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二人2

人は心地よい暖かさに身を包まれると、自然に眠りにつくことができる生物のようだ。
それは、周りが静かであれば尚更である。

 


幸いなことに、辺りには魔物の気配やラヴィたちの気配も感じられなかった。
それもあってか、
あたりさわりのない会話を交わしていた二人であったが、衣服が乾くよりも早く、いつの間にか眠りについてしまっていた。
勿論、眠りにつく前は女性二人。
しかも、マントで身を包んではいるが一人は全裸。そして残りの一人も、女性らしからぬ「上半身裸・下半身下着」姿である。
最も、そのうちの一名は、姿かたちこそ女性だが本来は男性であり、本人もそのつもりでいるのだが。




そんな二人であったが、
「…ん…」
気づかないうちに眠りについてしまっていたあかねが、再び目を覚ましてみると、
「…!!」
何ということか。
眠りにつく前は女性の姿だった乱馬が、元通りの男の姿に戻っていたのだ。
しかもあかねは気づかなかったが、
眠りについている間に「無意識に」そうなったのか、それとも、防犯の意味を兼ねて意図的に乱馬がしたのかはわからないが、乱馬は、あかねを「守る」ように…腕でその体を覆うように眠っていた。



…女姿の乱馬と対面した後に彼は、『「精神的・肉体的疲れ」が生じると女性になり、回復すると元に戻る』と、あかねに自分のことを説明していた。
ということは、いつの間にか落居っていたこの仮眠で、乱馬は凡そ精神的にも肉体的にも回復した、ということだろうか。
疲れが取れたことはよいことだが、
一応は「女性」と一緒に居ると思い気を緩め仮眠したあかねにとっては、驚くべきことであった。
いや、それよりも…


「…」
今は寧ろ、
記憶をなくす前も、もちろんなくした後も。
呼吸をすぐそばで感じられるほど、乱馬と近づいて一緒に眠ったことなどなかったあかねは、そのことに酷く動揺していた。
しかも、二人ともほぼ全裸に近い恰好である。
先ほどまでも乱馬と二人きりでこの格好ではあったが、いくら同一人物ではあっても、見た目が男と女では、また心持が変わってくるものだ。


 


「…」
一瞬どうしてよいのかわからず戸惑ったあかねであったが、まずは乱馬を起こさぬよう、その腕の中からすり抜け起き上がった。
そして、辺りを見回す。


…二人の傍で焚かれていた火は、今もちゃんと燃え続けていた。
もしかしたらあかねが寝入ってしまった後も時々、乱馬が火が絶えないようにしていてくれたのかもしれない。
あかねはもっと早くに眠ってしまっていたようだが、乱馬は火をくべながら起きてはいて、それでも途中で疲れて眠ってしまったのかもしれない。
「…」
あかねは、乱馬を起こさないように動きながら、近くへ干していた衣服へと触れた。
服は、完全に乾いていた。
「…」
乱馬が起きる前に、着替えなくちゃ。
あかねは乾いた自分の服に手を伸ばそうとするも、
その前にふと、眠っている乱馬の方を振り返り、そして…服を着る前に再び彼の傍に腰を下ろしながら、その寝顔をじっと見つめた。


 

…思い、出した。
あかねは、唇から小さな吐息を漏らす。
そう。今のあかねには、数か月ぶりに蘇った記憶と、その間に生まれた記憶と、そして…失った記憶と共に封じ込められてた「思い」が、複雑に胸の中に疼いている状態であった。


船の上から落ちて流され、目を覚ましたらこの里にいた。
体力も消耗し、目もよく見えていたなかったあかねは、体を治す薬を投薬された。
そして…身体が治る代わりに、その副作用として今までの記憶を失ってしまったのだ。
それが再び蘇るということは、先ほどの「浄化の泉」の水を飲んだことで、体の中に蓄積されていた薬の作用が消えたのだろうか?
…それについて、あかねには一つ思い当たることがあった。
が、それは今はともかく。
今のあかねには、失っていた記憶も、そして失っていた間に生まれた記憶も。両方の記憶が混在する状態となったのだ。
「…」
あかねは、眠りについている乱馬の頬にそっと指で触れた。
その指に、ポツ、と涙の粒が一つ、また一つと落ちていく。


