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FBC2 11

「話がある」と言ったきり、乱馬は何も話して来ない。
でも、話があるといわれた以上この場を離れるわけにも行かない。
あたしは、ただただじっと、乱馬が何を話して来るのかを待っていた。
そんなあたしの頭の上に、一枚、また一枚と薄ピンクの花びらが降り積もっていく。
・・・


「・・・」

・・・お姉ちゃんに頼んで場を作ってもらうなんて。一体何の話?
お姉ちゃんと付き合うことになったからって・・・それを自分の口から言いたいのかな。
それとも・・・

「・・・」

あたしの胸は、じっと黙っているその様子とは裏腹に息苦しいほど大きく、鼓動していた。
何だか、ソワソワと落ち着かない。
そんな気持ちを誤魔化すべく胸の前で手を握り合わせてみるも、汗でしっとりと濡れていることに気がついた。
もしかしたら試合の時よりも緊張しているかも、しれないな。
・・・
「あの・・・」
その内あたしは、沈黙と胸の鼓動に耐え切れなくなって自分から乱馬に話し掛けた。
「あの・・・あのね、乱馬」
「うん・・・」
「その話・・・その話は、あたしにとって・・・イイ話?ワルイ話?」
・・・せめて、それだけでも聞きたかった。
いい事にしろ悪いことにしろ、心の準備の時間が欲しい。
嫌な事を聞くのも、それなりにクッションがあればショックは少しは防げるかも・・・
あたしはそんな事を考えた。
すると乱馬は、

「・・・どっちかな」

なんとも曖昧な答えを、呟く。
「乱馬も分からないの?」
「お前次第だと思うけど・・・」
「あたし次第・・・?」
「そ」
そして、もう一度あたしの前で大きく深呼吸をすると、
「・・・いつ言おうか、ずっとタイミングを待ってたんだ」
そう言って、改めてあたしの瞳をじっと見つめた。
その真っ直ぐで、でも優しい瞳にあたしはドクン、と胸を大きく鼓動させた。
「なあ」
「な、何よ」
「・・・何で俺が、お前に真っ先に携帯電話の番号とかメールアドレス、教えなかったと思う?」
「!」
乱馬のその質問に、あたしはまた胸を鼓動させた。
突然の質問にも驚いたけれど、それより何より・・・乱馬が、あたしがその事で色々と悩んでいたことに気がついていたその事実に、あたしは驚いた。
そして、それと同時に「やっぱり故意に教えようとしなかったんだ」という事が判明しショックを受けた。
・・・
「・・・分かんない」
あたしが小さくそう呟くと、
「・・・意地悪、してるとか思った?」
「・・・意地悪かどうかは分からないけど」
・・・嫌われているんだって、思った。あたしは乱馬に聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で答える。
「・・・」
乱馬はそんなあたしに対し小さくため息をついた。
そのため息の意味は、あたしにはわからない。
乱馬はため息をついた後、意を決したようにあたしにゆっくりと話し出す。
「少し前に、俺も携帯を買おうかなって思ってさ・・・買いに行くのに、なびきについて行ってもらったんだ」
「そう・・・」
「あ、でも別に変な意味があった訳じゃなくて!あいつ、そういうのに詳しいみたいだし、買うなら得したいじゃねえか。お前は俺と一緒で機械には疎いし、だから・・・」
「・・・」
「初めて携帯を買って、取扱説明書を見ながら色々といじってみて・・・それで、メールアドレスを設定してみようと思って」
「・・・」
「それで、その・・・」
乱馬はそう言って、何故かチラチラとあたしと、自分の携帯を見比べては何だかモジモジとしている。
大きな身体をくねらせるその姿はどことなく気持ちが悪いというか。
高校生の男の子が、一体何をそんなに照れているのだろうか?
乱馬の様子を、あたしは思わず眉間に皺を寄せて見つめる。
とその内、
「あ、だから・・・」
あたしがじっと見つめている事に、乱馬は気がついたようだ。
あたしはそんな乱馬を見つめる。
そして、「だから・・・」の続きを聞けるのを今か今かと待っていると、
「だ、だからそういうことだ」
「・・・は?」
「だから、そういうことなんだよっ」
・・・一体何がそういうことなのか。
乱馬は妙に真っ赤な顔をしてそう叫んだきり、背中を向けてしまった。


「ちょっと!何よそれっ」
「う、うるせえなっ」
「あんた、話があるから呼び出したんでしょ?あたしを」
「そ、そうだよ」
「そういうことがどういうことなのか話してくれないと、わからないじゃないの!」


これでは、乱馬が結局何を言いたかったのか全く理解できない。
あたしは背中を向けてしまった乱馬の前に回り込んでそう叫んだ。
すると乱馬は、


「だ、だからメール!」
「メールが何よ」
「メールアドレスッ・・・」


更に顔を真っ赤にしながら、あたしにそう叫んだ。

「メールアドレス・・・?」

メールって、乱馬のメールアドレスのこと?
あたしが乱馬に聞き返しても、乱馬は真っ赤になったきりもう何も言ってはくれない。
一体、メールアドレスがどうしたというのか。

