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前途多難

この世界は、大きく分けると三つの大陸からなっているという。
東に位置する、豊かな自然に恵まれたセルラ大陸。
南に位置する、商業の発達した賑わいのあるレイディア大陸。
北に位置する、一年の半分を雪と氷で閉ざされているウィスタリア大陸。
そのウィスタリア大陸の中央には、底の見えない大きな穴があいている地域がある。
吹雪と霧、そして霧にまぎれた「瘴気」がただようその場所は、
古来より魔物が巣食うといわれておりあえて近づくものはいない。
生身の人間が近づこうものならば一瞬で消滅してしまうというまがまがしさを持つという。
それも手伝ってか、いつのころからかその穴は魔界への入り口であると、人々の間では伝えられていた。


・・・そんなウィスタリア大陸の、中央から程遠い、とある森の最深部。
北に位置する大陸ゆえに、一年を通して吹き込む風は冷たい。
こと、季節的にはまだ冬を迎えたわけではなく、氷で覆われる季節ではないのだが、それも辺りには初冬を思わせる空気が流れている。
深い森の奥には無論、満足な光など届くはずもない。
流れる小川の水さえも凍りつつある張り詰めた空気は、自然の厳しさというのを人々に伝えるには充分なものだった。
そんな中・・・森の最深部、薄暗い洞窟の中で、明かりもつけず向かい合っている者達が居た。
太陽の光も遮断し、更に厚い岩壁に覆われた冷たい空気に閉ざされたその空間で、微動だにせず向かい合う二人。よく見ると、双方男性のようだ。
一人は身体全体を厚ぼったい布で覆いその真の姿を外部に晒すことは無かったが、もう一人は身なりだけならば普通の格好をしていた。
年の頃は乱馬達と同じくらいであろうか。
すらりと背も高く、ガタイも割りと細い割には筋肉がキチント付いているというか、健康的によく鍛え上げられているのを伺える。
割と端整な顔立ちを少し翳らせているのは残念だが、強い光のこもった瞳で自分と対峙している相手と向き合う青年。
二人は物も言わず当初対峙していたのだが、一筋の風が森をやんわりと駆け抜けた後、おもむろに布を身に纏っている男が口を開いた。
「・・・光であっても、巨大な闇の前では無力なものだ」
「俺は、お前の指示には従わない」
「・・・」
「俺は・・・俺だ」
布を身に纏っている男は、自分に答えた青年に何も返すことなくニイ・・・と唇を吊り上げて笑って見せた。
勿論、布がかかっているために口元しか彼の様子を伺うことは出来ないが、布の下に隠れたその目は、鋭く冷たい光を帯びている。
「・・・手に入れたら光を闇に」
男は青年に最後に一言そう呟いた。そして次の瞬間、バサッ・・・と、布を大きく一度翻えした。
途端に辺りの木の葉が舞い上がり、そしてそれに紛れて男は姿を消す。どうやら布の男は、魔導士のようである。
消え行く男の、偶然布の下から見えた上腕部には、印象的な痣のようなものが残っていた。よく見るとその痣、不気味な「花」の形をしている。
・・・そう。
布を身に纏っていた男は、ラヴィである。
「・・・」
もう一人の青年は、そんなラヴィに怯えることも動揺することも無く、何も言わずその場に立ちつくしていた。
青年の手に握られている一振りの剣。
シルバーに輝く剣は武器としては心強いというのにも係わらず、何故か彼の、剣の柄を握る手は震えていた。
残虐非道な魔道士・ラヴィが恐ろしいのだろうか?
それともこれは、重要な任務を任せられての武者震いだろうか?
・・・真相は青年の心の中にのみあるのだが、いずれにせよ今の状況では青年を襲う震えが何であるかは分からない。
「・・・俺は、俺だ」
ヒュンッ・・・
青年は表情を変えぬまま辺りの木の葉を剣で切り刻んだあと、静かに森の中から出て行った。
・・・ウィスタリア大陸の冷たい風と、雰囲気を同するかのうように。
青年の後ろ姿には自分以外のものを全て拒絶するかのような空気が漂っていた。
そして、そんな青年の首筋にも不気味な「花」の形の痣が刻まれていた。


**************





「この船はあと一時間ほどで、ウィスタリア大陸に到着いたします。下船される方は準備をお願い致します。繰り返します、この船はあと一時間ほどでウィスタリア大陸に・・・」


