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暁の約束 1

「はあ?俺達を待っている奴がいる?」
「はい・・・確かに、セルラ大陸の王子様ご一行をお待ちだと・・・」
「変だな、俺達にはそんな奴がいるって報告は・・・」
「ともかく、お部屋も人数分お取りしておりますしお支払いも頂いておりますので・・・」

季節は、もうすぐ春を迎えようとしていた。
前方からの強い風が、薄紅色の小さな花びらを時折、歩を進める旅人達の前へと降らせている。
暖かくなると世界中のどの場所にも咲き始めるこの花を、遥か東方の国では「桜」と言うらしい。
道々ですれ違う旅人達が口にしているのを聞いているうちに、いつの間にかそんな知識を得ることが出来た。
その東方の国では、その桜を絵という形にして、直接肌に書き込んでいる役人が働いているらしい。
独特の、文化なのだろうか。それとも何か宗教的なものなのか。
・・・自分達の周りでは全く見ることのないこの文化に驚きつつも、旅というのは、本当に色々な事を得るために最適なものであると、思ざるをえない。
・・・
T&Kアイランドを出発した一行は、そんな桜の歓迎を受けながらも次なる目的地・ヒルダの街を目指していた。
ヒルダの街は、T&Kアイランドから一つ山を越えた所にある。
大急ぎであるならば、夜通し歩けば一日で到達できるだろう。
だが、男だけのパーティならともかく女も混じったパーティにそれは非常に酷な事。
それに、そこまでして急ぐ必要性もないと判断した一向は、
ヒルダとT&Kのちょうど中間点にあるこの山村で、とりあえず一泊取る事にしたのだった。
が。
「え?予約が入ってる?」
「はい」
・・・小さな山村のある宿に着いた一行を待っていたのは、宿屋のおかみの奇妙な出迎えであった。
宿屋に予約など入れるわけがない一行が尋ねても、おかみは「既に入金も頂いておりますし」とのこと。
そうやら、乱馬達がこの宿で一泊する事を分っていたようで、
「お部屋も人数分用意してございます」
「は、はあ・・・」
何から何まで受け入れ準備が万端で、逆に気味が悪くなる。
「なあ、大丈夫かここ?」
「何だか気味が悪いね」
「そうね・・・何だか話が上手すぎるわ」
人間というのは不思議な物で、親切にされればされるだけ疑い深くなるわけで。
自分達を待っているという人物に全く心当たりがない一行は、そんなことを話ながら眉をひそめるが、
「・・・でも、金を出してもらった以上は礼も言わないと。それに・・・」
「それに?」
「俺が王子だってことを知ってる人物なんて、そうそう多くは無いだろうし」
「!」
「もしかしたら、うちの国から来た誰かなのかも知れねえな」
とりあえず乱馬が代表して、その人物にあうべく部屋へと向かったのだった。
ところが・・・

「 ・・・誰だ?あんた」

軽くノックをして一人部屋に入った乱馬が、そんなことを呟いているのが部屋の外に聞こえた。
どうやら、乱馬はその人物に面識がないようだ。
「どうした、乱馬」
いつもは喧嘩ばかりしていても、こういうときは頼りになる。
それまでドアの外で待機していた良牙が今度は部屋の中に入るも、
「・・・誰だ?お前は」
今度は良牙が、乱馬と同じ台詞を呟いているのが聞こえた。どうやら、良牙もその人物に見覚えがないらしい。
「・・・二人が見覚えがないなんて、お城の人じゃないってこと?」
ドアの外であかねがそう呟くと、
「何だか気味悪いあるな・・・」
あかねの横でシャンプーが顔をしかめる。
しかし、このまま「お前誰だ?」という会話を続けているわけにもいかないので、
「仕方ないあるな。今度は私が・・・」
シャンプーが今度はそう言って中に入ろうとしたが、
「・・・じゃから!おらは別に妖しい者ではねえだ!」
・・・シャンプーがドアを開けようとした瞬間、中からそんな男性の叫び声が聞こえた。
妙なイントネーションのその話し方は、もちろん乱馬や良牙では無い。
意外に若い。もしかしたら同じくらいの年頃かもしれない・・・あかねはそう直感した。
「あら?今の声は中の人?」
あかねがそう呟いてふっとシャンプーを見ると、
「・・・」
何故か、シャンプーは眉間に皺を寄せてドアを睨みつけていた。
その表情は声が「気味が悪い」からというわけではなく、
