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運命7

・・・それから一週間が経過した日の、朝。
乱馬は一人、とある場所を訪れていた。

柔らかな朝日に包まれて、主もなく来訪者をいとも安易に、そして静寂と共に受け入れてくれるその場所は・・・そう、ミコトのアンティークショップである。

まだ女性の姿のままの乱馬の小さなシルエットが、するりと店の床に映し出されていた。
ミコトが絶命したあの日と同様ではあるが、少し枯れた花。そして埃を被った供え物。
それらを横目に、乱馬は店内を進んでいた。
錆びたかっちゅうに、新品ならば需要のありそうな刀。
動物の剥製に、奇怪な紋様をあしらったツボ。
乱馬はそれらの横を通り過ぎ、最終的にとある骨董品の前で立ち止まった。
一枚の絵画であった。
それは以前に訪れた時にもその場所においてあった絵であった。
夜明けの海が幻想的に描かれているその絵画の前で、乱馬は何も言わず立ち止まり、ただその絵をじっとみつめていた。
・・・勿論、乱馬も絵画鑑賞の為に一人ここを訪れた訳ではない。
ちゃんと理由があってここへとやってきたのだ。
「・・・」
乱馬は絵画の前でそっと目を閉じた。
そして、自分が何故ここへと来たのかをゆっくりと、気持ちを落ち着かせる意味も込めて振り返っていた。
・・・

あかねが行方不明になってから連日、乱馬は夜明けから深夜まで近隣の海を彷徨い続けていた。
同行してくれる漁師達の顔にも徐々に絶望の色が見え始め出したが、それでも乱馬だけは必死にあかねを探し求めた。
・・・何故自分はあの時、あかねの手を離したのか。
何故、怖いと言った彼女の身体を抱き締めてしまわなかったのか。
何故、あかねの失いかけている光に気がついてやれなかったのか。
それらを思うと、例え港に戻っても身体を休める為に眠る事など出来なかった。
・・・出来る事なら、自分が全て引き受けてやりたかった。
あかねがこんな事になってしまったのは、自分のせいなのではないか。
もしも自分と関わり等持たなければ、自分と出会ったりしなければ、あかねはこんな目には遭わなかったのではないか・・・
寝ても醒めてもそればかり考えて、彼自身も、肉体的にも精神的にも限界まで来ていた。
そんな中、
「王子、ちょっと良いか」
深夜まで海を漂い、毎夜の如く絶望の念に駆られ暗い表情の乱馬に、彼が帰ってくるのを待っていたムースが声をかけた。
ムースが意識を取り戻してから、早六日。彼は治癒魔法のおかげでだいぶ回復をしていた。
「・・・」
ムースが回復したのは喜ばしいことだが、彼はあかねが抱えている運命の事を知っていてずっと黙っていた。
後にそれを皆から聞かされて知った乱馬には、どうしてもその部分に抵抗があった。
彼が悪いわけではないし、きっとあかねに口止めされていたのだろうと、そういうことも想像はできる。
それでも・・・どこか割り切れないのが、人間の感情だ。
乱馬は話しかけてきたムースからすっと顔を背けると、さっさと自分の部屋へと帰ろうと歩き出した。
が、
「一つだけ、答えてくれぬか、王子」
出て行こうとした乱馬に、ムースがそう呟いた。
「・・・なんだよ」
乱馬がムースの方を振り向かないままそう答えると、
「・・・お主、心からあかねの生存を信じておるか?」
