【らんま1/2の二次創作小説サイト】| INFORMATION | NOVELS |BOOKMARKS |CONTACTS | HOME |web拍手

FBC 合宿編3

そして、それから数時間後。

シュパっ…
「きゃー!」
「うわー!」


すっかりと日の暮れたグランドの片隅、水周りの近くで。
男子バスケ部の一人があげたロケット花火が、薄暗い夕闇へと音を立てて登っていった。
そしてパっ…と弾けると、星のかわりにみんなの頭上へと降り落ちる。
キラキラと輝く火花が、夕闇に埋もれているみんなの笑顔をパパパパパっと映し出した。
その傍らでは、
「うわー!こら、良牙っ。花火ぐらいしっかり持てー!」
「わわわっ、し、仕方ねえだろっ」
「ああっ良牙様っ…」
「あ、あかりちゃん、来ちゃだめだー!」
…なぜか筒型花火を横に持ち、上ではなく横に噴射している花火を片手に、良牙君が男子バスケ部の部員達を追いかけて走り回っていた。
「あはは、みんな気をつけてねー」
「元気ですなあ、若者は」
そんな良牙君達を眺めながら、グランドの端っこでは、東風先生と男子バスケ部の顧問の先生が、笑顔でそんなことを話していた。
「ふっ…これだからガキは嫌なんですわ。花火といったら、線香花火。オトナの女は線香花火ですわ」
「それよりも、花火のせいで暗闇に浮かび上がるその顔、オトナというよりバケモノね」
そんな先生たちの近くで、シャンプーと小太刀はしゃがんで線香花火をしていて、
「花火、やらないの?」
「見てるほうが好きなんだー、なんとなく…」
さゆりとゆかは、何となく傍にいた男子部員と意気投合したのか、花火そっちのけで話し込んだりしていた。
「…」
皆がそれぞれ楽しそうにこの時間を過ごしている中、
一人誰とも交わることなくぽつんと取り残されていたあたしは、使い終わった花火を入れるためのバケツの水を取り替える作業に勤しんでいた。
余計な事を考えないように…と、両手にバケツを抱えて再びみんなの下へと戻ってきたのだけれど、
「…」
それでもやっぱり、気が付いてしまう。
シャンプー・小太刀、さゆり・ゆか。
…そこに、右京の姿は無い。
そして、楽しそうに花火に夢中になっている男子バスケ部の面々。
その中に、乱馬の姿もないことを。

「…」

…そりゃそうだ。
だって右京は言っていた。『花火の時に呼び出して告白する』って。
今がその花火の時なんだもの。今いないんだったら、あたしがこうしてバケツを運んでいる今、右京は乱馬に告白しているんだ。
二人っきりで、この暗い学校内のどこかで話をしているんだ。
もしかしたら、また楽しそうに笑いあって?
話が弾んで、そのまま二人は付き合うことになったりして?

「…」
そうなる事を望んでいたのに、なぜかあたしの胸がドクン、と大きく鼓動する。
そして、大きく鼓動したその胸は、やがてトク、トク、トク…と一定の速いリズムであたしの全身を刻んでいく。
鼓動が耳を支配して、何だか頭もボーっとする。
「…」
ドサっ。
正体不明のこの鼓動に、何だかいても立てもいられなくなったあたしは、手にしていたバケツを地面においてキョロキョロしてみるも、
「…」
もちろん、そんな風にしてすぐ見つけられるような位置に二人の姿は、ない。
「…どこで話しているんだろう…」
そんな事、別にあたしには関係のないこと。
それなのに、こんなに気になるのはどうしてだろう。
「…」
あたしがそんな事を思って立ち尽くしていると、
「あかねー、なにしてんの?ねえねえ、こっちきて一緒に花火、やろうよー」
それまで男子部員達と、「見るのが好きなの」とかいって話しこんでいたさゆりとゆかが、花火の煙の向こう側であたしに手を振っていた。
どうやらその男子部員達と一緒に、花火でもやり始めるのだろう。
「あ…う、うん」
「あかねは何がいい?あたし達はみんな、普通の筒型花火をやろうと思って」
さゆり達は煙の向こう側で、楽しそうにそんな事を言って笑っている。
「…」
でもあたしは、素直にさゆり達と花火をして遊ぶ気にはなれなかった。
それに、さゆりとゆか、そしてその横にいる男子部員二人の間にわざわざお邪魔して花火をするなんて、なんとなく気が引けてしまったからだ。

