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迫りくるもの

「え?!あかねちゃん、ほんまに国に帰るん?」
「あかねさん・・・」
「そうあるか・・・」
翌朝の、朝食のテーブルで。
あかねは皆に自分が国に帰ることになったことを告げた。
勿論他のメンバーはそれに対し少なからず驚いた反応を見せたわけだが、昨晩また眠ることが出来なかった乱馬は、何も言わずただ、その話を聞いているだけだった。
そしてその様子を見ていた東風もその場では何も言わなかったが、
「王子・・・よくご決断されましたね」
「・・・」
「お辛かったでしょう。ですが・・・きっとこうすることが二人の為にも良い。貴方達の未来はまだ長い」
食事を終えて食堂を出て行こうとする乱馬を東風が呼び止め、そう告げた。
「・・・それよりも、あかねが国に帰るまでの旅路、安全でいられるように必ず手配をしてくれ」
「勿論です」
「絶対に無事に、国へ送り届けるんだ・・・その為なら、どれだけ労力を必要としても構わない」
乱馬は東風にそう強く告げると、今自分が出てきた食堂の方をゆっくりと振り返った。
食堂の中では、食事のあとかたづけをしている右京と、そしてテーブルを拭いているあかねの姿が見えた。
先ほども自分が国に帰ることを告げた時は笑顔だったし、今も右京と話しながらテーブルを拭いているあかねは笑顔だ。
だが、その目がまだほんのりと赤いことくらい、いつもと違うことくらい、乱馬にはすぐ見破れた。
多分、泣いていたのだ。昨日、あれから。
あかねのことだから、誰かにそれを悟られたくなくて必死で目を冷やして誤魔化したつもりかもしれないが・・・。
「・・・」
・・・昨日、あかねにあんな酷いことを言って傷つけたのは十分承知だった。
でも、ああするしか方法はないと思ったし、ああでもしなければあかねも納得してくれなかっただろう。
勿論、あんなことを言ったのは本心ではない。
それも、きっとあかねはいつか分ってくれる・・・乱馬はそう思いたかった。
「・・・」
乱馬は、再び食堂へと入り、テーブルを拭いていたあかねに近寄っていった。
そして、
「あ、あのさ・・・・・・」
別に昨日の事を弁解するわけでもないが、乱馬はあかねに何か話しかけようと試みるが、
「・・・私、出かけてくる」
「え?」
「色々と準備したいものがあるから・・・行ってきます」
あかねは、そんな乱馬の顔を全く見ないままそう呟くと、
「右京、テーブルダスターここに置いておくね。あたし、準備もそろそろ始めなくちゃいけないし、出かけたいの」
「あ、そうなん?気いつけてな」
「うん」
ダスターをテーブルの上に置き、乱馬の横をすり抜けるように食堂から出て行ってしまった。
「・・・」
そんなあかねの様子に。乱馬の胸には言いようのない不安がよぎる。
まだ、色々と心の整理がついていないだけなのか?
