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決断

その翌日のこと。
「あかねちゃん…昨日はその、ごめんな」
「右京」
「うち、少し言い過ぎた部分もあったかなて思うてな・・・」
あかねは夜明けと同時に、建物の外へ出ていた。
昨夜は、昼間の出来事に今後の自分、そして夜にやってきた乱馬のあの行動・・・色々と考え事をしていたあかねは、実は一睡も出来ずにいたのだ。
だが、部屋で考えているだけでは何も良い考えは浮かばないかもしれないと考え、こうして夜明けと同時に建物の外へと出てきたのである。
そして、日の光が柔らかな朝の日差しを浴び気分転換をしていたところへ、早起きをしたらしい右京がソロソロとやってきて、あかねに話しかけてきたのだ。
どうやら右京、昨日のあの一件からだいぶ落ち着きを取り戻し冷静になったようで、
あかねや乱馬に叫んだ内容については撤回をするつもりは無いが、その時の言い方や手段については少し、反省をしているようだった。
「うち、すぐカッとなるって言うか、感情的になると言うか…いくら思っていても、それを全て口に出して良いかっていったら、それはちゃうよね」
右京は、「ごめん」とあかねに頭を下げた。あかねはそんな右京に対し首を左右に振り、
「…右京が謝ることじゃないわ。ムースが怪我をしたのは実質的にわたしのせいだし、それに…」
大切な時にサポートどころか足を引っ張ったのは事実だから。
あかねが小さな声でそう答えると、
「…」
右京は、そんなあかねをじっと見つめた。
「な、何よ…」
自分は何か変なことを言ったのだろうか?あかねが、右京の視線から逃れるように身を引くと、
「…うちな、昨日あんなことをあかねちゃんや乱ちゃんに言ってしまってから色々考えたんよ」
「考えたって・・・?」
「うん。あの、気を悪くせんで聞いてな?あかねちゃんはどうしてこの旅にずっといられるんやろかって、うち、それをもう一度考えたん。あかねちゃんにも前に、聞いたことあったと思うけど」
右京はそういって、再びじいっとあかねの顔を見つめる。
「…」
・・・そういえば、リエンとの戦いの最中に右京が、あかねにそう尋ねてきたことがあった。
確かにあかねは、その時自分が旅にいる理由について右京には特に答えなかった。
でもそれはきっと、今も一緒だ。
そして今は、もっとその答えを導くのに苦しむかもしれないけれど。
「・・・」
あかねは右京の言葉に何も言うことが出来ずにいた。そんなあかねに対し、右京は続ける。
「魔法があるわけでもなく腕が立つわけでもない。料理が出来るわけでもないし、ドジも多いし。でも、悔しいけどきっと乱ちゃんは、あかねちゃんを傍に置いておきたいからこのままでおるんやろなって、思って。…だからうち、乱ちゃんにも昨日言ったんよ。もっと考えてや、って。あんなこと、また起きたら困るやん、だから・・・」
「…」
「でも…」
右京はそこまでいうと、一旦言葉を切りため息をついた。
そして、
「清涼剤、なんやないやろうかって、思ったん」
「清涼剤?」
「せや。あかねちゃんは、このパーティの清涼剤なんかなあ、って、うち思ったんよ」
「・・・」
「旅なんて、戦いだけ、力だけ、目的だけじゃ続けられないやん。優しさとか気遣いとか、柔らかさとか…そういう雰囲気を醸し出せる人も必要なんやないかなあって」
「・・・」
「例え力がなくても、魔法が使えなくても、乱ちゃんのサポートができへんでも。もしかしたらあかねちゃんはそうやって、乱ちゃんやこのパーティを支えている人なんやないかって思ったんよ」
「…」
「せやったら、戦いはうちらに任せて、あかねちゃんはあかねちゃんのペースでおればええ。あかねちゃんがいてくれることで、何となく空気が和むんやったらそれでええ。悔しいけれどうちや、シャンプーじゃそれは出来へんしね」
右京は自分の話を黙って聞いているあかねの手をぎゅっと握った。
「これからは、お互いそれぞれの役割を果たすようにがんばろ。な?あかねちゃん」
「・・・」
「ほなうち、朝ごはんの支度があるから先行くわ。じゃ、又後でな」
そして、何もいわず自分の話を聞いていたあかねにそう言うと、あかねの手を離してそのまま、建物の中へと戻っていった。
一人その場に取り残されたあかねは、右京が握った手をギュッと、自分の胸の前で握り締め唇を噛む。
「…」
…清涼剤?
