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ためらい

あかねが、東風の医院に帰ってきたのは、夕方過ぎであった。
例の教会を出た後街を考え事をしながら歩いていたあかねは、うっかり道に迷い、戻ってくるのに時間をかけてしまったのである。


「お前、どこ行ってたんだよ!心配するじゃねえかっ」
勿論そんな経緯を知らない乱馬は、夕刻になりようやく医院へ戻ってきたあかねの姿を見るなり叫んだ。
・・・ただでさえあんなことがあった後で、いつの間にか姿を消していたあかね。
しかも、日も暮れ始めたというのに帰ってこない彼女に対し、乱馬が思わず強い口調でそう叫ぶ。
ヒルダの西地区は、日が暮れたあと女性が一人歩きするには忍びない地区。
姿の見えないあかねが、何も知らずにそこにいたら・・・と思うと、乱馬にしてみれば気が気でなかったのだ。
そんな乱馬に対し、
「・・・ごめん」
あかねは、小さな声で謝った。
「お、おう・・・」
「あたし、もう今日は休むね・・・色々と本当にごめんなさい」
「べ、別にそんなに謝らなくたって・・・俺はお前が無事ならそれで・・・」
「・・・ごめんね」
そして、戸惑っている乱馬の横をすり抜けるようにして、素早く自分の部屋に行ってしまった。
「・・・」
・・・明らかに、元気が無い。それよりも何より、乱馬はあかねが今の会話の間で一度も自分の顔を見なかったことが気になっていた。
あかねがそんな風に自分の顔を隠す素振りをするのは・・・きっと、泣いて腫れた目を目を見られたくないからなのではないだろうか。
「・・・」
気にするな、と言ってもきっとあかねは今日の事を気にしているんだろう。
声をかけに行ったほうがいいのか、それとも今日は一人にしてやり明日までに気持ちの整理をさせてやった方がよいのか。
「・・・」
乱馬は、部屋に消えていったあかねの後ろ姿を見つめながらそんな事を思っていた。


と。


「あかねちゃん、帰ってきたのですか?」
そんな乱馬に、昼間どこへか出かけていたはずの東風が、いつの間にか戻ってきていて乱馬に話し掛けて来た。
「…」
何でイチイチあかねのことを気にかけんだよ。
乱馬はそれさえも気に食わず、東風に対して反発的な態度を見せる。
「…」
勿論東風は、そんな乱馬の気持ちなどお見通しなので、苦笑いをしてそれはやり過ごすが、
「王子、ちょっと宜しいですか?」
彼にはそれよりも、乱馬に話さなくてはいけないことがあった。
「な、何だよ」
妙に改まった東風に診療室へ呼ばれた乱馬は、ドキドキと胸を鼓動させていた。
「…」
ムースはまだ意識を戻さないし、ずっと付き添っていたシャンプーも今は自分の部屋へと帰り休んでいる。
良牙と右京も、それぞれ今は、それぞれの部屋にいる。
・・・
東風は確実に回りに誰もいないことを確認し、
「…」
本当はこんな手を使いたくはないのだが、これ以上一人苦しむあかねを見ているのは忍びなかった。
そんな事を思いながら東風は、意を決して乱馬に語りかけた。
「・・・王子は、あかねちゃんのことが好きですか?」
「な、何だよ急にっ…」
「急でも何でも、これは大事な事です」
「っ・・・」
「…王子、彼女を愛していますか?」
「…」
・・・何故東風はそんなことを聞くのだろうか。
乱馬は彼の本位が分からず苦しんだが、その戸惑いとは逆に、彼自身の答えは勿論既に出ている。
「…ああ」
東風の問いに、乱馬はハッキリとした口調でそう答えた。
「そうですか」
ところがそれに対し東風は、驚くほどあっさりとそう呟く。
否定するわけでも、対抗するわけでもない。一体なんだと言うのか?
