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Bright or Black2

「俺も残るっ絶対に残るぞ!」
「バカかてめーは!テメーがこなかったら話が進まねえじゃねえか、このバカ王子!いいからとっとと来やがれ!」!」
その日の夕刻。
商人や買い物客で賑わい、そして海に出ていた男達が港へと帰ってきて更に活気付いたヒルダの街の中心近くのレンガ通りを、一人の青年が首根っこを掴まれ引きずられ歩いていた。
この、ぞんざいに扱われている青年を、一体誰が一国の王子と思おうか?
パッと見、ただの駄々っこである。
ちなみに引きずられているのは乱馬であり、引きずっているのは良牙である。
一応は乱馬に仕えるはずの騎士・良牙が、何故このように乱馬を引きずって道を進んでいかなければならないのか。
それを知るには、今より数時間ほど前まで遡ることとなる。
・・・



東風の診療所兼、併設された小さな教会に置いてもらえることになった一行は、部屋に荷物を置いた後、まずはセルラの王国にいるコロンと通信をとり、現在の状況を連絡することにした。
コロンとは、街を移動する事に情報交換をするようにしているのだ。
「へぇ、魔法っちゅーのは便利なもんやなあ」
パーティに加わったばかりの右京はこれに驚いていたが、乱馬達にとってはコロンとの魔法通信は既に日常のこと。
「ばあさん、カードが増えたぞ」
「ほう?」
「とりあえず、約二分の一が集まったって事だな・・・俺達が持っているのは今、九枚だ」
とりあえず旅の仲間が増えた事や、現在の街名を報告したあと乱馬がコロンにそう伝えると、
「ワシが集めた情報によると、魔導師ラビィはすでに十枚、集めたとのこと」
コロンは、そんな乱馬に対して少々表情を曇らせながらそう呟いた。
「な…!」
魔導師ラビィの話を、先日ムースが乱馬たちに伝えた時には「数枚」レベルで話をしていたはずだ。
それが「十枚」となれば勿論、話は違う。乱馬が驚き言葉を失っていると、コロンはそんな乱馬に対し、
「ただ…随分と手荒で残虐な集め方をしているようじゃがな」
と続け一旦口を閉ざした。表情が暗いのは変わらない。
「手荒?」
コロンのその表情が気になった乱馬が、詳しい説明を求め聞き返すと、
「酷い所だと、街を一つ壊滅させ町人は皆殺し」
「!」
「あげく、その後始末を自らが魔術で召喚した魔物に食わせ魂までも消し去ってしまうそうじゃよ」
「…!」
コロンの言葉に、乱馬だけではなく後ろで話を聞いていた面々も息を呑んでいた。
良牙とムースは顔をしかめ、シャンプーはため息をつく。あかねは小さく震え、右京は腹立たしげに表情を険しくしていた。
死した後、魂までも魔物に食わせるとは・・・ラビィという男、確かにコロンが言うように残虐極まりない事は確かなようだ。
「・・・ともかく王子。カードは全部で二十一枚。その内王子が九枚、魔導師ラビィが十枚持っているということは・・・」
「残りは、えっと・・・」
「・・・二枚じゃ。回収されていない二枚を、とにかく集めねばな。そして集めたカードは何としても守るのじゃぞ」
単純な計算に戸惑う乱馬に若干不安を覚えつつも、コロンは強い口調で乱馬にそう伝えた。
「あ、ああ…わかった」
乱馬も、そんなコロンに対し動揺はしつつも返事を返した。
・・・と、
「じゃが…」
「?どうした、ばあさん」
そんな乱馬に対し、何故かコロンが言葉を濁している。「じゃが」といことは、何か他にあるのだろうか?
