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暁の約束2

旅商人の少女・右京の部屋についた一行は、思い思いに腰掛けた。
右京は特に大きな荷物を持っているわけでもなく、商人には珍しく取り扱っている商品とやらも見当たらない。
「ねえ、商人なんでしょ?何で品物がないの?」
何だか妖しいなと感じたあかねが右京に尋ねると、
「せやから、それが問題やってん」
「え?」
「まあ、順を追って話すよって。とりあえずほら、これでも飲み」
右京はそう言って、一行にお茶を入れてくれた。
何だか上手く話を誤魔化されたような気もしないでもないのだか、空腹と同様に喉も渇いていた。
一行は素直に言葉に甘えてその茶を味わった。
と。
「あんたたち、旅人って言ってたけど・・・どっからきてるん?」
椅子には座っているものの、その椅子の上に胡座をかき腰をおろしている右京。
右京はぐびぐびとお茶を飲みながら、隣に腰を下ろしてお茶を飲んでいたあかねに尋ねた。
「えっと、あたし達はセルラ大陸から・・・」
まだ完全に信用しきっていないので、全てを教えるわけにも行かない。
けれど、出身大陸くらいは教えても大丈夫だろう。あかねがそんなことを思いながらそう答えると、
「あ、偶然やん。うちも、セルラ大陸からきたんやよ」
何と右京が、そんな風に答えた。
「え、そうなの?」
大陸も違うこの町で、まさか同じ大陸出身のものに会うとは。
同じセルラ大陸でも、東と西では随分と町の風体も違う。右京は、どちらかと言えばあかね達の住んでいる西側とは逆の地域出身なのか。
着ている衣類も、武器のようなものも、珍しい物だ。きっとそうに違いない・・・あかねがそんなことを思い、
「セルラ大陸のどの辺りなの?」
と右京に尋ねると、
「セルラのな、ティルトンって国なんよ。知ってる?」
右京は、笑顔でそう答えた。その答えに、あかねも、そして他の面々も思わず固まってしまう。
「あ、そ、そう・・・ティルトン出身なの・・・」
あかねは必死に場を取り繕うべくそう答えるが、何だか妙にドキドキしていた。
・・・右京が口に出した「ティルトン」という国。
そう、何を隠そうその「ティルトン」という国は、乱馬やあかねが暮らしていた国だ。
更に言うなれば、そこの国王の息子が、乱馬なのである。
すっかり「バカ王子」で定着している乱馬ではあるが、一応彼の正式名称は、