旅立つ前の占いで自分の身に起こることを知ってからは、
何としても許される時までは彼の力になりたくて、ぎりぎりまでそう願っていた。
でも、タイムリミットを悟り自ら身を引いて…そしてラヴィとの件に遭遇した。
…占いでも「その先は見えない」と言われていたし、自分でもそこまでの命だと思っていたから、
まさかその後にこうして生きながらえている時が来るなどと、考えてもいなかった。
だから…記憶が戻り、そして乱馬とまた会えた喜びと、戸惑い。
正直言うと、複雑、かつモヤモヤしたものが、あかねの中に生まれたことも事実だった。
でも、こうして乱馬の寝顔を見ていると、そういう複雑な思いは一蹴されて、今はただ、記憶と共に封じ込められていた熱い思いが胸の中にこみ上げ始めたのだ。


…伝えたい。
乱馬を揺り起こして、伝えたい。
自分はここだと。記憶が戻ったということを。
でも…


「…」
あかねは、涙をまた一粒落としながら、ギュッと唇を噛みしめる。


…あかねには、熱い思いと同時にもう一つだけ、胸にこみ上げたものがあった。
実は、記憶が戻ったのと同時に、「あること」をも一緒に思い出していたのだ。
その「あること」をもう一度自分の目で確認するまで。
そしてそれを解決するまでは…まだ、乱馬達に自分の記憶が戻っていることを気づかれてはいけない、と考えていた。
その方が、その「あること」を確認し解決するには都合がよく、そして犠牲も最小限…最悪自分のみで済むと思うのだ。


乱馬の元へ、早く戻りたい。
あの時…ヒルダの街で答えられなかった「返事」を、今更だけどしてあげたい。
あかねが消えてからずっと苦しんでいた彼を、早く楽にしてあげたい。
出来るなら、今すぐにでもその胸に飛び込んでしまいたい。
でも、
そんな彼を。彼と一緒に旅している仲間を。そして、あかねを優しく受け入れてくれて接してくれたこの里の人たちを。
大切な人たちを守るため、そして助けてくれた人たちへ恩を返すまでは、もう少し…このままでいなくてはいけない。
もしかして、そのことで今度は本当に命を落とすことがあるかもしれない。
今度こそ本当に、もう会えなくなるかもしれない可能性も、なくはない。


…せっかく、また出会えたのに。


「…」
あかねは、震える唇をギュッと噛みしめながら、「ごめんね、乱馬」と小さく呟いた。


ただ…頭では考えがまとまり、これから自分が何をするべきかはわかっている。
しかし本心は違う。
心の奥底では、今すぐにでも彼のもとに戻りたい。そう思っている自分がいる。

そんな思いが強すぎて…あかねは、唇を強く噛みしめて我慢しているというのに、どうしても抑えられた気持ちの代わりに、次から次へと涙があふれて止まらない。
「…」
早く、止めなくちゃ。
あかねは乱馬の頬から指を離し両手で涙を拭おうとするが、それでも追い付かない。
このままでは、乱馬を起こしてしまう。
あかねは慌てて乱馬に背を向けて、次から次へと溢れ出る涙を必死にぬぐうが、それでも止まらない。
それどころか、気持ちとは裏腹に涙は溢れ気を抜くと嗚咽まで漏らしてしまいそうだ。
自分の肩が、小刻みに震えているのも感じていた。
指だけでなく手の甲で涙をぬぐうも、とうとうそれでも追い付かない。


戻りたい。伝えたい。でも、まだだめだ。一緒にいたい。でもまだ…
今打ち明けなければ、今度こそ二度と会えなくなるかもしれない。でも、やらなければならない。
それはわかっているけど、でも本当は…一緒にいたい。一緒に、いたいのに…


