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再会

乱馬が広間のドアを開けると、
「乱馬!」
「やっと目を覚ましたか・・・ったく、暢気な野郎だ」
「随分と待ったぞ」
「乱ちゃん、無事でよかったわあ」
乱馬のその姿を見つけた仲間たちが口々にそう呟いた。
真之介が先ほど口にしたように、乱馬以外のメンバーは既にこの広間で待っていたのだ。
相変わらずの口の悪さだが、その元気な姿に乱馬も、そして一行もほっと胸を撫で下ろす。
「これで全員そろったようじゃな」
そんな中、乱馬が広間に姿を現したのを待っていた内の一人・・・そう、あの老人が乱馬に声をかけてきた。
「・・・あんた、里長なんだってな」
乱馬が、一応は情報を得ているものの少し警戒をしながら老人に話しかけると、
「ほう、真之介に聞いたんじゃな。いかにも、わしはこの癒しの里の里長じゃ」
老人は臆する事もなく笑顔で、そう答えた。
そして、
「タクト、それで真之介はどこに行ったんじゃ?」
と、一旦話の矛先を乱馬から、一行から離れ窓辺で機嫌の悪そうな顔で外を見ていたタクトへと変えた。
「兄さんなら多分、彼女のところだろ。ったく、何だかんだ理由をつけちゃ、すぐに会いに行っちまう」
「仕方あるまい。あの真之介が女性に夢中になる事など初めてなのだから、大目に見てやらんか」
「俺だって彼女に用事があるのに、兄さんがいたら行きづらくてたまんねえよ」
タクトは相変わらずの悪態を吐くと、再び機嫌の悪そうな顔でそっぽを向いた。
どうやら先ほど、真之介が「人と会う用事がある」と言っていたのは、真之介の恋人との密会が理由らしい。
まあ、悪態をついてぶっきらぼうのタクトに比べれば、先ほどの真之介の方が好青年にも見えるし、女性だって近寄ってくるだろう。
「・・・」
失礼とは思いつつ乱馬がそんな事を考えていると、
「さて、そろそろ本題に入ろうか」
タクトと話をしていた老人が、再び乱馬に話の矛先を向けた。
乱馬はハッと我に返ると、とりあえず老人と真っ直ぐに対峙した。
老人は、背もたれのついた椅子にどっかりと座り、杖をしっかりと地につきながらにこやかに乱馬に微笑む。
そして、
「まず・・・自己紹介をせねばいかんな。ワシはこの癒しの里の長をしておる、神楽じゃ。そっちに居るのはワシの孫で、タクト。先ほどお主を呼びに行った兄の真之介と共に、里の宝を守る騎士をさせておる」
タクト、お前も挨拶をせんか・・・老人は窓辺に立つタクトにそう促すも、
「・・・」
相変わらずの不機嫌そうな態度を崩さないタクトは、乱馬たちをちらりと見ただけで頭の一つも下げはしない。
「・・・タクトは人見知りをするタイプでな。その内に打ち解ければ、話すようにもなるじゃろ」
「はあ・・・」
「タクトは普段、騎士らしくランスを用いて戦っておるんじゃ。最も、そのランスは武器としても使うが、魔法を繰り出す道具としても使うのじゃが」
そのタクトについて神楽が説明をすると、それを今まで黙って聞いていたシャンプーが、
「・・・魔法戦士あるか」
と呟いた。
直接打撃・攻撃系の乱馬や良牙、魔法メインの魔導士であるシャンプー・ムースとは違う、また新たなタイプの戦士だ。
攻撃、魔力とも均等が取れているタイプの戦士は、そう滅多にいない。
実際、初めて出会うタイプの戦士だ・・・とシャンプーは勿論の事一行がそう考えていると、
「タクトは『大地』属性の魔法の使い手・・・大地の魔法と格闘術で、この里の『宝』と、そしてこの里を守っておる」
