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FBC2 10

午前中、男子の試合が終わりお昼休憩になったと同時に、
「やあ、遅くなって悪かったね」
「東風先生!」
「いよいよ、試合だね・・・頑張ってね」
用事で遅れていた東風先生が、あたしたちと合流をした。
男子が優勝をした事と、初の公式戦で緊張のリミッターが上がっていたあたし達には、なんとも心強い味方登場だ。
「午後、第一試合だね・・・まずはお昼を食べて鋭気を養って、リラックスしていこうね。絶対に初戦、勝てるはずだよ・・・たくさん練習したんだから」
東風先生は、試合が近づくにつれてどうしても表情が強張るあたし達に笑顔でそう言った。
「そ、そうよね・・・あたし達、たくさん練習したもん」
「青陵学園の女子と当たるまで、うちら負けられへんからね」
「あの練習試合の時の悔しさ、思い出すある」
「その為にも、初戦で負けてなんていられませんわ」
他のメンバー達も、他ならぬ東風先生のエールで大分緊張がほぐれたのか、
「さ、試合に勝つためにもきちんと昼ご飯、食べなあかんね。腹が減っては戦は出来ぬっていうし」
「そうそう」
とか何とか言いながら、若干表情は硬くはあるも、普段どおりに和気藹々と昼ご飯を食べ始めた。
キャプテンとしてどうにか皆の緊張をほぐしてあげたいと願っていたあたしには、本当にありがたいことだ。
「先生、私達頑張りますから!」
「頑張ってね、あかねちゃん」
「はい!」
あたしは東風先生に一度深くお辞儀をして元気良くそう宣言をすると、
「さ、あたしもお昼食べなくちゃ・・・」
右京も言っていたけれど、「腹が減っては戦は出来ぬ」。午後の試合の為の鋭気を養うべく、自分の鞄を開けて持ってきたお弁当を出そうとした。
・・・が。
「あー!」
鞄を開けて中身を覗いたあたしは、そこに・・・本当はあるべきはずのお弁当箱が無い事に初めて気がついた。
どうやらあたし、お弁当を持ってくるのを忘れたらしい。
そういえば、今朝お弁当を手にした記憶が無い・・・試合のせいで緊張していたからか、余計な事を考えていたからかは分からないけれど。
・・・
「あかねちゃん、お弁当忘れたん?うちの分けようか?」
「何やってるあるか。相変わらずそそっかしいあるな」
あるべきはずのお弁当箱が見当たらない事にショックを受けているあたしに、右京とシャンプーが呆れたようにそう呟く。
「いい・・・まだ時間あるし、近くのコンビニで買ってくる」
「大丈夫?気をつけてよ、あかね」
「うん」
あたしはがっくりと項垂れながら鞄の中の財布を取り出すと、とぼとぼと皆がお昼を食べている体育館を出た。
せっかく皆でお昼を食べて鋭気を養うって言っている傍からこれだ。なんとも間が悪いキャプテン他ならない。
これじゃあせっかく希望が見えた試合も、この運の無さからすると一気に不安になってくる。
「あーあ・・・なにやってんだろ、あたしは」
今日は何か、色々とあるよなあ。
嬉しい事もあれば、ショックだったこともある。頭の中を整理しようとすればするほど、次から次へといろんなことが起きる。
その極めつけが「お弁当を忘れる」だもんなあ・・・
「はあ・・・」
大事な試合前の休憩時間こそ、キャプテンとしてメンバーに気配りをするのが役目なんだけどなあ。
あたし、何てダメなキャプテンなんだろう。
あたしはため息をつきながら、体育館の傍にあるコンビニに向かうべく、体育館入口の下駄箱へと歩いて行った。
と、その時。
「あかね」
あたしは、不意に背後から声をかけられた。
聞き覚えのある、声だった。あたしがゆっくりと振り返ると、
「あかね、あんた今日、お弁当忘れたでしょ?ほらこれ」
そこには、先ほどから姿を消していたなびきお姉ちゃんが立っていた。
呆れたような表情をしているなびきお姉ちゃんは、あたしに向かって小さな紙袋を差し出した。
「・・・」
あたしがその袋を黙って受け取ると、
「あんた感謝しなさいよ?このお弁当を届ける為に、わざわざここまで来てやったんだから」
お姉ちゃんは、御礼も言わずにその袋を受け取ったあたしに、高圧的な言い方でそう諭した。
・・・嘘つき。
本当は乱馬に会いに来るついでに、来たくせに。