それとも、あんな事をするような乱馬に対して、腹立たしい云々ではなく、寧ろ嫌いになってしまったとか・・・。
・・・
「ん?乱ちゃん、どうしたん?」
と、そんな乱馬に気がついた右京が、あかねの置いていったダスターを取りに気がてら乱馬に声をかけてきた。
「別に」
乱馬はそんな右京にぼそっとそう答えると、
「なあ乱ちゃん、今日も自由行動なんやろ?うち、ヒルダの商人連中が集まっている場所とか覗いてきてもええ?」
「あ、ああ・・・」
「あかねちゃんの出発、三日後やろ?せやから何かプレゼントしてやろおもって。商人連中やったら、何かとええもんを安い値段でゆずってくれそうやしね」
右京は明るい口調でそういうと、そそくさと食堂から出て行ってしまった。
「・・・」
・・・プレゼントか。でも俺は流石にそれをするわけには行かないな。
「・・・」
それよりも、何だかあかねとギクシャクしてしまったような雰囲気を感じ取っていた乱馬は胸が苦しくて、何だかそわそわと落ち着かなかった。
きっと、あかねならば分かってくれるはず。
そう思ってあのようなことをしたけれど・・・本当に分かってくる日は、来るのだろうか。
先ほどの様子を見る限りだと、確実に来る、とは言えない様な気がする・・・。
・・・
自分がしたことは、あれで良かったのか?・・・何だかそこから考え直してしまうようにもなる。
せっかく、悩んで、決心をして行動を起こしあかねも国に帰る、という返事を貰ったのに。
「・・・」
・・・良かったんだ。良いはずだ。ああでもしなければあかねは、納得しなかった。
でも・・・
「・・・」
自分は正しい事をしたのだ。
乱馬は、自分に何度もそう言い聞かせながらも、知らず知らず大きなため息をついていた。

その頃あかねは、自らの部屋で自らが旅の為に持ってきていた着替えの服や、小物、アクセサリーなんかを旅行かばんとは違う袋へと詰めていた。
そう、あかねは荷造りの為に荷物を詰めているわけでもない。
それらのものをある場所に持っていくために荷物を詰めていたのだ。
先ほどは、乱馬に「色々と準備があるからでかける」といったあかね。
でもそれは国に帰るための旅路の準備ではなく、ここを旅立つにあたり殆ど手荷物を無くす為の準備であった。
・・・ここを出たら、もう国へは帰れないかもしれない。
ならば、極力最小限の荷物で誰にも迷惑をかけることなくその時を迎えたい。
そう、思ったのだ。
「・・・」
・・・正直言って、昨夜の乱馬の言葉はあかねの心に深く、深く傷を残した。
でも、乱馬に「邪魔だ」といわれてしまったのならばどうにもならないと・・・それも分かっていた。
迷惑をかけないようにサポートをするつもりが、いつの間にか足を引っ張っていた。
何も出来ないから邪魔だと、ハッキリ言われてしまった。
今まで至らなかった事に対し、挽回したい気持ちはあった。
そうするチャンスも欲しかったし、色々と策を講じようと頑張ろうと思った。
でも・・・それを与える暇も、待っている余裕もないと彼には言い切られてしまった。
・・・
ならば・・・そんな彼に自分が出来ることは、潔く彼のいうことを聞き彼の前から消えることしか、出来ない。
「・・・」
このパーティから抜けて一人、国へ帰る。
それが、自分にとってどういうことになるのかをあかねはよくわかっていた。
乱馬を含めた他のメンバーには、ただの帰国にしかならないが、でもあかねにとって国に帰ることはもっと別の意味をもつ出来事であった。
数日後、自らの国に帰るウォータークール行きの船が出る。
それに乗り込み皆から離れ一人になった時・・・あかねの時間が止まる可能性がとても高かった。
「・・・」
・・・その時は、もうそこまで来ているんだ。
そう思うと、急にあかねの胸に陰がさす。
怖い。
怖い・・・怖くて仕方が無い。でも・・・
「・・・」
もうきっと、乱馬の傍から離れ自分が辿るこの運命は、変えることが出来ない・・・。