「…あ、さゆりごめん。あたしはちょっと…」
「え?」
「その…花火の煙吸いすぎちゃって、何か気分が悪くって…」
「え?大丈夫?」
「あ、うん…だから、ちょっと校舎内でも散歩してくる」
「そう…一人で平気?一緒に行こうか?」
「あ、大丈夫だからっ」
あたしはそんな適当な言い訳をしながら、みんなの元を離れた。
もちろん、気分が悪くなったなんて嘘だ。
とにかく、今はそんな風にみんなとのんびり話をしている気分にはなれなかった。それだけだ。
「…」
あたしはみんなの元から遠のくと、風に当たるフリをしながらキョロキョロと、あたりを見回す。
…自分が、いかにバカな事をしているか。そんなの分かりきっていた。
何であたしは、こんな風にみんなに嘘までついて、二人の姿を探しているんだろう。
探して、どうするつもりなんだろう。
だいたい、こんな薄暗い学校内で二人きりで話しているんだもん。
もしも、もしも話が上手く進んじゃって、それでもしかして…・
「…」
ドクン。
あたしの胸が、また大きく鼓動した。
…話しているだけで、済まない事だってあるかもしれない。
そう考えれば、尚更だった。
「…」
考えまいと必死に首を左右に振るも、心の奥底に生まれたモヤは、隠せない。
「…」
…何、やってるんだろう…あたし。
あたしは、ふと足を止めて、思わずため息をつく。
自分でも分かっている、今自分がどんなにくだらない事をしているのかなんて。
でも…
「…」
でも、このままじっとしているなんて出来ない。
皆と一緒に仲良く花火をする何て出来ない。
「…」
一体どうしたらいいのか。
あたしはどうしようもないこの気持ちを消化できずに、もう一度大きなため息をついた。


と、その時だった。

「あかね、こっちこっち」
「え?」
「ほら、こっちだ、こっち」
「らっ…」
「はやく。みんなに見つかちまうからっ」
ため息をついてがっくりと肩を落としていたあたしの背後で、不意にそんな声がしたかと思うと、
あたしはぐっと、その手を掴まれた。
「なっ…何やってんのよ、あんたっ」
振り返ってみてみると、あたしの手を掴んだのは、乱馬だ。
あたしが今立っている場所は、グランドの隣にあるプールのフェンス前。
そこは、ちょうど大きな木とか部室等とか並んでいる事もあり、グランドからは視界が遮られているというか。
木々の隙間からは、見ようと思えばグランドは見えるかもしれない。そんな場所だ。

「何って、特等席でのんびりと花火、見てんだよ。それにほら、これっ」
乱馬はあたしの手を掴んだまま、強引にプールサイドまで連れて行くと、上に羽織っていたジャージのポケットからあるものを取り出した。
それは、
「あひるのおもちゃ?」
…そう、昨日の朝カバンの中を見たときに乱馬が持っていた、あの黄色いあひるのおもちゃだった。
「結局昨日も今日も、プールに忍び込んで泳いでいる暇なくってさー、風呂には浮かべてみたんだけど、やっぱ物足りなくて」
「…でも浮かべたんだ?」
「隊長は、やっぱりプールぐらいの広いところで泳がせてやらねえと」
乱馬はそう言って、あひるのおもちゃの胴体についているネジをギっギっ…と巻くと、
「それっ…」
嬉々とした表情で、オモチャをポチャっ…とプールへと浮かべた。
そして、
「皆元気だよなあ。もう、人が入り乱れてらあ」
そんなことを言いながら、乱馬は自分がどっからか持ち込んでいたお菓子やジュースを、プールサイドに置いてある木のベンチに腰掛けながら口にして 勝手にくつろいでいる。
どうやらそのお菓子やジュース、今日の昼間にでもアイスを買いにいったついでに買い込んできたようだ。
「…右京は?」
そんな乱馬に対し、あたしはさっきから気になっていることを小さな声で尋ねた。
すると、
「さあ」
何故か乱馬は、そっけないというかさらりとそう、あたしに返答した。
「さあって何よ。一緒なんでしょ?」
その答えがあまりにもそっけなさ過ぎて、あたしが思わず乱馬にそう言い返すと、
「何で一緒なんだよ?」
「え…何でって…だって…」
…告白されてたんじゃないの?
その言葉はさすがに口に出さなかったけれど、
「まあ、とにかくお前もくつろげよ。立ってるのもなんだし」
乱馬が、まるで自分の部屋へでも招き入れるかのようにそんなことを言うので、
「あ、う、うん…」
あたしは何だか釈然としないまま、
乱馬に勧められるままに、プールサイドに設置されていた木のベンチへと腰を下ろした。

