【らんま1/2の二次創作小説サイト】| INFORMATION | NOVELS |BOOKMARKS |CONTACTS | HOME |web拍手

Bright or Black7

それから、二時間くらい経っただろうか。

ミコトの店への弔問客が途切れたので、乱馬達はゆっくりと、主を失った店の中へと入っていった。
「・・・」
昨夜訪れた時と、なんら代わりのない店内。
錆びた甲冑に、新品ならば需要のありそうな刀。
動物の剥製に、奇怪な紋様をあしらったツボ。
夜明けの風景を描いた、幻想的な絵画・・・昨夜見たものと全く同じそれらが、そこにはあった。
唯一違うものと言えば、それらを管理している主がもうこの店にはいない、という事だけだろうか。
随分と酷い殺害現場のようだったが、今では血痕も匂いも全て、そこからは感じ取れない。
「・・・」
と。乱馬達は、弔問客が花や酒を置いていった場所を店内で発見した。
恐らくそこが、ミコト・・・の遺体の一部、しかも大き目のものが発見された場所なのだろう。
乱馬達は、自分達の話を始める前にまず、ミコトへ黙祷を捧げることにした。
そして、それぞれが目を閉じその場に佇む。
「・・・」
そんな風にそれぞれがミコトへ黙祷を捧げる中。
一人だけ、その黙祷に集中出来ずそわそわとしている者がいた。
あかねである。
「・・・」
・・・あかねは、一応はミコトへ黙祷を捧げる乱馬の横で、
自分も同じように、会った事はないがミコトへの黙祷を捧げるように努力した。
が、目を閉じ黙祷を捧げようとしてもどうしても・・・それに集中できず、何度も目を開いてしまい身体が震えていた。
あかねは、ミコトと面識はない。
今日、乱馬達に誘われてここで会うのが初めてになるはずだった。
が、ミコトが殺されてしまったので、それはかなわなかった。
実際に会った事も話をしたこともないミコトに対しては、「気の毒に」と思う事はあっても、それ以上黙祷を捧げるのに障害になるような気持ちは起きるはずがなかった。
が・・・あかねには、このミコトの「死」は脅威となってあかねの心を襲っていたのだ。
『ほんの少し先の未来を垣間見る能力』が出来た、ミコト。
先ほどシャンプー達は、未来は見えてもミコトは自分の死に関しては見えなかった可能性もあるかもしれない・・・とを話していた。
結局結論はミコト本人でなくては分からないし、それにミコトはいなくてもムースに質問内容を聞いて見ることで問題を解決しようという、話の流れになった。
あかねはその話を聞いていて、
勿論ミコトが自分達をここに呼んでおきながら、このような状況になったことに関しても気にはなっていたが、それとは別のことを、実はこっそりと考えていたのだ。
「・・・」
・・・あかねには、ミコトが自分の死に対してその部分だけ見えなかった、とはどうしても思えなかった。
乱馬達と昨日、この街で会うことを垣間見た時に、恐らく自分がその翌日に命を落とすことも、見えたのではないか。そう、思ったのだ。
彼女は、自分が死ぬ日を知っていた。
それなのに、逃げなかった。
まだ皆からミコトに関して詳しい情報を聞いていないあかねにとっては、
何故彼女がこのカードの事に関わっているのかとか、魔導士ラビィの事を乱馬達に色々と話すことが出来たのかは分からない。
でも、
そういう事情を全て踏まえ、ミトコは自分が死ぬその日までに、自分がやるべきことを、きっとしてきたのだろう。それだけは分かった。
ミコトは運命を強引に変えて逃げ延びて生き残るよりも、「自分がやるべきこと」を優先させて、そのまま死を受け入れる運命を選んだということか・・・
「・・・」
あかねは、こっそりと目を開け自分の横で黙祷をしている乱馬を、チラリと見た。
彼の整った横顔が、あかねの瞳に映る。
「・・・」
・・・自分が明日死ぬと分かっていて、夜を越すというのはどんな気持ちなのだろうか。
いくら特殊な能力を持っている人間で、その運命を受け入れるつもりで生きてきたからといって、
自分の死も、そんなに冷静に受け入れられるのだろうか・・・
「・・・」
もしも自分なら・・・どうだろう。
もしも明日、自分が死ぬと分かっていたら、その前夜、どうする?
その事を隠して、ミコトの様に冷静に乱馬達と話が出来るのだろうか?
・・・
「・・・」
・・・皆にとっては、「不可解で不思議」な出来事で終わるかもしれない。
でもあかねにとっては、ミコトの行動や言動一つ一つが全て自分に何かを語りかけているかのように思えて、ならなかったのだ。
怖かった。
まるで、「さあ、貴方ならその時どうする?」と、姿の見えないミコトに問いかけられているような気がしたのだ。
遠からず、自分にもやってくるはずのその時を、
本当はまだ考えたくないその時を、急に近くで見せられ感じさせられたような気がした。
急に、現実を突きつけられたような気がして、怖くて仕方がなかった。
「・・・」
あかねは、乱馬から視線を戻して再び目を閉じた。
閉じたまぶたがカタカタと震え、止めようとしても自分の身体が、手が小刻みに震えてしまった。
と、
「!」
ギュッ・・・
小刻みに震えていたあかねの手を、不意に乱馬の手が覆い被せるように掴んだ。
あかねが驚いて乱馬を見ると、乱馬はあかねへ視線は向けず目を閉じそれまで通りに黙祷を捧げたままだ。
勿論周りの皆も、まだ目を閉じたままなので彼があかねの手を握った事には気がついていない。気がついていたら大騒ぎになるだろう。
「・・・」
言葉は何も発しなかったのに、あかねの様子がどこかおかしい事を、雰囲気で感じ取ったのだろうか・・・
一瞬、あかねはその乱馬の手をゆっくりと振りほどこうと考えたが、結局はそうはせずに、ゆっくりとその手を握り返した。
乱馬もそのあかねの握り返した手を、更に力を入れてきゅっと、握る。
「・・・」
・・・どうしてあかねが震えていたのかは、きっと乱馬は分からないだろう。
不安で、怖くてどうしようもない時にこうして手をとってくれたことは、あかねは嬉しかった。
でも、いつまでもこの優しさに甘えていられないということも、一方ではきちんと分かっているつもりだった。
・・・自分の最後の夜までには、こんな風に不安と恐怖で身体を震わせるようなことがないように、気持ちをきちんと整理して置けるといいな。
「・・・」
乱馬には、出来るだけ迷惑をかけないようにしなくちゃ。あかねは複雑な気持ちのまま、そんな事を考えていた。

