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運命3

その一方で。
「ただいまー」
「戻ったある」
乱馬たちが港へと引き返したことを知らず先を歩いていた右京とシャンプーは、医院へと到着していた。
すると、
「え?贈り物の送料が不足していた?」
「そうなんすよ。今朝のセルラ大陸行きの船の積荷チェックでね、わかったんすよ。それで船員がうちの店まで荷物を戻してくれてね・・・で、伝票の送り主の住所がこちらになってたから、不足していた送料を取りに」
医院の玄関先では、東風と、そして商人風の若い男がそんな会話を交わしていた。
「送り主・・・でも僕は荷物なんて送ってないけどなあ。病院の物資は全て別ルートで調達しているし」
ただ、住所はここであっても荷物を送った記憶が無い。
しかも、商人が東風に持ってきた荷物は随分と小さ目の袋に入れられている。
東風が首をかしげていると、
「ああ、送ったのは医者先生じゃないよ。あの時うちの店に来たのは若くてすっげえ美人だったし」
「女性?」
「そ。確か送り主欄に名前が書いてあって・・・あ、この子。Akane Tって書いてある。あかね、ちゃんって子かな」
商人はそういって、「髪は短くて、色白で目がパッチリとしててね・・・男だったら確実にそそられるタイプだね」と説明をする。
「あかねちゃんが?」
そんな商人に対し、あかねの見てくれはさておき、東風は黙り込む。
・・・荷物が小さいと言う事は、自分の持っていたものを先に国へ送ったわけではなさそうだ。
第一、あかねは旅立ちの際鞄をちゃんと持っていた。
あかねの持っていた鞄の中身・・・そう、殆どに持つなど入っていなかった事を知らない東風は、どうしてもそれが理解できなかった。
すると、
「とにかく、荷物三つ分の送料があと四十五リラ足りなくて。本当はセルラに送る荷物は三十リラで良かったんだけどさ、近頃海も物騒になって送料が値上がりしていたのを忘れちまったんだよ。あの子には悪いことしちゃったんだけど・・・」
商人はそういって、送料が足りなかった経緯を説明して頭を下げた。
東風はとりあえず四十五リラをその商人に渡すと、
「あの・・・あかねちゃんは誰に荷物を送ってますか?」
と、商人に尋ねてみた。商人は一瞬話すのを躊躇するも、
「えーと・・・三人ともセルラ大陸の人で、一人がSoun Tさん。で、もう一人がKasumi Oさん。あと一人がセルラのティルトンではなく別の街で・・・Mrs Nabiki、さん?」
と荷物の伝票に書かれていた名前を読む。
「ソーウン?それ、誰あるか?」
「さー・・・でも、カスミっちゅうのはあかねちゃんのお姉さん、なんやろ?確か先生の奥さんて人」
その名前をそばで聞いていたシャンプーと右京は暢気にそんな事をぼやいているが、
「お義父さんに・・・?」
東風だけは、その三人の名前を聞いてから更に、考え込んでしまう。
・・・あかねが船旅を終えてセルラのウォータークール港に着いた時、義父でありあかねの父である早雲が、そこであかねと落ち合うことになっているはずだ。
あかねが旅立ちの前に、連絡しているはずなのだ。
だからわざわざ船便で贈り物を家に届けさせなくても、見た限りポケットにでも入りそうなほど小さな荷物なのだから持っていて会った瞬間に渡した方が遥かに早いし手間も省けるはずなのに。
かすみとなびきにしてもそうだ。
離れて暮らしているなびきはともかく、かすみは同じ町に住んでいるのだから、きっとあかねが旅から戻るとなれば早雲に呼ばれてあかねの家で待っているはずだ。
かすみにだって、直接渡せばいいのに・・・なぜ?
「・・・ちょっと、その荷物を触らせてもらっても良いですか?」
「え?そりゃ構わないけど、包装はあけないでくださいよ」
「勿論」
東風は、商人からあかねが送る予定だった荷物を三つ、受け取った。
どれもこれも、鞄やポケットに忍ばせても全く苦にならないものだ。
何故それを、わざわざ三人に送ろうとしていたのだろうか・・・
「先生、そろそろいいかな?」
「え?あ、ああ・・・ありがとう」
「直行便だと今度は二週間後だし、それまでに何とかセルラに行く船があったら乗せてもらえるように頼んでおくよ。あかねちゃん、て子によろしくお伝えくださいよ」
そんな風に荷物を持ったまま考え込む東風から、商人は荷物を取り返すと、そういって頭を下げ、医院を出て行った。
「あかねちゃんのお父さん、早雲さんて言うんやねえ」
「船便の送料が急に上がったの、きっとラビィのせいで魔物がこの辺りに増えたせいある。物騒な世の中ね」
商人が出て行った後、右京やシャンプーはやはり暢気な事を呟いては世間話をしてたが、
