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FBC 9

翌日。あたしは、約束どおりに朝七時きっかりに乱馬の部屋へと訪れた。
そして包帯で足を固定してもらい、
「いいか?絶対に解くなよ。解いたらオメー一人じゃ固定なんて出来ねえんだからな」
「分かってるわよっ」
「試合が終わったら、絶対に病院に行けよっ」
「分かってるってばっ…」
…まるで父親のような口調であたしに声をかける乱馬に見送られ、皆との待ち合わせ場所の駅へと一人、向かった。
本当は、
「駅まで乗せていってやろうか?」
乱馬がそう言って、自転車を出してくれようとしていたけれど、
「平気…歩いていく」
「でも…」
「いいのっ…ありがと。でも大丈夫だから」
「…そうか。じゃあ、気をつけて」
あたしはそれを断って、こうして一人、駅への道を歩いていた。
…待ち合わせ場所には、右京だっている。
あたしが乱馬に自転車に乗せられてやってきたら、右京はきっと驚いてしまう。
ううん、驚くとかそんな問題じゃなくて、もしかしたら怒るかもしれない。
試合の前に、チーム内に波風立てたくはなかった。
それに…
「…」
あたしは、思わずそっと、溜め息をつく。
今日は、いよいよかすみお姉ちゃんと東風先生の結納の日。
あたしが家を出てくるときには、かすみお姉ちゃんはもう起きていて、
「あかねちゃん、本当に足、大丈夫?」
なんて。自分の支度なんてそっちのけで、家を出て行くあたしの心配をしていた。
「平気よ!それよりもお姉ちゃんは自分の事を心配しなよっ」
「でも…」
「平気だって!あたし、お姉ちゃんと東風先生に今日の練習試合の勝利をっプレゼントしちゃうからねっ」
あたしはそんなお姉ちゃんに強気な発言をしてから、乱馬の元へと向かったわけだけれど。
「…」
…こんな足で、何が勝利をプレゼントよ。
包帯でがっちりと固定をしているから痛みは感じないけれど、
普段よりも数倍重い足をゆっくりと運びながら、あたしはそんな事を考えていた。
そう。
少しだけでも、今日は一人になりたいと思ったから…あたしは乱馬の申し出を断った。
「…あれ?あかねちゃん、今日はユニフォーム着いへんの?」
「あ、うんちょっと風邪引いちゃったから…ユニフォームは上だけ…」
「あ、だからジャージ脱がんの」
…駅で皆と落ち合った後、電車で一駅行ってから地図を見つつ、あたし達はいよいよ練習をする青陵学園高校へとたどり着いた。
「風林館高校の女子バスケット部です」
「です。打ち合わせの時にはどうも」
以前に打ち合わせをした事のある相手校の顧問と、そして女子キャプテンに挨拶をし、
「風林館高校です。今日は宜しくお願いします」
相手校のバスケ部に改めて挨拶をしたあたし達は、更衣室を借りて着替えをしていた。
そのときに、いつまでたってもジャージの下を脱がないあたしを不審に思った右京が、声をかけてきたのだ。
勿論、ジャージを脱がない本当の理由は、足首にしっかりと巻かれた包帯を隠す為。
「脱がない」のでなく「脱げない」事を、右京達には伝える事など出来なかった。
「風邪?キャプテンのくせに体調管理も出来ないのか」
まどろっこしい言い訳をするあたしに、シャンプーが冷たい一言を放つ。
「まあまあ。でもあかねが一番楽しみにしていたのにねえ。ユニフォームを着る事。
せっかくのユニフォームデビュー…残念だね」
「う、うん…」
「でも、これからユニフォームはたくさん着る機会があるから、しょうがないね。さ、あかねも頑張って!」
そのシャンプーを宥めつつも、場を上手く丸めたゆかは、そう言ってあたしの肩をぽんと叩いた。
…あたし達風林館高校女子バスケット部は全部で六名。
でも、試合に出れるのは五名。なので、今日は初めから、試合に出ないゆかがいわゆる「マネージャー」という立場になってあたし達をバックアップしてくれる事になっていた。
「あかね、薬は飲んだの?」
「ううん…飲むと眠くなっちゃうし…」
風邪薬ではなく、「痛み止め」は飲んでいるあたし。でも、勿論そんなことも言えず、
「平気よ、うん、こうしてジャージをはいていれば大丈夫」
「そう?無理そうならいつでも言うのよ?なんならあたし、試合に出ても大丈夫だから」
合同練習の前に、体育館の中を軽くランニングしている他のメンバーを眺めなら、上下ともジャージ姿のゆかが、一人走り込みをしないでストレッチをしていたあたしに声をかけてきた。
もちろん、そんな風にストレッチをしているあたしが、足をかばいながらいかに身体を温めるか必死に考えている事など、ゆかも、そして他のメンバーも気が付いてはいない。
「それじゃ各自、パス練習初めて。二人一組で、端の方でやらせてもらおうよ」
あたしは、走り込みをしている他のメンバーにそう声をかけ、
「ゆか、悪いけどパス練習だけあたしに付き合ってくれない?五人だとちょっとやりにくいのよ」
「OK。じゃああかね、向こう側に行ってくれる?」
「うん」
ゆかに自分の相手を頼み、ゆかの立つ場所の向かい側へと距離を取りながら走り出そうと、ストレッチしていた足を踏ん張り立ち上がった、そのときだった。