「・・・」
油断をすると、所構わず泣き出してしまいそうだった。でも、泣いた所で状況が変わるわけでもない。
あかねはギュッ・・・と唇を噛み締めると、袋につめたその荷物を持ち、街へと出て行った。
そして、
「おやまあ、良いのですか?このように綺麗な服やアクセサリーを・・・」
「はい・・・私にはもう必要がないのものですので。ご迷惑でなければ、可愛い女の子達に着て欲しいなと」
「迷惑だ何てとんでもない!物価も高いこの街で、しかもこの服の布・・・セルラ大陸の布ですわね?珍しいし、大喜びですよ、皆も」
・・・荷物を持ったあかねは、街にある教会へと真っ直ぐ向かった。
東風の所と違い、教会の中には孤児院や学校を併設している所もある。
あかねは自分の持っていた衣服やアクセサリーを、全てそこに寄付しようと考えたのである。
「本当に宜しいのですか?随分と量もあるのですが・・・」
「はい、構いません」
「ありがとうございます、本当にありがとう」
ヒルダの街は商業で栄えてはいるが、その分家庭環境も複雑な家庭も多く、孤児も少なくはない。
ヒルダほどではないが、以前訪れたウォータークールの街でも、キリトとランゼは街中の孤児と共に生活をしていた。
その時もあかねは、何とも居た堪れない気分になっていたことを、昨夜部屋に篭りながらふと、泣きながら思い出したのだ。
そうなのであれば、
自分のこの洋服やアクセサリー、小物・・・自分はもう使わない可能性が高いわけだし、かといって古いわけでもなくまだまだ使えるものなのであるならば、捨てるのではなく有効に使ってくれる人たちに使って貰った方が双方の為に良いと、そう思ったのだ。
・・・乱馬には、自分は役に立たない存在かもしれない。
でも、もしもどこかに自分が出来る事がまだ残っていると言うのなら、
最後に一つでも、乱馬のためではなくても、それがしたい・・・あかねはそう思っていた。
「本当にありがとうございます。あの、宜しかったらお名前を・・・」
「いえ、名乗るようなものではないですから・・・」
あかねはシスターに笑顔で頭を下げると、孤児院を後にした。
この時点で、服やアクセサリー、小物などの行き先は決まりあかねの手元から離れた。
でもまだあかねには、色々と出発までにしなくてはいけないと考えていたことがある。
あかねは空になった荷物袋を畳んでポケットに入れると、次の場所へと向かった。
「・・・この髪飾りを下さい」
「はいよ!あれ、でもお姉さん髪の毛短いよね?これ長い髪用の飾りだけどいいの?」
「ええ・・・姉にプレゼントしたいの。姉は髪が長いから」
「ああ、なら安心だね」
「あと、こっちのシガーと金貨ケースを。父と、もう一人の姉に贈りたいの・・・」
「はいよ。じゃあお姉さん美人だから、おまけしてあげようかな!」
「ありがとう」
あかねは次にヒルダ中央にある市場へと出かけ、国にいる父・早雲と東風の妻でやはり自国にいる姉・かすみ、
そしてすでに嫁に出て遠くの国で暮らしているがもう一人の姉に、品物を買った。
無論、買った品物をあかねが直接彼らに渡せる可能性はかなり低い。
なのでこの場、この店よりで直接彼らに贈ってしまおうと、思っていた。
面と向かって、もう話す事は出来ないかもしれない。手紙を書いたところで、間に合わないかもしれない。
ならば、せめて今まで育ててくれたお礼と、感謝の気持ちを込めて何かを贈らせてもらおう・・・それがあかねの心内であった。
「えーと、二つがセルラ大陸のティルトンと、一つだけがセルラ大陸の・・・ネドフィールドの町へ送ればいいんだね?」
「はい」
「じゃあ確かに預かったからね。あ、そうそう・・・これを一応書いてね」
「?」
あかねは、店員から伝票のようなものとペンを渡された。
どうやら荷物を贈る際には、一応は送り主の住所が必要のようだ。