神楽は、そんな一行に更にタクトの説明をする。
「大地属性の魔法・・・」
と、今度はそんな神楽に、ムースが声をかけた。
「何故、大地属性の魔法なんじゃ?・・・まあ癒しの魔法では宝を守る戦力にはならぬかも知れぬが」
「無論、その通りじゃ。じゃがタクトには癒しの能力・・・治癒魔法は備わっておらぬ」
「癒しの里に居る人間だからといって、全員治癒魔法が使えると言うわけではないのか?」
「癒しの里で癒しの能力が使えるのはごく一部。そしてその最高峰が宝・・・」
それに対し神楽はそういって、一息置いた。
そんな神楽を、窓辺で興味なさそうにこの場に留まっていたはずのタクトが、チラリと目線を移し視界に入れた。
その瞬間が何故か気になり、乱馬は思わずタクトを見つめてしまう。
その一方で、ムースは神楽と話を進めていく。
悲しいかな、難しい話は乱馬だけでは対応することが出来ないので、
こういう時はパーティのブレーンであるムースやシャンプーが前に出ることが望ましいのである。
「先ほどから何度もその言葉が出ているのじゃが・・・宝とは何なんじゃ?」
ムースが神楽に尋ねると、
「・・・癒しの里は、おぬしらも来る時に体験したじゃろうが、外の世界からは特殊なフィールドで守られておる」
「そのようじゃな。どのようにしてあの空間をここまで飛んでいたのかは覚えておらぬが、普通の魔導士の魔法では太刀打ちが出来なかった」
「里に入るには、ある程度特殊な魔法が必要じゃ。怪我をしたり治癒を施す相手は、身分や金銭に関係なく我らが見定めて決める。そして、対象のもののみここへ導かれるのじゃ」
「・・・そうか。じゃから、地図にも乗っておらぬのじゃな」
「そういうことじゃ。じゃが・・・」
神楽はそこまで話すと、再び一息置いた。そして、
「そうやって、この里に癒しを求めてくる人々を癒すことが出来るものは、実は限られておる」
「限られる?」
「特別なフィールドに守られた里に生まれても、生まれてくるその子に治癒の能力があるかないかなど分からぬ。ここにいても、魔法すら使えない者もおるということじゃ。勿論、魔法がないものは里の外には出られない。外に出て外部の人間を連れてくることができるのは、限られた人間だけという事じゃな」
「・・・」
「いうなれば癒しの里は、他の街よりも、格段に治癒魔法を使えるものの割合は多い場所なのかもしれないが、他人に治癒するほど強い能力を持つものはそれなりに限られておる」
タクトもその良い例じゃ・・・神楽はそういってタクトに目をやった。
癒しの里に生まれながらも、治癒魔法ではなく大地属性の魔法を持った青年。
魔力があるだけ良いのかもしれないが、本人としてはそれなりに複雑なのだろう。
「・・・」
一行がそんな事を思っていると、
「この里で、他人に治癒を施すことが出来るのは現在ではワシのみじゃ」
「え、一人だけ・・・!?」
「半年ほど前までもう一人おったのじゃが、亡くなってしまってな…」
「・・・」
「じゃが・・・ワシは治癒はできるが、蘇生魔法を施すことは出来ぬ。亡くなった者もそうじゃった。魔導士ならば分かるじゃろうが、治癒系魔法の中でも蘇生魔法というのは、難易中の難易。消えてしまった人の命の灯火に再び光を灯すのは、選ばれた人間のみ・・・。残念ながらワシにはその能力までは備わっておらなかった」
神楽はそういって、ため息をついた。その表情からは若干、苦渋の念が伺える。
・・・もしかしたら、蘇生魔法が使えないことでここに頼ってきた人々の一部を、救うことが出来なかったという事があったのかもしれない。
