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FBC 合宿編2

翌朝。
いつもと同じように早めに起きて、そしてなんとなくぼーっと、宿舎の洗面所で歯を磨いてたあたし。
その時ふと、洗面所の窓から、やっぱりあたし同様に早起きした右京が、向かい側の校舎にある家庭科室へと移動していく姿が見えた。
皆よりも少し早めに起きて、朝ご飯の支度か。
皆も右京のご飯は喜んでたし、右京も乗り気だったし。
「…」
…右京、料理上手だしね。男バスの「みんな」も喜んでくれてたし。作りがいがあるってものよ。
そう、『みんな』…
「…」
あたしはそんなことを思っている自分に、何だか違和感を感じた。

『みんな』?
何であたし、そんな抽象的な表現するんだろう。
右京が料理を作ってそれに喜んでいた人たちの中で一番目に入ったの、アイツじゃない。
ほら、ご飯を食べた後で後かたずけまで手伝ったアイツ。
「…」
あたしはそれを知っているはずだし、右京がそれを喜んでいた事だって知っているはずなのに。
なんであたしは、それを認めようとしていないんだろう。

「…」
理由はわかっているような、分かっていないような…あたしがそんな事をぼんやりと考えながら歯を磨いていると、
「あー…、何かまだ眠い」
突然、そんな声があたしの耳に飛び込んできた。
見ると、廊下の向うから、大きなあくびをしながら、結ってはあるけれど寝癖がピンピンとしている頭を掻きながら乱馬が歩いて来る所だった。
乱馬は時折伸びをしながらあたしの元まで歩いてくると、
「やっぱ家のベッドが寝心地が良いよなあ」
とか何とか。そんな事を言いながら、幾つもある洗面所の、わざわざあたしの隣を陣取った。
そして、
「あー!それあたしの!」
「うるせえな、いいだろ歯磨き粉くらい。減るもんじゃあるまいし」
「減るでしょっ。それにそのイチゴミルク味、レアものなんだからー!」
「へー、レアなのか。じゃあ余計に使っとかないとな」
乱馬は用意してきたのか自分の携帯用歯ブラシセットをポケットから取り出し、わざわざ自分の歯磨き粉だって持って来ているのにも関わらず、
あたしの「イチゴミルク」味歯磨き粉を大量に歯ブラシにつけ、歯を磨き始めた。
「もー!」
「うるせえな。じゃあ返そうか?」
「い、いらないわよっ」
あたしはため息をつきながらも、仕方ナシに隣にならんで歯を磨きつつ、
「それより…男子の宿舎は下の階でしょ?何しにきたのよ、こんなに朝早く」
と、乱馬に尋ねてみた。すると、
「んー?まあ、ちょっと野暮用」
「用って??」
「まあな。人に会いに来た。そのついでに用も済ませようと思ったんだけど」
乱馬はそう言って、ブクブクブク…と水を含んで口の中をゆすぐと、
「これ。うっちゃんに渡しておいて」
そう言って、歯ブラシセットを入れていたポケットとは反対のポケットから、小さなソーイングセットを取り出した。
「…うっちゃん?」
「そう。うっちゃん、右京って名前なんだってな。久遠寺さんて呼んでたらさ、呼びづらいだろうからって。
ほら、俺もそうなんだけど、漢字三文字の名前の名字ってなかなか呼びづらいもんがあるんだよなー…おめーにはわかんないだろうけどさ」
…ドキ。
何だか分からないけれど、乱馬のその言葉に、あたしの胸が大きく鼓動した。
「へー、そう…」
でも、それを悟られまいと、あたしが胸の前でぎゅっと手を握ったまま小さくそう呟くと、
「あ、それでな?昨日さ、家庭科室で飯の後かたずけしている時に、服に穴があいてる事見つけちまって。そしたら裁縫道具、貸してくれてさ。
いやー、お前も見習えよ?こういう気回しは」
乱馬はそんな事を言いながら、ぽんぽん、とあたしの頭を叩く。
「…」
あたしは、そんな乱馬を直視する事が出来なかった。
そして、頭の中では全然別の事を、考えている。