あかねは少し迷ったが、ティルトンの自分の住所ではなく、もし一両日中に何かがあった時のことを考え、東風の医院の住所を書いておいたた。
そして、控えの伝票を受け取ると市場を出る。
自分の荷物の処分、そして育ててくれた父と、大好きな姉達への感謝を込めた贈り物。
「・・・」
お父さん、お姉ちゃん・・・
「・・・」
怖い・・・
・・・
あかねはぱたりと歩く足を止めると、そっと目を閉じた。
手に握った送り状の控え伝票にポタリ、ポタリと水滴が落ちていく。
「・・・」
・・・泣いたって、もうどうにもならない事は分かっている。時は、刻一刻とその瞬間へ近づいている。
それは、どうしても一人で迎えなくてはいけないのだ。
あかねは潤んでいつも以上に翳んでいる瞳を手の甲でごしごしと擦ると、涙が完全に乾くのを待ってから医院へと戻っていったのだった。

それから、一時間ほどして。
「やあ、お帰り・・・あかねちゃん」
ようやく涙も乾き、真っ赤になった瞳も通常の色に戻ったあかねが医院に戻ると、東風が笑顔で出迎えてくれた。
東風にしてみれば、国に帰る=治療を専念して受けることを納得したあかねの体調が気になる所なのだろう。
「朝から出かけていたみたいだったから、ちょっと心配していたんだ」
「先生・・・」
「体調はどうだい?」
「大丈夫です・・・先生、そんなに心配しないで。私大丈夫だから・・・」
「でも・・・」
「ううん、本当に平気」
あかねは、自分を心配そうな表情で見つめる東風にわざと笑って見せた。
東風もその笑顔に少し安心したのか、「そうかい」とあかねに返す。
あかねはそんな東風に頭を下げてそのまま部屋に戻ろうとしたのだが、
「あ、待ってあかねちゃん」
「はい・・・?」
「あのね、ウォータークールの港から国に戻るまでのことなんだけど・・・」
「・・・」
「君と同行する人が必要じゃないかなって思うんだ。それでね、僕はそれをお義父さんにお願いしようと思うんだけど、それでいいよね?船の中でのことは船員さんにお願いしておいたよ、僕のほうから」
東風は、そんなあかねを再び呼び止めてそう、あかねに尋ねた。
東風は、あかねが向こうの港についたあとのこともしっかりと考えているようだ。
「・・・」
あかねはそんな東風の言葉に一瞬考えたが、
「あ、じゃあ・・・わ、私から直接父に連絡を取ります」
と、すぐに東風にそう提案をした。
「え?でも・・・」
東風はそんなあかねに一瞬戸惑いを見せるも、
「いいんです。久しぶりに父とも話したいし・・・」
「そうかい。じゃあお義父さんへの連絡はあかねちゃんにお願いしようか」
あかねの「父とも話したい」の言葉を信じ、あっさりとそれをOKした。
そんな東風に対しあかねは、
「あのっ・・・先生」
「ん?なんだい?」
「あの・・・船の間のことを船員さんにお願いしたって今、言ってたけど・・・それは誰なんですか?」
先ほど東風がチラリと洩らした、船の間のあかねの面倒見役の名前も質問をしてみた。
「オレンさん、という船員さんだよ。港の中では顔も利くし、頼りになる方なんだ。だいぶ年配だけど、船員や漁師達も一目置いているんだ」
東風はあかねの質問に足し、屈託ない笑顔ですぐに答える。
「先生、私そのオレンさんにご挨拶してきます」
「そうかい?じゃあ僕からも宜しく伝えてもらえるかな?」
「はい」
あかねは、笑顔の東風に自分も笑顔を見せるようにしてそう答えた。
東風はそんなあかねの笑顔に少し安心したのか、診療室の方に戻っていった。
あかねは東風の姿を「ありがとう、先生」と声をかけながら笑顔で見送ったのだが・・・その笑顔の裏側、心の内側では、全く別の表情をしている自分の存在に気がついていた。
・・・あかねがオレンに会いに行くのは、東風には「挨拶に」といったのだが本来はそれが目的ではなかった。
あかねは、東風が頼んだ自分の世話の話を断ろうと思ったのだ。