「そ、それが何なんだよっ。そりゃ、先生は俺よりももっとずっと前からアイツのことを知っているかもしれないけど、俺はっ・・・」
何故東風がそんな事を自分に問うのか分からない乱馬は、東風に必死に主張をしようとした。
ところが、
「その気持ちが本気だというのなら、もっと考えるのです。王子」
「え?」
「本当に彼女を愛しているのなら、傍にいることだけが愛を守る手段でないということを、考えて欲しいといっているのです」
東風の次の言葉は、乱馬にとって予想もしない言葉であった。
彼女を本当に愛するなら、傍にいるだけが愛を守る手段ではない?
それは、一体どういうことなのだろうか。
「・・・」
乱馬が何も言わず東風の顔を見つめると、
「・・・王子たちがリエンさんの家に行った日の夜、僕はあかねちゃんと二人でここに残りました」
「ああ、そうだったな」
「僕はその夜・・・泣いて嫌がる彼女の服を脱がし、身体を見た」
「なっ・・・!てめえ!」
ガタガタッ
東風の告白に、乱馬はカッと頭に血を上らせて彼の胸倉を締め上げる。
二人の身体が診療室の机に辺り、机の上に並んでいた本をバサバサと床に落ちた。
「あんた!あかねの姉ちゃんと結婚してるんだろ!?それなのにっ・・・よくも俺のあかねに!俺のあかねに何しやがった!!」
言いようのない怒りの感情が、自分の中でこみ上げる。
乱馬は東風の胸をぎりぎりと締め上げ、今にも殴りかかりそうな勢いで拳に力を貯めるが、
「・・・誤解しないで下さい、王子」
「何がだよ!」
「私は、医者ですから。医者が患者の身体を見る度に殴られていたのでは、仕事が成り立たないでしょう?」
「患、者・・・?」
「・・・少し気になることがありましてね。彼女の身体を診療しようと、少し強引に服を脱がそうとしたのです。それにそうでもしなければ彼女は私に体を見せなかったでしょうし」
「!」
「・・・」
東風はその質問には答えずに、乱馬に少し落ち着くように話した後、椅子に腰掛け大きなため息をついた。
・・・そう。
東風は、あかねに待ち受ける運命は知らずともあかねの視力が落ちていること自体は知っている。
本当はそれをそのまま、乱馬に話してしまいたかった。
でも、あかねの様子や気持ちを考えると、それはしない方がいいのだろうと考えてはいた。
ただ・・・このまま誰にも事情を知られず、一人苦しみ傷ついていくあかねを見るのは忍びなかった。
あかねの視力だって、恐らくきちんと診療して早く処置をすれば、良くなるのではないかと、思う。
若いゆえに進行も、回復も早い。紙一重なのだ。
今日の一連の出来事を客観的に聞いていた東風は、より一層そう思ったのだ。
できれば、国に帰して治療をさせてやりたい。
あかねは、乱馬の傍にいたいといっていたが、限界なのではないか。
ならば・・・あかねを国に帰らせるためにも、乱馬の協力がどうしても必要なのだ。
だから、このような方法で乱馬の協力を仰ぐことにしたのだ。
「・・・」
しかし、いくら協力を仰ぐとはいえ、いきなり視力の事を話すのは躊躇した。
きっとそれは、あかねの口から言いたいのだろうと、東風は思っていた。
なので、
「・・・とにかく、彼女の身体を一度見てみるといい」
「あかねの身体が何なんだよっ・・・何でそんな」
「王子が本当に彼女を愛しているのなら、そこで答えは出ると思いますよ」
・・・視力のことは後ほどあかね自身から聞くだろうが、
東風があの夜見た、あかねの傷だらけの腕や、肩。それを見れば、乱馬は絶対に何かを感じるだろう。そう思ったのだ。