「・・・」
東風だけはどうしても、荷物の事が気になって仕方が無かった。
とそこへ、
「おう、先生。悪いけど薬を処方してくんな」
カランカラン・・・
医院のドアが開き、一人の男性がやってきた。
割と高齢だが、ガタイはしっかりとしていて色黒。そして海の町特有の粋な喋り方。
ただ、ガッシリとした身体とは相反し、その身体を小さく丸めてコホコホと咳き込んでいる。
あからさまに、具合が悪そうだ。
・・・
「オレンさん!今日は乗船予定なんじゃ…!」
ただ。
東風は彼の姿を見て思わず大きな声で叫ぶ。
別に、乗船予定日にそれが出来なくてここに居ること自体を心配しているわけではなく、
東風は彼に、あかねのことを頼んでいたのだ。
まさかあかねがそれを勝手に断っているとは知らないので、東風はこう叫んだのだが、
「そうだったんだけど、どうにもこうにも具合が悪くてなあ、若いもんに変わってもらったんだよ」
「!じゃあ、あかねちゃんはその人に?」
「何言ってんだよ、先生。あのお嬢ちゃんなら、もう体調も治ったから世話はいらないって、この間俺のとこにきたよ」
「何ですって!?」
「先生がそう言ったんだろ?お嬢ちゃんはそう言っていたけど」
「・・・」
オレンの口からその事実を知らされた東風は、複雑な表情で口を閉ざす。
・・・何故だ?
何故わざわざ東風に嘘までついて、オレンの援助を断る必要があったのか。
東風にはあかねの心内が全く分からなかった。
体調や視力のことを考えて、誰かに乗船中の面倒を見てもらうことは全然おかしいことではない。
時に剣を拾い損ねたり、細かいものが見えないほどの視力の低下。
長い船旅は身体にも負担になるし、それを考えると同行者が居ない以上は気にかけてくれる人物が居てもおかしくないのだ。
東風はそう思ったから、オレンに頼んだ。
それなのに、何故それをわざわざ断る・・・?
「・・・」
東風は暫くそれを考えていたが、その内ふと、思うことがあった。
・・・あかねは、東風に嘘をついてまでオレンの援助を断った。
ということは・・・
「・・・」
・・・船がついた後、向こうの港に父親の早雲に迎えに来てもらう手はずになっているのだが、
その連絡に関し、あかねは自分で行うと東風に言った。
あの時東風は「久しぶりに父と話したい」というあかねの気持ちを尊重して全面的に彼女にその連絡を頼んでしまったのだが、
もしやそれも連絡をしていないのではないか・・・?
「・・・!」
東風は、そこまで考えると意を決したように唇を噛んだ。
そして、
「先生、悪いけど薬を処方してくんな」
コホコホ、と相変わらず咳き込んでいるオレンをとりあえず診療室に招き診療台に寝かせると、
「シャンプーちゃん、ちょっと」
「何あるか?」
「悪いけど、オレンさんに治癒魔法を施してくれないかな。背中と、そして胸の辺りに少し魔法を施せばすぐに体調が良くなるはずだから」
東風とオレンの様子をぼんやりと眺めていたシャンプーを呼び、そう依頼をした。
「それはいいあるが・・・医者がいるのに患者に治療しない、何事か?」
勿論事情が飲み込めないシャンプーは、治療行為自体は可能であるので引き受けつつも、東風の行動に対して首をかしげる。
「ちょっと急用が出来たんだ、少ししたら戻るから・・・お願いするよ」
「分かったあるが・・・」
「オレンさん」
東風は、シャンプーにきちんと依頼をした後に再び、診療台に寝かせたオレンに話かけた。
「オレンさん、僕は急用ができてしまったので外出をしなくてはいけなくなりました。治療の方は、彼女にお願いしたので、安心してください。彼女は、治癒魔法を使えることが出来るので、すぐに良くなりますよ」
「そうかい、それはすまねえな。先生も気いつけて出かけてきな!」
「はい」
そして、オレンと、彼のことを頼んだシャンプーに一度頭を下げてから足早に診療室を出て医院から出た。
「先生、急にどうしたんやろか?足りない医療道具でもあったん?」
「さあ・・・それは分からないあるが、頼まれた以上私は治療に勤しむある」
シャンプーと右京は、慌しく出て行ってしまった東風を見送りつつそんな事を呟くが、それをここで突き止めても仕方が無い。
「さ、治療を始めるある。上半身、服脱ぐよろし」
「おう。姉ちゃん頼むぜ」
「・・・じゃあうちは、みんなの分の朝ごはんでも作ろか」
なので、シャンプーは東風に頼まれたオレンの治療に、右京はこれから戻ってくるみなの為に朝食の準備をするべく、台所へと引っ込んだ。
…そして慌しく医院を飛び出た東風は。
「…」
あかねちゃん、一体どうしてなんだ?
何でわざわざ、自分の身が危険になる方向に物事を運ぼうとするんだ。