「・・・」
気をつけていないと、そう口に出してしまいそうだった。
本当の理由はどうであれ、こうしてお弁当をあたしに届けてくれたお姉ちゃんに、あたし、何て失礼な事を考えているんだろう・・・
「ありがとう・・・」
自分の心の狭さというかキャパシティの狭さに嫌気を覚えつつも、あたしは改めてなびきお姉ちゃんにお礼を言った。
すると、
「あ、そうそう・・・あかね。あんた今日の試合終ったら、暇?」
お姉ちゃんは、小さな声でお礼の言葉を呟いたあたしの顔をしばらくじっと見つめていたけれど、その内そんな事をあたしに尋ねて来た。
「え?予定は特にないけど・・・」
「話があるのよ、あんたに」
「話・・・?」
「全部の試合が終った頃に、あんたの携帯にメールするわ。だからメールアドレス教えてよ」
「あ、う、うん・・・」
お姉ちゃんはそう言って、自分の携帯にあたしのメールアドレスを登録させると、
「それじゃ、メールするから。試合頑張って」
とか何とか言いながら、さっさと下駄箱で来客用のスリッパを脱ぐと外へと出て行こうとした。
「あ!お姉ちゃんっ・・・」
そんなお姉ちゃんの背中に、あたしは慌てて声をかける。
「何よ?」
「・・・何でさっき、いなかったの?」
そして・・・自分でもどうしてそんな事を口走ったのかは分からないけれど、あたしはそうお姉ちゃんに問い掛けていた。
「さっきって?」
「乱馬・・・乱馬、決勝戦だったんだよ?大切な試合だったの・・・結果的には勝ったけど・・・」
「あら、じゃあ優勝したの?良かったわね」
が、お姉ちゃんの回答は驚くほどそっけない。あたしは愕然としつつも、
「良かったって・・・お姉ちゃん、それでいいの?」
「いいって?選手が試合に勝つこと以外に良かった事ってあるの?」
「そ、そうじゃなくて!だからっ・・・その・・・」
・・・お姉ちゃんの恋人になる人の試合、だったんだよ。
あたしは、あえてその言葉を口に出す事はしなかったけれど、そこまで言ってそのまま俯いてしまった。
「・・・」
お姉ちゃんはそんなあたしの姿を少しじっと見つめていたけれど、
「バスケに興味が無いんだから、しょうがないでしょ。とりあえず、乱馬君が優勝したのならおめでとうって言っておいてよ」
「それだけ・・・?」
「このことに、それ以上もそれ以下も無いでしょ。じゃあね、あかね」
まだ何か言いたそうにしているあたしにそうバッサリと斬り捨てると、それ以上は何も語らずに下駄箱から外へと出て行ってしまった。
「・・・」
一人その場に残されたあたしは、複雑な思いのままお姉ちゃんの後ろ姿を見送っていた。
そして、大きなため息をつくと、ゆっくりと再び皆のいる体育館へと戻る。
・・・決勝戦の前の休憩時間に、乱馬と楽しそうに話していたくせに。
乱馬の応援にきたんじゃないの?そのついでにあたしのお弁当、届けに来たんじゃないの?
乱馬と付き合うつもりなんでしょ?なのに、興味が無いからって試合、見なくていいの?
乱馬もそれで、いいの?
・・・
「・・・」
二人がどういうスタンスで付き合うかなんて、そんなのは二人の勝手だ。あたしが関知する事ではない。
でも、何だかどこか、割り切れない。
・・・
「あれー?あかねちゃん、もうお弁当買ってきたん?」
「あら、お弁当あるじゃありませんか」
「届けてもらったの?」
体育館に再び現れたあたしに、メンバーが声をかけてくれるも、あたしは何だか上の空だった。
ふと、男バスメンバーが固まってお弁当を食べている場所へと目をやると、
楽しそうに話している仲間の輪の中で、乱馬は一人輪の会話には加わらずに、俯いてなにやら携帯のメールを一生懸命に打っていた。
「・・・」
・・・お姉ちゃんかな、相手。
もしかしたら他の友達の可能性だってあるのに、そんな事まで疑るようになっている、あたしは重症だ。
大切な試合の前なのに、こんなこと気にしているわけにはいかない。
そう、こんなこと・・・
・・・
「・・・お弁当、お姉ちゃんが届けてくれたの」
「そら良かったなあ。さ、はよ食べよ?時間無くなるで」
「うん」
あたしは、あたしを心配してくれた女バスメンバーの輪に入ると、胸に澱む思いを強引に掻き消すように明るく振るまいお弁当を食べ始めた。












