【らんま1/2の二次創作小説サイト】| INFORMATION | NOVELS |BOOKMARKS |CONTACTS | HOME |web拍手

Bright or Black3

「本日はわざわざこのような所までお越しいただき、ありがとうございます」
乱馬達はリエンの屋敷に入るとすぐ、彼の寝室へと通された。
食事がてらの話なのに何故寝室?・・・と不思議に思っていた乱馬達だったが、
どうやらリエンの怪我はまだ完治はしていないようで、話は出来るが体を長いこと起こしているのは辛いようだ。
ゆえに、寝室のなかに応接ようのテーブルセットを運び込み、リエンはベッド、乱馬達はそのセットで料理を食べることになっているらしい。
大商人といわれ、大富豪といわれるほど富と財力があるからこそできる、シチュエーションである。
・・・
「…使用人から聞きましたが、貴方はティルトン国の王子だとか。操られていたとはゆえ、これまでの非礼、お許しください」
乱馬達が席についてすぐ、ベッドから少し体を起こして乱馬達に顔を見せたリエンが、挨拶もそこそこ、そう口にした。
どうやら、意識が回復しそれなりに口が聞けるようになった後、乱馬達の事を屋敷の使用人に詳しく聞いたようだ。
一国の王子に対し、自分がどんな事をしたのか・・・と、身分をわきまえ秩序を重んじる大商人リエンにしてみたらぞっとする話だったのだろう。
「いや…お気になさらずに」
乱馬は、ベッドに横たわりながらも必死に自分に頭を下げようとしていたリエンを制しながら、そう返事をした。
確かに乱馬達、というか街の人々はリエンによって迷惑を蒙った訳だが、
でもそれの代償以上の怪我を、乱馬達はリエンに追わせたのである。しかも一時は命まで危うかった程だ。
それを考えると、謝るのはハッキリ言ってこちらの方なのだ。
「とにかく、頭を上げてください。私達は貴方に、結果的には怪我を・・・」
乱馬が穏やかな口調でリエンに再び声をかけると、
「いえ…ああでもされなければ、私は元には戻れなかった。むしろ、こうなったことを私は感謝している」
「…」
「あの時・・・カードに精神を乗っとられている時の私は、自分の意志を自由にすることは出来なかった。意志の弱さから、多くの人に迷惑をかけ、市場を混乱させた。市場を守るのが大商人としての任務だというのに」
「・・・」
「だが…使用人に聞いた所によると王子、貴方は違うのですね。あのカードを自らの意志でコントロールすることが出来ると」
「そ、そんな大袈裟な」
「風の噂で、セルラ大陸のティルトンの王子は聡明で勇敢・優秀な方だと聞いた事がありましたが、まさにその通りだったということですね。おまけに容姿端麗とは、さぞかしお父上や国民にも評判でおいででしょう」
リエンは、そんな乱馬に向かってそう言った。どうやら真剣に乱馬のことをそう思っているようで、キラキラと目も輝いている。表情も穏やかだった。
「い、いやあ・・・それほどでも」
勿論、こんな風に好評価される事は、乱馬にしてみれば悪い気分ではない。
他の大陸へ、しかも自分のことがかなり美化され伝わっているとは・・・客観的に自分の話を聞くのは、何だか妙に照れてしまう。
しかも、それが「やはり噂どおりだ」などといわれると、これはもうお世辞に近い褒め言葉である。
「謙遜」という言葉を知らない乱馬は、頬をポリポリと掻きながらリエンの言葉を有難く受け取めたいた。
が、そんな乱馬の横では、
「…仲間内じゃただの駄々っ子バカ王子のくせに」
「知らぬが仏じゃ」
「乱馬は、黙っていればいい男ある」
「足りない分は、容姿が充分カバーしてるからええねん、乱ちゃんは」
…悲しい事に、同調してくれるはずの仲間が、ヒソヒソとそんなことを囁きあっていた。
彼らの乱馬の印象など、そんなものなのである。
「んんっ・・・」
乱馬はそんな一同にわざとらしく咳払いをすると、
「・・・それよりも、今回、リエン殿がカードに魅入られた経緯をお話し頂きたい。あと、他にもカードの事を知っていればお話いただきたい」
と、話題を自分達の来訪の目的に移すべく、リエンへ切り出した。
…そう、ここにきた目的は一国の王子への挨拶を受ける為の宴に参加をすることではない。
リエンの精神を蝕んでいたカードについて、色々と情報を得るためなのだ。
「・・・」
それに、あかねの元にも早く帰りたいし・・・とはさすがに声に出さずも、乱馬は話の軌道を修正すべくリエンを見つめた。
「そうそう、そうでしたね。それでは、食事をしながらゆっくりとお話をしましょう」
リエンは素直に頷くと、パンパン、二回ほど手を大きく叩いた。
するとそれを合図に、使用人たちが次々と、乱馬たちの目の前へ豪華な食事を運んできた。
色とりどりの季節の野菜をふんだんに使用したサラダに、噛み切るのに時間がかかりそうなほど厚い肉汁滴るステーキ、
香ばしい匂いを放つ焼きたてのパンに、
トロリとしたクリームソースをベーコンと黒胡椒としっかりと混ぜ、仕上げに卵の黄身をちょこんと乗せたパスタ・・・ 否が応でも、空腹の人々の食欲をそそるメニューだ。
乱馬達はリエンの好意に甘え豪華な食事に舌鼓を打ちながら、リエンの話を聞く事にした。