普段は冷静沈着な東風が、朝のヒルダの街を港に向かって駆け足で進んでいた。
船には乗ってしまっているので、すぐには彼女に問いただすことはもう出来ない。
でも、みすみす危険だと分かっているのにこのままほうっておくわけには行かない。
「…」
何とかして、港で船に連絡を取る方法を見つけなければ。
東風は、連絡を彼女に任せてしまった自分の責任を胸に感じつつただひたすら、港へと走っていった。

同時刻。
ウォータークールへ向かう船の船室の一つで、あかねはものも言わず一人、椅子に座りこんでいた。
乗船直前にあふれ出して止まらなくなった涙。
それをどうしても見られたくなくて、そしてこれ以上顔を見ていたら逆に「怖さ」が増していってしまいそうで…乱馬が港で見送ってくれているのを承知はしていたが、甲板に出ずに一人、こうして船室に篭り泣いていたあかね。
船も出港して三十分以上経てばようやく少し気持ちが落ち着き、目は真っ赤ではあるが、ようやく泣き止みこうして一人、静かに時を過ごしていたのだ。
船には他の乗客も居るが、船室は幸いなことにいくつもある。そして、最初からただならぬ様子で部屋に篭っているあかねに気を使ってか、他の乗客はあかねのいる船室を避けて、どうやら過ごしてくれているようだった。