「もー、なんなのよ・・・」

話があると呼び出しておいて、中途半端に話を終わらせられては何が何だか全然分からない。
あたしはブツブツ言いながら、自分の携帯電話をポケットから取り出してメール画面を開いてみた。
・・・今日、突然舞い込んできた乱馬からのメール。
このメールアドレスに、何かあるのだろうか。
あたしは、乱馬が送ってくれたメールのアドレスを表示させてみた。


rxaespecially@xxxx.ne.jp


エスペシャリって言う部分は、分かる。
エスペシャリって、確か「特別に」とか「普通以上の」とか・・・そういう意味だよね?
うん、それは英語が苦手なあたしでもかろうじて、わかる。
でも、その前のrxaってなんなんだろう・・・初めこのアドレスを見たときも、分からなかった。
こうしてわざわざメールアドレスとして登録しているわけだし、乱馬も「メールアドレス」って叫んでいるわけだから、きっと何か意味があるんだろうけど・・・
「・・・」
あたしは、必死に頭を巡らせた。
そんなあたしを、乱馬がチラチラと盗み見しているのが分かる。
見られるのは別に構わないんだけど、でも何だか謎を解明するのを急かされているような気がして、居心地が悪い。
「・・・」
・・・うーん、あたしとか乱馬の身の回りで「rxa」なんてつく物あるのかなあ?
だいたいこれ、何て読むんだろう。それさえも分からないって言うのに。
rとaがつくものでしょ?バスケはbだし、学校はfだし・・・あとは人の名前・・・あ!
「乱馬!」
・・・ふと、頭に閃く物があった。
あたしが思わず大声で乱馬を呼ぶと、乱馬が「お、おう」とか言いながら真っ赤な顔であたしに答える。
「良牙君と・・・」
「は?」
「良牙君とあかりさんだ!rとaが二人で、エスペシャリで特別ってこと!二人が彼と彼女だってこと・・・?ん?」
あたしは意気揚揚と自分が思いついたことを乱馬に叫ぶも、叫んでいる途中で自分自身首を傾げてしまった。
もちろん乱馬も、そんなあたしに対して眉間に皺を寄せながら複雑な表情をしている。
・・・良牙君とあかりさんが彼と彼女、つまり特別な関係だということは分かるんだけど、
でもそれを何で乱馬がメールアドレスに?第一乱馬が赤くなる意味、無いよねえ?
「うん・・・?」
rとaは人の名前だ!と思いついたのはいいんだけど、何だかそれだとつじつまが合わないなあ。
でも、なびきお姉ちゃんは「n」だしおば様も「n」おじ様は「g」だし・・・右京は「u」だし。
おかしいなあ、いいアイデアだと思ったんだけど。
自分で言っておきながらあたしがそんな風に首をかしげていると、
「くっ・・・」
そんなあたしに対して、乱馬は俯いてブルブルと震えていた。
「乱馬、何がおかしいの?面白いの?」
こんな時に、暢気な人ねえ・・・あたしがそんな乱馬に声をかけると、
「おかしいの?じゃねえ!いい加減気がつけっ」
「え?」
「え?じゃねえ!鈍感すぎるにも程があるだろお前はっ」
乱馬はそんなあたしに対し、突然そう叫んだ。いわゆる「逆切れ」というヤツなんだろうか。
「な、何よっ。いきなり人を怒鳴ったりしてっ。あんた、反抗期!?」
「何が反抗期?だ!いい加減空気を読め!」
「なっ・・・なによっ」
でもあたしにしてみれば、こんな風に乱馬に怒鳴られる筋合いはないというか。
「な、なんであたしがあんたに鈍感呼ばわりされなくちゃいけないのよっ」
怒られても、自分に非が無ければ謝る気はしない。
あたしは思わず乱馬にそう言い返した。
勿論乱馬だって、一度ぷっつりと切れ怒りの糸はすぐには戻らないみたいだ。
ムッとして言い返してきたあたしに対し、乱馬も更にヒートアップしてぶつかってきた。
でも、
「何で俺が、良牙とあかりさんのことをわざわざアドレスにしなくちゃいけねえんだよ!」
「だ、だってそう思ったんだもの!しょうがないじゃないっ」
「何でそう思うんだよっ」
「だっ・・・だから!rとaの意味が分からないからっ・・・」
「何でわからねえんだよっ」
「何でって、そんなの知らないわよ!」
「特別だって・・・特別なものだから、大事な物だからっ・・・アドレスに付けちまったんだよ!さっきからそう言ってんだろ!」
「だから、何が大事なのよ!」
「お前しかいねーだろーが!」
「っ・・・」
・・・さんざん応戦しあった最後、だった。
乱馬がそう叫んだ瞬間・・・そこでふっつりとあたし達の叫び声が途切れた。
それまでお互いの声が嫌という程耳に飛び込んできていたというのに、一瞬で全てが遮断されたような気がした。
何も、聞こえなくなった。
何も聞こえなくなったそんなあたし達の間を、それまで柔らかにたおやかに吹き抜けていた風が急にスピードを増し、駆け抜けていった。
何も聞こえなくなった耳に、やけにはっきりと風が駆けぬけた音だけが一瞬、轟く。
その風に煽られて、辺りにゆらゆらと降り落ちていた桜の花びらが、一面にパアア・・・と舞い散った。
そして、風が消えると再びふわふわとゆっくり、地面に降りていく。
「・・・」
・・・桜の花びらと一緒に風に煽られていたあたしの制服のスカートも、風が消えたのと同時にふわり、ふわりと元の位置に戻った。
「・・・」
あたしは、ゆっくりとまた地面に降り落ちていく桜の花びらの向こう側にいる乱馬を、じっと見つめた。
花びらの向こう側の乱馬は、そんなあたしを見つめ一度だけ大きく深呼吸をした。
そして、意を決したのだろうか・・・あたしに話し掛ける前にもう一度深呼吸をして、そして口を開いた。
「・・・自分でも、なんて恥かしい事しちまったのかなって、後になって後悔した」
「・・・」
「でも、もうアドレス教えちまった奴らもいるし・・・変えることも出来なくて」
「・・・」
「良牙達もなびきも、俺のアドレス見た瞬間一発でそれ、見抜いちまって。それ考えたら、いくら鈍いお前だって、このアドレス見たら気が付くんじゃないかって・・・もしもアドレスを教えて、それにお前が気がついちまったらって思ったら、その・・・何か照れるじゃねえか!」
「乱馬・・・」
「言わなくちゃいけないこと、まだ言ってないのに。何年も何年も、タイミング見て必死に隠してきたこと、こんな事で中途半端にばれてダメになるくらいだったらって・・・だから俺・・・」
「・・・」
「携帯のアドレスがあるって皆知っているのに、お前に番号だけ教えるのも、何か変だろ。だからその・・・」
乱馬はそこまで言って、黙ってしまった。
あたしは、そんな乱馬の言葉を受け何も答えることができなかった。
・・・そっと、自分の胸を手で抑えてみた。
あたしの胸は、驚くくらい大きく、そして早く鼓動していた。
制服越しに胸を触っているのに、まるで直に胸に触れているみたいに手に、伝わってきていた。
カーッと、何だか頭にも血が上った。
クラクラと、眩暈も感じる。
あたしは、乱馬が今あたしに伝えた事を一生懸命整理しようと試みた。