リエンがカードと出会ったのは、ヒルダの街のアンティークショップだった。
その店主に、「商売繁盛のお守りになる珍しいもの」だと薦められカードを購入。
毎日手を合わせたり話しかけたりしている内に、リエンはいつのまにやら精神を蝕まれていた。

「・・・カードを購入して以来、確かに商売繁盛のご利益はあったのですが、体調を崩す事が多くなったのです。始めは働きすぎて体調不良にでもなったのかと思ったのですがね、徐々に酷い頭痛にも悩まされるようになりました」
今思えば、カードの影響だったのですかね・・・リエンはそう言って、ため息をついた。
「・・・」
確かに、カードに精神を蝕まれて魅入られていく際の症状が、以前乱馬達が「T&Kアイランド」という街で出会った帯刀・小太刀兄妹と全く同じである。
乱馬達は話を聞きながら思わず、顔を見合わせる。
「ともあれ、命が無事だった事を幸いとするほか無いです」
「・・・そうですね」
リエンのボヤキとも思える言葉に乱馬が相槌をうつと、
「全く、こんな事なら店主の言葉なんて信じるのではなかった。やはりあの店主、恋占い以外は当てにならないのか・・・」
リエンはそういって、ため息をついた。
「恋占い?アンティークショップの店主は、占いをするのか?」
「ええ・・・この街では、どちらかというとアンティークショップの店主というよりは『恋占いの占い師』として、有名な人物なのですよ」
「へえ・・・」
リエンのその言葉に、乱馬たちは再び顔を見合わせていた。
・・・乱馬たちのイメージでは、「占い師」といったら宮廷魔導士のコロン、というイメージがある。
世界で三本の指に入る、強力な魔法の使い手でもあるコロン。
齢百歳と公言はしているが絶対に百歳以上の歳をとっているはずだと思わせる風貌。
もちろん、コロンが「占い師」というのはあくまで彼女のごく一面の顔であり、それを主としているわけではない。
だが、類稀な魔力を持っているからこそ、「良く当たる」といわれる占いをコロンは施すのである。
ということは、この商業都市として栄えているヒルダの街で評判の占い師とすれば、たとえ恋占い専門といえどもかなりの魔力の持ち主なのだろうか?
・・・
「その店主・・・名前は何と?」
乱馬は、リエンにその占い師の事を尋ねた。
すると、
「ミコト、という名前だそうです」
「ミコト・・・」
「名前以外は良く分かりませんが、店主がこの街にアンティークショップを開いたのは、二、三ヶ月前でした。どこからかフラリとやってきて、いつの間にやら街の外れでアンティークショップを」
「・・・」
「わりと珍しいものが手に入る事と、何より『恋占い』が良く当たると評判でしてね。昼は占い、夜はアンティークショップを営むような感じなのですよ」
「へえ・・・」
「恋占いに関しては良く当たると評判の占い師ですし、そんな人が店主なものですから、ついつい勧められるままにねえ・・・」
リエンは店主兼占い師の説明を軽くすると、少し困ったように笑っていた。
乱馬はそんなリエンと共に愛想笑いをしつつも、皆へと目線をやる。
もちろん、「この話、どう思う?」という意味で、だ。
「・・・魔力を持った占い師が、あのカードを一般市民に売ったあるか?考えられないね、危険すぎるある」
「思ったよりも魔力が低くカードを見破れなかったのか、それとも『知っていてわざと』売りつけたのか・・・調べてみる必要はありそうじゃ」
リエンに聞こえないような小さな声で、シャンプーとムースがそんな事を囁きあっていた。
その考え方には、乱馬も同意をする。
「・・・ちょっと調べた方が良さそうだな、その占い師」
良牙も、リエンには聞こえないくらいの小さな声でぼそっと呟いた。
そして、「おい、右京」と自分の横で皆の話を聞いていた右京に合図を送る。
・・・ミコトの魔力を測り尚且つ不自然なことなく接触を持つには、恐らく『恋占い』を受けるのが一番だろう。良牙はそう考えたのだ。
しかも、『恋占い』となれば、良牙達男性陣が頼むよりも女性陣、
しかも魔導士であるシャンプーよりも、全く魔力とは無縁な右京が頼んだ方が筋も通っている。良牙はそう考えたのだ。
勿論そんな良牙の考えは右京にも見当がついたようで、
「なあ、リエンさん。うちもそのミコトっちゅー人に恋占いをして欲しいんやけど・・・どうに頼んでくれへん?」
