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運命6

「…」
…あれ…?
ぎゅっとつぶった目をゆっくりと開けると、先ほどと同じ、船の甲板があかねの目には映し出された。


魔物の爪で前と上から狙われ追い詰められていたあかね。
ぎゅっと目をつぶった直後、グシャリとした不気味な音と血が吹き飛ぶ嫌な音がした。
もう、だめだと覚悟をしたあかねであったが、今目を開けて周りを見ることが出来たところを見ると、もしや助かったのか?
いや、そんなはずはない。あの状況であかねが助かるなどセロに等しいはずだ。
だとすると、死した後にこうして甲板を見ているのか…
「…」
もしや足元に自分の身体があったりして…あかねはそんな事を思いながら足元を見るも、別にそんなものはない。
その代わり、
「!」
あかねの目の前には、上とそして前からあかねを狙っていた魔物の巨体が真二つになった状態で転がっていた。
周りには、おびただしい赤い血液。
「な、何で…」
もしかして、あの不気味な音と飛び散った血液はこの魔物のものだったのか?
あかねがそんな事を考えていると、
「何を驚いているのだ」
「!あ、あなたっ…」
「指示も守れない愚かなものは始末する。ただそれだけのこと」
そんな声と共に、一人の男があかねの目の前にゆっくりと…降り立った。
見たこともない、男…年齢でいうと自分と同じ頃、いや少し年上だろうか。
端正な顔立ちをした青年だった。
まとっているローブのフードを外し、身体を覆っている黒いローブは風もないのにふんわりととなびいている。
あかねはその男の顔に見覚えはなかった。だが…不思議なことにその声は、聴いたことがあるような気がしていた。
頻繁にではなく、一度だけ。
そう、一度だけなのに、その声はゾワリとするような冷たさを放っていた。

「!」


…そうだ。
あかねは、この男と一度だけ会ったことがある。
あかねの記憶が、声の記憶と合わさりようやくよみがえった。
そう。直接あかね自身と言葉を交わしたことは無かったが、声を聴いたことがある。
あかねはこの男の事と会ったことがある。