そして・・・いよいよ時刻は午後一時となった。
待ちに待った、春季リーグ後半戦。女子の部開始だ。
第一試合は、午後一時十五分から始まる・・・ということで、第一試合に当たっているチームは各自、コート横のベンチで作戦会議を開いている。
「うちの場合は、作戦というよりも練習してきた力をどのくらい本番で出せるかだよね」
初の公式戦に挑む、あたし達も一応は作戦会議・・・のような感じで東風先生を囲んで集まってみるも、殆ど「当たって砕けろ」「なるようになる」くらいしか話し合うことがない。
一応はそれがうちの特徴というか、個性というか。
先生が言うように、「練習で培った力をどの位本番で出せるか」がやっぱりうちのチームには重要なのだ。
「とにかく、試合までにウォーミングアップしておこう。ストレッチとか」
「はい」
東風先生の指示に従い、あたし達はコートをゆっくりとランニングしたりストレッチしたり・・・個人個人が試合に向けて体と、そして心を落ち着けるように動いたりしていた。
と、そんな中。
「お前、体だけは無駄に柔らかいよな」
開脚をして、中央に向かい上半身をべったりと床につける。
左右の足に、上半身を倒してそのまま足を抱きこむ。
次は・・・
「・・・」
そんな風に床に座ってストレッチをしていたあたしの頭上で、不意にそんな声がした。
この声は、乱馬だ。
「わ、悪かったわね」
その声にドクン、と胸が鼓動した事がばれないようにと、あたしはわざとそっけない応対を乱馬にした。
すると、
「なあ、いっちょまえに緊張してんのか?」
「い、いいでしょ別に!仕方ないじゃない、初めての公式戦なんだからっ・・・」
「ま、緊張して体が堅くなるよりはいいと思うけど」
乱馬は人を馬鹿にしているのかしていないのか微妙なニュアンスでそう言うと、ストレッチをしているあたしの横にちょこんと座り込んだ。
「・・・」
・・・な、何で横にわざわざ座るのよ?
あたしがそんな乱馬を思わずじっと見つめていると、
「朗報があります」
「何よ、朗報って」
「装着するとバスケの試合運が上がるというありがたーいお守りが・・・なんと!試合前の天道あかねさんに送られることが決定しました」
乱馬は笑顔でそんなとぼけた事をあたしに呟くと、自分を見つめているあたしの目の前でパチパチパチと拍手をした。
「そんなお守り、一体誰から送られるのよ?」
あたしが拍手をしている乱馬を怪訝そうに見つめると、
「決まってるだろ、俺だよ俺。ありがたく受け取れ」
乱馬は何故か偉そうにそう言って、自分のユニフォームの胸元からなにやら取り出した。
それは、随分とよれている古いお守りだった。
首からかけられるようにと、長い紐で吊るされている。
赤い布地に金の刺繍が施され、お守りの真ん中には、少し掠れた文字で「必勝」と書かれていた。
ついでに中を開けてみると、これまたヘタクソな文字で「ファイト」と書かれた紙が入っている。
子供の頃に自分で書いたのを入れたのか?
どちらにしろ、随分と年季が入っているお守りである事は間違いない。
「昔から、大事な試合にはかかさずこれつけるんだ。これつけていると、絶対にその試合、勝つ」
「へえ・・・」
「・・・だから、騙されたと思ってつけてみろよ」
乱馬はそう言って、あたしの答えを聞く前に勝手にあたしの首にそのお守りをかけると、
「よし、ついでに優勝したらデートしてやろう」
「あんた、何でそんなに一人偉そうなのよ。結構よ」
「なんだよっ。真之介とはデートしたくせに、何で俺とじゃ嫌なんだよっ」
「べ、別に嫌なんて言ってないでしょ。それに・・・」
「それに?」
「優勝できるかなんてわからないし、それに・・・」
・・・お姉ちゃんと付き合う予定のクセに、何であたしと。
また、そんなことばが口から出て来そうだった。
でもあたしは寸前でそれを堪えて、
「とにかく。優勝は分からないけど初戦は絶対に勝って見せるわ!お守り、ありがと」
あたしは乱馬が首からかけてくれたお守りをぽんぽん、とユニフォームの上から叩いた。
すると、
「あかね」
それまであたしにやけに偉そうな態度で話をしていた乱馬が、ふっと真面目な顔になりあたしの名前を呼んだ。
「何?」
あたしがそんな乱馬に何気なしに答えると、
「そのお守りさ・・・それ、絶対に勝てるんだ」
「うん・・・そうみたいだね、さっきそう言っていたもんね」
「お前は覚えてないかもしれないけど」
「ん?」
「その中に入っている紙の字、お前が書いたんだぜ?」
「え?」
「だからさ、絶対に勝てるよ。書いた本人が試合するんだ、絶対にご利益あるしな。優勝はわかんないけど、初戦は勝てる」
「・・・」
「・・・ま、優勝デートは出来ないにしても、初戦が勝てたら何か褒美でもとらせるか」
ぽん、ぽん。
乱馬は最後、やっぱり何か偉そうな口調でそう言うと、あたしの頭を叩いてからどこかへと行ってしまった。
「・・・」
あたしは、乱馬に叩かれた頭を自分の手で触りながら、ボーっと、乱馬の背中を見ていた。
そして、再び胸元からお守りを取り出すと、中に入っている紙を見てみる。
・・・良くその紙を見てみると、何かのメモ用紙の裏みたいな・・・そんな感じだった。
乱馬は「それはお前が書いた」っていっていたけれど、あたしは全然記憶にない。
あたし、いつこんなの書いたんだろう・・・?一生懸命思い出そうとしても、浮かんでこなかった。
きっと、正式に書いたのではなくて何かのついでに走り書きとかしたのかも。
それを乱馬が、取っておいたって事かしら・・・
でも、
「・・・」
大事なお守りに、どうしてあたしが書いた紙なんて?
絶対に勝てるお守りで、試合のときは必ず胸につけているくらい大事な、大事なお守りに・・・
「・・・」
もしもあたしが乱馬だったら、どういう気持ちでそれ、入れるかしら。
あたしだったら・・・
・・・
・・・