「…」
頭では分かっているのに、割り切れない思い。
ここから先のことは、もうあかねの心持次第。
あかねは、乱馬に背を向けたまま何とか涙をこらえ嗚咽を漏らさぬよう、手で口を押え震えていた。


と、その時だった。


ふわり、とあかねの背後で何かが動く気配がした。
え?
それに驚いたあかねが、振り返ってそれを確認しようとしたその一瞬より早く。
そんなあかねの身体は、温かくて、そしてとても強い力で不意に包まれた。
一体何が起こったのかわからずパニックになったあかねであったが、マント一枚で包まれている自分の身体の胸元へ目をやると、自分のもとは違う太く逞しい腕。
首筋に感じる、自分のもの以外の吐息。そして、人肌の温かさ。
これは、乱馬の腕だ。
そう。
眠っていたはずの乱馬が、あかねの泣き声か、もしくは何かただならぬ雰囲気を感じ取り起きてしまったのか。
いずれにせよいつの間にか起きて、そして今、あかねの身体を抱きしめている。


…どうしよう。
こんな気持ちが不安定な時にこんなことされたら…


「…」
あかねは激しく動揺していた。
だが、この動揺を乱馬に悟られるわけにはいかない。
とりあえず、落ち着かなくちゃ…あかねは乱馬に悟られぬように一度深呼吸をした。
そして、
「…」
乱馬、とその名を呼びそうになったが、記憶が戻っていることを気づかれてはいかないと改めて思い直したあかねは、
「…王子」
と、彼の名を呼んだ。
「…」
乱馬は、最初はその問いかけに何も答えず、
抱きしめたあかねの首筋から頬の辺りへ、まるで頬ずりするかのように顔を動かしていたが、
その内、
「…なぜ、泣いているのですか?」
と、静かにあかねに語りかけた。
「…」
…勿論その理由など、口にはできない。だからこそ、こうして一人で泣いていたのだ。
伝えたいけど、伝えられない。
また一つそれができてしまったことに、あかねはひどく気を落とし、答える代わりにまた涙を一粒落とした。
すると、


「…きっと、大丈夫だから」
「…え?」
「何故泣いているかわからないし…無理に答えなくてもいい。でも、きっと…時が来たら全てが元に戻るから。貴女は大丈夫だから」
だから、泣くな。…乱馬はそう言って、あかねを抱いているその腕の力を更に強めた。


 


…乱馬は、あかねがなぜ泣いているのかは知らない。
そしてそれを、無理に聞こうともしない。勿論、気を使ってだろうが。
だから、一般論というか、泣いている人間を宥める優しい言葉をかけてくれたのかもしれない。
でも、事情を知らずにかけられたその言葉でも、今のあかねにとって非常に心強いものとなって胸に染み入った。

時が来たら、すべてが元に戻る。簡単だけど、大切な言葉だと思った。

その「時」が来たら、今までの生活や新しい未来を描けるように。
そのために、今あかねが何をしなければいけないのか。それを、忘れてはいけない。感情に流されていてはいけないのだ。
皆を守るために。里の皆えの恩を返すために。
そう、あかねがやるべきことを終えて戻った時に…すべてが元通りになり、そしてそれぞれが新しい未来を描くためにも。
だからそのためにも、気を強く持たなくてはいけない。そして…このまま命を落とすかもしれないなど、考えていてはいけない。
帰るのだ。帰るためには、何としても生きて生きて、生き延びるよう自分で努力しなくては。