あかねは、去っていった右京の言葉を、心の中で繰り返して呟いていた。
「…」
実質的に役に立たず、大切な時にフォローが出来ない。
それに…
「…」
例えば、ムースの指輪にまつわる彼の行動。
例えば、昨晩急に乱馬が訪ねてきてあかねの服を脱がし身体を見たこと。
普段の乱馬とは違う、もっともっと感情的な彼を、あかねは他のメンバーよりも知っている。
昨夜の事はともかくとして、ムースがくれた指輪にまつわる時の乱馬の行動は、ムースにまで嫉妬し八つ当たりをするほど、彼の平常心を掻き乱した。
無駄な殺生をしない彼、そして人に対し攻撃的にならない彼が、明らかに普段と違う態度を取っていた事を考えると、
その全ての原因が自分にあること思えば、とてもじゃないがあかねは、自分が彼と、そしてこのパーティの清涼剤になっているとは思えなかった。
「・・・」
何もしないことが一番の役目。存在自体が清涼剤。
そんな言葉で自分の存在をかたずけられてしまうのは、どうしてもあかねは嫌だった。
・・・時間は限られるかもしれないが、そのギリギリまでやはり…皆の為、彼の為に自分の身を捧げたい。その為に自分が出来ることは何か。あかねはずっと、そればかりを考えていた。
だから、
「あたしだって・・・」
何かが出来るはずだ。清涼剤、だなんて冗談じゃない。
皆の足を引っ張らず、そして自分だってまだ、みんなのサポートを出来ることを何とかして証明したい。
コロンが貸してくれた鞭も、ムースが与えてくれたパワーツールとカイルリングと・・・それらをもっともっと有効に使いながら、皆の足を引っ張らない方法を、早く考えないと。
「…」
あかねは、自分の手をぐっと握り締めて自らを奮い立たせた。
そして「ある決意」を胸に秘めると、
「あれ、あかねちゃん出掛けるのかい?」
「はい、行ってきます!」
あかねは一旦建物の中に入り、そこで一番初めに顔を合わせた人物・・・東風だったのだが・・・にそう断ると、再び建物の外へ出た。
そして、朝日に包まれ混雑する早朝のヒルダ市場へと向かっていった。
とにかく早く、自分の存在が邪魔ではないことそして清涼剤なんかではないことを証明したい。
泣いたり悩んだり迷っている暇などない。
あかねはただ、それだけを願って街へと飛び出したのであった。

・・・
「ら、乱ちゃん大丈夫なん?」
「お前、眠れなかったのか?」
「一晩眠らなかっただけで、そんなにクマができるあるか?一体どういう身体をしているあるか?」
その一方で。
あかねが出て行ってから一時間ほど後。
右京が用意した朝食を囲んで食堂へ集まった一同であったが、その中でとりわけ様子がおかしい乱馬の姿を見て思わずそれぞれそんな事を呟く。
あかねが出かけたことは一応そこで、東風から聞いた一同。ムースはまだ意識が戻らないのでココに来る事が出来ないのは仕方が無いとしても、
それよりも普段元気な乱馬だけに、妙な様子の彼が気になって仕方が無い。
「…後でよく眠れる薬を調合しましょうか?王子」
本業・医者である東風にもそう言わせてしまう乱馬の顔。
「どうしたんやろか・・・」
乱馬の顔は、クマがあるだけではなく少し疲れているようにもとれた。
一向はそれが気になって仕方が無かった。
・・・元々彼は超健康体である。
ゆえに、寝不足や疲労などは一晩眠ればすぐ回復してしまうのだが、なにぶん彼が一番疲れているのは「心」。
「心」を悩ませる考え事をしている・・・つまり普段使い慣れない「頭」も一緒に使っている為に、必要以上に身体まで衰退させてしまっていたのだ。悲しい身体構造である。
・・・
「ほら、これ飲み」
右京が、そんな乱馬に気を使ってフレッシュなフルーツを絞ったジュースを差し出すが、乱馬はそれに口をつけない。
「乱ちゃんが食べ物に手をつけないなんて…」
右京は、そんな乱馬の態度を真剣に心配するが、
「…乱馬、何か悩んでいるあるか?」
今度はシャンプーが乱馬にそう尋ねるも、乱馬は浮かない表情で一点を見つめ何も答えない。
「…」
そんな乱馬の様子を見て、彼が何を悩んでいるのか察しがつく良牙と東風は、特に何も語らなかった。
その内乱馬は、「少し部屋で寝る」と食堂から出て行き、食堂の中にはそのほかのメンバーだけが残った。
「乱馬、昨日の事で何か悩んでいるあるか?」
…あかねに対し昨日、かなりキツイ事を言ったシャンプーであるが、彼女の言葉は決して悪気があるものではなく柔らかいものの言い方を知らないだけ。
なので、昨日は昨日、今日は今日…そんな考え方の元、彼女は行動しているわけで、
あっさりとした口調で昨日のことをもう「過去のこと」のように言うシャンプーは、首を傾げながら良牙に尋ねる。
「…あいつにも色々とあるんだろ」
実際は、昨日の出来事というより今後の旅の事、
そしてどうやら病気らしいあかねを国へ返すかどうかを乱馬が悩み始めているということを良牙は知っているが、それは合えてここでは口には出さなかった。
きっと、どのような決断を下しどのように今後旅を続けていくにしても、乱馬自身の口であかねにも皆にも言いたいだろうと、そう思ったのだ。
良牙がそんな事を思っていると、
「…私、ひいばあちゃんに相談してみるある」
シャンプーがガタン、と席から立ち上がりそういいながら部屋を出て行った。
どうやらシャンプーは、様子のおかしい乱馬のことを、コロンに相談しようとしているようだ。
それに加え、
「うちは、乱ちゃんがもう一回ここに来たときに食べることが出来る簡単なものでもつくったろうかな」