えっと・・・
メールアドレスの冒頭の「rxa」のaはあたしのこと?乱馬は今、そう言ったんだよね?
じゃあもしかしてrは・・・乱馬?
乱馬と、あたしって意味?
特別だから、付けたって。
特別に思っているから、つけたって、今乱馬は言ったよね?
特別って?特別って、それって・・・




「・・・」
乱馬の言葉の意味を、あたしは一つ一つ辿っていた。
一つ言葉の意味を辿る事に、心臓の鼓動が大きくなっていく。
鼓動が大きくなりすぎて、どんどん息苦しくなる。
・・・メールアドレスに名前を入れてしまうというちょっと恥かしい行為はともかくとして、
乱馬が結局は何を言いたいのか、という事はさすがのあたしにも、良くわかった。
それは、あたしが「もしかしたら」って考えていたこと。
「あるわけないのに」って・・・必死で思わないように、期待しないようにしていた、事。
つまり・・・
・・・
「…」
やだ…どうしよう。
ドキドキして、息苦しくて眩暈がする感覚を覚えながらあたしはそんな事を思っていた。
あ、でも・・・「やだ」って言うのは「乱馬のその気持ちが迷惑」とか「嫌」なのじゃなくて、戸惑いの意味だ。
だって・・・だって、だって、ねえ?
・・・
「・・・」
あたしがそんな事を思いながら顔を伏せると、
「…十三年」
「えっ・・・?」
「合宿の時も話しただろ?十三年かけた想いだから…絶対に手に入れたいし、壊したくなかった。俺が一歩踏み込む事で、今のこの関係が壊れるのも嫌だって…」
「乱馬…」
「でも、お前ちょっと目を離すと真之介とデートしてたり、肩なんか抱かれて歩いてるし」
「あ、あれは別にっ…」
「さすがにアレは腹立ったなー・・・雨の降る中、交差点で。べったりくっ付いて傘なんて一緒に入ってるし」
「・・・」
ああ、やっぱり乱馬はあの日、あたしと真之介君の後、ついてきていたんだ。
乱馬の話を聞きながら、あたしはこっそりとそんな事を思う。


だからあの日、わざわざあたしの部屋に上がりこんできて、やたらと居坐って、真之介君がしていたみたいにあたしに、触れようとしたんだ。
あの時はその意味が良く分からなかったけど、今なら分かる。
あれは・・・あれは乱馬なりの、アピールだったんだ。あれはヤキモチだったんだ。
それが分かったあたしは、思わず頬を紅潮させる。


「四月からは新入生も入ってくるだろうし、これ以上、やたらと近づいてくる輩が増えるのを、傍からただ見ているの、何かもう嫌だ」
乱馬はそう言って、ため息をついた。
そして俯いて頬を紅潮させているあたしの頭をぽん、と軽く手で叩いた。
あたしは、ビクッと身を竦ませる。
「それに・・・なびきの事が好きだって、勘違いされてどっかの誰かにフラフラされても困るし」
「…」
「俺…俺は…」
それまではハッキリとした大きな声であたしに話し掛けていた乱馬が、急にトーンダウンした。
そしてそれっきり黙ってしまった。








