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疑問

翌朝。
朝食の前に昨夜の仲間内の話し合いの内容を、乱馬はムースから話をする旨連絡を受け、部屋で待っていた。
本当は朝食後の方が時間的にもゆとりがあるし空腹でもないし気持ちにも余裕があるとは思うが、
朝食の後は、すぐに改めて神楽と話をすることになっているようなので、この時間にそれを聞くしかないようだ。
・・・現在の状況なんて、大体はパーティのブレーンが状況を把握していれば何とか乗り切れない事はない。
乱馬はそんな風に思っていた。
というよりも、自分の頭の中はまだ、カードの事やラヴィのこと、しいては世界の平和なんて大きな事を考えられるほど整理されているわけではなくて、
・・・あかねのことで目一杯。
それが、正直な乱馬の今の状態。
あかねに会いたくて、一緒に帰りたくて。その一心で何とか立ち直ってここまで来た。
でも、そうはままならない状況になっていて、あげくあかねは乱馬のことを忘れてしまっていた。
しかも、他の男に守られるように幸せに過ごしていて・・・
「・・・」
そう思うと、
例えその男との間に特別な関係がないと分かっていても、
「独占欲」「嫉妬」・・・
醜く黒い感情が理性を平然と超えて前面に出てきてしまう。
乱馬はそれと今戦っている状態だった。
勿論、そればかりではいけないことぐらい、自分でも良く分かっていた。
自分は一国の王子で、王位継承の為に伝説のカードを集める旅を、仲間たちとしているのだ。
その途中、少し事情が変わって、何やら自国だけではなく世界の平和を守る為に、同じくしてカードを集めている魔道士を倒さなくては成らなくなって。
古よりの禁断の魔法「クロノス」を復活させない為にも、戦っていかなくてはならなくなった。
でも・・・
・・・
この「でも」の部分が、乱馬の感情的な部分なんだと、分かっていてもどうにもならないこの現状に自分自身対応しきれずに戸惑う。
いつの間にか大きな運命の渦に巻き込まれていた乱馬であったが、
そういうのに巻き込まれるにも、根底にあるものは変えたくなかったし大事にしたかった。
それが・・・あかねだ。
当初は、軽い気持ちで、「結婚相手を見定める」という大まかな理由で一緒に旅についてくることになったあかね。
でも旅を続けているうちに、乱馬はその過酷な長旅が彼女の身体を傷つけて蝕んでしまっている事を知った。
大切が故に、守ってやりたかった。自分の背負っている宿命に愛する人を巻き込みたくなかった。
だから、酷い言葉でわざと傷つけて、国へ帰るように仕向けた。国で待っていて欲しいと。そう願った。
でも、運命というのは乱馬が思っている以上に残酷で複雑怪奇なものであった。
魔力も無く、武力もさほど無い。ただの美しい、街娘。そして乱馬の許婚。
そのあかねが、実は稀少な運命確率の悪戯により決められた、二大属性魔法のうちの一つ「光属性」魔法の使い手であるという事実が判明した。
本人すらも知らなかったその能力。もしかしたら乱馬と出会わなければ、その能力は開花される事なく次の転生時まで持ち越されていたかもしれない。
乱馬と出会い、カードに携わる旅に出る事で徐々にその能力が開花し、そして・・・それが原因で、ラヴィに狙われる事となった。
ラヴィが手に入れようとしている、「クロノス」魔法を発動できる「クロノスソード」。それを創生する為には、あかねのその力が必要不可欠だと判明して・・・。

・・・もしも、あのヒルダの港で手を放さなければ。
あかねは、今もずっと自分の隣に居たのだろうか?
全ての事情を知った上で、ラヴィの魔手から守るためにも乱馬の傍にいたのだろうか。
たとえ視力を失っても、過酷な運命に巻き込まれても、
支えあいながらずっと、一緒にいられたのか・・・

少なくとも、他の男の腕に守られる彼女を見ながらどうにも出来ない、というこの状況よりはマシだったのか・・・?