「!?」
「何日も海を漂い、見つからない女を本気で生きていると信じているのかと、質問しておる」
ムースは、乱馬に向かって小さいがハッキリとした声でそう呟いた。
「てめえ!本気で言ってんのかよ!」
そんなムースに対して、乱馬は険しい表情で振り返ると、女性の小さい身体ながらもムースの胸倉に掴みかかった。
そして、
「生きてるに決まってんだろ!あかねは死なせねえよっ・・・俺のあかねが死ぬわけねえじゃねえか!」
ガタン!
乱馬はムースの身体をそのまま壁に叩きつけるように押しやると、振り絞るような震える声で、でも力強くそう叫んだ。
連日の肉体的疲れと、精神的疲れで彼はギリギリの状態であるが故に、
このようにムースに叫ぶこの姿は、目もギラギラと輝きハッキリって異常である。
「・・・」
ムースはそんな乱馬の手を自分の胸倉から離させた。
「・・・」
乱馬は、まだ何か叫びたさそうな表情でムースを睨み付けている。
「・・・そう、興奮するな」
ムースは、そんな乱馬を軽くなだめた。勿論それで気持ちの激昂が収まる乱馬ではないのだが、
「・・・お主が本気であかねの生存を信じるのならば、明日は海ではなく、あの店へ行け」
「店・・・?」
「アンティークショップじゃ」
「何で・・・」
「Bright or Black」
「!それ・・・」
「この先の光を信じるのか、闇に飲まれるのか・・・光を得ることが出来るとすれば後はお主の気持ちのみ。おらは、まさに今、その状況ではないかと思っておる」
「・・・」
乱馬は、ムースのその言葉に思わず黙り込む。
・・・そう、それは例のミコトが生前、乱馬に言った言葉。
その時はこの言葉の真意も分らなかったし、実際何かが分ったのはムースだけだった。
そのムースも大怪我をして乱馬たちにこの言葉の真意を伝えることはなかったし、それにあかねのことがあってすっかりと頭の端の方へと追いやられていた言葉であったのだが。
・・・
「お主があかねの生存を信じている・・・その状況でこの場所へ行けば、きっと、今のお主に光が差すはずじゃ」
「・・・」
「それとも、海には行けどもあかねの生存を信じていないのならば、行く必要もないが」
「そんなわけねえだろ!あかねはっ・・・あかねは生きている!」
「・・・じゃったら、一日くらい身体を休めるのも兼ねて行け。明日は、おらと良牙が代わりに海に出る。それならよいだろ」
ムースは、乱馬にそう伝えると一枚の紙を乱馬に手渡した。
「これは?」
渡された紙を開くと、真ん中に一行、あるものの名前が書かれていた。
それはミコトのアンティークショップの中にあった骨董品の一つであった。
「・・・それが、ミコトの言っていたBright or Blackじゃ」
「!」
「ぱっと外見だけ見ても分からないように、緻密な仕掛けが、実は施されているかもしれん。とにかくそこへいき、それを見て来い。きっとそこに・・・ミコトの言っていた【光】があるはずじゃ」
ムースは乱馬にそう伝えると、
「それじゃ、おらは良牙に明日のことを伝えねばならぬから」
「・・・」
「それから・・・自分を責めるのその気持ちも分からなくはないが、お主とあかねが出会ったことまで後悔はするな」
「!」
「出会ったことまでおぬしが後悔をしてしまえば、そんなお主の為に生きようとしていたあかねそのものを否定することにもなる」