…こんなに朝早くから、乱馬は右京に会いに来たんだ。
それに、

「…」

ちょっと長い時間、二人きりで話をしただけで、すぐにお互いの呼び名が変るくらい仲良くなれるんだ、この二人は。
…それを考えたら、何だか分からないけれど、あたしの胸がトクン、と動いた。
トクン、トクンと動き始めた小さな胸が、徐々にその鼓動を早くする。
やがてドクン、ドクンと身体全体を支配するような振動を与えるようになったその鼓動は、あたしの思考までも支配し始めたような気がした。
身体を支配した鼓動は、やがてその姿を黒いモヤへと姿を変え、あたしの心をざわつかせる。


何?
何だろう、この鼓動は。
ううん、鼓動だけじゃない。この胸の、ざわめきはなんだろう…。
分からない。
その正体は全然わからない。でも、

「…」

…すごく、息苦しいと思った。
そう思うと更に、乱馬の顔を直視する事なんて出来なかった。
「…右京なら家庭科室だから」
あたしは、乱馬から目をそらしたままそう呟くと、きゅっきゅ…と蛇口をひねって水を出し、口の中をゆすぐ。
「ああ、朝飯作りか。合宿中とはいえ、すまねえよなあ」
「…だから、直接家庭科室に行って渡してあげたら?右京、喜ぶから」
そして、ぼそぼそと小さくそう呟くと、あたしは乱馬があたしに手渡してきたソーイングセットを、彼の手の中へと押し返した。
「へ?いいよ別に、そんな急いで返さなくちゃいけないもんでもないし。あかねから渡しておいてくれよ」
乱馬は首をかしげながらも、それでもあたしにそのソーイングセットを渡してこようとするけれど、
「せっかく会いに来たんでしょっ…だったらちょうどいいじゃないっ」
ぐいっ…
あたしはがんとしてそのソーイングセットを受け取らず、そう強めの口調で叫ぶと、
「右京だって、喜ぶよ…早乙女君」
と、その部分だけ小さく呟く。
…可愛くない。
あたし、すごく今、可愛くない。
それは自分でも良くわかっている。
でも、どうにもならなかった。
「はあ?何だよ、その早乙女君て。あ、お前熱でもあるんじゃねえか?」
もちろん、普段「乱馬」って呼び捨てにしているあたしが「早乙女君」なんて呟けば、乱馬だって不審に思う。
乱馬は、眉をひそめながらあたしの額に手を当て、そのままあたしの顔を覗き込もうとした。
でも、
「熱なんて無いっ…」
あたしはそんな乱馬を振り切って、さっさと自分達が寝泊りしている部屋へと駆け出した。
「あっ、おいあかねっ」
そんなあたしに対して、乱馬が何か叫んだような気がしたけれど、あたしは振り返りはしなかった。
…何が何だか、わからない。
どうして「早乙女君」なんて。あんな風に乱馬の事を呼んだのかも…そして、こうして乱馬から自分が逃げ出してしまった事も。
分かったのは、たった一つだけ。
「…」
…あたしは、可愛くない。
右京に比べたら、全然可愛くない。それだけだ。
「…」
あたしは、皆がまだ眠っている部屋にかけ戻り、一人大きなため息をついたのだった。