太陽の光が窓から差し込むようになった時刻、薄明るくなった船の船室に寄航アナウンスが響き渡っていた。
レイディア大陸から北に位置するウィスタリア大陸。この船は、そのウィスタリア大陸の玄関口となるディネバの港へと寄航予定である。ただ、ウィスタリア大陸が終着地ではないため、船は再びすぐに出発をするのだが。
・・・
「はー、船で一晩過ごすのは何度やっても慣れへんわ。ベッドの背、硬くてたまらんし」
レイディア大陸からの航路だと、どうしても船で一晩越すことになる。
狭い船室の、更に狭くてスプリングの利かないベッドに文句を呟きながら右京が背伸びをしていた。
「船旅は、女性には向かないある」
同じく、同じようにベッドに横たわっていたシャンプーも、背中を拳で何度か叩きながら呟いた。
二人とも船酔いには無縁なのだが、どうにもこうにも寝心地の悪いベッドに薄暗い船室が気に入らないようで、昨晩部屋に着いた時からご機嫌斜めなのであった。
「こんなんじゃ、皆も良く眠られへんやないの?」
「乱馬以外起こすのは癪あるが、時間もないし起こしてやるある」
とりあえず洗面所で顔を洗い、身支度を素早く整えた二人は、薄明るくなった廊下を歩いていく。
廊下には、同じようにウィスタリア大陸で下船する客が、ちらほらと歩いていた。流石に朝から船のバーで飲んでいる客はいなかったが、食堂ではモーニングのコーヒーを飲んでいる客はわりと多い。
二人はそんな客を尻目に、男性陣が過ごしている船室へと向かった。
と、
「あれ・・・」
「あれは・・・乱馬ある」
船室に行く途中、船の甲板を見上げることが出来る廊下の窓をふと見た二人に、見覚えのある姿が飛び込んできた。
見た目は端整で、格闘技や剣術に長けているとは思えないようなすらりとした出で立ち。
見た目だけでは、実は考えるのが少し苦手、まさか仲間内からは「バカ王子」などと呼ばれているとは到底思えないという、恵まれた人物。
王族であるが故、旅人と同じような格好をしていても、どことなく気品が感じられるその姿。
そして、二人にとっては意中の相手、であった。
そう、乱馬である。
荷物を足元に置き、ただじっと、海を・・・これから皆が向かう予定のウィスタリア大陸の海を眺めている乱馬。
まるで、そのまま海に吸い込まれてしまうのではないかと思うほど、真っ直ぐに、ただじっと、海を見つめていた。
「・・・」
・・・本当は、大好きな彼の姿を見つけたのだからすぐにでも、飛んで行ってその腕を取りたい。抱きつきたい。
間違いなく少し前の二人であればそうしていたはずであった。いや、今でも本当はそうしたい。
でも、北の海を見つめたままじっと動かない彼の姿に、彼女達の足はどうしても動くことが出来なかった。
王族出身の彼は、皆で宿を取る時は大抵起きるのが一番最後。しかも、寝ぼけていることが多いので、
「このバカ王子がー!自分の荷物を早くまとめんかー!」
「しょーがねーだろ、何かまだ眠いし・・・」
「一体どのくらい寝たら気が済むんだ貴様!」
・・・と、旅に出る前はほぼライバルのような関係だったのに、旅の間にすっかり世話役になってしまった良牙にせかされて、何とか支度を進めるような感じであった。
ところが、そんな彼が誰よりも・・・そう、支度をして荷物をまとめてあの場所にいるとなると、大分早くから起きていたことになる。
しかも、「北の方角」の海をじっと見つめて。
・・・
「・・・」
何故彼が、北の方角を見つめているのか。そしてそんな彼が今何を思っているのか。
それが直接彼の口から聞かなくても分る二人は、何も言わずその場を立ち去った。
そうすることがきっと、彼にとって一番良いのだと・・・分っているからである。
二人はそのまま男性陣・・・良牙とムースのいる船室を訪れ二人を起こすと、静かに自分達の部屋へと戻ったのだった。


「・・・」
甲板に吹く風は、例え朝日が昇った後だとしてもまだまだ肌寒い。
乱馬は身震いをしながら、着ている洋服の前をかき合わせた。無論、そんなことくらいでは海を進む船の風など全て防ぎきれるわけでもないのだが。
でも、
「・・・」
・・・暗い海に流されて、浜辺に流れ着いたあかねの寒さに比べたら、これくらい。
「・・・」
そう思えば、どんなことにだって耐えられる。乱馬は大きなため息をついた。
そして、目の前に広がる夜明けの海を見つめながらそんな彼女の姿をじっと、思い浮かべる。



