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FBC おまけ(学生の本分は勉強編)

学生の本分は勉強。学生の本分は恋愛。そして学生の本分は友情・・・きっとそれって、人によってそれぞれ違うと思う。
ちなみにあたしの本分はきっと・・・部活。
でもあわよくば、部活と友情と恋愛も同じくらい本分にしたいな、なんて思う今日このごろだ。

****

「はい、集合してー!整理体操始め!」
・・・あっという間に桜のシーズンが到来し、あたし達は高校生になってから二回目の春を迎えた。
春季リーグを目標にしていたあたし達は、次の目標「夏の総体連バスケリーグ戦」へとターゲットをシフトし、日々バスケの練習に励んでいた。
あたし達はこの春から二年生。
ということは新入部員が増えてこれで女子バスケ部も活気付く!・・・とあたし達は張り切って新入部員勧誘運動をしたんだけど、残念ながら女子バスケ部の入部者は二人にとどまる。
しかもこの二人、「新聞部」「放送部」とそれぞれ掛け持ちをしているので、滅多に姿を現さない。実質的にはゼロと考えた方がよさそうだ。
・・・ただ、
うちの学校の女子は、「吹奏楽」「テニス」が盛んでそれ以外はほぼ、無名もいいところ。
掛け持ちでたまに身体を動かす程度に入っておこうかな・・・というのが、それ以外の運動部のポジションだ。
ま、バスケは隣町の青陵学園高校が有名で、本当にバスケをやりたい選手達はみんなそちらへと流れてしまったというのが大方の理由なんだけど、
「去年出来たばかりの弱小バスケ部じゃねえ・・・期待してもしょうがないよ」
「そうだけど・・・」
「今年頑張って成績を残して、来年の新入生に期待しよう!部の存続のためにも」
・・・あたし達女子部は、見るも無残な春の戦。でも、乱馬率いる男子バスケ部は十人も新入生が入っていた。
春季リーグも優勝、去年も都大会で準優勝チームじゃ、無理も無い。
あたし達女子部は、体育館で先輩が来るまで準備運動にいそしむ可愛らしい男子新入部員達をぼんやりと見つめながら、悲痛な決意を固めていたのだった。
と、そんな中。
「あかね様」
ぼんやりとストレッチをしていたあたし達女子部の輪に、男子バスケ部のマネージャーであるあかりさんが近寄ってきた。
普段、男子部が練習をしている時に彼女があたし達に話しかけてくる事はない。そんな彼女があたしに声をかけてくるなんて、珍しい事だった。
というよりも・・・
「ね、あかりさん。二年生と三年生部員はどうしたの?」
・・・さっきから体育館で準備運動をしているのは新入部員だけ。
あたし達が体育館にいるという事は、もちろん乱馬たちだって来ていてもおかしくない。
第一一緒に教室を出て部室までは一緒に歩いてきたのに・・・あたしはあかりさんに軽く会釈だけすると気になった事を尋ねてみた。
すると、
「あかねさんにお願いがあるのですが・・・」
あかりさんはあたしの問いには答えず、何故かあたしだけを呼び出すように体育館の外へと連れ出した。
「何や?うちらに聞かれたら困ることでも話すんか?」
あかりちゃん、もしかして良牙と別れたいとか・・・?二人で体育館を出て行くあたしたちの背後で右京がそんな事を呟いている。
あかりさんは、男バス部員で乱馬の親友でもある良牙君の彼女なのだ。
「もー、そんなわけ無いでしょ!すぐに戻るから練習していてよ」
「はいはい」
勿論、右京も本気でそれを言っているわけではないけれど、「気になるなあ」とか言いながらあたしの指示通りに他のメンバーと練習を始めた。
あかりさんは、右京のからかいに苦笑いをしつつあたしを体育館の外へと連れ出し、そして体育館の裏手で立ち止まる。
体育館裏は、学校の中でも「ヒト気の無い場所ランキング」上位常連さんのスポットだ。
「・・・」
なんでもない話なら皆の前でも構わないだろうし、それに体育館の中でも出来たはずだ。
それなのにこんな人気のない所へと呼び出すなんて・・・
「・・・」
あたしは何だか急に不安になり、思わずゴクリと息を飲み込む。
と。
「あかねさま」
そんなあたしに、あかりさんがいよいよ話を始めた。
あかりさんの顔は、いつもの上品で気品のある整った顔ではなく、何故か・・・気難しい顔をしていた。
不安や迷いというよりは、どこかそう、困った、とでも言うのか・・・
「ど、どうしたの・・・?」
良牙君と喧嘩でもしたのかな?はっ・・・もしやこ、こ、こ・・・
「こどっ・・・こどっ・・・」
子供が出来ちゃったとか!?
ふ、二人の関係がどこまでなのかはあたしには分からないけれど、人払いをして深刻な話をするといったらそれしか思い浮かばない。
良牙君の親友の乱馬。その彼女・・・と少し前に正式になったあたしに、相談を?
「・・・」
こ、困ったな。
あたしはまだ乱馬とキスするらしていないから、経験不足であかりさんのお役に立てるかどうか・・・あたしがそんな事を考えながらあかりさんの顔をじっと見つめていると、
