【らんま1/2の二次創作小説サイト】| INFORMATION | NOVELS |BOOKMARKS |CONTACTS | HOME |web拍手

運命4

大海原を運行していた船が緊急事態を迎えているちょうど同時刻、港。

「おや?君は確か、最後に乗船したお嬢さんを追いかけて船に乗り込もうとしていた…」
「さっきの船に乗っている人と連絡を取りたいんだけど、何とか出来ないか?」
「もしかしてあのお嬢さんに?うーん、でも船には専用の無線は置いているけれど、特別に個人と連絡を取る事ができる魔法道具は置いていないんだ」
「そこを何とか!急用なんだよ!」
「だったら、船ではなく寄港するウォータークールの港へ連絡をしたらどうだい?船から下りたら伝えてもらえるように…」
「それじゃ遅いんだ!なあ、何とかできないか!?」
「何とかって言われてもねえ…」
…港に戻った乱馬が、乗船案内所乗船口にいた係員にそんな事を叫んでいた。
もちろん無茶を承知だとは分かっているが、乱馬はどうしても船に乗ったあかねと、連絡を取りたかったのだ。
「おい、乱馬。装置がないから無理だって言ってるじゃねえか…諦めろよ」
そんな乱馬に対して、乱馬を追って港にやってきた良牙が宥めようと声をかけるが、乱馬は良牙を無視して係員に食い下がる。
だが、物理的に無理なものは無理だし、それに加えてここはレイディア大陸だ。
セルラ大陸であれば、セルラ大陸内の王国の王子のワガママも少しは通るかもしれないが、彼の身分すら知らないこの係員にそこまで求めるのは酷である。
恐らくこの係員の目には「恋人と離れてしまったのが寂しくて連絡を取りたいとわがままを言う彼氏」ぐらいにしか映っていないのかもしれない。
「だから、残念だけど無理なものは無理だよ」
「無理でも頼むよ!頼むよ!」
「それでも無理なんだって、申し訳ないけれど…」
さすがの係員も、聞き分けのない乱馬に頭を抱えてしまった。
が、返事を変えるつもりはないようだ。一方の乱馬はそんな係員に更に、食い下がるべく色々と叫んでいる。
「…」
良牙は、そんな乱馬を不思議な思いで見つめていた。
『嫌な予感がする』
…こうして港に戻ってくる直前に、乱馬は真っ青な顔でそう呟いた。
嫌な予感。
嫌な予感とは、一体何なのだろうか?ただ、あかねが去ってしまって寂しい…という思いとは違うのだろうか。
だいたい寂しいといったって、二人はその、キスもしたらしいし。
「…」
良牙は、先ほど乱馬が呟いた言葉を思い出していた。
…そう。乱馬が言うには、乱馬からではなくあかねの方から彼にキスをしたという。
ということは、乱馬はもう明らかにあかねの事が好きだということは知ってはいるが、
あかねも乱馬が好きだということなのだろう。
そうなれば認めたくはないけれど、二人は両思い。
たとえ離れたからといって、それが解消されてしまうような二人でもあるまいに。
ただ、乱馬がプロポーズしたことに対してあかねが明確に答えなかった、というのを先ほど聞いた時は、良牙も不思議には思ったが…
「…」
そういうことが、必要以上に不安定な彼の心を掻き乱したりしているのだろうか?
良牙はそんな事を思いながら、係員に必死に食い下がる乱馬を見つめていた。
と、そんな中、
「すみません、乗船チケットの発行をお願いします!」
息を切らしながら、乗船案内所に飛び込んできた人物がいた。
…東風であった。
「あれ?」
「先生…」
「王子、良牙君…」
勿論東風は、二人が見送りに行ったことは知っているし女の子達と違いまだ医院には戻っていなかったことは知ってはいたが、二人が港に再び戻ってきていたことは知らない。
乱馬達にしてみても、何故、いつも冷静沈着な東風が息を切らしてこの乗船案内所に、しかも乗船チケットの発行を求めに来たのかは想像がつかない。
治療に足りない薬でもあるのか?…せいぜい思いついてもその程度だ。
三人は思わずお互いの姿を見てそれぞれ首を傾げるも、今はそんなお互いの事情をノンビリと話している暇はなかった。