乱馬達から一人離れ、セルラ大陸のティルトンへと戻ることになったあかね。
そんな彼女を乗せた船が魔物と、そしてラヴィに襲撃を受けた。
当初はほぼ皆殺し状態だったはずなのに、船を地元の警備隊が救助に行った時には一部の者以外が蘇生をしていた。だが、蘇生したものの中にも、絶命したままのものの中にも、あかねの姿は無かった。
半狂乱で海へと探し出かけ続けていた乱馬に、見かねたムースがとある提案をし、乱馬はミコトの店へと向かうことになった。そこで・・・乱馬は消えたあかねの手がかりを、手に入れた。
『貴方が本当に彼女を取り戻したいと思うなら、そして再びその腕に抱きとめたいと思うのならば、北へ進みなさい。そうすればきっと、貴方に光は差すでしょう。そして・・・再び彼女と出会った時に、貴方とラビィとクロノスを巡る運命も回り始めるはずです』
・・・自分に光が差すということ。すなわちそれは、あかねを取り戻すこと。
乱馬は進路を北へと決めて、このようにウィスタリア大陸へと向かっているのだ。
ただ、ムースの体の完治および体力と精神力を使い果たし、セルラ大陸の特殊な「呪い体質」故に女性の姿になってしまっていた乱馬が元の姿に戻るまでは出発を控えるようにと、ヒルダの街で乱馬達に宿を提供していた医師でありあかねの義理の兄である東風と、唯一事情を話したシャンプーの曾祖母・大魔導士コロンに止められたこともあって、進路を決めてから実に二か月以上も、乱馬達はヒルダで足止めをくっていたのだった。
とりあえず乱馬は、身体を休ませるのと精神的に落ち着かせるのとで部屋に閉じ込めておき、その間で他のメンバーが、これから進む「北」について色々と調べ、手はずを整えた。
「ウィスタリア大陸は、特殊な地形をしている大陸なんだ」
そんな中。
いつものように皆が準備を進めていると、東風がこれから進むウィスタリア大陸について、話をしてくれた。
「特殊?」
「まず、大陸の中央に大きな穴が開いている。ここは・・・聞いたことがあるかな?古の昔より、魔物や瘴気が溢れている場所でね、うかつに近づかない方がいいと思う。人間も、この近くには住んでいないはずだ」
「その穴のことなら、聞いたことがある。じゃあ、そっちにはまず行かないほうがいいんだな?」
「そうだね。まあ、ウィスタリアは、穴のことはともかく大陸自体、そんなに大きくないんだけれど・・・北にあるが故に、流氷が流れ着くことが多いらしくてね、そんな流氷から土地や家を守る為に、町なんかは高台に作るように昔からしているんだ」
「てことは・・・中央はともかく、港以外は全て、崖の上にあるってことか?」
東風の説明をしっかりとメモに・・・取っているのはシャンプーだが、そのメモをチラチラと見ながら良牙が東風に尋ねると、
「そう考えてもらっても過言じゃないよ。そして、ウィスタリア大陸には港は二つしかない。港付近だと考えられる、人が降りていける浜辺もそんなに多くは無いはずなんだ 。しかも、あかねちゃんが流された当日の潮の流れから考えると・・・ウィスタリアの港の内・・・」
東風はそう言って、皆の前に一枚の紙を広げた。
それは、シャンプーが旅の始めにコロンから渡された、訪れた場所が自然に地図となって浮かび上がる「魔法の地図」ほど立派ではないが、一般的に旅人が携帯するこの世界の「世界地図」のようであった。
東風はその世界地図の、北に位置する小さな大陸・・・ウィスタリア大陸の、南側にペンで大きく印をつけた。
その傍に、一つ星印を書き込む。
「この星印をつけた場所が、ウィスタリアの二つある港の内の一つ、ディネバ港だよ。まずはここに向かって、この付近の浜辺・・・この南側の辺りの浜辺の事を聞いてみるといい」
「ディネバ港か。船のチケット、確認してみるわ」
情報を得た右京が、早速医院を飛び出して港へと向かった。
「ウィスタリア大陸のこと、私はもう少し調べてみるある。未知の場所あるし、情報は持っていて損はないね」
シャンプーも、東風に渡された地図を持ち部屋へと戻った。コロンと通信をしようとしているのだろう。
「さー、じゃあ俺は食料の調達でもしてくるか」
「良牙くん、僕も一緒に行くよ。この街は道も入り組んでいるし」
・・・方向音痴の良牙を一人で買出しにいかせるなど、言語道断。
東風がさりげなくサポートをしつつ、良牙と共に医院をでた。
「・・・」
一人残されたムースは、一瞬部屋に閉じ込められている乱馬の事を気にしつつも、図書館へと向かうべく医院を出て行った。
彼には、ウィスタリア大陸について、昔耳にしたことがある情報があるのだ。
ただその確信が持てないので、調べてから皆に伝えようと思ったのである。
皆はそれぞれ、出発までの時間を準備や情報収集のために費やしたのだった。
・・・
そんな経緯もあり、こうして乱馬達はウィスタリア大陸へと出発したのだった。
道中、皆が気を使っているのもあるが、乱馬も皆の前では不用意に弱音を吐いたり、あかねの名前をむやみに出したりはしなかった。あくまでも、「カードを集める旅」をするリーダー、になるべく装う努力をしていた。
が、一人になればその限りではない。
寝ても醒めても、頭の中に蘇るのは・・・あかねと別れたあの瞬間のことばかりだった。
怖いと。
不安に胸を押しつぶされそうなあかねのあの言葉を何故、ちゃんと汲み取れなかったのか。
何故、あの時あの手を離したのか。
あの手を自分が離さなければ、あかねは・・・!
・・・
そう思うと、心が波立ち苦しくなる。
あかねが「怖い」と言ったあの時に守ってやることが出来なくて、いつ守ってやるというのか。
今更こんな風にあかねを連れ戻しに行ったところで、あかねは自分のことを許してくれるだろうか。
別れ際のあのキスは、本当に「さようなら」という意味だけのものになってしまうのか・・・
「・・・」
・・・いつもチャンスを狙っていたのは、乱馬の方だった。だから、あの時逆にそうされて驚いて、何もすることが出来なかった。
でもそんなのは理由にならない。結果的に、あかねの手を離し彼女を一人にさせてしまった。
そして、守ってやると言ったのに、危険な目にあわせこんな事に・・・
「・・・」
視力も低下して、体力も無くて。贔屓目で見ているわけでもないが、あかねは美しい。
もしも・・・あかねを浜辺から抱き上げ連れ去った人物が邪な事を考えているような奴なら・・・!
・・・
それを考えると、本当は夜も寝てなどいられない。今すぐその場に飛んでいってこの手であかねを捕まえるまで、たとえ生存を知っていても気が気でない。
「・・・」
とにかく、早くウィスタリア大陸へ。
徐々にディネバ港へと近づく船の上で、乱馬はそればかりを考えていたのだった。