コロンがあかねに以前から言っているように、あかねはやがて光を失いそして仲間と離れ一人になったところで事故か何かに巻き込まれて命を・・・となる可能性が非常に高い。
・・・
・・・であるならば、人には極力迷惑をかけたくないと思ったのだ。
事故に巻き込まれる、ということなのでもしかしたら海に落ちたりするのかもしれない。
突如起こる事件に巻き込まれて、もしかしたら更に怪我をするのかもしれない。
どちらにせよ、消えつつある命に労力を使わせたくはなかったし、必要以上に誰かに迷惑や心配をかけたくなかった。それゆえにあかねは、自分の荷物も処分をしたのだ。
・・・
あかねは再び医院を出て、今度は港へと向かった。
そして、船員や漁師が集うという酒場を何とか辺りの人に聞きだしたあかねは、そこでオレンという人物を探した。
が、東風が言っていたような年配の船員はすぐに見当たらない。それどころか、
「あれ!東風先生のところのあかねちゃんだ!」
「うおお!本当だ!」
先日の健康診断で顔を合わせたことのある若い漁師達にさっそく囲まれ懐かれてしまったのだが、
「あ、あの・・・オレンさんという方にお会いしたいんですが・・・」
「え、オレンの爺さん?ねえねえ、それよりもさ、一緒にこれからどこか行こうよー」
「ご、ごめんなさい・・・私、オレンさんにどうしても用事が・・・」
「ちぇっ、羨ましいなあ爺さんのヤツ!確か爺さん、今日は・・・」
何とかオレンの場所を聞き出して、あかねは彼がいるという場所に連れて行ってもらった。
どうやら今日は、海に出ているわけでも酒場にいるわけでもなく、港の休憩所で寝ているようだ。
「あの・・・オレンさん」
「?あんた、誰だ?」
コホコホ・・・と咳をしながら、オレンはあかねの姿を見て横になっていた床から身体を起こした。
東風も言っていたが高齢、ということもあり少しの体調不良が最近ではかなりの大打撃のようだ。
「私・・・東風先生のところでお世話になっているあかねといいます」
あかねはオレンに簡単に自己紹介をすると、
「先生に私のことを頼まれたと聞いたんですが・・・」
と早速切り出す。
「ああ、そうさ。ただ俺も風邪を引いちまってもしかしたら当日、船に乗れねえかも知れないんだよな。だから、あんたのことは別の若いもんにでもお願いしておくから、安心しろな」
オレンは、コホコホと咳き込みながらあかねにそう説明をしてくれたが、
あかねにしてみればその話の内容はかなりのラッキーである。
「その件なんですが・・・実はもう体調の方も良くなったんです。だから、特に気をつけていただいたりしなくても大丈夫だって、伝えにきたんです」
「え?でも先生は昨日・・・」
「先生に今日診てもらったら、もう問題ないって。だから・・・」
「ああ、先生がそう言ったのならば大丈夫だな。まあ手間がかからないようにしてくれるのならばそれはそれで助かるよ。体調が急変したときにはそれなりに対応できるように人員も配置しておかなくてはいけないから」
「はい。ですので、私のことは何もしなくて大丈夫ですから」
「了解だよ」
オレンはあかねの話すことをすっかり信じてそう呟いた。
あかねはそんなオレンに笑顔で礼をすると、「お体お大事に」と最後に声をかけて休憩室を出た。
そしてしばらく道を歩いた後・・・パタリと立ち止まって大きなため息をつく。
そんなあかねの顔には、先ほどオレンに見せていたような笑顔は無い。
・・・
「・・・」
これで、良い。あかねは心の中で小さく呟いていた。
船の中で誰にも迷惑をかけずに済むように、面倒見も断った。
もう二度と会えないかもしれない家族への、感謝の気持ちをこめた贈り物も頼んだ。
自らの身辺整理として、持って来た荷物もほぼ処分をした。
あとは・・・いかに誰にも迷惑をかけず、静かにその時を迎えるかだけだろう。
「・・・」
・・・怖い。
でも、邪魔である以上はここに居ることは出来ないし、それに・・・