・・・シンシンと、柔らかな風に舞い桜の花びらが辺りに降りしきっていた。
桜に埋もれるのを本望とするかのように、もの言わぬあたし達。
でも、別にそれは話したいことがないからではない。
話したいことがありすぎて…言いたい事がありすぎて、何から話していいか分からないのだ。
冬の雪が辺りの騒音をすべて飲み込み音のない世界を作り出すように、春の桜も人々の会話や喧騒を飲込むのか。
あたし達の間には言知れぬ沈黙が流れた。
でも、いつまでもそうしている訳にはいかない。
乱馬はある程度あたしに意思表示をしてくれたんだもの。
それに対してあたしが…あたしが思っていた事や毎日考えていた事をちゃんと伝えなきゃ。
・・・



「…」
あたしは、ゆっくりと顔をあげた。
乱馬はあたしの頭に乗せていた手を外した。
あたしと乱馬は、お互いの顔をじっと見つめあう。
…こういう時って、どういう顔をすればいいんだろう。
こんなシチュエーションに遭遇したことがないから、あたしは少し戸惑っていた。
笑えばいい?困ったような顔をすればいい?無表情なら都合いい?
よく分からなくて、こうして乱馬に見せている顔が自分でもどんな顔かよく分からないけれど、
でも・・・どんな顔でもいい。
どんな顔をしてでもいいから、あたしは今のあたしを、乱馬にすべて伝えなきゃ。



「あのね…」
「うん…」
「乱馬が誰かの事をもうずっと好きだって聞いた時ね…何かね、不思議な気持ちだったの」
「・・・」
「右京が、乱馬はもうずっと長いこと同じ人を好きだって言うから・・・誰だろうって。そんなに長く乱馬と知り合っている人、数えるぐらいしかいないから・・・」


あたしは、自分が感じている事、思っていたこと、悩んでいた事を一つ一つ、ゆっくりと乱馬に伝えた。
乱馬はそんなあたしの話を、穏かな顔でずっと聞いている。


「でもその相手がなびきお姉ちゃんかもしれないって思ったら、何か…何か変な気持ちになったの」
「・・・」
「二人でコソコソデートしたり、メールしたり、仲良かったり・・・そういうの見てたら、何か…何か変な気持ちになって…」
「…」
「今までいつも一緒にいた乱馬が、急にお姉ちゃんのものになっちゃうって思ったら、あたし…」
「…」
「変なの…あたし変なの。昔は全然平気だったのに・・・でも今はっ…例え相手がお姉ちゃんでも、乱馬の側にいると、嫌…」


…どうして「嫌」なのかその理由については、ようやく最近、あたしにも理解できた。
そう、あたしは乱馬の事を好きになっていたから。だから、今までは許せた事が許せなくなった。
決してあたしの物ではないというのに、他の誰かが独占することが嫌だった。
でもそれが分かっても、そこからどうしたらいいかわからなかった。
特に・・・乱馬とお姉ちゃんがそろそろ付き合い始めるって思っていたから、余計に分からなかった。
なのに、


「乱馬・・・違うっていうから」
「違う?」
「お姉ちゃんのこと好きなくせにってあたしが聞いたら、違うって・・・それなのに、今日だって大事な試合前に二人で会ってるし・・・」
「あ、あれは本当に偶然っ・・・おめーの弁当、届けに来たってあいつ言ってたしっ」
「・・・もう何が何だかわからなくて」


あたしは、大きなため息をついた。
そして、ため息をつきながらあたしはポケットに手を突っ込みあるものを取り出した。
「・・・これ」
そして、取り出した物を乱馬に手渡した。
それは、乱馬が試合前にあたしに貸してくれたお守り。
試合後、返そうと思ったけど返せなかった、あの「必勝」お守りだ。
「・・・」
乱馬は、あたしからお守りを返されてじっと、それを見つめている。
あたしはそんな乱馬を見ながらもう一度ため息をついた。
そして、再び口を開く。
「でもね・・・このお守りの話を聞いた時に、あたし、もう一度考えたの」
「・・・何を?」
「・・・もしもあたしだったら、どういう気持ちでこのお守り、持っているかなって。どういう気持ちで、誰かが書いた文字を、ずっとずっと大切に持っているかなって」
「・・・」
「そしたらその・・・もしかしたら、あたし達同じこと考えているのかもって、そんなこと考えちゃって。


今までのあたしと乱馬の事考えたら、何かその・・・凄くあたしにとって都合がいいことばかりが思い浮かんじゃって。
乱馬はお姉ちゃんと付き合う予定なのにって、だからそんなこと考えるのもおかしい事だって、何度も自分に言い聞かせたんだよ?でも・・・」
どことなく、拭いきれないあたしがいた。
だから、試合後にお姉ちゃんに呼び出されて話をする時になれば、そんなあたしの自惚れもなくなるだろうって思った。
「あたしと乱馬君、付き合うことにしたの」
・・・お姉ちゃんにハッキリとそう言われれば、ようやくあたしも諦めもつく。そう思った。
「そしたら・・・待ち合わせ場所には乱馬がいて、こんな・・・」
「・・・」
思った事を正直に。考えた事を、そして悩んだ事を正直に、あたしは乱馬に伝えた。
「…」
乱馬はそんなあたしの言葉を黙って聞いていた。
黙ったまま、あたしから手渡されたお守りをきゅっと、手に握り締めている。