だが、蘇生魔法は神楽も言ったとおりに、治癒系魔法の中でも難易中の難易。「光属性」の魔法と同じ能力なのだ。
それこそ、「選ばれたもの」だけが・・・天文学的出生確率でこの世に生を受けたものだけが身につけている能力なのだ。
そう、選ばれた人物だけが。本人がその能力を自覚していなくても、それを持つことを望んでいなくても。
・・・
「・・・」
一行がそんな事を考えていると、
「・・・」
「でも不思議な事に、癒しの里ゆえかも知れぬが、我らが欲するその能力を持つ者が、ここには引き寄せられてくる」
「え?」
「運命、なんじゃろうか」
神楽はボソッと最後にそう呟いた、不意に乱馬へと目を向けた。
ゾクリ、とするような鋭い瞳。今も顔は比較的穏やかに乱馬達に向けているというのに、「運命」という言葉を口に出した瞬間から神楽の視線が急に変わったような気がした。
まるで、何かを訴えかけているかのようなその強い瞳に、乱馬は思わずゾワリと、背筋を震わせる。
そんな乱馬に対し、神楽は目線をはずさぬまま静かに話を続けた。
「・・・おぬしらが何故、今日ここに来るのか。大体の理由は分かっておる」
「!」
「専門ではないにしろ、ワシも占いの類が得意でな。おぬしらが『人探し』をしていて、ここへとやってきた事くらいは分かる」
神楽は、乱馬に向かってハッキリとした口調でそう告げた。
その瞬間、
「そ、それじゃああかねは・・・あかねはやっぱりここに居るのか!?」
カッ・・・と頭に血が上った乱馬は、自分の前にいたムースを押しのけて、神楽に駆け寄りその肩を掴み激しく揺さぶった。
「わっ・・・お、お前落ち着けって!」
そんな乱馬を、良牙が慌てて引き剥がす。だが乱馬は話すどころか何度も、同じ言葉を繰り返し神楽を見つめていた。
神楽はそんな乱馬に対して、あくまでも冷静に、そして目は真剣だがあくまでも笑顔で続けた。
「・・・確かにここには、娘がおる。じゃが、その娘が本当におぬしらの探しているものかどうかは分からぬ」
「何でだよ!あかねだって、自分のことちゃんとあんたらに話してるんだろ!?隠すなよ!」
「・・・分からぬのじゃよ」
「分からない・・・?」
「・・・その娘は。今我らの里にいる娘は、ここに運び込まれた時、大分身体が衰弱していた。体力は勿論の事、身体のあちこちに傷もあった。なあ?タクト」
神楽はそこで、不意にタクトに話を振った。
「タクト・・・?」
何故、ここでタクトが関係するのか。乱馬がいぶかしげな表情でタクトへ目をやると、
「その娘をここまで運んできたのは、タクトなんじゃよ」
相変わらずそっぽを向いて答えないタクトの代りに、神楽が答えた。
『海岸に流れ着いた彼女は、誰かに抱き上げられ連れて行かれた・・・』
ミコトの予言の手紙を思い出した乱馬達は、再び息を呑む。
予言の中の「誰か」がこのタクトだというのならば・・・やはりあかねはここに居るのか。
そう思うと、乱馬の身体中の温度が一気に上昇をした。胸が一気に高まり、呼吸さえも気をつけていないときちんとできない。
「ちょうど、二か月ほど前のことかの。ワシは必死に、その娘に治癒魔法を施した。じゃが・・・体力の消耗が激しすぎて、ろくに口も利けず、あげく目も見えておらんかった。残念ながらワシ程度の治癒能力では、その娘を救うことができなかったんじゃ」
「なっ・・・そ、そんな・・・」
「娘を保護する少し前まで生きておったもう一人の治癒魔法の使い手がいれば、少しは違ったかもしれん。その者は、ワシよりも強力な治癒魔法の使い手じゃった。まあその者でさえ、治癒魔法には優れていたが蘇生魔法が扱えるわけではなかった。出来る限りの治癒をして、延命に役立てる事くらいしかできなかったんじゃ。じゃが、それでもその娘には有効じゃっただろうて。結局その者が居ない今、ワシには手の施しようが無かった・・・」