『お前に何が出来る?帰ってくれることが、お前が今一番すべきことだ』
・・・
昨夜の乱馬の言葉が、あかねの耳から離れなかった。
彼の為に頑張りたい、そう思っていた自分と周り、そして乱馬との距離はとてもあっただなんて。
足を引っ張るわけにはいかない。
・・・何も出来ない人間を待ってもらえるほど余裕も無い旅。旅立ちの当所のように、「結婚相手を見定める」とか、そういう理由だけではもう、この旅には同行できない。
一番大切な人の一番役に立つことが自分が去ることだというのならば、そうする事が良いに決まっている。
「・・・」
寂しいとか、怖いとか。そういうのはもう、自分の中だけで解決するしかないんだ。
あかねは何度も自分にそう言い聞かせ、トボトボと医院への道を再び戻っていったのだった。
・・・そんなあかねの様子を。
「ギーッ・・・ギーッ・・・」
不気味な声を上げながら、上空より見つめている鳥が居た。
目を真っ赤にギラギラさせ、漆黒の羽をバタリ、バタリとゆっくり羽ばたかせながら鳥はあかねの姿を見下ろす鳥。
そう、それはまるで彼女の姿を監視しているとでも言えようか・・・
鳥は、あかねが医院に戻るまでゆっくりと彼女の上空を飛んでいた。そして彼女の姿が建物に消えた瞬間、
ギイ・・・
低く嘶くような声を上げた後、まるで砂煙のようにスッ・・・と空へと解けて消えた。
勿論あかねが、そんな鳥が自分を見ていたことなど気付くわけもないのだが。
・・・

それから、二日が過ぎた。
一行は未だに意識を戻さないムースのこともあるので、しばらくこのヒルダの街に滞在することに決めたわけであるが、そんな中でも時間は刻一刻と迫っているわけで、
あっという間にあかねが国に帰る為に船に乗る前日を迎えたのである。
数日前の満月の晩、乱馬に剣を向けられ国へ帰るように言われたあかねと、実際に剣を向けた乱馬。
あの日以来二人は、一言も会話すら交わさず時を過ごしていた。
同じ建物の中に居るわけだし、顔を全く合わせないわけでもない。
だが、何となく会話がしづらい雰囲気が二人の間には流れるようになり、自然に避けるような形になってしまっていた。
本心は、何か一言でも話したい。でも何となく話しかけるキッカケも雰囲気も得られずモヤモヤしている乱馬。
そして、
「お前に何が出来る?」
・・・何となくあの日以来乱馬と話すのが怖くなり、それに加え気持ちの整理がつかず色々な事を考える余裕が無いあかね。
・・・思っていることを口に出すことが出来ない以上、出さなくてもいいような状況にする以外他ない。
時間にはもうリミットが近づいていたのだが、二人の複雑な気持ちや思いは交差をしないままこうして前日の夜を迎えてしまっていたのだった。
そんな中、
「あかねちゃんの為に、うち、美味しい夕食つくったったわ!」
その日の夕食の準備をした右京が、あかねを始め皆を食堂に集めた後そう叫んでから料理を運んできた。
「おー、すげえじゃねえか」
「豪華あるな」
「あったりまえやろ!あかねちゃん、今晩で最後なんやから・・・あかねちゃんとご飯食べるも今日で最後。だから奮発したったんよ」
テーブルに所狭しと並べられる、熱々の料理。元が商売人・そして料理人である右京お手製の料理だ。
特に送別会、などは催さないのならばせめて夕食くらいは豪華にしてやりたい。
それに自分もあかねには色々とキツイ事も言ってしまったこともあり、弁解するつもりはないけど、まあ本格的な仲直りの意味も込めて・・・と、彼女なりに考えたのだろう。
「・・・」
あかねがじっと黙ってその料理を見ていると、
「ムースの分は、まだ意識戻らへんから食べるかどうかは分らんけど、おかゆを用意したから安心し」
「右京・・・」
「あかねちゃん、ただでさえ体力ないんやし、しっかり食べへんと国までの旅、身体もたへんよ?うちの料理は美味しいことで有名なんやからね、心して食べるように」