東風は乱馬達に一礼をしてから再び係員の方を見つめると、
「今すぐ、ウォータークールへ向かう船のチケットを発行してください!」
「そりゃいいですけど…直行便は、この間先生にも説明したとおり二週間後にでますよ。他の港経由で行く船なら、明日には出ますけど、それでいいですよね?」
「それじゃ遅いんです!さっき出た船にどうしても追いつきたいんです、何とかなりませんか?!」
「先生も、無茶を言うなあ…それも無理ですって」
「そこを何とか、お願いします!定期便でなくても、どなたか特別に船を出してもらえませんか!?航路じゃない海路を取ってスピードを出せば、さっきの船に何とか追いつけるでしょう!?」
先ほどの乱馬に負けないくらい強引且つ、むちゃくちゃな頼みを係員にしていた。
東風はこのヒルダの漁協や船乗り達にはある程度顔が利く。だが、顔が利いても通る願いと通らない願いがあるのだ。
「無理ですってー…先生も、頼みますよ…」
乱馬と東風に無茶な頼みごとをされている係員は、いよいよ困った顔をして頭を抱え俯いてしまった。
「先生、先生も一体どうしたんだよ?」
そんなに、必要な医薬品でもあるのか?
出会ってからまだ数日ではあるが、その数日の東風の様子からすると、今のこの彼の姿はやはり尋常ではない。
良牙がそんな東風へ質問をしてみると、東風は良牙、そして乱馬を振り返り一瞬ためらいはしたが、
「…僕は、あかねちゃんを追ってセルラ大陸に戻ります」
良牙と、そして複雑な表情をしている乱馬に向かってはっきりとそう言った。
そんな東風に対し、
「先生…どうして…」
それまで係員に気を取られていた乱馬が、そう呟く。
医薬品の調達の為に、乗船チケットが緊急で必要になったのではなかったのか?
戻る理由は、あかねを追うため?
…一体、どういうことだ?
「…」
自らも嫌な予感に胸をつかれ、あかねと連絡を取ろうとしていたくらいだ。
東風はそのあかねを追ってセルラに向かおうとしているとなれば、気にならないはずがない。
乱馬がそんな事を思いながら東風を見つめると、
「王子、僕は…僕は医師として、彼女を一人でティルトンまで帰らせるわけには行かないのです。どうか、僕のこの行動をお許しください」
「ちょっと待てよ、一人って…だって向こうの港にはあかねのおじさんが迎えに来てくれるんだろ!?あかねを安全に国まで返すって、そういう約束だったじゃないか!」
「勿論、そのつもりでした」
「でした、って…」
「お義父さんに港からの彼女のエスコートを頼み、そしてウォータークールまでの船旅の間も、乗船する船員に、彼女の事を頼んだのです」
「だったらなんで…」
「ですが…彼女はそれを断っていた。それも僕に嘘までついて」
「!?あかねが…?」
「お義父さんへの連絡は、彼女が『久しぶりに話をしたい』と願ったので彼女にお願いをしていました。ですが、これらの経緯を考えると彼女は、お義父さんに連絡すらしていない可能性のほうが高い」
僕が、確認をすればよかったのですが…東風は、苦しそうな表情で呟く。
「だ、だけど…今から、その例えばシャンプーの魔法通信を使って城からおじさんに連絡をして、おじさんに港に向かってもらったとすれば、ウォータークールではなくても、来る途中に通ってきた迷いの森辺りだったらあかねと落ち合えるだろうし、何も先生が戻らなくても…」
そんな東風に対して、乱馬は小さな声で呟いた。
もちろん乱馬もあかねのことは心配だし、なぜ彼女が嘘までついて援助を断ったのかは気になる。
だが、乱馬のように船に連絡を取ろうとするならばともかく、追いかけていくとは尋常ではない。
体調が悪いあかねを気遣うのは分かるが、これは一体…
「…」
乱馬がそんな事を思っていると、東風はそんな乱馬に対して少し驚いたような表情を見せた。
この表情は、一体何なのだろうか。
乱馬が少し胸を鼓動させると、
「…王子、あかねちゃんは話さなかったんですか?」
「話さなかった…?話さないって、一体何を…」
「あかねちゃんは、王子に自分の体調の事、話さなかったんですか?」