「・・・」
最後に一言乱馬にそう伝え、ムースは去っていった。
「・・・」
乱馬は、ムースから渡された紙を握り締め、一人その場所に佇む。
「・・・」
・・・あかねの生存を信じて疑わないのは、当然だ。だからこそ、一刻でも早く彼女を見つけてやりたい。そしてこの腕に繋ぎとめておきたい。
だから寄り道や休んでいる暇などない。乱馬はそう思って毎日、身体を酷使しして海を漂っていた。
が、そんな気持ちとは裏腹に彼女の行方が一向に掴めず気持ちが焦っていたのも、事実であった。
本当は、今日だって誰かに頼むのではなく自分で、海へ出たい。
でも・・・
「・・・」
乱馬は、ムースが先程自分に伝えた、「ミコトが言っていたのはきっと今の状況の乱馬のこと」という言葉が妙に引っかかった。
この状況で、いくら気になるからといってこのことに時間を割いても良いのか。
でも、だからといってあかねは中々見つからない・・・
「・・・」
乱馬は、紙を見つめながら迷った。
が、結局、ムースの言葉通りにミコトのアンティークショップへとやってきたのだった。
・・・

「・・・ただの絵、じゃねえか」
再び目を開いた乱馬は、目の前にある「夜明けの海」が描かれた絵を見つめ呟いた。
一体、これのどこに「今」の乱馬に光を与えるものがあるというのだろうか?
「・・・」
しかも、骨董品だし、誰が描いたかも分からないし、それに絵なんて鑑賞している余裕もなければ興味もない。
乱馬はそんな事を思いながら、目の前にあるその絵を何気なしにさっと触れた。
その途端、
「おわ!?」
ガコンッ・・・
乱馬は軽くその絵に触れただけのはずだったのだが、突然触れた部分の額縁がはずれ、絵自体がふちから外れてしまった。
額縁はばらばらになり床に落ちて散乱、外れてむき出しになった絵は、少し転がり壁際にベコン、とぶつかって止まった。
さすがは「骨董品」といわれるもの、丈夫に出来ていないようである。
「おいおい・・・頼むぜ」
既に店主はいないのでこの絵を壊したからといって高額の弁償金を求められることはないとは思うが、やはり店の「商品」だったものを壊してしまったというのは心苦しい。
「はー・・・俺、壊れた絵を直している時間なんてないんだけどなあ・・・」
ミコトの言っていた「光」も何だか分からないし、触っただけで絵は壊れるし。
これだったら、ムースの言葉なんて信じないで自分も海に行っていればよかった・・・乱馬はそんな事を思いながら、転がった絵と、散乱した額縁を再びくっつけるべく身をかがめてそれらに手を伸ばした。
と、その時だった。
キー・・・ン・・・
「!?なっ・・・!」
壁にぶつかって止まった絵に乱馬が触れた瞬間、急に乱馬の腰につけていたカードフォルダが共鳴を始めた。
しかも、微かな高音を放つだけではなく、フォルダの下からでも分るように光を放っているように、見える。
「何で・・・何で急に・・・」
カードがこのような反応を示すのは、近くにカードがある時。もしくはカードに携わる何かや、フォルダを使って通信をする時だ。
今のこの状況から考えて、フォルダを使って通信をすることは除外しても構わないだろうと思われる。
だとすれば・・・
「近くに、カードがある・・・?」
・・・まさか、このむき出しになって転がった絵の中、か?
「・・・」
乱馬は、ゆっくりとむき出しになった絵を両手で持ち上げた。
キー・・・ン・・・
すると、先程よりも強力にカードが共鳴をし始めた。どうやら、乱馬の推測に間違いはないようだ。
「・・・」
乱馬は一瞬迷ったが、手で持っているその絵を強引にカンバスから引き剥がすべく手をかけた。
そして、ビリビリビリ・・・とカンバスをめくり絵を形どっていた木の枠を現させる。
と、
「あ!」
めくりあげたカンバスと、木の枠の間。
そこに、枠の太さにあわせて細く折りたたんだ封筒が見えた。
絵の中に、しかもこんな複雑に隠してあるとはただ事ではない。しかし、封筒の細さからしてカードが入っているとは思えない。もしや、折りたたまれているのか?
乱馬がそんな事を考えながら封筒を開けると、
ヒュッ・・・
「うわっ・・・」
折りたたまれていたものを伸ばし、乱馬が封筒の封を開けた瞬間だった。
突如封筒の中から何かが勢い良く飛び出してきたかと思うと、ふわり、ふわりとゆっくり宙を舞い、まるで生きているものかのような忠実な動きで、封筒を持っていた乱馬の手の中にふわりと舞い降りてきた。
一枚の、カードであった。
一組の男女が、幸せそうな笑顔で見つめあって額をくっつけている絵柄。
薄いピンクで彩られた華やかな背景も、その二人を協調しているしているかに見える。
カード上部には、「Y」という数字が書かれていた。そしてカード下部には「THE LOVERS」と書かれていた。
「・・・」
THE LOVERS。カードのタイトルは、「恋人」だ。見たこともないカードであった。
「恋人・・・」
今までのカードたちと同じデザインだし、共鳴もした。数字も、乱馬が今まで持っていない「Y」という数字だ。
しかし、こんな幸せそうなカードも本当に自分が集めているカードの一つなのだろうか?
乱馬がそのカードをじっと見つめていると、今度は封筒の中から別のものがヒュッ・・・と飛び出してきた。
それはカードではなく、一枚の紙であった。
乱馬はその紙を開き、ざっと目を通した。
「!これは・・・」
そして、思わずそう叫んだ後口を閉ざしてしまった。
カードの次に現れたその紙は、ミコトから乱馬に宛てた手紙であった。
「・・・」
乱馬は、カードを握り締めたまま今度はじっくりとその手紙を読み始めた。
手紙には、ミコトから乱馬への最後のメッセージが記されていた。