神楽はそこまで一気に話すと、静かにため息をついた。
それまで神楽の肩を揺さぶっていた乱馬は、その手を止めてただ、呆然と立ち尽くす。
・・・冷たい海を漂い、タダでさえ見えない目が更に見えず、口を聞くこともできないほど衰弱をしていた。
そんなあかねの状態を思うと、乱馬の胸にえぐられるような痛みが走り抜ける。
あの時手を離さなければ、あかねがこんな思いをする事はなかった・・・そう思えば尚更だった。
大切な人を守りたいのに、守るどころか一体どんな目に遭わせてしまったのか。
そんな自分が腹立たしくもあり、そして絶望を感じる。
「乱ちゃん・・・」
そんな乱馬の様子に気付いて右京が乱馬の身体に軽く触れるが、
乱馬はそれを軽く振り払い、「それで・・・」と、神楽に話の続きを求めた。
今の乱馬には、他のものに気を使うほど気持ちにも心にも余裕などなかった。彼が求めるのは「保護した娘のその後」なのだ。
神楽は、そんな乱馬の心情を察してか、一度頷いた後、話を続けた。
「・・・そんな時に、真之介が薬を持ってきたのじゃよ。強力な治癒能力を有するその薬を、この里の薬倉庫から見つけてきたらしくてな。それを飲ませた。するとその娘、三日ほどして目を覚ましたんじゃ」
「!助かったのか!?」
「勿論、目を覚まして全ての傷や体力消耗が完治していたわけではなかったが、よほど強力な薬じゃったんじゃろうな。少なくても、よく見えておらんかった目は、きちんと見えるようになっておった」
「・・・よかった」
乱馬は、最悪の結末を効かずに済んだことに、少しほっとした表情を見せた。
ところがそんな乱馬に対し、
「じゃが・・・」
話は、そこでは終ってくれなかった。
神楽は、安堵の表情を見せた乱馬に、ふっと表情を曇らせてその続きを口にした。
当然のことながら、「だが」とか「でも」とかの後には、決して良い内容が続く事はない。
神楽の言葉に、一瞬安堵感に包まれたはずの乱馬の心が、一気に不安要素に包まれ澱んでいく。
「な、何だよ・・・」
先は聞きたくないが、聞かずにこの場をこすことは出来ない。それが分かっている乱馬が恐る恐る神楽に続きを求めると、
「・・・薬が強力すぎたんじゃ」
「え?」
「ほぼ絶望てきじゃったその娘、薬のおかげで一命はとりとめた、見えなかった目も、見えるようになった。じゃが・・・一命を取り留めたのと引き換えに、記憶を失った」
・・・案の定、神楽は不吉且つ残酷な事を乱馬に告げた。
「なっ・・・何でだよ!何でそんなっ・・・記憶を失うって何だよ!」
「時々あるんじゃよ・・・治癒魔法でなく薬を用いた時には、副作用、と言うものが。薬が強ければ強いほど、その副作用も大きなものになる。もしも記憶を失うと言う副作用でなければ、命が助かるのと引き換えに完全に失明していた可能性もある。身体が動かなくなっていたかもしれん。耳が聞こえなくなっていたかもしれないし、口が利けなくなっていたかも知れん」
「っ・・・そ、それじゃあかねは・・・」
「目を覚ます前のことは全て、分からぬ状態じゃ・・・勿論名前も。どこで何をしていたのかも。そしてどうして海岸に流れ着いたのかも」
「そんな・・・嘘だろ」
だって、あかねは俺のあかねなんだ。乱馬が呆然とした表情でそう呟く。