「…」
…とうとう、一人になる時が来た。
実際にはコロンが言ったように、『乱馬と喧嘩をして旅を離れる』訳では無いけれど、でも一人パーティから離脱したのは確か。
だとしたら、後は『事故』に巻き込まれるのを待つ形になるのだが…
「…」
とにかく、自分以外の人に迷惑をかけるわけにはいかない。
だから、面倒を見てくれる船員や、父の迎えは断った。
準備は、万全だった。でも…
「…」
あかねは、静かに自分の身体を抱き寄せるようにして身を縮める。
カタカタ、と震えている身体。どんなに強く自分で抱き寄せても、その震えが止まることはない。
確実に、時が迫っている。それも、いつ、どのようなタイミングで来るかは分からない。
目には見えない恐怖が、あかねを包んでいた。
そんなあかねの細くて華奢な腕先で、シンプルな真っ赤な皮のブレスレットが揺れているのが見えた。
それは、乱馬に少し前に貰ったもの。そして、他の何は失っても、これだけは絶対に手放さないと…手荷物をひそかに処分した時も、除外して考えていたもの、だ。
「…」
あかねは、そのブレスレットにそっと指で触れてみた。
脳裏に、このブレスレットをくれた時のことと、そして腕にはめてくれた優しい彼の姿が過ぎる。
「…」
…ああ、もしも。
もしもこんな運命を辿ることなどなく、ずっと一緒に旅をしていけたというのなら、ちゃんと答えてあげたかった。
『俺を、待っていてくれますか?』
その言葉の重みも、そしてそれを口にする彼の気持ちを分かっているからこそ、答えたかった。
『はい』という返事を。
そして、自分の気持ちを…
「…」
…乱馬は、答えをはぐらかした自分の事を実際はどう思っただろうか。
旅の当初、『結婚相手を見定めたいから』と強引についてきたあかね。
いろいろあって、帰る事になって…その間際に彼がきちんと、プロポーズをしてくれたというのに。
その答えを返さなくてはいけないときに、明確に返事をしないまま旅立つあかねのことを、彼はどう思っただろうか。
「…」
守れない可能性の大きい約束は、するわけにはいかない。
でも中途半端にはぐらかしてしまったら、心に残ってしまうかもしれない。

最後、繋いだ手のぬくもりがどうしても愛おしくて、胸に押し込んでいた恐怖心が抑えきれなくなって、彼に強引にキスをしてしまったこと。
あんな事をしてしまっては、よけいにあかねが命を落とすことがあった時、彼の心に残ってしまうかもしれないのに…
「…」
自分は、最低だ。
やはり、見送りはいらないと強引に一人で医院から出て行けばよかった。
「…」
あかねは静かに俯くと、再びぽつり、ぽつりと涙を流し身体を震わせていた。

と、その時だった。

ドオオオン!!
「きゃっ…」
それまでゆったりと大海原を進んでいたはずの船が、轟音と共に大きく、横揺れをした。
ガタガタ、とあかねが座っていた椅子も左右に揺れ、もともと身体が軽いあかねは床へと転がってしまう。
「な、何…?」
あかねは転がった床から急いで立ち上がり、壁に手をついてバランスをとった。
パラパラ…と船室の天井からキナクズが落ちてくる。
轟音はもう聞こえないが、微かに船自体は横揺れを続けているし、それに甲板の方からは、
ドドドド…
ドドドド…
と、何やら慌しく人が走る音が聞こえる。
「…」
…一体どうしたのだろうか。船でも座礁したのか?それゆえに船員が、走り回っているのだろうか。
「…」
これが、コロンがあかねに話した「事故」になるのか?
でもこれくらいの衝撃では、命を落とすほどあかねがダメージを受けるとは思えない。
それとも、この衝撃が原因で船が沈む?
「…」
実は、泳ぎが苦手…というかカナヅチのあかね。
なので海へ落ちることがあれば命を落とすだろうとは覚悟をしているが、先ほど受けたくらいの衝撃ではこの船が沈むとは思えないし、それに船員の指示に従えば救命ボートなどに乗ることも可能。
どう考えても命を落とすほどの事故になっているとは思えないのだが…
「…」
甲板に、様子を見に行ってみようか。
何か出来る事があるのならば、自分も船員の手伝いをしよう。少しでも、誰かの役に立つような事をしてはおきたい。

あかねは腰にさしている鞭をぎゅっと握り締めて船室を出ると、
「船、揺れてるねえ…」
「どうしたんだろうねえ…」
そんな風に他の船室から顔を出している乗船客達を横目に、ゆっくり、ゆっくりと甲板へとあがっていった。