右京もそういって、食堂の奥へと引っ込んでいく。
料理が得意な右京らしい、気の使い方である。
「・・・」
東風もその後、すぐに医院の仕事のほうに入ってしまったので食堂には一人良牙が取り残されたのだが、
良牙は何もいわずただ、乱馬がどのような結論にたどりつくか見守るしかなかった。
「・・・」
旅を始めて今まで過ごしてきた中で、何だか一番気が重い日だ。良牙は一人食堂で座りながら、そんな事を思い食事を口にしていたのだった。

「おお、シャンプー。珍しいではないか・・・一人でわしに通信してくるとは」
「この数日、色々とあったある。次の街に着くまで私、待ちきれなかった」
「ほう?どうしたというのじゃ?」
「実は・・・」
食堂に残る良牙とは別に自室に戻ったシャンプーは、この二日間で起こったことを事細かに、魔法通信でコンタクトを取ったコロンへ話をした。
ミコトとの出会い、不思議な問答、ラビィの真の目的・・・そしてミコトの殺害とムースの大怪我。
シャンプーは事細かに、コロンへ説明をした。
コロンは、シャンプーの話を表情一つ崩さずただじっと、彼女が話し終わるまで聞いていた。
「・・・乱馬の様子も、何となくおかしいある」
シャンプーは、今朝の乱馬の様子も最後に付け加えてコロンに話をした。
コロンはそんなシャンプーに少し間を置いてため息をついた後、
「・・・運命は変わらぬと。そういうことなんじゃろうな」
「運命・・・?」
「何度占いをしても、何度日を改めても、色々と策を考えてみても変わらぬ占い結果がある。ミコトは、自分がどうあがこうと自分がその運命から避けられぬということを知っていたんじゃろうな」
と、言った。シャンプーはそれに対しすかさず口を挟む。
「知っていて、わざわざ私達を呼んだあるか?」
「きっと、こうすることが一番、自分にも王子達にも良いと、そう踏んだのじゃろう」
「でも、私達に前もって話していれば、ミコト、もしかしたら生き延びることができたかもしれないある・・・」
「そうしたところで、自分がどこかでラビィによって殺められることは避けられないと見えていたんじゃろ、ミコトは」
「!」
「・・・それだったら、王子に自分の知っていることを全て伝え、運命を素直に受け入れようとしたのじゃろう」
「でも、そこまで未来が見えていたのなら、ムースがあの時質問する内容も分かっていた、と思えるある。それなのに、どうしてそこだけ答えずに回りくどいことを・・・」
「・・・ワシはそのミコトという人物ではないので詳細はわからない。じゃが・・・」
コロンはそういって、一息ついた。そして、
「おぬし達があの場所でラビィと出会うこと自体に、何か意味があった。そして、回りくどいことをした、あのミコトの行動自体に何かしら意味があった。そうは、思えんか?」
「どういうことあるか?」
「この先どういう形にしろ、おぬし達はラビィと出会う機会があった。それを、おぬし達が一番ダメージの少ない形でラビィと出会う為には、昨日ああいう形で会うのが最良の形だと、ミコトが判断したのではないじゃろうか」
「!だけど・・・ミコトも殺されて、それにムースは・・・大怪我したあるぞ?」
「・・・もしあの時ラビィに出会っていなかったら、ムースが怪我をするだけでは済まなかったかもしれない。昨日だって、ムースだから助かったのだろ?この間旅に加わった娘やあかねだったら、そうはいくまい」
「!」
「それに・・・ムースが気がついた通り、ミコトがおぬし達を店に呼んだのは、おぬし達に伝えたいメッセージがあったからじゃないかと、ワシも思う。そのメッセージだけはどうしても、ラビィィには渡したくは無かった。身につけていたり、安易に店内においておけばラビィに奪われてしまうと、ミコトは思ったのじゃろう。だから・・・ラビィにそのメッセージを奪われず、尚且つおぬし達だけが知っているキーワードで、そのメッセージのある場所にたどり着くことが出来る安全な手を、ミコトは残したのじゃろう」
「・・・」
シャンプーは、コロンの話を聞きながら先日のミコトとのやり取りを必死に思い返していた。
自分達にミコトが残したキーワード。それは恐らく・・・
「Bright or Black・・・ムースもそれ、言っていたある・・・」
「・・・唯一そのキーワードを解けたムースが話を出来ないのは辛いが、回復を待って聞くしかないじゃろう」
「・・・それにしても、そうまでしてミコトが私達に伝えたいメッセージって、なにあるか?」
「さあ、それは見てみないと分らぬ。もしかしたら、光属性魔法の使い手のことかも知れぬな・・・」
「・・・ひいばあちゃん。そのことあるが」
シャンプーは、コロンに話の途中でその流れを一度止めた。
そう、その光属性の魔法の使い手について、シャンプーもムースほどではないが思うことがあるのだ。
ミコトにムースがしようとしていた質問も、それに絡んでのこと。
良い機会なのでシャンプーは、思い切ってコロンに話をしてみることにした。
「ムースは、図書館で色々とそのことを調べていたある。私も、心当たりがあることがあるね」
「・・・ムースから少し聞いておる」
「ひいばあちゃんは、子供の頃の私やムースに言ったね。四大属性以外の魔法・・・つまり二大属性の光と闇の魔法は、生まれ持った出生確率に左右される魔法。修行をして習得できるものではないと。だから、大魔導士であるひいばあちゃんでさえ、使うことが出来ないと」
「そうじゃ」