「実は、とても困った事になったんです」
そうこうしている内に、あかりさんがそう、あたしへと切り出してきた。
「う、うん・・・」
いよいよ来たか。あたしが思わずゴクリと喉を鳴らしながら彼女の次の言葉を待っていると、
「・・・明日の英語のテストで全員が合格点を取らないと、中間テストまで部活、停止になるんです」
・・・あかりさんは、妙に構えているあたしに対し、おおよそ予想外の言葉を呟くと、「はあ」とため息をついていた。
「・・・はい?」
明日の英語のテスト?部活停止?あたしが思わず首をかしげると、
「女子部の皆さんは、あかねさまも含めて成績、問題ないでしょう?」
「はあ、まあ・・」
「でも男子部は・・・スポーツの成績は良いんですけど、学業が。去年の成績をうちの顧問が見て、あまりの酷さに怒ってしまって」
「はあ・・・」
「文武両道、両方を成立させてこそその道を得る。部活に夢中になるのはいいけれど、学生のやるべきことをそれなりにきちっとやれって・・・」
特に、皆英語が苦手みたいで、それで急遽英語のテストをする事になったのです。あかりさんはため息をつきながらそういった。
・・・うちの学校は、スポーツの強豪校ではない。中には男子バスケ部のように強い部活もあるけれど、彼らは別にスポーツ推薦でこの学校に入ったわけではない。
教師陣はスポーツよりも勉強に重きを置いている節があるこの学校では、あかりさんが言うようにあくまで「文武両道」。
スポーツが出来るという事は、勉強も本来は出来るはずだというのが、理屈らしい。
「皆には顧問から頼まれたので先程部活の前に部室で伝えました。ですから皆はもう、今日は・・・」
「そう。それで姿を現さなかったの」
じゃあ、乱馬もきっと慌てて家に帰って勉強しているんだ・・・勉強嫌いの乱馬には、きっと大変だろうなあ。あたしがそんな事を思っていると、
「もちろん、こんな事態になったことも困るのですが・・・問題はもっと深い所にありまして」
あかりさんはそんな事を言いながら、「は」ともう一度ため息をついた。
「深い所?」
一体何のこと?あたしが首をかしげると、
「・・・ちょっと気になって、皆が帰った後顧問の所に私、行ってみたのです。そしたら・・・」
あかりさんはそこまで言うと、少しもじもじとしながら、急にあたしの耳元へと囁いた。
「・・・」
女の子に耳打ちされると、意味も無くドキドキしてしまう。あたしはそんな事を思いながらあかりさんの言葉に耳を傾けていたけれど、
「・・・はあ!?」
「あ、あかねさま」
「乱馬が英語の成績ダントツビリってどういうこと?!」
「昨年度の学期末テスト、他のメンバーはそれでも赤点は免れていたみたいなんですが・・・」
「乱馬は、赤点も赤点、点数が一桁だと・・・」
「はあ・・・」
とりあえず「1」でも進級は出来るのですが、英語に関してはダントツで・・・と、あかりさんは続ける。
つまり、明日のテストで一番ピンチなのが他の誰よりも乱馬であり、彼の成績にバスケ部の未来がかかっているといっても過言ではないようだ。
「・・・ったく」
バスケは出来るのに、勉強になると本当にてんで頼りにならないなあ・・・あたしがヤレヤレ、とため息をつくと、
「ですのであかねさま、何とか協力してくださらないでしょうか?一晩特訓をすればなんとか・・・」
あかりさんは、「お願いします」とあたしに頭を下げた。
・・・事情はどうであれ、こんな風に自分の彼氏のことで頭を下げられてしまっては、あたしだって無碍に断るわけには行かない。
それに、
乱馬さえ頑張って英語のテストを「全員合格点」の基準に乗せる事ができれば、新入部員のたくさん入った男子バスケ部も路頭に迷わなくて済むと。
「恥ずかしいなあ・・・乱馬のヤツ」
「す、すみません・・・」
「あかりさんが謝る事ないわよ、普段から勉強しないアイツが悪いんだから」
あたしはため息をつきながらそう言うと、
「分かった、男子バスケ部の命運をかけて、あたしが乱馬の英語を特訓してあげる」
「お願いします」
もう一度深々と頭を下げたあかりさんにきっぱりとそう断言をして体育館へと戻ると、
「あかねちゃん、話終わったん?」
「うん。えっとね、みんな・・・ごめん、今日ちょっと用事が出来たから早退する。右京、あと宜しくね」
「はあ、まあそれはええけど・・・?」
「あかね、何かあったの?」
「珍しいですわね、食あたりか何かですの?」
「隠し事する、良くないね」
・・・あたしは体育館で先に練習をしていた女子部のメンバーに挨拶をし、皆より一足先に家へと帰った。
そう、勿論乱馬の英語勉強を特訓するために。
正直あたしだって、英語の成績が抜群に良いわけではない。
でも、赤点の乱馬よりははるかにマシなはずだ。
だいたい十段階評価で一、って・・・よほどの事じゃないのかしら?アイツ・・・
「はあ・・・」
乱馬の成績が悪い事は知っていたけど、まさかここまで・・・ああ、ちゃんとそういうこともこれからは管理しなくちゃ。
あたしは大きなため息をつきながら、家路へと道を急いだ。