「あ、あなた…ラビィ…」
あかねの目の前に現れたのは、数日前に乱馬たちとも剣を交えたあの、ラビィであった。
残虐な手口でカードを集め、そしてミコトという人物も殺害した。
カードを集める乱馬の、まさに邪魔でありそしてカードを利用してもっと恐ろしいことを考えている人物である。
クロノスソードのことや、彼が何故カードを集めているのかをあかねだけはまだ、よく知らなかったのだ。
ただ、この男がかなり危険な人物だということは、分かる。
あかねが突然目の前に現れたラビィを恐れ一歩、また一歩と後ずさると、
「…お前には私と一緒に来てもらう」
一歩下がったあかねに対し、ラビィが一歩、足を進めた。
「ど、どうして私が貴方なんかとっ…」
あかねは更に一歩下がりながらラビィにそう叫ぶも、
「…来ればわかるさ」
「わ、分からないわ!分りたくもない!」
「分りたくないのは勝手だが、お前は私と一緒に来るんだ」
ラビィはにやりと瞳だけ不気味に笑わせながら、あっという間にあかねの懐に入った。そしてあかねの手を掴む。
「は、離して!」
ラビィにこんな風に捕まるのも嫌なのだが、それ以前に乱馬以外の男に腕を取られるのは嫌だった。
湧き上がる嫌悪感に耐え切れずあかねがそう叫ぶと、
「…私と一緒に来い。それにお前にはそうしなくてはいけない責任がある」
ラビィはそんなあかねに静かな口調でそう呟く。
「責、任…?」
あかねがラビィについていかなくてはいけない責任とは、一体何なのか。
気になったあかねが怪訝な表情をすると、
「考えてもみろ。この船はお前が乗っていたから、こんな事態になったのではないか」
「!」
「お前がこの船に乗っていなければ、私がこの船を魔物に襲わせることも無かった。そうだろう?」
「そ、それはっ・・・」
「お前が居たから、この船はこんな事になり多くの人間が死んだ。船に乗っていた何も知らない奴らは、お前のせいで命を落としたというわけだ」
ラビィはそういって、にやりと笑って見せた。
あかねはラビィの言葉に何も言い返すことが出来ない。
…実際は、船を襲ったのはラビィの悪意であるし、
関係ない人間たちまで殺生する残虐さは、あかねが船に居た居ないは関係ない。
だが、
「わ、私のせい…」
「そうだ、お前のせいだ。お前がこの船に乗っていなければ、この船の乗船客は死ななくて済んだのだ。それなのに責任も感じぬのか」
「私が…私のせいで…」
しかし、人間の心というのは非常に脆く、そして弱いものなのである。
衝撃的な状況で情劇的な情報を提供されると、普段は出来るはずの冷静な判断が出来なくなるのだ。
たとえラビィがあかねを狙っていたとはいえ、
あくまで残虐な行動をしたのはラビィと魔物であって、あかねが全て背負うことはない。
が、あかねには今、そんな冷静に事の成り行きを分析する判断力などない。勿論これも全て、ラビィの作戦通りである。
「…だが、もしもお前が私と一緒に来ると約束するなら、私はお前にたった一つ、お前のせいで命を落とした他の人間どもをそれなりに救う手立てを教えてやっても良い」
ラビィは、真っ青な表情で震えているあかねに対して、そう呟いた。
「私に…私に何か出来るの!?」
「お前が私と一緒に来るというのなら、それを教えてやってもいい」
「…私…私…」
…正直言って、ラビィと共に行くのは嫌だった。
愛する人の敵でもあるこの男を、心から支援することなど出来ないことも分かっていた。
だが…
「…」
自分のせいで命を絶たれてしまった人々の為に何かが出来るというのならば、
たとえこの身がこの後この男に滅ぼされたとしても、せめてもの償いになるだろうか…
「…」
あかねはそっと目を閉じて、小さく一度だけ頷いた。
「…」
ラビィはにやりと目を冷酷に光らせると、あかねに対して一言呟いた。
「…では、祈れ」
「祈…る?祈るって何を…」
「お前のせいで命を落とした弱い奴らを、慈悲深く思い命が再び戻ることを強く祈ってみるがいい」
「祈ってどうするの?祈ったところで何も状況が変わるわけでは…」