東風は、そんな乱馬に対してそう尋ねると、ギュッと目を閉じてため息をついていた。
「な、何だよ…見送りの時に、あかねには体をちゃんと直して欲しい事と、あんなに傷だらけになってはだめだって、そういう話はしたよ!そういう事じゃないのか?」
乱馬は東風のその様子が気になり、徐々に鼓動を強くする胸を感じながら彼にそう主張をするが、東風はそんな乱馬に対してゆっくりと首を左右に振って見せた。
「…」
その、反応は何だ?
乱馬が東風をじっと見つめると、
「…あかねちゃんの視力はかなり低下しているのです、王子。体調によってはよく見えていない日もあったと思います」
東風は一瞬ためらったが、乱馬に事実を、告げた。
勿論そんな東風の言葉を、
「なっ…う、嘘だろ!?」
「残念ながら事実です」
「嘘だ!そんな状態で旅なんて…そりゃ具合は悪そうだったけど、でも何とか旅も生活も…!」
少なくても、ティルトンにいた時はあかねの視力は何も問題がなかった。
素直に受け止められない乱馬が東風に詰め寄るが、
「視力が落ちたのは、旅の途中からのようです。それに…」
「それに?それに、何だよ!」
「…剣を、取り損ねたのでしょう?」
「!」
「身体も、傷だらけだったでしょう…?…体調不良が原因でそうなったのか、それとも視力の低下が何らかの体調不良を引き起こしているのか…それは詳しい事を調べてみないと分かりません。でも、今の彼女は、ちょっとした体力の低下や疲れが大きく視力に左右するんです」
「っ…」
「長い船旅のあと、陸路を一人で旅をして国に戻るなんて無理だ」
「そ、そんな…」
「…だからこそ、お義父さんに港への迎えをお願いしたかったんです。他人よりも家族の方が、彼女も気を使わなくて済むでしょう…なのに…」
「そ、そんな…あかねさん」
東風の話を聞き言葉を失う乱馬の横で、良牙が顔を青ざめて呟いた。
「…彼女には、きちんと話すように諭したのですが…」
…きっと、話すことで王子の手をわずらわせると、余計な気を使わせると…そう判断したのでしょう。東風はポツリと呟いた。
「…」
乱馬は、ぎゅっと目を閉じてギリと歯を噛み締める。
…自分は、何故あかねの視力について気がつかなかったのか。体調不良のことに気がついた時点で何故!
剣を拾い損ねて皆に責められても、あかねは言い訳ひとつしないでそれを受け止めていた。
逃げるときに机に身体をぶつけてそれに対して文句を言われても、ただ謝るだけで何も言わなかった。
こんな事情を一人で抱えて、それがどれだけ辛かったか…そう思うと、身が引き千切れてしまいそうだった。
そんなあかねに対し、自分はあれほど酷いことをしたのか。
あんなこと、とは満月の晩に乱馬があかねに剣を向けたことである。
そのことに対しては船にあかねが乗り込む前に誤解は解くことが出来たが、もしそれがままならなかった状態だったらと思うと、ぞっとする。
「…」
乱馬は視力のことに最後まで気がつかなかった自分が腹立たしくて仕方がない。だが、ここでいくら自分をせめてもあかねがここに無事に戻ってくるわけではない。
今は腹立たしい自分を責めるよりも、あかねの身を確保する方が先だ。
「先生はここに残ってくれ。俺がセルラに戻る!」
「王子、ですが…」
「あかねは、俺が責任持ってセルラに送り届ける!」
乱馬は東風にきっぱりとそういい切った。
こればかりはどうしても、東風に任せたくは無かった。
「でも王子、ここで旅を中断しては・・・」
「旅よりも何よりも、優先しなくてはいけないものが俺にはある。それをしなければ、俺は俺じゃないんだ、先生!」
「王子…」
「…ということだから、俺はどうしてもウォータークールに向かわなくちゃいけないんだ。臨時で船を出してくれ」
乱馬は改めて係員に頼むべく係員の居るカウンターへ身を乗り出した。
「そうは言いましても…」
「これ以上の緊急事態がどこにあるんだよ!」
「ですが・・・」
そして、再び係員と乱馬がそんなやり取りを始めたそんな矢先であった。