「記憶がないのでは、勿論名前は分からない。じゃが、唯一彼女が身に着けていた持ち物に、Akaneと文字が刻まれておった。じゃからワシらはその娘の名がきっと【あかね】、なのじゃろうと思った」
「・・・」
「彼女のことは、このタクトも、そして真之介もよく看病してな。一週間程で彼女は体力を回復させた。その内、ひょんなことから彼女に治癒魔法が宿っている事に気が付いたんじゃ。それも、この里にいるどのものよりも強い光を放つ・・・命を失った動物の蘇生も出来た。我らにはない、蘇生魔法じゃ」
「・・・」
「我らは、彼女がここに辿りついたのは何らかの運命の元だと、思ったんじゃ。じゃから我らは彼女をこの里の宝として・・・」
神楽がそこまで言った時だった。
乱馬がそんな神楽に対して、不意に叫び始めた。そして先ほどと同じように、激しく神楽の肩を掴む。
「宝なんて・・・宝なんてそんなの俺には関係ねえよ!あかねはあかねだ!里の宝なんかにするんじゃねえ!」
「・・・」
「記憶を失ってたって、特別な能力を持ってたって・・・それでもそれは、俺のあかねなんだよ!俺の大切な人なんだよ!なあっ・・・会わせてくれ!あかねに会わせてくれ!あかねを返してくれ!」
・・・頭の中が真っ白になっていた。
恐らく、十中八九そこにいるのはあかねだと間違いない。
例え記憶がなくても、この里にとって有益な能力者であったとしても。
そこにいるのは、「乱馬が知っている」あかねのはずだ。そう思った乱馬は、感情に突き動かせるままに神楽に詰め寄り、そして叫ぶ。
勿論、
「お、おいちょっと落ち着けって!乱馬!」
「落ち着くんじゃ、王子!」
「乱馬、しっかりするある!」
気持ちは勿論分かるのだが、乱馬の取り乱しっぷりは尋常ではない。
慌てた良牙たちが乱馬を抑えようとするも、理性を失った人間、しかも元々格闘技にも長けている人間を押さえ込むのは至難の業だ。
あまりの様子に、最終的にはそれまでそっぽを向いていたタクトまでもが、神楽をかばうようにして間に立った。
勿論タクトにしてみれば、乱馬を抑えるうんぬんではなく、祖父である神楽の身を案じただけなのであるが。
「っ・・・」
タクトが間に入った事で、乱馬の動きが一瞬止まる。
その隙をつき、良牙たちはなんとかして乱馬を羽交い絞めにした。
「離せ!」
「離してやるから、落ち着け!」
「俺は落ち着いてる!」
「どこがだ!」
明らかに落ち着きを取り戻していない乱馬と、明らかに乱馬を離すつもりのない良牙たちと。そんな会話を繰り広げていると、
タクトは、そんな羽交い絞め状態の乱馬に向かって静かに口を開いた。
「・・・俺達の所にいるあかねが、あんたの探している女かどうかなんて、俺には興味ねえ」
「何をっ・・・!」
「彼女の事は、俺よりも兄さんが、親身になって面倒見ている。俺は、今更あかねの素性や実際はあんたと訳ありかどうかなんて興味ねえし。じいちゃんはああ言ってたけど、俺は、彼女が蘇生魔法の使い手だろうが使い手でなかろうが興味もねえ。多分、兄さんもな」
「っ・・・」
「ただ、アニキは彼女の事気に入っているみたいだし、彼女も兄さんのことを頼っている。幸い、宝として大切に彼女の事は守っているわけだし、そのまま兄さんと結婚でもしてここにいれば良いって、俺は思う」
「なっ・・・」
「大体彼女だって、今更思い出せない記憶の事を言われたって、苦しむだけだろ」
「っ・・・」
「今の彼女に真実とやらをぶつけたって、彼女が困るだけって事だよ。彼女を苦しめて困らせても自分らの事だけを伝えたいのなら、そうすればいいさ。ま、そんな事をしようものなら俺もアニキも、あんたを許さねえけどな」