そんなの子供でも分ることなのに。ラビィの言葉にあかねが首を傾げるも、
「とにかく強く、そして心から詫びる思いを祈りにささげれば分るさ。詫びる気持ちがないのならば別だがな」
が、ラビィの挑発したようなその言葉にむっとしたあかねは、「分ったわよ」とその場で目を閉じる。
そして、
「…」
何とか祈ってみようとするも、「祈れ」と言われて祈ったところで、すぐに何かが変わるのだろうか。
そんな思いが先行してしまって、命を落とした人々には申し訳ないという気持ちがあるのに、どうしても集中することが出来ない。
「…」
どうしたらいいんだろう…あかねが目を閉じながらそんな事を考えていると、
「…祈れないということは、詫びる気持ちがないということだな」
そんなあかねに対し、ラビィが何の感情も感じない口調でそう呟く。
「そ、そんなんじゃないわ!」
あかねが慌てて否定をするも、
「ならば、お前がその気持ちを強くするように私が手を貸してやろう」
「え?」
「…」
ラビィはそんなあかねを無視して、一旦あかねの傍から離れた。
そして、甲板の夥しい血だまりの中に倒れている人々の傍へと歩み寄り、不意に左手をかざした。
そして、
「さあ、祈らねばもっと、もっと酷い状況が生まれるぞ」
ドオン!
…かなりの至近距離で、左手から魔法を放った。
既に事切れている人々に対して、更に鞭を打つかのような仕打ち。
至近距離の魔法を直撃したもの---それは女性だったが、身体の半分が無残にも吹き飛んでしまった。
血だまりの中には、残った上半身部分だけが静かに回転しながら浮かんでいる。
「いやああ!!」
凄惨な光景。グシャッ…と飛び散った肉隗が遠くの床に落ちる音がリアルに耳に飛び込んでくる。
あかねが半狂乱になって泣き叫ぶも、
「どうした、まだ詫びる気持ちも祈る気持ちも生まれないか。ならば続けるしかないな」
ドオン!
ラビィは表情ひとつ変えずに、再びもう動けない人々に向かって至近距離で魔法を放つ。
今度は、そのすぐ傍で倒れていた男性の頭が吹っ飛んだ。
勢い良くとんだ頭部は、甲板の隅へとコロコロ…と転がっていく。
「きゃー!!!」
残忍で、そして凄惨…直視どころか危うく気を失ってしまいそうな衝撃的な光景。
戦いの場でもこのような残虐な行為は、行われないだろうに。
あかねは両手で顔を覆ってその場に崩れ落ちるが、
「良く見るのだ。こうなったのも全てお前の責任なのだぞ」
ラビィはそんなあかねの元にゆっくりと歩いてくると、あかねが顔を覆っている手を強引に開かせ、再び凄惨の光景をその目に映させる。
「あ、あたし…」
ぼろぼろと瞳から零れ落ち始める涙と、霞む視界。それなのに、この凄惨な光景だけははっきりと瞳の奥に焼きつき忘れることが出来ない。
「…」
ラビィはそんなあかねを乱暴に突き放すと、
「お前が祈りを捧げるまで、私が協力をしてやろう」
表情ひとつ変えずにそう呟くと、再び人々が倒れるその場所まで歩いていった。そして左手をかざし狙いを定める。
「やめ…もうやめて!」
恐怖とショックで身体に力が入らず床から立ち上がることが出来なかった。
あかねは床にへたり込んだ状態でラビィに叫ぶが、
「そんな事を叫んだところで、上辺だけなのではないか?」
「そ、そんなことっ…」
「だから私が手伝ってやろうというのだ。お前が心からこいつらに祈りをささげるまで。感謝してもらいたいぐらいだな」
ラビィはそんな事を言いながら再び、翳した左手に魔力を貯めていく。
ポウ、と音をたてながら徐々に大きくなっていく魔法。
ただでさえ強力な魔法を至近距離で食らっただけで身体が吹っ飛ぶのだ。
明らかに大きな魔法を再びぶつければ、身体は吹っ飛ぶどころか粉々に飛び散ってしまうだろう。
…乗船客達にだってそれぞれ色々な事情や家庭環境だってあるだろうに。
待っている人や送ってくれた人、会いたい人、色々居ただろうに。
突然命を奪われただけでなく、身体まで粉々にされてしまっては、何も…本当に何も残らなくなってしまう。
それが、自分のせいで…