「大魔導士という宿命を受けて生まれたひいばあちゃんでさえ、使うことが出来ない魔法ある。それを・・・元は山賊でも現在は魔導士としているラビィはともかく、魔導士でもなければ縁者に魔法の使い手もいない、一般人でもそれを授かることが出来るあるか?」
シャンプーはコロンにそう尋ねて、じっと彼女を見つめる。
一般人。そう、それはイコールあかねのことをさしている。
シャンプーはこれまでの事を踏まえた上でミコトの話を聞き、ぼんやりではあるがそのような仮説を立て始めていたのだ。
以前の戦いで、巨大な雷魔法の直撃を受け殆ど即死状態だったリエン。
身体は焦げ、確実に心臓が止まっていたのは確かに思われた。
ところが、謎の白い光がリエンに触れたあかねとリエンを包み・・・直後彼は蘇生したのだ。その後シャンプーたちの治癒魔法のおかげで彼は現在、完治はしていないにしろ驚異的な回復を見せている。
通常では考えられない出来事である。
「闇属性魔法は、暗黒魔法。人々の魔力や生力をそぎ取り命をも奪う。人の心の闇を利用し、精神を蝕んでいく恐ろしい魔法。でも光属性の魔法は・・・」
「・・・人々の心に光を与え、消え行く命に光を与える。人の心に光を灯し、心身ともに傷を癒す奇跡の魔法。いわば、治癒魔法と蘇生魔法の最高レベルのものということじゃな」
「本人は、その能力にまだ気がついていないある。それに、私やムースも、本当にあかねの光がそれなのかまだ、確信できないね」
シャンプーがそう呟くと、
「残念ながら、ワシの占いではそこまでは見ることが出来なかった。あかねにどのような力が宿っているのかもな」
「・・・」
「じゃが、本人や周りも気付かぬ潜在的な能力があかねの身体に眠っていたとして・・・」
「あかねが魔導士でなくても、あるか?」
「出生確率で習得が決まる魔法じゃ、その人物が魔導士であろうがなかろうが関係ないじゃろう。魔導士よりも、その能力が表面に出てくる確率がすくないくらいじゃろうて。場合によっては、生きている内に出てこない可能性とてあったじゃろうな。じゃがそれが徐々に外に出始めたというのは、何かきっかけがあったからじゃろう」
「きっかけ?」
「・・・カードじゃよ」
「!」
「継承者である王子や、魔導士のおぬし達はともかくとして、そのような力を潜在的に持っていた人物がカードの傍に随時おったら・・・何かしら反応を起こしてもおかしくないだろう。旅に出るようなことがなくカードと無縁の生活を送っていたら、恐らく今世ではこの力を見ることはなかったかもしれん」
コロンはそういって、一息ついた。
そして、
「・・・なあ、シャンプー。おぬしはワシと話したことを王子に伝えるか?」
「え?それは・・・まだ分からないある。ムースの意見も聞きたいあるし・・・この段階で話したところで、乱馬たちも信じるかどうか」
何より、あかね本人が信じないのではないか。シャンプーがそう呟くと、
「・・・王子の様子が、今日はおかしいと先程言っていたが」
「ああ、そうある。珍しく乱馬も目の下にクマを作って何かを考えているみたいあるが・・・」
「・・・」
シャンプーの言葉に、コロンは口をつぐんだ。
・・・恐らく乱馬はまだ、このあかねの光の話については何も知らないだろう。
だが彼は、あかねの様子が明らかに旅に出た時と違うということは気がついている。それが、魔法のことではなく体調のことであっても、だ。
旅をしていれば色々と問題も起きてくるだろう。
だが、あの楽天的かつ明るい王子がそれほどの状態で何かを考えているとすれば、きっとそれはあかねのことなのだろうなと、コロンは想像がついていた。
コロンは、旅当所の占いの結果をずっと気にかけていた。
大魔導士といえども、ミコトほど正確に「未来を垣間見る能力」を持たないコロン。
なので、占い結果も断片的にしか見えない。
あかねについては、「光を失う」「乱馬と喧嘩をしパーティから離れ一人になる」「国元へと帰る時に事故に巻き込まれ命を落とす危険に見舞われる」・・・その三つだけが見えた。
何度日を変えても何度占いなおしても、それだけは変わらなかった。
その先の未来は残念ながらコロンには分らず、
それが「ここから先は彼女の生命力・運次第」なのか「命を落とすことが確実なので未来がない」から見えないのかはわからない。
それに。
コロンはそんなあかねを不憫に思い、たった一人・ムースにだけは事情を話し後々パーティに合流させた。
防御魔法に長け、武具を作ることに長けているムースならばあかねをさりげなくサポートしていけると思ったのだ。
ところが、今回のことでムースが身動き取れなくなってしまった。ということは・・・あかねをサポートする存在がここで途切れたということだ。
・・・それらも含め考えると、パーティの間で、現在どういう話になっているのかは分からない。
でも、もし王子が体調にしろその他の理由にしろ、何らかの理由であかねを先に国へと帰らせるかどうかを悩みはじめているのだとしたら・・・
「そろそろ、時が来るということか」
コロンは、静かな口調で呟いた。
「時・・・?ひいばあちゃん、一体何のこと、あるか?」
シャンプーがコロンの言葉にそう返すと、
「なあ、シャンプー。仲間というのはな、喜びや楽しさを分け合い共に感じあえるすばらしいもの。じゃが、それと同時に苦しみや悲しみ、辛さも同じように分け合って支えあわなければならぬ」
「・・・ひいばあちゃん?」