Ranma thyruton el Windysir Saotome


フルネームにはティルトン、と国の名前も入っているわけで、外部からは「Prince of Thyruton」ティルトンの王子様と呼ばれる事もあるのだ。
「・・・」
まさかここで、ティルトンの町の名前を聞くとは。一行は思わず顔を見合わせる。
もちろん右京はそんな事は知らないので、
「ティルトンの国はとりあえず平和ねんけど、それでも最近、物騒な事も多くてなあ。
人々やて、もう少し楽な暮らしが出来たらええなあ、って思ってるんよ」
「へ、へー・・・」
「ティルトンの王様、他に比べてのんびりしてるって話やし、もっとがんばってもらわなあかんね」
まさか目の前に、その国王の息子がいると知らないで、国に対する不満を次から次へと口にする。
「す、すみません・・・」
目の前で父の国勢について不満を言われると、腹が立つというより申し訳ない気分で一杯になる。
普段は「クソオヤジ」と悪態ばかりついているが、さすがの乱馬も人の子だ。
乱馬は思わず、右京に頭を下げる。
「?何であんたが謝るん?」
勿論右京にしてみれば、国の不満を口にして、乱馬に謝られるいわれは無い。
「あ、いえその・・・」
「悪いのは、王様やろ。それに、滅多に表にはでてきいへんみたいやけど、王子もいるみたいやし。
王様がのんびりしている分、その王子には頑張ってもらわんとあかねんね」
「す、すみません・・・」
「だから、何であんたが謝るん?」
それでも何度も謝る乱馬に、右京は首をかしげている。
しかし、ここで乱馬の正体をばらしてしまうと・・・何だか厄介な事にはなりそうな予感がする。
「あ、この人、気が優しいから何に対しても謝っちゃうのよ。気にしないで」
あかねは乱馬を庇うようにしてそう言葉を被せると、
「ねえ、あたし達の自己紹介、していなかったわね」
「ああ、そう言えばそうやね」
「あたしは、あかね。今右京に謝っていたのが、乱馬。そして・・・」
「俺は、良牙だ」
「私はシャンプーある。こっちはムースある」
それぞれが右京に、自己紹介をした。
「よろしゅう」
右京は皆にそれぞれ頭を下げると、一人一人に握手を求めた。
まずは乱馬、良牙、シャンプー、ムース。
そして最後に、隣に座っていた、あかね。
「よろしゅう、あかねちゃん。向うの髪の長い人もせやけど、あんたも、えらいべっぴんさんやね」
「そ、そんなこと・・・」
「謙遜せんでもええよ」
右京はそう言って、あかねに手を差し出す。
「いいえ・・・こちらこそ宜しく」
あかねはそう言って右京の差し出した手を取ろうとしたが、
フっ・・・
あかねはその右京の手を、とり損ねた。
「?」
握手をするために手を差し出したのに、あかねはまんまとその手をとれず、お互いの手がすれ違う。
「どうしたん?面白い子やね、あかねちゃんは」
右京は、すれ違ったあかねの手を笑いながら取り握る。
「あ、ご、ごめん・・・えへへへ・・・」
「冗談が好きなんて、可愛い顔に似合わへんなあ」
「そ、そうかな」
あかねは、しどろもどろに笑いながら、右京と握手をし手を離す。
しかし、顔は笑っていても、あかねの心中は複雑だった。
・・・右京は「冗談で手を外した」と笑っていたけれど、本当は手、取り損なうつもりはなかったのだ。
あかねはきっちりと右京の手を取ったつもりだった。
それなのに、外れた・・・そう、視界が急にぶれたのだ。
「・・・」
どうしよう、今、皆に変な風に思われなかったかな・・・。あかねは、ドキドキと胸を鼓動させながら焦りを感じていた。
と。
「こいつ、ドジなんだよ。うっちゃんも迷惑かけられないように気をつけてな」
そんなあかねの頭をぽんぽんと叩きながら、乱馬が茶々を入れてきた。
「余計なお世話よっ」
「しかも、うけねえ冗談をよく思いつくもんだぜ」
「あんたには関係ないでしょっ」
あかねが乱馬に「いーっ」と顔をしかめて見せてやり、乱馬はそんなあかねを「べろべろばー」っとからかっては遊んでいる。
乱馬の悪態は腹が立つが、でもそのおかげで場の雰囲気が元に戻ったし、あかねが手を取り損ねたこともさっと流れてしまった。あかねは心の中でほっとため息をつく。
「・・・なんや、二人は仲良しさんやなあ」
そんなあかね達を見ながら、右京がにこやかに微笑んだ。
「別に、仲良くなんて・・・」
あかねが慌てて右京に否定をすると、
「ま、交流は後でも出来るよって・・・そろそろ、うちの方の事情、話してもええかな?」
本来の目的を思い出したのか。右京が不意にそう切り出した。
そう、この部屋にこうして皆で集まったのは、別に右京と友達になるためなのでは無い。
右京の抱える事情を聞くためだったのだ。その前座の、自己紹介をしていただけだ。
「あ、そ、そうだったわね・・・」
乱馬と喧嘩をしている内に、危うく本題を忘れるところだった。
あかねは最後に乱馬の足をかかとでぎゅるりと踏みつけてから、「じゃあ詳しく話して」と右京にねだった。
「・・・うちは普段、セルラ大陸のティルトン城下で、食堂を営んでるんよ」
右京はコホン、と一度咳払いをすると、本題に入るべくゆっくりと、自分の抱えている事情や身の上をあかね達に話して聞かせた。