それから、しばらくして。
「・・・で?昨日はミコトに何て質問しようとしたんだよ」
ミコトへの黙祷を終えた乱馬達は、改めて薄暗い店内にて話を始めた。
そう、ムースがミコトへと投げた質問の内容を確認しようとしているのだ。
「・・・」
ムースは、乱馬の質問に対して一瞬間をおきため息をついた。
そして、
「・・・ラビィは、元山賊。でも二大属性魔法の一つ、闇属性の魔法の使い手だと・・・昨夜ミコトより聞いた」
「ああ、そうだ」
「じゃから・・・もしもそれが逆の場合も、ありえるのかと思ったのじゃ」
「逆?」
「ラビィは山賊だった頃にも、闇属性の魔法は使えていた。奴は後に本物の魔導士になったから、もしかしたら出生確率で授かった闇属性魔法の能力の他にも、生まれして元々魔法を使う才能や、魔導士になる才能があったのかもしれん。じゃから奴は異例だったのかもしれないが・・・」
「異例?」
「ラビィと相反した光属性の魔法の使い手の場合は、現在が魔導士ではなくても・・・例えば普通の人間であるにしても、その出生確率で授かった能力を発揮できるのかどうかを聞きたかったんじゃ」
「!」
「それとも、ただ単に本人は気づいていなくても、その人間にも実は光属性魔法の他に何らかの魔力や魔導士としての才能が眠っている可能性があるのかどうか・・・」
ムースはそこまで呟くと口を閉ざした。
そんなムースの言葉に対し、乱馬や良牙、右京は「難しい事を質問するつもりだったんだな」程度の認識であった。
あかねは、自分に体調の事についてのことではなかったので、不謹慎ながらほっと胸をなでおろしていた。
ところが、
「・・・」
シャンプーだけは、ムースのその言葉に対して明らかに表情を動かした。
そう、彼女には何故ムースがその質問をしようとしたのか、心当たりがあったのだ。
多分ムースは今、かなり言葉を選んで皆に自分が質問をしようとしたことを伝えたはずだ。
本当は、もっと、突っ込んだ内容をミコトに質問しようとしていたに違いない。
もっと突っ込んだ内容。そう、それは「あの時」に見た光のこと・・・
でも、本当にそんな事がありえるのか。
「それは・・・私としても知りたかった答えあるな・・・」
シャンプーは小さな声でそう呟き、それ以降口を閉ざしてしまった。
乱馬達は、そんなシャンプーとムースの様子をじっと見つめる。
「・・・」
乱馬達はシャンプーのその反応もムースの質問の真意も良く分からないので、それ以上はその事に関しては突っ込んで質問する事は出来なかった。
ただ、二人がそれなりに考えたり反応したりしている所を見ると、きっと自分達が思う以上に何か、この自分達の旅を続けていく上で重要なことに関わっているのではないか、とは感じる。
と、
「・・・でも、せやったからどうなん?」
「どうなん、て何がだようっちゃん」
「ムースがミコトに質問しようとした内容は分かったけど、でも何でそれが、今日ここに来ればわかるんやろか?」
少し沈黙が続いた後に、右京がぼそりとそんな事を呟いた。
「ミコトが殺されることがなければ、もしかしたらミコトが今日、その質問の答えを話してくれるはずだった、と考えれば丸く収まるけど」
「そうだな」
