんな部屋の中に飛び込み、乱馬はもう一度、天を仰いだ。
(もう一回だ!・・もう一回、天窓からのランダムな光が、扉を無くしたこの部屋に差し込めば…!)
「早くッ…早く差し込め!」
光を待つその時間…時間的にはほんの数十秒くらいしかないはずなのに、
乱馬にとっては無限に感じられた。
気が、焦った。
心が、逸った。
(早く!)
乱馬は、心の中でその瞬間を今か今かと待ち望んだ。
そして…

キラッ…・

ついに、天窓からのランダムな光が、乱馬のいる部屋の中へと差す瞬間がやって来た。
その光は、小気味が良いほど真っ直ぐに、部屋の奥…壁の、ひび割れた隙間に向かってまっすぐに伸びていた。
「そこか!」
乱馬は、再び右腕に神経を集中させた。そして、
「やあ!」
もう一度、今度は光が差した、その壁の割れ目に向かって拳を突き出した。

ガラララ…

乱馬の突き出した拳によって大破した壁は、粉々になって床へと崩れ落ちた。
乱馬はその崩れ落ちた壁の破片を、巻き上がった粉塵を避けながら注意深く見た。
すると、その崩れ落ちている破片の中に、どう見ても壁の破片とは思えないような素材で出来ている、小ぶりのケースが混じ っているのが見えた。
「!」
乱馬が逸る心を抑えて、そのケースを強引にこじ開けると、その小ぶりのケースの中から、思わずその眩しさにめを」くらませてしまうほど光り輝いている、一振りの三日月の「剣」が現れた。
壁の中に長い事隠されていたにも関わらず、刃こぼれ一つしていない、白く、そしてまばゆいばかりに輝く一振りの剣。

 

「これが…これが『銀色の月』!」

 

乱馬は、剣をケースからゆっくりと取り出した。
ズン…
その瞬間、乱馬の腕にずっしりとした重さが伝わってきた。
「…」
…見た目は小ぶり、そしてシンプルなデザインにも関わらず、手首には思った以上に負担を感じさせられた。
きっと、翠麗に腕力をアップさせる魔法をかけてもらってなかったら、例え乱馬であっても、この剣を手に持ち上げる事 すら難儀していたかもしれない。
「…!」
乱馬は、意を決して『銀色の月』の絵の部分をぎゅっと握り締めた。
そして、
「じいさん!俺、行くぞ!」
「頼んだぞ、青年よ…」
乱馬は、自分のために魔力を使い果たしてくれた翠麗に礼をし、そして良牙やムース、九能に一瞬だけ目をやった後、
婚礼の式に歓声を上げて祝福している民と、警護している兵たちの間を飛ぶように掻き分けて進みながら、教会の最奥部…紫苑と、そして連れてこられたあかねが待つ場所へと走り出した。

 

 

 

その一方で。
乱馬が、『銀色の月』を手に走り出したのと同時刻。
もちろん、そんな事を知るはずもないあかねは、紫苑待つ教会最奥部へ続く赤い絨毯の敷かれた道を歩きながら、ため息をついていた。

昨夜の、乱馬と出会えたあの時の約束を信じて、
紫苑の魔法に負けないようにと、弱くなりかけていた心を奮い立たせ、再び気を張りなおした…あかね。
紫苑に直接、魔法を送り込まれようとも、身体の自由が利かなくなりそうでも。
「乱馬は絶対に助けに来てくれる」
それだけを信じて、あかねは紫苑とも、そして自分自身とも戦いつづけた。
けれど…・
「・・・」
無情にも、 あと十歩も歩けば紫苑の元へとたどり着いてしまう…そんな状況に、あかねは直面していた。