・・・話によると右京は、ティルトン城下で食堂を営んでいるという。
両親は早くに亡くしているので、食堂の従業員と二人三脚で、店を切り盛りしてきた。
店で使う食材は、付近の店が仕入れているセルラの市場ではなく、わざわざ船でレイディア大陸まで渡り、その代表的な商業都市であるヒルダまでやってきて、仕入れることにしていた。
その方が、値段も安いし割りと良質の物が手に入るらしいのだ。
ヒルダへは、T&Kアイランドを経由しこの山村を通り、到達する。
ティルトンからヒルダまで急いでも四日かかる。仕入れをしてティルトンへと戻れば、約十日。
月の三分の一は、旅をしている算段になる。帰ってきても、仕入れや店番で忙しく、外で遊ぶ事など殆ど無いそうだ。



「そうか、だからこいつと町で会う事が無かったのか」
右京に気付かれないように、良牙が呟いた。なるほど、とその横でシャンプーやムースもうなずいている。
「同じ年なのに、苦労しているのね・・・」
「な」
乱馬とあかねも、そんなことを呟いてしまった。



・・・今回も右京は、店の品物を仕入れるべく、ヒルダの街へと向かった。
ところが、いつも品物を仕入れている市場が閉鎖されている。
「今日は休みなのか?」
そう思って数日ヒルダの街に宿泊してみても、いつまでたっても市場が開く事が無い。
「なあ、市場はどうしたん?」
理由も無く閉鎖されているのはおかしい・・・と、右京は近くの商人を捕まえて事情を聞いてみた。
すると、
「市場の商品は皆、あるお方に買われてしまったよ。たとえ品物が残っていたとしても、我々貧乏人にはどうにも手出しが出来ない」
商人はそう言って、嘆いていた。
一体どういうことだろうか。
気になった右京はそのまましばらく街をうろつき、市場について調べてみた。
するとどうやら・・・成金の大商人が急にヒルダに現れて、市場を買い占めてしまったらしい。
ヒルダは、ヒルダの中で商品の流通を保っている。
今回のように一人の商人が品物を買い占めてしまうと、街の流通自体がストップしてしまうのだ。
おかげで、レイディア大陸の中でも一二を争う商業都市のヒルダであるはずなのに、
宿屋は宿泊客に食事出せない。
食堂は全て閉鎖。
食料品店も全て閉鎖。
酒場だって、酒が無くなり経営は出来なくクローズ。
唯一、ヒルダの港から漁に出た船が捕ってくる魚介類がヒルダの生命線になるのだが、
それも量が限られていて、全ての人々が手にするのには十分では無い。
「こんなの、あかん!これでは商売どころか、皆死んでまうわ!」
状況を見かねた右京が、その大商人とやらに文句をいってやろうと屋敷へと近づくが、
魔物のような兵が門の前に立っていて、近寄る事すら出来なかった。
とりあえずは作戦を立てよう・・・と一旦ヒルダから出てこの村まで引き返しては見たが、この村もヒルダを市場に持つ村だ。ヒルダの町のように、食料品店も宿屋も酒場も、見てのとおりの有様だった。