こうしてあたしの、男子バスケ部の未来をかけた「乱馬英語特訓」がスタートをした。

 

「わっ・・・な、何だよお前っ」
「何だよ、じゃないでしょっ。あんた今日、英語の勉強しないといけないんでしょ?何で漫画、読んでるのよ!」
・・・あたしが家に着き、手当たり次第の参考書を片手にベランダから乱馬の部屋へと行くと、 何故か必死で勉強をしているはずの乱馬は、ベッドに横たわって漫画を読んでいた。
付き合っている彼氏が隣の家に住んでいると、こうして玄関を通らずともベランダから行き来できるから便利で仕方が無い。
まあ、お互いプライバシーもへったくれも無いんだけれど。
・・・
「な、なんでお前がそれを知ってるんだよっ」
乱馬は、もちろん油断をしていたのでいきなりベランダから窓を開けてやってきたあたしに驚き、飛び起きる。
「あかりさんから聞いたのよっ・・・ほら、教えてあげるから早く勉強、しようよ」
「えー、勉強?」
「えー、じゃないでしょ」
あたしは、そんな乱馬の手から漫画を取り上げて、勝手に彼の部屋の中央にぽつんと置いてある小さな机に参考書を置く。
そして、
「バスケ部の命運が、あんたの英語にかかってるんでしょ?暢気に漫画なんて読んでいる場合じゃないでしょうが」
「し、仕方ねえだろ」
「あんたは勉強しなくて点がとれなかったら自業自得だけど、他のヒトは可哀想でしょ?」
皆、バスケが好きなんだし・・・あたしがそう詰め寄ると、ようやく乱馬もノロノロと、床に座り込み参考書を眺め始めた。
でも、元々勉強が嫌いで尚且つ一番苦手な英語。
参考書を眺めるだけでも苦痛のようだ。一分もしないうちに参考書を閉じ、「わかんねえなあ・・・」とか良いながら床に寝転んでしまった。
「あのねえ・・・分からなくてもやるしかないでしょ?」
バスケは、言われなくても自主練習をしてどんどんと上手くなるのに。どうして苦手なものになると途端にやる気をなくすのか。
あたしが床に寝転んだ乱馬の頭をゴスッと拳で叩くと、
「いいよ俺、バスケで一生食っていくから・・・」
「それはそれで構わないけど、とりあえず明日のテストはクリアしないと困るんでしょ?」
「無理は禁物だよ、うん」
「無理どころか努力もしてないじゃない」
「はー・・・眠くなってきた」
勉強になった途端、根性が無くなるのか・・・乱馬はそんな事を呟きながら目を閉じてしまった。
どうやら本気で、ほぼ諦めモードに入っているみたいだ。
きっと乱馬の気持ち的には、明日のテストをクリアしていつもどおりの練習を続けたいって思っているんだろうけど、
自分の英語の成績を考えると恐らくそれが難しい事も同時に分かっているんだろう。
皆のためにも頑張りたいけれど、中々気持ちが行動についてきてくれないみたいだ。
・・・
「・・・」
あかりさんにも頼まれてしまったし、それにせっかく入った新入部員も入部の途端に部活動制限を受けては可哀想だ。しかもキャプテンの英語力のせいで。
乱馬だって、皆にきっとその事を言われ続けるだろうし・・・
「・・・」
何とか、乱馬をやる気にさせる事はできないかしら。あたしは床に寝転んで眠り込もうとしている乱馬の身体を揺さぶりながら色々と考えた。
そしてしばらく後、
「そうだ!」
・・・ふとひらめく事があったあたしは、乱馬の胸倉をぐいっと掴んで身体を強引に引き起こすと、
「ね、今日ちゃんと勉強をして乱馬が頑張ったら、ご褒美あげるわよ!」
そういって、乱馬の身体をテーブルに倒れこませるように座らせると、
「ご褒美?」
「そ」
「何だよ、ご褒美って」
「そうね・・・甘いものかな」
あたしはそういって、にっこりと乱馬に微笑んだ。
・・・そう、あたしはひらめいたのだ。
小さい子供の気を引くために、お母さんがお菓子やおもちゃをちらつかせるように。