旅をすることが・・・実際は視力が低下した為に転んだり怪我をしたりする機会が増えていたわけだが、
視力低下の原因が何かあるのなら、体調不良の為に倒れたり、疲労が強かったりして身体を痛めつける機会が多いかもしれない。
それはイコール、彼女の身体を傷つけ痛めつけていることになるのだ。
あかねの性格から言って、人前で、例えそれが乱馬の前であっても・・・弱音を吐くことなく無理をするだろう。
そうなると、全てが悪循環なのだ。
・・・
もしも乱馬が本当に彼女を思うのならば、あの身体を見たらきっと、思うはずだ。「帰さなくては」と。
王子が「帰れ」といえば、あかねも納得をするだろう。
東風はそう考えていた。
「・・・あんた、一体何を知ってるんだ?」
そんな東風の気持ちを知らない乱馬は、表情を強張らせたまま、彼を見つめている。
「・・・」
東風はそんな乱馬にそっと、一枚の封筒を手渡した。
乱馬がそれを受け取り中身を見ると、船の乗船券であった。
ヒルダ〜ウォータークール・・・つまり、乱馬たちの町があるセルラ大陸の海の玄関口・ウォータークール港への乗船チケットだった。
・・・そう。
東風はあかねが昼間医院を出て行った後、彼自身とある場所へ連絡を取り外出していたわけであるが、
実はそれは、この乗船券を手に入れるために港の乗船所へと行く為だったのだ。
そう、東風が連絡を取っていたのは乗船所。船のチケットの予約をしてもらったのだ。
「これ・・・」
そんな事になっているとは知らない乱馬が、チケットを見つめながら小さく呟くと、
「・・・五日後に、ヒルダからウォータークールへ向かう船が出ます。これを逃すと、航路の都合で二週間後まで直行便が出ないそうです」
「あかねに・・・これを渡せって言うのか?」
「彼女が国に帰るのならば、ウォータークール港までは船員に彼女の事を頼みましょう。ウォータークール港へは、彼女のお義父さんに来ていただけばいい。そこから他の誰かに頼むよりも、身内の方があかねちゃんも気を使わなくて済む」
「?」
勿論あかねに一人でティルトンまで行かせるのは不安だが、何だかこれでは、あかねを一人にさせないようにしているように感じられる。
しかも、何故あかねの父親に迎えに来させるのか。
あかねが気を使わなくてすむ、とはどういうことなのか。
何だかこれでは、あかねを頼む、と言うよりはあかねを「守る」為に人員を配置しているように感じる。
そうまでしなくてはいけない程、もしやあかねの具合は良くないのだろうか・・・
「・・・」
乱馬がそんな事を思っていると、
「・・・本当にお互い思いあっているのならば、どんなに離れていてもその気持ちは揺るがない。そうでしょう?王子」
「・・・」
「貴方があかねちゃんを思うように、彼女も貴方を思っているんです。僕はそう思う。二人が将来ずっと一緒にいるのを望むと言うのなら、大切なのは「今」だけじゃないだずだ。」
「・・・」
「どうするのが一番良いのか、考えてみてください」
東風は、チケットを握り締めたまま黙り込んだ乱馬にそういうと、診療室から出て行ってしまった。
「・・・」
・・・本当に思いあっているのなら、どんなに離れていても気持ちは揺るがない。
東風のその言葉が、乱馬の胸には嫌という程響いていた。
「・・・」
・・・強引に服を脱がせて診療したとき、一体何を見たのか。
いやそれよりも、
そんな状況で診療を受けなければいけない程、あかねは体調が良くないのか?