ビー!!ビー!!ビー!!…

・・・けたたましいサイレンのようなものが、急に乗船案内所の中に響き渡った。
「な、なんだ?」
「これは何の音なのでしょうか…」
まるで耳を割らんばかりのけたたましい音。
それに驚いた良牙と東風がきょろきょろと辺りを見回すと、
「この音は…」
それまで乱馬と話をしていた係員が、さっと表情を強張らせてそう呟いた。
「この音は、何なんだよ?」
乱馬が係員に尋ねると、
「緊急時に鳴る警報です。港で何かあったのか?」
係員は案内所内に鳴り響く警報について言葉少なげにそう語ると、
「ちょっと失礼」
そういって、慌しくカウンターから出て港の方へと走っていってしまった。
「緊急時って…港に魔物でも来たのか?」
「どうしたのでしょう」
「くそ…俺達だって緊急事態だって言うのに!タイミングが悪い」
交渉中に事件が起こり、自分達の主張は頓挫してしまった。
港も非常事態かもしれないが自分達も同じ状況なのに・・・と乱馬がぼやくと、
「でも港を魔物が襲ってきたんだったら、それを退治してやれば船、出してくれるかも知れねえぜ?」
良牙がそんな乱馬にそう提案をして、拳をパシッ、と鳴らす。
「・・・それはいい考えだな」
だとしたらこれは、港の連中には悪いがチャンスなのか・・・乱馬もそんな事を思いながら、腰にさしている勇者の剣を引き抜こうと鞘に手を伸ばした。
が、
「先生―!先生―!」
バタン!
そんな話をしていた乱馬達の下に、荒々しくドアが開く音が聞こえたかと思うと、先ほど出て行った係員が戻ってきた。
そして、戻ってくるや居ないや大きな声で東風を呼びつけた。
「い、一体どうしたのですか?」
港の緊急事態で出て行ったはずの係員が、今度は東風をただならぬ様子で呼ぶ。
東風が係員の雰囲気に圧倒されながらも彼の声にこたえると、
「船がっ…ウォータークール行きの船がっ…」
係員は、冷静な東風の腕をガッシリ掴みながら、言葉をどもらせながらも必死に東風に説明をする。
「船って、先ほど出港した船ですが?」
東風がそんな係員の言葉を丁寧に拾いながら質問をすると、
「そうだ!その船が…魔物に襲撃されたらしい!」
「な、何ですって…!?」
「被害状況はまだハッキリしないけど、近くを通りがかったていう漁船が今港に戻ってきて…」
「それで状況は!?」
「何か妙な光が海を照らしていたらしいんだ。それでそちらの方角に行ってみたら、沈没しそうな客船が…」
「!」
「船もところどころ穴が開いているし、荷物も落ちて船体にも血が飛び散っている状況で、もしかしたらもう生存者はいないかもって…海から船に向かって何度も呼びかけたらしいんだ、でも応答がないって」
「そ、そんな・・・」
「・・・だから、とりあえず今から船が停泊している現場まで、港の警備隊が船を出す事にした。状況は分からないけど、その船で乗客たちを輸送してくるから、手当てをお願いしたいんです!」
係員はそう叫ぶと、乗船案内所内で東風が治療できるようにと、荷物を寄せたりお湯を沸かし始めたり準備を始めた。
乱馬たち三人は、その係員の言葉に呆然として動くことすら出来なかった。
「そ、その魔物の襲撃を受けた船って・・・あかねさんの乗った船だろ!?」
「あかねちゃん…」
良牙と東風がそれぞれそう呟くが、その声は明らかに震えていた。顔も自然と蒼くなる。
今にも沈没しそうな船体、飛び散る血液、呼びかけても応答が得られない乗客達・・・一体どれだけ酷い襲撃を受けたのか、想像もつかない。
ただ、そこに乗り合わせた人々がかなり危険な状況に見舞われたことだけは、理解が出来る。
「畜生!あかねさん…逃げるのだって大変だったはずなのに!何で、何でそんなところに魔物なんて!」
ドスッ
良牙が、震える声で近くの壁を拳で殴りつけた。
…確かに、たとえ応戦をするにしても、体調不良と十分な視力を持たないあかねでは、大した抵抗は出来なかっただろう。
どう考えても悪い状況へと考えがいってしまう。
東風も、何とか良い方向へと考えを巡らせようとするが、上手くそうすることができない。
ただ、もしも、もしも最悪あかねが怪我などをして運び込まれた時には十分な手当てをしてやりたいと思う。
なので、動揺はしているがとりあえず係員の手伝いをしながらあかねの無事を、心から祈っていた。
そんな中、
「…」
ただ一人・・・係員の手伝いで場を設定するわけでもなく、