「T&Kアイランドのように、レイディア港が近ければそちらの市場からすぐに品物をいいれればええねん。
でも、ここら辺りまで来ると、物価も違うしなかなかそうもあかんねん。それに、ヒルダが今ああいう事になってしまっているから、一時的にレイディアの物価が上がっていて、商売人さんたちは手が出せんのよ」
「そうだったの・・・」
「でも、こんな状態を長引かせるわけにはあかん。うちかてこのまま、ティルトンには帰れへんよ。
うちの場合は、最悪品物は、妥協してレイディア港やセルラの玄関口であるウォータークールの町で仕入れればええ。
でも、うちはヒルダの商人やここのおかみさんのこと、大好きやねん。見捨てては行けへん・・・」
・・・一通り事情を説明した右京が、そう言って会話を閉めた。
もしかしたら彼女は、責任感が強いのかもしれない。
いや、責任感というか面倒見がいいというのか。
自分のためでもあるが誰かの為に、こんな無謀な計画を立てようとしている右京が、あかねには何だかとても愛しく見えた。
「・・・で?俺達に、その市場を買い占めている大商人を懲らしめて欲しいって事か?」
と。
一通り話を聞いていた良牙が、右京に尋ねた。
右京は「いいや」と首を左右に振り、
「懲らしめるなんて生ぬるい!商人や町人が味わった苦痛を、あわせてやらな気がすまん!」
と叫ぶと、「なあ!?あかねちゃん」とあかねに話題を振ってきた。
「あ、え、えっと・・・」
一体何と答えたらよいのか。あかねが言葉に困っていると、
「あんたら、腕がたつんやろ?なあ、頼む、うちに協力してや」
「うーんの・・・でも、あまり手荒な真似は・・・」
・・・さすがに、命を奪うような手荒な事は、乱馬達も出来ない。
右京の気持ちはわかるが、そうそう期待しているような手伝いはできそうもないなの・・・一同は思わずお互いの顔を見合わせてそんなことを目で合図し合うが、
「だったら、これはどうや?その商人の一番の宝をうちらで、盗む。そしたらそいつにも、精神的な痛手になるやろ?」
「宝?」
「そうや。うちは骨董品の価値はよう分らんけど、なんや古の有名な「カード」を持ってるらしいで」
・・・右京のその言葉に、はっと、息を飲んだ。
古の、有名なカード。乱馬達にとってはかなり身近なその言葉に、一同は色めき立つ。
まさか、またこんなところでカードを入手する機会に恵まれるとは。
カードが導く不思議な運命に、背筋に冷たいものが走りぬける。
「ねえ、その大商人が持っているカードの絵柄とかの・・・わかるかしら」
流行る気持ちを抑えて、あかねが代表して右京に問うと、
「うちは直接見たわけじゃないけど、商人仲間のおっちゃんの話だと、黒い布をかぶってランプかなんかを持っている人物が描かれてたって。不気味な絵柄だって、思ったらしいで」
右京は記憶を辿るように、そのカードの絵柄についての情報を一同に伝えた。
「・・・恐らく、隠者のカードある」
と。シャンプーが、乱馬の耳元にこっそりとそう囁いた。
隠者(THE HERMIT)。それは、カードのナンバーで言うと「\」を司るカードだ。
四大要素属性で言うと、「土」。大地の属性の保護を受けている。
隠者は、その名の通り世間から遠ざかったもの。または、錬金術師の姿を描かれているとも言われている。
本来ならば、隠遁者らしく穏かで、物欲も無く秩序を愛す性質を持つカードのはずなのだが、
それが一度姿を帰れば、強欲で秩序を乱す反乱者となるのだ。
大商人が市場と保たれた秩序を乱し、己のよくのために品物を買い占め人々を苦しめている姿を想像すると、
明らかにカードの魔力に取り込まれて悪影響を及ぼしているとしか思えない。
・・・
全く持って、恐ろしいくらいにカードは己の主人を見出す物だ。
カードは、人を選ぶ。改めてそれを思い知り一同は背筋に冷たいものさえも感じていた。
「・・・実はな、明日、その大商人がヒルダの中の屋敷でパーティを開くって情報を掴んだんよ」
右京は、カードで色めき立っている一同に向かって、そう言った。