気になった乱馬が再びコロンに問いかけると、
「・・・ワシには、魔導師ラビィが何故こうまでしてカードを集めようとしている理由が、よく分からんのじゃよ」
コロンはそういって、大きなため息をつく。
「え?だからそれは、カードを集めれば一度だけ願いが叶うからじゃ…?」
魔導師ラビィの存在を、ムースを使い乱馬達に知らせてくれたのは、紛れもなくコロンである。
シャンプーやムース、コロンのような魔術ではなく、古の魔物を召喚して、契約を交わし魔術を強大化させるような術を使う魔導師。
しかも、山賊などもしていたこともあり、「盗む」「殺す」などの残虐非道な事に躊躇することはない、男。
その男が、カードを狙って金持ちを襲っている。しかも、既に数枚集めているらしいと。現在では十枚とはっきりしている。
金持ちを狙っているのは、金を持っている人間の方が「骨董品」「レアもの」としてカードを所持している可能性が高いから。
・・・いかにも、元山賊が考えそうな事だ。
そんなラビィがカードを集める理由というのは、乱馬にしてみれば唯一つだと思われる。
『カードを全て集めて、願い事を一つ、叶える』
・・・それ故ではないのだろうか?
「・・・」
一体それの、何が分からないのだろうか?乱馬がそんな事を考えていると、
「カードを既に十枚も集めているという事は、王子同様にカードの魔力に屈しない強い意志を持っているということじゃ。まあ、ラビィの場合は意志というよりも『魔物と契約する事で培われた強い欲望』なんじゃろうが」
「だろ?だから、願いを・・・」
「古の強力な魔物と契約できる魔術師じゃ。暗黒魔術に長けていると言っても良い・・・どういう経緯で、元山賊が暗黒魔術を習得するまでに至ったかは分からぬが、そんな男がじゃぞ?たった一度の願いを叶える為に、世界中を自ら駆け巡るとは信じられぬのじゃ」
「?」
「カードを集める為に、何なく街を一つ壊滅させる事が出来る男じゃ。あまり良い事ではないが、世界の富を手に入れることなど恐らく、割と簡単な事なのじゃろう・・・」
「・・・」
「それなのに、わざわざ自らが現場に赴き、カードを手に入れている。恐らく手下連中が居るとは思うが、そやつらには壊滅後の後処理しかさせておらぬ。ということは、ラビィには確実にカードの『偽物』ではなく『本物』を、早く手に入れねばならぬ何があるのではないかと思うのじゃ」
コロンはそういって、一息入れた。そして再び話し出す。
「王子も、このカードを集める旅の真の目的は・・・王位継承者ということをセルラ・ティルトンの民に示すという事じゃろ?」
「まあな」
そう、確かに伝説のカードを全て集めると一つだけ願いをかなえることが出来る、ということは勿論承知なのだが、
乱馬がカードを集める旅に出た真の目的は、別にこの願いをかなえることではなかった。
元はといえば、王位継承者として「こんな事をやったんだぞ」ということを国民に示す為に、自分の祖先に当たる「勇者」が集めたとされるカードを、同じように集めてみる事になっただけなのである。
・・・
「もしかしたらラビィにも、王子と同じように、『願いを叶える』という事の裏側に隠された事情が、何かあるのかも知れぬ」
「事情・・・?」
「魔導師になる前は山賊だった、という事は・・・前々からカードの存在は知っていたじゃろうし。それがどのくらい価値のあるものかということは、世界中を又にかけていた山賊ならば尚更じゃな。もしも・・・何か、我らでは知りえないような情報をその時に入手していて、それゆえに魔術を得た今、カードを集めているのだとしたら・・・これはちと、やっかいじゃな」
「…」
「とにかくワシは、もう一度ラビィ自身と、カードについて調べてみることにしよう。我らの知らない情報があるのならば、知っておかねばならんしな・・・正式な継承者である王子の力になる為にも」
