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ジレンマ

「それにしても、じいちゃんの客人が、セルラ大陸の王子だったとは・・・意外だな」
「意外とはなんじゃ、真之介」
「王族とは無関係そうな生活しているのにってことだ」
「人は見かけによらぬと言う事じゃよ」
「ふーん」
・・・


その日の夜。
乱馬達が癒しの里に訪れた事を歓迎する意味も込めて、里の中央にある教会の中の広間では、食事会が催された。
出席したメンバーは、乱馬達一行は勿論の事、里長である神楽、タクト、真之介。それに・・・
「私まで呼ばれてしまって良かったのかしら・・・」
「あかねが気にする事などない。じいちゃんもタクトも、あかねが一緒にいてくれる事には大歓迎なんだ」
「良かった。真之介がそう言ってくれるなら安心ね」
・・・
癒しの里の「宝」として、特別な存在でこの里にいる「あかね」。
だが、乱馬達のそばには寄らずにずっと、真之介の隣にいる彼女。
そんな彼女に対して、乱馬は言葉をかけることも感情をぶつける事もできずただ、複雑な思いを抱き続けていたのだった。
そう、それは今から数時間前のことが発端となる。


「!」
・・・里外れの建物の中に強引に押し入った乱馬は、そこで再び捜し求めていた愛しい姿に再会した。
だが、
「貴方、誰・・・?」
乱馬と対面したあかねは、笑顔を見せるどころか表情を強張らせてそう、乱馬に呟いた。
・・・顔も、声も、そして狂ってしまいそうになるような愛しい香りも。
目の前にいるのは、捜し求めていたあかね、そのものだった。
二か月以上も前、ヒルダの港で別れたあかね。怖いと涙をこぼして、そして・・・。
・・・
だがその唇は今、乱馬の前で別の男の名前を呼び求めている。
そう。
目の前にいるあかねは、「あかね」と呼ばれているにも拘らず・・・乱馬の記憶を失った「別人」となっていたのだった。
乱馬にしてみれば「別人」という表現が一番しっくりと来るのかもしれない。
今乱馬の目の前にいるあかねは、乱馬を含めここに来る以前の事を全ての記憶を、失っていた。
共に旅した記憶も、出会ったあの頃の事も、そして・・・


・・・心を捧げると約束したあの瞬間の事も。


「・・・」
あかねが記憶を失くすことになったのは、彼女の命を助ける為に飲んだ薬が原因だとは事前に知らされていた。
だが、実際にあってみるまでは本当にそんなことが起こっているのかどうかも信じられなかった。
もしかしたら乱馬の顔を見た瞬間に思い出す事があるかもしれない。そんな淡い期待さえも抱いていた。
だが・・・物事はそう都合よく行かないのが現実なのである。
それに加え、
「・・・」
・・・何だよ、真之介って。何でそんなにソイツの名前を!
そう思った瞬間、あかねが記憶を失っている事に加え、逆上して目の前が真っ白になった。
俺の、あかねなのに。俺のあかねなのになんで、他の奴を・・・!
明らかに醜いと、自分でも分かる感情。
塞ぎこんでいた思いとショックで、感情が一気に溢れ出しそうな感覚になった。
思わずあかねの身体を強引に引き寄せる為に手を伸ばしそうになる自分を、慌てて制御する。
「・・・」
あかねと、目が合う。だが自分の瞳に対峙するあかねの瞳は、明らかに怯えていた。
どう見積もっても、二か月前のあかねとは別人であった。


「・・・」


・・・違うんだよ。
俺、変な奴とか、怪しい奴でも危険な奴でもねえんだよ。
俺、お前の・・・許婚なんだよ。
俺・・・俺は、お前に会いたくて、謝りたくて、そして二度ともう離したくなくて、その一心でここまで来たんだ。
お前だって、どこにいても心は俺のものだって言ったじゃねえか。
だからお前は、俺の・・・俺のあかねなんだよ。
なのに、こんなの・・・嫌だよ。
頼むよ。頼むから俺の前で、俺以外の男の名前を呼ばないでくれ。
全ての記憶が急に戻らなくても良いよ、でもその代わり、お前が俺のあかねだってことだけは思い出してくれよ。