合宿二日目の午前中の練習は、昨日の午前・午後の練習よりもハードに感じた。
それに加えて、体育館に篭る熱気。流す汗の多さと、マネージャのゆかがモップで汗を拭う回数が面白いくらいに比例している。
でも、走りながらモモの筋肉がぴくぴくと動くくらいの厳しい練習を終たあとは、
「じゃあ、最終日だから。練習はこれくらいで切り上げようか」
「ありがとうございましたー!」
「男子バスケ部の顧問の先生と相談してね、みんな練習をがんばったから、アイスでも奢ってあげようかと思ってるんだ」
「やったー!」
…東風先生が、体育館の冷たい床に寝転んでぐったりとしていたあたし達に、そう声を掛けてくれた。
水をがぶ飲みするよりも、嬉しい。しかもアイスとは…と、あたし達女子バスケ部もこれには大喜びだったけれど、
「うおー!」
育ち盛りで、食べ盛り。そして若干暑苦しい男子バスケ部の面々も、このアイスの話を聞いたのか、体育館中に響くような低い声で可愛くなく叫びなが ら、大喜びだ。
男子バスケ部の顧問の先生は、恐持てでお堅い人物だ。
なので、東風先生の提案に乗ってくれた事が珍しいみたいだ。
何でも、こんな風にアイスなんて奢ってくれる事は滅多にない…と、体育館の床に寝転んでいたあたしに、こっそりと近づいてきたあかりさんが教えてく れた。
「それじゃあ、みんなの分のアイス、買ってきてもらおうか」
あたし達が喜んでいるその最中、それまで暑苦しい声で叫んでいた男子バスケ部の良牙君が、
「…というこで、宜しくな?キャプテン」
「えっ、何で俺なんだよっ。こういうのはマネージャーがっ…」
「お前、あかりちゃんにこの暑い最中、十五人分のアイスを買いに行かせようというのか?」
「俺ならいいのか?」
…と、アイスを買いに行く人間に乱馬を指名していた。
何だか乱馬は、キャプテンというよりみんなの「パシリ」みたいな印象だ。
あたしは何だかそれがおかしかった。
すると、
「じゃあうちは…あかねちゃんかな」
そうやってあたしが笑っているのを見ていた東風先生が、あたしの肩をぽん、と叩きながらそういった。
「お互いキャプテン同士で、買物に行っておいで」
そして、東風先生はそう言って、あたしにアイスのお金を渡そうとした。
でも、
「あ!先生、うちが行くっ」
「あ…」
「うち、行ってきますっ」
…あたしが先生からお金を受け取ろうとする直前、右京が先生の手からお金をスッ…と取ってしまった。
ドクン。
あたしの胸が、大きく一度、鼓動した。
「あ、久遠寺さんが行ってくれるのかい?じゃあよろしく頼むよ」
…もちろん、どうして右京がわざわざ、自ら名乗りを上げたかなんて知る由も無い東風先生は、すんなりと右京へとそれを依頼する。
「…」
あたし、行こうか?
…それを見ていたあたしの口から、
あれだけ右京の恋を応援しようといろいろ策を講じていたのに、そんな言葉が飛び出してきそうだった。
でも、絶対に言ってはだめだ…そんなこと。

「…」
あたしがそんな事を思いながら、嬉しそうな右京とアイスの注文をしている東風先生を眺めていると、
「あかね、買い物は右京に任せてさ、あたし達はお昼の準備してあげようよ」
「え…」
「下ごしらえは出来てるみたいだし、食器並べるくらいだし。アイス買いに行ってくれているのに、そんな支度までさせらんないよ。それに、三十分くらいか かるしね」
唇をぎゅっと噛んでいたあたしに、さゆりがそう声をかけて、
「じゃあ右京、お願いね。あたしレモン味のシャーベッド」
「私はカップのアイスでいいですわ」
「私はソフトクリームね」
「あたし、モナカでいいや」
と、皆と共にアイスの注文をした後、あたしを体育館から外へと連れ出した。
「あ…」
あたしがさゆりに連れられながらも、未練がましく体育館のほうを振り返ると、
ワラワラワラ…と、あたし達と同じように体育館の外へ出てくる男子バスケ部の群れの最後尾、
「なあなあ、乱ちゃん。どこまでアイス、買いに行くん?」
「え…近くのコンビニでいいんじゃねえか?」
「うち、アイス専門でいろいろ売っているお店しってるで!」
「へー。あ、こっち側歩いたら?そっちヒナタだし」
「ありがとうー」
そんな会話を交わしながら、楽しそうに笑いあっている乱馬と、右京の姿が見えた。
乱馬も右京も、よく笑う。
二人とも、昨日の夜、家庭科室にいた時のように楽しそうだ。
…乱馬って、あんな風に他の女の子と話すときに楽しそうにするんだ。
日差しが強い方を自分が歩いて、右京に日陰を作ってあげたり。
そんな気遣いとか、するんだ。知らなかったな。