「・・・」

いつぞやのコロンの占いで言われた、『満月の夜の決断には気をつけろ』という言葉。
あかねにセルラへ帰ると決断させた夜は、そういえば満月だった。
やはりあの時の決断は間違いだったのか・・・
『さもなくば、かけがえのないものを失う羽目になる』
それがあかねで、それが今の状態というのならば、
自分はもう二度とあかねを取り戻す事はできないのか・・・

「・・・」

・・・そんなの、嫌だよ。

乱馬は小さな声で思わずそう呟く。
そんな事を考えてたら、どんどんと黒く深い溝に落ち込んでしまいそうだった。
乱馬は慌てて首を振り、鬱そうとした気を振り払う。
そして、
昨夜あかねと改めて話して、ゆっくりではあるけれどあかねを再び取り戻す事ができるのではないかと、感じる「何か」もあった。
とりあえず今は、時間をかけてあかねに近づいて、その心にも触れていくしかない。
あの夜の決断は間違いではなかった。
だからこそ、あかねは絶対にまた自分の元に戻る。あかねは・・・俺のあかねだ。
もう自分の心は、いつでも、どこでも、どんな時もあかねのものだと約束した。だからそうした以上は、その思いに迷いなど持たず、彼女も同じ思いをいずれ抱き、思い出す事を信じよう。
・・・
乱馬は自分に何度もそう言い聞かし、ぎゅっと、唇をかんだ。