「・・・でも、もし自分が死ぬというのが分かっていたのにそう言ったというのなら・・・どうやってうちらはその質問の答えを知ることが出来るん?」
そう。
もしも、今日ミコトが命を落とすことがなく約束の時間に乱馬たちと会うことが出来たのならば、ムースの質問について本人が答えたのかもしれない。
でも、実際は違った。
それに・・・もしも自分が死ぬことを知っていたというのに乱馬達に今日の事を伝えたというのなら・・・その根拠が分からないのだ。
自分が乱馬達に会えない、話すことは出来ないと分かっているのに、「正午にココに来れば分かる」と言ったミコト。
「・・・正午ちょうどに、この店にも入れるようになった。つまり、ミコトが話さなくても俺達がその質問の答えが分かる『何か』がこの店の中に・・・残されている可能性がある、ってことかな」
良牙が、右京の投げかけた質問に対して自分の見解を述べる。
「その可能性は否定できないあるな」
シャンプーも、それに対して同意する。
「でも、一体この店の何が・・・」
乱馬とあかねは、薄暗く昨夜同様主を失ったこと以外変わりのない店内を慌てて見回す。
錆びた甲冑に、新品ならば需要のありそうな刀。
動物の剥製に、奇怪な紋様をあしらったツボ。
夜明けの風景を描いた、幻想的な絵画・・・置いてあるものは骨董品だらけの為に何だか全てが疑わしく見えるのだが、でもだからといって質問と結びつくとは思えなかった。
と、
「・・・そうじゃ!」
店内をきょろきょろしていた乱馬達の背後で、不意にムースが叫んだ。
「な、何だよ」
乱馬が、それまで黙り込んでいたくせに突然大声を上げたムースを驚いて振り返ると、
「そうか、そういう意味もあったんじゃな!」
「だ、だから何がだよ」
「Bright or Black!」
「ぶらいと おあ ぶらっく?ああ、ミコトが俺に忘れるなって言った言葉か」
でも、それは俺が苦難に見舞われた時に忘れてはいけないといった言葉じゃ・・・乱馬がムースにそう返すと、
「その時もその言葉は忘れてはならぬが、それだけじゃなかったんじゃ」
「それだけじゃない・・・?」
「昨日、言っておったではないか。『絶対に忘れてはいけない』と・・・あの時は、おぬしが思ったとおり苦難に見舞われた時には忘れてはいけないと、そう意味合いでミコトが話したとおらも思ったが、それだけではなかったんじゃ」
「?」
「あの言葉は、常に忘れてはいけない言葉だったんじゃ!」
ムースはそう言うと、皆の顔をぐるりと見回す。
「だから、その言葉が一体何の手がかりに・・・」
ムースの言っている事がさっぱり理解できない乱馬や良牙が、再び彼にそう尋ねる。
「・・・手がかりは、ミコトが言ったとおりこの店内にあるということじゃ。やっぱりミコトは、自分が命を落とすことは知っていた。でも、おら達に質問の答えを伝えなくてはならない。じゃから・・・どうしてこの形をとったのかは分からないが、店内のある場所にその答えを、隠したんじゃ」
ムースは、そんな二人に落ち着いた口調でそう告げた、その言葉に、あかねを始め女性陣も息を呑む。
「!?ある場所ってどこだよ!」
乱馬が、ムースにその続きを尋ねると、
「それは・・・」
ムースはゆっくりとその続きを皆に告げるべく、口を開き言葉を発しようとした。