・・・あれ?



「・・・」
・・・そんな事を考えている内に、あたしは少し混乱してきた。
あれ?乱馬ってお姉ちゃんのことが好きなんだよね?
お姉ちゃんもそうで、だからコソコソと二人で出かけたりして。
今日の試合前だって、二人で会っていたし。
でも・・・
「・・・」
でも乱馬は、あたしが真之介君とデートをしたり触れられることがすごく、すごく嫌みたいだ。
そう言えば、東風先生とあたしが前、打ち合わせで喫茶店でお茶を飲んだ帰りに乱馬と会った時、
あいつ、「先生は何を飲んだんだ?」とか言って、普段は麦茶に砂糖を入れるような甘党なクセに、先生と同じブラックのコーヒーをわざわざ自動販売機で買って飲んでいたっけ。
先生があたしを送っていこうとしたら、何か凄く不機嫌そうな顔で「家が隣だから自分が」って名乗ったり。
それってもしかして、ヤキモチ・・・焼いていたのかなあ?
・・・
大切なお守りには、あたしが書いた・・・本人さえも忘れているようなものをいれて持っていたり。
たくさんの人の中でも、あたしの声だけは聞き分けられるって。
応援が聞こえないって、それだけで不機嫌になって・・・
あたしの事を、何でも見透かしてしまう乱馬。それは、幼馴染だからなのかなって、今まで思っていた。
でも・・・本当はそうじゃなかった?
東風先生への憧れとか、恋心とか・・・そういうことまで何もかも見透かされていたのは、幼馴染だから、一緒にいる時間がすごく長いから自然に感じてしまうのか、とかそう言うのじゃなくて・・・



・・・ずっと、見ていてくれたから?




「・・・」
今までの乱馬と、あたし。
今まで過ごして来た長い長い時間を思い出してみると、もしかしたらあたしは何かとんでもない勘違いをしていたのではないかと思えなくも・・・ない。
そう考えると、まだ右京が乱馬を好きだといっていた時に、わざわざ右京があたしに「本当に乱馬と付き合っても良いのか」と言いに来た事も納得できる。
合宿の時、朝わざわざあたし達が寝泊りしている所にやって来た時だって、何かのついでに右京にソーイングセットを返しに来たって言っていた。
あたしと会って話しただけなのに、他に何をしに来たのかなって凄く不思議だったけど・・・もしかしてあれも?
それに花火のとき、ベンチで偶然触れてしまった手をわざわざそのままにしてずっと離さなかったのも・・・
・・・
「・・・」
・・・そんな事を考え始めたせいで、何だか急に心拍数が上がってきたあたしは思わず床から立ち上がった。
お守りをユニフォームの上から押さえるフリをして胸の鼓動を確かめると、驚くくらいドキドキとしていた。少し汗ばんだ手に、しっかりとその鼓動が伝わってくる。
「・・・」
いけない、試合前にこんなことを考えて混乱している場合ではない。
慌てて深呼吸をするも、何だかやっぱり落ち着かない。
「・・・」
・・・とりあえず、こういう事は試合が終ってから考えよう。
それに、試合後にはお姉ちゃんとあたし、話をするんだ。
多分その時に、乱馬とお姉ちゃんが付き合う予定だって事を聞かされるような気がするから、あたしが今考えている事は勘違いだって・・・はっきりするだろうし。
「・・・」
・・・そうだよ。
それに、もし乱馬が・・・そのあたしを好きだって考えると一つだけどうしても、分からないことがある。
乱馬はどうして、あたしに自分の携帯番号とかメールアドレスを教えてくれないんだろう。
もし好きだったら、いつもみたいに偉そうに、聞きもしないのに教えてくれたりするよね?
最初はあたしが携帯を持っていなかったこともあるけれど、今はあたしも持っているって、知っているんだもん。
だから・・・
「・・・あかねちゃん?どうしたん?何か顔、赤いけど」
と、その時。
胸を抑えたまま色々な事を考えているあたしに、右京が声をかけてきた。
「そんなに緊張しているん?」
「あ、ま、まあね・・・」
「そろそろ試合、始まるで。キャプテン、しっかりしてや!」
バチン!
右京は、あたしが緊張して顔が真っ赤なのだと思い込み緊張をほぐすべく背中を叩いてくれた。
そのおかげで少しは、余計な考えがパア・・・と散ってはくれたけれど、それでもあたしの胸の中には色々な疑念が残る。
あたしはちらりと、先ほど乱馬が消えていった方角を見た。
乱馬は再び体育館に戻ってきていた。そして、良牙君達と一緒に何やらヒソヒソと話をしている。
「・・・」
・・・乱馬に思う事は多々、ある。
聞きたい事も問いただしたい事、何だかここに来てたくさんできちゃった。
でも、今はやっぱりそれを考えている場合じゃないし、それにお姉ちゃんと話をすれば全てが明らかになる。
「・・・みんな、行くよ!」
「おー!」
と、その時体育館に渇いた笛の音が鳴り響いた。
試合を始める為の集合のホイッスルだ。
あたしは余計な事を考えて勝手に赤くなった顔をパチン!と両手で叩くと、コート前で控えていたメンバーに声をかけてコートの中へと走っていった。




