王子へ
貴方がこの手紙を手にしているということは、きっと私はもうこの世にはおらず、貴方の友人は大怪我を追い、そして・・・貴方にとってとても悲しい出来事が起こった後でしょう・・・。
こうなることが分っていたのに、あの時これを伝えられなかった非礼、お許し下さい。
前にも話しましたが、私には占いにも利用している、ほんの少しだけ未来を垣間見る力があります。それは、クロノスの研究をしている父の影響ゆえもあるのですが、 その他に・・・我が家に代々伝わっていた「カード」の影響もあったのです。
その「カード」が、先程封筒から飛び出して貴方の手に舞い降りた「カード」です。
THE LOVERS・・・恋人。
このカードには、恋愛的要素・幸福的要素の他に「選択」という意味もあります。
二つの分かれ道を、どちらを選択するかにより運命が決まる・・・そういう意味を持つカードでもあるのです。
今貴方は、大切な人が自分の元から消えてしまったことで心が一杯でしょう。
探しても探しても、彼女の姿を見つけられずに苦しんで、そして彼女を一人にしたご自分のことも責めているのだと思います。
ですが・・・貴方は今日、ここへ来ることを選んだ。
それはつまり、そんな状況でも貴方は、まだ彼女の生存を信じ前へ進もうとあがいているのだと、私は思います。
私は以前、貴方に言いましたね?貴方が得ようとすれば必ずそこに光は差すし願いも叶う。ただし、大きな苦しみや辛さや痛みも伴うと。
探しても探しても見つからず、精神的にも肉体的にも限界が近い今の状態で、
普通ならば諦めてしまうのが、王子くらいの年齢の男の方だと思います。ですが、貴方はそうしなかった。
今、私の残した手紙を読んでいるこの瞬間でも、彼女の生存を、そして再び自分の元に戻ってくることを信じている。そうなのでしょうね。

Bright or Black。光か、闇か。
闇に落ちるのは簡単です。ですが、光を求めて闇から這い上がるのはとても難しい。
貴方は、光を選んだ。消えた彼女の死を悲しむのではなく、どこかで生きている彼女を捜し求める道を選んだ。
目に見えないその「どこか」で再び会えるまでその気持ちを持ち続けるのは、辛くもあり苦しくもあるでしょう。ですが、信じていればきっと、その願いは叶うはずです。

王子、北へと進みなさい。
船の上で確かに彼女は魔物に襲われました。ですが、魔物の刃には倒れてはいません。
ただ、そこで忌まわしきラビィにより「力」を使い果たされてしまった・・・そしてそのまま連れ去られそうになりはしましたが、彼女の「本能」・・・それこそ「光」が彼女を守ったのです。
光と闇は相反します。ラビィの闇を受け入れることを拒んだ彼女の身体は、光と共に海に消えました。
そして・・・北の方角に流されたのです。
私には、北の、どこかの海辺にたどり着き水から出るも倒れた彼女の身体を、何者かが抱きかかえ歩いていく姿が見える。

王子たちとであった時に私が見えていたのは、残念ながらここまでです。
これから先は、私にも分からない。ただ一ついえるのは、海辺にたどり着いた彼女はまだ生きていた。
・・・私がこのことをあの日王子に話したところで、王子は信じなかったでしょう。
それに、話してしまったら運命がその時点で変わり、このような結末は迎えなかったかもしれない。
ラビィは残忍な男です。もしかしたらもっと多くの犠牲や、それに彼女ももっと違う形で、傷つけられて連れ去られていた可能性も捨て切れません。
王子にとっては悲しい出来事が起きてしまいましたが、こうなることがきっと、一番良かったのではないかと・・・勝手ながらそう思いました。

王子、彼女はまだ生きています。
貴方が本当に彼女を取り戻したいと思うなら、そして再びその腕に抱きとめたいと思うのならば、北へ進みなさい。
そうすればきっと、貴方に光は差すでしょう。
そして・・・再び彼女と出会った時に、貴方とラビィとクロノスを巡る運命も回り始めるはずです。
ここから先の未来と結末は、私にも分からない。
ただ・・・ご健闘とご武運と、そして幸運をお祈りいたします。
そして最後に。
多分貴方の友人が貴方に言ったと思われるとおり、彼女と出会ったというその事までも否定してはいけません。出会いを否定して運命を嘆くよりも、最愛の人に出会えた運命に感謝をし、そして離れても再び出会えることの希望やその喜びを貴方の胸に。