うち、乱ちゃんとの相性を見てもらいたいなー・・・と、甘えた振り、をしているのかどうかは別として、早速リエンにミコトとの接触を頼んだ。
するとリエンは、
「ああ、では私の方から頼んで差し上げましょう。女性ならば、恋の行方は気になりますよねえ」
「そうなんよ!うち、乱ちゃんのお嫁さんになれへんと困ってまうし」
「ははは・・・では、少しお待ちください」
そんな右京の申し出を快く受け入れて、傍にいた自分の使用人に合図をし、
「店主と連絡を取りなさい。私の命の恩人の方々が是非占いを、と伝えるように」
「かしこまりました」
早速、ミコトの店へ使いをやり占い予約を入れるように手配をさせた。
リエンは、アンティークショップとしてのミコトの店の常連なのだろう。少しは無理が利きそうだ。
とりあえずこれで、ミコトとは接触できそうなので、乱馬達はホッと胸をなでおろす。
後は、ミコトの返事を待つ間にもう少しリエンから、情報収集をするのみだ。
「・・・そうそう、それでなんですが。他にその店主とは何か話をしましたか?カードを購入する時に・・・」
乱馬は、自分なりにさりげなく話題を元へと戻し、再びリエンにそう尋ねた。
「うーん・・・そうですね・・・」
リエンはそんな乱馬の問いに首を傾げながら記憶を辿っているようだった。
が、
「残念ながら、特には何も・・・」
「そうですか・・・」
「あ、でも・・・」
「え?」
「実際に店主の口から聞いたわけでも、はっきりと見せられたわけでもないんですけどね、確か私があの日店に入った時・・・」
リエンが、そう切り出した。
「私が店に入った時、店主が慌てて何かをカウンターの中へと隠したのです。そのせいで、カウンター周りのものや商品が一気に床へと落ちましてね・・・それを拾って差し上げたのですよ」
「はあ」
「その時に、床に一枚の便箋が落ちているのを見つけ、私が拾って差し上げたのです。店主はそれを私の手からまるでひったくるように取り上げ、すぐにカウンターの引き出しの中へと隠してしまわれました」
「・・・」
「その便箋を一瞬見ただけなので、正確かといわれれば自信は無いのですが、わりとふんだんに『カード』という言葉と・・・『クロノス』という言葉があったような」
「クロノス?」
「はい。でも、私は『クロノス』なんて言葉聞いた事がありませんし・・・まあなにぶんじっくり見たわけではないので、良く分かりませんが。もしかしたら、カードの取り扱い説明書だったのかもしれませんしねえ」
リエンはそういって笑っていた。
「へー」
・・・確かに、乱馬も『クロノス』という言葉は聞いた事がない。カードの取り扱い説明書、という説も考えられるが、そもそもそれが存在するという事を乱馬が知らない以上は、それが取扱説明書である可能性は低い。
となると、その便箋は今回のカードやカード購入とは全く関係が無いものだったのか?
乱馬が意見を求めようと仲間へ目線をやると、良牙と右京は「良く分からない」というリアクションを乱馬に見せていた。
が、シャンプーとムースは何やら複雑な表情で考え込んでいる。
一体、どうしたのだろうか?
「どうした?二人とも」
乱馬がそんな二人に声をかけると、それに対してシャンプーが何かを呟こうと口を動かそうとした。
が、ちょうどその時、
「リエン様」
・・・先ほどからリエンの命を受けてミコトへ連絡を取っていた使用人が戻ってきてしまい、シャンプーは口を閉ざしてしまった。
「占いの予約が取れました」
「そうか、ご苦労」
使用人はリエン予約が取れたことを報告し、部屋から出て行った。
「今晩、アンティークショップが閉店した後にお会いできるということです。あと二時間程です」
「はい、ありがとうございます」
「店までの地図も差し上げましょう・・・あ、そうだ。あの辺りは夜間は非常に物騒ですので、くれぐれもお気をつけて」
リエンはそう言って、枕元においてあったメモにミコトの店までの地図を描くと乱馬に手渡した。
乱馬達は、リエンの心遣いに心から感謝をした。
そして、
「さ、難しい話はこれぐらいにしましょう。せっかく夕食に招待をさせていただきましたので、どうか残さずお召し上がりください」
「はい」
リエンの言葉に甘え、運ばれていた料理を残らず堪能した後、リエンの屋敷を後にしたのだった。