「…いやー!!!」


…そう思った瞬間、あかねは魔力を左手にためているラビィに向かって大声で叫んでいた。
それでも、容赦なくラビィの手から離れようとする巨大な魔法。
「ああああああ!!」
あかねはぎゅっと強く目を閉じ、そして心の底から搾り出すような声をあげた。
その、魔法を止めて。
その、悪魔のような男を止めて。
そして…もうこれ以上傷つき倒れた人々に手を出さないで!
言葉にしたくても強すぎて上手く出来ない思い。
それでももう、ラビィのこの行為には耐えられなかった。
自分がこの船に乗ってしまったが為に、関係ない人々だけが傷つき、命を落とした。
その上まだ、傷つけられるというのか…。
だったら、この命に代えてでも、彼らの命を戻して…!
それが可能だというのならば、神様っ…
「っ・・・」
…全身全霊、というのはきっとこういうことを言うのだろうか。
頭の先から爪の先まで、あかねのたった一つの願い事が駆け抜けていった。
熱い涙と、魂から絞り出すような声と、そして切なる願いと。
それらが全て一体となったと…あかねはそう思えたような感覚に陥った。


その瞬間だった。


カッ…!
…泣き叫んだあかねの身体が急に白く光ったと思うと、その光は急速にその大きさを増し、あっという間にあかねの体全体を包み込んだ。そして、頭上高く真っ直ぐに、伸びていく。
まさに、光の柱。
巨大な光の柱は、急速に上と、そして甲板全体、いや船全体を包み込むように広がっていく。
ゴッ…
鈍い音を立てて、真っ赤な甲板を白く染めていく光。
光が広がっていく過程で、その光にぶつかった魔物の身体が一瞬のうちに消滅してしまう。
「…」
その光は、ラビィも包もうとしたのだが、ラビィは素早く自分の身にまとう黒いローブを翻し構える。
…通常の魔物にはかなり強力な光の力ではあるが、ラビィにはそれを跳ね除けるだけの力と能力があるのだ。
そう、それは光属性魔法と相反した闇属性魔法の使い手だからこそ、持つ能力なのだが。

天空に伸びていた光の柱は、やがて空高くで途切れたのか、今度は光の雨となって船へと降り注ぎ始めた。
甲板や船を包む白い光の中に、まるでドロップのようにパラパラパラと降り落ちてくる光の雨。
あまりの輝きと眩しさに、それまで凄惨な紅で染まっていた甲板の姿が全くどうなっているのか分からない。
船中を包み込んだ光は、ある程度の時間その状態を続けていたのだがその内ゆっくりと、消えていった。
「…」
…ドサッ
辺りを照らした光が消えた瞬間、それまで叫び泣いていたあかねも力を失って床に崩れる。
ジジジ…ジジジジジ…
それでもまだ倒れたあかねの体からは白い光の余韻が出ていたのだが、それもその内収まっていった。
「…」
ラビィは、再び黒いローブを翻した。そして、倒れたあかねへと一歩、また一歩と近寄る。
「…」
ラビィは、あかねの姿を見下ろしながらローブの下でニイッ・・・と唇を吊り上げて冷たい笑みを浮かべていた。
…恐らくあと少しすれば、この船で事切れたものたちは息を吹き返すだろう。
光の柱と、魔物を吹き消すくらいの光の勢い、そして光の雨。
術者が気を失うほどの強力な光属性魔法だ。蘇生しない訳がない。
まあ、あのミコトという女と同じように身体を飛び散らせたり吹き飛ばされたりした者たちに関しては、蘇生することは不可能だと思われるが、そんなことは自分には全く関係のないことだ。
それよりも、その数人を除けばほぼ蘇生させることができる素晴らしさを喜ぶことが先決だ。
使い魔の報告では聞いてはいたが、これが光属性の魔法…自らとは相反した能力の稀少魔法。
・・・
「…」
確認の意味もこめてあかねにこのように魔法を発動させたラビィであったが、想像以上の力に思わず顔が緩む。
「…やはり、奴らの手元に置いておくわけには行かない」
稀少魔法の使い手、想像以上の力、そして…
「…」
…意識を失って倒れた横顔。
いささか憔悴はしているが、その横顔が整い美しいものであるのは変わらない。
稀少魔法の使い手同志が交わり子をなすならば、更に強力な魔法の使い手が生まれる可能性もある。
そう、それこそ「クロノス」を生まれながらにして使える子供が。
それに、クロノスソードを作るのにも彼女の力は必要であるし、ソードを手に入れた暁に世界を治める自分の横に居ても全く問題がない美しさもかね添えていると思われる。
「ふははははは…!」
ラビィは、自らがもうすぐ手に入れる強大な「宝」を目の前にして、高らかにそして不敵に笑っていた。
そして、蘇生魔法のおかげで命を吹き返す人々が起きてしまわないうちにあかねを連れ去るべく、倒れた彼女の身体に手を伸ばした…その瞬間。



バチバチバチ!!