が。

「なっ…!!」
ゆっくりと甲板にあがったあかねであったが、到着した瞬間、目の前に広がる光景に言葉を失い呆然とした。
…のんびりと大海原を進んでいたはずの船は、
「ギャー!!ギャー!!」
「グワアアアア!」
仰々しい声に醜い姿。そして獰猛な動きの巨大な魔物たちに占拠されていたのである。
ギャーッ!!…ギャーッ…!!
不気味な嘶きを上げ蠢く魔物たちが、甲板に居た船員や乗客たちをまるで人形ででも遊ぶかのように爪で傷つけ倒していく。
磨き上げられた綺麗な木の床に広がる、鮮血のたまり。
その中に無数の人々が折り重なるように倒れていた。
おそろいの服や鞄、ブレスレットなどを身に纏っていたカップルも、手を繋いだまま逃げようとしたが逃げ切れなかった老夫婦も…そして、東風の所の健康診断で見かけたことのある漁師や、船員も。
皆、血だまりの中で真っ赤に染まり動かない。既に、事切れているようだ。
どうやら先ほどの横揺れの衝撃は、船が座礁したのではなく魔物の襲撃を受けた為に起こったもののようだ。
慌しい足音は、人々が魔物から逃げ惑う音だったのだろう。
悲鳴が聞こえなかったのは、悲鳴を上げる暇さえないほどあっという間に、人々が殺されてしまった為か…。
「あ…あああ…」
旅での戦いでも、このような惨状は見たことが無かった。
あかねは、ヘナヘナと甲板の入り口で座り込む。
辺り一体、血なまぐさい特有の匂いが漂っていた。それがあかねの胸を突き一気に体調不良に拍車をかける。
魔物たちは、既に事切れて動かなくなっていた者達までも食らおうと、血だまりのなかを蠢いていた。
あまりの凄惨な現場ゆえに本当はすぐに逃げ出したかったのだが、意思に反して竦む身体が動いてはくれない。
あかねはせめて目だけは避けようと、顔を背けぎゅっと目を瞑る。
そんなあかねの背後、あかねが今までいた船室のある方角からは、
「きゃー!!」
「やめ…助けてくれー!」
「ぎゃー!」

先ほどあかねが船室を出る時に、まだ他の船室には人がいた。
その人々が、今度は魔物に襲われているようだ。船室の方からはドオン!という爆音と、ドタドタと人が逃げ惑う足音に悲鳴が聞こえるが、それもすぐに止んでしまった。
魔物は、船の側面を破るようにでもして船室へと入り込んだのだろう。
船室から逃げるには、今あかねが座りこんでいる場所へと走るしかない。が、一行にそういうものが居ないという事は、船室に居た人々も全て魔物の手にかかり事切れたに違いない。