…ズキン!

「…!」
まるで、電気のような激しい光を伴うように、あたしの全身に鋭い痛みが駆け抜けた。
「…」
あまりにもその痛みが強く、あたしは思わず、立ち上がろうとしたそのままの姿で動作を止めてしまう。
俯いた顔の額部分には、じんわりと嫌な汗が急激ににじんでいた。
ドクン、ドクン、と妙に強い鼓動を胸と、そして怪我をしている足に感じていた。
あたしは、自然と口を開いて呼吸を乱してしまっていた。
「あかね?どうしたの?」
…そんなあたしの様子を不審に思ったゆかが、あたしの元へと駆け寄ってこようとするけれど、
「大丈夫!あ、ゆか、あたしやっぱり風邪薬飲んでくるわっ。なんかね、ほら、病は気からって言うし、効く効かないかは分からないけど気休めにいいかなって、なんか急に閃いちゃったのっ」
あたしはそんなゆかを慌ててその場で留め、しどろもどろにそんな言い訳をした。
「そう?あ、じゃあポカリを…」
ゆかはそんなあたしの妖しい言い訳を信じ、荷物として持ってきた給水用のドリンクを取りに荷物置き場へと戻ろうとするも、
「平気っ。ついでに顔も洗ってくるから、水のみ場へ行って来る」
「じゃあ、タオル。はい」
「あ、ありがと。五分くらいで戻るからっ…」
あたしはそんなゆかからタオルだけを受け取るようにして、ゆっくりと歩いて体育館を出た。
そして、体育館の入り口から自分の姿が見えない位置まで振り返り、振り返り歩きつづけ、
「…」
ようやく体育館の裏手の、水のみ場へとやって来たところで、
「いたっ…」
ヘナヘナヘナ…とその場へと崩れ落ちてしまった。
地面に座り込みながら、あたしは履いているジャージの裾をめくり上げた。
そして、乱馬が朝、丁寧に巻いてくれた包帯の部分をそっと、指で押してみる。
「くっ…」
ズキン!
…その瞬間、激しい痛みがあたしの全身を駆け抜けていった。
「どうして…朝とか歩いてくる時は全然平気だったのに…」
そして、思わず涙がにじんでしまうようなその痛みに耐えながら包帯部分をさすり、必死に考えてみるも、
「…」
そうか、さっきのストレッチのせいで…包帯部分と足の患部の間に隙間が出来ちゃったんだ。
ストレッチって、ホントに身体が伸びるんだなあ…
「…」
こんな時に妙なことに感心するあたしだったけれど、
「どうしよう…」
…そう、こんな状態では満足に練習はおろか、歩く事だって出来ない。
自分で包帯を結びなおす事も出来ず、さらには皆にもこんな事を言うわけにもいかない。
どうしよう。
どうしよう。
助けて…どうにかしてよ。
あたしを、満足に走れるようにしてよっ。力を貸してよっ…
「…どうにかしてよっ乱馬っ」
あたしは、痛み止めを飲んだはずなのにちっとも効いてくれないその足を抑えながら、そんなことを叫んでいた。
こんなとき、
こんな時、いつも乱馬なら助けてくれる。
いつも、どこからともなくやってきて、何だかんだいって助けてくれるのに…・今日の、このあたしの最大のピンチにはきっと駆けつけられない。
だって、男子バスケ部は部活があるし、それにここは他校…
乱馬が来るはずがない。