「警備も物々しいその屋敷に堂々と忍び込むには、そう言うパーティ系に紛れるが一番やろ?
うちは、商人兼料理人や。せやから、そこの厨房に料理人として忍び込んで、料理に毒でも混ぜてやろうと思って」
「ど、毒・・・うっちゃん、せめて眠り薬くらいにしねえか?」
「そお?」
「うっちゃんと・・・そうだな、シャンプーが屋敷に先に忍び込んで、料理に眠り薬を混ぜる。
他のメンバーは招待客に変装して会場に紛れ込み、機会を待つ、と」
「皆が眠ったのを見計らって、行動をおこすっちゅうこと?」
「ああ。皆はどう思う?」
乱馬は明日の作戦をとりあえず組み立てて皆に同意を求める。
「まあ、それが妥当だろうな」
良牙は、すぐに賛成した。
「私も厨房にいくあるか・・・ま、仕方ないあるな」
シャンプーも、特に異論は無いようだ。
「おらも異論はねえだ」
ムースも、特に異論は無いらしい。
残るはあかねだけなのだが、
「・・・」
・・・なんで自分も一緒に厨房に忍び込めないのか。
シャンプーには協力を要請しておいて、何で自分にはしないのか。
実はあかね、作戦自体は問題ないとは思っているが、それだけが気に食わなかった。
あかねとしてみれば、同性の二人が厨房に忍び込むのにどうして自分だけ・・・と不服でならないが、
ここで忘れてはいけない。
あかねは、異常な料理オンチであるのだ。
確かにあかねの作った料理を食べさせれば、薬いらずで相手を眠らせることも可能かもしれないが、
そんな料理は作っている段階で、周りの人間に気付かれてしまうはずだ。
なんせあかねの料理、気が遠くなるほどのまずさである。
確かにあかねは姿かたちは可愛いし、心も優しく、少々ガサツでも補ってしまう物を持ってはいるが、
・・・天は、ニブツを与えなかった。さすがの乱馬も、愛だけではあかねの料理を援護することが出来なかった。
旅の間のキャンプでは、事情を知っている良牙と乱馬が、さりげなくあかねに料理を作らせないようにサポートしていた事は、実は乱馬と、良牙の間だけの秘密である。
・・・
ということもあり、ここは、無難にあかねには我慢してもらうのが一番適策なのである。
「とにかく。明日の朝、シャンプーはうっちゃんと一緒に料理人としてその屋敷に忍び込んでくれ。
パーティーが始まる頃、俺に魔法でアクセスできるツールかなんかを、今晩中に用意してくれよ」
「了解ね!」
乱馬がシャンプーに指示をすると、
「では明日の朝、七時に部屋にくるある」
「わかった。よろしゅうな、シャンプー」
「あいやー、私、今晩は大忙しあるな。魔法道具、作るある」
シャンプーは皆より先に右京の部屋を出て、自分の部屋へと戻っていった。
先ほどの乱馬の指示どおりに、今晩中に明日の作戦で使う魔法道具の準備をするのだろう。
場合によってはコロンにも指示を仰がなくてはいけないので、かなり時間はかかりそうだ。
「・・・それじゃあ俺は、近くの森にでも行って魔物でも狩ってくるか。食料、ねえんだろ?この村」
そうこうしている内に、今度は良牙がそんなことを呟きながら部屋を出た。
「じゃあおらは、明日の為に武器防具の手入れでもするかの」
続いてムースも、部屋の外に出る。
「そ、それじゃあ俺達もそろそろ。じゃあな、うっちゃん」
「また明日なあ、二人とも」
「・・・」
乱馬とあかねも、そのまま右京の部屋から退出した。
「・・・」
部屋から出た二人・・・というか、先ほどの件で機嫌が悪いあかねが乱馬をじっとりとした瞳で睨むと、
「し、しかたねえだろ。必要以上に、相手にダメージを与えても、だなあ・・・」
「何であたしの料理が、人にダメージを与えるのよっ」
「何でって・・・」
自覚、ねえのか?といった表情で乱馬はあかねを見る。
「くっ・・・人を馬鹿にして!」
あかねはそんな乱馬を拳でゴスっと殴り倒すと、
「いいわよ、もう!明日は乱馬達と一緒に屋敷に忍びこめばいいんでしょっ」
何よ、もう!とぶちぶちとぼやきながら、自分も部屋に戻ろうと乱馬に背を向けた。
・・・と。