…一方その頃、グランドでは。
「あー、しんど」
「あれ?右京。どこ行ってたのよー」
部員達が花火をしているグランドに、お腹をさすりながら顔をしかめた右京が、ひょっこりと戻ってきた。
「もー、今まで何してたのよー」
残り少なくなってきた花火を右京に手渡しながら、ゆかが右京にそう尋ねると、
「夕飯の煮物、皆平気だった?うち、あれでお腹をやられたというか」
「えっ、やだ大丈夫?あたし達皆平気だったけど…クスリ飲んだの?」
「飲んだ飲んだ。それで今まで、部屋で横になってたん。休んだら大分良くなったから、花火しにきた」
「あー、そうなんだ」
右京はそう言って、ゆかのくれた花火に火をつけると、
「さ、遅ればせながら花火、楽しもうかねー。そうでもせんと、うちも気が紛らせへんねん」
「右京…」
「そんなしけた顔せんでええって!ほれっ…」
シュボっ…
右京は、火をつけた花火をゆかやさゆりのほうへと向けた。
すると運が悪い事にその花火は、さゆりたちの足元にあった「ねずみ花火」に引火をした。
パンパンパンっ…と、次から次へと引火した花火が、そこかしこに飛び跳ねだしたのだ。
「きゃー!ちょっと右京!」
「うわー!」
「わっわっ…あかんて!」
おかげでその場は大パニックだ。
逃げ惑う部員達と共に、さゆりやゆか、そして右京も花火から逃げるべくグランドを駆け回る中、
「あはは、もう煙が目にしみてかなわんわーっ」
「右京…」
「ああ、イタイイタイ」
花火から逃れて走り回る右京が、ふいに目を手で拭った。
それに気がついたゆかが慌てて声をかけるも、右京は更にゴシゴシと涙を拭い、
そして声をかけたゆかに対して、精一杯笑って見せた。
「…」
彼女のその笑みが、どれだけ一生懸命なものか。
理由を知っているさゆりも、そしてゆかも痛いほどそれが伝わってくるのだが、今はそっと見守ってやるしかない。
「ほら右京、気を取り直して別の花火、やるよー!」
「せやね」
二人は笑顔の右京の元に駆け寄って、たくさんの花火を彼女に向かって差し出して笑ってやったのだった。