それから一時間後。
船は予定通りにウィスタリア大陸・ディネバ港へと着いた。
とはいえ、東風が事前に一行に話していたように、ディネバ港の港は特殊な地形をしていた。
船は、岸壁の端っこへと寄せられそこで客を降ろす。
客は岸壁の端から入り組んだ岩道を少し進み、そこでようやく「港町」のような場所へとたどり着く。
つまり、他の町は船着場と港町が一緒に存在をしていたのだが、このディネバは船着場と町が少し離れた位置関係なのだ。
あくまでも冬場の流氷対策なのか。言い方を変えると、随分と機能的に町が作られているようである。
「とりあえず、ディネバの町で宿をとるある」
「そうだな。えーと、じゃあアイテムを金に変換して・・・」
船着場からディネバの町へと移動した一行は、とりあえず少し遅めの朝食を取る為に入ったレストランで打合せをしていた。
街についてまずは、右京と良牙がモンスタードロップアイテム換金所へと赴き、自分達が所持して いたアイテムをリラへと換金した。その後、シャンプーが近くの宿屋に予約を入れた。


とりあえず一晩の宿の確保は出来たのでこうしてレストランで打ち合わせをしているのだが、
「・・・地形のこととか街の歴史は頭に入れてきたあるが、東風の教えてくれた南側の浜辺の情報、これだけでは心もとないね。何か、もっとこの街で情報収集ができればよいあるが」
そうなれば、今度は浜辺の調査。
自分達の得ている情報だけでは物足り故をシャンプーが口にした。
「確かに・・・片っ端から浜辺を歩いていくにも、かなり時間がかかりそうやしねえ」
「でも、それしかねえだろ。ウィスタリア大陸自体、そんなに大きくないって言ってたし、これくらいの距離なら・・・そうだな、一か月くらいなら・・・」
右京と良牙もそんなシャンプーの呟きに対してそれぞれ答えるが、
一か月、というのは口で言うのは簡単だが、大分時間がかかること間違いない。しかも全員、土地勘が無いのだ。
もしかしたら、該当の浜辺を見過ごしてしまうこともあるかもしれない。予定以上に時間もかかるかもしれない。
「・・・」
・・・気持ちだけは焦るのに、中々進捗しない状況。
こんな時、どんなに強い魔法を持っていても力にはならない。
とりあえず街の人々に聞いてみるしかないのか・・・良牙も右京も、そしてシャンプーも。


小さなため息をつきながら、そんな事を思っていた。
旅の前途は、まだまだ多難である。


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