彼女の体調が悪そうだということは薄々気がついていたが、まさかそれほど酷いとは乱馬は思わなかった。
それに気がつかなかった自分が腹立たしくもあり、情けなくもあった。
あかねのことを一番見ているつもりだったのに、一番気づいてやらなくてはいけないことに気がつかなかった。
しかもそれを、東風に進言されるとは・・・
「・・・」
乱馬は、東風から渡された船のチケットをポケットにしまいこんだ。
そして、そのまま診療室を出てあかねの部屋へと向かう。
先程までは声をかけに行ったほうがよいのかどうか迷っていたけれど、状況が変わったのならばそうも言ってはいられない。
「あかね、入るぞ」
トントン、とノックをするのとほぼ同時にあかねの部屋に入った乱馬は、部屋に入るとすぐ、後ろでで鍵をかけた。
「な、何・・・どうしたの?乱馬」
乱馬が入ってくるまで、部屋で一人考え事でもしていたのだろうか。
窓辺にボーっと佇み外を眺めていたあかねが、驚いた表情で乱馬を見る。
「・・・」
乱馬は、一瞬だけ躊躇をするも窓辺のあかねのところまで歩み寄った。
そして、
「!な、何っ・・・乱馬!?」
「・・・」
「乱馬!やっ・・・やだっ」
乱馬は強引にあかねの手を引っ張り傍のベットへと押し倒すと、強引に彼女の着ていた洋服へと手をかけた。
そう、先ほど東風に言われた事を確かめてみようと思ったのである。
勿論そんな事とは知らないあかねは、普段は優しい乱馬のこの行動に驚き、怯えたような表情をしている。
彼のことは嫌いではないし、行為自体に嫌悪感を持っているわけではない。
でもこれでは、気持ちとかそういうものを一切無視した状況であり、パニックになるだけだった。
「やだっ・・・やだっ!!」
あかねは、必死で暴れ乱馬の手を振り払おうとしたが、もちろんそんなことで外れるほど彼の手の力は弱くはない。
乱馬はあっという間にあかねの上着を脱がせ彼女を下着姿にしてしまったのだが、
「!」
・・・自分の腕の中で、肩や腕が露になったあかねを見た乱馬は、はっと息を呑んだ。
「・・・なんだよ、これ」
「ら、乱馬・・・?」
「お前なんでっ・・・何でこんなっ・・・こんな・・・!!」
乱馬はそういって、あかねの肩にそっと指で触れた。
・・・ティルトンの街にいた頃。
よく道場での修業の後、あかねの着替えとか風呂とか覗いては殴り倒されていた乱馬。
たとえ身体の関係はなくても、そういうことがあった故に・・・まああまり自慢できることではないのだが・・・彼女の肌は、垣間見たことがあった。
その時には傷一つなくて綺麗で、しなやかな体つきだったのに、
今、自分の腕の下で怯えている彼女の腕や肩は、あちこちに傷や痣が出来て痛々しく見えた。
無論その傷や痣は、旅をしていたがゆえに出いたものばかりではなく、どちらかといえば視力が低下したがゆえにぶつかったり転んだりすることが多くなりできたものが殆どなのだが。
「ら、乱馬・・・?」
あかねが、急に静かになった乱馬に問いかけると、
「ごめんな・・・俺、ごめん・・・」
「きゃっ!?」
「ごめんな、あかね・・・」
乱馬は強引にあかねを自分の方へと抱き起こし、小さくて華奢で傷だらけのあかねの体を力いっぱい抱きしめた。
「ら、乱馬・・・?」
何故彼が謝るのか。強引に服を脱がせたことでも謝っているのだろうか?
まだ状況が飲み込めないあかねが、抱き潰されそうなほど強い乱馬の腕の中でじっと黙り込んでいると、
「・・・」
乱馬は、最後に一度だけ強くあかねを抱きしめると、ゆっくりとあかねの身体を離した。
「乱馬・・・?」
向かい合うような形で見詰め合う二人であったが、乱馬の表情がとても陰りがあるように見えたあかねは、急に不安に刈られた。