「…でな?隊長はプールを泳ぎきるまでに一体どれくらい時間がかかるのか。俺は知りたかったわけだよ」
「…」
一方。
依然としてプールサイドにいるあたしは、あひるのおもちゃを眺めながら乱馬と、そんな会話を交わしていた。
「三年前に購入してこの度天寿を全うしてゴミとなったあひると、合宿前に購入したこの隊長の馬力の違いは…」
お菓子を食べつつ、あひるのオモチャについて一生懸命話している乱馬と、
「…」
…右京との事は一体どうなったんだろう。
その事が気になって仕方がない、あたしと。
「あひるはいいよな」
「そうね」
…会話を交わしてはいるけれど、気持ちがそこに無い為に、何だか変な感じだ。
「…」
あたしは、あひるのオモチャ…もとい「隊長」を、一度プールからすくい上げて手に取った。
そして、改めてネジを巻くと、もう一度プールに落とす。
パタタタタ…
ネジを巻きなおされて元気を貰った「隊長」は、そんな音を立てながら、どす黒い水面を進んでいく。
「…」
あたしが何も言葉を発しないまま「隊長」を見つめていると、
「ちゃんと話したよ、俺」
やっぱりあたしと同様、「隊長」を見ている乱馬が、突然そんな言葉を呟いた。
「ちゃんとって?」
主語もへったくれもないようなその言葉に、あたしが「ん?」と首をかしげながら乱馬のほうへと向き直ると、
「うっちゃんに、告白された」
「えっ…」
「でも、断った。そんで話した。俺には好きな人がいるからって」
乱馬は目線を「隊長」に向けたまま、静かに続きをそう呟く。
丁度その時、サワサワ…と、プールサイドに風が吹きぬけた。
あたしの短い髪も、そして一つに結っている乱馬の髪も、風になびいて揺れている。
プールのどす黒い水面が風に揺れ、そして小さな波を立てていた。
「…」
それが知りたかったのに、なんて答えていいのかわからない。
あたしが、風になびいた髪を指で軽く梳き耳にかけながら、俯いて黙っていると、
「昼間、さ」
「え?」
「みんなの分、アイス買いに行っただろ?あの時に、告白された」
「ええ!?」
昼間って…え、だって花火大会のときに呼び出して告白するっていってたのに!
お昼の時だって普通だったし、そんな、降られているなんて全然気がつかなかったし、それに…ええ!?
「…」
あまりにも驚いて、あたしが口をぱくぱくとしていると、
「花火の時はきっと、そう簡単には抜けられないだろうからってさ」
乱馬はそう言って、腰を下ろしていたベンチからすっと立ち上がると、
プールをパタタタタタ…と進んでいく「隊長」を、ゆっくりと追いながら歩き始めた。
「ま、待って…」
あたしも慌てて立ち上がって、乱馬に続いた。

あたし達は、しばらく無言のままで「隊長」の傍を歩いていた。
二人とも、目だけは「隊長」を見つめている。でも、心は何だかそこにはない。
乱馬と話すなんていつもの事なのに、何だか張り詰めているようなこの緊張感はなんだろう?
…少なくともあたしは、そんなことを思いながら、乱馬に続いてプールサイドを歩いていた。
と。
「いい加減な気持ちで付き合ったりしたら悪いだろ」
ふと、乱馬がまた口を開いた。
「右京のこと…」
「ん?」
「ホントにいい子だって思うから、断ったって事?…もし、乱馬にほかに好きな人がいなかったら、OKしていたかもしれないってこと…?」
「そうだよ」
「…」
ドクン。
乱馬の言葉を聞いていて、なぜか胸が鼓動した。
…何だか複雑だった。
何が複雑なのか…自分でも分からない。
でも、何か…何か分からないけど、胸が苦しい。
乱馬に今好きな人がいなかったら、右京は彼女になれる存在だった。
もしかしたら付き合っていたかもしれない、存在だったんだ。
それに、そんな良い子を振ってまで、気持ちを通したい相手がいる?乱馬は…そう思うと、更に複雑だ。
「…」
…変なの。
あたし、あれだけ「右京は乱馬にぴったりよ」なんて言ってきたくせに。
いざ乱馬の口からそれを聞いたら、こんなに複雑に思うなんて。

「…」
あたしが思わず立ち止まって、俯きながらそんなことを考えていると、
「あかね?」
ふと、あたしが立ち止まった事に気がついた乱馬があたしの元まで戻ってきて、顔を覗き込んだ。
あたしはそんな乱馬から逃れるように顔を背けると、
「告白…しないの?」
…そうやって聞くのも、何だか胸が苦しい。
胸が押しつぶされそうな感じだった。
でも、何だか聞かずにいられない…すごく矛盾している状況に、あたしは何だか気が狂いそうだった。
すると、
「…まだしない」
「まだ?」
「もうちょっと…」
乱馬はそう言って、その場にしゃがみこんだ。
「…」
「まだ」って、なんなんだろう…。
何だかその言葉が妙に気になって、あたしもそんな乱馬の横にしゃがみこむと、
「…大事」
「え?」
「すげえ大事なんだ」
しゃがみこんだあたしに、乱馬は小さな声でそう呟いた。
「…」
ドクン。
その乱馬の言葉に、あたしの胸が大きく鼓動する。