…はは、変なの。
少し前までは、困った事があったらすぐに先生のことを思い浮かべていたはずなのになあ。
乱馬が隣にいる時はいつだって、先生の事ばっかり考えていたのに。
なんで、あたしは…乱馬が傍にいないときは、今度は乱馬のことばっかり考えてしまうんだろう。
「乱馬なら何とかしてくれる」…そんな風に考えちゃうんだろう。
今朝だって、心配してくれたのをあたしから突っぱねたんじゃない。
なのに、なんでっ…

あたしが乱馬のことを真っ先に思い浮かべるなんて…何でよ。
「…」
痛みが増す足と、そのせいで思考が上手くまとまらないのと、そして無情に過ぎていく時間と。
三つの間で一人涙を浮かべるしかないあたしは、そっと座り込んで立てている膝に顔を突っ伏した。

と、その時だった。

「あれ?あかねちゃん?何してんの、こんな水のみ場で。もうそろそろ、女バス、合同練習開始するみたいだよ」
「!」
…顔を洗いに来たのか、水を飲みに来たのか。
理由はわからないが、たまたまそこを通りかかった人物が、膝を立てて顔を突っ伏しているあたしに声をかけてきた。
そうそれは、
「あ、貴方は…・」
「昨日はどうも」
「樋口、さん…」
「真之介でいいよ」
「はあ…」
「今日はうちの女バスを宜しくね…・って。それよりもその怪我、どうしたの?」
昨日の夕方、偶然河原で出会ったここの男子バスケ部のキャプテン、尚且つ乱馬とライバルという樋口真之介君だ。
「ちょっと見せて」
「えっ…や、そんなっ…」
真之介君は、あたしが言葉を発するよりも早く、あたしの足の怪我に気が付いてしまった。
そしてさっとしゃがみこむと、あたしが隠そうとしたその患部を手でそっと触れる。
「つっ…」
軽く触れただけでも、あたしが痛みに耐えかねて顔をしかめると、
「…これはただの捻挫じゃないね」
「…」
「もちろん今日は、見学するんだよね?あかねちゃんは」
真之介君はそう言って、あたしの顔をぐっと覗き込んだ。
「…」
あたしが顔をそむけると、
「…なわけないか。でも、触っただけでこんだけ痛がるんじゃ歩くのもキツイんじゃないの?」
「包帯を巻きなおせば平気です」
「…」
「大丈夫です、本当に大丈夫なんです。だからっ…」
「ん?」
「だから、この事は誰にも言わないで下さいっ…皆には内緒なのっ…」
「…」
真之介君は、そんなあたしの姿をしばらくじっと見つめているようだった。
あたしは、そんな真之介君を無視しながら、足に巻かれていた包帯を取り再び巻きなおそうとするも、
「…・」
…昨日から乱馬が何度もいっているように、不器用なあたしが上手に足を固定するように包帯など巻けるわけもなく、
「…しょうがないな、俺がやってあげるよ」
「えっ…でもっ」
「さっきの包帯、あれ巻いたの、乱馬だろ?あれと同じ応急処置法、俺も中学の時から使ってるから」
「…」
「それに、なんかあかねちゃん、不器用みたいだから」
真之介君は、にっと笑いながらそう言って、あたしから包帯を奪い取った。
そして、昨日・今日と乱馬があたしにそうしてくれていたように、
真之介君はとても器用に、そして丁寧に…あたしの足に包帯を巻いていく。
「あの…ありがとうございます…」
…「不器用」は余計なだけれど、
