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暁の約束8

「!?」
「な・・・何あるか!?」
・・・ふと、その場にいたムースとシャンプーが、小さく声を上げた。
「?」
「何だよ」
「どうしたん?」
それまで、元気のない様子で動かないリエンを見ていたシャンプーと、そしてそのシャンプーを励ましていたムースが叫ぶのに驚いた乱馬と良牙、そして右京が二人に問うも、
それと同時に、
「いやあっ」
あかねが、小さく叫びながらリエンの体から手を離したのを見て、思わず首をかしげる。
「・・・」
シャンプーとムースは、何も言わずにリエンを・・・いや、黒こげで動かないリエンと、そして叫び声をあげて震えているあかねを見つめた。
・・・あかねと、そしてあかねが触れたリエンの体から正体不明の白い光が放たれたのが、シャンプーとムースには見えたのである。
乱馬達三人がそれについては何の反応も示さなかった所を見ると、彼らには見えていないのかもしれない。
見えているのは、シャンプーと、ムースと・・・そして叫び声をあげて飛びのいた、あかね。
もしかしたら、その光は魔力を持つものだけが見える光、なのだろうか。
しかし、あかねは魔導士ではない。第一、魔法なんて使えないし呪文や知識だってないはずなのだ。
なのに、これは・・・どういうことか?
シャンプーとムースは、声も出さずにその光を見つめて色々と考える。
「あ、あかね?」
・・・一方、そんなあかねの声に驚いて、乱馬が慌ててあかねの元へと駆け寄るが、
「・・・」
あかねは自分の体から発せられる光に驚いて、がたがたと身を震わせていた。
「ど、どうした?」
勿論乱馬はその光が見えないので、あかねのその様子に首を傾げるばかりだ。
「・・・」
シャンプーとムースは、光を放つあかねとリエンをじっと見つめていた。
光は、飛びのいた後もなお、あかねと、そしてあかねが触れたリエンの体部分を光らせていた。
その内、光はまず、あかねからは消えた。しかし、リエンの体を徐々に、包み込む大きな物となった。
そして、リエンの体全てを包むと最後、ポウ・・・と、まるでしゃぼんの泡が消えるように弾けて消えた。

「うわああっ!」
「な、なんだ!?」
「動いてるやんっ・・・」

次の瞬間。
・・・なんと、それまで黒こげで地面に倒れ動かなかったリエンが、ビクン、ビクンと小さく動いたのだ。
「いや・・・いやあっ・・・」
あかねが、ビクビクと動くリエンに対し、真っ青になりながら叫ぶ。
乱馬は、動いたリエンを見て異常に脅えているあかねを自分の背中に隠した。
右京は、傍にいた良牙をすばやく自分の盾にして、
「おい・・・」
「はー、驚いたなあ、良牙。こんなん、レディーには目の毒や」
とか何とか言いながら、良牙の背中からこっそりと、その様子を見守っていた。
「・・・」
ビクン、ビクンと何度か身体を痙攣させたリエンは、徐々にゆったりとした動きを見せるようになった。
その内、途切れ途切れだが呼吸をするような胸の動きをし始め、やがて地面からその身体を起こすと、「私は・・・」と小さく呟いた。
・・・電撃を身体に受け、黒焦げになったリエン。
動かず、誰もが命を落としたと思っていたわけであるが・・・どうやら何らかの要因が引き金となり、息を吹き返したようだ。
もしかしたら、落雷で絶命したのではなく、仮死状態になっていただけなのか。
どちらに転んでも、超人的な生命力としか言い様が無い。
「・・・生きているならば、治癒能力が使えるある」
「そ、そうじゃな・・・」
・・・自分の魔力で殺してしまったのなら気が重いが、怪我をさせた相手を回復させるのならば気は軽くなる。
先程の光のことは気になるが、目の前に怪我人がいるのならばまずはそっちが優先だ。
それに、カードは乱馬が回収した後なので、先ほどのようにリエンが乱馬達に攻撃を仕掛ける事はない。
「乱馬、リエンを・・・」
「お、おう」
シャンプーとムースは、乱馬と良牙にリエンを屋敷まで運ばせるべく二人に指示をだした。
二人は言われたとおりに、起き上がったリエンをマントを使ってタンカのようにしながらそこに寝かせ、持ち上げる。
そんな二人のすぐ傍を、まるでリエンが生き返ったことを喜ぶかのように羽根をバタバタと動かしながら、一羽の鳥が飛んでいった。
「鳥も、喜んでいるんやろか」
「さあ・・・それはわからねえけど」
リエンの傍を、そして乱馬達一人一人の傍を回り飛んでいくその鳥を眺めながら、右京がそんな事を呟く。
やがて鳥は、羽根を自由に羽ばたかせながら大空を廻り、乱馬達から離れていってしまったが、乱馬達はその鳥のようにすぐに屋敷まで飛んでいけるわけではない。
とりあえずリエンの身体を慎重に運びながら、乱馬達は屋敷へと向かった。
「お、おやかた様!?」
「リエン様!?」
屋敷に黒焦げのリエンを連れて戻った一向は、驚く使用人達に大まかにこれまでの事情を説明し、リエンを治療する為の部屋を用意させた。
シャンプーとムースはリエンと共に用意された部屋へと入っていく。
乱馬達は、外でとりあえず待機だ。
「良かったなあ、生きていて・・・」
「そうだなあ。でもすげえ生命力だな」
「でも、不思議やなあ」
・・・用意してもらった部屋の外でとりあえず待機していた乱馬達は、そんな事を話し合っていた。
その中であかねは一人、未だ真っ青な顔で震えている。
「どうした?あ、まあ・・・黒焦げの人間がいきなり起き上がったらそりゃ、驚くよな?」
そんなあかねを気遣い、乱馬がさりげなく隣に座りながら、どさくさにまぎれて手を握って励ましてみたりするも、
「あかねさんはお前と違ってデリケートなんだ」
すぐにそれがばれ、良牙にその手をひっぱたかれ引き剥がされる。
「あかねちゃん、女の子やねえ・・・そんなんじゃ、旅続けるのも大変なんやない?」
右京も、さりげなく乱馬とあかねの間に入り込んでそんな事をいうも、
「・・・」
あかねは何も語らず、がたがたと震えているだけだ。
・・・あかねが脅えているのは、リエンが黒焦げだったのにいきなり息を吹き返した事ではない。
あの時、そう、リエンの身体に触れた瞬間に妙な光を自分が発した事に、驚いているのだ。
更にその後、リエンが息を吹き返した・・・それが更に不気味に思え、そして震えているのだ。
だが、それを乱馬に説明するような気持ちの余裕が、今のあかねには全くなかった。
ただ、気持ちが悪い。ただ、奇妙・・・もしかしたらあの光は、自分の残り少ない「時間」に何か関係があったりするのか?