…何か、ビックリしていた。
そう、たぶんあたしは今、ビックリしたんだ。そう思った。
乱馬の口からこんな風に、誰かの事を「大事」だと思っている事を聞くの、初めてだった。
いつまでも、乱馬はあたしが知っている乱馬だと思っていた。
それはいつまでも変わりないと思っていた。
あひるのおもちゃで遊んだり、水着詰め込んだり、バカな話したり…
そんな乱馬のまま、ずっとそこにいてくれるのかと思っていた。
でも、あたしの知らないところで、こんな風に誰かの事を好きになっていて、そして大事に思ったりしていたなんて…


「…そう…」
何だか、すごく寂しくなった。
なんで乱馬に対してこんなことを思うのか。そんな事はよくわからない。でも、それが、素直な感情だった。
「…」
あたしがそれを悟られまいと、それ以上何も言わないでいると、
「…絶対に無くしたくなくて、壊したくなくて、そんで…その、どうしても手に入れないといけないんだ」
「…」
「だから、慎重に進めたくて…」
乱馬はそう言って、口をつぐんだ。
「…」
そんな乱馬の横顔を、あたしはちらっと、盗み見た。
あたしにそうやって話す乱馬の顔は、何だかとても穏かで、そして優しく、見えた。


…ああ、乱馬って他の誰かの為にこんな風に優しい表情、するんだ。
これが、男の子の顔なのかな…そう思うと、何だか再び胸が、鼓動する。
そして、その鼓動と一緒に…痛みが走る。
痛みと、寂しさと、色々…色々な感情が、あたしの中へと走っていく。
乱馬は大人になったのかな…そう思うと、更に、だった。
あたしは、何だか一人で置いてきぼりになったような…そんな気がした。