「近い内にお前は、必ずワシともう一度通信をしようと思うじゃろう。この言葉の意味が今は分らなくても、きっとその時には分っているはずじゃ」
「・・・」
「今はまだ、あかねの光のことは、王子には告げんでもよいだろう。不確かな情報で、王子を惑わしてはならぬ」
「・・・わかったある」
「ただ・・・」
コロンは一瞬間を置いた後、シャンプーに少し声のトーンを変えて呟いた。
「王子に一言だけ、伝えてくれぬか」
「乱馬に?何あるか?」
「・・・旅立ちの際にワシが言ったことを、くれぐれも忘れるなと」
「わ、わかったあるが・・・」
「頼んだぞ・・・」
コロンは最後に一言シャンプーにそう告げると、フッ・・・と通信を切りその姿を隠した。
「・・・」
シャンプーは、コロンの消えた自室の壁を見つめながら、ただじっと黙り込んでいる。
「・・・」
今コロンと話していた話を乱馬に話すのはやめようとは思うが、同じ考えでいるムースにはせめて、話をしたいし意見を聞きたい。
「・・・早く、回復すればよいのだが」
シャンプーは未だベッドにて安静にしているムースの元に向かいながら、そう呟いていた。

その日は、ムースがまだ動ける状態でないこともあり、それぞれが自由に過ごすことにしていた。
あかねは早朝に街へと出かけてしまったので既に留守だが、
右京は、荷物持ち代わりに良牙をつれ市場で買い物に出た。美味しい料理でもつくり、皆を元気にさせようとしているのである。
シャンプーは、コロンと話し終えた後相変わらずのムースの容態を見つめながら、様々な魔法書を読み漁り「クロノス」魔法や二大属性魔法について調べ物をしていた。
本当はコロンより乱馬へ伝言を頼まれていたのだが、別にそれは明日、乱馬が元気になってからでも良いだろうと、後回しにさせてもらったのだ。
一行に医院を提供している東風は、一般診療や往診をして殆ど動き回っていた。
そんな中、唯一部屋から出ずに考え事をしている人物がいた。
考え事とか悩み事が最も似合いそうにない人物・・・乱馬である。
外出していた人々が戻ってきて顔を合わせた夕刻、
そして窓の外にぼんやりとした月が夜の闇に昇り星が輝く時間になっても、乱馬は部屋から出てくることはなかった。
皆は「今日は寝不足で朝から様子もおかしかったし、部屋で寝ているのだろう」と彼については深追いをしなかったが、乱馬は眠るどころか悩み続けているが故に、朝からこうして夜を迎えた今の今まで、気が休まることなど無かった。
そう、彼には考えなくてはいけないことがあるのだ。
・・・
「・・・」
乱馬は、ベッド仰向けに寝転びながらあるものを手にし、じっと眺めていた。
乱馬が見ているのは、東風が乱馬に渡したウォータークール港への乗船チケットである。
『五日後に直行便の船が出る。よく考えるといい』
東風の言葉が、乱馬の頭から離れなかった。
「・・・」
・・・旅に出る前、あかねが一緒に行くと言い出す前に思ったこと。
それは、離れることで思う寂しさや、気持ちが離れてしまうことの恐怖。
でも、あかねは一緒に旅立つと言った。
ほぼ強引だったけれど、「危険な旅だからこそ、一緒に行って助けてあげたい」「結婚相手は自分でちゃんと見定めたい」と。
少し迷ったが、その気持ちがとても嬉しくて・・・だからこそ、一緒に連れて行こうと思った。
そうやって旅立った自分達だが、
あかねはその後、自分をどう見てくれているのかをハッキリと伝えてくれた訳ではない。
旅をしながらどういう見解になって、結婚相手にふさわしいかどうかをハッキリと乱馬に告げてくれた訳ではないが、悪くは思ってはないだろうと、いやむしろ好意を持ってくれているのかな、と感じる。それが図々しいと言うのなら、まあ少なくても嫌いにはなっていない筈だと思いたいところだ。
乱馬に至っては、傍にいればいるほどあかねに強く惹かれていた。
時にそれは嫉妬として醜く表に出るくらいに・・・激しい感情は身を焦がしてしまうかのような時も、ある。
故に、あかねが自分に対してそのような気持ちを抱いてくれるのならば、
自分としては、東風も言ったように離れていたところで気持ちが変わるような安っぽい気持ちを彼女に抱いていないつもりであるわけだし、
だから・・・
「・・・」
華奢で細くて、壊れそうなあかね。
その身体を傷だらけにしてまで、自分が無理に旅に連れて行くことはないのではないかと、そう思った。
このままずっと旅についていなくたって、乱馬の気持ちは変わらない。
あかねが変わらなければ、そこは揺るがない。そう思っていた。
今でこそ、体調が悪そうなあかね。強がりで自分の弱いところを決して見せまいと振舞うあかねだから、乱馬が気を使って声をかけようとすると不機嫌になる。
でも、そこまでして体調不良を押して旅をして欲しくないと、乱馬は思うのだ。
あかねが、自分の事を思ってくれる・・・と信じて言うのだが・・・のと同じように、自分のことも大切にしてもらいたいと、そう思う。
あかねが乱馬を思うように、乱馬があかねを大切に思っているということを、忘れて欲しくないのだ。
「・・・」
乱馬は、ノソノソとベッドから起き上がり、ため息をついた。
『彼女の身体を見てみるといい』
・・・正直言って、東風にそう言われた時には憎悪や殺意にも似た激しい感情が乱馬の中に生まれた。
だが、彼は医者としてあかねの身体を見たのだとそう知った時、ぞっとした。
強引に服をはだいてでも診察を受けさせなくてはいけないような、体調だというのなら・・・そしてあれほどまでに身体を傷だらけにし負担をかけて旅を同行していたというのなら、尚更だ。