乱馬にもそういう作戦が良いのではないかと、ひらめいたのだ。
それに確か子供の頃、やっぱり乱馬に何かをさせなくちゃいけない時があって、
「乱馬、頑張ったらご褒美あげる」
「ホントか!?俺、お菓子がいいっ」
・・・乱馬はそういって、あたしにご褒美をお菓子にしろっていったっけ。
乱馬にはご褒美作戦がいい。しかも褒美は甘いもの・・・あたしの頭にはそれ以来ずっと、そうやってインプットされていた。
あの時は小学生だったけど、高校生の今も、きっと根本的な乱馬は変わっていないはずだし。
幸い、あたしのうちの台所には確かアメの袋があったような気がする。
そのアメを一袋・・・あとは、隙を見てちょっと高価なアイスを買ってきてあげて添えてあげれば良いかな。
あたしはそんな事を思っていた。
勿論ご褒美の「甘いもの」が今回はアメとアイスなのはその瞬間まで秘密だ。
・・・
あたしがそんな事を思っていると、
「・・・いいのか?」
「いいわよ」
「本当にいいのか?!」
「いいわよ」
「ほ、ホントだろうな!?本当に甘いものをくれるんだな!?絶対に約束だぞ!」
・・・乱馬は、急にガバッと身を起こしてやけに興奮気味にそう叫んだ。
乱馬は元々パフェとかケーキとか、男の子の癖に大好きだから、ご褒美が甘いものだと嬉しいのか。
ああ、やっぱり乱馬は子供の頃から変わってないな。こんなに喜んでくれたのは予想外だったけれど、
それならそれで、まあこちらとしては都合がいい。
「約束するわよ。その代わり、ちゃんと今日、勉強するのよ?」
「するっ絶対にするっ・・・そのかわりそっちも約束だぞ!女に二言はねえな!?」
「ないわよ」
「よし・・・やるぞ!俺はやるからなっ・・・英語、恐るるに足りず!」
乱馬は、あたしにやけに念を押して約束の遂行を確認すると、
「おいあかね!この文法は何でこうなるんだ!」
「だ、だからそれは現在完了形といって・・・」
「こっちのこれは、何でこの単語が入るんだ!」
「だ、だからそれはこの前の文節を形容しているから・・・」
・・・さっきまでは床に寝転んで「もうだめだ」とか何とか言っていたくせに、急に元気になって問題集を解き始めた。
何だか目も、異様にギラギラとしている。よっぽど、甘いお菓子が欲しいのだろうか?
「現金ねえ・・・」
あたしは、ギラギラとした目で一生懸命問題集を解き始めた乱馬を見つめながらボソッとそう呟いた。
「当たり前だろっ。褒美が貰えるんだぞ!」
「そんなに嬉しいの?」
「当たり前だろうが!」
乱馬はそんなあたしに思い切りそう答えると、
「おい、ここはどうしてこうなるんだ!」
「そこは・・・」
「おい、こっちは何でこうなるんだ!」
「その部分は・・・」
・・・と、一時間経とうが二時間経とうが変わらないペースで必死に、問題を解いている。
まあきっかけはどうであれ、乱馬に勉強の意欲が沸いてくれてこちらとしては嬉しい限りだ。
「乱馬、あたし差し入れ買ってきてあげるね」
あたしは、そんなあたしに返事もせずに勉強をし続けている乱馬に断りをつげ、一旦自分の家へと戻り財布を持って外へ出た。
そして、差し入れようのお菓子や飲み物と、「ご褒美」に添えるアイスを買いにコンビニへと出かけた。
すると、
「あれ?あかねちゃん」
「右京!部活終わったの?」
「うん。今日はキャプテンもおらへんし、男バスも一年生だけやったし、バスケ部自体が早めにおわったんよ。皆、どうしたんやろか?男子部・・・」
あたしは、部活を終えて家に帰る途中だった右京と、ばったり出くわした。
右京以下女子バスケ部の面々はまだ、男子バスケ部に起こっている危機的状況を知らないようだ。
あかりさんはあくまで、あたしにだけ先に教えてくれたらしい。
「実はね・・・」
あたしはそんな右京に、男子部のテストの事と、そして乱馬を特訓するべくあたしが早く帰宅した事を告げた。