「…」
そんな事を思ったあたしは、また胸がドクン、と大きく鼓動したような気がした。
…何だか、乱馬が急に遠くなってしまったような気がした。
今、右京の隣で笑っている乱馬は、
右京に気を使って隣を歩いている乱馬は、あたしの知っている乱馬ではないような。そんな気がした。
でも、乱馬が右京と付き合うって事は、そういうことなんだ。
「…」
…幼馴染が友達と幸せになる。
あたしにとってはそれは、すごく、すごく嬉しい事なのに。
なのに…なんだろう、この違和感は。
「…」
ドクン、ドクン、とそれを考えるたびに強く胸を打つ痛み。
あたしは、それをずっしりと全身で感じていた。


「アイスも買ってきてもらったし、後かたずけはあたしがやるよ、右京」
「え、でもあかねちゃん準備だってしてくれたやろ?悪いやん」
「何言ってんのよ、この後夕食だって作ってもらうんだから。だから少しはのんびりしててよ、右京」
昼食も食べ終わって、食後にさっき買ってきてもらったアイスクリームも食べ終わって。
あたしは、右京に対してそんな申し出をした。
男子バスケ部のほうは、やっぱりアイスを買いに行ったこともあって、今回は乱馬は後かたずけは免除。
当たり前といっちゃあ当たり前なんだけど、あかりさんが担当するみたいだ。
つまり、あたしはここで食後の後かたずけを右京の代わりに一人で引き受ければ、
乱馬と右京がまた楽しそうに話をしている姿とか、そういうのを見なくても、済むという訳だ。
たとえそれが一時的であっても、今のあたしにはそれで、充分だ。
「…」
もちろん、それをあたしが口に出す事は無いけれど、
「ああ、そんなら言葉に甘えさせてもらうわー。昼休みは、寝よ…練習の疲れがよう取れんかって」
右京は素直にあたしの申し出に応じてくれて、
「ほな、うちら先に部屋に戻ってるから」
と、シャンプーたちを連れて、一足先に寝泊りしている部屋へと戻っていってしまった。
「さー、それじゃああたし達もぼちぼちとかたずましょうか、あかりさん」
あたしは右京達を家庭科室から見送ると、
何だかモヤモヤしている胸の内…それをあかりさんに悟られないようにと、
いつも以上に元気なフリをして、勢いよく蛇口をひねり水を出した。
そして、がちゃがちゃ…とわざと音を立ててお皿を洗う。
そして、
「お手伝いなんてさ、あんまり家ではやらないんだよー…あたし。最近は、部活から帰ってくると疲れちゃって」
と、あかりさんに答えさせる間を与えないかのように、一歩的にあかりさんに話し掛けてはお皿を洗いつづける。
しかも、笑顔で、だ。
おかげで、
ガチャガチャっ…とお皿がぶつかり合う音と、必要以上に強い勢いで蛇口から流れ出る水の音が、家庭科室の中に響いている。
そうすることで、余計に気を紛らわせようとしているんだと、自分でも良くわかっていた。