「・・・」
ただ、これを素直に話したところで、納得するあかねではない。それも乱馬は分っていた。
では、どうしたらあかねは納得するのか。
・・・
乱馬は乗船チケットを見つめひたすらそれだけを考えていた。
そして・・・やがてある決意を胸の中に宿した。
手荒で、少し残酷で、場合によっては乱馬自身があかねに嫌われてしまいかねないような方法ではあった。
でも、きっとあかねが乱馬の真意を汲み取って理解してくれることを信じるしか、ない。
「・・・」
乱馬は部屋の片隅に立てかけていた剣を腰にさすと、静かに部屋を出てとある場所へと向かった。
・・・
・・・それと同時刻。
あかねの部屋ではあかねが街から買い込んできたものをベッドの上に並べて作業をしていた。
朝早くから街を歩き回ったがために体力も落ちているし、それゆえに現在、視力も霞んでいた。
だが、買い込んでいたものを試したり装着してみるまでは眠らないと決めたあかねは、買い込んでいたものを一つ一つ封をとき、見つめる。
あかねが買い込んでいたのは、薬売りが異国から仕入れたという「眼薬」。
そして、顔をガードする仮面・・・のようなものに見せかけたメガネ。
あとは、身体の不安を少なくするためにクッション材を多めに使用した衣類であった。
目薬は落ちていく視力を何とかごまかそうとするため、仮面は、武具と見せかけて視力の低下を補うため、そして衣類は・・・
「・・・」
昨夜、急に乱馬が訪ねてきて自分の服をはだき身体を見つめた時には驚いてしまったが、
もしも今後そのような機会があるのなら、今以上に傷や痣を作った汚い身体を見せたくないということと、あとは少しでも衝撃を和らげれば、攻撃を受けてもダメージも少なくて済むと、思ったのだ。
・・・ここにいる以上は皆に迷惑をかけず、そして自分も戦いに参戦すること、乱馬をサポートすることに意義があるとあかねは強く思っていた。
何もしないことが一番の仕事ではなく、清涼剤という言葉で片付けられる存在でもなく・・・乱馬の、そして皆の傍にいる以上は、皆をサポートしていくのが自分の仕事であると、そう思ったのだ。
だから、自分の現在足りない部分を補うべく役に立ちそうなグッズを買い揃えてきたのだ。
「・・・」
これ以上、皆には迷惑をかけられない。
自分の身はきちんと自分で守らなくちゃ。あかねは強くそう思いながら買ってきたグッズを手にとりため息をついていた。
と、その時。
トントン
不意に、部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「はい・・・」
一体、誰だろうか?あかねがベッドから降りドアをゆっくりと開けると、
「・・・ちょっと、話があるんだ」
「ら、乱馬?」
「一緒に来てくれ」
そこには、昨夜のあの時同様、深刻な表情をした乱馬が立っていた。
乱馬は一言だけあかねにそう言うと、あかねの返事を聞くまでもなく歩き出す。
「ら、乱馬・・・待って」
あかねは慌ててそんな乱馬の後を追って廊下を急ぐが、
「乱馬、どうしたの?話って、何?」
乱馬はいつの間にか建物を出て、医院裏手の教会の前へと進み、立ち止まった。
日が沈んだ中、古びた教会の姿を月明かりが柔らかく照らし出していた。
教会のステンドグラスと大きな十字架・・・外壁にきらりと光る月明かりが、美しくきらめいている。
普通であればロマンティックで幻想的な風景であるが、何だか今日はそんな雰囲気ではない。
一体、どうしたのだろうか。あかねが乱馬に静かに尋ねると、
「・・・」
乱馬は、そんなあかねと静かに向かい合うように立った。
「乱馬?」
あかねが再び乱馬に問うと、乱馬は何も言わず自分の腰にさしていた剣を抜き取った。
月明かりにギラリ、と光る銀の刃があかねの瞳に印象的に焼き付いている。
「ど、どうしたの・・・」
何故、この状況で彼は剣を抜いたのだろうか?
彼の行動に対し理解に苦しむあかねが思わず首をかしげると、
「・・・」
乱馬はそんなあかねに対し一瞬だけ躊躇したように目を閉じたが、次の瞬間、信じられない行動に出た。
・・・そう、いきなりあかねに対し剣を向け切りかかってきたのである。
「きゃあ!」
咄嗟にただならぬ雰囲気を感じ取ったあかねが身を屈め、その剣をよける。
乱馬はそんなあかねに対し、再び剣先を向けた。
彼は、あかねに攻撃する気があると・・・何も言わずともそう告げているのである。
「乱馬っ・・・どうしたの!?何で急にっ・・・」
何故自分が乱馬に剣を向けられ攻撃されなければならないのか。
理解できないあかねが何とか剣をよけながらそう叫ぶも、乱馬は、そんなあかねを仕留めるが如く剣を振っていた。
「乱馬っ・・・」
・・・魔物にでも取り付かれているのだろうか?まさか、カードに精神を蝕まれた?
考えられなくはないその可能性に、あかねは慌てて応戦するべく腰にさしていた鞭を手に取り、パワーツールに力をこめようとした。ところが、
「!」
パワーツールの色は、現在の段階で薄いブルーに変化していた。
一日日中歩き回って疲れた身体にはほぼ体力が残っていないということを、物理的にあかねに知らせているのである。
「っ・・・」
それでも、応戦しなければ切られてしまうかもしれない。
「お願い、力をっ・・・」
ギュッ、と強く鞭を握り締めたあかねは、パワーツールの体力ゲージを無視して鞭に自分の力を送り込む。
そして、
「たああ!」
カキン!