「・・・」
あたしたちの間に静かな時間が流れた。
お互いの口に出せない言葉を、まるで辺り一面に降り注ぐ桜が代弁しているかのようにお互いの身体へと降らせていった。
頭に、肩に、胸に・・・手に。
積もる桜の花びらの数だけ、その口に出しては言えない想いがお互いの身体へと降り注いでいた。





…乱馬。
いいんだよね?
「俺は」の続きの言葉は、あたしが思ったとおりの言葉でいいんだよね?
だからあたしも、自分が考えていたことを素直にこうして伝えてみた。
それで・・・良かったんだよね?
・・・
「乱馬・・・」
あたしは小さな声でそう呟いた。
そうだよ、というはっきりとした答えを、たった一言でも言いから欲しいと思った。
でも、乱馬はそれに対しても何も、答えない。
「・・・」
あたしは、再び俯いた。
俯いたあたしの頭に、シンシンと桜の花びらが降り注ぐ。
と。
乱馬は何も言わずそんなあたしの髪に手で触れると、俯いた顔の下、頬も一緒に撫でるようにそっと、手を動かした。
「…」
びくっ…
され慣れない仕草にあたしが身を竦め顔を上げると、
「・・・下向いてると、埋もれちまうぞ」
「え?」
「お前、俺の十三年分を受け止めるんだぞ」
「乱馬…」
「尚且つここから先もずっと、もっとたくさんの気持ちをそれを受け止めるんだぞ。下向いてたら、その気持ちに埋もれちまうんだぞ」
桜の花びらに埋もれちまうみたいに・・・乱馬はそう言って、あたしの髪や肩に積もってきた桜の花びらを手で優しく除いた。
ガサツで、乱暴で、子どもでしょうがないっていつも思っていた乱馬が、こんな優しい手を持っているんだ。
そう思ったら再び胸が、鼓動した。
「・・・平気だもん」
あたしがそんな乱馬に対し、小さな声でそう答えると、
「・・・埋もれない為には、その気持ちと同じくらいの強さで俺のこと、思ってなくちゃいけないんだぞ」
「うん・・・」
「すげえ強く思ってないと、釣合わないんだぞ」
「うん・・・」
「・・・俺のこと、誰よりもずっとずっと強く思ってないとダメなんだぞ」
乱馬はそう言ってあたしの目をじっと見つめた。
「・・・うん」
あたしはその問いかけにゆっくりとそう答えると、じっとあたしを見つめる乱馬の目を見つめ返した。
「・・・」
あたし達の間に、また静かな時間が流れた。




あたしも乱馬も、決してハッキリと「好き」だと…たったニ文字だけどその深くて大切な言葉を口にはしなかった。
でも、その代わりお互いが何を言いたくて、何を思って、どの位その気持ちを大切にしているかは、よく分かっていた。
多分そう・・・「好き」なんて言葉じゃ、今のお互いの胸の想いを伝えきれないんだと、思っているのかもしれないな。
・・・