と、

「入るぞ」

そんなことを考えている内に、軽いノック音と共に扉が開き、ムースが入ってきた。
乱馬は慌てて平静を装い彼を向かいいれるが、
「・・・王子よ、昨日、あれから何かあったようじゃな」
「え?な、何がだよ」
「今日はおぬし、悩んではいそうじゃがそれでも前向きな表情をしておる。昨夜の食事会のときとは別人のようじゃ」
「・・・」
「その様子だと・・・あかねと話をしたんじゃろ。内容はどうであれ、それがおぬしにとってプラスになるのなら、おら達はそれでよいのじゃ」
ムースは部屋にやってくるなり、突然そう言った。
どうやらムースには、乱馬のそのような考えなどお見通しのようだ。
「・・・」
乱馬はそれに対して特に返事はしなかったが、小さくため息をつくと彼にイス席を勧めて自分はベッドに腰掛けた。
・・・ムースは、ド近眼であることを除けば知識も実戦経験も豊富だし、とても頼りになる存在だ。
王子でありこの旅の一行のリーダーでもある乱馬よりも、全然リーダーっぽい存在ではある。
そんなムースには、きっと隠し事をしても見破られてしまいそうだ。
若干居心地の悪い思いをしながらも、乱馬は一度大きく深呼吸をしてから、改めてムースと向き合った。
そして、
「・・・で?昨日皆が話したことを教えてくれ」
「とりあえずじゃが、今日、神楽の話を聞いた時点でおばばに連絡をとることにした。情報は多いほうがよいじゃろうし」
「そうか」
「そして・・・この里の大まかな見取り図を、シャンプーが作成した。それは今夜にでも皆に作るつもりじゃ」
「分かった」
「あとは・・・あかねの事で今までは少し触れずに居た、残り一枚のカードの事なのじゃが」
ムースはそこまで言うと、一旦一呼吸置いた。そして、
「二十二枚のカードの内、おら達の手にもラヴィの手にも渡っていないカードは一枚だけ。お互い今の段階でそのカードは手にしていない」
「そうだな」
「今の段階で全く手がかりは無いわけじゃが・・・その最後一枚のことも、おら達はそろそろ考えねばならぬ」
「そうだな」
「じゃが、ウィスタリア大陸に来るまで、残りの大半をラヴィが取得したことは聞いてはいたが、残りの一枚のありかは分からなかった」
「ああ」
「でも、不思議な力を持つカードの事じゃ。なんらかの形でおらたちにかかわりのある場所にあるに違いないと、考えられなくは無い。そこで、じゃ・・・」
ムースはそこまで呟くと、一息置いた。そして再び続けた。
「今までの状況から察して、おらはもしや最後の一枚はこの里に隠されているのではないかと、考えた」
「なっ・・・!?」
「勿論、確証はない。じゃが・・・王子よ。ラヴィは残虐非道な手を使い、世界中にちりばめられたカードを、短期間でたった一人で集めたような男じゃ。その男が、残り一枚のカードを見つけられていないはずが無い、とは思わぬか?」
「!」
「寧ろ、途中からあかねの事で一月ほどカードの収集に専念することから離れていたおら達よりも、とっくにその残り一枚を探し出し奪いに行くことに専念できたはずだと、考えられる」
「た、確かにそうだな・・・てことは、見つけられないのではなく・・・?」
「そう、ラヴィは既に、残り一枚のカードのありかは突き止めている。じゃが、見つけてはいるが、手が出せない場所にある、のではないかと、考えられる」
「・・・」
「そうなると、カードがある場所は限られてくる」
ムースはそう言って、乱馬を見つめた。
乱馬はムースの言葉を聞きながら、ぶるりと軽く身震いをした。
・・・このカードは、持ち主を選ぶという。それは、再三乱馬も聞いていたし、そして実際にそれを感じる事もあった。
弱き心では、カードの魔力に魅了されて精神を蝕まれてしまう。
カードは、どういうわけか人間の弱い部分に滑り込むかのように存在し、そして人を支配した。
カードを差し込むスロットのある剣を持つ乱馬。そして伝説の勇者の子孫であるが故に、
そして強い精神力を持つが故に、カードに精神を蝕まれる事も無く済む乱馬であるが、