命を落とすまで間もないもの・・・同じような境遇の物に反応したとか、何かの予言なのか、とか・・・そんなことさえ考えてしまう。
体に、妙な変化が起きているのか?
それともただの偶然か?じゃああの白い光は・・・?
「・・・」
そう思うと、ただただ、一人その孤独や恐怖に怯えているしかないのだ。
「も、もう大丈夫だからな。あかね、そんなに怖がる事ないぞ」
「・・・だから、てめえはドサクサに紛れて、あかねさんの手を握ろうとするんじゃねえ!」
「乱ちゃん、うちの手ならぎょーさん握ってもかまへんよ」
・・・ワイワイとあかねの周りで騒いでいる三人に、あかねは
「もう大丈夫よ。ちょっと驚いただけだから・・・それよりも乱馬、治療が終るまでに私達が出来る事をしましょう」
「出来る事・・・?」
「えーい、このバカ王子!市場を復活させなくちゃいけねんだろ、俺らは!だから、この女の依頼を受けたんじゃねえのか!」
「そうだったっけ」
「そうだろうが!んで、ついでにカードを回収するんだろうが!・・・って、その手も早く離せっ」
良牙が、再びちゃっかりとあかねの手を握りながらぼーっとしている乱馬を引き剥がしながらそう叫ぶと、
「なあ、王子って何のことやの?」
「あっ・・・」
「乱ちゃん、王子様なん?」
・・・右京には乱馬と、そしてあかね達の身の上や旅の目的を隠していたことを忘れていたのだが、「王子」「カード」などの言葉をしっかりと聞いてしまった右京が、あかね達をじっと見つめる。
「カードを集めるってなん?それに、乱ちゃんはどこの王子様なん?」
「そ、それは・・・」
「なあなあ、一体どういうことなん!?」
右京は興味津々な様子で乱馬達に詰寄るも、
「と、とにかく今は、それどころじゃねえ」
「でも、うち気になる・・・」
「と、とにかくまず、市場を復活させる方がさきだろ?うっちゃん」
「そ、そうやけど・・・」
「じゃあ俺たちは、シャンプーたちが出てくるまでに色々と出来る事をやっておこうか」
乱馬達は右京を何とか宥め、とりあえず治療の間の待ち時間で自分達が出来る事をしようと、腰をあげた。

その一方で。
「・・・」
リエンを治療する部屋の中では、すでにあらかたの治療が終わり、あとはリエンが目を覚ますのを待つのみという状態になっていた。
中央の大きなベッドに、黒焦げの鎧を外し、水で顔や身体を綺麗に拭いた状態のリエンが横たわっていた。
その表情は、穏かだった。呼吸もゆっくりと規則正しい物に変化している。
完治、というわけには行かないが、それなりに良好な状態になっていることだけは伺えた。
そんなリエンの両側には、シャンプーとムースがそれぞれイスに腰を下ろし座っていた。
二人とも腕の良い魔導士ではあるが、シャンプーは攻撃系、ムースは防御系の魔法が得意である。
ということは、治癒専門の魔導士ではないということで最初はいささか不安はあったのだが、いくら専門でなくても、腕の良い魔導士二人が協力して治癒魔法を使えば、それなりに強力な物を繰り出せるのである。
とりあえず、もうリエンが危機状況からは脱したことを見届け治療を終えた二人は、それぞれの席でぼんやりと、腰を下ろしていた。
「・・・」
二人は、目もあわせずに一言も交わさない。
勿論、治療に専念したせいもあって、疲れているのもある。
シャンプーに至っては、強力な魔法を打った余波が体に残っていて、ボーっとしているのもある。
が、それだけではないことも、二人はよく分かっていた。
・・・二人の胸の内には、リエンが息を吹き返すときの光景が鮮明に刻まれていたのだ。
不思議な光。
魔力を持つものしか見えない、光。その光が、あかねの身体から発せられていた。
しかも、発せられただけでなく・・・その光があかねの身体から徐々にリエンの身体に伝わり、そしてその後・・・死状態だったリエンを、復活させた。

・・・光と、リエンが生き返ったことを結び付けていいのかどうかは分からない。
でも、そう考えるのがいちばん簡単なのではないかと、二人はそれぞれ考えた。
それに、もしも・・・リエンが本当は、やはり「仮死状態」ではなく「本当に死んでいた」状態で、そこから生き返らせたというのならば、
「・・・蘇生魔法なんて、普通の魔導士は使えないある」
「シャンプー・・・」
「蘇生魔法を使えるのは・・・光の属性魔法を持つものだけね。ひいばあちゃんでも、使えない。だから、あかねに使えるとは思えない」
シャンプーは、誰に問い掛けるわけでもなく、そう呟いた。
そう、魔法というのは基本的に四大属性と、光・闇の特殊属性に分かれている。
カードも、その四大属性の加護を受けているわけであるのだが、不思議な力を持つカードでさえも、光と闇属性を持つものは一枚も無い。