コロンはそういって口をつぐむと、「何か分かったら、すぐに連絡する」といって早々と通信を切り上げてしまった。
今日は、恒例の占いはしてくれないようだ。
「…」
一向は、コロンとの通信が切れて通常の部屋模様となったその空間で、無言でお互いの顔を見詰め合っていた。
自分達よりも既に三枚も多くカードを集められている事、残虐非道な手口。
それらに対しても勿論、思う事はある。だが、
「なあ…今の話、どう思う?」
今の乱馬たちの一番の関心は、といえばやはり・・・コロンが最後に口にした、「ラビィがカードを集めている真の目的」の事であった。
乱馬が皆に思い切って問いかけてみると、
「・・・ラビィの事は私も良くは分からないが、ひいばあちゃんの考え方には賛成ある」
「おらもじゃ。暗黒魔術の強力な使い手で、街を壊滅させる事などたやすい男が何故、急にカードを集め始めたのか・・・その理由が、願いを一つ叶える為だけとは、思えん」
「俺も賛成だな。富や王位を叶えるような短絡的な願いだけ望むような奴には、思えん・・・そんな事、簡単にできちまいそうだし」
「私もそう思うわ。もしかしたら、カードじゃないと作れない『何か』が、ラビィって人には必要なのかしら…」
「何かって、何あるか?」
「そ、それはわからないけど・・・例え話よ」
「・・・」
乱馬・・・はとりあえず置いておいて、シャンプー・ムース・良牙そしてあかねが、神妙な顔つきであーでもないこーでもないと話し合いを始めた。
と、、
「なあ、乱ちゃんは会話に参加せんでもえーの?」
「ま、まあな」
「うちはまだ、カードの事情っちゅうのが良くわからへんし話に参加できないのは仕方なくても、乱ちゃんはリーダーやし当事者やし、まずいんちゃう?」
何故か話を投げるだけ投げて会話に加わらない乱馬を不思議に思ったのか、ちゃっかりとそんな乱馬の隣をキープしながら、右京が乱馬に尋ねる。
勿論乱馬とてそれは承知をしているのだが、悲しいかな、彼は難しい話が苦手なのである。
餅は餅屋、頭脳戦は頭が良い人々に限るのである。
「パーティを活性化させ成長させるのがリーダーの役目だ。ああやって皆が話し合うことでこのパーティはより一層、活性化するというか・・・」
とりあえず、少々苦しいがその場凌ぎの理屈を乱馬が口にすると、
「ふーん、何か知らんけど乱ちゃんカッコエエなあ!」
「リーダーだからな」
「それに王子様やし、うち、やっぱめっちゃ好みやわ!」
既に乱馬に惹かれている右京は、何の疑いも持たずに楽しそうにそう答えたのだった。乱馬にしてみれば、悲しい諸事情が明るみに出ないだけラッキーである。
…とまあ、どこまでも呑気な二人は別として、
魔導師ラビィ
一行には、彼について考えなくてはいけない問題が、生まれたのだった。





それからしばらくして。
情報が無いままこのまま話し合っても、何も生まれない。
魔導師ラビィの件はコロンからの連絡を待つことにして、とりあえず一行は、東風へある提案をした。
一行にしてみれば、今日はリエンとの約束がこの後あるが、約束は夕方。
当初は時間がないと思われたが、宿に関してすんなりと手配することが出来たため、約束の時間までに少し余裕が出た。
それに、いくらあかねの義理の兄とはいえ大人数で、しかも無料で宿を提供してもらうにはそれなりにお礼も、しなければならない。
食事当番は当たり前としても、時間が少し空いたなら、せめて自分達が使うその建物の掃除くらいはするのが常識だと、皆で話し合ったのだ。
「それは助かります。実は今日の夕方からヒルダの漁業組合の健康診断が始まるから、それまでに医院を掃除しておきたかったのです」
案の定、乱馬たちの申し出に東風は喜んだ。
そう、ここは医院兼教会。
いつ患者が訪れたり、教会を利用するものが現れたりしても不思議ではないのだ。