「…なんか…」
「ん?」
「そんな風に思ってもらえて、幸せだね…その子」
…決して言うまいと思っていた言葉だったけれど、それが今のあたしの本心だった。
羨ましいな。あたしの知らない、乱馬の思い人。
素直に、そう思ってしまった。
…が。
「はー」
…そんなあたしに対して、なぜか乱馬は大きなため息をついた。
「な、なによそのため息はっ…」
あたしがそんな乱馬に対して思わず文句を言うと、
「あのな、俺がいくらそう思っていてもだ」
「うん」
「相手が俺の事をなんとも思ってなかったら、どうにもならねえだろ」
「え?相手がって…?」
「はっ…これだよ、もう」
乱馬は、何だかふて腐れたような顔をして、更に大きなため息をついた。
「な、何よー…何なの?」
何で乱馬はため息をついてるのか。いやふて腐れているか?
やっぱり原因が分からないあたしが、首をかしげていると、
「隊長、そろそろ上がるか?」
そんなあたしをよそに、乱馬はプールの隅でこてん、と横になって浮いていた「隊長」を、すっとすくい上げた。
そして、
「…それよりも花火、覗いてみようぜ。まだみんな、やってるだろ」
と、「隊長」を手に、再び花火が見える木のベンチへと歩いていった。
「あ、うん…」
…何だか、最後は中途半端に話を終わらされたような気がしたけれど、これ以上は何だか突っ込んで聞けるような雰囲気では無い。
あたしも乱馬の後を追って、木のベンチへと歩いていき再び腰をかけた。
乱馬は、「さ、隊長」とか何とか言いながら、「隊長」をあたしと、そして乱馬の間にちょこんと置く。
花火は、まだ皆やっているようだった。生い茂る木の隙間からしか、色鮮やかな花火は見えないけれど、
「とりあえず、綺麗だよな」
「そうねー。音は聞こえるしね」
「花火といったら、やっぱロケット花火だろ」
「何言ってんのよ。線香花火でしょ?」
「ロケットだっつーの」
「線香よっ」
二人で再びベンチに腰掛けながら、あたし達はまたそんなくだらない話を始めた。
たまに、小さい頃いっしょにやった花火のこととか、毎年行く花火大会のこととか思い出してみたり。
さっきまでしていた話よりも、なんとも心が軽い話だ。
面白いくらい、話が進む…あたしはそんなことを思っていた。
するとその内、
「小さな花火もいいけれど、でもやっぱり空に打ち上げる大きな花火もいいよなあ」
「夏の花火大会でしょ?海でやる奴」
「そうそう。行くだろ?」
「もちろんよー!あっ。今年はあたし、浴衣着ていこうかなー」
「はねっかえりの上に寸胴のくせに」
と、乱馬が失礼極まりない発言をして、小さく笑った。
「なっ。余計なお世話よっ」
「ゲタ履いてしょっちゅう転ぶくせに」
「うるさいわねっ。しょうがないでしょ、履きなれてないんだからっ」
「履きなれてない下駄で、浴衣はだけさせて走るからだろ。ったく、色気はねえよなあ」
「失礼ね!そ、そりゃ寸胴ではねっかえりで色気は無いかもしれないけど!でも可愛いんだから、あたしの浴衣姿っ」
前言撤回、なんて失礼な奴!…と、あたしがムカッとしながらそう言い返すと、
「知ってる」
あれだけ失礼な事を言っていたにも関わらず、そんなあたしに対して、乱馬は一言だけそう返した。
「え…」
ドキっ…
予想外の言葉に、あたしが思わずビクン、と身を竦めると、
「…でも、花火大会って行ったらあれだな。一緒に出てる夜店の食いもん」
乱馬は、それから話題を上手い具合に逸らし、今度は夜店の食べ物の話をしきりにしだした。
「な、何よ花火の話はどうしたのよっ…」
胸をドキドキさせながら、あたしが乱馬にそう叫ぶと、
「だってよー。菓子は食ってるけど、腹、すかねえか?」
乱馬はそう言って、お腹のあたりをさすり始めた。
「そりゃそうだけどー」
あたしがそう言って、思わずベンチの上に置いてある「隊長」の頭を撫でると、
「隊長だって腹、すくよなー」
乱馬は、あたしと同じように「隊長」の頭を撫でて、そしてそのまま、「隊長」のすぐ後ろに手を置いていたあたしのすぐ傍に、自分の手を置いた。
フワ…
そうすることで、少し…ほんの少しだけ、乱馬の指があたしの指に、触れた。
それは、本当に偶然、だった。
ちょうど指の、第一関節くらい…あたし達の指は触れ合っている。
「あ…」
指、何かぶつかってるよ?
「…」
指が重なっている事を乱馬に教えてあげようと、あたしは一瞬口を開こうとするも、
「お好み焼き…綿菓子…。ヤキソバ…カキ氷…」
乱馬は、あたしの事などそっちのけで、次々と食べ物の話を口にしていく。
「…」
あたしが口を開こうとすると、そのタイミングをこう上手く見計らって、わざとあたしの言葉を遮る乱馬。
「…」
もしかして、指が重なっている事をあたしに言わせないようにしているのかな…一瞬そんな気がしたけれど、
「…」
…そんなわけないか。あたしはそんな風に思った自分を軽く戒める。
「…」
でも。
せっかくだし…この指の事は、乱馬には黙っていようか。
何だか分からないけれど、あたしはそう思った。

「たこ焼きも忘れないでよ」
「もちろん。あとは…」
「あんた、食べれるもんなら何でもいいんでしょー。そういや、神社の縁日もそうだもんねえ。毎年、食べ物両手に持って、頭にお面つけて」
「しょうがねーだろ。あ、来週な、隣町の神社で縁日があるらしいぞ。良牙があかりちゃんと行くって行ってるけど…お前、行くか?」
「えー、良牙君とあかりさんとあたしと三人で行くの?何か居ずらくない?」
「俺も行くに決まってんだろっ」
「そうなの?」
「当たり前だろーが。勝手に記憶から削除するなっ」
「はいはい。あーあ、乱馬が一緒だったら浴衣じゃなくても良いいかー…メンドクサイし」
「なっ…どういう意味だそれはっ。失礼なっ」