T&Tアイランドで出会った領主兄妹も、ヒルダに向かう山村の経営を圧迫していた商人も。人の心の弱さに漬け込まれて、カードにその精神を支配されていた。
また、カードに精神を支配されはしなかったが、運命を悪戯に操られ命を落としたミコト。
彼女の場合は、父親が研究していた「クロノス」の魔法のせいではあるが、
どちらにせよカードにまつわる事柄で命を絶たれた。そして所持していたカードが意味する「恋愛」にまつわる占いを得意としていたっけ。
・・・
それらを考えてみても、
カードを集める乱馬達、勇者の剣を所持する伝説の勇者の子孫、光属性魔法の使い手のあかね・・・乱馬達にまつわる多くのことが一度に、今この里に集まっていた。
そしてラヴィもひそかにあかねと、そして乱馬の持つ残りのカードを狙っているというのなら、
確かに、この里が妖しいと、考えられなくはない・・・。
「・・・」
乱馬がゴクリ、と大きく喉を鳴らすと、
「強大な魔導師であっても、闇属性がゆえに足を踏み入れるのに耐え難い場所。それは、清らかな空気に満ち溢れている場所。おらは、ジェノバの街でこの里の事を調べるついでに、この世界に似た場所が無いかも調べたんじゃ。じゃが、該当する場所は無かった。つまり・・・」
「つまり・・・カードはこの里の、どこかにある可能性が高いってことか!」
乱馬が興奮気味にそう叫び声をあげると、
「しッ・・・声が大きいぞ、王子」
ムースがそんな乱馬を慌てて制した。
「・・・ラヴィ自体は、もしかしたら近くまでは来れるのかも知れないが、この里の空気に触れる事すら難しいかもしぬ。じゃが・・・ラヴィの手下ならば、自らの悪しき気を隠し、この里に紛れ込む事は可能かも知れぬ」
「!じゃあ・・・この里にラヴィの手下が入り込んで・・・?」
「・・・良くは分からんがな。ただ、今この里には、カードの約半分を持つおぬしと、ラヴィが最終的に手に入れるのを目的とする「クロノス」魔法の構成要素である、光属性の魔法の使い手もおるのじゃぞ?」
「・・・」
「姿こそあらわさぬが、この状況を見すごしているわけが無いと、考えてもおかしくは無いじゃろう。きっと、何かの機会を狙ってるんじゃ。自らが送り込んだ手下が、我らよりも先にカードを探し出す事を。そして・・・」
それに乗じてあかねのことも、また手に入れようと企んでいるに違いない。ムースは押し殺すような声でそう呟いた。
「・・・」
狡猾かつ、執拗な手口だ。
恐ろしい男・・・乱馬が黙り込んでいると、
「・・・とにかく、もしもこの里にカードがあるならば、おら達はラヴィやラビの手下よりも先に、この里のどこかにあると思われるカードを探すんじゃ」
「で、でもどうやって・・・」
「とりあえず里長である神楽に、この辺りの事情も話すのが先決じゃな。神楽とて、ラヴィに率先してカードを渡そうとは思わんじゃろ」
「・・・」
「それにおら達には、おぬしがおる。おぬしの持っているカードが、きっと最後の一枚に反応するはずじゃ」
おら達には、ある意味有利なのかもしれん。それに期待をしよう・・・ムースはそう言って、大きなため息をついた。
そして、
「・・・ああ、そうそう。そういうわけじゃから、おぬしからあかねにも、後でカードのあり場所について心当たりが無いか聞いてはくれないか?」
「え?お、俺が?」
「そうじゃ。あかねはいまや、この里の宝。もしかしたらその関係で何か、特別な情報を持っているかも知れぬ。まあ嫌ならばおらが・・・」
「き、聞くよ!俺が聞く」
「そうか、では頼んだぞ」
・・・別に、こんなことを乱馬にわざわざ頼まなくとも、神楽と話す場にあかねも呼び、そこで一辺に聞いてしまえば良いことだった。
だがあえてそうしなかったのは・・・何とかして話をするきっかけを作ってやりたい。仲間からの小さな心遣いだった。
ムースはその直後部屋を出て行ったが、乱馬はそんなムースと、そして仲間達の優しさを感じたのだった。