病室一つ一つを、一人で掃除するのは大変なのは明確。それが六人もの助っ人がいれば時間も短縮できるし心強い。
「では、男性陣には各病室の掃除をお願いいたします。女性陣は診療室の中を・・・僕は裏の教会を掃除してきますので」
東風はそういって、乱馬たちに掃除道具や場所を指示して教会へと消えていった。
「おい、バカ王子」
「バカって言うな」
「お前、掃除なんてしたことあるのか?」
「ふっ・・・悪いが、ティルトンに居た時に、あかねの道場の掃除係は俺がやってたんだぜ?稽古が終わると、あかねが先に風呂に入り俺は常に道場の掃除!床の磨き方が悪いと張り倒された事もあるぞ。だから俺の床掃除は完璧だ」
「・・・お前、それってただあかねさんにコキ使われていただけじゃ・・・」
「し、失礼な事を言うなっ」
「無意識で尻に敷かれていたら救いようがないだ」
東風が消えた後、良牙とムースが乱馬を半分からかいながらモップ片手に病室へと消えた。
残る女性陣・・・あかね・シャンプー・右京も、それぞれがモップや雑巾を片手に、東風の指示通りに診療室内を掃除し始めた。
ところが、
「あー!もう、あかねちゃん、何やってるん?」
「ご、ごめん・・・」
「不器用にもほどがあるね。これでは掃除、永遠に終わらない」
…診療室には当然の如く、ベッドや棚の他に医療器具が置いてある。
ある程度部屋の中を掃除した後は、それらの器具を洗浄し、東風が治療しやすいように並べたりセッティングするのがあかね達女性陣の仕事なのである。
ところが、器用で手際の良いシャンプー・右京に比べ、あかねは器具の揃え方が二人に比べ乱雑。更には置き間違いや器具を床に落として洗浄しなおす事が多く、二人の手を逆に煩わせてしまっていたのだ。
「あー、もうほら、それはそこに並べるちゃうよ?」
「本当にあかね、不器用あるな」
「ご、ごめん・・・」
あかねが作業した場所は、必ずといって良いほど、二人がやり直す羽目になる。
それに対して、あかねは「ごめんね」と明るく笑いながら謝り、そして自分が迷惑をかけた分を取り返そうとする。
二人は、そんなあかねに対してため息をつきつつも、自分達の作業だけでも先に進めようと再び作業を始めるが、
そんな二人に背を向け、再度自分の作業に勤しむあかねの表情は、見られていない時には恐ろしいほど暗いものだった。
というのも、
あかねは元々不器用で細かい作業が苦手なのもあるが、実は視力低下のために細かい医療器具の先端の形がよく分からないのだ。
まだ大きいものを判別する視力は残っている為、普通に街を歩いたり、大抵のものは認識する事ができる。
ところが、医療器具のような細かいものになると、目を凝らせば凝らすほど、その反動で目がかすんでしまうのだ。
明らかに、視力が低下している証拠である。
体調の良い日は、それでもこのように目がかすむ事も少ないが、
今日のように街を移動したり走ったり・・・比較的体力を消耗していると、消耗している分視力も低下するようだ。
「・・・」
勿論、これはあかねだけの秘密。ムースが居ればさりげなくフォローをしてくれたのかもしれないが、今後のことを考えても彼には出来る限り頼る事はしたくなかった。
それに、乱馬の目もある。
・・・
「あかね、また器具を間違えているね・・・もうそこは私がやるある、だからあかね、窓でも磨いているよろし」
「あ、それより花瓶に水を入れてきてや。そこらへんで花でも摘んで活けといたほうが、診療室も明るくなるし」
「う、うん。そうするね」
とりあえず、今のあかねの状態を怪しまれたり悟られたりしない為には、今であれば素直に、二人の言い付けを守っている事だろう。
「・・・」
あかねは、花瓶・・・というより一輪挿しなのだが、それ落としてしまわないように慎重に、手で持ち上げた。
そして、
「先生・・・花を活けたいの・・・お花、どこかに咲いていますか?」