しかし、ムースが言葉を発しようとしたちょうどその瞬間。

「そんな場所から何かを見つけるよりも、私がもっと簡潔に教えてやろう」
「!?」
・・・乱馬達のすぐ近くで、不意にそんな声がした。
その声は、乱馬たちの知っている声ではない。ということは勿論第三者ということになるのだが、
「なっ・・・誰だ!」
格闘技と魔法のてだれが揃う乱馬達パーティーに、その存在すら悟られず、近寄っていた人物。
しかも、声をかけられるまで傍に近寄ってきていたことすら、分からなかった・・・乱馬達には、それが不気味で脅威に感じた。
近寄ってきた人物は、明らかに格闘に長けている。
そして・・・確実に危険な人物である。乱馬は、背筋に冷たい汗を掻きながら本能でそう感じた。
「・・・とりあえず話は後だ!ここは危険だ、急いで外に!」
この狭く薄暗い店内で戦いになると、行動も制限されるし不利。
それに、この店内にはムース曰く「質問の答え」となる手がかりが残されているようだし、荒らすわけには行かない。
一行は、それぞれの武器を片手に握り締めるようにしながら、慌てて店内から飛び出そうとする。
「痛っ・・・」
ガタガタッ・・・
そんな中、薄暗い店内でいつも以上に視界が良くないあかねは、狭い通路を通過する際テーブルや骨董品に身体をぶつけてしまう。
「何やってんねん、あかねちゃん」
「店内荒らす、良くない」
「お前ら、仕方ねえだろ!暗いですもの、仕方ないですよあかねさん」
そんなあかねに対してシャンプーや右京は呆れ、良牙はさりげなくフォローをするが、
「何やってんだ、ほら!」
そんなあかねの手を、乱馬が慌てて掴み自分と一緒に店の外へと引っ張り出す。
「ったく、ドジだな・・・気をつけろよ」
外への通路を進みながら、乱馬も呆れたような口調であかねにそう声をかけるが、
「ご、ごめん・・・」
勿論あかねは、自分のそそっかしさ故にありとあらゆる場所へぶつかってしまうわけではないといことは、乱馬にも話すことは出来ない。
ただ、皆に迷惑をかけてしまったことだけは確かだ。
あかねは、小さな声で自分の手を引き早歩きで進んでいく乱馬の背中に謝ると、きゅっと唇を噛み締めた。
・・・一行は、とりあえず店の外へと飛び出した。
そして、
「さっきの男、何者だ?」
「俺達に、気配を感じさせずに近寄るとは・・・」
「危険あるな」
「用心するに越したことはない」
と、自分達が飛び出してきた店を振り返りながら、店の前に立ち止まりそんな事を呟いていたのだが、
「気配を消して近寄ることなど、私にしてみれば些細なことさ」
再び自分達の近くで先ほどの声を聞き、ゾワリ、と悪寒を感じた。
「な!?」
「うわ!?」
・・・乱馬達が慌てて声がした方へと目をやると、
何と先ほど店の中で一行に声をかけてきたはずの人物が、既に店の前で乱馬達を待ち構えていたらしくそこに立っていたのだ。
「・・・」
店内で声を聞いてから、乱馬達はすぐに店の外へと飛び出した。勿論、前に誰かが走っていることはなかったし、後ろからも自分達以外は誰も来なかった。
それなのに、既に店の外にいるとは・・・
「・・・」
到底、普通の人間とは思えない行動である。
やはりこの人物は危険だ。一行に、言い知れぬ緊張感が走りぬけた。
「…」
・・・その人物は、黒い厚ぼったいローブで全身を覆っていた。
この状態では顔も年齢も分からないが、声の感じからして男だろうと、察しはついた。
格闘や魔法のてだれの乱馬達に全く気配すら感じさせず、二度も近寄ってきた男。
ただ、