と、その内。
「いいんだよな?」
乱馬があたしに、そうぽつんと尋ねた。
「いいか」というのは、もちろんそう、「答え」だ。
あたしが乱馬のその気持ちを受け止めるかどうかという、答え。
「うん・・・」
あたしが素直に答えると、
「そうか・・・」
乱馬は何だかホッとしたような嬉しいような・・・でも何か恥かしそうな表情をした。
あたしはそんな乱馬に対し、
「・・・いいの?」
同じようにそう、尋ねてみた。
もちろんあたしが乱馬にそう尋ねたのも、乱馬があたしが思っているその気持ちを受け止めてもらえるかという、「答え」。
「いいに決まってんだろ」
乱馬は、何の躊躇いも無くそう答えた。
「・・・」
その答えにあたしもほっと胸を撫で下ろしそして嬉しいような恥かしいような表情をするも、
「あたし・・・穿くよ?」
「は?」
「あたし青好きだから・・・青いパンツ、似合わなくても穿くよ?」
白ばっかり穿かないよ?
・・・そう、とりあえずそれも確認しておこう。
一応は少し、すこーし気になっていたことを乱馬に聞いてみると、
「いいよ、それでも」
乱馬はちょっと笑いながらそう答えた。
「男は基本的に白が好きだ」
「あ、そう・・・」
「でも、さっきはまあ俺の好みのことを言ったけど、別に青だろうが白だろうが俺、いいから」
ほら、その脱がせれば別に中身は変らないし・・・と、実は乱馬がそんな事を呟いていたのはあたしの耳には聞こえなかったのだけれど、
「・・・ホントに、良いんだよな?」
最後に乱馬がもう一度・・・そうあたしに尋ねた声ははっきりと、耳に入った。
「うん」
その問に、あたしははっきりとした声でそう答えた。
「・・・」
乱馬はその答えに、先程よりももっと、ずっと嬉しそうな表情をした。
試合で緊張の中フリースローが決まった時よりも、MVPで表彰され皆にちやほやされている時よりも、チーム優勝で取材されている時よりもずっと、嬉しそうな表情だった。
「な、なによお・・・」
・・・そんな嬉しそうな表情をされると、何だかコッチも・・・思わず表情が緩んでしまう。
あたしだって、嬉しい。
誤解が解けて、あたしが心の中で望んでいた結果が今ここで実現して・・・思わず笑顔になる。
でも、目の前で乱馬に、思わずこちらの表情がつられて綻ぶくらい嬉しそうな顔をされると・・・何だか恥かしい。
「そ、そんなに嬉しそうな顔しないでよっこっちまで・・・」
何だか照れちゃうじゃない。あたしはそう言って乱馬から顔を背けた・・・つもりだった。
でもそれより一瞬早く、
「やった・・・やった、やった!やったっ・・・」
「へ!?」
「やったぞっ・・・俺・・・やったっ・・・」
乱馬がそんな事を言いながら突然、ガバッとあたしに抱き付いた。
「ちょ、ちょっと!い、いきなりなんなのっ」
・・・思った以上に、大きな身体だった。そして、力強い腕。
こんな風に抱きつかれたのは、子どもの頃以来かしら・・・あたしは慌ててそんな乱馬の身体を引き剥がそうと腕の中でジタバタと暴れると、
「・・・った!」
「え?」
「こうするまで、十三年もかかった・・・!」
「乱馬・・・」
「でも、俺やっと・・・やっと辿り着いた!」
乱馬はそんな事を言いながら、更にぎゅっとあたしの身体に力を込める。
「・・・」
・・・その乱馬の身体を、最初は引き剥がそうと思ったあたし。
でも、
「やった・・・!やった!」
そんな事を叫びながら嬉しそうにニコニコしてあたしに抱きつく乱馬を見ていたら、何だかそれが出来なくなった。
「・・・」
・・・小さい頃から、良くも悪くもずっと、ずーっと一緒にいたあたし達。
あたしが東風先生に片思いをしている時も、乱馬はずっと傍でそれを見ていた。
あたしが完全に失恋して、練習試合にも大敗して1人で大泣きしている時も・・・呼びもしないのに勝手に来て、ずっと傍にいた。
それ以外にも、途中お互い別の相手に言い寄られたり、誤解しあったりすれ違ったり、色々な事があって。
それでも・・・ようやくここに辿り着いた。
・・・
どういう、気持ちだったのかな。
乱馬はあたしよりもずっと長い間、あたしがここしばらく抱いていた気持ちを感じていたんだよね。
そう、十三年も。
きっとあたし、知らず知らず乱馬の事傷つけたり振り回したりしたこと、あったはずだ。
それなのにコイツ、あたしの事嫌いになったり文句一つ言わないで・・・
「・・・」
そんな事を思ったら、何だかにべも無く乱馬を付き離せなくなった。
でも、これは同情じゃない。
あたしは、今の乱馬に同情して、彼の気持ちを受け止めたんじゃない。
あたしも・・・あたしも同じ気持ちになったから、だから正面からその気持ちを受け止めたの。
そんな風に大切に、あたしのことを思ってくれた乱馬を愛しいと思ったから、突き放せないんだ。
「・・・」
抱きついているその身体に、あたしもゆっくりと・・・そしてこっそりと手を、回してみた。
乱馬はそんなあたしの仕草に気が付いたのか、一瞬「え?」という表情をした。
でもすぐにまた笑顔になって、手を回したあたしの身体を、ぎゅっと、抱きしめた。
・・・凄く強くて、そして温かい腕。
それなのに、何か「優しい」。居心地が良くて、思わず目を閉じる。
こんなに傍に、こんな場所があっただなんて。
何であたし、気が付かなかったのかなあ・・・子どもの時ぶりに必死に抱きつく乱馬の身体に身を任せながら。あたしはそんな事を思っていた。




と、その時。






「んんっ・・・」
「ゴホッ・・・ゴホッ・・・」
・・・あたしと乱馬が、お互いの身体に手を回してじっと抱き合っている、その空間に。
何故か、わざとらしいというか・・・妙な咳払いが響いた。
それも、確実に聞き覚えのある声。しかも、一種類ではない。
「ん?」
あたし達は慌てて離れ、声のした方へと目をやった。
すると・・・



「乱馬っ。あかねさんと付き合い始めた途端にもう手を出すつもりか!動物か貴様っ」
「良牙様、早乙女様も色々と我慢されていたんですよ」
「あかねちゃん、男は狼やからね。気いつけんと、すぐに子ども、出来てまうよ?」
「告白してから十分以内にもう、抱き合っているあるか。私が知っている男女の中で最短記録更新あるな」
「気持ちは分かりますけど、少し早すぎますわね」
「あかねと乱馬君がねー・・・」
「幼馴染がついに、ってヤツ?やだ、漫画みたいだわ」


・・・桜の木が並ぶ場所の、すぐ傍の茂み。
そこには、先にファミレスに向かっていたはずの女バスのメンバーと、良牙君、それにあかりさんがいた。
しかも全員、言いたい放題だ。


「な、何よあんた達っ。先にファミレスに行ってたんじゃっ・・・」
「お、お、お前らいつからそこでっ・・・」


あたしがここにやって来たときには確実にいなかったはずなのに・・・あたしも乱馬も、何だか急に恥かしくなって真っ赤になりながら皆にそう叫ぶと、


「随分前から見ていましたわよ」
「えっ」
「二人とも、勝手に二人の世界に入っているから、私達がやって来たのを気が付かなかっただけある」
「っ・・・」
「最初はうちら、ファミレスに向かったんよ?そしたら、良牙とあかりちゃんに途中で会ってなあ、そこで、乱ちゃんがこれからあかねちゃんを呼び出して告白するっちゅー話を聞いてしもうたんよ。そんなん聞いたら行かずにはいられんやん?」
なんせ、うちらのキャプテンの一大事やし。右京はそう言って、にやりと笑った。
「俺の方にも報告のメール、入ってこないし。どうなったかと思ってな」
なんせ、一応はうちのキャプテンの一大事でもあるし・・・良牙君もそう言って、にやりと笑う。
どうやら乱馬、良牙君には今日こうやってあたしを呼び出して話をすることを話していたみたい。
そういえば、試合の途中で何やらヒソヒソと二人、話していたっけ。あたしはふと、思い出した。
しかも、