「なあ、ちょっと話があるんだ」



背を向けたあかねに、乱馬がなにやら改まった声で声をかけた。
「何よ。今更あたしにも厨房に行けって言ったって、機嫌なんて直してあげないんだからねっ」
あかねがちらりと乱馬のほうを振り返りながらそう言うと、
「そうじゃねえよ」
それは絶対に言わねえ。乱馬は、すでに床から起き上がって殴られた頭をさすりながら、あかねに答える。
「じゃあ、何よ」
「うん・・・」
あかねがもう一度乱馬に問うも、先ほどまでとは違って、乱馬は何だか歯切れが悪い。
「何よ、どもっちゃって。柄にも無いわね」
どうしたのよ?と、あかねは乱馬へ歩み寄り尋ねた。
すると乱馬は、一瞬あかねの顔を見つめたまま何かを考えていたようだったが、決心をしたのか、
「・・・」
あかねに話し掛ける前に一度、大きく深呼吸をした。
そして、
「俺から話、というより、俺たちの、話かな」
といって、あかねの手を取り、自分の部屋へとあかねを連れて行き、扉を閉めた。
「俺たち・・・?」
乱馬に話があると部屋に連れ込まれたのも少し驚いたが、 いやそれよりも「俺達の話」とは何だろうか。
あかねが乱馬に問うと、
「・・・なあ」
「なあに?」
「お前、俺に何か隠してないか?」
「・・・え?」
「その…何か最近様子が変だし」
乱馬は、あかねに対していきなり確信をつく質問を、突きつけた。
それも、「あのさー、俺思うんだけどー・・・」のように軽い感じの質問ではなく、
珍しくキリリと顔を整えて、真っ直ぐな瞳であかねを見つめている。
・・・本気で、この質問を投げかけているんだ、乱馬は。
あかねは瞬時にそれを読み取り、気付かれないように一瞬身を竦めた。
「・・・ないわよ、そんなの。あるわけないじゃない」
しかし。だからといって、自分の抱えている「事情」を、乱馬に話すわけにはいかない。
「俺達の話っていうから何かと思えば・・・。気のせいよ、乱馬の気のせい」
あかねは、わざと強気で陽気なフリをして、乱馬を安心させるかのように笑いながらそう答えた。
が、
「体調・・・」
「え?」
「体調、悪いんじゃねえのか?俺たちと違って、旅に慣れているわけでもないし」
「そ、そんなこと・・・」
「さっきだって、疲れて頭がボーっとしていて握手、し損ねたんだろ」
乱馬はあかねのそんなフェイクなどもろともせずに、更に質問を続ける。
そう、コロンも言っていた通り、乱馬はあかねを誰よりも気に掛けて見ているのだ。
なぜ体調が悪いのか、本当は身体のどこが悪いのか・・・はまだ分からないにしろ、 「あかねの具合が悪い」もしくは「あかねの様子がおかしい」事ぐらい、とっくに気が付いているのだ。
先ほどの事だって、そうだ。
右京の部屋では、「わざと笑いを狙ってあんな事をした」などとど乱馬は皆の前でいっていたが、 実はそれがそうでは無いことくらい、乱馬とてわかっていたのだ。
ただそれが、「疲れていたから」ではなく、視力が衰えて視界が翳んだ為に起こった事だとは分からなかったとしても・・・。
・・・
「…」
…言えない。言える訳が、ない。
「昨日の夜、あまり良く眠れなかったの。それだけよ。いつものことじゃないわ」
今夜ちゃんと眠れば、全然平気よ…あかねは乱馬をとにかく安心させようと、わざと明るく振舞って笑って見せたが、