「あかりさんは、家ではいつもお手伝いとかしてる?あ、でも確かあかりさんのおうちって、結構大きなお家よね?」
「あの…あかねさま?」
「お手伝いさんとかいるの?あ、執事って奴?メイドさんかな?すごいよなあ」
「あかねさま?」
「でも良牙君も幸せよねー、こんなに可愛くて気立てのよい彼女がそばにいるんだもんね」
「あかねさま」
「ああ、あたしもお姉ちゃんがもうすぐお嫁に行くから、いい加減家事だってするようにしておかないと!うちはもう一人お姉ちゃんがいるんだけど、そのお 姉ちゃんはそういう家庭的なタイプじゃ…」
「…あかねさま」
…ふと。
作ったような笑顔のまま一人で話続けるあたしのすぐ傍に、あかりさんはやって来た。
そして、家庭科室内に水温を轟かせている元である水道の蛇口を、きゅっと、ひねってしまった。
「あ…」
それまで、嫌というほど耳に飛び込んできていた水音が、ぴたり、と止まった。
あたしがはっとして、そんなあかりさんを見ると、
「…どうされたんですか?何だかいつものあかねさまでは無いみたいです」
あかりさんは、にっこりと優しい笑みを浮かべながら、あたしにそう言った。
「…あたしは…」
いつもと一緒だけど。そう口を挟もうとするも、
「…せっかく二人きりでいますし、少しお話しませんか?あかねさま」
「え?」
「部屋に戻ると、皆いますし…」
あかりさんはそんなあたしに笑顔のままそう言うと、家庭科室のドアをぴしゃり、と閉めに行った。
そして再びあたしの元へと戻ってくると、
「…私と良牙様は今は順調にお付き合いしていますが、付き合い始めるまではそうすんなり行かなかったのです」
と、突然自分の恋愛話を暴露し始めた。
「え…そうなの?」
あたしは、あかりさんがいきなり自分自身の恋愛話について話し始めた事も驚いたけれど、
二人が付き合い始めた経緯までは知らなかったので、そちらの方に思わず反応してしまった。
「これは後からわかったことなんですが…私も良牙様も、お互いの事を誤解していたみたいです」
「誤解?」
「はい。良牙様は、私が早乙女様のことを好きだと思っていたみたいです。私は…良牙様はあかねさまのことが好きなんだって、思っていました」
「ええ!?や、やだ、そんな事あるわけないじゃないっ」
あたしが慌てて否定すると、そんなあたしに対して、あかりさんは困ったように笑っていた。
そして、
「…お互いがそんな風に思っていれば、もちろん勇気を出して良牙様に話し掛けても、会話は食い違うばかりで…。
ちゃんと確認もできないから、余計にすれ違う…そんな感じでした」
「…」
「そんな中、良牙様が早乙女様に相談したみたいなんです。そしたら『よし、まかせとけ!』っておっしゃったらしくて。早乙女様が、私と良牙様を上手くお 話する機会を作ってくださったんです」
「はー」
「そしたら、お互い誤解していた事が分かって。それで…その後は早かった」
「へー…なかなか大変だったんだー…」
二人の付き合い始める経緯にも驚いたけれど、それよりもあの乱馬が二人のキューピッドだったとは。
あたしがそんな事を思っていると、
「あかねさま」
「なあに?あかりちゃん」
「…思っているだけでは気持ちって、絶対に伝わらないと思います」
「え?」
「本当はそうじゃないのに、勝手に推測ばっかりして、嫌な予感とかそういうのだけは膨らんで行く。そういうこと、多いと思うんです」
あかりさんはそういって、黙って話を聞いているあたしの瞳を真っ直ぐに見ると、
「…あかねさま、本当は分かっているんじゃないんですか?それを認めることがきっと、一番の解決策ではないかと思います」
「認める…?」
「あかねさま、どうして胸って痛くなるんでしょうね?」
「!」
「ふふ…」
あかりさんの言葉に思わずはっと息を飲んだあたしに、あかりさんは優しく微笑んだ。
そして、
「さ、かたずけも大体終わりましたし、そろそろ戻りましょうか」
驚いて思わずその場に立ち尽くしているあたしの代わりに素早く食器を洗うと、家庭科室から出て行ってしまった。
「…」
『どうして、胸って痛くなるんでしょうね?』
…一人家庭科室に残されたあたしは、あかりさんのその言葉に一人、胸をドキドキとさせていた。
何だか、心の内側まで見透かされたような気がした。
あたしが必死で笑顔を取り繕って話なんかしてても、あかりさんにはそんな胸の内、見透かされていたのか…そう思うと、何だか無性に恥かしくなった。
「…」
あたしは、あかりさんがいなくなった家庭科室内の椅子に腰掛け、思わずため息をつく。
…この、胸の痛みは似ている。
あたしが、いまより少しだけ前に感じていた「ある痛み」に似ている事くらい、あたしに気が付いている。
あたしはただそれを、「全く心当たりがない」と装っている。
それをあたしは、あかりさんに見透かされたんだ。
「…」
…でも、あたしはその「痛み」の原因にはっきりと気が付いてはいけない。
あたしは、自分自身にそう言い聞かせている。そんな自分にも、気が付いていた。


あたしは、知らない。
こんな胸の痛みの原因なんて、分からない。
胸が苦しくなる原因なんて、心当たりが無い。あるわけが無い。
だってあたしは、右京の恋を応援するって約束したんだもん。
それが、友達と幼馴染の幸せなんだって、それぐらい分かるもん。
だからあたしはっ…

「…あたしは、知らない」


何度も何度も、自分にそう言い聞かせながら、あたしはもう一度大きなため息をついた。

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