かといって良牙のように魔物に対して怒りをぶつけるわけでもない乱馬は、何を思ったのか突然、乗船案内所の外へと飛び出していった。
「良牙君」
東風は慌てて、良牙に合図を送る。
「は、はい。おい、乱馬っ…!」
自分や東風もこの緊急事態ショックだし不安で仕方が無いのだが、多分一番その気持ちが強いのはそう、乱馬だ。
手負いの野獣が一番危険、とは少し違うが、思いつめたり不安に駆られた人間が一番、予測不能な行動をして危険な場合があるのだ。
良牙は小さく頷くと、東風の指示通り乱馬を追って乗船案内所の外へと飛び出した。
良牙が乱馬の姿を慌てて探すと、乱馬は今から船の停泊場所へ向かおうとしていた港の警備隊の船の所にいた。
そして、乗船しようとしていた警備隊に対し、
「俺も乗せてくれ!船の停泊場所まで連れて行ってくれ!」
「だめだだめだ、大人しくここで待っていてくれ!」
「頼むよ!腕は立つからっ…それこらへんの剣士や騎士よりも十分腕は立つから!」
と、必死な表情で叫んでいた。
「あのなあ、兄ちゃん。そういう問題じゃなくてね…」
勿論、警備隊とでそう頼まれた所で「そうかい、それじゃ頼むよ」と頼むほど親切ではないわけで、
「その船からはもう、魔物は去ってしまったようだから。俺達は船に取り残された乗客達をココに輸送するだけだよ」
と乱馬にそう諭すも、
「俺の大切な人が乗っていた船なんだ!大人しくここで待ってるなんて出来えんだよ!なあ、頼むっ…頼むから俺も連れて行ってくれ!!頼む!!」
乱馬は回りも気にせず必死で、その警備隊に頼み込んで頭を下げていた。
「乱馬っ…気持ちは分かるけど、落ち着け!」
良牙とて本当は冷静ではないしあかねの安否を気遣って不安ではあるが、とりあえず今は、乱馬をどうにか落ち着かせなければならない。
警備隊たちとて、早く乗客達を救助しに行かねばならないのだ。何しろ船は沈みかけているわけだから。
「…」
・・・王族として生まれた乱馬が、人に対してこれほどまで必死に頭を下げたことなどなかっただろうに。
きっと今の乱馬にはそういう生まれや育ち、プライドとかそういうものを全て超越させてでも優先させなければいけないことがあるのだろう。
そりゃそうだ、一旦旅を保留にしてあかねを送り届ける為にティルトンに戻るとまで言った位なのだから。
だが、こんな風に感情的で冷静さを欠いている乱馬は、詳しい事情を知らない警備隊達にとっては迷惑他ならない。
乗客を救助に行くのに邪魔をしているだけに過ぎないのだ。
「乱馬、とにかく落ち着け!な?」
「離せ!俺の邪魔をするな!頼む、俺も船に乗せてくれ!頼むからっ・・・!」
「乱馬!」
・・・結局、港にいる漁師達にも手伝ってもらい、数人かかりで乱馬のことを止めるような形で、良牙は乱馬を警備隊達から引き剥がし何とか港へととどめる事ができた。
警備隊達は、乱馬が離れた後すぐに港を出発した。そして、乱馬の為にロスした時間を取り戻すべくスピードを上げて海を進んでいく。
「…」
警備隊の船が出て、事故をした船の乗客を受け入れる準備をする為に騒然としている港の岸に立ち尽くす乱馬。
今の彼には、
良牙に腕を掴まれたままただ呆然と、海の向こうを眺めて立っていること、
そしてそうでなければ、けが人や生存者の為に受け入れる設備を作る手伝いをすること以外、何も出来ないのだ。
乱馬は、どんどんとスピードを上げて遠ざかっていく船を、不安そうな表情でただずっと見つめていた。
「・・・」
そんな乱馬の姿を横目で見つめる良牙は、心の中でそっとため息をつく。
…もしものことなんて考えたくないけれど、
でももしも…最悪の事態が起こってしまったら、コイツは一体どうなってしまうのか…。
元々乱馬は、東風とは違って感情を冷静に裁けるタイプではない。どちらかといえば感情が表に出やすいタイプなので。
乱馬がそういうタイプだと分かっているにも拘らず、この様子に戸惑ってしまうほど彼は今、取り乱している。
しかも、普段滅多に下げないような頭まで下げて、格好を気にするくせにそういうのも全然お構いなしに人に頼みごとをする。
とにかく彼が今必死で、そしてあかねのことで頭が一杯なのが良く分かるのだ。
あかねには、どうしても無事でいてもらいたい。勿論あかねの為にも、そして…願いたくはないがコイツのためにも。
良牙は複雑な思いのまま、呆然としている乱馬の腕をしっかりと捕まえてそんな事を思っていた。