…結局しばらくの間、あたしは指が重なっている事を気がつかないフリをしながら、そのまま話を続けた。
そして、
「そろそろ行くか」
「うん。…あ、そういえばあんた、右京にソーイングセット渡したの?」
「あ、忘れてた。これ、渡しといて」
「家庭科室に行かなかったの?朝」
「だから。別の用事を済ませにきたついでに、ソーイングセットの事思い出したんだからしょうがねえだろ」
「用事?誰かに会いに来たっていうやつ?」
「そ。そんでもって、会えたから俺の用事はあの時点で終了」
「え?」
「…ほら、行くぞ」
「あ、う、うん…」
ちょうど、皆が花火を終わらせる頃合を見計らい、あたし達はこっそりとグランドへと戻り、みんなと合流。
そして何事も無かったかのように皆に混じったのだった。



こうして、あたし達の初めての合宿は、終了した。
そして、翌日。合宿を解散する直前の事。



「なあ、あかねちゃん」
ふと、校門の前で皆で解散する前に、右京がこっそりとあたしに話し掛けてきた。
「右京…」
乱馬のことがあるので、あたしが何と声をかけたらいいかと言葉に困っていると、
「ああ、うちの事は余計な事気にせんでいいよ。それよりも…」
右京はそう言って、あたしをみんなの輪から少し離れさせ、
「それよりも、乱ちゃんの好きな人の事、知りたくない?どうせまだ聞いてへんのやろ?」
と、ニイっと笑っていった。
「え、う、うんっ…でも右京、何で知ってるの!?」
あたしが思わず食いつくように右京に尋ねると、
「知っているって言うか、皆気がついてるって言うか」
「え?」
「それに、うちにはそれを聞く権利、あんねんで?ま、聞くって言うよりも確認やったんやけど…」
右京はそう言って、その続きをあたしの耳元に囁いた。
「あのな?乱ちゃんなー…もう十三年も片思いやって」
「え?」
十三年?…その言葉に、あたしが思わず妙な声を上げると、
「あ、乱ちゃん、ちょっと待ち。乱ちゃんももう帰るん?そやったらどうせ隣に住んでるんやし、あかねちゃん、一緒に帰ったら?」
ドンっ。
右京はそれ以上はあたしに何も言わず、やっぱりそちらも解散になったのか、ノロノロと自転車を押しながら歩いてきた乱馬に向かって、あたしの背中を 押し出した。
「しょうがねーなー。じゃあ自転車、乗ってくか?」
そんなあたしにいつものように接する乱馬に、
「あ、うん」
あたしはボーっと答え、そして自転車にまたがった乱馬のその後ろに腰掛け、皆と別れた。
…でも。
「…」
自転車の後ろで、見慣れた乱馬の背中に腕を回しながら、何だかあたしの心は複雑だ。
頭も、ごちゃごちゃしていた。
…だって、十三年て、それて三歳の時から好きだったってことでしょう?
随分と早い初恋…ってそれは置いておいて、三歳…幼稚園に通う前?
幼稚園の時から一緒の女の子だって、そう多くは無いし…。
それに、三歳って言ってるんだからそれは違うだろうし。
「…」
そんな昔から乱馬の近くに居る女の子なんて、あたしは二人しか知らない。
一人は、あたしのもう一人のお姉ちゃん。一歳年上の。
そしてもう一人は…

「乱馬…」
「あー?何だよ?」
「あ、うん、なんでもない…」
自転車に二人乗っけて走るのは大変だ。前をしっかり見ていないとハンドルも取られる…ので、一瞬しか乱馬は振り返らなかったけれど、
あたしはそんな風に振り返ってくれた乱馬の顔を、直視する事が出来なかった。
「…」
胸が、この上なくドキドキしていた。
…聞きたい。
確かめてみたい。
でも…もしもそれが、お姉ちゃんだったら、どうしよう。
『壊したくない、大事な人』
そんな風に思っている相手が、お姉ちゃんだったら…
ううん、それよりも。
もしも、もしもそれが…

「…」

…せめて、こんな風に思っているこの心が、ぎゅっと腕を回して触れ合っている身体から流れていきませんように。
あたしは、そんなことを思っていた。

RUMIC'S NOVELS LINK

パラレル
糖度2
糖度3
糖度4
糖度5
企画

OTHER CONTENTS

■オリジナル作品(外部サイト)
お仕事情報

THANKS!

TOTAL: HITS(Y:)