---朝食後。

教会内部の謁見の間にには、細長のテーブルを挟み、乱馬達一向と、神楽・そして真之介が座していた。
あかねは、タクトと共に町外れの例のあかねの屋敷の教会にいる為に不在だった。
毎日午前中恒例となっている「治癒の儀式」の時間帯のため、あかねも、そしてタクトもここへ呼ばれても参加できない為である。

ただタクトに関しては、
本来ならば治療はあかねだけでよく、街へ連れ帰るだけのタクトは治療中は手が空くために実際は乱馬達の話を聞クコと自体は可能と思われたが、

「・・・何かアイツ、妖しいねんなあ」
「乱馬に対してだとやけに、敵対心丸出しだしな。他の奴らにも愛想は悪いけど・・・」

・・・既にこの里の中にラヴィの手下が忍び込んでいるのではないか、と昨日話をした時に、
勿論、全くこの里にゆかりのないものを送り込んでいる可能性もあるが、
逆にそれなりの魔力や腕を持ち、そして里の中でも行動しても怪しまれない人物を丸め込んでいる可能性もある・・・と、皆は話していたのだ。
それを考えた時に、「もしやタクトなのではないか」と、そんな言葉が誰の口からでもなく飛び出した。
勿論その確証はないが、今この里の中にいるものの中で、一番可能性があるのが・・・彼。
里長の孫という有利的な立場、乱馬達に対する態度、魔法剣士として腕も立つ部分、
それに加え、この里と、その外の世界への行き来が出来る能力。
いくつもの事実が、更に彼への疑念を拍車をかけていた。
ただ、兄である真之介とあかねが結ばれる事を祈っている優しさがある事を考えると、全く「黒」とも言いがたいのだが、
限りなく黒に近いグレー、という部分を考慮し、今回、彼にはこの場から席をはずしてもらったのだ。
先ほどムースと話をした時に、ムースはあえて「ラヴィの手下はタクトかもしれない」とは公言しなかったが、
今この場所に彼が居ないことから、乱馬はその事を悟っていた。
そう、彼に関しては、故意にこの場へ呼ぶことを避けたのである。