「ああ、だったら教会の横の花壇が良いよ。あそこには、かすみさんが前に植えてくれたカスミソウがあるはずだから」
「そう・・・」
教会の掃除を終えて、ちょうど診療室に戻ってきた東風に場所を聞き、あかねは東風と共に教会横へと向かった。
「ここだよ」
「ありがとう」
東風の案内で花壇に着いたあかねは、さっそく花壇から花をつけたカスミソウを抜き取り一輪挿しに挿そうとするが、
「あ、ご、ごめんなさいっ・・・」
「はは、気にしないで良いよ。元々、掃除した後は着替えようと思っていたからね」
細い一輪挿しの口に、これまた小ぶりなカスミソウを、抜きとっただけ全て挿すのはあかねには困難だった。
おかげで、ぽろぽろと地面に花を落としてしまったり、それを慌てて拾おうとして、一輪挿しに入っていた水を東風の服に引っ掛けてしまったり・・・と本末転倒だった。
「本当にごめんなさい・・・」
「大丈夫、こんなことあかねちゃんはいつものことじゃないか」
「ど、どういう意味ですか」
「はは、嘘だよ」
「もう・・・」
あかねは東風に謝りつつも頬を膨らませる。勿論これは、あかねに気を使わせない為に東風がわざとこんな事を言ってくれたのだとあかねは分かっているので、心の中では感謝しているのだが。
あかねは、地面に落ちたカスミソウを拾うとして手を伸ばすが、触れようとした瞬間・・・再び視界が霞んだ。
「・・・」
この状況で、花を掴めないのは怪しまれる。あかねが躊躇していると、
「はい、これ」
東風はそんなあかねの横からすっと手を伸ばし、笑顔でカスミソウを拾い上げてあかねに手渡した。
特にあかねの仕草について、何かを言ってくる事は無い。
「あ、ありがとうございます」
・・・とりあえず、東風の前で妙な動きはしなくても済んだようだ。
東風も含め、皆に妙な事を思われてはいけない。パーティの足を引っ張ったりお荷物には絶対にならない。
その為には、気をつけないと・・・
「・・・」
あかねは、東風に悟られないように心の中で安堵の息をつきながらも、再び自分にそう戒めをし東風と共に再び診療室へと戻った。



「どこ行ってたんだよ、先生と」
「お花を摘みに行っていたの」
「花?」
「活けようと思って・・・ほら、それにこの花、私のお姉ちゃんが植えたんですって。カスミソウよ」
「ふーん・・・」
あかねと東風が診療室に戻ると、病室を掃除していた男性陣が既に帰ってきていた。
早速、乱馬が東風と共に戻ってきたあかねに声をかける。どうやら、あかねと東風の二人がいないことを気にしていたらしい。
一応はあかねに質問する乱馬だが、何だか答えを聞いても気の無い返事だった。
「掃除、終わったの?」
あかねは、東風から離れ一輪挿しを慎重に机に置いた。そして乱馬の元へと歩いていくと、
「ああ。中々いい運動になったけど」
「ちゃんと掃除したの?」
「あ、当たり前だろ。ほら、もうこんなに手が冷たく・・・」
乱馬は近寄ってきたあかねにそう言いながら、さりげなく自分の手であかねの小さな手を包み込んだ。
彼としてみれば、あかねが自分の戻ってきてくれさえすればそれで満足、上機嫌なのである。
が、
「だーかーら!隙あらばあかねさんに近寄るなっ。動物か貴様っ」
「乱馬、寒いならば私が暖めてあげるよろしぞ!」
そんな乱馬は、当然の如くすぐに良牙とシャンプーによってあかねから引き剥がされ、更には、
「なー、そんなことよりもそろそろ、時間ちゃうの?」
と、右京にもさりげなく間に割り込まれてしまうような有様だったが、
「あ、そうね…そろそろ向かった方がいいんじゃない?」
「くっ・・・」
・・・あかねが壁際の時計をみると、確かに右京が言ったとおり、そろそろリエンと約束をした時刻が近づいていた。
約束をしている以上は、相手を待たせるのは失礼な事。
「しょうがねえな…じゃあ行くか」
引き剥がされた思惑は人それぞれだが、ここでヤイヤイと喧嘩をしているわけにもいかない。
