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Hypocrite7

「…風?」


 


里の奥の深い森の中。とある泉に差し掛かった時のことであった。
時間にして、出発してからかれこれ1時間半ほどは過ぎただろうか。
警邏もそろそろ終盤を迎えるころに、それは起こった。
それまで小さな魔物を倒しながら前を歩いていた真之介が、ふとそう呟いて立ち止まったのだ。


「どうしたの?真之介」
「何やねん、急に…」
突然歩を止めた真之介を不思議に思い、あかねと右京も立ち止まる。
「いや、今なんか生ぬるい風が通り過ぎたような…感じなかったか?」
真之介はそう言って、自らの頬に触れていた。
どうやら、妙な感じのする「風」が、彼の頬に触れ流れたというのだ。
「私は別に…」
元々そういう感覚に疎いあかねであるので、たとえ光の魔法を身に着けていようが、そういう点は変わらない。
それとも、あかねが疎いだけで右京は実は何か感じた?
あかねは、傍にいる右京に意見を求めようと彼女の方を見た。
すると、
「うちも…」
右京はそう呟くも、何故かそれっきり口を閉じた。
そして…何故か額を抑え、うつむいてしまった。
見ると、右京の額にはみるみる汗の大玉が浮かび上がり、尋常じゃない量の汗が次々と地面に落ちていく。
目も、徐々にうつろになっている。
しかも、
「…嫌や…うちはそうまでして…違う、違う!でも…それはそうやけどっ…」
何かわけのわからない言葉を呟き、苦しそうに顔を歪め始めた。
明らかに、様子がおかしい。
「ねえ、どうしたの!?ねえ、真之介、彼女の様子がっ…!」
真之介が感じた妙な「風」。そして、急に様子がおかしくなり始めた右京。
ただならぬ状況に、さすがに危険を感じたあかねが、まずは右京の身を案じようと彼女に手を伸ばそうとした、ちょうどその時だった。


…ゴオオオ!!!


それは一瞬だった。
一瞬だったが。強風、いや突風があたり一帯を駆け抜けた。
おかげで、深い森の草木が辺り一帯に舞い上がり、瞬間で三人の視界を遮る。
「きゃあ!!」
突風に体を持って行かれまいと、まずは自分の身を守ろうとしたあかねであったが、細くて華奢な体ではそれもままならない。
「きゃ!!」
ゴスっ
…あかねは近くの大木にその体をたたきつけられ、短い間であったが、意識を飛ばした。
次に意識を取り戻した時は、先ほど舞い上がった草木も、そして突風も通り過ぎたあとではあったが、
「し、真之介!?右京…さん!?」
あかね同様、風で飛ばされてしまったのか。それとも、瞬時にどこかに退避したのか。
二人の姿は、あかねの傍にはなかった。
「…いたた…」
とりあえず、まずは自分の体制を立て直さなくては。
体を大木に打ち付けて全身に痛みは走ったが、骨が折れているとかそういう感じではないと感じたあかねは、
「…キュア!」
まずは自分の気持ちをできる限り落ち着かせて、光の魔法を使い自身の痛みを和らげた。
光の魔法で包まれた体は、まるで優しいヴェールを身に覆いかけるように穏やかに、あかねの体を走り抜ける。
「…」
…大丈夫。落ち着いて。すぐに二人は見つかるし、私の体もまだ動くわ。
体を元通りにした次は、早く二人と合流すること。
あかねはもう少し自分の気持ちを落ち着かせるべく、とりあえずすぐそばの泉で顔を洗おうと、泉まで歩み寄り、水面を覗き込んだ。


 


…が。


 


「…きゃ!!」


 