・・・

「・・・では、皆さんの話を聞きましょうかな」
と。
全員が席に着いたのを見計らって、神楽がそう切り出した。
乱馬達は一瞬お互いの顔を見合わせ、声に出さず頷きあうと、
「実は我々は・・・」
・・・まずは、これまでの旅の経緯を神楽と、そして真之介に話した。
彼らには、まだ、乱馬達が「あかねを探していた」「自分達はセルラ大陸から旅に出た」という事しか話をしていない。
故に、何故乱馬達があかねを探していたのか。何故、あかねは一人になったのか。そして・・・何故あかねは勿論、乱馬達がラヴィと戦うのか。
神楽にいたっては、何となく乱馬達のことは占いで見ていたせいもあり理解していたが、真之介にいたっては皆無。
乱馬達は、それを順を追って、ゆっくりと説明していった。
「・・・」
その話に対し、真之介はあかねに深く係るところでは表情を険しくしていたが、その他の魔法やカード、そしてクロノスソード創生に関してはピンと来ないようで、分かったような分からないような、顔をしていた。
元々物忘れがひどいせいもあって、複雑な話は特に、記憶に訴えかけるものが無いのかもしれない。
こちらとしては都合が良いような悪いような・・・何だか複雑な限りである。
その一方で神楽は、一通り乱馬達の話を聞いた後、大きく一度ため息をついていた。
そして、
「・・・予想はしていたが、詳しい事は理解した。わしは、あかねのことでおぬしらがここにたどり着いた、くらいの認識でおったのじゃが、運命というのはもっと大きな輪を回しておったのじゃな・・・。ただ、おぬしらが探しているカードが本当にこの里にあるかどうかは我らにも分からぬが」
「・・・里長でもカードの事は聞いた事がないのか?」
「ない。ただ、恐るべき力を持つカードのことじゃ、もしかしたら古の里長が、強力な力を使ってどこかに封印をしているのかもしれぬ。後世のものには、出来れば知らせたくなかったのかも知れぬな・・・そのような危険なカードであるならば。だから、ワシらにも誰にもカードの封印の事は伝えずにおったのかもしれぬ」
そう言って、険しい表情を見せた。
「じゃが・・・古より伝わる禁断の魔法・クロノス。そしてクロノスを発動できるクロノスソード。それを作る為の要素となる危険なカードを、みすみす危険な人物に渡すわけにはいかない。それに、時を司どる禁断の魔法など、この世に存在そうやすやすとさせるわけにはいかぬからな。我々も、お前さんがたに協力することとしよう」
「助かる」
「この世に生を受け、平和を望む民としては当然の選択じゃ」
神楽はそう言って、「なあ、真之介」と真之介にも声をかける。真之介も黙って頷いていた。
乱馬達の話が、彼らにきちんと伝わった・・・のだろう。タクトのように反発してこないでよかった。
皆もほっとそれには胸を撫で下ろした。
が、安心しているのもつかの間、
「・・・それにしても、今までの話を聞いていて一つ、分からないことがある」
不意に神楽がボソッと呟いた。
「分からないこと?」
乱馬が神楽に問い返すと、
「・・・わしも、今ではほれ、こうして癒しの里で治癒を施すただのジジイじゃが、昔はそれなりに名も馳せた魔道士じゃった。それが、ここに来る前、若いころわしはレイディア大陸におってな…レイディア大陸の神楽、ウィスタリア大陸のターム、そしてセルラ大陸のコロン。百年近く前は、世界でも指折り数えられた魔法の使い手じゃった」
「あいやあ!コロンは、私の曾ばあちゃんある!」
ウィスタリア大陸のタームという魔道士のことは初耳だったが、
今は特に触れる事もないだろうと思ったのと、それよりも思いもよらずコロンの名前を聞いたシャンプーが、思わず驚きの声を上げると、
「ほほう、おぬしはあのコロンの曾孫娘か。言われてみると、コロンの若い頃にそっくりじゃ」
「・・・ということは、私も年をとるとああなるあるか」
「顔だけじゃなく、雰囲気もそっくりじゃぞ。あれは若い頃、いい女じゃった。おぬしにも負けんほどな」
神楽は若干不服そうなシャンプーにからからと笑ってそういうと、再び表情を改めて、乱馬達を見た。
そして、
「クロノスの発動条件や、クロノスソードの創生方法の話は理解できる。ラヴィ自身もクロノスは発動できないが故に、代用品としてクロノスソードを、創生しようとしているのじゃろ?」
「そうだ。クロノス、という二十三枚目のカードを、二十二枚のカードを使って作ろうとしているんだ」
「おぬしの持っている剣に、そのカードを差し込む。そして光属性と闇属性の魔法を注ぎ込めば、クロノスソードが完成する」
「そうだけど・・・」
「光属性の魔法を注ぎ込むのは、分かる。言い方は悪いが、あかねを捕まえて力の限りその光を剣に注がせる。もしかしたら、魔力自体を失うほどの力を吸い取られてしまうかもしれない。下手すれば、命とて落としかねないじゃろう」
「・・・」
「だが、闇属性の魔法も同じ事をして良いのか?」
「え?」
「もしも魔力を注ぎ込んで、自らが命を落としかねたり魔力をそがれて、ラヴィはクロノスソードを使いこなせるのか?ということじゃ。それに、たとえカードを介してクロノスを使ったとしても、発動者には相当の負担がかかる。魔力をそがれたような状態で、たとえラビとて普通に使えるとは思えん。いくら魔術に長けているとはいえ、元は人間じゃ」
といって、首をかしげた。
「・・・そういわれればそうじゃな」
「そうあるな・・・そこまで考えた事は無かったあるが・・・」
そんな神楽の言葉に、それまで黙って話を聞いていたムースと、そしてシャンプーも考え込む。
・・・確かに、神楽の言う事は一理あった。