目の前には、血だまりの中倒れる人々。背後には、悲鳴が聞こえた後反応のない人々。
…生存者を探す方が、難しい状況なのかもしれない。
船は、いつの間にか海原を進まずにその場で漂流しているかのようだった。恐らく、操縦していた船員も襲われたのだろう。
しかも、船室を魔物が襲った際に船の側面に穴を開けている為に、ゆっくりではあるが船が傾き始めていた。
この船は、その内…沈没すると思われる。
「おばあさんの言っていた事故って…これのこと」
あかねは、震える身体を振り絞ってそう呟いた。
船が座礁する事が事故、なのではなく、
船が魔物に襲われ乗員は死亡、そして船は大海原に沈没…それが、コロンの言っていた「事故」だったのか。
ならば、あかねはこのまま魔物に食われて死亡するのか。もしくは、沈没する船と共に海に消えていくのか。
どちらにせよ、泳げないあかねにはあまり明るい逃げ道は残っていない。
と、
キシャー!!
グアアアア!!
…そんな事を考えながら床にへたり込んでいたあかねに気づいた魔物たちが、標的を今度はあかねに変えるべく
血だまりから外に出て、不気味な声で大きく嘶いた。
そして、鋭く大きな爪で、あかねを目掛けて飛んできた。
「い、いや…いやああ!!」
…コロンの占いどおり、あかねはここで命を落とす運命なのかもしれない。
でも、このままただ大人しく、魔物の爪にかかって命を落とすのは嫌だった。
せめて最後まで抵抗して、逃げる暇も無く死んでいった者たちのためにも善処したい。
ただ魔物に襲われて人形のように死んでいくのは、絶対に嫌だ!
「…っ」
あかねは、震える手で自らの腰にさしていた鞭を引き抜き、身体の前で構えた。
柄に埋め込んでいるパワーツールの色は、薄いピンク色。
これならばまだ、十分戦える。
「くっ…」
ビュシュッ!!
あかねは自分を目掛けて飛んできた魔物に対し、力を込めて鞭をしならせそして振り落としてやった。
ギヤアアア!!
力の篭った一撃を受けた魔物は、大きく反り返るようにして一度、跳ね返っていった。
あかねは一瞬ホッと胸をなでおろしたが、そんな一撃で撃退できるような魔物であれば、この船をこのような惨状にすることはないのだ。
魔物は再びゆらり、ゆらりと起き上がると、先程よりも鋭く爪を伸ばし、そして不気味な声を上げながらあかねに向かってきた。
「っ!」
あかねは震える足を何とか奮い立たせて立ち上がり、自分に向かってくる魔物に鞭を振りながら、甲板を走り出した。
本当は船室方面へと逃げたかったが、そちらも今は魔物が居るし、それに出口がココしかない以上、そちらへ逃げるよりも甲板に逃げた方が良い。
甲板を走るあかね、そして鋭い爪を持ち追いかける魔物。
時折、床に広がる血に足をとられ床に転倒するが、あかねは必死に起き上がり甲板を走る。
その内、
「あそこっ…」
甲板の隅に設置されていた、コンテナ用荷物が積み上げられているスペースを見つけたあかねは、その部分へと走り出した。
そして、荷物の隙間、人が一人分入り込めるような通路を見つけて飛び込む。
「はあっ…はあっ…」
…本当は、こんな風に荷物の隙間の通路に飛び込むのは敵策ではなかった。安全かもしれないが、通路の入り口をふさがれたら逃げることが出来ないのだから。
これでは、船室に逃げ込んだのと同じ状態だった。
だが、
「…」
額ににじむ汗、そして震える足。
鞭をふり全力で走ったあかねの体力は、このままいつまでも逃げ惑うほど残ってはいなかったのだ。
あかねは手にしている鞭のパワーツールを見た。
「…」
少し走り鞭を振っただけで、既にパワーツールの色は青白く変化していた。体力の残りが残り少ないことを物理的にも物語っている。
だったら、ただがむしゃらに逃げるのではなく体力を温存しながら最後の瞬間まで抵抗しよう。
あかねはそう思って、意を決してこの場所に飛び込んだのだ。
そんなあかねの姿を、
ギヤアア!
ギヤアア!
…魔物達は目ざとく見つけ、不気味な声を上げた。
一匹は荷物の上側からあかねを狙い、爪を伸ばす。もう一匹は、通路の入り口であかねを狙い爪を伸ばす。
幸いな事に通路が狭く、そしてコンテナ用荷物が大きい為に魔物達はあかねの潜んでいるその通路の奥まではその爪を伸ばす事はできないが、
ドン!
ドン!
魔物達も、頭を使いそのコンテナ用荷物自体を崩してあかねを中から引きずり出そうと試みる。
魔物達の巨体が荷物に何度もぶつかり、通路の奥に潜むあかねの方へと、その荷物がグラリ、と揺れて傾いていた。
「!」
ギシ…ギシ…と軋み不気味な音を立てる荷物。
魔物の爪でし止められるのもそうだが、このまま荷物に身体を押しつぶされても、絶命する事は避けられない。
あかねは慌てて、揺れる荷物を両手で押さえた。が、そうすると今度は荷物が揺れてできた隙間から、魔物の爪があかねに向かって伸びる。
前から、そして上から…気をつけていないと、あかねの服や髪にその爪が触れていた。
爪に気を取られていると、荷物が揺れる。あかねは必死にその両方に気を使うように試みるが、
「っ…」
精神的にも肉体的にも、そんな事をしていれば追い詰められるのは必須。
あかねがふと足元に転がった鞭の柄を見ると、パワーツールの色は真っ白になっていた。
荷物を抑えている、ブルブルと震えた手。そして、魔物の爪や爪から出る瘴気で敗れていく衣服や傷つく肌。
ギヤアア!
ギヤアア!
そんなあかねに対し、形成逆転、とばかりに嘶く魔物の声。
体力が残り少ないあかねが魔物にしとめられるのはもう、時間の問題となっていた。
「助けて…助けて、誰かっ…」
それでもあかねは、体力減少と共に翳み始めた瞳からボロボロと涙を流し、必死で叫ぶ。
ココで命を落とす可能性も高いし、それにこの船に他の生存者かいるとはもう思えない。
でもそれでも、まだ死にたくない。怖い…人間として当然の感情が、切羽詰ったこの状況であかねの心の中を満たす。
とその時、
ドンッ…ドオン!!
…無常にも、あかねが必死に抑えていた荷物を、魔物が力いっぱい揺らして吹き飛ばしてしまった。
あかねの姿が、上と前方から狙う魔物にくっきりと映し出される。
「…」
背後は、壁だ。下へは床があるため逃れられないし、あかねにはもう逃げ道が無い。
ギイ…
あかねを上から狙っている魔物が、不気味な声で嘶いた。
あかねを前方から狙っている魔物も、ゆっくりと、あかねに向かって近寄ってくる。
チェック、メイト。
まさに八方塞。最後に抵抗を試みたいが、鞭は床に落ちてしまっている。
それを拾うために屈んだりすれば、間違いなくその瞬間、あかねは魔物の爪でやられるだろう。