それに、この世に生を受けている魔導士達であっても、たいていが四大属性の加護を受けその魔法を扱うに留まるのだ。
強力な魔導士であればあるほど、自分の得意属性と、それ以外の属性の魔法も扱う事は出来るが、だからといって光と闇属性の魔法を使うことなど出来ない。
四大属性は、火・水・風・大地。光と闇は・・・それらとは次元が違う特殊な属性魔法になる。
命を吹き込むような蘇生魔法は、まさにこれにあたるのだ。
「私は、火属性の魔法が得意ね。でも、修行をして、他の属性の魔法もそれなりに使うことが出来る。ムース、お前もそうあるな?」
「おらは・・・水属性の魔法が得意じゃ。他の属性魔法も使えるがな」
「ひいばあちゃんは、風属性。もちろん他も使えるし、その他の物だって私達よりも強力なものある・・・そんなひいばあちゃんでさえ、光属性魔法なんて身につけられない。そう言っていたある」
シャンプーは、小さな声で淡々と、そう続ける。
「光属性魔法を使うには、かなりの魔力と、数百年分の一の確率での出生遺伝が必要だと・・・言われているある。家系に魔導士がいるわけでもなく、魔力自体がないあかねが、使えるとは私には信じられない。でも・・・」
あの光は、何?
あれが蘇生魔法じゃないとすれば、ではあの光は何だったのか・・・
「・・・とにかく、気になるある。私、ひいばあちゃんに・・・」
とにかく、今ある自分の知識を全て使っても、今回の事は結論を導く事が出来ない。
とにかく、困ったらすぐにコロンに相談しなくては。シャンプーはそう口にするも、
「・・・待つだ、シャンプー」
「え?」
「今回の事は、おらの方からおばばに報告をする」
「!な・・・」
「防御系の魔法はおらの得意分野じゃ。カイルリングの光のことも含め、おらはおばばに聞きたいことがある」
・・・少し苦しいいいわけだが、それらが全て嘘というわけでもない。
あかねにまつわる事だ、ムースとしてもコロンに報告しなくては行けない事がいくつかある。
シャンプーが報告するよりも、コロンも答えやすいだろうに。ムースはそう考えたのだ。
「何を隠しているあるか・・・?」
シャンプーは、ムースに改めて質問するも、
「隠すような事は何もない」
ムースはあくまでも、シャンプーにとぼけた素振をする。
「・・・」
・・・ムースはああ言っているが、それで素直に納得するようなシャンプーではない。
「わかたある。今回の報告はムースがすればいい」
一応は、そんな事を言ってムースに全てを投げたようにシャンプーは見せかけるが、自分でもあとで、コロンに尋ねてみよう。
そう心に誓うシャンプーであった。

・・・
シャンプーとムースがリエンの部屋にいる間、乱馬達はその間に、リエンとの戦いで大分荒れてしまった街の外れの墓地も、すぐに元通りにするように手配させた。
取り急ぎストップさせているヒルダとその近辺の市場を潤滑にさせるべくリエンの執事に指示を出させ、市場を元通りにさせた。
右京も、まずは例の山村の宿へと「市場が元通りに戻った、安心して食料調達が出来るようになった」旨を連絡する。
とりあえず市場が復活すれば、多くの人々は助かるのだ。
細かい事はリエンでなくては分からなかったり指示は出せないかもしれないが、山村を含む近隣の町の者たちが生活する分には困らない程度にはなる。
乱馬達は、リエンの治療を待つ間、それらの問題を解決すべく色々と手配をした。
これにより、ヒルダと、そしてヒルダ近隣を巻き込んでいた市場危機事件は、一応は解決したのである。

**************
エピローグ
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月は、遥か西に見える山の端にかかろうとしていた。
空気が澄んだ山の中というのは、普段町から見あげる月をも別の姿へと変えてしまうのか。
遥か西に見える、毒々しいまでに黄色身を帯びた三日月には、その姿を霞にでもしてしまうかのようなオレンジが、かかっている。
少し際の色が濃くなるだけで、何故にこんなにも目に、心に強く印象が残るのか。
黄色い月には心が躍り、オレンジの月には心が竦む。不思議な現象だ。
うっかり見つめすぎると、何だかその色合いの中へと溶け込んでしまいそうである。
時は暁、太陽が登る前のまだ暗いこの時間は、もちろん大抵のものは眠りについている。
リエンの治療を終えて、とりあえず例の山村の宿へと戻った乱馬達は、山村の住人達の手厚い礼と料理を堪能し、それぞれが戦いの疲れを癒すべく、早めに床につき体を休めていた。
住人たちも喜びの宴に酔いしれ、そしてその勢いでそのまま会場となった宿屋の食堂で雑魚寝だ。