そんなこんなで始まった、あたしたち女バスの初の公式戦、春季リーグ。
試合は蓋を開けてみると、初戦は何とか勝利、二回戦目も勝ち残り、
「これは男女合わせて優勝か!?」
と皆で色めきたつも、三回戦目で惜しくも負けてしまいそこであたし達の初めての春季リーグは終わってしまった。
でも、当初掲げていた打倒青陵学園高校女子部と目標を持っていたその相手も・・・優勝候補のはずが初戦で負けてしまうという大ハプニングが起こり、女子のリーグはわりと波乱に満ちたものだったと思われる。
優勝したのは、去年の準優勝校。なんと、あたし達と三回戦で当たった高校だった。
ということは、
「なんや!うちらがあそこに勝っていたら、その勢いでうちらが優勝だったかもしれへんやん!」
「本当ですわ!」
「あいやあ、なんと言う事か」
「本当に惜しかったわね・・・」
・・・実は本当に優勝できる可能性があったかも、と全ての試合が終ったあとあたし達は一様に悔しがるも、それも時、既に遅し。
試合後に行われる表彰式で、女子部の優勝校として壇上に上がっていくその高校のチームを見ながら、あたし達は何だかうずうずとしていた。
その一方で、

「男子部優勝・風林館高校」


・・・女子部の優勝校と供に、閉会式で壇上にあがり表彰される乱馬達。
表彰状とカップ、盾を貰う関係で、乱馬のほかに良牙ともう一人、男子部員が一緒に並んでいた。
どの顔も皆うれしそうで、マネージャーのあかりさんなんて、うっすらと涙ぐんでいる。
それに加え乱馬に至っては、チーム優勝に加え個人でMVPプレーヤーの受賞もあって、閉会式終了後もたくさんの人に囲まれていた。
「あーあ、人気ものやなあ。あれじゃあ、声も掛けられへんやん」
「右京」
うずうずとした閉会式が終わり、ジャージから鞄の中に詰めてきた制服に着替えたあたし達は、もう一度男子チームにお祝いを言いにいこうと彼らの姿を探すも、人の群れに圧倒されて近づく事もままならなかった。
もちろん、試合前に貸してくれたあの「ありがたい」お守りも返せないままあたしのポケットに眠っている。
・・・
「・・・」
優勝チームと、三回戦敗退チームではこれ程までに違うんだなあ・・・なんて。
何だか同じ高校なのに扱いが違う事に慣れているはずでも、違和感を感じているあたし達がボーっと突っ立っていると、
「皆、いるかい?」
「先生」
そこに、閉会式のあと少し姿を消していた東風先生がやって来た。
あたし達は先生を囲むように集まる。
「・・・三回戦で負けてしまったけれど、でも初の公式戦にしてみたらよくやったよ。本当にお疲れ様」
東風先生はそういってあたし達全員の顔を見回すと、一人一人に缶ジュースを渡してくれた。
どうやら、それを買いに行っていたらしい。
あたし達は先生に御礼を言いながらそれぞれが缶ジュースのタブを開け、飲み始める。
そして、
「まー、がんばったけれど・・・あと二回勝てたら優勝やったしね」
「そうですわ」
「また明日から、がんばって練習するある」
・・・前に練習試合で大負けをしたときとは違って、皆はずいぶんと前向きになっていた。
飲み干したジュースの缶をぐっと握り締めながら、それぞれが次への目標を見つけて口々にそう言いあっていた。
これには先生も安心したようで、
「これからもがんばろうね」
「はい!」
明日からの練習は、今日の反省点を踏まえてグレードアップさせていこう。
そんな風に皆で軽くミーティングをして、あたし達は解散になった。
あたしは、ふと先ほどからのものすごい人だかりがある男子の方へ目をやった。
そちらは相変わらず人に囲まれていて、リーグ関係者がいなくなったと思うと今度は、うちの高校の新聞部がそのまま取材を行っていたり、地域の新聞社に写真を取られたり大忙しだ。
「男子部はすごいなあ」
「う、うん」