店の中ではその存在や空気すらわかなかったのに、改めてその男と対峙しようと向き合った乱馬達の肌には、ビリビリと強い「気」を感じる。
それも、吐き気がするような気持ちが悪い「気」・・・瘴気、と言うやつだろうか。
状況次第で、この気持ちの悪い「気」までも自由に制御できる男。
どう考えても危険である。
「…」
乱馬達は、それぞれがそれぞれの武器を手に構えながら、その男を凝視した。
すると、
「…あの女は何も話さなかったようだな」
ローブの男が、そんな乱馬達に対し静かな口調でそう呟いた。
「何も…?何もって、何だよ」
乱馬が聞き返すと、
「…」
男は何も言わず、不意に乱馬に向けて左手を翳した。
その手には徐々に光が集まり出している。そして、手に集まり始めている光は、どす黒い不気味な澱みを見せて掌の中で蠢きだしていた。
そう、男は乱馬の質問に答えるどころかいきなり魔法攻撃を仕掛けようとしているのである。
「危険ある!」
それを悟ったシャンプーが、慌ててそう叫んだ。そして、防御フィールドを作るべく防御魔法を唱える。
が、詠唱時間が短くて済む防御魔法は、そのサポートする範囲も狭くなるのは否めない。
シャンプーが唱えた防御魔法は、自分の隣に立っていた右京をかろうじでガードする範囲に留まってしまった。
もう一人、ムースも同じように防御魔法を唱えるが、シャンプーに比べ防御系の魔法は得意のムースであっても、詠唱時間が短い魔法となれば、さほど変わりはない。
ムースの防御魔法も、自分のすぐ両隣にいたあかね良牙をカバーするに留まった。
残念な事に、一人少し抜き出して男と対峙していた乱馬の立ち位置までは、届かない。
「ムース、乱馬が!」
乱馬だけが防御魔法のフィールドに守られていないことに気がついたあかねが、慌ててムースにそう叫ぶと、
「王子には勇者の剣があるから大丈夫じゃ」
「でも・・・!乱馬は今、剣にカードを差し込んでいるわけじゃないのよ!?」
「確かにそうじゃが、あの王子は格闘技に慣れておる。フィールドに守られなくても魔法から逃れる動きはある程度取れるじゃろうし、たとえ王子に魔法が当たったとしても、腰のカードフォルダのカードたちがある程度、その魔力から王子を守るじゃろう」
ムースは、あかねにそう言い聞かせた。
・・・本当にそんな風に、カードが敵の魔力を中和してくれるかは分からないが、そうでも言わなければあかねが納得しないと、ムースは思ったのだ。
それに、乱馬の立ち位置まで防御魔法のフィールドを広げるとなると、魔法を詠唱しなおさなくてはいけない。
その間は、今守っている人々も再び無防備になる。つまり、自分や乱馬、良牙はともかくとして、一番力の弱いあかねを守れなくなってしまうのだ。
その間に攻撃されたら、元も子もない。
故にムースは、改めて乱馬までは魔法範囲を広げようとしなかった。
ところが、あかねはそんなムースの考えが理解できないが為に、一人ハラハラとしていた。
…例えカードがある程度乱馬にぶつかった魔法を中和してくれるとはいえ、それはあくまで「中和」。
乱馬がダメージを受けない、というわけではない。
あかねは、それが分かっていて自分が何もしないでいるのは嫌だった。
「だめよ!乱馬を・・・乱馬を守らないとっ・・・」
「な、どこへ行く!」
「だって、乱馬がっ・・・助けてあげないと!」
あかねは、ムースが止めるのも聞かずに、防御魔法のフィールドから飛び出した。
そして、
「お、おいあかね!」
とりあえずは逃げずに男の魔法を何とか交わそうと、剣を構えて男と対峙していた乱馬の前へと、立ちはだかってしまった。