片付けは、明日。今日は、久し振りに口にすることが出来た豊富な食事を味わおう。
おかげで、宴の後片付けもなされず人々はその場へ雑魚寝、雑然としたまま、深夜の宿は静まり返っていた。
「・・・」
・・・そんな、中。
キイ、と回りに気遣うように部屋のドアを開け、廊下へと出てきた者があった。
あかねである。
戦いの疲れ、そしてリエンの治癒の疲れで、宴もそこそこ部屋に戻り熟睡しているシャンプーを起こさないように静かに部屋を出たあかねは、人々が雑魚寝している食堂の脇を静かに通り過ぎ、ゆっくりと宿の外へと出た。
そして、そのまま宿の裏手へと歩いていく。
戦いが始まる前、乱馬と約束をしていたのを思い出したからである。
「空の月が西の山の端にかかりそうな頃、宿の裏で待ってる」
乱馬は、そう言った。だから、空の月が西の山の端にかかりそうなこの暁の頃に、あかねはこうして宿の裏へとやって来たのだ。
ただ、乱馬は先の宴でもたくさん食べてたくさん飲まされていた。
宴が終る頃は、食べすぎと戦いの疲れも重なり、
「こら、このバカ王子!そこで寝るな!」
「あー、かったるい・・・床が俺を待っている」
「待ってるわけねーだろ!せめて、カードだけでも部屋に置きに・・・あーあ、もうしょうがねえなあ」
右手ではしっかりと骨付きリブステーキを握りながらも、床へ横になり居眠りをする始末。
結局、文句を言いながらも良牙が部屋まで運んでいった。
乱馬はそんな状態だったがゆえに、それっきり深い眠りについたというのであれば、自分がした約束なんて忘れている可能性も高い。
でも、すっぽかされたからといって、あかねは怒るつもりは無かった。
必死で戦った結果のことだ。仕方がないこと。
あかねはそんな事を思いながら、ゆっくりと宿の裏手へと歩いていった。
と。
「・・・」
あかねが宿の裏手へと付くと、すでにそこで壁に寄りかかりながら空を眺めているものがいた。
乱馬だ。あかねよりも早く、この場所へと来ていたらしい。
少し居眠りをしたせいで、少しは体の疲れも取れたのだろうか・・・その割りには、 何か考え事でもしているのか、物言わずただただ、月を見上げている乱馬。
柔らかな月の微かな光が、彼の横顔をほんのりと照らしている。
・・・改めてみると、随分と整った顔立ちだ。普段見慣れているはずなのに、不思議とあかねの胸が何度か大きく鼓動した。
「あの・・・」
あかねは、そんな乱馬に小さく声をかけた。
「・・・よ」
乱馬はその声であかねの存在に気が付いたのか、壁から離れてあかねの元へと歩み寄ってきた。そして、
「もう、落ち着いたか?」
戦い直後、真っ青な顔で震えていたあかねの姿を思い、乱馬はまずそんな優しい声をかける。
が、
「渡したいものって・・・何?」
その気持ちは嬉しいが、あかねとしてはその事に、あまり触れられたくは無かった。
あかねは嬉しい気持ちを抑えながら、歩み寄ってきた乱馬に早速そう切り出した。
乱馬はそんなあかねに対して小さなため息をつくと、まずはその質問には答えずに、
「・・・それよりも」
そう言って、不意にあかねの左手を取った。
そして、手の甲を上にした状態で、あかねの五本の指を持ち、自分の右手の平へとそっと乗せた。
まるで、ダンスを踊る時に軽く手を取られているかのような、状態だ。
「っ」
ビクン
されなれない仕草にあかねが思わず身を竦めると、
「・・・これ」
「え、な、なに・・・?」
「この指輪。薬指にしなくちゃいけない理由、あるの?」
乱馬はあかねの手を取ったまま、取っている左手の・・・ある一部分へ視線を落してあかねにそう尋ねた。
「・・・」
乱馬の視線の先は、あかねの左手、薬指。そう、ムースがあかねに渡したカイルリングに注がれていた。
「そ、そういう理由はないと思うけど・・・」
魔法アクセサリーやアイテムは、基本的に左手にするのが普通だ。
でも、薬指にしなくてはいけないという、決まりは無い。
「・・・それ、魔法アイテムなのか?」
「う、うん・・・あの、あたし弱っちいし、皆にも迷惑をかけないようにって、ムースが作ってくれたの・・・」
乱馬には、この指輪が魔法アイテムだという事はまだ、話してはいなかった。
あかねは詳しい事は語らずに、それがそういうアイテムであるという事だけを乱馬に伝えた。
「で、何で薬指にするの?」
と、乱馬は真剣な表情であかねに続けてそう、質問をする。
そう、乱馬にとっては指輪の存在うんぬんよりも、何故それをその指にするのか、が問題なのである。
もちろん、そうとは知らないあかねは、その質問に少し驚いていた。
「・・・」
・・・どうして、そんなこと聞くの?