右京は華奢なあかねの背中をバシっと大きく叩くと、
「さー、皆にも盛り付けてあげるよってなー・・・」
と、テーブルの大皿からそれぞれの料理を小皿に盛りつけ始めた。
「あかねは一応主役あるし、それに不器用あるから盛り付けしないで待っているよろし」
「な、何よ失礼ねっ」
「食べる分が減ったら損ある」
シャンプーも、なんだかんだ言いながら皆の料理を配るのを手伝っていた。
良牙はちゃっかりとあかねの横ポジションを取り、
「あかねさん、いつでも城に来てくださいね!城にさえ来て頂ければ通信も出来ますしいつでもお話し相手になりますから!」
「良牙君は優しいのね・・・ありがとう」
「あかねさんに恥じないように、しっかりとバカ王子の面倒を見ながら頑張りますので!」
と、さりげなくあかねにアピールをしながらチャンス、とばかりに話をしていた。
東風は急な往診が入ってしまった為に今は居ないのだが、料理を囲んだ一行はそれなりに和やかに時を過ごしていた・・・ごく一部を除いては。
「・・・」
・・・やがて料理がそれぞれに配られ、今日に限っては着席しながらの食事ではなく立食で自由に動き回ろうということになったのだが、
乱馬と、そしてあかねは一言も会話を交わすことなくそれぞれがその時間をやり過ごしていた。
最も、乱馬に関しては何とか最後の夜ということもあってあかねと話をしたいとは思っているのだが、
「あかねちゃん、これあげるわ」
「何?これ」
「街の商人オススメのお茶セットやて。これ飲むとな、落ち着き無い人でもゆったりとした気分になれるらしいよ」
「ど、どういう意味よっ」
「まあまあ、これでも飲んで少し落ち着いた人間になれってことやって。餞別代りに・・・」
「あ、ありがと」
・・・チラチラと彼女の姿を目に捉えながらあかねと話す機会を狙ってみるも、
彼女はずっと右京や、シャンプーと話をしている。
今までならば、こうやってフリーな食事やパーティの席では自然に隣同士になり話しながら楽しく時を過ごしていた乱馬とあかねだった。
それが、まるで嘘のような状況である。
あかねと話をするのに、身を奮い立たせるような勇気が必要とは・・・乱馬はそんな事を思っていた。
途中そんな乱馬の様子に気がついた良牙が気を使い、
「・・・おい、バカ王子」
「なっ、バカッて言うなっ」
「・・・俺は、あの時言ったよな?どういう形であるにせよ、あかねさんが辛い思いをするような形では事を進めるなと。てめえ、それを踏まえて今回あかねさんに納得させたんだろうな?」
「・・・」
「いいのか?話とかしないで。俺が言うのもなんだが、明日になったらもう、あかねさんは・・・」
「・・・」
「・・・お前と一言も話さないあかねさんを見ていると、何だか不自然でしょうがねえんだよ」
そう言って乱馬をあかねと話させようと動こうとするが、話したいけれど話せない不思議な躊躇が、乱馬の足を止めあかねの元へ向かうことが出来ない。
結局乱馬は、時折自分の元に来る右京や、シャンプーと話をしたり往診から戻ってきた東風に興味の無い医学の話を聞いたりしてその場をやり過ごしていた。
「あれ?今何か窓にぶつかった?」
「どれ?あ・・・鳥だわ。夜なのに珍しいわね」
「迷い鳥あるか?・・・あ、行ってしまったあるな」
・・・乱馬の視線の向こうには、窓辺に佇み珍しく夜に活動をしていた鳥を見ながらそんな事を話しているあかねの姿。
視線だけはしっかりと彼女を捕らえているというのに、何故一歩、話しかけるために足を踏み出すことが出来ないのか・・・そんな自分が、乱馬は非常にもどかしかった。
言いたくもなかった、酷い言葉。
本当はずっと傍においておきたい。離れたくないのが本心なのは当然だ。
でも・・・
・・・
彼女の性格は、よく分っているつもりだった。
言い出したら聞かない意志の強さを持つ、あかね。