その声を発している声の主自体に嫌悪感を抱いているとでも言うべきか。
「しゃ、シャンプー、どうしたの?」
あかねがシャンプーの豹変振りに驚き、慌てて声をかけると、
「・・・」
シャンプーはあかねには答えず、その険しい表情のままドアを、思いっきり開いた。
そして、
「ムース!」
「シャンプー!会いたかっただー!」
ムース、と呼ばれたその青年は、姿を表したシャンプーに嬉しそうに抱きつこうと駆け寄ったが、
「私はお前に会いたくなかったある!さっさとひいばあちゃんの所へ帰るよろし!」
「何故じゃシャンプー!お主はおらと結婚する相手では無いかっ」
「私はお前が嫌いある!それに、私の婿は乱馬に決まっているある!」
シャンプーはそんなムースを一発殴って床に沈めると、事の成り行きをもーっと見守っていた乱馬の腕に、抱きついた。
「お、おいっ・・・」
乱馬としてみれば、別にシャンプーとどうこうという関係でもないし、初対面のこのムースと言う青年に誤解されるのが嫌だと慌てたのだが、
「シャンプー!何故おらにそんなに冷たいのじゃ!おらの何が気に食わぬー!」
「きゃっ・・・」
シャンプーによって床に叩きのめされたムースは、起き上がるや否や、皆の後ろでやはり成り行きをうかがっていたあかねに、いきなり抱き付いた。
「あっ」
そんなムースに驚いた乱馬は、シャンプーを引き剥がしムースの元へと駆け寄ると、
「なにすんだよっ」
慌ててムースをあかねから引き剥がして、あかねを自分の後ろへと隠す。
「シャンプー!おらのシャンプーになにするだ!」
ムースは突如話に割って入ってきた乱馬に対して声を荒げるが、
「何言ってやがるっ。これは俺のあかねだっ」
いささか問題がある発言も含まれるが、何故かあかねの変りに乱馬が、そう叫んだ。
すると、
「こら乱馬!いつからあかねさんが貴様のものになった!」
「ムースにはあかねがお似合いね!」
「シャンプー!」
「だ、だからあたしはシャンプーじゃ・・・」
その会話に端を発し、その場に居た全員が会話に割り込んできたが為に、それぞれが好き勝手なことを言いながら事態が混乱を極めたのだが、
「とにかく、邪魔にならないうちに帰るよろし!」
それに、早く眼鏡をかけるある!・・・シャンプーがそう叫び、ムースをもう一発殴り床に鎮めた所で、事態はとりあえず収集した。
「眼鏡?」
憤然と部屋を出て行ったシャンプーの言葉を受けて、良牙がムースに尋ねると、
「おらは目が悪いんじゃ。眼鏡が無ければ、生活するのに支障をきたす」
ムースはそう言って、自らの懐をさぐり、眼鏡を取り出した。
ガラスのレンズが、まるで牛乳ビンの底のような厚さだ。本などで見る冗談のようなその分厚い眼鏡に残された一同がぽかん、と口をあけていると、
「・・・お?シャンプーはどこへ行ったんじゃ?ん?誰じゃおぬし」
先ほどまではシャンプーと間違えていたくせに、ようやく姿を確認してそれが別人だと分ると、ムースはあかね達から離れて首をかしげている。
眼鏡をかけていないと、どうやら人の分別も出来ないらしい。
客観的に容姿を見てみると、実はなかなかの美形だ。
背も乱馬より高いし、男性だが背中まである黒髪は、手入れされているかのようにさらさらだ。
顔も、きりっとした端正な顔立ちをしているが、瞳の奥にどこか優しげな光を持っているような、感じがする。
妙なイントネーションのついた言葉と、この近眼が無ければ、随分といい男なのでは無いか。
あかねはふと、そんなことを思う。
もっともそんなことを口にしようものなら、
「・・・」
あかねのことを背中で庇っているこの嫉妬王子に、何を言われるかわから無いけれど。
あかねは心の中でそんなことを思った。
・・・
「・・・で?あんた何で俺達の所に現れたんだよ。本当にシャンプーに会いたかっただけか?」
ようやくそれぞれが落ち着きを取り戻した頃。
良牙が代表してムースにそう尋ねた。
するとムースは、「ああ、そうじゃった」と思い出したかのようにポンと手を叩くと、
「シャンプーに会えた喜びですっかり忘れておったが、おらは、おばばからおぬしらと一緒に旅をするように言い付かってきたのじゃ」
「へ?」
「おらは城下で武器道具屋を営んでおった。おぬし等の旅立ちの際にシャンプーに頼まれて武器防具を調達したのは、おらじゃぞ」