「大変やなあ・・・男子部。そうか、乱ちゃん英語がねえ・・・」
「十段階で一、しかも学期末テストで一桁の点数だったらしいわ」
「よっぽど向いてへんのやねえ。日本人、万歳や」
「かといって、国語が得意なわけじゃないのよ」
「・・・可哀想やねえ」
右京がそう呟きながらため息をついた。そして、
「そんなんやったら、勉強させるの大変やない?特訓も苦労しているんちゃう?」
ほぼ壊滅的な乱馬の学力状態を踏まえ、それを特訓するあたしに対しそう尋ねるも、
「それがねえ、今、ものすごい真剣に勉強しているのよ」
「え!な、何で!?」
「ちゃんと勉強をしたらご褒美あげるって言ったら、その途端に」
「ご褒美?」
「うん。昔からね、乱馬にご褒美をあげるときは甘いものにしているんだ。そうすると頑張るのよ、乱馬」
「・・・甘いものって、何あげるつもりなん?あかねちゃん」
「え?だからアメとか、ちょっと高めのアイスが良いかなって思って」
差し入れを買いに来たついでにそれも買いに来たのよ。あたしが右京にニコニコと微笑みながらそう答えると、
「あかん。それはあかんよ、あかねちゃん」
「あかん、て何よ?」
「乱ちゃん間違いなーく・・・勘違いしてるで?あかねちゃん。言ったらからには期待にこたえてあげないと」
「期待?」
「だから・・・頑張ったご褒美・甘いもの、と言ったら・・・昔はともかく年頃の男の子なら、もっと違うものを想像するんちゃうの?」
右京はそういって、何故かため息をついていた。
「な、何よ」
何、そのため息。あたしがそんな右京に思わず首をかしげると、
「・・・ま、明日のテストは乱ちゃん、きっと大丈夫やろな。こんだけ今日、勉強したら身につくやろ」
「でしょうね」
「でも心配やなあ・・・」
「何が心配なの?テストは大丈夫って・・・」
「・・・テストやなくて、うちが心配なのはあかねちゃん」
「あたし?」
「あかねちゃん」
「何よ」
「キスくらいで今日は止めておいたほうがええで」
「なっ・・・ら、乱馬がそんな事を考えるかなあっ・・・」
「乱ちゃんだから、考えるんやろ?大好きな彼女相手に、まるきり思わないほうがおかしい話や。十三年分の抑圧されていた思いが開放された今、それは欲情となり最愛の彼女へと向けられた。瞬間、全てを溶かすような熱い抱擁と口ずけが・・・」
「こ、こらー!何よ、その官能小説みたいな表現はっ」
「やることやるときは、みんなそんな感じやって。ま、その辺の事は明日、根堀葉掘りきいたるさかい」
右京はぽんぽん、とあたしの肩を叩いてさっさと帰っていってしまった。
「・・・」
思いもよらない事を右京に言われたあたしは、思わず顔を赤くしてその場に立ち尽くす。
・・・キスって何?何であたしがそんなこと。
いや、別に嫌とかそういうのじゃないのよ。
でも何で急に・・・
「・・・」
甘いものって、あたしはアメとかアイスとかそういうつもりで乱馬に話したつもりだったんだけど、乱馬は別のことを考えているってこと?
あの、乱馬が?
・・・そりゃ、十三年も思ってくれていたわけだし、あたしを好きだという気持ちは分かっている。
あたしだって乱馬のこと、好きだし。
でも何かまだ、乱馬とソウイコトするのに想像が上手くできない。
あたし、乱馬に小学生のときと同じ感覚で話したつもりだったんだけど・・・
・・・
「右京の考えすぎだよ、きっと・・・」
そう、きっとそうに決まっている。
乱馬は乱馬、あの頃も今もきっと、変わらないよ。
あたしは強引にそう思うようにして買い物を済ませると、再び乱馬の家へと戻った。
そんなあたしの胸は、ソウイウコトを思わないようにしようと心がけているにも関わらず、妙にドクドクと大きく鼓動をしていた。
手に持っているはずのコンビニの袋が、妙にフワフワと軽く感じていた。