乱馬はため息をつきつつ、皆に出発する旨を伝えた。
ところが、
「・・・王子、今夜のリエンさんのお宅訪問というのは、皆揃ってではないといけないのですか?」
「は?いや、別にそう決まっているわけじゃないけど・・・」
「だったら、彼女…あかねちゃんには、出来ればここに残って僕の手伝いをしてもらいたいのですが」
「!?」
「漁業組合の健康診断は、わりと人手が要りましてね・・・差し支えなければ少し彼女をお借りしたい」
皆が出発をしようと診療室の入り口に向かおうとしたその時、東風が乱馬に、急にそう進言したのだ。
その言葉に、正直乱馬は戸惑った。
「…」
勿論乱馬としては、旅の仲間でもあり自分の許婚でもある彼女は、常に自分の傍においておきたい。
それに、一応は家族とは言え、東風とあかねは「義理」の兄と妹。
自分の見えない処で、自分よりも付き合いが長く思い出を共有している二人が、一緒に時間を過ごすのはハッキリ言って面白くない。
だいたい、花瓶の花を摘みに行くわずかな間二人の姿が見えなかっただけでも、何だか心配になった乱馬だ。
・・・本当は、旅の中に私情を入れすぎてはいけない事だって、分かっているつもりだ。でも、どうしても譲れない事もあるというか・・・
・・・
となれば、
「悪いけど・・・」
当然のごとく、この東風の申し出を断ろうとするのが彼の答え。
乱馬は、東風にこの件に関して断りを入れようとした。ところが、
「ならば仕方ないだ」
「まあ、二、三時間なら・・・今日だけっぽいし」
乱馬が東風に申し出を断ろうとしたそれよりも一瞬早く、傍にいたムースと良牙が、東風に返事をしてしまった。
しかも、乱馬とは逆の答えを、だ。
「お、おいっ・・・」
乱馬は慌ててそれを否定しようとしたが、
「それはよかった。じゃあ彼女はお借りしますよ」
乱馬が否定する前に東風は笑顔でそういって、診療室の隣の部屋へと入っていってしまった。どうやらそこは、東風の個人の部屋。
もしかしたら白衣に着替えようとしているのかもしれない。東風もこれから仕事なのだ。
「ま、待てよ!まだ話はっ・・・」
乱馬はそんな東風を追ってその部屋に入っていこうとするも、
「ほら、乱馬。もう時間がねえから出発するぞ」
良牙に首根っこを掴まれて、医院玄関口まで連れて行かれてしまった。
「おい、おめえら!何であんなことを認めるんだよっ」
乱馬は、ドアを開けて外に出て行こうとしている良牙やムースに対して叫んだ。
乱馬にしてみればこんな決定は気に入らない。気軽にあかねの事を許可させてしまった二人に、当然のように食って掛かったが、
「お前、俺達の立場を考えろ」
「た、立場って何だよ」
「俺達は、ここにあかねさんのツテで置いてもらっているんだぜ?宿主であるあの先生に、恩を返さないでどうする」
「で、でもだからって・・・!」
「食事行って話を聞いて帰ってくるだけの間なら、問題ねえだろ。俺達が聞いたことを、後であかねさんに話せば大丈夫だ」
「で、でもっ・・」
「とにかく、そういうことだ」
良牙は、乱馬にそうサラリと言ってのけた。その横ではムースも、「まあソウイウコトじゃ」と頷いている。
勿論乱馬はそれでは納得していないが、そんな乱馬の背後では、
「あかね、たくさん手伝うよろしぞ」
「安生働いて御礼せな、あかねちゃん。先生と仲良うな」
シャンプーと右京が、皆を玄関まで見送りに来たあかねに対し、妙に優しい口調でそんな事を言っていた。
二人にしてみれば、強力なライバルであるあかねがいないこの数時間は、乱馬にべったりと近づくチャンスだからである。
もちろん、そんな彼女達の思惑を、乱馬が気がついていることはないのだが。・・・
「お、お前ら!ことの重要さを分っているのか!」
「何が重要さ、だ。いいからほら、さっさと行くぞ」
「俺も残るっ・・・俺もここに残るー!」