「!」
…なんと、ラビィがあかねの身体に触れた瞬間、まるで電気のような衝撃が触れた部分に発生してしまった。
そして、ラビィの身体を黒い光が、あかねの身体を白い光が素早く包み、相反した力で光ごと弾き飛ばしてしまう。
そのせいで、あかねの身体は白い光と共に甲板の外へと投げ出され、あっという間に海の中に沈んでしまった。
「くっ…しまった!」
あかねが光属性魔法を発動するまでは、あかねに触れても何の反応もなかった。
しかし、魔法が発動されてあかねの身体の中に流れる「魔力」属性が変わったのだろうか。
特に、光と闇は相反する存在だ。
相反するものは受け入れない。
私は貴方を絶対に受け入れない・・・意識のないあかねの代わりに身体が反応をしたかのように、あかねに触れようとしたラビィは、あかねと弾きあってしまったのだ。
「…」
あかねに弾き飛ばされたラビィは、パチン、と合図をして使い魔を呼んだ。
今回は鳥ではなく、海も潜れる魚類の魔物であった。
「…あの状態ではまだ、私とあの女が触れ合うと再び弾きあってしまうかもしれない。ならば、例の場所まではお前が、あの女を探し出して運んでくるのだ」
ラビィは、海の中から顔を出した不気味な魔物に向かってそう指示をした。
「ギー!ギー!…」
魔物がそんなラビィに答えるように叫ぶ。
「私は先にそちらに向かって、次の準備をしておく…よいな?」
「ギー!ギー!」
「行け」
ラビィは魔物にそう指示を出すと、黒いローブをヒラリと翻して船の上から消えた。
魔物はそんなラビィが消えるまで見送ると、彼の指示通りに海へと潜り、光と共に消えていったあかねの姿を探しはじめたのであった。



・・・
あかねは、このような経緯があり白い光と共に、海の中へと消えていったのである。
故に現段階ではその生死どころか正確な居場所さえ、乱馬も、ラビィも、それ以外の者達も・・・分からないのである。







・・・そんな事があり、
海に消えたあかねはともかくとして、憔悴しきった乱馬を連れた一行は一旦、東風の医院へと戻った。
すると、
「あ!」
「あいやー!ムース、気がついたあるか!」
「お、お前、起きて大丈夫なのか?」
「ムース君、大丈夫なのかい?」
何と、これまで数日間怪我の為意識を失っていたムースが、帰ってきた一行を出迎えたのだ。
ただ出迎えたとはいえ、壁に手をつたい、ヨロヨロと身体をふらつかせながら歩いてきただけなので、勿論自信をもって「大丈夫」とはいえない状態だとは皆分かったのだが、
意識が戻りこうして動くことがで居たのを見れば、驚いてしまうのは否めない。
「・・・おらのことより、乱馬はどうしたのじゃ。何故、女の姿をしておる」
ムースは、自分を気遣った皆に礼を言うよりも、良牙の背中に担がれている「女性」に目をやり呟いた。
「・・・」
・・・彼がこうなった経緯もそうであるが、ムースはあかねが国へ帰る為に皆と別れたことや、帰るために乗った船が魔物の襲撃に遭い彼女が行方不明だということはまだ知らない。
乱馬が何故姿を変えてしまったのかを説明する為には、まずそこから話をしなければならないのだ。
「・・・話は長くなる、ある。だから明日改めて・・・」
今晩はもう遅いし、ムースも長く起きているのは辛いだろう。
それに、皆も朝からずっと気を張り詰めていた為に疲労がピークに達していた。
シャンプーが尋ねたムースにそう答えると、
「・・・時が来てしまったのじゃな」
ムースはそんなシャンプーに対して、小さくポツリとそう呟いた。
「時が・・・来た・・・?」
・・・シャンプーは、その言葉を以前にも聞いた事があった。
そう、それは数日前コロンと通信をした時だ。
『そろそろ、時が来るという事か・・・』
コロンは、シャンプーに対してそう言った。シャンプーにはその時の記憶が鮮明に蘇っていた。
あの時コロンは、「仲間」についても話をした。
喜びや幸せを分かち合うのが仲間、しかし悲しみや苦しみを分かち合うのも仲間だと。
今は分からなくてもきっと、その時が来れば分かると。
確かにその話をしていた時は、シャンプーには一体何のことを言っているのか分からなかった。
そのキーワードともいえる言葉『時が来る』・・・ムースならば何か分かるのか?
いや寧ろ知っているとでも言うのだろうか。
「ムース、お前・・・私達に何か隠していた事がある、あるな?」
シャンプーは、そんなムースに対し思い切って尋ねてみることにした。
「隠している事って?何なん?それ」
「何言ってんだ、ジャンプー」
シャンプーのその問いに、右京と良牙は何のことを彼女が言っているのか理解に苦しむが、
「・・・」
二人のその意味深な会話のやり取りと、何となく違う雰囲気を感じ取った東風は、
「良牙君、王子は僕が部屋に運びましょう。・・・立ち話だとムース君も体力的にきついとおもうから、場所を彼のベッドの所でしたらどうだい?」
「あ、ああ・・・そうだよな。先生、すまねえけどコイツを頼みます」
「任せておいて」
そういって、良牙の背中から乱馬を受け取ると、今朝よりも一回り以上小さくなった身体を背負い、彼の部屋へと運んだ。
その間に、一同は場所をムースの病室へと変えて、
「・・・」
ベッドに横たわったムースを囲むようにして、まずは彼の話を聞くべく彼をじっと見つめた。
東風も、乱馬をベッドに寝かせてからすぐ病室へとやってきて、部屋の隅へと腰掛けた。
「・・・」
ムースは一度そっと目を閉じ再び見開くと、
「おらがこの旅に途中から加わったの理由は・・・」
自分が得ていた情報、自分が抱えていた理由を全て、ゆっくりと・・・一同に話し始めたのだった。