だからこそ、乱馬と普通に話をしたところで、あかねが乱馬の提案を聞いてはくれないだろうと思った。
きっと、「だからこそ頑張りたい」と・・・旅に同行することを強く望むだろうと思った。
そんな彼女が大人しく国に帰ることを承知するには、それなりの理由が必要だと思った。
だから・・・あんなふうに力でねじ伏せるような形をとってしまった。
「力が足りない」と彼女自身に感じさせるようにして、納得をさせた。
負けず嫌いで努力を惜しまない彼女でも、圧倒的にその力が足りないことを知れば、素直に聞き入れてくれると思ったのだ。
「・・・」
結果、あかねは帰ることを承知して現在に至る。
でもその代わり・・・今までのように話をしたり自分に対して笑顔を見せてくれることが無くなった。
・・・
きっと、いつかはあかねが乱馬の、この心内を理解してくれるだろうと思った。
最初は乱馬の事を腹立たしいと思うかもしれない。酷い男だと、思うかもしれない。
でもきっといつかは、自分がこうやってした事をあかねが理解をしてくれて、そして・・・今まで見たいに自分を思ってくれる、今度は国で待っていてくれると、思った。
こんな風に離れたって、本当に心のそこからお互いを思いあっていれば奥底に眠るものは揺ぎ無い。
そう信じて・・・あかねならばきっと大丈夫だと、そう思った。
でも、
「いつか」
・・・
いつかって、いつなんだろう?
明日?明後日?一週間後?一年後?それとも・・・もっともっと先?
・・・「すぐ」、じゃないだけでこんなにも不安になるなんて。
時間が経つに連れて乱馬はそう感じ始めていた。
ある程度は覚悟していたはずなのに。それなのにどうしてこんなに・・・苦しいんだろうか。
自分がそう決心してあかねに対してあんなことをしたのに。
今気を抜いたらこの苦しさに押しつぶされて、あかねを返すことを止めてしまいたくなる。
病気で、傷だらけで・・・大切にして欲しくて、だからこそ返すと決めたのに。
それではダメなのだ。
「・・・」
・・・でも、「いつか」がいつなのか分からないのは苦しいな。
乱馬は、自分以外の人々と笑顔で話をしているあかねの姿を見つめながら、トントン、と自分の胸を拳で叩いた。
締め付けられる胸は、何だか随分と空っぽのような軽い音がした。
胸の中に普段いる人が少し離れてしまいそうになっているだけで、こんなに中身が空っぽになるものなのか・・・乱馬はそんな事を思いながら大きなため息をついた。

その日の深夜のこと。
・・・夜だというのにヒルダの街近くにある森の中では、
漆黒の翼を広げ真っ赤な瞳をした不気味な鳥がギイ、ギイ、と低い声で鳴いていた。
その鳥に対して、
「そうか、いよいよだな・・・」
そう呟き不敵な笑みを浮かべる人物が、そこに居た。
漆黒の翼をバタリ、バタリと動かし不気味な声で鳴く鳥を自らの腕に止まらせそう呟いているこの人物・・・ラビであった。
彼は例のごとく、自らの使い魔である鳥に乱馬たちの行動を見晴らせていたのである。
当然のことながら彼は、明日であかねがパーティから離れることも、そして一人になることも知っていた。
ただ、彼女がどのような運命を辿るのかまでは知らないのだが。
・・・
中途半端に彼女を浚いに行くよりも、一人になるときを待った方が自分には有利だ。
何せ、小ざかしい王子や仲間達が居ない。女一人を浚うことなど訳内のだから・・・
「・・・時は、来た。明日ようやく手に入るのか」
希少な光属性魔法を使うことが出来る相手も、そして・・・美しい女も。
「・・・」
ラビは口元に不敵な笑みを浮かべると、静かに自らの身を纏うマントを翻した。
すると、スウ・・・とまるで闇に解けるように自らも、
そして腕に止まらせていた使い魔の鳥も、夜の闇へと消えていった。

・・・すぐそこまで、大きな闇は迫っていた。


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