リエンの屋敷から出た一行は、ミコトに会う為に教えられたアンティークショップへと向かった。
夜でも賑やかなヒルダ街中を抜け、潮風が時折吹き抜ける港を左手に見ながらレンガ道を歩く。
すると、乱馬達の前方には大きな石造りのアーチ型橋が現れた。
・・・ヒルダの街は巨大な商業都市。故に、西地区・東地区と二ブロックに分かれた構造で成り立っている。
リエンの屋敷があったのは、ヒルダ東地区。これから向かうアンティークショップは、ヒルダ西地区の外れだ。
東地区から西地区へと渡るには、この石のアーチ橋を渡らなければならないようになっているのだ。
乱馬達はその橋を渡り、今度はヒルダ西地区を歩き始めた。
すると、夜でも華やかだった東地区の街中とは違い、何や薄暗い路地と荷物用の倉庫が立ち並ぶ風景が増え始めた。
しかも、道のそこかしこには、いかにも柄の悪そうな男達が、酒を片手に通行していく乱馬たちを見ている。
特にシャンプーや右京などの若い娘は、ジロジロとその姿を凝視されまるで「品定め」でもされているかのような不快感を募らせていた。
さすがに、リエンが「あの辺りは夜間は非常に物騒で」と言っていただけあり、ミコトの占いが昼間だけ、というのも分かる。
とてもじゃないが、夜間に女性一人ではこの道を歩かせる事はできない。
・・・
「・・・なんや、嫌な感じやな」
右京が、自分に先ほどから向けられている視線から逃れるように、乱馬の背中にべっとりとくっつきながら呟いた。
「・・・」
本当はこんな風にあかね以外の女性にくっつかれる事は避けたいしその手から離れたい乱馬だが、状況が状況ゆえにむげに振り払うことは出来ない。
ただ・・・今日、ここにあかねを連れてこなくて本当に良かったと、
柄の悪い男達の視線からあかねを守れた事は良かったと、不謹慎だが乱馬はそんな事を考えていた。
彼にしてみれば、彼女がこの男達の視線に捉えられるというその事も、耐えられないのだ。
・・・
「とにかく、こちらからは相手にしないことだ」
「せやな」
とはいえ、男性が三名いれば、下手な男が彼女達に危害を加えることはない。
しかも、格闘家に魔導士に、とバラエティ豊かなパーティなのでハッキリ言うと手を出した方の方が危険なのである。
とりあえずは先頭を乱馬が歩き、女性を一人づつ挟むようにして最後尾をムースが歩くようにし、
一向は路地と倉庫が並ぶ区域を通り過ぎた。