「・・・それじゃあ、あかねちゃんは自分がこうなることが分かっていて、それでも旅を続けてきたって言うん?」
・・・ムースが全て自分が知っていたことを話し終えた直後。
話の途中から、若干涙ぐんでいた右京が、少し曇りがかった声でムースにそう叫んだ。
それに対し、ムースは小さく頷く。
「そんなのっ・・・何とかならんかったん!?そんなの、あかねちゃんだけやなくて乱ちゃんかて可哀想やないっ・・・」
感情的に右京は続けて叫ぶが、
「・・・何とかするために、ひいばあちゃん、ムースを旅に出した。でも・・・」
その右京に、シャンプーはそう諭し、ため息をついた。
・・・そう、恐らく最初に事情を知ったコロンだって、何もしなかったわけではないはずだ。
聞けば、あかねに武器だって渡していたし、ムースに防御道具を作らせたりしていた。
今思えば、時々魔法通信をした後にする占いだって、彼女を一番最後にしてきっと、相談でも聞いていたのだろう。
コロンは、大魔導士。
占いは専門ではないし、「未来を垣間見る能力」を持つミコトほどではないが、それでもある程度占いだって当たる。
そのコロンの占いで導かれた答えであり、それを何とかして最悪の方向に持っていかないようにと策を講じたはずなのだ。
それは、例えばムースを旅に合流させてあかねをサポートさせていたように。
でも、
「・・・ムースはあかねを守る為に怪我をして、意識を失っていた。あかねはその間に、私達や乱馬から離れて一人になった・・・」
「それじゃあ、そういう風にさせたあかねちゃんが悪かったって言うんか!?」
「そうじゃないある。・・・きっと、どうあってもあかねがこうなることは避けられなかった、と言いたいだけある」
「そんな・・・」
シャンプーの言葉に、右京ががっくりとうなだれる。
そんな右京に対し、シャンプーも同じように項垂れる。
占いも、魔法も・・・「運命」というものからは逃れることが出来ないのか。それらの前では無力なのだろうか。
分かっていてもどうにも出来なかったこと。それを受け止めるしかなかったあかねの気持ちを思うと、胸が締め付けられる。
ムースの話によれば、あかねは視力も落ちていたという。
そんな彼女に、自分達は何て事を言ったんだと・・・例え知らなかったとはいえ、それも二人を苦しめていた。
そんな中、
「・・・とにかく、俺達は乱馬が少し落ち着いてこれからどうするのかを決めるまで、待つしかねえよな・・・」
それまでじっと黙ってみなの話を聞いていた良牙がそう呟いた。
「・・・せやね。でも、本当に乱ちゃんが落ち着くような日はくるんやろか・・・」
そんな良牙に、右京は先ほど同様涙を浮かべながら呟く。
体力の限界、精神力の限界まで誰に引き止められようとも海に向かっていこうとしていた乱馬のことだ。
きっと、あかねが見つかるまでこの地を離れる事はないのではないだろうか・・・。
右京はそう思ったのだ。