しかも、真剣な表情で。あかねはそんな乱馬に対し再び胸を大きく鼓動させるも、
「多分、この指にしかピッタリはまらなかったからだと、思う・・・」
素直に、その理由を答えた。
そう、この指輪をムースがあかねに渡した時、とりあえず左手の指を試した。
そして、丁度ピッタリだったのがこの指だったのだ。ただ、それだけの理由だった。
はめられた時は、あかねも多少は違和感があった。
左手の薬指、そして指輪・・・これらがどのような意味を持つかくらい、あかねだって分かる。
だからこそあの時、左手の薬指に指輪をはめてくれたのが乱馬じゃない、というその現実に違和感を覚えた記憶があった。
「・・・」
乱馬は、そんなあかねの話を真剣な表情のまま聞いていた。
そして少し何かを考えた後、スルリ・・・とその指輪をあかねの指から外してしまった。
「あ!」
あかねが驚いてそう声を上げるも、乱馬は何も答えずに、そのあかねの指から外した指輪に自分の指をかけた。
クッ・・・と力を加えて、微かにそのリングの幅を広げる。
もちろん、指で強引に広げたわけだから、若干リングの形は悪くなる。リングの効能自体に問題はないわけだが。
「・・・」
乱馬はその幅の広がったリングを、あかねの指へと再びはめた。
ただし、乱馬がその指輪をあかねにはめたのは・・・薬指ではなく、人差し指だった。
「ずれたりしない?」
「う、うん・・・」
昨日ははめるのにきつかった指輪も、今は違和感は無い。ずれる事も無く、ジャストフィットだ。
でも・・・
「・・・」
あかねが、一連の乱馬のその行動に対し何も言わず、指を移動したリングを見つめていると、
「・・・だめだよ、この指は」
「え?」
「この指は俺が予約しているから・・・他の奴の指輪なんて受け入れる余裕、ない」
乱馬はそう言って、それまでリングがはまっていたあかねの薬指をそっと、指で触れた。
「っ・・・」
直後、フワリとした感触が、薬指に降りた。
指の後に感じた、柔らかい感触・・・乱馬が唇で、その指に触れたのだ。
あかねは咄嗟の出来事にビクン、と身を竦める。
そして、思わずまだ感触の残る手を胸へと抱き込んでしまった。
・・・胸から、自分でも驚くくらい大きな鼓動が、手へと伝わってきていた。
一生懸命抱き込んでいるその手も、唇が触れたその指の感覚を一心に受けている。
「・・・」
その感触を思い切り感じながら、あかねが真っ赤に頬を染めて俯いていると、そんなあかねの抱きこんでいる手を、乱馬が優しく自分のほうへと引き出した。
「乱馬・・・」
あかねが頬を赤らめたままそう呟くと、
「・・・指輪はちゃんとした物を、ちゃんと渡したいからまだだけど」
乱馬はそう言って、あかねのその手を掴んだままもう片方の手で自分のポケットをまさぐった。
そして、何やら細長い輪っか状のものを取り出した。
良く見ると、それは赤い皮で出来ているブレスレットだった。
柄も無く、皮自体に飾り気も無いシンプルなつくりではあるけれど、一ヶ所に白く輝く美しい石が付いている。
乱馬はそのブレスレットをあかねの左手首に素早くはめ、つなぎ目の皮ひもを結んだ。
「どうしたの・・・?これ」
デザインもあかね好みだし、貰える事は嬉しい。でも、高かったのではないか?
それに、一体いつ・・・あかねが乱馬に尋ねると、
「今朝・・・」
「今朝?」
「ちょっと早起きしたから、森に出て・・・モンスターと出くわしたから、その時に手に入れたものをこの村の店で換金して、買っただけ」
乱馬はそう言って、自分の左手部分の服の袖を少し捲った。
そこには、あかねがはめてもらったのと同じデザインのブレスレットが、あった。
どうやら、ペアのブレスレットらしい。
「このブレスレット、世界で二組しかないんだって」
「二組?」
「有名なデザイナーが作った作品なんだって。もう一組は、ヒルダの町で売れてしまったからもう無くて、もう一組はまだ残ってるっていうから・・・」
「乱馬、それをわざわざ・・・?」
「あ、ああ・・・」
「高かったでしょうに・・・」
乱馬がプレゼントをくれるなんて・・・初めてだから、何だか戸惑ってしまう。
それも、モンスターの換金率なんてそんなに高くない。さらりと言ってはいるけれど、それなりの量が無ければこんなブレスレットは手に入らないだろうに。
あかねが、乱馬が購入したというそのブレスレットをそんな事を考えながらじっと見つめていると、
「い、一応これは、本当に俺が勝手に作ってきた金で、買ったヤツだからなっ・・・旅の資金とか、親父達が用意してくれた金じゃないから」
あかねが黙り込んでいる理由を、ブレスレット購入の金の出所を心配したせいだと勘違いした乱馬が、慌ててそう主張すると、
「今はその・・・世界で一つ、ってわけじゃないけどこれ、つけてろよ」
その指輪、魔法アクセサリーだと聞いたけど何か薬指に光っていると癪に障る・・・とは、さすがに正直に口には出さずに、乱馬はあかねの顔を見た。
そして、直後あかねの左手薬指を自分の指でそっと撫でた。