ミコト

・・・
「・・・」
最後の一文字まで読んだ乱馬の手は、震えていた。
そして、無意識に・・・そう、本当に無意識に涙がじんわりと目に浮かび上がる。
「あかねは・・・生きている」
そう呟く乱馬の声は明らかに震えていた。
「生きてるんだ・・・ほら、やっぱり生きてるんじゃないか!」
俺のあかねは、生きてるんだ!・・・何度も何度も、あかねが生きていると声を出すたびに、熱い涙が乱馬の目から零れ落ちる。
自分達と会ったときに、既に今こうして乱馬がここで手紙を読むことまで見えていたミコト。
そのミコトが言うのだ。
ムースの怪我も、あかねのことも、そして当事者じゃなければ分からないはずの状況もミコトは手紙に書いていた。
そのミコトが言う。絶対に間違いない・・・乱馬はそう信じた。
船の上で、魔物ではなくラビィによって力を使い果たされてしまったあかね。
連れ去られそうになった時にあかねを守った「光」、そして北の海辺にたどり着いた彼女を抱き上げ連れ去った人物・・・
その人物の存在やあかねのその後の安否は気になるが、でもその時点でまだあかねは生きていた。
生きて、北の大地のどこかにいる・・・乱馬には、そちらの方が最優先に心に浮かぶ。
生きていさえくれれば、元気でいてさえくれれば、絶対にそこに迎えに行く。
そして一緒に帰るんだ。今度こそ、もうずっと一緒に・・・
「・・・」
ミコトにもムースにも助言を受けたが、自分と出会ってしまったが為にあかねがこのような目に遭ったなどと、彼女との出会いまでも後悔したり否定している暇などないのだ。
あかねの目が見えにくいというのなら、自分が代わりに彼女の目になればいい。彼女の道を照らす光になればいいのだ。
「・・・」
乱馬は、ギリ、と唇を噛み締めてミコトが残した手紙を握り締めた。
そして自分の手にふんわりと舞い降りた「恋人」のカードをカードフォルダにしまう。
「・・・」
道は、決まった。進路は北だ。
乱馬は心に強くそう決意をすると、ミコトのアンティークショップを出て夜明けの街を駆け出した。
医院に戻り、皆に報告をしなければならない。そして、早く旅立たなければならない・・・心が駆られていた。
カードのこと、王位継承のこと、ラビィのこと、稀少魔法のこと、クロノスソードの阻止のこと・・・この旅は、いつの間にか乱馬が簡単に降りられるような状況ではないものを生み出し、乱馬を取り巻いている。
だが、それらのことよりも何よりも・・・今はあかねを探し出すことを優先したい。
それをしなければ自分が、自分ではないと思うのだ。
ミコトも、あかねと再び乱馬が出会うことでラビィやクロノスのことに関する運命が回り始めると手紙に書いていた。
乱馬の傍にあかねがいる。それが全ての始まりなのだ。それがなければ、きっと何もどうにも変わらないと、乱馬は改めてそう思った。
それに・・・再びあかねに会えた時には、乱馬には伝えなくてはならないこともあるのだ。
そう、今度は「ずっと待っていてくれるか」なんてぼやかした表現の言葉じゃなく、思いの全てを込めた大事な言葉を。
・・・
夜明けの街を駆け抜けながら、乱馬はそれだけをずっと思い続けていた。
北に行けばあかねに会える。
それだけが、今の彼を突き動かしていた。
信じることで光が差すというのなら、たとえ茨の道だろうが痛みを伴う道が待っていようが、真正面から受け止めてやる。
進んだ先で再びあかねに出会えるのなら、痛みも苦しみも耐えてみせる。
出会った事に後悔など、二度とするものか。
乱馬は心の中で強く、強くそう思いながらただひたすらに走り続けた。
・・・そんな乱馬の後ろ姿を、徐々に昇り始めた太陽がぼんやりと照らし出していた。
走り抜ける彼の背後から伸びる光は、まるで道のない闇を走る彼の行く末を照らしてくれるかのような優しい光。
Bright or Black。彼が選んだのはBright。
前途は多難であるが、それでもそんな彼の行く道を少しでも明るくしようとしてくれる光が、今の乱馬には何よりも非常に心強く感じたのだった。

・・・こうして思いがけずにあかねの手がかりを得た乱馬は、医院に戻った後皆にこのことを報告した。
そして逸る気持ちを何とか抑えつつ進路を北に取る事に決め出発の準備をした。
コロンにことの経緯を報告したり、ムースに再度話を聞いたり、東風とあかねの病状の事を話したり・・・出発までに色々とすべきことはあったのだが、それでもその先にあることを思えば苦ではなくなる。
ようやく前向きになった乱馬に安心しつつも、
乱馬以外のメンバーは、今後向かう北の地で恐らく、残忍極まりない最強の敵・ラビィとの再度対決があるのだと思うと、不安でもあり気持ちを引き締めざる得なかった。

物語はこうして一つの区切れを迎えることとなったわけであるが、その前途はまだ多難である。
乱馬は本当にあかねに再開できるのか?そして彼らを取り巻く数奇な運命はどのように変化していくのか?
そしてあかねは本当に無事なのか?今はどうしているのか・・・それらは、次の物語で語られていくのである。


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