 

あたしがアイスを自宅の台所に運び冷凍庫へ入れた後再び乱馬の部屋に良くと、
「おい、終わったぞ!」
「は!?」
「明日テストで出ると思われる箇所は全て暗記した」
「・・・」
既に勉強を始めてから三時間近くが経過していた。
元々広い範囲がテストで出るわけじゃないけれど、テスト範囲と言われる部分、そしてあたしが持ってきた問題集の応用問題のページを、乱馬は全て暗記したと、あたしに宣言をした。
いささか信じられなくて、あたしは試しに練習問題を乱馬に出してみる。
すると、
「せ、正解・・・」
「よっし!」
・・・全部で二十問を三回、乱馬に出題してみた所、
十段階中英語の成績は一、しかも昨年度の学期末テストが一ケタ台だったはずの乱馬が、練習問題をパーフェクトで正解している。
「はー・・・ものすごい集中力ねえ」
「やれば出来るって事だ」
「バスケに対してものすごい集中力を持っているわけだから、勉強だって視点を変えればそうなるわよね」
「まあな」
「すごいすごい、これなら明日のテストは大丈夫ね」
ご褒美の甘いものが欲しいからとはいえ、この集中力はさすがに目を見張るものがある。
あたしは、ふんぞり返ってにこにことしている乱馬の頭を「よしよし」と撫でてやった。
すると乱馬は、
「そ、それで・・・よお」
そんなあたしの手をむぎゅっと掴むと、何だかもじもじしながら上目遣いであたしを見る。
「何よ」
「あの、俺頑張ったわけだよな?」
・・・どうやら、さっそくご褒美の催促のようだ。
「そうね。ご褒美あげなくちゃ」
女に二言は無く、そして乱馬もきちんと頑張った。
先程の右京の話は多少は気になるも、あたしは乱馬にそう言った。
「じゃああたし準備するね」
あたしは、床から立ち上がりベランダの方へと歩いていく。
あたしはそこから来たわけだし、ご褒美のアメとアイスがうちの台所にあるので、取りに帰らなくてはいけないのだ。
「・・・」
あたしは、ベランダへ続く窓へと手で触れた。そしてそのまま窓を開けようと、窓に手を触れたその瞬間、
シャッ・・・
「ん?」
・・・何故か、あたしのその手を遮るように窓のカーテンが閉められてしまった。
「な、なによ・・・」
ヒトが窓を開けようとしているときに何で、わざわざ邪魔してカーテンを閉める?
あたしが乱馬に文句を言おうと後ろを振り返ると、
「あっ」
・・・思わずそんな声を上げてしまったほど、乱馬と自分の距離が近い。
それまで床に座ってふんぞり返っていたくせに、乱馬は窓辺に歩いたあたしのすぐ背後に、立っていた。
「あ、あの・・・」
『あかねちゃん、ご褒美って何をあげるつもりなん?』
右京の言葉が急に、そんなあたしの頭の中を駆け抜ける。
「・・・」
反射的に、すぐ背後に立っていた乱馬の胸を手で少しだけ押し返す。
距離をとらなくちゃ、と思ったのだろうか・・・でも、そんなあたしの手を、乱馬はきゅっと掴んでしまった。
そして、
「・・・ご褒美」
そういって、片方の手はあたしの手を掴み、もう片方の手であたしの背後の窓を、カーテンの上からドンと手の平でついて抑えている。
「だ、だから今ご褒美を取りにいこうと・・・」
あたしはそんな乱馬に、「実はアメとアイスを」と説明をした。そして小学校のときにもご褒美をあげたでしょ、あれと一緒よと伝えるも、
でも乱馬はそんなあたしの説明に何故か首を振る。
「な、何よ・・・」
何よ、その首振りは・・・あたしが乱馬にそう尋ねるも、
「俺、高校生なんですけど」
「え・・・」