そこからしばらく西地区を歩いていくと、突然「広場」のようなところに出た。
石畳の土地の上に、円を描くように倉庫が立ち並ぶ。
真ん中は公園のようになっていて、ちかちかと明かりが切れかかった街灯にベンチがちらほらと並んでいるのが見えた。
もしかしたらここは、倉庫外で働く人々の憩いの場なのかもしれない。
乱馬達がその広場をぐるりと一週見回すと、倉庫と倉庫の間に一軒だけ、小さな店が建っているのに気がついた。
その店には、小さいけれど窓に明かりが灯って見えた。
近づいてみると、「アンティークショップ」という看板が、時折吹く夜風にユラユラと揺れている。
どうやらそこが、ミコトの店のようだ。
「ここか・・・」
目的の店に到着したので早速店に入ろうとした乱馬たちだったが、窓の外から店内を覗くと、中には数人、客らしき人々が見えた。
どうやらまだ、店は営業時間中のようだ。
ミコトとのアポイントは「店閉店後」である。
仕方がないのでその客がはけるの待つべく、乱馬達は広場に設置されているベンチに腰掛けた。
そして、
「なあ・・・クロノス、って何だと思う?」
一応はベンチに腰掛けてみたものの、だからといってたわいも無い世間話をするような雰囲気ではない。
だったら、先ほどリエンの屋敷で聞いた事を少し整理してみよう。
まずは、リエンが乱馬達に最後に話してくれた「便箋」のこと・・・乱馬は、早速皆に問いかけてみた。
このクロノスの話がリエンの口から出たとき、乱馬や良牙、右京はともかく、シャンプーとムースが妙な反応をしていた。
心の奥底で、乱馬はそれが気になっていたのもあった。
すると、
「俺は分からねえな・・・聞いたことがねえ言葉だ」
「うちもー。大体さー、クロスは布って意味やろ?クロノスだから、何かの布の種類とか?」
あ、もしかしてカードを包んでいる布のことかも。
右京が、そんな事をぽつりと呟く。
クロスとクロノスを見間違えた・・・リエンも乱馬や良牙、右京と同様にこのクロノスという単語には見覚えが無いわけだし、見間違えたという説も考えられなくはない。
クロノス、とは一体何なのだろうか?
少なくても、乱馬が今まで生活してきた中では、一度も聞いたことのない言葉だった。
自分の知識にないものをいくら考えても、勿論答えなど出て気はしない。
「カードを包む布かー・・・カードフォルダとはまた違うものなのかなあ」」
「さあ・・・」
「特殊な魔法繊維で出来ている布、とか?」
乱馬や良牙、右京はあくまでも「布」の種類の一種ではないかと話を進めていた。
すると、
「・・・クロノス、布、違う」
それまで黙って三人の話を聞いていたシャンプーが、話をせき止めるようにそう、呟いた。
そして、
「クロノスは、時間を司る魔法ある。使い方によっては歴史が変わってしまう、遥か古に封印された禁断の魔法ね」
と、静かだがハッキリとした口調でそう答えた。
「時間を司る・・・魔法?」
クロノス、は布の種類ではなく魔法だったのか。ということはまた魔法の種類が増えた?覚えるのが大変だ・・・と勉強嫌いの乱馬は驚いたのだが、 それより驚異的且つ衝撃的な内容を、今度はムースが、乱馬に説明を始めた。
「おらが知っている限りでは、クロノスは通常では使うことの出来ない魔法だと聞いておる。奇跡の魔法と、言われておる」
「奇跡の魔法・・・?」
「四大属性魔法はともかくとして、光と闇の二大属性魔法は、生まれ持った奇跡的な出生確率で、どちらかを習得出来るかできないか決まるというのは、もう分っておるな?」