「・・・」


あかね・・・


声にならない声が、乱馬の表情から流れ出るかのようだった。
・・・せめて、声も容姿も何もかもが全くの「別人」ならば良かったのに。
目の前にいるこの「あかね」が、乱馬の捜し求めている「あかね」でない全くの別人だったならば良かったのに。
「・・・」
俺の事が分からないのに、でもあかね、だなんて・・・
乱馬はそっと目を伏せ、拳を黙って握り締めた。
そんな乱馬に対し、あかねが何かを問いかけようとしたその直後。
「あかね!」
「真之介・・・」
「大丈夫か!?何かされてないか!?怪我は!?」
「へ、平気・・・」
「良かった・・・」
乱馬と対峙していた彼女へと真之介が駆け寄り、そんな声をかける。
「少し下がっていて」
「でも・・・」
「大丈夫、俺に任せて」
そして、あかねは真之介の背中にかばわれ、乱馬からは遠ざけられた。
勿論その後は、
乱馬は改めて真之介に自己紹介をし、彼の警戒心を解いた。
あかねにもうわべだけの挨拶をし、驚かせてしまった事を一応は詫びた。
双方、「形式上」は誤解も解け、
それもあり、こうして夜に食事会を開く事になったのだが、
・・・どうして自分達がこの里に来たのか。そしてあかねとはどんな関係なのか。
それは、混乱を招く恐れがあるという事も考慮し、シャンプーやムース達にも時を待つように説得をされ、この食事会を催している最中も未だ、黙ったままであった。
だが、
「真之介、服が汚れているわ」
「あ・・・ホントだ。気付かなかった」
「慌てて食べなくても、料理は逃げないわ」
・・・複雑な思いを抱き葛藤している乱馬の前では、真之介があかねとそんな会話を交わして楽しそうに笑っている。
「・・・」
・・・あかねとあの日、別れる前までの旅では。今真之介が微笑んでいるあの場所に乱馬がいた。
何気ない事でも楽しくて、そして傍にいる事が当たり前だった。
それが、
「・・・」
何で自分は今、こんな光景を客観的に見なくてはいけないのか。
「・・・」
・・・全てはあの日。あの時にあかねの手を離してしまったから。そこからこんな事に・・・
記憶を失ったのは、あかねのせいではない。
命が助かった事だけでも幸せな事だ。そう思って、少しでも自分の胸に疼くものを軽減しようと乱馬は試みるが、
それを平然としてやってのけるほど、乱馬はまだ大人ではないのだ。
それに加え、
「あの人は多分このままいけば、兄さんと結婚するだろ。・・・それが彼女の為にも良いに決まってるんだ」
「タクト・・・」
「余計な事をして、彼女や兄さんの気持ちを掻き乱さないでくれ。そんな事をすれば俺がお前を許さない」
乱馬があかねを迎えに来たことは知っているが、まさかあかねの許婚だとは知らないタクトが、
あからさまに様子がおかしい乱馬にそんな忠告をする。
「・・・」
乱馬がそんなタクトをギロリと睨み付けると、
「はん、その顔じゃ彼女に一目ぼれでもした様子だな。無理無理、兄さんには勝てねえよ」
タクトはそんな乱馬をあざ笑うかのようにそんな事を口走った。
そしてカチャリ、と腰に差している剣の鞘をいじる。
血の気が多い証拠。彼は乱馬に喧嘩でもしかけたいのだろう。タクトにとっては、この場所が食事会開催場所だろうが教会だろうが関係ないらしい。
「・・・」
勿論軽はずみに剣など抜けはしないし、それにとてもじゃないが今はそんな気分ではない。
とにかく、あかねと真之介が楽しげにしている姿を視界からどかしてしまいたかった。
「・・・」
乱馬はギロリ、とタクトを睨み付けると、そのまま広間を出て行った。
少し風にでも当たって、気持ちを落ち着かせようと、思ったのだ。
「一国の王子様ってのは腰抜けなんだねえ」
そんな乱馬に対し、タクトが小バカにしたような口調で嘲り笑う。
神楽やあかね、そして真之介。神楽の話を聞いているシャンプーやムースはこのタクトの言葉は聞こえなかったのだが、
「・・・ちょっとあんた!乱ちゃんバカにすんのやめえ!」
出て行く乱馬の傍で事の成り行きを見守っていて右京だけは、そんなタクトを戒めるべく彼の前に立ちはだかった。
「何だよ、あんた」
「乱ちゃんはなあ、ホンマはめっちゃ強くて・・・あんたなんかと比べもんにならへんねん!乱ちゃんのこと何も知らんくせに、勝手なこと言わんといて!」