「うちらも今度・・・夏の選手権はああなるようにしよな」
そんな男子部の風景をぼんやりと眺めていたあたしに、右京がぽんぽん、と肩をたたきながらそう呟いた。
今日の試合を通して、これまで一生懸命練習をしてきた分、勝ったことも負けた事もあたし達の糧となった。
そう、春が終ったら今度は夏。今度こそは「とりあえず勝つ」ではなくて「優勝」も狙いたいし、今回戦えなかった宿敵・青陵学園高校とも戦いたい。
あたしはそんな事を考えながら、右京の言葉に素直に頷いた。
と、
「ま、選手権の練習は明日からにしてやなあ・・・それよりもあかねちゃん、うちらは今日これからどうするん?」
右京は頷いたあたしに笑顔でそう言うと、ぽんぽんと肩を叩いてきた。
「え?今日って?」
試合も終ったし、これからって、何が?
練習でもするの・・・と、あたしが首をかしげると、
「何をとぼけてるん。こういう試合とかが終わったら、とりあえず打ち上げに皆でご飯食べに行くのが部活っちゅーもんやろ」
「あ、ま、まあそうだけど・・・」
「近くのファミレスにでもいこか?もしかしたら混んでるかもしれへんけど」
右京はそういって、他のメンバーにも声を掛けていた。
「・・・」
そうか、そうだよね。試合が終わったら皆でご飯食べに行ったり普通はするよね。
そう言えば前の練習試合のときも、皆はご飯を食べに行ったよね・・・あたしは行かなかったんだけど。
でもあたし、この後にお姉ちゃんと約束をしちゃったから、
「右京、皆と先に近くのファミレスに行ってて」
「え?あかねちゃんは?」
「ちょっと用事があるから、後から合流するわ。すぐに終わるから」
「あ、そうなん?分かった、じゃあ席とっとくわ。うちら、学校近くのファミレスに行ってるから」
「うん」
右京はそう言って、あたしに聞き慣れたファミレスの名前を伝えると、皆を連れてそこに向って行った。
あたしはそんな皆を見送ると、とりあえず体育館の中に戻った。
皆で試合をして応援をした体育館が、今は殆ど無人。
制服のスカートからにょきっと出ているあたしの足に、むわっとした熱気がまとわりつく。
そんな気色の悪い熱気が残る体育館の中、あたしは体育館に残っている人の顔をチェックをして、なびきお姉ちゃんを探した。
でも、いないみたいだった。
あたしはそのまま、体育館端にある階段を上り、二階の見学席へと上った。
そして、ぐるりと一周歩いてみるも、そこにもお姉ちゃんは、いない。
体育館に設置されている、無駄に五箇所もあるきれいなトイレを一つ一つ見たけれど、いない。
すみっこに設置されている、飲食コーナーに寄ってみたけれどそこにもいない。
「えー・・・どこにいるんだろう」
・・・本当はこんな風にお姉ちゃんの姿を探さなくても、お姉ちゃんは「試合が終ったらメールをする」といっていたからメールを待てばいいだけの話だ。
でも、このあと急に皆とご飯を食べに行く事になった手前、できれば早めに合流しなければいけない。
だからこうして、メールが来る前にお姉ちゃんの姿を探しているわけなんだけれど・・・見当たらない。
「・・・」
あたしは、体育館の外に出た。
外にはもう、人は殆どいなかった。
男バスや乱馬を囲んでいた人の群れも無いし、彼らもいなくなっていた。
「うーん・・・」
あたしは、人気もまばらとなった体育館の入口に寄りかかりため息をつく。
・・・お姉ちゃんは、あたしのメールアドレスは知っている。お昼に教えてあげたから。
でも、あたしはおねえちゃんのメールアドレスも、携帯番号も知らない。
ということは、あたしからはお姉ちゃんに連絡できないって言うことだ。
「どうしよう・・・」
皆と合流しなくてはいけないし、あんまりのんびりとはしていられないんだよなあ。
でも、待つしかないのかな・・・あたしはそんな事を考えながら、再びため息をついた。