「それに幼馴染だけど、彼氏でもあるんですけど」
「っ」
「もっと違うものでないと、褒美にならねえよ」
乱馬はそういって、ガラスについていた手を今度は窓際に追い詰められているあたしの身体へと、回した。
「あ、あの・・・」
・・・乱馬と付き合い始めたは良いけれど、手を繋ぐことやふざけて抱きつくくらいはしているも、「それ以上」までは進んでいないあたし達。
何だかこの展開だと、その「それ以上」に進んでしまうような気がするのは・・・気のせいですか?
「あたっ・・・あたしはその、そういうつもりじゃなくて・・・」
甘いものってそういうのじゃ・・・あたしが慌てて乱馬に説明をするも、
「俺はそういうつもりだったんだけど?」
「!」
「いいのかって聞いたらいいって言ったろ?」
「だ、だってあれは・・・」
「じゃ、嫌なのかよ」
「嫌じゃないけど・・・」
「なら、ご褒美の品物変更したって、いいだろ?」
乱馬はそういって、腕を回しているあたしの腰の部分をぽん、と叩いた。
あたしはそんな乱馬に驚きつつ、再び先程の右京との話を思い浮かべる。
・・・お菓子を挙げるつもりだったあたしと、もっと違う事を考えていた乱馬と。
『頑張ったご褒美・甘いもの、と言ったら・・・年頃の男の子なら、もっと違うものを想像するんちゃうの?』
右京にそう言われた時は、まさか乱馬がって、真剣に思った。
小学生のときと同じだろうって。お菓子をあげれば喜ぶって、真剣に思っていた。
でも・・・今こういう状況になっている事を考えると、乱馬も普通の男の子なんだ。
もしかして、機会があればって・・・思ってたりしていたのかなあ?
もちろん嫌じゃないし、いつかはソウイコトにもなるのかなって、乱馬とちゃんと「付き合い」始めた時には考えた。
ただの幼馴染から、幼馴染兼恋人になるっていうのは、どういうことなのかなって。
でも、いざその瞬間になると何だか照れてしまうというか、キスをしている自分達の想像ができないと言うか・・・
乱馬だからなあ。でも、乱馬以外のヒトとこういうことをするって、それも考えられないし。
・・・
「・・・何か、想像できないなあ」
あたしがボソッとそう呟くと、
「したら想像できるよ、きっと」
あくまで乱馬は前向きに、そう答えた。
ポジティブ万歳、そういえばさっき「ポジティブ」って単語が練習問題に出てたな・・・乱馬はそういって、あたしを見つめる。
「・・・」
・・・ああ、どうしよう。本当はこんなつもりじゃなかったんだけどな。
でも、一生懸命頑張った乱馬をがっかりさせるのも、なあ・・・。
今回は仕方が無いかなあ。
・・・
「もー・・・」
あたしははあ、と大きなため息を一度ついた。
そして、
「あのね・・・」
「う、うん」
「あたし・・・初めてなの」
「・・・俺も」
「緊張、するね」
「な」
「・・・どうしたらいいの?」
「と、とりあえず目、閉じて・・・」
「う、うん・・・」
ご褒美をあげるほうも貰う方も、異常に緊張していた。
でも、もうここまできたら仕方がないと言うか・・・実はお互いが初めて同士だった、ということをこの場で何故か確認しながら、あたし達はそんな会話を交わす。
あたしは、そっと目を閉じた。
乱馬はそんなあたしの顎を、そっと指で触れた、そして少しだけ顔を上に向かせると、身を屈ませてぐっと、あたしへと顔を近づける。
「・・・」
ゆっくり、ゆっくりと近づくお互いの唇。
何も語らずともお互いの気配をそばに感じながら、あたし達は唇の距離を近づけていた。