勿論それは良牙も、シャンプーも思うことであった。
「・・・」
三人は、お互いの顔を見合わせたまま大きなため息をついてしまった。
とその時。
「・・・乱馬ならば大丈夫じゃ」
そんな三人に向かって、ムースが一言そう呟いた。
「何を言っているあるか、ムース。乱馬が大丈夫なんてはず・・・」
一体ムースは、何の根拠があってそんな事を言うのか。
あかねだけではなく乱馬のことも見てきたはずなのに、何故にそんな事をいえるのか?
不思議に思ったシャンプーがムースを見つめると、
「・・・おらには、乱馬に伝えなければならぬことがあるのじゃ」
「それは、ひいばあちゃんからの言葉、とかあるか?それともあかねの・・・」
「そうではない。じゃが・・・それを伝える事で、乱馬ならばきっと、何らかの答えを出すじゃろうと。そう思っておる」
「答・・・え?」
「そうじゃ。乱馬が・・・王子が真剣にあかねの事を考えていればこそ、答えが出るはずなのじゃ」
「・・・」
「・・・王子には、頃あいを見ておらが話す。じゃから・・・皆はそれまで、おらを信じて何もせずに待っていてくれぬか」
ムースはそういって、自分の話を聞いている三人の顔を順に見つめた。
「・・・」
三人にしてみればムースが一体何を乱馬に伝えるのかが気になるところであるし、それを伝えた所で本当に今の乱馬が何か答えを見出すことが出来るのかは謎のところであるのだが、
だからと言って今、自分達がどうしなければいけないのかは全く導き出すことも出来なかった。
「・・・分かったある。ムース、お前に全て任せるある」
シャンプーは、静かな口調でそう呟いた。それに対し、良牙と右京も静かに頷く。
「・・・」
ムースはそんな三人に一度だけ頷いてみせると、小さくため息をついた。
三人も、それに釣られるかのようにため息をつく。
皆の話を部屋の隅で聞いていた東風も、天を仰ぎながらため息をついていた。
・・・皆、突如自分達を襲ったこの事態にどうしていいのか分からないのだ。
しかし、それを打開する方法としてムースが乱馬に何かを伝える事と言うのなら、
そしてそれをムースが信じて欲しいと言うのならば、それをするしかないのだ。
「・・・」
言葉を交わすことはなく、ただ同じ部屋に入るものの、出るのはため息ばかり。
「・・・仲間と言うのは、辛いあるな」
その重苦しい空間の中に、シャンプーのそんな言葉が不意に響いた。
・・・コロンの言葉の意味が、ようやく分かった。
仲間と言うのは、喜びを分かち合うだけではなく悲しみも苦しみも共に分かち合うものだと。
でも分かったからといってどうにかできるものでもない。
それぞれの胸に、その言葉は重く響いていた。だが、それに誰も、何も答える事が出来ない。
「・・・」
再び皆が集うその空間に、大きなため息だけが溶けていった。


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