今その瞬間に水面に映った映像に、あかねは小さく悲鳴を上げた。
なぜならば、水面には覗き込んだ自分と、そして…いつの間にそこにいたのか。右京の姿が、一緒に映ったからだ。
「あ、お、驚いた!で、でもよかった…無事だったのですね!」
予想もしない登場に一瞬ゾクリとしたが、あかねは右京の無事を喜んだ。
そして、
「さあ、今度は真之介を探しに行きましょう」
顔を洗うのはやめ、まだ姿を現さない真之介の安否を気遣い、そう右京へ話しかけたが、
言葉の途中で…あかねは目を疑う行動を目にして言葉を失った。
…右京は、話しかけるあかねの首に、ゆっくりと…手をかけたのだ。
「う、右京さん…?」
一体、何が起こっているのだろう。状況を理解できないあかねは、早鐘のように鳴る胸を落ち着かせようと、震える声で右京に問う。
が、右京はそれに一切答えることなく、
「…どこ?」
…先ほどまでとは違い、完全に表情を無くし冷たい視線を投げかけながら、低い声であかねにそういった。
「ど、どこって何がですか…?」
右京の言葉の真意が、あかねには全く理解できなかった。
徐々に強くなる手の力に息を詰まらせながら、何とかあかねが右京にそう返すと、
「決まってるでしょ!カードのことや!!!」
グッ…!
あかねの首をつかむ力が、一気に強くなった。
「んんっ…!!」
女性とは思えぬその力に、あかねは更に息を詰まらせ咽こんだ。
が、このままではわけがわからない。
「ま、待って…!い、一体どうしたのですかっ…」
何とか右京から離れようと、もがきながらあかねは声を上げる。
…彼女は、王子たちの仲間ではなかったのか?
あまりの豹変ぶりにあかねが戸惑っていると、
「はよ言い!どこにあるん!?」
「し、知りません!私だって知らないの!」
「嘘ついても離さへん!」
右京は更に指の力を強めた。いよいよあかねは息をするのも苦しくなり、右京のその手を引きはがそうと滅茶苦茶に右京をたたく。
とそのうち、右京が首に巻いていたストールに指が入り、スルリとストールを地面へと落としてしまった。
「!」
その際に露わになった白く細い首を目にしたあかねは、はっと息をのむ。
右京の首には、何とも不気味な形、そう、花のような形の痣がくっきりと浮かび上がっていた。
しかもその痣、暗闇の中だというのに、妖しく光を放っている。
生まれつきにあるものとか、どこかにぶつけて出来た、とかそういうものとは明らかに違う。あかねはすぐに悟った。
「右京…さん…」
…そうか、これはきっと、魔物に闇の力を注ぎこまれてしまったのだな。
可哀そうに。あかねは一瞬だけ右京に同情するも、
真之介がいればすぐに右京を取り押さえてくれたかもしれないが、真之介がいない今、
魔物に操られている右京を、何とかしてあかねが取り押さえなくてはならない状況に苦慮していた。
あかねには、魔物に操られている右京を取り押さえる腕力などないのだ。
かといって、話し合いが通じる状況でも、ない。


 


「…」
…ならば、もう方法は一つしかない。


 


あかねは、わざと右京の前に身を委ね、自ら再び、右京に首を掴ませた。
「さあ、吐き!カードはどこや!?」
右京は、絶好の機会とばかりにあかねの首を今まで以上の力で締め付ける。
「んっ…」
…苦しい。あまりの力に、あかねの意識は朦朧としはじめた。
だがここで倒れてしまっては、自分も、そして右京もきっと助からない。
「…わかった、言うわ…」
本当は、カードのありかなど知らない。
だが、あかねはわざと右京に向かって小さな声でそう呟いた。
そのあかねの声があまりにも小さいので、右京がその声を聞き取ろうとあかねにぐっと顔を近づける。


その瞬間を、あかねは見逃さなかった。


「…ごめんなさい!」
右京が近づき、あかねの手が十分に右京の首へと届く範囲へと入った瞬間。
あかねは、そんな右京の首筋で妖しく光る痣に掌で強く触れた。
その瞬間、バシュッ…!!と辺り一帯に閃光が轟く。


「ぎゃああ!!」
「きゃああ!!」


…光と闇の相反した力が、そこでぶつかり合ってはじけ飛んだ。
闇の中で突如起こった小さな爆発は、右京の体と、そしてあかねの体を勢いよく吹っ飛ばした。
「うぐ!!」
右京の体は、すぐそばの大木へと勢いよく叩きつけられ、背中からぶつかった右京はどサリ、と木の根もとへと落ちた。
そしてあかねは…