「だあ!わけのわからねえ事をいうんじゃねえ、このバカ王子!」
駄々をこね始めた乱馬の頭をポカリと拳で殴りつつ、首根っこを捕まえた良牙は、あかねに挨拶をして玄関を出た。
「やれやれ、ワガママな王子じゃな」
「乱馬、寂しければ私に甘えるよろし!」
「乱ちゃん、うちとお話していれば楽しいで」
他の面々も、今にも戻りそうな乱馬を見張りつつ医院の玄関を出る。
「い、行ってらっしゃい・・・」
あんな大きな駄々子ねっこ、良牙君も本当に大変ね。
それにしても、乱馬・・・どうしてここにそんなに残りたいのかしら?
「・・・」
まさか原因が自分にあると思わないあかねは、良牙の心労を労いつつ、ノンビリと、出かけていった皆を見送った。




…こうして、現在に至るのである。




しかし、
「もーど−る!俺は医院に戻るー!」
「まだ言うか、このバカ王子がー!」
と、街中をかなり目立つ姿・・・そう、首根っこを掴まれ引きずられていった大きな駄々子ねっ子も、いざ、リエンの大きな屋敷の前まで到達するとそうもしていられないわけで。
「はあ・・・」
「おまえなあ・・・いい加減気持ちを切り替えろっての。仮にも一国の王子だぞ?お前の訪問態度が国の品位をだなあ・・・」
「分ってるよ。はあ・・・」
「ぜ、全然わかってねえじゃねえか」
・・・まあ実際、分っているのだかいないのだかは定かではないが、バカでも駄々っ子でも、一応は一国の王子である。
そう、彼の品性がいつ、どんな形で各国の王族の耳に入るか分からないのだ。
とりあえず彼は今のところ、近隣の国では「容姿端麗で聡明な印象のある王子」と評判を持っている。
まさか仲間内では「バカ王子」と呼ばれている事など、近隣の国の人々は知らないわけなので、あまりに情けない姿を晒すのも困り者なのである。
これは乱馬だけでなく、王国自身の印象にも等しいので、良牙としては何とか見た目だけでもとは思っているのだ。
「・・・」
そんな良牙の願いが通じたのか、乱馬は豪華なリエン邸の門の前で一度深呼吸をした。表情が、それまでとは一変して引き締まる。
そう、彼は喋らず大人しくしていれば端麗なのである。
乱馬は、身に纏っていた服をピシッと整えるた。そして、
「・・・じゃあ、俺達の今後に関係する情報を入手しに行くか」
「そうそう。それが、今の俺達には重要だ」
「リエンが何か知っておればよいのだがな」
「そうあるな・・・」
「あのおっちゃん、大分怪我も良くなったみたいやしねえ」
「・・・」
最後にこっそりとため息をついたことは皆に悟られないようにしつつ、
ヒラリ、とマントを翻し、良牙・ムース・シャンプー・右京の四人と共に、屋敷の中へと入っていった。





一方その頃。
「彼らは出掛けたかい?」
出かけていく乱馬たちを玄関先まで見送ったあかねが診療室へと戻ると、既に白衣を身に纏っていた東風が、席に座りながら笑顔で話しかけてきた。
「はい、たった今・・・」
あかねにしてみれば、幼い頃から見慣れたその白衣姿だが、改めて見ると何だか照れるというか。
胸の中に疼く、正体不明の「気持ち」が、何だかあかねにはこそばゆく感じていた。
ただ、
「先生、それで私は何をお手伝いすれば宜しいでしょうか?確か今日、漁業組合の健康診断があるって・・・」
その不思議な気持ちの事は胸の中にしまいつつ、あかねは東風に改めてそう質問をした。
すると、
「そうだな、手伝って欲しい事は色々とあるんだけど・・・その前に少し、僕とお話をしようか?」
「え?でも、漁業組合の健康診断が・・・」
「うん、でも少し話をするくらいの時間はあるから大丈夫だよ」
「そうですか・・・」
「それよりも、あかねちゃん。いつからだい?」
東風はそれまで同様の笑顔で、あかねに向かってそう言った。そして、自分の目の前にある椅子に座るよう勧める。
「いつから?」
いつから、というのはやはり、この旅のことだろうか?