と、その時だった。




「きゃ!?」
ピリリリリ・・・
ピリリリリ・・・
・・・不意に、聞き覚えのない電子音があたしの制服のポケットから聞こえてきた。
ポケットには、音が鳴るものなんて一つだけしか入っていない。
そう、まだまだ使い慣れていない買ったばかりの携帯電話だ。
「あわわっ・・・」
携帯電話自体を持ちなれていないあたしは、不自然にわたわたとしてしまった。
慌てて制服のポケットから、音を鳴らしている携帯電話を取り出した。
でも、あたしが取り出した瞬間に、携帯は鳴り止んでしまった。
そんなに長い時間なっていなかったところを見ると、もしかしてメールが届いたのだろうか?
鳴り慣れない、持ちなれない、使い慣れないの三拍子そろっているあたしは、思わず首をかしげる。
通常着信音とメール着信音の音って替えられたりするのかなあ?
説明書もろくに読んでいないので、そのやり方さえもわからない。
「・・・」
カパッ
あたしは折りたたまれている携帯電話を開いた。
すると、中央の大きなディスプレイに、「新着メールあり」と出ていた。
やはり、メールが入ったらしい。
「お姉ちゃんかな・・・」
現在、あたしのアドレス情報を知っているのは、女バスのメンバーとお姉ちゃんだけ。
女バスのメンバーは、わざわざ今、あたしにメールを送ってくることはないだろう。
となると、このメールはお姉ちゃんである可能性が高い。
「メール・・・メールは・・・」
あたしは、携帯電話本体にある「メール」マークのついているボタンを押してみた。
説明書を読んでいなくても、これは何とか分かる。
すると、「受信メールボックス」という部分に「1」と書かれていた。
どうやらこの1通のメールが、今届いたものらしい。
「・・・」
あたしはその部分を選択して、メールを開いてみた。
すると、
『今、どこにいる?』
メール送信者部分には名前でなく英語のアドレス、そして、件名もなく本文一行だけのそんなメールが表示された。
メール送信者部分が英語ということは、あたしの携帯電話に登録していない人からのメールってことだ。
来る予定もあるわけだし、てことはやっぱり、これはお姉ちゃんからのメールだろう。
それにしても、
アール、エックス、エー・・・その次が、イー、エス・・・エスペシャリイ?
最初のアール、エックス、エーの部分は良く分からないけど、後半のイー、エス、の以降はエスペシャリという部分は理解できた。
それにしても随分と長くて変わったアドレスだ。
きっとこういう風に自分で決めたメールアドレスには何か意味があるんだろうけど、これって何の意味なんだろう?
あたしはお姉ちゃんからのメールに、首をかしげる。
メールの文面はさておき、あたしはお姉ちゃんのメールアドレス自体に何故か興味を示していた。
すると、
ピリリリ・・・
再び携帯電話が鳴った。もう一通、続けてメールが入ったみたいだ。
あたしがそれを再び開封してみると、
『体育館の裏の、サクラの木の下で待っている』
同じアドレスから、そんな一行メールが届く。
どうやらお姉ちゃん、体育館の裏手にいるようだ。
サクラの木下で待ち合わせか・・・お姉ちゃん、大事な話をするのにそんなロマンチックな場所を選んだんだ。
でも、きれいなサクラを見ながら、お姉ちゃんとあまり楽しくない話、するんだろうな。
・・・
「・・・」
これから話をする内容を考えると、気分が重くなる。
試合前は、「もしかして乱馬・・・」なんて考えていたあたしだけど、
試合が終り冷静になっている今、お姉ちゃんに呼び出されて話される内容を予測すると、試合前にあたしが一人でドキドキとしているような事があるわけがないと、そういう結論に至る。
でも、メールで場所まで指定された以上、行かないわけには行かない。
あたしは携帯電話をパタンと折りたたむと、とぼとぼと指定された体育館の裏へと向かった。






・・・体育館の裏手には、何本か桜の木が並んでいた。
季節がら、どの木もピンク色の花をめ一杯身に纏、時折吹き抜ける柔らかな風にゆったりと身を任せている。
まるで、ピンクシフォンのカーテンの中を歩いているような錯覚に陥る。
一歩一歩踏み進めるごとに、サク・・・と靴が地面に落ちた花びらを踏みしめていた。
あたしは桜の木の下に、お姉ちゃんの姿を探した。
が、十本近く並ぶ桜の木の下に、お姉ちゃんらしき女の子の姿はない。
ミケ猫が一匹木の下で座り込んでいるのと、こちらからは顔や姿はよく見えないけど、ズボン姿の人が一人、木の裏側に立っているらしきのが伺えた。
お姉ちゃんはあたしと同じ制服姿だった。
ズボンをはいているところを見るときっと、男の子。明らかに別人だろう。
「お姉ちゃん・・・待ってるって言ったのに」
あたしはぶつぶつ言いながら、その人から一本間をおいた桜の木の下へ立った。そして、木の幹に背をつけてお姉ちゃんがやってくるのをぼんやりと待つ。
何となく上を向いたら、顔に桜の花びらが落ちてきた。
顔だけでなく、髪にも、服にも桜の花びらが降り注ぐ。
「もー・・・早くしないと桜に埋もれるよー・・・」
あたしはぶちぶちと文句を言いながら、桜をのんびりと見上げてお姉ちゃんを待った。
と、そこに、
ピリリリリリ・・・
聞き覚えのある電子音が、あたしの制服のポケットから聞こえてきた。
また、メールだ。
あたしはポケットから電話を取り出し、届いたメールを早速見てみる。
『どこ見てんの?』
すると。
先程と同じメールアドレスから、たった一行そんなメールが届いた。
「どこ見てるって・・・」
何だかこの文面だと、お姉ちゃんはすでにここにいてお姉ちゃんを待っているあたしの姿を見ているかのような感じだ。
「お、お姉ちゃん?」
お姉ちゃんこそ、どこにいるのよ。
あたしはお姉ちゃんにそうメールを返信しようとするも、
「・・・」
悲しいことに、メールの返信の仕方がわからない。というか、文字が打てない。
ええい、この文明の利器め!今のあたしはメールを打つより探したほうが早そうだ。
「お姉ちゃんっ・・・」
思い切ってお姉ちゃんを呼んでみたけれど、応答はなし。
全く、妹の困っている姿を見て楽しんでいるのか?お姉ちゃんの意図がわからない。
仕方がないのであたしは、桜の木によじ登って辺りを見回してみることにした。
少し高いところに上れば、辺りも見回せるだろう・・・あたしがそんな事を思って木の枝によじ登って辺りを見回していると、
ピリリリリリ・・・
再び携帯が鳴った。
携帯を開きメールを読んでみると、
『青いパンツは似合わねえ』
再び一行メール、しかも今度はそんな内容のメールが届いた。
「はあ!?」
メールは、同じアドレスから届いている。でも、内容は・・・どう考えてもお姉ちゃんが送ったものとは思えない。
大体この文体が、お姉ちゃんぽくないし。
しかも、人の下着について文句を言うなんて・・・はっ、もしかしてストーカー!?
「な、何・・・」
あたしがその無礼で不気味で不思議なメール画面を見ながら首をかしげていると、