「・・・この指には他の男に貰った指輪は、はめないで欲しい」
「乱馬・・・」
「サイズが合わなかったら、俺が他の指に合うように変えるから。例え魔法アクセサリーでも・・・」
乱馬はそう言って、もう一度優しく薬指を撫でた。柔らかい表情だが、目はとても真剣だ。
彼は本気で、あかねにそんな約束をさせたいのだ・・・あかねはそう感じ取った。
「・・・」
あかねはそんな乱馬の言葉に静かに頷いて、触れられていたその手を、自分の元へと引き寄せた。
そして、乱馬が手首に嵌めてくれたそのブレスレットを、ぎゅっと抱きしめるように抱きしめた。
・・・やっと、分かった。
どうして、乱馬が今朝、機嫌が悪かったのか。
そして、ムースに対してどうして突っかかったような態度を取っていたのか、そしてこんな時間にここへわざわざあかねを呼び出したのか。
あかねはようやく、乱馬の行動や考えていることを理解したような気がした。
何らかの理由により、乱馬はこの指輪の存在に気がついた。そしてそれを渡したのがムースだという事にも、気がついた。
だから、機嫌が悪かった。
そういえば、様子がおかしい乱馬を朝訪ねた時、左手に指輪をしっかりとはめたままだったな・・・あかねはふと、思い出す。
乱馬は今朝、山ほど魔物を倒し、右京に食料として渡していた。
恐らく、本来は渡した以上に多い魔物を倒していて、食料として渡さない分をこのブレスレットを手に入れるために換金所に持っていったのだろう。
無駄な殺生はしないはずの乱馬が、何故そんな・・・と、当初は事情もバックグラウンドもわからず、彼の行動の意味が分からなかったあかねだが、今ならばその行動も理解できる。
すべて、原因は自分にあったのか・・・
「・・・」
こんな風にブレスレットを贈られて嬉しい反面、あかねは胸中複雑だった。
ぎゅっと握り締めたその手の上に、ポツン、と涙が一粒零れ落ちる。
「・・・あつかましかったかな、こんな約束」
突然涙を流すあかねに、乱馬は慌ててその涙を指でぬぐいながらも、さっと表情を曇らせた。
自分が贈り物をするまでは普通に話を聞いていたのに、約束を切り出したら、突然涙を流し始めたのだ。
あかねの気持ちを全く考慮しない、自分勝手な思い・・・ぶつけてしまって、あかねが迷惑だったら・・・乱馬の心に、不安が過ぎる。
が、あかねは静かに左右に首を振ると、涙をぬぐってくれた乱馬の体に、そっと腕を回し抱きついた。
「えっ・・・あ、あの、ど、どしたの・・・急に」
自分からはしょっちゅうあかねに手を出そうとしては、周りに邪魔されたりあかねに殴られたりしている乱馬であるが、こんな風にあかねから抱き疲れたりすれば、異様に緊張して体が硬直してしまう。
旅に出る前、「抱きしめて欲しい」とあかねに言われてその体を抱きしめたときだって、初めは緊張して戸惑ったことを思い出した。
でも・・・人間の本能というのは不思議だ。たとえ初めは戸惑っても、本能はそんな気持ちを超越して体を動かす。
「どうしたの」と言いつつも、乱馬の腕はすばやく、そしてあかねがそうするよりも遥かに強く、彼女の体を抱きしめていた。
「約束、守る・・・」
「え?」
「そして、大事にする・・・このブレスレット、絶対、絶対に大事にする」
あかねは、そんな乱馬の体にぎゅっと顔を押し付け流した涙を隠しながら、もう一度小さな声でそう、呟いた。
・・・本当は。
こんな風に暖かく気持ちを見守られたり、約束をしたり、贈り物をしてもらったりする資格、自分にはないのかもしれない。
これから自分が乱馬にすることを考えると、絶対に約束だってプレゼントだって・・・ダメなのかもしれない。
分かっているのにそれを隠してこれを受け取るなんて、絶対にしてはいけないことなのに。
それを考えると、胸が押しつぶされそうだった。苦しくて苦しくて、身が千切れてしまいそうだった。
でも・・・
「・・・」
例え短い間だとしても、乱馬としたこの約束は守るようにしよう。
旅の終わりに一緒に並べないかもしれない・・・前にした約束は守れないかもしれないけど、この約束は絶対に守ろう。
そして・・・
「・・・」
もしも、たった一つ。
自分が旅立つ前に何か一つだけ持っていくことが出来るのならば。間違いなく自分は、このブレスレットを選ぼう。
他の何を手放したとしても、このブレスレットだけは絶対に、絶対に大事にしよう。
あかねは、そう思った。
・・・
「ありがとう」
あかねは、静かに乱馬の体から顔を離し、彼の顔を見上げた。
「うん・・・」
乱馬は、若干落ち着きない様子で小さくそう答えると、何故かあたりを執拗にきょろきょろと見回していた。
「よ、よし・・・」
しかも、ゴクリ、と喉を鳴らして大きく呼吸をしたあげく、意味不明な気合を口にしたりして。
あかねにしてみれば、不思議極まりない。
「乱馬?」
「・・・あ、あかね」
乱馬にしてみれば、このタイミングを逃しては男が廃る、とばかりに彼女の顔へと自分の顔を近づけるタイミングを伺っていたわけであるが、
そんなことが上手くいくようならばこの二人、とっくにもっと深い関係になっているわけで。