東風自身、あかねが乱馬と旅に出たことはかすみから聞いていたかもしれないが、
その詳細についてはかすみも良くは知らないだろうし、となれば東風が知ることも無い。
それに宮廷医師ということもあるし、いくら健康体とはいえ王子である乱馬の、旅での健康状態を聞いて、ティルトンに戻った時に城で報告するのかもしれない。
「出発してから、二月、いや三ヶ月ほどたちますね・・・春になる前だったかな、旅に出たのは」
そう、桜の季節を迎えたのは、旅の最中だった。
山道を進みながら、桜の花びらが風に舞って飛んでいったのがとても綺麗だったことをあかねはふと、思い出した。
あかねは東風の勧めどおり椅子に座ると、自分達の旅について細かく説明をしようとノンビリと話し始めた。
・・・ところが、
「旅のことじゃない、目のことだよ」
「え・・・?」
「いつぐらいから、そんなに見えなくなっていたの?あかねちゃん」
東風は、そんなあかねの話をスパッと遮り突然本題を切り出した。
あかねは、一瞬ビクッと身を竦める。
・・・先生は、何を言っているのだろう?
あかねは、言葉の意味を理解するのに時間を要した。
いや、本当はその言葉の意味は痛いぐらいに良く分かっていた。でも、それを何故東風の口から聞くのか。
何を言っているの?いえ、どうして・・・あかねの目が、泳ぐ。
しかし、ここで素直に「はい、実は・・・」と認めるわけにはいかなかった。
あかねは慌てて平静を装い、
「あ、あたしは別にそんなこと・・・それより、やっぱり話をするより健康診断の準備しましょうよ!忙しそうだなあ、今日は!」
と、東風の冗談・勘違いとして話を受け流し椅子から立ち上がるが、
「・・・ねえ、あかねちゃん」
そんなあかねを、強い力で引き止めるように、東風があかねの手を掴んだ。あかねは再び、ビクッと身を竦める。
「彼らの目は誤魔化せても、僕の目は誤魔化せないよ。これでも僕は、医者だからね」
「先生・・・」
「それに僕は、医者であると同時に君の・・・義理だけど兄でもある。そうなる前からだって、小さい頃からあかねちゃんの事は良く知っている。・・・多分、王子よりも」
「・・・」
「知っているのに、見過ごすわけにはいかないよ」
東風はそこまで言うと、先ほどまでの笑顔とは一点、真剣な表情であかねを見つめた。
「カスミソウ」
「え?」
「・・・あの時、どうして落とした花を拾うのを躊躇したのかな。それともあかねちゃんは、僕が納得できる理由を話すことができる?」
「!せ、先生・・・」
「僕が、気がつかなかったと思うかい?」
・・・あかねは、何も言葉を発する事が出来ないままその場で固まっていた。
あかねの前の東風は、あかねが見たこともないような真剣な表情をしていた。
乱馬とは違う、強くて優しい瞳。その瞳に身体を拘束されてしまったかのように、あかねは動けずにいた。




二人が見つめあう診療室の中では、規則正しく時を刻む時計の乾いた音だけが、響き渡っていた。


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