乱馬の言葉は、混沌としていたあかねの胸の中に、一筋の光を射したかのようであった。
あかねの中で、渦巻いていたモヤが見る見るうちに、晴れたような気がした。


「…」


あかねは、乱馬の腕の中で小さく一度頷いた。そして、涙を拭って、「…もう、大丈夫です」と呟いた。
「…」
勿論、乱馬にしてみれば何が大丈夫なのかも、何故泣いていたのかも、何故震えていたのかも全く事情が分からない。
でも、あかねがその涙を止め、そして…何か吹っ切れたような笑顔でそう呟いたのならば、彼にとってはそれで十分だった。
「…良かった」
乱馬は、そう言ってゆっくりとあかねから離れた。
「ありがとう、王子…。私はもう、大丈夫」
あかねは乱馬の方を振り返り、今度ははっきりとした口調で、改めて乱馬に向かって礼を述べた。
勿論、全ての不安や迷いを拭えたといったら嘘になるが、いつかくるその「時」の為に前向きに、気持ちを持っていくことができたのには変わりない。
乱馬は、そんなあかねを見て優しく微笑む。
あかねはそんな乱馬の表情に目を奪われつつ、ふと、感じることがあった。


…乱馬は。
少し会わない間に、何だか大人になった気がする。
旅に出る前は、子供っぽくてどことなく頼りなくて、あげく皆から「バカ王子」とか言われたりもしていたのに。
いや、きっと今でも言われているのかもしれないけど、
でも一体いつの間に…こんな柔らかくて優しい表情で、人に接することが出来るようになったのか。
乱馬にとってはこの旅は、彼が王子としてだけではなく人として成長するためにも、重要な旅だったのだな。あかねは改めてそう感じていた。
やっぱり、乱馬がちゃんと旅を終えることが出来るように…自分ができることはしなくちゃいけない。
旅立つときは、乱馬のことを自分にふさわしい相手かどうか見極めたい、とあかねは言ったが、…今は、その逆のような気がする。
もしかしたら今は、乱馬にとって、本当に自分がふさわしいかどうか、見極められている時かもしれない。
ならば、乱馬にふさわしい相手になれるように…。


「…」
実際は、あかねがそんなことを気にするまでもなく、
あかねとヒルダで別れた時と同じように、彼の心は全く変わっていないのだが。いや、それよりも寧ろゆるぎないものとなっているのだが。それをあかねが知るのは、まだもう少し先になりそうだ。

あかねは、乱馬の柔らかい表情に一瞬ドキリと心を動かすも、それがばれないように平然を装い、自分も微笑みを返した。
乱馬は、そんなあかねの睫毛に一滴だけ残っていた大きな涙の粒を指でそっと拭うと、
「…では、私は後ろを向いていますので…先に服を」
不意にそういって、あかねに背を向けた。
…そう。
すっかり忘れていたが、あかねはまだ、マント一枚で身体を包んでたままでその下は全裸。乱馬とて、上半身に至っては何も身にまとってはいなかったのだ。
「あっ…そ、そうですね…」
今更ながらそれを思い出し顔を赤らめたあかねは、素早く衣服を身に着け乱馬に礼を言った。
乱馬も続いて衣服を身に着け、あかねからそれまで身を包んでいたマントを受け取ったのだが、
「…それにしても、火が完全に消えていなくてよかった」
そのマントを肩へと装着しながら、そんなことをぼそっと呟いていた。
「そうですね。そのおかげで身体が暖まりました」
乱馬が時々火をくべていてくれたおかげで、今、あかねは体も暖まり元気になった。
仮眠もできたし…あかねが、その呟きに笑顔でそう返すと、
「そうじゃなくて」乱馬は少し困ったような笑顔でそういうと、少し身をかがめ、あかねの耳元へ唇を寄せた。
そして、
「…火がなかったら多分、抱きしめるだけじゃ済まなかった」
「え?」
「身体が冷えないように、火を絶やさないようにしていたけど…その分周りも明るいし」
「…っ」
「男にも戻ってるし…これでも、相当我慢してます」
…さ、そろそろここを移動しましょう。
乱馬はあかねにそんなことを囁くと、先ほどの優しい表情を改め、キリと表情を引き締めた。
そして、松明へと火を取り、その代り絶やさず燃やしていた火を足で掻き消した。
「…」
あかねは、乱馬の言葉に顔を赤らめるも、いつまでもそう気持ちを浮つかせているわけにもいかない。
あかねも同じように表情を引き締めると、先に行く乱馬の背を追いながら、歩き出した。


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