「・・・」
乱馬は、自分が強引にはだいて脱がせた服を、ゆっくりとあかねに着せてやった。
そして、
「悪かったな・・・急にこんなことしちまって」
「あ・・・うん・・・」
「悪かった」
表情に陰りを見せたまま、とりあえずは笑顔をつくろいそのまま部屋から出た。
あかねが乱馬の名を呼んでも、乱馬があかねの方を振り返ることはなかった。
「・・・」
部屋の中に残っているあかねは、そんな乱馬の態度が気になって仕方がなかった。
乱馬は医者ではないから、服を脱がせたくらいではあかねの視力が低下していることは分からないだろう。
でも・・・あかねの体を見て、驚いていた。
「・・・」
あかねは、着せてもらった服を再び脱いで自分のの肌を見る。
・・・自分ではもうだいぶ見慣れているので何とも思っていないのだが、
わりと痣とかついているこの腕を、乱馬は幻滅してしまったのだろうか。
自分の不注意でついてしまっているこの傷や痣。あかねが自分の身を自分で守れるようにすれば、きっと防げるものだ。
「・・・」
乱馬に今度見られる時までには、もっと減らして綺麗な腕で居なければ。
あかねは再び服を着用しながら、そんな事を思っていた。




が・・・そんなあかねの思いとは裏腹にことは既に進みつつあったのである。




「・・・へ!?腕と肩を見せろって・・・どうしたん?急に」
「ご、ごめん・・・でも頼むよ、うっちゃん」
「別に腕と肩だけでなくてもええけど・・・」
「いや、腕と肩だけで」
「あ、そ」
・・・あかねの部屋から飛び出た乱馬は、まずは良牙を呼びに行きつつ、右京の部屋へと向かった。
一応良牙に声をかけたのは、頼む内容が内容だけあって、彼なりに気を使っているのである。
「お前、何で女にそんな妙なこと頼むんだよ」
欲求不満か?あかねさんに相手にされなくて・・・と、乱馬のこの行動を理解できないで苦しむ良牙だが、乱馬はそれに対して何も語らず右京に腕と肩を見せるように頼み込んでいる。
「はい、これでええの?」
勿論断る理由も無い右京は、そんな乱馬に対しほいほい、と腕と肩を見せた。
独特な薄紫地の服の肩部分をだけ片方グイッとずらす、右京。
ほっそりしているような、それでもしっかりと筋肉がついているような白い腕が見える。
乱馬は、そんな右京の腕をじっと見つめている。
「すげえ筋肉質」
「ほっといてや!料理人には力が必要なんよ!」
その乱馬をよそに良牙と右京はそんな会話をし始めたが、
「・・・」
乱馬の目線は、右京の腕に筋肉がついているかいないかや、太いか細いかではなく、
彼女の腕にどのくらい傷がついているか・・・そこに集中していた。
よって、二人の会話は全く耳に入っていなかった。
「・・・」
乱馬は、右京の腕と肩を見つめそっとため息をつく。
・・・無傷というわけではないが、右京の腕は普通に見ても傷が気になるほどではない。
傷自体そんなに目立たないし、まあ旅をしていればこのくらいは出来ても仕方が無い、程度の傷だろう。
・・・
「ありがとう、うっちゃん」
「え、もうええの?」
「ああ」
乱馬は右京に礼を言うと、そそくさと部屋を出た。
「お、おい乱馬っ」
そんな乱馬を慌てて良牙は追うが、乱馬は今度はシャンプーの部屋の前で立ち止まった。
「・・・おい。お前まさか同じことをシャンプーにもするつもりか?」
乱馬の行動が全く理解できない良牙がそう呟くも、乱馬はそれには答えず、シャンプーの部屋のドアをノックする。
「おい!お前どうしたんだよ」
良牙は、女メンバーの肩と腕を見て回る怪しげな乱馬の理解に苦しむ。
が、乱馬はお構いなしに、
「シャンプー」
「あいやー、乱馬。どうしたあるか」
「肩と腕、見せてくれないか?」