「重症の人から案内所に運んで!」
「手が空いている奴は先生の補助に入れ!」
…港から警備隊の船が出てから二時間ほど経った頃。
再び彼らの船が、港へと姿を現した。そう、乗客達を船から救出して、連れ帰ってきたのである。
乗客達の中には、何と身体の一部を吹き飛ばされて酷い有様だったものもいたらしいが、
魔物に襲われ船も沈みかけ、そして大量の血液が広がる甲板へと辿りついた警備員達がそこで見たのは、
「う・・・ううう・・・」
「誰か…」
・・・なんと、怪我はしているし大量の血液を流出はしていたものの、何とか一命を取りとめうめき声を上げていた乗客達だった。
漁船が近くを通りがかった時には、明らかに絶望的な雰囲気を醸し出していた船内であった。
ところが、
「光・・・」
「光?光がどうしたんだ!?」
「光が身体を・・・」
助け出す乗客が口々にそう呟くのだ。
一度は、絶命をしたはずだった自分達が、何故再び息を吹き返しているのか。
彼らにもそれは良く分からないようだが、ただ、その光が一体何なのか、どういう状況でそれがそうなったのか、というのを皆が語ることができるほど、元気な乗客はいなかった。
警備隊の面々も、それらを今言及するよりもまずは彼らの手当てをする方が先。
一命は取りとめている人々だが、早くもっと処置をしなければ再び命を落とすこともあるかもしれない。
そう考えて、とにかく船にいる人々を全て、沈みかけている船から運び出して自分達の船に乗せたのだ。
・・・
「大丈夫あるか?さ、目を閉じるある」
「包帯巻いてやるさかい、大人しくしててな」
警備隊が連れ帰った乗客達は、
船が戻ってくる二時間の間に東風から連絡を受けたシャンプーと右京が港へとやってきて、治療や手当をしていた。
大量の治療道具や薬などを、シャンプーたちが港へと運んできたのだ。東風はそれを利用してけが人の手当てをしていた。
そしてそんな東風と共に、治癒魔法を使えるシャンプーは、重体の患者を中心に治療をしていく。
意識はあるが怪我が酷い患者は、右京と乗船所の係員達が、率先して手当てをした。
良牙は、東風やシャンプーとは違って治療はできないものの、
乗船案内所に次々と運び込まれる人々の移動を手伝ったり、何か物を運ぶ手伝いをしたりと力仕事を中心に動いていた。
港の漁師や女達も、お湯を沸かしたり治療道具を揃えたりけが人に声をかけたりと、何かしら皆動き回っていた。
警備隊の船が到着した港は、治療をする人々、治療される人々でとにかく、ごった返していた。
そんな中、
「よーし、これで生存者は全部だ!あとは…亡くなってしまった方々を船から降ろそう」
港の岸では、船から乗客たちを乗せてきた警備隊員達がそう叫びながら、担架と、担架を覆う布のようなものを準備し始めた。
どうやら、生存者は全て港の乗船案内所へと運び終えたようだ。
「…」
乱馬は、乗船案内所ではなくその港の岸にいた。
勿論ただそこで立っていたわけではなく、船から客達を降ろす手伝いをしていた乱馬であった。
が、その警備隊員の言葉を聞いた乱馬は、元々不安で歪んでいた表情を更に歪ませた。
…そう、警備隊員は「生存者は全部だ」と先ほど言っていた。
が、乱馬が手伝って港へと降ろした乗客の中には、あかねの姿はなかったのだ。
「な、なあっ・・・本当にもう生存者は居ないのか!?だってまだっ…」
俺のあかねが降りてきてねえよっ…何とか必死に押さえ込んでいた不安が一気に胸からあふれ出した乱馬が、悲痛な表情でそう叫ぶも、
「…」
ポン、ポン。
そんな彼になんと言葉をかけてよいのか…警備隊員も表情を曇らせる。
乱馬の表情は更に、不安で歪んでいった。
そうこうしている内に、別の警備隊員がゆっくりと、不運にも亡くなってしまった者を担架に乗せて船から降りて来る。
「…」
担架に乗せられ、まず一人目が乱馬の前を運ばれていった。
担架に目をやった乱馬であったが、見る限りその担架の、何だか横たわっていると思われる首の部分が妙なポジションにあるように思えた。
シートがかけられているので良く分からないが、もしかしたら首が取れているのかもしれない。
シートの下部分からは、男物の靴が覗いていた。
どうやら、今運ばれた一人目の遺体は男性のもののようだ。
首が取れてしまうような凄惨な現場、そして惨状。そんな中にあかねは遭遇してしまったのか・・・そう思うと胸が苦しいが、
「・・・」
遺体が男性であるという事はそれがあかねでないという証拠でもある。
乱馬を含めその場にいた一同はその男性に対して頭を下げたのだが、不謹慎だとは分かっていても乱馬は、そっと胸をなでおろした。
乱馬の前を通過していったその男性は、案内所とは別の建物へと担架で運ばれていった。
次に、別の担架で違う人物が運ばれてきた。
今度の遺体は、頭の位置は通常ではあるが、どうも上半身と下半身のバランスがおかしいというか…シルエットは細いのに、どうも動くたびに揺れ方がおかしい。
シートの下部分からは先ほどの男性のように足は見えなかった。身長面とシルエットからみても、今度は女性のようだ。
しかも、上半身と下半身がばらばらになってしまった女性…
「…」
魔物とはいえ、女性にもこのような仕打ちをするのか。
きっとこの女性にだって家族も、もしかしたら恋人だっていたかもしれないのに。そう思うと、乱馬の胸が苦しくなる。
・・・きっとあかねではないとは思うし、思いたい。でも、あかねと同じ女性までもこんな目に遭うのかと思うと苦しくなる。
乱馬を含めその場にいた一同は、その運ばれてきた女性に対しても頭を下げた。