案の定あかねは、そんな乱馬のモーションには全く気づかずに、
モーションではなく単純に落ち着きがない行動のほうが気になったのか、
「もしかして、魔物でもいたの?迷い込んでいたのかしら・・・物騒ね」
とかなんとか、するりと乱馬の腕から逃げて、辺りを見回すべく宿の表のほうを覗きに行ってしまった。
「あああ・・・」
そんなあかねに、乱馬はがっくりと地面へへたり込んでしまうも、
「どうしたの?乱馬、地面に座り込んで。もしかして、まだ今日の戦いの疲れが抜けないの?」
「はは・・・」
「ブレスレット、本当にありがとう。大事にするね・・・」
地面にへたれ込んでいた乱馬の元に再び戻ってきたあかねは、笑顔でそういうと、
「おやすみ、乱馬・・・」
・・・これくらいなら、いいか。
それは口に出さずも、すばやく乱馬の頬に軽く、本当に軽くキスをした。
「はっ」
突如感じるその柔らかい感触に、乱馬がビクンと身を竦めながら息を呑むと、あかねはそんな乱馬にもう一度笑顔を見せ、一人先に宿の中へと戻っていってしまった。
乱馬にしてみれば「ここから」が大事なのであるが、あかねにしてみれば、「地面にへたり込むほど疲れている乱馬を、早く休ませてやりたい」と考えていたのだ。
唇には恥ずかしくて自分から出来ないけれど、頬にはキスが出来るほど気持ちがあるというのにも拘らず、どこかズレている二人である。
「・・・」
あかねが帰ってしまった後、それからしばらくの間、乱馬は未だに感触の残る頬の余韻を味わいながら地面に座り込んでいた。
「・・・ちぇっ」
本当は自分が、もっと別の場所に同じことをしたかったんだけどなあ。せっかくのチャンスだったのに・・・と少し悔やみつつも、それでもキスをされたことは嬉しいわけで。
「・・・顔洗うとき、ここは避けて洗おう」
乱馬はそんな事をぶつぶつと呟きながら地面から立ち上がり、そして自分も部屋へと戻った。
折りしも、山の端にかかっていた月はその姿を隠し、代わりに東の方角からは白々とした柔らかい光が薄暗い闇を染め始めていた。
木へ、大地へ、建物へ、そして・・・乱馬の服の袖に隠れた赤いブレスレットまで。
その光は優しく降り注ぎ・・・そしてスルスルと全てを包むように広がっていった。

・・・こうして。
「いやあ、安心したわー、もう一時はどうなることかと思った」
「・・・おい」
「何や?良牙」
「なんでお前が俺達と一緒に旅をしているんだよ!」
「ええやん。仲間は多いほうが絶対便利やで?それにうち、料理人でもあるし食事には困らへんよ」
「そ、それはそうかもしれないけどっ・・・」
「それに、まさか乱ちゃんが、うちらの国の王子様やったとはねえ・・・ますます、魅力的やん」
商業都市ヒルダと、ヒルダ近隣を巻き込んだ市場危機は、カードの回収劇と共に解決し、それを依頼した商人の少女・右京も半ば強引に、乱馬たちと旅を共にすることとなった。
「乱馬は、私の婿になる運命ね!後から出てきて、生意気あるな!」
「何言うてんねん!結婚する相手が出会った順に決まるなんて誰が決めたん?うち、負けへんよ!」
ただ、右京が乱馬目当てで旅をすることも一同はほぼ分かりきっていることなので、シャンプーも、そしてシャンプーに惚れているムースも静かではいられないのは明白。
「あー、落ち着いて旅が出来ねえもんかな」
そんな事を言いながら、騒がしい一同を遠巻きに見つつ乱馬があかねにさりげなく触れようとするも、
「このバカ王子っ。ちょっと目を離したらすぐ、あかねさんに近づきやがって!汚らわしい手でさわんじゃねえ!」
「何をー!?てめえこそ、そのいやらしい目つきであかねを見るなっ」
「乱ちゃん、触りたいならうちを存分にさわりい!」
「乱馬に近寄る、許さないね!」
「シャンプー!おらのシャンプー!乱馬など放っておいて、おらと幸せになるだー!」
・・・
結局は全員で大騒ぎになり、道を進むのもままならない。
「・・・」
あかねはやれやれ、と一人ため息をつくと、とりあえず今後自分達が進むルートや予定を確認する。
これから一向は、改めて商業都市ヒルダへと向かう。
まずはそこで、今回関わり病状を回復させたリエンと話をする予定としている。
その後は、数日ヒルダにとどまって、状況を見て進路を決める。
今後のカードの点在情報などは、ヒルダの町で収集することも可能だろう。大きな港もあり、各大陸への玄関口でもあるヒルダならば、今後の旅の計画も立てやすい。
そして・・・
「・・・」
その町に滞在している間に、あかねもコロンと、また連絡を取るつもりでいた。その他、色々としたいことも、ある。
・・・一晩冷静になって考えても、例の「白い光」の理由は分からなかった。
わからない以上は、分かるものに聞く以外他、ない。
実は、ムースもシャンプーも同じことを考えていたわけだが、とりあえず今はヒルダの町へと向かい、リエンの話を聞くことに専念しよう。
あかねは、騒がしい一同をなんとかなだめながら前へと進ませつつ、そう考えていた。