…式が始まる直線。
「…信じてあげてください」
乱馬の味方だ・・というメイドが、あかねの支度を手伝いながら、あかねにこっそりとそう告げた。
「あなたは…?」
そう尋ねるあかねに、
「詳しい経緯は話すと長くなりますが。私は、少なくともあなたの味方です。そして、あなたを奪還しようとしている彼らの…味方」
そのメイド…晶ババはそう言って、にっと笑った。
「乱馬は来てくれるの!?約束どおり,あたしを助けに来てくれるのよね!?」
あかねが晶ババにそう尋ねると、
「いろいろと策を講じてはいるみたいですよ」
晶ババはあかねにまずは落ち着くように諭し、
「私が貴方を紫苑坊ちゃんの所へお連れする間に…とは考えてるみたいですが」
「…」
「隙を見て、私が煙幕を張ることになってるけど、そう上手くはいかないと、みんな思ってるのも確か。こうしている間にでも、彼らは何か他の策も考えてるとは思うけれど…」
そう言ってため息をついた。
「そう、ですか…」
何とも頼りないというか安心しきれぬその作戦を聞いて、あかねが不安そうな顔をすると、
「とにかく、何があってもすぐに逃げ出せるように、靴だけは…ヒールの低いものにしておきましょう。ドレスの下に隠れてしまえば分からないでしょう?」
晶ババは不安そうなあかねを気遣いながらも、そう言って、あかねに隠し持ってきたかかとの低い靴を差し出した。
あかねはその靴を黙って履きながら、
「乱馬は…」
「え?」
「乱馬は…絶対に来てくれますよね…」
まるで、自分自身に言い聞かせるかのようにそう呟いた。
「…まずは、信じる事です。それに、貴方が彼を信じないで、他に誰が信じるというのです?」
晶ババはあかねに再びそうい言い聞かせると、バシッと背中を叩いた。
こうして、あかねは晶ババとともに支度部屋を出て教会へとやって来たわけだけれど。

(…もう、あの男の元へたどり着いてしまう…)

…赤い絨毯を歩き続け、やはり煙幕の魔法どころか、あかねと一度も顔さえも合わすタイミングさえもてなかった晶ババと共に、あかねはついに紫苑のすぐ近くまでやってきてしまった。
あかねは、自分をじっと見つめている紫苑と目が合った。
紫苑は、自分の与えたドレスを着て妖しくも美しい魅力を放っているあかねへ向って、満足そうな笑みを浮かべながら手を、差し出した。
(乱馬…)
あかねは、そんな紫苑から顔をそむけて、数多くの参列者の中から乱馬の姿を見つけようとキョロキョロとした。
が、そう簡単には乱馬の姿を見つける事も出来なかった。
「晶さん…」
あかねは、不安げな表情で自分のドレスの後ろのレースを持ってくれている晶ババの方を振り返ったが、
「…」
晶ババも、流石に困ったような表情であかねを見ていた。
(乱馬…)
あかねがさっと表情を曇らせると、
「さ、あかねおいで。これから私達の結婚式が始まるんだ」
そんなあかねの元へ、紫苑の方が、自ら歩み寄ってきた。
そして、戸惑っているあかねの細い手首を掴んだ。
「いや…」
あかねがそんな紫苑の手を振り払い、後ずさりをすると、
「…」
紫苑は、そんなあかねに向かって、黙って自分の左手をかざした。
「!」
その瞬間、紫苑がかざした左手から、あかねの中に何か不思議な引力が働いた。
「い、いや…」
あかねの意志とは裏腹に、あかねの足は、一歩、また一歩と紫苑の方へと歩み寄ってゆく。
「さあ、おいで、あかね」
…あかねの進む先には、満面の笑みを浮かべている紫苑。
(ああ、もう…)
あかねは、自由にならない身体を恨みつつ、ギュ・・と目を閉じた。
(乱馬…)
「乱馬ー!」
自由にならない体。嫌でも紫苑の元へと歩む自分。
あかねは、最後の、出せる限りの力を振り絞って、乱馬の名を呼びながら天を仰いだ。

 

…その時だった。

「え…」
天を仰いだあかねの目に、
「つ…き…?」
一瞬、本当に「月」なのではないかと。
そう錯覚してしまうような「三日月」型の何かが、映った。
「それは…!」
紫苑が、あかねの頭上高くに現われた「三日月」を見て、はっと息を飲み、
「くッ…」
低い声で叫びながら、あかねから少し遠ざかった。
そして、腰に差していた自分の剣…「赤き涙を誘う月」を抜いて構える。
ヒュッ…
紫苑が剣を構えたのと同時に、あかねのすぐ目の前に、空気を切り裂くような感覚が走った。
「きゃッ…」
何が起こったのか分からず、一瞬フラッ…と倒れそうになるが、あかねはかろうじて身体を支えて立ち尽くす。
すると、そんなよろけてしまいながらもバランスを立て直したあかねの身体を紫苑から守るように立ちはだかり、
「…な?靴、履き替えといて、正解だろ?転ばなくても済んだしな」
そう言って笑う…乱馬の顔が、不意にあかねの目に飛び込んできた。

 

あかねの目の前に、
『銀色の月』と共に乱馬が現われた瞬間だった。


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