自分が巻こうとしていたのとは比べ物にならないくらい綺麗に巻かれていくのを見つめながら、あたしが真之介君にお礼を述べると、
「お礼はデートしてくれるだけでいいよ」
真之介君は、何の躊躇もなくさらりと、あたしにそう言い退けた。
が、その途端、
カツンっ…
「いてっ…なんだ?」
そんな真之介君が、頭を抑えて顔をしかめた。
どうやら、近くの木から小枝が落ちてきたようで、
「ったく、なんてタイミングだ」
真之介君はブスッとした表情でその小枝を遠くへと投げると、
「それより、早く戻ろう。体育館に。女バス、合同練習始めるみたいだから」
「はい。本当にありがとうございます!」
「足、とりあえず平気だろ?」
そう言って、あたしの手を取ってあたしを立たせた。
「…」
あたしは、真之介君の手を取ってゆっくりと立ち上がる。
そして、試しにトントン、と地面に足をついてみるも…痛みを感じる事などなかった。
どうやら、無事に足は固定されているようだった。
「そうそう、さっきね、風林館の女バスのメンバーに挨拶をされたんだよ。皆礼儀正しいいい子達だね。
名前も教えてもらったんだ。確か、伊藤・森田・田中・ジャスミン・真行寺だっけ?」
「…加藤・林田・九能・シャンプー・久遠寺です」
一体どういう記憶力をしているんだろう、この人は。
かすってそうで全然掠ってないメンバーの名前をあたしがもう一度告げると、
「あ、そうだっけ?ゴメンな、俺人の名前とか覚えるの苦手なんだ」
真之介君はばつが悪そうにそう笑いながら、
「それじゃ俺は、向こう側のコートから応援しているから。足、気をつけて」
「ありがとうございます」
あたしを無事に体育館の入り口まで送り届けると、「がんばれよ」と頭をポン、と軽く叩いてにこやかにそう言って去っていった。
「・・」
人の名前を覚えるのが苦手なわりには、あたしの名前はちゃんと、しかもはっきりと覚えてるじゃないの。
…?変な人だわ、やっぱり。
あたしはそんなことを少し疑問に思いつつも、
「あかね!」
「あかねちゃん、なにやってたん!練習始まるで?」
「いつまで顔、洗ってるか」
「今更顔を洗った所で、そのとぼけた表情は変りませんわよ」
…と、あたしが戻るのを今か今かと待っていた仲間達の元へと、再び合流していた。
「ごめんね、皆」
…でも。
そうやってみんなの元に合流したあたしは、
「…」
そんなあたしの事を、入り口のすぐ付近に立っていた青陵学園高校の女バスのキャプテンの彼女がずっと見つめていた事…そう、体育館の入り口で真之介君に笑顔で見送られる瞬間をもじっと見つめられていた事、
そして、その時交わされた会話までしっかりと聞かれていた事に、全く気が付いてはいなかった。


あたしの到着を待って、やがてニ校合同の練習が始まった。
練習試合は、ひとしきり身体を温め、そして基本練習をした後で執り行うとのことになり、
あたし達風林館高校と、そして青陵学園高校バスケ部のテクニカルコーチ…とやらに共に指導されながら、練習を始めた。
体育館の中をランニングしたり、
それぞれの高校の生徒と組んで、様々なパス練習。一列に並び順番にドリブルの練習。
そしてコーチを間に介して、パス、ドリブル、シュートの連携練習。
ゴール下にディフェンスの選手を置き、その選手を上手く交わしてのシュート練習。そして、フリースローの練習。