さあ、どうする。彼女は、里の外れにある赤い屋根の家にいるけど?・・・タクトはそう言って、取り乱していた乱馬をじっと見つめた。
グレーの瞳がギラリと光り、乱馬の心の奥底までも見透かすかのような強い視線だった。
乱馬はそんなタクトと暫く見詰め合うも、ふッ・・・と目線を反らし俯いた。
「・・・」
・・・堪らなかった。
ようやくあかねに会うことができると言うのに、あかねは目覚める前の記憶を全て失っていると言う。
出会った日のことも、共に旅をしてきた日のことも、そして・・・


あの日別れた、船に乗る前のことも。


・・・
「・・・」
それに加えて、
あかねは今、傍にいるあの真之介に惹かれはじめているとでも言うのか。
少なくても、血気盛んなタクトよりは紳士的であり、優しさに溢れる青年だった。
どこぞの若い娘が彼に惹かれても仕方がないとは思うが、それがあかねとなると話は別だ。
『貴方が得ようとすれば必ずそこに光は差すし願いも叶う。ただし、大きな苦しみや辛さや痛みも伴う』
ミコトの予言は、こうなる事を物語っていたのか・・・乱馬はそっと、目を閉じる。
「・・・とりあえず、本当にその娘があかねかどうか、確かめる必要があるだ」
と。
落ち着いた・・・訳ではないが、落胆してパワーを落とした乱馬の身体を上手く誘導し神楽の場所からから離したムースが、そう呟いた。
「・・・十中八九、間違いないあるが、この目で見るまでは分からないね」
それに対し、シャンプーが答える。
「でも、状況から考えてどうみても、あかねさんだろ!」
良牙も乱馬を気遣いつつシャンプーに意見するが、
「でも・・・記憶がない以上、可能性は非常に高いあるが確信は、持ちきれないある」
的確且つ合理的な意見の前には、何も言い返すことが出来なかった。
そう、皆も今の話を総合してもここにいる「あかね」は、自分達が知っている「あかね」だと感じていた。
だが多分そうだとは思いつつも、本人の口から「私は皆の仲間であった、あかねだ」と聞けない限り、確かめる手段がないのだ。
記憶をなくしている以上、自分達はおろか、乱馬のことさえも分からない。
となれば、実際にその「あかね」と呼ばれる娘を見てみるしかないのだ。
だが・・・
「・・・」
もしもそれがあかねだったとして。
記憶をなくしているあかねに罪はないが、そのあかねが別の男・真之介と恋仲になってしまっているとしたら。
・・・そうなった時、今、こうして自分達の目の前にいる乱馬は、どうなってしまうのか。
彼がどんな思いでここまできて、そして彼女を求めているかを知っているだけに、まるで自分の事のように胸が苦しくなる。
話を聞いただけで、この取り乱しようだ。実際にその光景を見たら・・・そう思うと、複雑であった。
・・・
「とにかく・・・乱馬と、そうじゃな・・・おらと右京で、その娘の元に行ってみよう」
そんな中、とりあえず何らかの行動をしないと仕方がない。
まずは「あかね」が「あかね」なのかを確かめる必要がる。全てはそれからだ。
茫然自失になっている乱馬をフォローすべく、ムースが口を開いた。
「シャンプー、後は頼む」
ムースはシャンプーに対し一言そう言うと、
「ほれ、乱馬よ。行くぞ」
「あ、ああ・・・」
「あ、待ってや・・・」
呆然としている乱馬と、そして右京を連れて部屋を出る。
「・・・おぬしら、しばらくはこの里におるだろ」
「そのつもりあるが」
「じゃったら、この教会を好きに使うといい。部屋はたくさんある」
乱馬達が部屋を出た直後、神楽が残されたシャンプーと良牙に向かってそう尋ねてきた。