乱馬が自分に向ける剣先を一度だけその鞭で跳ね返すことに成功はしたのだが、
「っ・・・」
グラリ
その一撃で力を使いすぎたせいか、足をとられ地面へと倒れこんでしまった。
そこへ、
「!」
キンッ・・・
倒れこんだあかねのすぐ脇の地面を、乱馬の鋭く勢いのある剣先が刺した。
あかねは、はっと息を呑み身を竦める。
「・・・」
乱馬は無表情のまま剣を抜き、自分を見ているあかねの顔先に刃先を向けた。
「っ・・・」
あかねがそんな乱馬の剣先を翳んで怯えた瞳で見つめると、
「・・・他の奴らなら、これぐらいの攻撃ではやられないぜ?それに、相手が俺じゃなかったら、お前は確実に殺られていた」
乱馬はそういうと、剣を反転させてギラリとした銀色の輝きをあかねに見せる。
−他の奴らなら、これぐらいの攻撃ではやられない−
その言葉が、あかねの胸には深く突き刺さった。
乱馬の口調からすると、彼は正気だ。
正気なのにこんなことをするのは・・・あかねの実力を、格闘技の腕前を試そうとしているのだろうか。
それならば、これくらいであかねも負けるわけには行かないのだ。
彼や皆の邪魔をしたくはない。お荷物にはなりたくない。サポートが出来るということをきちんと知って欲しい。
「あ、あたしは負けないわ!」
ガキッ・・・
あかねは再び鞭を握り締めて、乱馬が自分に向けている剣先を振り払った。そして、
「たあ!」
ヒュッ・・・
不器用なりにも一生懸命に。そしてないパワーを搾り出して必死に。
あかねは乱馬に反撃をするべく立ち上がった。
体力がないのでぐらつくし、目が翳んで視界も悪い為に何度も転んで、何度もふらつき追い詰められる。
だが、それでもこのままでは終らせたくないと、乱馬に立ち向かっていった。
が、あかねがいくら必死で反撃を試みたからといって、もともとある乱馬との実力差を補いきれるわけがなかった。
戦いになれ、元々格闘技も心得ている乱馬。いくら同じ道場で修業をしていたからといって、実力差はあきらかなのである。
ガキンッ・・・
「あっ・・・」
乱馬の剣先が、あかねの鞭を弾き飛ばした。あかねは慌ててそれを拾おうと鞭が飛んだ方へと走ろうとするが、
「きゃっ・・・」
ガスッ
体力を消耗し上手く走ることも出来ないあかねは、そのまま足をもつれさせてその場に倒れこんでしまった。
運悪くその場に大きめな岩があり、あかねはその岩に腕と身体を強く叩きつけてしまう。
「ぐっ・・・」
身体を襲った激痛に顔を歪めたあかねがそれでも乱馬の方を睨みつけるように見つめると、
「・・・」
乱馬は何も言わず表情も変えず、あかねに静かに剣先を向けていた。
ぎらり、と光る剣先があかねのすぐ傍であかねを狙っている。
「・・・」
・・・実戦だったら、きっとこの場であかねは殺されていただろう。そう思うと悔しくもあり情けなくもあった。
が、岩に腕と身体をぶつけてしまったのもあり、あかねはこれ以上乱馬のその剣先に向かうことは出来なかった。
「・・・」
それでもあかねは、その剣先気持ちだけでも向かおうとじっと見つめていた。
すると、そんなあかねに対して乱馬が、剣先を向けたまま静かに呟いた。
「・・・俺達の戦いは、これから混迷を極めていく。俺達の相手、ラビィは躊躇もせず人を殺し人を傷つけるような男だ」
「わ、分ってるわ」
「きっとここから先は、危険な目に遭うことも多いだろう。それぞれが自分の身を守りつつ、仲間も助けていかなくてはならない。そういう状況が続く」
「わ、わかるわ!だからあたしもっ・・・」
「・・・でも今のお前は、戦力にならない。俺が手を抜き相手をした状態でもまるで相手にならないといことは、実戦では役に立たないということだ」
「!」
「自分の命を守れない人間には、人の命は守れない。だから・・・お前をここから先一緒に連れて行くわけにはいかない」
乱馬は剣をあかねに向けたままそういって口を閉ざした。
「い、いやよ!あたしはまだっ・・・あたしはまだ、出来る!あたしはまだ戦えるからっ・・・」
あかねは、乱馬が向けている剣先を手で払い、表情を変えず呟いた彼に叫んだ。
が、
「じゃあ、お前に何が出来る?」
「えっ・・・」
「戦いの腕は、今見たとおりだ。だからといって、シャンプーやムースのように魔法を使えるわけでもない。良牙のように前線では戦えないがサポートに入れるうっちゃん程の腕前もない。そんなお前に何が出来る?」
「そ、それは・・・」
あかねは乱馬の言葉にぐっと詰まってしまった。
確かにあかねは、格闘の腕も魔法の腕前もない。だからといって、右京のようにサポートに入れるわけでも料理で皆を支えることも出来ない。
確かに今のままでは、「何もしないこと」が一番皆のためになると、思われてしまうかもしれない。
でもだからといってこのまま、それを挽回もさせてもらえず、
しかも乱馬に何の役も立たないような形で帰らされるのだけは嫌だった。
・・・こんな形で、こんな状態で乱馬の前から消えるのだけは嫌だった。
「あ、あたしにもきっと何か・・・何かまだ出来ることがあるから!」
あかねは必死で乱馬に向かってそう叫ぶも、
「何かって何だよ」
「そ、それは・・・」
「可能性だけじゃ、これから先は進んでいけない。危険な旅に出るということはそういうことだ」
乱馬はあかねに弁解や挽回の余地を与えることなくそう呟くと、ポケットからとあるものを取り出してあかねに渡した。
そう、ウォータークール港への乗船チケットである。
「!」
・・・まさかこれが東風から乱馬の手に渡されたとは思わないあかねは、彼がこれを用意していたことに激しく動揺した。
「五日後に、ウォータークールへの直行便が出るらしい。それに乗って、帰れ」
「いやよ!あたしはまだっ・・・」
「・・・この旅に強引に残りお前が俺達のためにできることは、何もない」
「待って!お願い、あたしに挽回のチャンスをっ・・・!あたし、ちゃんと自分の身を守れるように修行するからっ・・・皆の足を引っ張らないように気をつけるからっ・・・邪魔しないように頑張るから、だからっ・・・」
「・・・俺達の旅には、いつになるか分からない挽回の機会を待ってやる余裕なんて無いんだ」
「乱馬・・・」
「大人しく帰ることが、お前の今、するべきことだ。少なくても俺は・・・そう思っている」
・・・本当はこんな事、言いたくもないし言うつもりもなかった。
でも、こうでもしなければきっとあかねを国へ返すことは無理だ。乱馬はそう思ったのだ。
力でねじ伏せ、思い知らせるようなこんな乱暴な形は避けたかったが、きっとこうまでしなければあかねは考えを変えてくれないと。
彼女をよく知っているからこそ、乱馬はそう思ったのだ。
最初は、乱馬に対して激しく腹も立つかもしれない。
でも・・・きっとあかねならば、いつかちゃんと分かってくれると、そう思った。
告げる方も、告げられている方も辛い・・・重々しい空気が二人の間に流れていた。
乱馬は、じっとあかねの返事を待っていた。
あかねは、俯いていた。
その表情は見えなかったが、小さくて華奢な身体が小刻みに震えているのは分かった。
泣いて、るのかな。
そう思うと、苦しいだけだったはずの胸がギュッ・・・と掴まれたような気になった。
身体中の感情が全て一箇所に集まって、まるで針で刺すかのように乱馬に訴えている。
「・・・」
・・・頼むよ、泣かないでくれよ。
こんな事、本当は言いたくねえよ。俺だって嫌だよ!