稀少な出世時の運命確率により左右される、古からの禁断の魔法・クロノス。だが、生まれ持ってクロノスを身につけていなくても、「カード」の力と「光」「闇」属性の魔法の使い手さえ要れば、クロノスを発動できる「クロノスソード」を作る事ができることが、とある研究者・・・死したミコトの父親であるが、その手による明らかにされた。
ラヴィは、その研究ノートを奪い、その事実を知った。
故に、偶然にも「闇」属性の魔法を使う事ができたラヴィは、「光」属性の魔法の使い手であったあかねを探し、手に入れようと願っている。
乱馬が集めているカードを、自らも集め始めた。そして乱馬からも何れ、そのカードを奪おうと考えている。
二十二枚のカードを全て手にすれば、願いが叶えられるというそのカードたちの力を使い、「クロノス」という新しいカードを作ろうとしている。
カードが出来た後は、剣のスロットにカードを差して、光と闇の魔法を剣に注ぎ込めば・・・
「・・・」
乱馬も、そして皆も、ラヴィがこれから行おうとしている事を今一度整理すべく頭の中でシュミレーションをしてみたが、
「・・・あれ?そういえば・・・そうだな」
「そうじゃろう?」
「このままじゃ、剣が出来ると同時にラヴィも共倒れ・・・?」
・・・そう、今シュミレーションしたままの考えでいると、
最強の魔剣は完成するかもしれないが、
それを満足にラヴィが使いこなせるようにはなるかどうかは、若干疑問な所だ。
最強の魔剣・クロノスソード。それを作る為には、生半可な魔力を注ぎ込むだけではすまないはずだ。
二十三枚目の特別なカード、稀少な運命確率により発動を許可される使い手が注ぎ込む、属性魔法・・・最高レベルのものがマックスの状態で合わさり、きっと最終形態になるはずなのだ。
残虐非道で、躊躇無くヒトを殺める男・・・ラビイ。今回の事も、色々と綿密に計画をしているに違いない。
だとするならば、
「・・・もしかしてラヴィは、自らの力を削ることなく剣を作り上げる切り札を、持っているのかもしれんな」
ムースが、ボソリとそう呟いた。それに対し、神楽も頷いている。
「例えば、光と闇の魔法を剣に注ぐ際に、光の魔法はともかくとして、闇の、自らの魔法をそがなくても剣に注ぎ込む事ができるフィルタのようなモノを持っているか・・・」
「フィルター・・・?」
「実態はよくわからんが、そのようなものを持っていてもおかしくない男なのじゃろ?どちらにせよ、注意が必要じゃな」
神楽は神妙な表情でそう呟くと、
「この里の者の自宅以外は、どの建物にも自由に立ち入る許可を与えよう。我らも、カードの事が分かり次第情報を」
「ありがたい」
「そのほかのことは、その時にまた。わしはちょっと、日課の散歩にでも出ながら色々とかんがえてみることにしよう」
最後に話をそうまとめて、席をたった。どうやら神楽は朝食後に散歩に出る事を日課としているらしい。
乱馬達はゆっくりと部屋を出て行った神楽の後ろ姿に頭を下げると、お互いの顔を見合った。
そして、
「・・・それじゃ、今日は里の中の調査って感じだなあ」
「そうあるな」
「まずはこの教会の回りから調べてみいへん?」
「そうじゃな」
と、早速里のどこかにあるかもしれないカードを探すべく話し合いを始めたが、
「おい、どこに行くんだ?」
「俺は、あかねの所へ行く。あかねは病み上がりだし、無理をさせるわけには行かない」
乱馬は、皆が話している横をすりぬけて部屋を出て行こうとした真之介に、慌てて声をかけた。
すると真之介は、何の躊躇も無くそういうと、さっさと一人部屋を出て行ってしまう。
彼にしてみれば、あかねの元に戻る事を乱馬に断る必要は無いと思っているのだろう。
勿論彼が、本当はあかねの婚約者である事は先ほどの話を聞いていたのだから知っているはずなのだが、
その部分に関しては、持ち前の物忘れのひどさゆえに忘れてしまったのか・・・乱馬にしてみれば、そこは何をおいても覚えておいて貰いたい所だが、やはり世の中はそんなに上手く行かない。
「あ、おい待てよ!」
乱馬は真之介の背中に向かってそう叫ぶと、
「先に、里の調査していてくれ!俺、ちょっと行ってくる!」
自分もその真之介の後を追って、部屋を出て行ってしまった。
「ったく、仕方ねえ野郎だな」
「・・・まあ里の中は狭いあるし、あとで合流すれば良いある」
「元気になっただけましじゃ」
そんな乱馬に対して、良牙もシャンプーもムースも割りと寛大な態度で接するが、
「うち・・・乱ちゃんの所いってくる。後でみんなとも合流するから!」
たった一人右京だけは、出て行った乱馬の後を追って、自分も部屋を出た。
「ったく、右京の野郎もなんだかなあ。アイツも最近、何か様子がおかしいみたいだけど」
乱馬だけでなく右京も出て行ったことに対し、良牙が思わずそうぼやいていると、
「ヤキモチあるか?」
「ばっ・・・誰が!俺はあかねさんのような女性が好みであって、あいつは全くその範疇じゃねえ!」
「へー、そうあるか。でも、右京の様子がおかしい事は気付かなかったあるな。後でそれとなく探ってみるある」
「喧嘩はするでないぞ」
「余計なお世話あるっ」
シャンプーはそう言って、ムースに舌を出して見せた。
ムースはやれやれ、と困ったような笑顔を浮かべつつ、
「さ、おら達は一足早くカード探しに出かけるとしようか。こういうのは早い方がいいじゃろうし」
がたん、とイスから立ち上がると、良牙・シャンプーと共に部屋から出た。そして里の中にあると思われるカードのありかを調査し始めた。


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