もちろん、それには乱馬も驚き、
「戻れあかね!」
魔法を避ける為に構えていた剣を慌てておろし、自分の前に立ちはだかったあかねの肩を掴むも、あかねは乱馬の前からはどかない。
「あかね、戻るある!あかねでは、その男の魔法を跳ね返す、無理ね!」
「あかねさん、戻ってください!」
「あかねちゃん!」
それを見ていたシャンプーや良牙達も慌ててあかねに叫ぶが、あかねは乱馬の前からは動かない。
「平気よ!」
あかねはそう叫ぶと、乱馬を背でかばいながら、自分の腰にさしていた鞭を手に取り、自分の前で構えて見せた。
そう、以前リエンの魔法から右京を守ったように、パワーツールを埋め込んだ鞭と防御作用のあるカイルリングで乱馬を守ろうとしたのだ。
あの時は、かなり強力な魔法をあかねは中和する事が出来た。ならば今回も・・・あかねはそう考えたのだが、
「おぬしじゃ無理じゃ…!」
そんなあかねを追って、ムースも自らの防御魔法フィールドから飛び出した。
・・・格闘のてだれである自分達に気配も悟らせずに近寄り、そして魔法を放とうとしている男。
シャンプーも先ほど、その魔法を放とうとしている姿を見て「危険だ」と叫んだ。
そう、今この目の前にいる男は「危険」な男なのである。
そんな男の魔法を、いくらあかねがパワーツールとカイルリングを身についてたとはいえ、
タダでさえ他の皆よりも体力がないあかねが、この間の戦いの時のような形で中和させることが出来るはずがない。
カードの力を借り魔力が増大していたリエンよりも、目の前にいるこの男は危険なのである。
シャンプーたちは勿論、ムースにもそう見えるのだ。
「くっ・・・」
防御魔法のフィールドから飛び出したムースは、素早く乱馬の前に立ったあかねとその後ろにいた乱馬の腕を掴んだ。
そして強引に二人を自分の後方へと引っ張り下げると、
「きゃ・・・!」
「うわっ・・・」
かなり乱暴ではあるが、自分が飛び出してきた防御魔法フィールドで良牙が立っているその場所へと、二人の身体を突き飛ばした。
「てて・・・大丈夫か、あかね」
「う、うん・・・」
乱馬とあかねは石畳の地面に身体を叩きつけられながらも、その防御フィールドに守られた。
が、ムースが逆に一人、防御魔法のフィールドからは外れてしまった。
「おいムース!早くお前も・・・」
乱馬は、自分とあかねを先に防御フィールドへと叩きいれたムースに慌てて声をかけるが、
ヒュンッ・・・
「ムース!」
「きゃああああ!」
ムースが防御魔法のフィールドにまだ戻るその前に、目の前にいた男が手に集めていたどす黒い光の魔法を、彼に向かって放ってしまったのだ。
男の手から放たれたどす黒い光の魔法は、まるで何かの生き物のようにうねりを加えながら、乱馬やあかね達の悲鳴を裂くようにムースめがけて向かっている。
「くっ・・・」
ムースはそんな状況下、少しでもその魔法を受ける衝撃を和らげるべく詠唱時間の本当に短い防御魔法を唱えるが、
先程よりも時間が短く、その効力が充分であるはずがない。
よって、
乱馬達は、防御魔法のフィールドや直撃を避ける事ができたので無傷で済んだのが、
咄嗟の防御魔法を唱えたとはいえ、その黒い光の魔法に直撃を受けたムースの身体は、乱馬達のフィールドをかすめ遥か後方に飛ばされた。
そして、
ドオオン!
・・・広場に並ぶ倉庫の壁に派手にぶつかり、砕けた壁やら屋根の瓦礫と共に地面へと沈む。
「いやあああ!」
ムースが壁にぶつかったその瞬間を目撃し、ずり落ちた彼の身体を見てしまったあかねと右京が、悲鳴をあげた。
「ムース!」