「・・・だから、どこ見てんだよ」



その時。そんなあたしの足元から、そんな声が聞こえた。
「え?」
メールではなく、今度ははっきりとした人の声。それもこの声は・・・
「・・・」
あたしがメール画面から目を反らし声のした方へ目を向けると、
「俺は青よりも白の方が好みなんだけど」
「ら、乱馬!」
そこには、携帯電話を片手で持ち振りながら、ニヤリと笑っている乱馬が立っていた。
「あっ・・・」
あたしは慌てて木から飛び降り、スカートを抑えるも勿論それが手遅れである事も分かっているので何だか気恥ずかしい。
「しかも、無地か」
「よ、余計なお世話よっ」
「レースとかついていると、色気も増すぞ?」
乱馬は、そんなことを言いながらそんなあたしを楽しそうに見ている。
「くっ・・・」
何であんたに、下着についてアドバイスをさなくちゃいけないのよ!
それに、だいたい、何であんたがここにいるわけ?!
「な、何よ!あたしはこれから忙しいんだからっ」
あたしはスカートの中を覗かれた事への恥かしさと、乱馬と遭遇してしまった事への動揺を隠そうとそんな彼に背を向けるも、
ピリリリ・・・
再び、手の中の携帯電話が鳴りとりあえずそちらへと目を向ける。
先ほどと同じようにメールを開封すると、
『体育館の裏の、サクラの木の下で待っている』
・・・その画面には、そんな文字が書かれていた。
「・・・え?」
その文字を見た瞬間、あたしの胸がドクン、ドクンと大きく鼓動し始める。
あたしが今立っているのは、桜の下だ。
しかも、体育館の裏の、桜の木の下。
・・・
「・・・」
なに、これ。これ・・・どういう、事?
あたしはゆっくりと、乱馬の方を振り返った。
するとそこには、さっきまで面白おかしそうにあたしの事を見ていた乱馬ではなく、ビックリするくらい真剣な表情をした乱馬がそこに、いた。
ピリリリ・・・
と、そこでもう一度携帯が鳴った。メールを着信したみたいだ。
あたしが少し震える指で、その着信したメール画面を開くと、
『やっと会えた』
そんな短い文が表示されていた。
「やっと、会えた」
その画面を見つめているあたしに、その画面とそっくりそのまま同じ言葉を呟いた。
「何で・・・?」
あたしは、ゆっくりと顔を上げて目の前の乱馬を見つめながら震える声でそう呟く。
・・・だって、あたしはお姉ちゃんに呼び出されてここに来たのに。
どうして、乱馬がいるの?どうして乱馬が、あたしを待っているの?
お姉ちゃんにアドレスを教えたのに、何で・・・何で乱馬があたしのアドレスを、知っているの?
「・・・」
どうして?何で?が頭の中でグルグルと回っていた。
なんて、声を発して良いのか分からない。あたしが困惑したような表情で乱馬を見ると、
「話があるのは、俺」
乱馬はそう言いって、改めてあたしと向かい合った。
「なびきお姉ちゃんは・・・」
あたしがそんな乱馬に対して震える声で呟くと、
「なびきは来ないよ」
「何で・・・」
「俺が頼んだから・・・」
「頼んだ?」
「あかねと話がしたいから、その、協力してくれって」
「・・・」
「話があるのは、俺」
乱馬はそう言って、一度大きく深呼吸をした。
そして、
「最近あまりゆっくり話をしていなかったし・・・話したいこともあるし」
「で、でもあたし・・・そ、それに皆も待って・・・」
「・・・大事な話だから」
お姉ちゃんが相手で無い事がわかり急にしり込み始めたあたしの言葉を遮るように、乱馬ははっきりとした声でそう言うと、目の前にいるあたしを見つめた。
「・・・」
・・・話って、何だろう。
お姉ちゃんとのこと?バスケの事?
それとも・・・あたしが「もしかして思い違いをしているかも」って思ったこと?
「・・・」
胸が、ドクンドクンと大きく鼓動し始めたのを感じた。
乱馬にこんな風に「話がある」なんて言われるのは初めてかもしれない。
「・・・」
戸惑いながらもあたしは、小さく頷いた。
乱馬はそんなあたしに少しだけホッとしたような・・・でも何だか緊張しているような表情を見せると、もう一度大きく深呼吸をしていた。






何も言わず、桜の木の下で向かい合うあたし達。
そんなあたし達の間を、
ピンク色の軽やかな羽根のような桜の花びらを乗せた風が、何も言わずお互いを見詰め合っているあたしと乱馬の間を、柔らかに駆け抜けていった。

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