「…」
そんなあかねをじっと見つめていた乱馬は、何も言わずにあかねへと腕を伸ばした。
・・・ふわり。
その直後、あかねを何か暖かいものが包み込んだ。
背中に感じる柔らかい感覚。少しかすんだ視界に移る、黒い影。
あかねの細くて華奢な身体を、一瞬で包み込む大きな身体。
鼓動する胸に比例するが如く揺れた、、おさげ髪。ふわっ・・・と香る、爽やかだけれどどこか高貴な、香。
・・・
「あ…な、何よ急に・・・」
・・・今まで、あかねがお願いして抱きしめてもらった事はあった。
「男避け」として、一瞬だけ乱馬があかねを抱きしめた事もあった。
でも、こんな風にしっかりと、それも瞬きするよりもずっとずっと長い時間、抱きしめられた事は無い。
許婚という関係だけれど、普段そう言うことををされる機会が殆ど無いため、あかねは戸惑ってしまった。
嫌なのではない。
そう、決して嫌では無いけれど、何だかなれていないせいか彼の胸の中が居心地が悪い。
・・・
「・・・あ、あの・・・」
あかねは、乱馬の身体を押し返そうと、竦む身体を振り絞るようにして声を出した。
と。
「・・・なあ」
「な、何?」
「俺はさ・・・その、もうそのつもりだから」
「そのつもりって?」
「・・・体を酷使してまで一緒に居なきゃ、気持ちが離れちまうって程、やわな気持ちでいないって事」
「気持ち・・・?乱馬?一体何を・・・」
「・・・俺は、旅が終わったら結婚するつもりだって、決めているって事」
「っ・・・」
あかねがその言葉に反応して、びくりと身を竦めると、
「・・・だから。旅の初めに言っていたみたいにさ、お前が俺のことを結婚するに相応しいって思ってくれたその瞬間から、もう結婚してもいいって事」
「乱馬・・・」
「俺の気持ちは、変らない」
乱馬はそう言って、あかねの身体をそっと離した。
「・・・」
あかねは、目の前の乱馬の顔を直視できなかった。
「お前が好きだ」という言葉を直接口に出して言われたわけでは無いけれど、結婚するつもりだという事はそれと同じ事だ。
その言葉は、あかねにとってはとても嬉しい事だ。でも同時に残酷なものでも・・・あった。
「だから・・・もしもお前が、俺と一緒に旅をしていないと俺の気持ちがわからない、不安だって言うのなら・・・そんなことねえって、伝えたかった」
「乱馬・・・」
「俺だってお前と一緒にいたいけど、でもこんな風に身体を酷使して疲れてボロボロになっても一緒にいるというのなら、それは、賛成できねえよ」
乱馬は、顔を背けているあかねの顔に手を添え、自分の方を向けさせる。
「あ、あたしは無理なんて・・・」
・・・ドキドキ、していた。
もちろん、乱馬にこんな風に顔を触れられたり話かけられていることにも、ドキドキしていた。
でもそれ以上に、
これ以上乱馬にこんな風に優しく、そして温かい言葉を投げられつづけたら、全てを話しそうな自分が恐ろしくて、ドキドキしていた。
「あたしは・・・」
・・・きっと乱馬に、あかねの抱えている全てのことを話してしまったら、
「冗談じゃねえ!こんな旅、やってられるか!」
王位継承のために始めたカード集めの旅も、きっと彼は投げ出してしまうだろう。
もしもあかねが療養するとしても、全てを投げ捨てて側にいようとするかもしれない。