 

と、その時。

「乱馬ー、あかねちゃん、いるー?」
ドンドン、と部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「!?」
あたし達は慌てて離れ、何だかバツが悪くてお互い背を向ける。
あたしは妙に落ち着かず閉まったカーテンをあけ、乱馬はため息をつきながら部屋のドアを開けた。
ドアの外には、笑顔でお茶菓子を持ってきたおば様が立っている。
「・・・何だよ、お袋」
普段はおば様に優しい乱馬も、今日ばかりは複雑のようだ。
少しだけ裏返った声で、おば様にそう尋ねる。
「あかねちゃんが来てくれているなら、お茶とか出してあげなさいよ・・・って、あら?買ってきたの?」
「何であかねが来てること、知ってんだよ?」
「買い物から帰ってくるとき、窓を超えて部屋に入ったあかねちゃんを見たのよ」
おば様はそういって、「あかねちゃん、これ良かったら食べて?」と運んできてくれたお茶請けを床に置く。
「まあ、勉強見てくれていたの?ありがとう、乱馬ったら本当に勉強が苦手で・・・」
「お、お袋、もう俺がやるからいいから・・・」
「え?でも」
「いいからっ・・・」
乱馬はそんなおば様を世話しなく部屋から廊下へと連れ出すと、パタン、とドアを閉めてしまった。
そして、「はあ・・・」とため息をつく。
・・・なんちゅータイミング。
あたしはため息をついている乱馬の姿を見ながら苦笑いだ。
そんなあたしの胸は、まだドクンドクンと大きく鼓動をしている。
「俺のご褒美・・・」
あと少し、あと数センチだったのに・・・とぼやく乱馬に、
「・・・ご褒美はまたの機会にね」
「またっていつだよっ」
「だからー・・・明日のテストで満点を取ったらとか」
「じゃあ、もしも明日俺がテストで満点を取ったらっ・・・何があっても絶対にやるぞっ」
「絶対にって・・・まあ、だから今日はアメとアイスで我慢しなさい。ね?」
あたしは何とか彼の気持ちを宥めつつ、自分の家へとそそくさと戻ってきてしまった。
そしてアメとアイスは乱馬ではなくおば様に届け、自分の部屋へと篭る。
・・・一度は覚悟を決めたけれど、タイミングを失った後はまたすぐ「じゃあ続きから」と言うわけには何だかいかなかった。
胸が、異常にドキドキしていた。
あのままおば様がやってこなかったら、あたし、乱馬とキスしちゃってたんだ・・・そう思うと、何度でも胸が大きく鼓動する。
予想外の展開だった。
女の子と男の子の考える「甘いもの」って違うんだなあ。
そうだよなあ、今のあたしと乱馬は付き合っているんだもんね。
昔みたいに「ほら、アメ」ってわけにはいかないんだなあ。
・・・
「・・・」
・・・次のご褒美機会は、明日のテストの結果次第か。
この調子じゃ乱馬、真剣にテストで満点とか取りそうな気がするなあ。
・・・
「・・・」
あたしは部屋で一人寝転びながら、心臓が静まるまで長い時間を費やしながらそんな事を考えていた。

 

 

結局翌日、男子バスケ部は全員でテストを受け、そして全員で合格点をとることに成功した。
おかげで部活が停止する事も無く、また活気溢れる部活動を展開するわけにもなったんだけれど、
「あかねさま、良かったですね。早乙女さま、満点ですって」
「はは・・・」
「あかねさまのおかげですよ」
・・・そのテストの成績、乱馬が本当に奇跡の満点を取った事をあかりさんからこっそりと知らされたあたしは、嬉しいやら恥ずかしいやら困ったやらで妙に落ち着かなかった。
「愛の力やね」
「何ですの?それって」
「どういうことか?」
「あかね、乱馬くんと何かあったの?」
「怪しいなあ」
そんな様子のおかしいあたしを怪しむ女子部の面々の追及をかわしつつ、
「おめーが満点とはなあ。世の中何があるかわからねえよな」
「ふっ・・・何とででも言え」
「それにしても、バスケが出来るようになっただけでその満面の笑み、気味悪いな」
「まあなー」
「ていうか、何でさっきからボールを抱きしめて顔を埋めて笑顔なんだテメエは。勉強のし過ぎでおかしくなったのか?」
「別にー」
・・・良牙君や男子バスケ部の面々の質問に、嬉しそうに答えている乱馬。
もちろん彼が機嫌がよいのは、バスケが出来るようになったからだけではない。
・・・
真相を知るのはあたしのみ、だ。
「はー・・・」
今回ばかりは「アメとアイス」ではごまかしきれないだろうな。
それにしてもあんなに嬉しそうにしなくても。
単純明快、ニコニコしコートを一日ぶりに駆け回る乱馬の姿を見ながら、あたしは思わずため息をついていた。

 

 

 

 

この後、乱馬が本当にあたしにご褒美をもらった・・・かもしれないお話は、また別の機会にて。


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