泣かせたくなんてねえよ、いっその事震えているその身体を、壊れるくらい強く抱いてやりたいってそう思うよ。
でも・・・
でも・・・今ここで俺が本心を話してしまったら、優しい言葉をかけてしまったら・・・あかねを返せなくなってしまう。
「・・・」
今すぐにでもあかねに伸びてしまいそうな手を必死で塞き止めながら、乱馬は自分にそう言い聞かせた。
そして、あかねのその姿から顔を背けそっと目を閉じる。
と、
「・・・あたしは・・・」
「・・・」
「あたしは・・・邪魔なの?」
「・・・」
「力もなくて、魔法もなくて、パーティの役に立たなくて・・・だから乱馬にとってあたしは、邪魔・・・?」
そんな乱馬に対し、あかねが俯いたまま、今にも消え入りそうな小さな声でそう問いかけてきた。
・・・何とかして足を引っ張らないようにと心がけてきた自分。
そして、来るべき最後の時まで、何とか迷惑をかけずに乱馬の為に出来る限りの事をしようと思ってきた自分。
でも・・・そうやって思ってきた相手に「何も出来ないから邪魔だ、帰れ」と言われるのなら・・・もうどうしようもないと、あかねは思った。
皆の足を引っ張らないようにと、今日も市場で色々なものを買ってきた。
しかし乱馬に「邪魔だ」と言われてしまえばそんなものは何の役にも立たない。
今日の事、今までのことを挽回するチャンスを欲しいと言ったが、そんな時間を与えている余裕はないと答えも返ってきた。
何もしないことが一番役に立つ、どころかいない方が乱馬にとっては良いというのなら・・・それを厳粛に受け止めるしかないではないか。
「・・・」
そんなあかねの問いに、乱馬は迷っていた。
・・・ただでさえ、自分の意図することとは逆の、残酷なことをあかねに告げているのだ。
これ以上彼女を傷つけるのは嫌だった。
でも、ハッキリ言ってやらなければパーティから離れる踏ん切りがつかないとあかねが思っているのならば、
それを組んで遣るべきなのだろうか・・・
「・・・ああ」
乱馬は、俯いて表情を見せないままのあかねに一言、そう告げた。
その瞬間、あかねは小さく一度だけ頷いたように思えた。
「・・・」
・・・ごめん。本当はこんな事いいたくないし、思ってもない。
出来ればずっと傍にいて欲しいし、将来に続く道も離れることなくずっと一緒にいたい。
でも・・・
「・・・」
こうすることがきっと、彼女の為にはいいのだと。乱馬はそう判断して自分の今までの言葉を否定することなく黙り込んだ。
傍においておくことだけが、愛を守る手段でないということ。
傷だらけにならせてまで、傍においておいてはいけないと、そう思っているのだ。
「・・・分かった。帰る・・・」
そんな乱馬に対し、あかねは俯いたまま小さな声でそう呟いた。
あかねは、それ以上はなにも呟かなかった。
乱馬を責めるわけでもなく、それ以上反論するわけでもなく・・・静かに一言、そう呟いただけだった。
そして、地面に落ちた鞭をゆっくりと拾い上げると、ふらふら、とした足取りのまま乱馬の前から去っていった。

「・・・」

・・・これで、良かったんだ。
こうでもしなければあかねは帰るとは言ってくれなかった。あかねの性格を考えたら、こうでもしなければきっと、納得もしなかった。
中途半端に優しく進言した所で、絶対に納得はしなかっただろう。
でも・・・
「・・・」
フラフラとした足取りで帰っていくあかねの姿が、乱馬の目には以上に焼きついていた。
今すぐにでもその後ろ姿を強く抱きしめて、「本当は邪魔だ何て思ったこともない」と、本音を伝えてしまいたかった。
でも今自分がそれを言ってしまったら、
あかねを傷つけてまでしたくもないこんな事をした全てが、無駄になってしまう。
これで、良かった。こうすることがあかねにとって一番良かったんだ。
乱馬は強引に自分にそう思い込ませるようにして、
それまで振りかざしていた剣を腰の鞘へと収めた。
・・・折りしもそんな乱馬を照らし出すように。
夜半の空にかかる月は、シンシンとその光を地へと降り下ろしていた。
彼がふと空を仰ぐと、そこには毒々しいまでの黄色を放った月が浮かんで見えた。
今宵は、見事なまでの満月であった。
きっと、乱馬の心に余裕とゆとりがあったのなら。
きっと、乱馬の心に悲しみや苦しさが満ちていなかったのならば。
そして、シャンプーがコロンに受けた伝言がこの時までに乱馬に伝えられていたのならば、
乱馬は今日のこの夜の空を見た今この瞬間、何か思うことがあったのかも知れない。
今日のこの日にあかねにこうすることを、少し考え直したのかもしれない。
だが、それに気付かないのもまた、運命なのである。
彼は再び視線を空から地へ戻し、深いため息をつきながら医院の中へと戻っていったのだった。

満月の夜に下す決断には気をつけよ。さもなくばかけがえのないものを失うことになる。
彼が先ほどあかねに対し下した決断は、果たして正しいものだったのか。
それは、今の時点ではまだ分からない。
しかし・・・運命は今この瞬間を持ってゆっくりと動き出したのは確実であった。


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