東風先生に普段から仕込まれているのよりももっともっと本格的な練習は、あたし達のまだまだ本当に未熟な部分をさらけ出す。
青陵学園高校の生徒たちはまだまだ元気に走り回っているのにも関わらず、
「あ、あかん…うちもう倒れそうや」
「く、苦しいね」
「わ、私にこんな激しいトレーニングは無理ですわ」
「あ、あたしも吐きそう…」
…あたしたち五人はすでに息があがってしまいそうな状況だった。
でも、
「ほら、がんばろう、みんな!ね!?」
…ここであたしまで参ってしまっては仕方がない。
本当は苦しいし、固定していても若干足の痛みだって伴う。
それでも、まずはあたしが元気でいなければ…と、あたしは皆を励まして走る、走る。
その甲斐もあってか、皆も何とか気力を取り戻して、練習に励んでくれているようだった。
と、その内に。
「それじゃあ、近くにいる人とペアを組んで。ブロッキングの練習始めて!」
テクニカルコーチが、ピーっと笛を吹いた後にそう叫んだ。
「えーっと…」
とりあえず、近くにいるうちのメンバーにでも声をかけようか…とあたしがその声に反応して辺りをキョロキョロしていると、
「天道さん」
「え?」
「私と組みましょうよ。天道さん」
そんなあたしの背後に、見慣れた女の子が一人、ボールを持って立っていた。
きりっとした顔立ちに、すらりとした体格。
他校であれど何となく見覚えがあるな、と思ったけれどすぐに納得。
彼女は…青陵学園高校の、女バスキャプテンだ。
「あ…は、はい。宜しくお願いします…」
打ち合わせの時や朝に挨拶をした程度で、そんなに交流もない相手校のキャプテンに話し掛けられたので、あたしは一瞬ビクっと身を竦めるが、
それでもそんなにノロノロとしている暇はない。
名門校のキャプテンに誘ってもらえただけでも光栄な事だ…と、新米キャプテンのあたしはペコリ、と頭を下げた。

…が。

「くっ…」
キュっ…キュっ…
バスケットシューズが、体育館の床を滑る音だけが、あたしの周りには響き渡る。
ダン、ダン、と、規則正しく青陵学園高校のキャプテンがドリブルをする音だってしているはずなのに、
あたしが必死でそのボールを取りに行こうすると、そのドリブルの音はさっと消え、彼女の手にボールも隠れる。
必死でそのボールを取りに行こうとあたしが回り込むも、彼女はあたしに一瞬でもボールを触らせる事を許さない。
それどころか、
ギュっ…
「つっ…・」
「あ、ごめんなさい?大丈夫?」
ボールを守ろうとするに乗じ、何度も、何度もあたしの足を踏むような仕草をする。
かろうじて、怪我をしている方の足ではない事だけが救いだけれど、
…あたしよりも数倍もバスケット経験がある彼女が、ブロッキングの練習で何度も何度もあたしの足を踏むなんて、少しおかしい。
これは…
「…やあ!」
「あっ…」
バシっ…
通常にボールを取りに行ったら、かなわない。
ならば、あたしの一番得意な方法…そう、「力技」で取りに行くしかない。
それに、ボールを取るまではあたしが「トラベリング」(ボールを持ったまま規定以上の歩数を歩く反則)を取られる事は無い。
だったら、彼女がボールをさっと頭上に動かした瞬間に飛び上がってやれ。
あたしはそう考えて、タイミングを見計らっていたのだ。
ダン、ダン…・・
その結果、あたしは彼女の手からボールを奪い取る事に成功、少し痛みを堪えて床に着地すると、今度はあたしがゆっくりとボールをドリブルし始めた。
「…」
彼女は、少し驚いたような表情であたしの事を見ていた。
「…」
言いたい事は、たくさんある。
足を何度も踏まれたのは誤解…いや、それは無いだろう。
でも、だったら何で?
あたし達…いえ、あたし、何かした?
…あたしは、そんな事を思いながらボールをゆっくりとバウンドさせていた。
すると。
「…ふーん」
あたしがバウンドさせているボールを奪おうという素振を見せながら、彼女はあたしに近寄ってきた。
「…」
あたしは、そんな彼女をぎっと睨みながらボールを奪われないように必死にガードをする。
「…」
彼女は何も言わずに、不意にぐいっとあたしへと顔を近付けた。
「!」
それに驚いたあたしは、一瞬ビクリと反応して身を交代させる。
彼女はその隙を突いて、あたしからボールを再び奪ってしまった。
「っ…」
あたしが悔しそうな顔をすると、
「…あるべきところにあるものを奪おうとすると、苦労するわよ」
彼女はそう言って、ゆっくりとボールをドリブルをする。
「ボールを奪い合うのが、この練習の目的でしょっ。『ボールのあるべきところ』なんて、決まっているわけじゃないでしょっ」
負けず嫌いというか、何というか。
彼女の言葉の「真意」を理解できないまま、あたしは再び彼女に奪われたボールを奪いに走る。
「…」
彼女は、何だか複雑そうな表情で、そんなあたしに再びボールを奪われないように必死でガードをした。
…が、そんな事を繰り返しているうちに、
ピピー!
…テクニカルコーチの、ブロッキング練習終了の合図の笛が鳴った。
「ちっ…」
結局は、彼女に再びボールを奪われたまま、あたしはボールに触る事すら許されなかった。
…悔しい。
何だか、すごく悔しい。
何だか知らないけれど、足を故意に踏まれるし。
あげく、訳の分からない事を言われて、更にボールも奪えなかった。
何だか、すごく悔しい。
「…ありがとうございました」
…そんなことを思いながら、あたしがちっとも感謝していないような表情でそう彼女にお礼を述べると、
「…本気になったら、あなたの方が苦労するわよ」
彼女は、お礼を言ったあたしに軽く頭を下げただけで、そして御礼を言う代わりにそんな事を小声で呟いた。
「ど、どういうことですかっ。そりゃあたしはまだまだ未熟ですけど!…」
あたしがそんな彼女にむっとして反論しようとすると、
「バスケじゃないわよ」
「は?」
「…樋口、真之介。アイツはあたしの幼馴染なの。だから分かるんだけど。あいつはあなたの事、気にいっているみたいだけど…アイツと付き合うと苦労するわよっていったのよ」
彼女はそう言って、ふいっとあたしから顔をそむけて自分の仲間のいるコート端へと走っていってしまった。