「あ、男バスの皆にはメールをしておいたから」
「何をー!?」
「トラトラトラだよ」
「奇襲攻撃かよっ」
「似たようなもんだろ。いいじゃねえか、そんで皆、喜んでくれてんだぞ?」
良牙君はそう言って、自分の携帯電話をポケットから取り出して、あたしと乱馬に差し出した。
見ると、そこには「トラトラトラ」を喜んだ男バスメンバーからのおめでたい内容のメールが表示されていた。
「あ、今さっきお前の携帯にも転送しておいたから」
「いらーん!」

乱馬がそう叫ぶも、そう叫んだと同時くらいに乱馬の携帯が鳴り、今さっき見せてもらったメールと同じものが次々と受信されていく。
「くっ・・・」
あたし達が恥かしさのあまりブルブルと震えていると、
「じゃ、これで邪魔ものはお暇をするから、続きをごゆっくり・・・あ、でもあかねちゃん?いくら乱ちゃんだからって気いつけんとあかんよ?」
子どもはコウノトリが運んでくるんじゃないんやからね?・・・右京がそんなことを言いながらぽんぽんとあたしの肩を叩いた。
「ちょっと右京っ」
あたしが更に真っ赤になって右京にそう叫ぶと、
「あーあ、ようやく二人がくっ付いてくれて助かったわー」
「え?」
「見てて、ホンマいらいらしたわ。横から邪魔するうち、何か馬鹿みたいやったしねえ」
「右京・・・」
「せやからあかねちゃん、もうフラフラしたらあかんよ?」
右京はそう言って、あたしに向かってにやりと笑って見せた。
そして、
「さ、うちらは一足先にファミレス、いこか」
「おい、俺とあかりちゃん以外のメンバーは、ファミレスじゃなくて別の店で打ち上げやってるんだが・・・お前らもくるか?」
「あ、そうなん?よーし、じゃあ男バスと一緒に今日の打ち上げとしますか!」
良牙君のそんな提案により、男女で合同の打ち上げをすることになったのか、
「じゃあお二人さん、うちらは先に行ってるから」
「お前らはゆっくり来い、ゆっくりな」
とか何とか、
あたしと乱馬のことを適度に邪魔しさんざんに茶化し、そして勝手に放置して皆はその打ち上げ会場とやらのお店に行ってしまった。




「・・・」
・・・残されたあたし達は、しばらく呆然とそこに立っていた。
そして、思わずお互いの顔を見合わせてしまう。
盛り上がっていたのに、いきなり邪魔されて、さんざん茶化されて。
それで「続きはごゆっくり」なんていわれたところで勿論出来るわけも無い。
更に、あたし達がようやくただの「幼馴染」から一歩踏み出せた関係になれたということを、周りの皆がすでに知っている事が妙に、気恥ずかしい。
お祝いのメールとやらを転送された乱馬なんて、更にそうだろう。
「・・・奇襲戦法成功だって」
「・・・な」
そんな事をポツン、ぽつんと話ながら、あたし達は思わず笑ってしまう。
一応は十三年越しの片思いの顛末を飾る一大事の告白を、「奇襲戦法」だなんて言われる乱馬も何だかおかしいし、
男女の関係について友達から妙に心配されるあたしも、何だかおかしい。
二人で盛り上がって何だか抱き合っていた所を、実はそれを皆が覗いていたのに全然気がつかなかったというのも、おかしい。というか恥かしい。
・・・何か、どこか間抜けというか、妙というか。
かっこよく決まらないのが、あたしと乱馬らしいというか。
何だかそれが妙におかしくて、思わず顔を合わせては笑ってしまう。
皆に変な気を使われるのは嫌だけど、あのメンバーの事だ、そういう妙な気の使い方はせずに、でもあたし達をこれからも、さんざん茶化すんだろうな。
それが分かるのも、何だかちょっとおかしな。
・・・