右京がタクトに向かい険しい表情でそう告げると、
「あんた、アイツの何なの?」
「えっ・・・?」
「そんな風に怒るって事は、ただの旅仲間って感じじゃなさそうだよな。もしかして恋人かよ」
タクトはそれには答えずに、右京の予想を反する質問を返してきた。無論答えは「NO」なのだが、
「・・・」
・・・何故か右京は、その回答をするのを躊躇していた。
答えなど明らかに決まっている。あかねならともかく、どう考えてもこの質問には「YES」か「NO」かで迷う事もない。
だが・・・
「・・・」
この「だが」の部分を考えた瞬間、右京の胸の内に黒い何かが広がり始めた。
いけない。自分は今、何を考えて・・・右京が慌てて正気に戻ろうとすると、
「・・・ま、俺にはどうでもいいけど。あーあ、それにしてもつまんねえな。食事会なんてやりたい奴だけでやればいいんだ」
右京とは違い、タクトは質問した事にほぼ執着をしていないようで、
右京が答えを口にする前にそんな事を言いながら、サッとその場から退いてしまった。
「・・・」
一人その場に残された右京は、複雑な面持ちのまま立ち尽くす。
と、そんな右京に、
「答えはNO、だろ。どうして答えなかったんだ?」
「!良牙っ・・・あんた今の話、聞いてたん?」
「聞きたくて聞いたわけじゃなくて、勝手に耳に入ってきただけだけど」
それまでの右京とタクトの会話を聞いていたのか、良牙が話しかけてきた。
右京は、さっと下を俯く。
「・・・」
良牙はそんな右京に、それ以上質問をする事も何かを責める事も特にはしなかった。
その代わりたった一言、
「・・・好きでも、時には諦めなくてはいけないこともある」
小さな声でそう呟き、右京の前から去って言った。
「良牙・・・」
・・・それは、自分のあかねに対する気持ちなのか。それとも、右京が乱馬に抱いている気持ちの事を言ったのか。
良牙も、あかねは気付いていたかどうかは分からないけれど、傍から見ればあからさまにあかねに惚れていた。
でも彼は、そんなあかねがきっと好きだったはずの乱馬の世話係で戦友で・・・彼女が誰を見ているのか、誰に思いを寄せているのかなどは分かっていたはずだ。そしてその思い人が彼女の事をどう思っていたのかも。
好きだけれど諦めている。良牙はそんな気持ちのスタンスなのだろうか・・・右京は、そんな事を考えてみる。
だが、
今のあかねには真之介、という相手がいることもあるが、逆の場合・・・乱馬に関してはどうなのだろうか。
あかねが別人のようになり乱馬のことさえ覚えていない今なら・・・
「・・・」
・・・いけない。自分は今何を考えて!
右京は慌てて頭を振る。そしてふっと目線を部屋の隅にやると、
「!」
・・・なんと、食事会の席だというのに、宿の食堂で話しかけてきたあの妖しげな男がにやりと笑いながら右京を見つめて立っていた。
ゾワリ、と背中に嫌な汗が流れる。
右京がその男に目を奪われ顔をこわばらせると、男は再びにやりと笑みを浮かべ、右京の前からスッ・・・と消えた。
右京はあわてて男が立っていた場所へと走るが、そこにその姿はなく、
「な、なあ良牙。今ここにいた男、どこにいったん?」
「はあ?この部屋には俺達以外いねえだろーが」
「でも今、確かに男が・・・!」
「いないって。お前、疲れてるんじゃねーのか?」
ドアの付近にいた良牙にあわててたずねてみるも、消えたのならばそこから出たはずなのに、良牙は見ていないという。
「・・・」
ならば、あれは幻だというのか?
いや、でもあの男は以前に町の宿屋でも・・・!
「・・・」
自分にだけ見えるとでもいのか。しかも、このような特殊な里の中にまで現れてまで・・・
「・・・」


『・・・もしも貴方がこの先、どうしても手に入れたいものがあると思った瞬間があったならば、心の中で強く私の名を呼びなさい。そうすれば私は、きっと貴方に最高の力を貸して差し上げる事ができるでしょう』


その男が以前自分に囁いたその言葉が、耳の奥でじゅうじゅと響いているのを再び感じた。
右京は得体の知れない恐怖に一人、身をぶるりと震わせたのだった。


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