「ま、まあな」
「クロノスは、それよりももっと天文学的な出生確率を必要とする・・・つまり、生まれして光か闇の魔法、それもどちらかを一方ではなく両方、扱えることが必須。つまり、光と闇の二大属性魔法を使える出生確率の倍以上の確率で生まれる事が必要になる。はっきりいって、皆無に等しい」
「!」
「尚且つ・・・四大属性全ての魔法を習得し、そのクロノス魔法を発動させるのに耐えられるだけの、強靭な肉体が必要なんじゃ」
「身体も?魔法発動って、そんなに大変なのか?」
・・・戦いの最中、確かに強力な魔法を使った後は体力を消耗すると、乱馬もシャンプーやムースの姿を見ているので分かる。
シャンプーなどは、魔力を使い果たすとネコに変身してしまうという体質を持っているので、厄介なのだが・・・それと、同じような事なのだろうか?
乱馬が首をかしげていると、
「初めに言ったはずじゃ。クロノスは、歴史を覆す事も出来る禁断の魔法じゃと・・・となれば、魔法発動時に術者にかかる負担は計り知れないほど多い。例え魔法を発動出来たとしても、魔力を維持し続けるのは困難な事じゃ。発動と同時に命を落とす可能性もある」
「!」
「術者が命を落とし、魔法が止まればよいがな・・・もしも魔法だけが暴走し始めたら、世界は大変な事になる。だから、禁断の魔法だといわれておる」
ムースはそういって、小さくため息をついた。シャンプーも、その後ろで複雑な表情で大きく頷いていた。
「そんな魔法のことが、何故カードについて書かれた手紙に書かれていたあるか?乱馬のカードには、クロノスはおろか、光と闇の属性を持つものもないはずある」
「・・・やっぱり、リエンの見間違いだったんじゃねえか?」
深刻に自分の抱いた疑問を口にするシャンプーに対し、良牙がぼそりと呟く。
「見間違いって可能性もあるだろ?リエンの・・・ほら、それこそ右京が言っていたみたいに『クロノス』と『クロス』をさ?」
あくまで、健全且つポシティブな考え方である。
「・・・だといよいのだが」
それに対しあくまでも、シャンプーは慎重だ。
・・・シャンプー自身も、本当はリエンが『クロノス』と『クロス』を見間違えたのだろうと思いたい所である。
それぐらいに、クロノスという魔法は、この今自分達が生きているこの世界には存在しえない魔法なのだ。
祖母であるコロンほどの大魔導士でも、
「光と闇の属性魔法ならばもしや、ということはある。じゃが、クロノスの使い手などいるはずがない。不可能じゃ」
と、
「起こりえるはずの無い魔法は知る必要もない魔法」
として、シャンプーやムースにに子供の頃から教えていた。
それでも二人がこの魔法について知っているのは、勉強熱心であるが故。
教えてもらわなくても「それがどんな魔法なのか」ということは、魔法書などで勉強をしていたからである。
光属性・闇属性の魔法よりも遥かに難解な魔法、クロノス。
それが、自分達が集めているカードとどんな関係があるのかなど、皆目見当が付かない。
でも、もしも自分達のこの度に関係があるとするのならば・・・自分達は、自分達が思っている以上に大きな事柄へと巻き込まれているのかもしれない。
・・・
「とりあえずシャンプー、今の話を後でおばばに報告するだ」
「言われなくてもわかっているある」
シャンプーはムースにそう答えると、コロンに後で報告することを頭の中で整理をし始めた。