その内、
「・・・じゃ、いくか俺らも」
あらかた笑った後、乱馬がそう言ってあたしの肩にぽんと、手を置いた。
あたし達もそろそろ、みんなの元へと向かおうか、という事だ。
その合図の為に肩に手を置いたのかな?
あたしがそんな事を思っていると、乱馬はその肩に置いた手でそっと、あたしの身体を自分の方に抱き寄せた。
「な、なによ」
何よ、そのぎこちなくて似合わない仕草。
あたしがその仕草に何だか気恥ずかしさを感じ、真っ赤になりながら乱馬を見あげると、
「しょ、しょうがねえだろっ。付き合う二人は肩を寄せ合って歩くもんだろっ」
一体どこでそんな知識を仕入れてきたんだろうか。
乱馬はそんなことを言いながら、やはりあたしと同じように真っ赤になる。
でも、とりあえず二人でそのまま数歩歩みを進めてみるも、何だかお互いぎこちない。
「ば、ばかねえ・・・付き合う二人はこうよ、こう」
「な、なんだよ」
「肩を抱くより腕を組むのよ」
仕方がないので、あたしは乱馬が抱いている肩の手をほどき、その手にぎゅっと抱きつくようにして寄り添って歩いてみた。
でも、それも何だかそれもぎこちない。
「・・・」
肩を抱くのも腕を組むのも、あたしと乱馬らしくないのかな。
だったら・・・
「・・・」
あたしがそんなことを考えていると、
「・・・ん」
乱馬がちょっと恥かしそうな顔をしてあたしに手を、差し出した。
その手を、取れということか。
手を取るという事は・・・手を繋ぐって事。
手を繋いで歩いてみようって、ことか。
「・・・」
少しだけ戸惑ったけれど、あたしは素直にその手をとった。
乱馬はその手をゆっくりと、自分から繋ぎなおした。そしてそのままポケットの中にしまってしまった。
あたしの手は、乱馬のポケットの中。
何だかぎこちなく繋がれて、でもそれでも離されない。
・・・そっか。
肩を抱くとか腕を組むとか・・・そんなちょっと「背伸び」した恋人同士じゃなくて。
あたしと乱馬の今をそういうので表現するんだったら、うん、多分「手を繋いで歩く」っていうのが、あたし達の関係をそのまま表現しているような気がする。
傍にいて、その温度を感じてその存在を感じる。
居心地が良くて、ちゃんと繋がっているというその関係・・・うん、手を繋ぐって言うのが一番合っている気がするな。
これなら、ちゃんと歩けそうだ。
「・・・」
ポケットの中に入れられた手を、あたしは自分からもしっかりと繋ぎ直した。
一本、また一本と。乱馬の指に、あたしの指に絡んでいくお互いの指。
そう言えばまだちゃんと、お互い「好きだ」ってはっきり口で伝えてないな。
でも・・・この絡んだ指から伝わる温かさが、ちゃんとその気持ちをあたしへ伝えてくれる。
すれ違いそうだった気持ちを、誤解していた気持ちを、そして十三年分の想いを。
全部全部、この指が、この温もりが伝えてくれるんだ。「好きだ」って気持ちを絡めながら。
その言葉だけじゃ足りないたくさんの気持ちを、補いながら。
「・・・」
あたしは、ゆっくりと歩き出しながら乱馬の顔を見上げた。
と、ちょうど同じタイミングで乱馬もあたしを見ていた。
何も言わず顔を合わせるあたし達。
でも、繋いだ手から、お互いの言いたい言葉が不思議と伝わってくる。
「・・・打ち上げ会場行ったら、皆また茶化すんだろうなあ」
「そうねえ」
「家に帰ったら、なびきにも報告しねえといけねえんだよなあ」
「え?」
「そういう条件で、この環境を作ってもらったし」
「そう・・・。そうだあたし・・・お姉ちゃんに謝らなくちゃ」
「何を?」
「うん、あのね・・・」
・・・隣を歩いて、色々な話をするのは昔も今も変らない。
でも、ポケットの中に感じる温かさの分だけ、今のあたし達の距離も、温度も近いんだ。
東風先生に恋をしていた時よりも、真之介くんとデートをした時よりも、何だかずっと居心地がいい。
あたし、こんなに傍にこの場所があったのに・・・気が付くまでに大分遠回りをしたんだな。
何だかそんな自分がもどかしい。
「なあ」
「なあに?」
「打ち上げ終わって家に帰る時さ」
「うん」
「・・・ちょっとだけ、いつもより遠回りして帰ろうか」
「・・・うん!」
せっかく気持ちも遠回りした事だし、帰り道もついでに遠回りしておこうか。
あたし達はそんなことを話ながら、またお互いの顔を見合わせて笑いあった。
「あ、それよりも!あたしにもちゃんと、携帯番号教えてよね」
「あー、そうだったな。お前も教えろよ、せっかくメモリ番号の一番初め、空けてあるんだから」
「何よそれ」
「それも何も、そういうことなの」
そして、ポケットの中でしっかりと繋がれた手が離れないようにしながら、皆が待つ打ち上げ会場へと走っていった。










・・・バスケを初めて、一年経った。
寄せ集めのバスケ部は、それなりに形となって進化を続けている。
目指すは、夏のインターハイ。そして、打倒・強豪ライバル校。
日に日にその目標も夢も、大きくなっていく。
・・・出会ってから十三年経つ、幼馴染がいた。
良くも悪くも一緒にいて、喧嘩してぶつかって、カッコ悪いところもお互いたくさん知っていて。
そんな幼馴染が、いつの間にかかけがえのない大切な人になっていた。
傍にいすぎて、分からなかった・・・でも、あたしには必要な、大切な人。
盛りだくさんの部活と、たくさんの仲間達と、かけがえのない大切な人と。
手に入れることの出来たたくさんの宝物。
全部、全部を大切にして、これからもあたしは頑張ろう。
風林館高校バスケットボールクラブという素晴らしい場所で、これからもずっと、ずっと頑張ろう。
一生に一度しかない、高校生活を。そして、今という素晴らしい時を。

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