「それはありがたいある」
「後は、何か必要な事があればこのタクトに聞いてみるといい」
「おい、じいちゃん!」
「真之介は宝と共におる。となれば、客人をもてなすのはお前の仕事じゃろ。分かったな?」
「・・・しょうがねえな」
神楽はそう言ってタクトを見る。
タクトは相変わらず不機嫌そうな顔をしているが、神楽の言う事には素直に従うのか、しぶしぶとそんな返事をする。
「ならば、この里を案内して欲しいある」
シャンプーはそんなタクトに遠慮なくそう提案すると、
「良牙、迷子にならぬようについてくるよろしぞ」
と、ムースたちが「あかね」に会いに行っている間、良牙を連れてタクトに里の中を案内させたのだった。
最も、シャンプーが里の中を案内させるには、ただ単に建物や場所の把握というだけではなかったのだが。
ムースが何故、自分をここに残したのか。
「後は頼む」の言葉の裏に何が隠されているのか。
シャンプーは自分なりにそれを理解しているつもりだったのだ。


・・・シャンプーは望んではいなくても、二人は絶妙なコンビなのである。





一方。
教会を出て木が生い茂る小道を真っ直ぐに歩いていくと、大きな泉が姿を現した。
その泉を半周ぐるりと歩き、また木が生い茂る小道を進むと、不意に白い壁に赤い屋根の、家が現われる。
周囲に家は無く、そうなるともちろん人気も無い。
「・・・この家の裏側には、特別なフィールドが見えるな」
その家を眺めていたムースが、ボソリとそう呟いた。
「特別なフィールドって?」
右京がムースにそう尋ねると、
「さっき里長が言っておった、おら達が外側からどうしても超えられなかった、不思議なフィールドじゃ。つまりこの家の向こう側は別世界・・・ここが、里のはずれになると言う事じゃろう」
「じゃああの家の中に・・・」
「娘がおると、いうことじゃ」
あえて「あかね」という名を出さずにムースがそう呟いた。
「・・・」
乱馬は、二人のそんな会話に加わることもなく、急に歩を早めその家へと近づいていく。
勿論彼が何も話さないその理由を、ムースたちが汲んでいないわけではない。
しかし汲んでいるからといって、何をどう、話しかけて良いのかは分からなかった。
とにかく今、彼は確かめたいのだろう・・・だとしたら何かを考えるのはその後だ。
無言で歩いていく彼の後ろ姿を見つめながら、ムースも右京も、そんな事を考えていた。


程なくして。


家の前にたどり着いた乱馬が、一度深呼吸をするそぶりを見せた。
そして、トントン、と家のドアを拳で叩く。
その音を聞き、中から人が出てくる気配がした。三人はその身を強張らせるが、
「・・・あれ?じいちゃん客人・・・何でここへ」
中から出てきたのは、例の真之介だった。
彼にしてみれば、何故祖父の客人がこんな里の外れまでやってくるのか不思議でならないが、
「・・・あかねという人に会わせて欲しい」
「あかねに?」
「会わせてくれ」
乱馬にしてみれば、ここに彼が居て彼女の面倒を見ている事だけでも耐えられないことだった。
とにかく、中の人物を確認しなければ・・・乱馬は、入り口の真之介を押しのけるようにして中に入る。
「おい、ちょっと待て!」
勿論、真之介にしてみれば突然尋ねてきた客人に、不用意に彼女を会わせるのは理解に苦しむのだが、
「まあまあ、良いではないか」
「な、何がだ!」
「何をすると言うわけでもない」
ムースに食い止められてしまい、乱馬を追って部屋の中へと入っていく事ができない。
その間に乱馬はズンズンと家の中に入り、各部屋を覗いていく。そして・・・
バン!