「それはいいあるが・・・」
と、部屋から出てきたシャンプーに右京と同じことを言っている。
「何なら裸もみせるあるが」
乱馬一人ならばきっとすぐに服を全て脱いだのかもしれないが、後ろに良牙も居るので一応は遠慮しつつ、シャンプーは上半身を覆っていた服を脱ぎ捨てる。
そして、乱馬の言うとおりに肩と腕を彼に披露するのだが、
「・・・」
乱馬はその姿をじっと見つめたまま何も言わない。
・・・シャンプーの腕は、右京よりもほっそりとしたスレンダーな腕だった。
魔法で必要なのか、上腕部にはカラフルなペイントの魔法陣が施されている。
だが、右京と同様無傷ではないにしろ、「傷」として目立つようなものもなく、痣も一箇所くらいにとどまるに過ぎなかった。
そんなシャンプーの腕を見た乱馬は、
「ありがとう、シャンプー」
シャンプーに小声で礼を言った後、
「もういいあるか?せっかく服、脱いだ。続きはここからね」
「ありがとうな。今日はお疲れだったし、ゆっくり休んでくれよ」
「わかったあるが・・・?」
と、先ほどと同じように早々とシャンプーの部屋から出て、今度は自分の部屋へと戻った。
良牙も慌てて乱馬の後を追う。
そして、
「おい!こら、乱馬!」
良牙は、先ほどから意味不明の行動を繰り返してはため息をついている乱馬の胸倉を掴み、叫んだ。
「おい!何なんだ、お前は!次から次へと女の腕と肩を見て回りやがって」
「・・・色々あんだよ」
「なーにが色々だ、この変態王子がっ・・・はっ、お前まさかこの後、あかねさんにも同じ事をっ・・・」
良牙には、乱馬の行動が全く理解できないのだ。・・・当たり前である。
もしやこの変態王子の毒牙が純真可憐なあかねにも及ぶのでは・・・その危険を感じた良牙が慌ててそう叫ぶも、
「・・・あかねのはもう、見たから」
「な!て、てめえ何でそこだけ一人で行くっ」
「・・・」
別に心の奥底で期待をしていたわけではないのだけれど、
ちゃっかりとあかねの肩と腕だけは一人で見ていた乱馬に、良牙は思わずそう叫んでいた。
そしてボコッと乱馬の頭を拳で殴りつける。
と、
「なあ、良牙」
「何だよ。言っておくけど俺はお前の変態趣味に付き合うつもりはねえし、理解してやるつもりもねえ!ついでに俺は脱がねえからな」
まさか自分にも、乱馬が同じことを要求してくるのではないか?
万が一のことを考え、一瞬不安になった良牙が乱馬にそう叫ぶも、
「そうじゃなくて。あかねのことなんだけど・・・」
そんな良牙に対し、乱馬は静かな口調でそう、呟いた。
「?」
この変態的な理解不能の行動はともかくとして、大抵は明るい表情をしている乱馬が、珍しく思いつめた表情をしているのが少し、良牙は気になった。
「あかねさんが何だよ」
良牙が、振り上げていた拳を元の位置に戻しそんな乱馬に尋ねると、
「・・・ティルトンに、帰した方がいいのかな」
「え?」
「このまま、アイツと共に旅をしていていいのかどうか、俺には分からなくなってきた・・・」
乱馬は静かな口調でそういって、ため息をついた。
・・・乱馬が女メンバーの腕を見て回ったのは、もちろん変態的思考の為ではない。
あかねの腕について痣や傷が、平均的なものなのかどうかを見たかったからであった。
結果、彼女の腕についていた傷や痣の数は普通よりもずっと多くて酷いものだと、分かった。
勿論乱馬は、どうしてあかねの腕に必要以上に傷がついているのか本当の原因は知らないが、
その傷がどれだけ痛々しく彼女お体を痛めつけているかだけは理解をしたつもりだった。
白くて、綺麗で、華奢で・・・可愛くて大事で仕方がないあかね。
そんなあかねの身体を痛めつけさせてまで、自分に同行させる意味はあるのだろうか?