が。

「…おっと…」
その女性を乗せた担架が、乱馬の前を通り過ぎるその瞬間であった。
担架を持っていた人物がバランスを崩し、担架が大きく揺れた。
そのせいで、シートの下に隠れていた女性の身体の一部…腕が、ブラン、と担架から零れ落ちた。
女性の顔は依然としてシートに隠れたままで見えないが、乱馬はたまたま、その腕を見た。
その瞬間、
「うわああああああ!!!」
…そのこぼれ落ちた腕の先にあるものを目にした瞬間、乱馬は気が触れたかのような大きな声を上げ、その腕に触れていた。

真っ赤な、皮のブレスレットであった。

『どこにいても、何があっても、ずっと、ずっと大切にするから…』
…あかねが船に乗る直前、乱馬に泣きながらそう約束をした、品物。
それは乱馬が彼女に送ったもので、彼自身も身に着けている見覚えのあるブレスレットであった。
「あああ…ああ・・・」
震える手でブレスレットに触れる乱馬と、そんな彼の様子から事情を悟り、彼に言葉をかけてやることができない周りの人々と。
「なっ…どうした、乱馬!」
「乱ちゃん、今の声どうしたん!?」
「乱馬!?」
…乱馬の声に驚いた良牙達も、治療や手伝いを他の人に代わってもらい慌てて乗船案内所から飛び出してきたが、
担架に乗せられシートをかけられている人物、その人物の腕を見て尋常じゃなく取り乱している乱馬。
一瞬で状況を悟り、その場に立ち尽くす。

人で溢れ返る港の一角には、悲痛な青年の叫び声だけが空しく響いていた。


RUMIC'S NOVELS LINK

パラレル
糖度2
糖度3
糖度4
糖度5
企画

OTHER CONTENTS

■オリジナル作品(外部サイト)
お仕事情報

THANKS!

TOTAL: HITS(Y:)