最後の部屋のドアを開けた瞬間、思わずその場で立ちすくんだ。
・・・最後の部屋は、この家の居間のようなところだった。
中央には大きめなソファがあり、綺麗な花が飾られたテーブルがある。
壁には、大きな十字架と祭壇のようなものがあった。
外から見える屋根は赤いが、壁の高いところにある天窓にはステンドグラスがはめ込まれていた。
居間ではあるが、個人の小さな教会に見えなくもない。
その、祭壇の中央に。
「・・・あなたは、誰?」
真之介ではなく突然入ってきた乱馬を見て驚いた表情をする女性。
白い綺麗なワンピース風のドレスのようなものを身に纏い、
光り輝くステンドグラスやそこらの宝石なんかよりももっともっと美しいその出で立ち。
一目見たものを魅了してしまう、その容姿。溢れんばかりの美貌である。
だがそれよりも何よりも。
その姿は、乱馬にはどうにもこうにも見覚えがあった。
肩より少し短い美しい髪も、整った顔立ちも、華奢な身体も、そして美しい声も。
全てが、捜し求めているそのものだった。それなのに・・・自分の記憶だけ、彼女の中には、ない。
乱馬の顔を見た瞬間、「あなたは誰?」と言った。
それが、全てを証明していた。
・・・
「・・・」
乱馬は、何も言わずに部屋に入った。そして後ろ手でドアを閉める。
「あの・・・あなたは・・・」
真之介は、どうしたんですか?聞き慣れたその声は、怯えた瞳で、乱馬の目の前で別の男の名を問いかける。
胸に、ずっしりとした痛みが走った。
・・・本当ならば。
このまま抱きしめてしまいたい。あの時手を離したことを謝りたい。
会いたくて、会いたくて仕方がなかった事。そしてきちんと自分の気持ちを言葉にして伝えたい。
消息不明となってから二か月以上。毎日毎日考えていた事、思っていた事が胸の中から溢れ出す。
会いたい。ただそれだけを考えてここまで来た。
だけど、こうして再び出会えた彼女の中に自分と言う存在はない・・・。
「・・・」
今すぐにでもこの手を伸ばして彼女を抱き寄せたい思いと、
彼女にしてみれば見ず知らずの人間にそのような事をされては困惑するだろうと言う気持ちと。
複雑な思いが乱馬の胸をよぎる。
怯えた様な表情で自分をみる彼女を見ると尚更だ。
船乗り場で別れるとき、彼女は泣いていた。
きっと、もう二度と会えないかもしれないと一人で苦しんで悩んで、そして・・・
・・・
その時の様子が今、微塵も感じられない。
あの時は彼女の胸を満たしていた、自分と共通の思いを抱くその思いが、彼女には今、全くない・・・そう感じざる得ない。



とその時、
「あかね!」
バン!
ムースを振り切ったのか、真之介が部屋の中へと慌てて飛び込んできた。
そして、
「真之介・・・」
「大丈夫か!?何かされてないか!?怪我は!?」
「へ、平気・・・」
「良かった・・・」
乱馬と対峙していた彼女へと駆け寄り、そんな声をかける。
「少し下がっていて」
「でも・・・」
「大丈夫、俺に任せて」
真之介は彼女に優しく告げると、彼女を後ろでにかばうようにして立った。そして乱馬と向き合う。
「どういうつもりだ。あんた、じいちゃんの客人だろ?どうしてあかねに会いたいんだ」
事情を知らない真之介は、ストレートに乱馬にそう尋ねる。
が、それを位置から説明するには「今」という場所も時間もふさわしくない。
「だいたい、あんた何者なんだ?そういえば名前、まだ聞いていなかったが・・・」
真之介は、答えない乱馬に対してそう尋ねた。
「・・・」
乱馬は一度だけそっと目を閉じると、真之介と、そして真之介の後ろに居る「あかね」に対し丁寧に一度礼をした。
そして、
「俺は・・・乱馬。セルラ大陸のティルトン皇国の第一皇子。現在はこの世界を、とある目的で旅をしている」
まるで、初めて出会う人に身分を紹介するかのように。
静かな声で、そう自己紹介をした。


・・・絶対に目の前に居るのは、あかねだ。でも、今はこうするより方法がない。
想い出がないならば、これからまた一つづつ作っていけばよいのかもしれない。
だが、それはきっと果てなく辛く、長いことになる。
そしてそれがどのくらい辛いことなのか、全く想像することができない・・・。
俺の、あかねなのに。
それが証明されるには、そして失った記憶が戻ることがあるのなら、それは一体いつになるのだろうか・・・。
「・・・」
乱馬は複雑な心境で、目の前にいる「あかね」と真之介を見つめていた。


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