「んんっ…!!!」
ザバン!
茂ではなく、運が悪いことに泉の中央へとふっとばされて泉に勢いよく沈んだ。
しかも運が悪いことに、
「あっ…」
ゴゴゴゴゴゴ…
表面は穏やかで、波ひとつ立っていないというのに、岸から離れた泉の中央では、まるで渦を巻くように激しい水の流れが蠢いていたのだ。
泉は、思ったより深かった。
そして、小さいと思っていたのに意外と大きくも感じる。
どうやら、岸からは森や茂みだと見えていた部分は、単に泉の表面に大量の草などが這っているだけだったようで、水面から下は根が伸びているだけでずっとずっと、奥の方へと続いていた。
あかねは、必死にもがいた。
が、残念なことにあかねがもがけばもがくほど、あかねの体は沈んでいく。
そして…激しい水の流れに巻かれ、岸からどんどんと離されていくような気がした。


「ガボガボガボ…」
息が思うようにできず、水もどんどん体の中に入っていく。
あかねは、その泉の水を大量に飲んでしまっていた。
すると、相変わらず体は沈んでいくことに変わりはないのだが、
水を飲んでいるというのに、何故か体が熱くなるような…不思議な感覚に見舞われた。
「ん…んん!!!!」
それでもあかねは、必死に水中をもがき、何とか上にあがろうと水面に向かって手を伸ばした。
が、悲しいかな…記憶を失おうが失うまいが、不器用なのとカナヅチなのは変わらない。
あかねの体は、月明かりの清かな水面からはどんどんほど遠く、そして岸からどんどん、離れた場所に体を持って行かれている気がした。
薄暗い、泉の底深く。あかねは、いよいよ意識朦朧としながらそこで漂い始めた。

水の中では、光の魔法など何の役にも立たない。
あかねは、静かに目を閉じる。
冷たい水の中にゆっくりと沈んでいく体の重みを、あかねは感じていた。
どうせ、呼んでもこんなところには誰も助けには来てくれない。
来てはくれないけど…命を落とす前に、最後に一度だけ呟いてみようか。
来てはくれない、助けの言葉を。

あかねは、朦朧とする意識の中、最後の力を振り絞って、目の前に広がる深い水の闇の中で、唇を動かした。
その言葉は…確かに助けの言葉ではあったのだが、
最後のワンフレーズは、あかねが意識しない、そう、無意識のうちに口を飛び出したものであった。
そしてそれは、あかねの中に大きな変化をもたらす鍵となる言葉でもあった。


 


 


 


「…助けて…助けて…乱、馬…」


 


 


…その、瞬間であった。
大量に呑み込んでいる水が、まるで電気でも走るかのように全身に一瞬で染み込んでいったかと思うと、
それまで朦朧としていたあかねの意識が急にはっきりとし、まるで頭の中の霧が晴れたかのようなクリアな映像がフラッシュバックを繰り返しはじめた。
そう、それはまるで飲み込んだ水が、あかねの中にあった「何か」をかき消すかのような、感覚だった。


船上で魔物に追われ逃げるあかね。手には、鞭を握りしめていた。
港かどこかで、荷物を持ち何か話しているあかねと…乱馬。
楽しそうに、仲間たちと食事をしている、あかね。
誰かの結婚式を見ていて花嫁のブーケに手を伸ばすあかね。
月明かりの下で、乱馬にブレスレットを渡されるあかね。



一瞬で、これまであかねが経験してきた出来事が、まるで何かの呪縛が説かれたかのようにあかねの脳裏によみがえった。
そして最後、


「…あ!!!」


…船の上で残虐非道な行いをする男・ラヴィ。
そのラヴィが、身にまとっていた厚ぼったい布の顔部分を外して、その素顔をはっきりとあかねに見せ対峙したあの瞬間。


それがあかねの脳裏に蘇った瞬間…突如あかねの意識はそこで途絶えてしまった。
どうやら記憶のフラッシュバックは、ある出来事がきっかけではあったが、完全に意識を失う前の最後のひと力だったのかもしれない。


意識を失ったあかねは、一旦深く暗い泉の底へと沈んだ。
そして、その後、強い泉の渦の流れに再び巻き込まれ、
あかねの体は流れる水の力に導かれるかのように、泉を更に深く、遠く…岸から遠い離れた場所へと流れていった。


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