と、その時だった。

カツ、カツ、カツ・・・と、石畳の道を誰かが歩いて近づいてくる音がした。
見ると、ベンチで座って話をしていた乱馬達の元に、ローブに身を包んだ一人の人物が近づいてくるところだった。
ふわり、と夜風に靡き甘ったるい香りが、乱馬たちの鼻を不意にくすぐった。
随分と官能的な香りだ。
女性的で尚且つ官能的・・・恐らく通常の男だったらこの香りにクラクラとするのかもしれないが、
乱馬にはあかねの香り、そう石鹸というか風呂上りの香りというか、爽やかな香りに慣れているせいもあり、この甘い香りを不快に感じていた。
乱馬が軽く咳払いをして小さく深呼吸をしていると、
「・・・おいでになりましたね」
近づいてきた人物が、乱馬達の目の前で立ち止まり、静かにそう呟いた。
「あ、あんたは・・・?」
香りを誤魔化すべくなんどか咳払いをしながら、乱馬がその人物の方へと一歩歩き出そうとすると、そんな乱馬の前に素早くムースが飛び出した。
「な、何だよ」
ムースの行動に乱馬が驚いていると、
「・・・これは、魔導士が魔法アイテムを調合する時に使うエッセンスの香り」
「えっ・・・」
「貴様、何者じゃ」
ムースはそういって、素早く自分の服の袖に手を入れ中に隠してあった『暗器』を取り出した。
そして、まるで風に乗って乱馬達を取り巻いている甘い香りを細かく切り刻むように暗器を動かすと、最後にピタリ、と刃先をその人物のローブで隠れた顔の前に止めて睨み付ける。
すると、
「これは失礼いたしました・・・私は」
ムースに刃を向けられた人物は、そう言ってゆっくりと、身に纏っていたローブを自分の身体から取り外した。
ローブの下から現れたのは、乱馬たちよりも年上・・・というより、乱馬の母親であるセルラ国后・のどかと同い年くらいの、女性だった。
体系は細身で長身。
ローブの下は、まだ春先だというのに無地のノースリーブワンピースだった。胴回りや首周りにはジャラジャラ・・・と大振りなアクセサリーを装飾している。
そして、ローブの上からは分らなかったが、よく見ると首や頬、腕には奇怪な文様の刺青が施されていた。
「・・・」
刺青をするにはかなりの激痛を伴うと、昔誰からか聞いた事がある。
随分と広い範囲に刺青を入れているように見えるが、痛みとか無かったのか・・・?
あくまでも暢気な事を考えつつ、乱馬がその刺青をまじまじと見つめていると、
「私は、ミコト・・・すぐそこでアンティークショップを営んでおります」
その人物、ミコトはそういって乱馬達に仰々しく礼をした。
どうやら彼女が、噂のアンティークショップの店主・ミコトのようだ。
「あんたが・・・」
乱馬は、自分達に挨拶をしてきたミコトの姿をじっと見つめる。
・・・アンティークショップの店主ではあるけれど、この街ではどちらかというと『恋占い』の占い師として有名だと、リエンは言っていた。
なるほど、それなりに歳を重ねた女性だけあり、恋愛には詳しそうだ。魔力というよりも年の功で当たる恋占いなのか?
失礼だとは思いつつも、乱馬がそんな事を考えていると、
「貴方達が今日、ここに来ることは分っていました」
ミコトは、そんな乱馬に対してにっこりと微笑みながらそう言った。
「は?ああ、さっきリエンの所から連絡してもらったから・・・」
恋占いの予約を取ってもらったし、と乱馬が答えると、
「いいえ・・・貴方達が今日、ここに来て私と話をすることになるだろうという事は、リエン様から連絡を受けた先程よりももっと、ずっと前に分っていたということです」
ミコトは、笑顔ではあるがはっきりとした口調でそう言った。
その言葉に、乱馬達は酷く困惑をした。
・・・乱馬達の来訪日時を、すでに予測でもしていたとでも言うのだろうか?
もしそうだとしたら、何だか気味が悪い。
それとも、ただのハッタリだろうか・・・
「・・・」
乱馬達が何とも言えない表情でミコトを見つめていると、
「・・・王子、許婚は今頃お忙しいでしょうね」
「え?」
「健康診断の人数、予測していたよりも多かったはずですから・・・今日」
「!あ、あんた何でそれ・・・!」
「・・・とにかく、どうぞ」
ミコトは、疑わしそうな乱馬に向かって更にそう続け、一行を自分の店へと誘った。
・・・乱馬達とあかねが別行動にしていることを、リエンはミコトへ使いをやった使用人には勿論話していない。
そうなれば当然、ミコトは彼女の存在も、そして彼女が今何をしているかも、知らないはずなのだ。
それが、このように言い当てられたとなると・・・
「・・・」

どうやらこのミコト、という店主、一筋ならではいかない人物のようである。

「・・・」
とりあえず、話を聞かねば先には進めない。
乱馬達は彼女に対しあからさまな警戒心を抱きながらも、彼女が誘う閉店後のアンティークショップへと入っていった。


RUMIC'S NOVELS LINK

パラレル
糖度2
糖度3
糖度4
糖度5
企画

OTHER CONTENTS

■オリジナル作品(外部サイト)
お仕事情報

THANKS!

TOTAL: HITS(Y:)