・・・と、
ここで話が終るのならば、この先の旅路はまだ、それなりに穏やかに進むのだろうかと、思われる。

が、実際・・・この旅は、すでに乱馬達だけの意思や、希望だけでは済まなくなっている状況へと変化していた。
騒がしくヒルダへ続く道を進む一行を、上から見下ろしている者がいた。
道々に生える大木の、その内の一本。
青い空までも覆い隠してしまいそうな豊富な葉を茂らす木の、とある枝の上。
一羽の鳥を肩に乗せ、先へと進む乱馬たちをただ、ただじっと見つめて座っている人物がいる。
厚ぼったい黒い布に、頭からすっぽりと身を包んでいる。
背は、乱馬と同じくらい・・・いや、もう少し高いだろうか。割とがっしりとしたシルエットが、その人物の居る枝から傍の木の幹へと投射されていた。
布のせいで正確な体のラインは伺うことは出来ないが、間違いなくそのシルエットはその人物が男性であることを表していた。
と、
「ギイ・・・ギイッ・・・ギイッ」
男の肩に乗せていた鳥が、不気味な声を立てて鳴いた。
まるで、何かを男に語りかけているようだ。
「・・・あれが、そうか」
男は、その鳥の鳴き声を聞きながらそんな事を呟く。どうやら本当に、その鳥と会話でも交わしているようだ。
「・・・カードを集める王子と、そして・・・不思議な光を放った女」
男はそう呟いて、ニイ・・・と唇を左右に吊り上げて静かに笑った。
その静かで、でも冷たい微笑みに、ザワザワ・・・と風もないのに木の葉が揺れ始める。
男の笑みには、いやその言葉には、穏やかな大地をも一瞬で恐怖に慄かせる力が宿っているとでも言うのだろうか。
「今後も、私に報告をするのだぞ・・・よいな?」
「ギイ・・・」
男は、肩に乗せている鳥にゆっくりとそう語りかけ、指をスッ・・・と前方へと差し出した。
鳥は、その仕草を何らかの合図と受け取ったのか、バサ、バサ・・・とゆっくりとその羽を羽ばたかせて、空へと舞い上がった。
そして、乱馬たちが進んでいく方向へとゆっくり進路を取り、飛んでいく。
・・・そう。
この鳥は、リエンが謎の光を受けて息を吹き返した後、乱馬たちがリエンをタンかに乗せ運んでいた時に傍を飛んでいた鳥である。
あの時あの鳥は、偶然あの場に居たわけではない。
とある者・・・そう、この不気味なこの男の命を受けて、ことの一連を監視し見守っていたのである。
「生命の息吹を与える光を放ったとでも言うのか・・・」
その鳥に一連の報告を受けたこの男は、実際にどのような者達がそれに関わったのか確認すべく、こうしてその鳥と共に乱馬たちの姿を覗いていたのである。
男には、例の白い光の正体に心当たりがあった。
「・・・もしも、その光が私の思うところのものならば・・・これは面白い」
もしも光の正体が自分の考えているものと同じだというのならば、まずはカードよりもあの女を、手に入れた方がこちらとしては都合がよくなるだろう。
それにあの女、外見の美しさも我が后になるには問題がないレベルだ・・・男は、そんな事を考えていた。
光の正体について確信を持つためには、今後の報告を待たないとなんともいえないが、これは予想外の展開になった。
「くくく・・・」
男は吊り上げた唇から不気味な笑い声を洩らすと、身にまとっている布を一度だけバサッと翻すように広げた。
バサササササッ
それと同時に、大木が生い茂らせていた葉が無数、宙へと舞い上がった。
その舞い上がった葉は、男の姿を一瞬で覆った。
やがてその葉はヒラリ、ヒラリと地面へと落ちていくのだが、全ての葉が地面に落ちた時、男の姿は元居た場所にはなかった。

葉と共に姿を消したこの男の名は・・・ラヴィ。
そう、コロンがムースへと伝言を託した時に名が出た、乱馬以外にカードを集めているという暗黒魔導士である。
彼も、カードのありかを世界中探し回っていたのだが、
ここにきてようやく、自分以外にカードを複数持つ人物をしっかりとその目で確認したこと、
そして・・・カードと同じぐらい興味深い「光」を放つ娘を見つけたことを喜んでいた。
今回、密かに目をつけていた「隠者」のカードは乱馬に回収されてしまったが、それ以上の情報を収集することが出来た。
カードは、乱馬がもっと多くのカードを回収した後に彼を殺してでも、回収すれば良い。
それにもしもあの娘・・・娘が、自分が考えたとおりの「光」を放つ娘だとしたら、カードを全て手に入れるよりも早く、自分の手元に置いておいた方が、色々と都合も良いし後々の為にもなる。
ラヴィはそんな事を考え始めていたのである。
・・・

あかねの放ったあの「光」は何だったのか?
ただの偶然なのか、それとも残り少ない「時間」に比例したものなのか?
それとも、シャンプーやムースが想像した特殊な光なのか・・・もしくは、このラヴィが考えているようなものなのか。
その真相がこの後ヒルダの町で明らかになることを、この時点ではまだ、あかねは知る由もない。


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