乱馬は今、そう考え始めていた。
・・・
東風は、「彼女の身体を見てみるといい」と、乱馬にアドバイスをした。
彼にアドバイスをされるのは癪だったが、乱馬はあかねを「患者」だと言った東風の言葉が気になり、彼の言うとおりにあかねの身体を見た。
そして、知ったのだ。
今自分達がしている旅が、どれだけ彼女の身体を痛めつけていたかということを。
あかねの体が傷ついている理由を全て知らない乱馬は、その傷の数=旅から来るダメージと、とる他無かったのだ。
「・・・」
・・・前にあかね本人にも伝えたが、
乱馬としてみれば、一緒に旅を続けていようがいまいが、将来を望む気持ちは変わらない。
あんな風に身体に傷を作ってまで自分の元にいさせないと気持ちが離れるような、そんな気持ちでは自分としては無いのだ。
勿論、「自分の結婚相手は自分できちんと見たい」といって旅についてきて、少し気を使おうものならば「余計なお世話だ」と突っぱねるあかねが、簡単には乱馬のことの考えに納得するとは思えないのだが。
・・・
案の定、
「・・・お前が、あかねさんを先に国に返そうかと考えているのは分かったけど、でもあかねさんは納得しないんじゃないか?」
乱馬の話を大人しく聞いていた良牙が、そう呟いた。
良牙も少なからず、あかねとは旅を出る前に知り合った仲。
あかねが、乱馬に「帰れ」と言われた所で素直にそれに従うとは思えないのだ。
が、
「まあさ、今回は右京やシャンプーもあかねさんに対して不満をぶつけたかもしれないし、ムースもあんなことになったけど・・・同じことを繰り返さないように俺たちもあかねさんをカバーしながら・・・」
「あかねの身体・・・」
「あ?」
「あかねの身体・・・あいつ、細くて華奢で元々よわっちい身体なのに、すげえ傷だらけだった」
「・・・」
「他の二人に比べて、比べ物にならないくらい傷も痣も、多かったんだ・・・それだけアイツは、無理して今、旅をしているんじゃないかって、俺、思った」
乱馬のその言葉に、良牙は楽観的な意見を言う事ができなくなった。
あかねの身体を見る時だけはちゃっかり自分一人の乱馬には若干腹も立つも、
でも乱馬が見たからこそ、強くそう思ったのだと・・・そう思うと、何ともいえなかった。
誰だって、愛する相手の身体が少なからず自分と一緒に居るせいで傷だらけになっていく姿を、見るのは忍びないだろう。
それに加え、
「あの医者先生が、言ったんだよ」
「あの先生が何だよ」
「・・・詳しくは教えてくれなかったけれど、あの先生、あかねの事を患者って、言ったんだ」
「患者・・・?あかねさん、病気なのか!?」
「分からない。でも体調が悪そうなのは確かだ。俺もそれは気になってたんだけど・・・」
そう、それはいつも彼女を見ているからこそ分かる事。
例え視力の事までは気づけなくても、あかねの身体の具合が悪そうだということは、乱馬は以前より気になっていた。
「・・・」
良牙は、そんな乱馬の話を黙って聞いていた。
自分もあかねに対して憧れを抱いてはいるが、乱馬のように彼女の体調不良については気にかけてはいなかった。
それなりに気を使って、声はかけてきたつもりだった。が、まさか体調不良だったところまでは気づかなかったのだ。
乱馬だからこそ、分かったことなのか。良牙は小さなため息をつくと、
「・・・もしも本当にあかねさんが病気だとしたら」
「・・・」
「俺も・・・早く国へ返すべきだと、そう思うよ。でもそれが思い過ごしだとしたら?」
「・・・それは無いと思う。それに、もし万が一あかねが病気でなかったとしても・・・」
「・・・」
「あんな傷だらけの身体にさせてまで、傍においては置けない」
乱馬は、小さいがはっきりとした声でそう呟いた。
「・・・お前はそれで、いいんだな?」
良牙は、そんな乱馬に対し再び問う。
「良いも何も・・・俺が大切なのは、俺の気持ちよりも・・・」
あかねだから。乱馬は良牙の声にそう答える。
「・・・お前の気持ちは分かったけど。もしそれを伝えてあかねさんが納得しなかったら?」
「納得させるよ、何としても。俺の気持ちは、離れたって変わらないし・・・」
「お前はともかく、あかねさんの気持ちは変わるかもしれねえだろ」
「っ・・・」
「事がことだから、決断は焦らない方が良いと思うけど・・・でも、もしも決断をするのなら、あかねさんがきちんと納得をする方法でそれをしろ。俺からはそれしか言えねえ」
「良牙・・・」
「俺は別に、お前があかねさんに愛想をつかされるのは構わないけど・・・あかねさんが悲しんだり、苦しんだりする姿を見ているのは辛い」
「・・・」
「だから、ちゃんと考えてひねり出した決断を、お前と、あかねさんがちゃんと納得をする方向で事を進めろ。その結果に対して俺は、何も言うつもりも無い」
「・・・分かった」
少し乱暴ではあるが、良牙の言うことは最もだと、乱馬は感じた。
良牙はその後部屋を出て行ったが、乱馬は一人居る部屋の中で今後どうするべきなのか・・・再びゆっくりと、考えることにした。


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