そんなあかねに対し、魔物たちがゆっくりと爪を振り上げた。
「…」
…これが、私の最後、か。
抵抗はしたいが、もう逃げるチャンスもそして体力も残っていない。
そう感じたあかねは、ギュッと目をつぶった。
そんなあかねの目の奥に、今まで接してきた人々の姿が幾重にも重なり映し出されていく。
走馬灯。
人は命を落とすとき、それまで過ごしていた思い出を思い浮かべるという。
前にも一度、「T&Tアイランド」で小太刀と戦い命の危険を感じた時に、それがあった。
そして今度も…
「…」
家族や、友人、そして旅先で出会った人々。
そんな彼らの姿の最後に、あかねの瞳の奥にたった一人…くっきりとその姿をとどめて映し出された人物がいた。
あの時もそうだった。
最後の最後、あかねはその時彼の名を呟いていたっけ。

…ごめんね、乱馬。
ごめんね、大切な言葉にちゃんと答えてあげられなくて。
でも、守れない約束をしてこの先ずっと乱馬を苦しめるより、こうする方がいいと思ったの。

乱馬。
もしも、ね…もしもいつかあたしが生まれ変わることがあるならば、あたし絶対にまた、乱馬に会いたいな。
だけど、その時はもうきっと、乱馬は王子、ではなく王様になってるよね。
そしてきっと、国で他の誰かと幸せに暮らしているんだろうな…。
もう一度どこかで巡り会う事が出来たとしても、乱馬は今のようにはきっと、あたしを思ってはくれないでしょう。
それは、覚悟しているつもりだから。
でもあたし…乱馬があたしの事をいつか忘れてしまっても、忘れない。
別れ際に約束したように、あたしの心はずっと、ずっと乱馬のものだから…

「乱馬…」

…ギシャアア!!
魔物の爪があかねに振り下ろされる瞬間、あかねは零れ落ちる涙と共に彼の名を呟いていた。
そしてその直後…辺りにグシャリ、と鈍い音が響き、目の覚めるような鮮血が肉片と共に飛び散った。


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