「…」
…はあ?
何で、あたしが真之介くんを好きにならなくちゃいけないのよ。
だいたい、真之介君が何であたしの事気にいってるって、あの人は思い込んでんのよ。
真之介君は乱馬のライバルみたいだし、
そりゃ気にいっているって言っていたけれどさ。
いいとこ、真之介くんてあたしの事は、「乱馬とセット」ぐらいにしか見ていないと思うんだけど。
さっきだって、たまたま怪我の事を知った真之介君が、その怪我に負けるなと応援してくれただけだし。
それって「好き」とは全然違うじゃない。
「好き」って気持ちは、もっとこう…胸がドキドキしたり苦しかったりするもんじゃないの?

…ん?
え、ちょっと待って?
もしかして、だからさっきの練習で…わざと足を踏むような素振…?

…そんなの、八つ当たりもいい所じゃない!
「…っ」
あたしは、走り去った彼女の方をギロッと睨みつけた。
彼女は、あたしの方は見てはいなかったけれど、何だか不機嫌そうな顔をしている。
「皆!」
…あたしは、フンっと鼻息荒く彼女から目を逸らすと、しばしの間休憩をしているチームメイト達の元へと駆け寄った。
「ど、どうしたん?あかねちゃん。なんかめっちゃ…怒ってへん?」
「何をそんなに息巻いてるか?」
「あまり怒ると皺が増えますわよ」
「どうしたの?あかね」
そんなあたしを見て、さすがのメンバー達も少し驚いているようだけれど、
「勝つのよ!」
「はあ?」
「負けられないわよっ、今日の練習試合!」
「そんなの、ずっと前からいっとるやん」
「再確認よ!今日は絶対に負けないわよ!」
「…わ、わかったけど…。?」
…あたしのあまりの迫力に、そう返事をせざるえないようで、
「勝つわよー!」
「お、おー…っ」
「声が小さい!」
「お、おー!」
強引に円陣を組まされ、そんな気合まで入れられる羽目になっていた。

…そうよ。
色んなことがあって、ちょっと気がめいっちゃったけれど。
この試合…今日のこの試合だけは、あたし、負けられないっ。
絶対に負けるものですか!
余計な事は、考えるのはよそう。
今は、この試合の事だけを考えよう。
お姉ちゃんのためとか、東風先生のためとか…そんなの、もうどうでもいいわ。
この試合は、あたしのために勝ってみせるっ。
「…」
あたしは、彼女率いる青陵学園高校チームをギロッと睨みながら、改めてそう誓った。

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