でも、それではダメなのだ。



彼は、バカでもなんでも一国の王子。
大きな未来を担う、非常に大切な人物だ。
彼の為に、最後までありたい。そう思っているのに、これでは単なるお荷物になってしまう。
・・・決して、全てをまだ、話してはいけない。
あかねが乱馬の目の前を去るその瞬間まで、決して何も悟られてはいけないのだ。



「あたしは、疲れてなんてない」
「あかね・・・」
「ねえ、乱馬。乱馬は気にしすぎだわ。それに、あたしが疲れているって事は、乱馬や良牙君やシャンプーだって、疲れているって事でしょ?
あたしのは本当に寝不足、なの。だから、眠ればすぐに回復するわ。本当よ?」
あかねは心にしっかりと信念を持ち、再び乱馬に笑って見せた。
「あかね・・・」
乱馬は、あかねの真意を確かめるかのようにじっと、瞳を見つめる。
その強く優しい瞳に、あかねの心の奥に隠した弱さが吸い込まれそうな錯覚に陥るが、
「この旅に着いていくって決めたのは、他の誰に言われてでもない、あたし自身よ。だから、退路もあたしが自分で決める」
あかねは、乱馬の瞳をしっかりと見つめ返しながらそう言った。
「・・・本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫よ」
「…」
あかねの「大丈夫」に、乱馬はまだ不安そうな顔をしていたが、あかねの見た目は揺るがない笑顔に、もうそれ以上は何も言う事は無かった。
「…体調が悪いことがあったらすぐ言えよ」
「うん。ありがとう、心配してくれて。でも本当に大丈夫だから」
「ああ」
あかねが最後にそう付け加えると、乱馬は「絶対だぞ」と言いながら、あかねの髪を、撫でた。
あかねはそのくすぐったい感覚にびくんと身体を竦めた。
そして、
「あたし、部屋に戻るね」
「ああ。ゆっくり休めよ」
「うん」
乱馬に一応は部屋に送られて自分の部屋へと戻ってきたのだが、
・・・バタン。
乱馬があかねを送り、そして再び自分の部屋へと戻ったのを確認した後、あかねは部屋に内側から鍵をかけた。
そして、その直後、がくん・・・と床にへたり込んだ。
「・・・」
・・・体が、震えていた。
乱馬に、ばれてしまうかと思って必死に演技をした。
いきなり、抱きしめられた。
色々な事が頭をよぎった。
でも一番心が震えたのは、


・・・乱馬に、嘘をついた。


そのことが、あかねの心に大きな影を落としていた。
本当は全てを話してしまいたい。でもそれをしたらこの先、どうなってしまうのか。
・・・
うすうすおかしいと思い始めている乱馬を、
自分の気持ちを真っ直ぐにぶつけてきてくれる彼を。自分は欺いた。
一度ついてしまったこの嘘は、もう取り消す事が出来ない。
真正面からぶつけてくれたその気持ちに、嘘をつきつづけることになる。
一体、どうしたらいいのか。
果たしてこのまま、彼を欺きつづける事が出来るのか・・・。
あかねは複雑な胸中に耐え切れず、唇を噛んだ。
知らず知らず、涙がぼろっと瞳から零れ落ちる。
重々しいモヤが、あかねの心に暗い影を落としていた。


・・・そんなあかねの部屋の外では、背中まである黒い髪を微かに靡かせ、一人の青年が様子を伺っていた。
乱馬とは違って、長い髪は結いもせずそのまま真っ直ぐに背中へと降りている。
端正な顔を崩さず天を仰ぎ、中の様子を伺っている青年は・・・そう、ムースだ。
乱馬が部屋から出るときは、ばれないようにドアの影へと身を隠した、ムース。
実は、乱馬とあかねが交わしていた会話を一部始終聞いていたのだ。
「・・・やれやれ。合流したと同時にやっかいないことに関わりそうじゃの」
明日の作戦も、そして・・・この二人の事も。
ムースは部屋のドアの向うから聞こえるあかねの泣き声を背に、そんなことを呟きながら、ため息をついていた。


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