シャンプーは、急いで防御魔法のフィールドから飛び出ると、倒れたムースの元まで駆け寄り彼を抱き起こす。
「ムース!しっかりするある、ムース!」
衝撃の激しさを物語る、あたりに立ち込めた粉塵、そして瓦礫の山。
それらを掻き分けるようにして、シャンプーはムースの身体をその瓦礫から引っ張り出した。
そして彼の身体を抱きかかえ必死で呼びかけるが、彼はぐったりと目を閉じたまま返事をしない。
「ムースっ・・・」
一瞬、嫌な予感が胸をよぎり、シャンプーは表情を強張らせながら彼の胸へと手を当てた。が、数秒経った後ほっと息をつく。
・・・返事をしないのでもしものことを考えたが、どうやら心臓は無事に動いているので命に別状はないらしい。
ただ、いくら咄嗟に衝撃を和らげる為に詠唱時間が短くて済む防御魔法を唱えたからといって、それが彼の身を守るのに充分ではなかったのは確かだ。
実際、心臓は動いているものの彼は意識を失い、その意識を取り戻す素振りもない。
それに彼は元傭兵出身。身体は頑丈に出来ているし、攻撃や受けた衝撃を和らげるすべも、知っていたはずだ。
それなのに、意識を失うほどの怪我を負ったということは、通常の人間であれば即死の可能性もあった怪我という事だ。
リエンの時ほどではないし、命にはとりあえず別状はないが、今現在彼が、それなりに思わしくない状態であるというのは、分かる。
「ムース、医院に戻るまで頑張るよろしぞ・・・」
今ここでシャンプーが出来ることは、彼に治癒魔法を極力注ぎ込む事だけ。
シャンプーは、自分とムースの周りに防御魔法のフィールドを貼ると、意識のない彼に治癒魔法を施し始めた。
「てめえ…いきなり、何てことしやがる!」
・・・そんなシャンプーたちの様子を見守っていた乱馬たち。
治癒魔法を注ぎ込んでいる、ということは彼が怪我をしたのは否めないが「治癒を施せる」範囲で生きているという、証拠。
ムースの命の無事をとりあえず確認し少しだけほっとした乱馬であったが、
たとえ命が無事であったとはいえ、この男のしたことは許せることではない。
乱馬はムースが作ってくれていた防御魔法のフィールドから飛び出ると、彼に魔法を放った男と改めて対峙をした。
すると、
「くだらん」
「何!?」
「生きていては意味がない。最も、今の男が魔導士でなければ死んでいただろうがな」
「て、てめえっ・・・」
「何を怒っている。私は、お前達の知りたい事を教えてやろうとしたのだぞ?感謝されこそすれ、恨まれる筋合いはない」
「何だと!?」
男は乱馬のそんな様子に全く怯むことなくそう言って、そんな乱馬をじっと見つめる。
しかも、ローブから覗く瞳が、冷たい笑みを帯びているように見えるのは気のせいか・・・?
「・・・」
・・・いきなり現れて、いきなり攻撃をしてきた挙句、この主張。
しかも、何故ムースが死んでいれば乱馬達の知りたい事が分かるのか。
いや・・・最初はムースではなく乱馬を狙っていたわけだから、乱馬が死ねば知りたい事が分かるといっているのか。
「お前・・・何者なんだ」
一体この男は、何なのか。そして、何故こんな事をするのか。
乱馬は警戒をしながら男に尋ねた。
「・・・」
男は、そんな乱馬の質問に対し一瞬間を置くと、その後静かな口調で一言呟いた。

「我が名は、ラビィ・・・魔導士である」


RUMIC'S NOVELS LINK

パラレル
糖度2
糖度3
糖度4
糖度5
企画

OTHER CONTENTS

■オリジナル作品(外部サイト)
お仕事情報

THANKS!

TOTAL: HITS(Y:)