「!」
「それに、おらはシャンプーとは逆に防御系の魔法攻撃も使える。攻撃・防御の両方に通ずる物が居た方が心強いじゃろうて」
そう言って、乱馬達を見た。
そう、乱馬達が現在使用している武器や防具の一部は、実は旅立ちの前日にシャンプーがムースに調達させたものなのだ。
会うのは今日が初めてだが、実はそんなつながりが会った事に、一同は何だか不思議な物を感じていた。
「でも、何でばあさんは、今更そんなことを?」
ただ。
ムースが武器防具や防御の魔法に優れている事くらい、コロンは初めから分っていたはずだ。
それが何故今になっていきなりムースを合流させる事にしたのか。それが、不思議な事だった。
「さあ。セルラ大陸と違って、こっちのレイディア大陸はかなり物騒だと聞くし。
それにばあさんの話では、カードのうわさを聞きつけた悪しき者が、残りのカードを狙って金持ちを襲っているらしいという情報を聞きつけてな」
「なんだって!?」
「何でも、レイディア大陸のもっと北の方角にあるウィスタリア大陸出身の強大な魔導士。魔術だけでなく、昔は山賊などもやっていたらしい。魔術も、おばばやおら達が使う正当な魔術ではなく、古の魔物を召喚してその能力を取り込んだ、暗黒魔術系のたちが悪いものじゃ」
ムースはそう言って、眉をひそめる。
もともとの身体能力に組み込まれた神秘的力を用いる、コロンやシャンプーが使うような魔術とは違い、
古の魔物を儀式によって召喚し、その魔物と契約してから能力を取り込む魔術もある。
カードの魔力と同じように、そのような形で手に入れた魔力は、やがて術者の精神をも食い滅ぼしていく。
術者が魔物に身体をのっとられるか、それともそれに負けない精神力を持つか。
持っていたところで、それだけ悪しき心が強いということを証明されるだけで、よけいに太刀が悪い。
それが「暗黒魔術」といわれるものだ。
現代では禁忌的なものとして疎まれていたはずなのじゃが・・・とムースは続ける。
「そ奴は、ラヴィという名らしい。それに既に数枚、カードを手にしたとも、聞いておる」
「!」
「最終的には、ラヴィを倒さなければカードを全て、手にすることは出来ない。強大な魔導士を相手にするなら、人は多いほうが何かと便利じゃ」
ムースはそういって、自ら持ってきた武器防具を一同に見せた。
修理や制作もできるように、とハンマーややすり、それに見た事も無いような道具が袋の中に詰め込まれていた。
例え国元に頼めば金銭援助は得られるとはいえ、それに頼り切るわけには行かない。
国に居るのとは違い、旅先では何かと金がかかる。自分達で全てを調達する以上は、無駄な出費は防ぎたい所だ。それに、例え安い金額で武器を手に入れたとしても、その武器を元でに改造していけることは、何かと心強いことだ。
・・・
「格闘技能は?」
乱馬は、ムースに今度は別の質問をする。
武器防具を調達でき、魔術が使えても、体力がゼロでは旅には連れて行けない。
一応は格闘技術も無ければ・・・と乱馬が考えていると、
「おらは暗器の使い手じゃ」
「暗器?」
「服の中に武器を無数に隠し持っておる。飛び道具が主じゃ」
「へえ・・・」
「それに昔、国の傭兵訓練に参加していた」
ムースはそう言って、良牙を見た。
傭兵訓練、は城に使える兵士たちが受ける対国外向けの戦闘訓練だ。
兵器部隊、格闘部隊、対空部隊に分かれ、半年から一年ほどの訓練を受けその証として、勲章を貰うのだ。
これに参加できるのは、国の中でも相当な格闘術を持っている選ばれた者のみ。
良牙ももちろんこれを経験している。
「あ、そういえば昔、飛び道具に優れた男が別の部隊にいると聞いた事があるぞ」
と、ムースの話を聞いていた良牙が、思い出したようにそう呟いた。
「確か、近眼で銃の的ははずれるけれど、銃以外の飛び道具を全て自分で用意して、その部隊を主席で卒業したって言う・・・それが、あんたか」
へえ・・・と、良牙がムースの姿を上から下まで舐めるように見つめる。
「乱馬よ、それならば腕は確かだ。もしかしたら貴様より腕が立つかも知れんぞ」
良牙は、にやりと笑いながら乱馬にそういった。
「そ、そうかよ」
乱馬は一瞬むっと表情を崩すも、
「まあ傭兵訓練を出ているんじゃ、仲間にしてやってもいいかな」
「何を、偉そうに。守ってしまうかもしれないんだぜ?王子様」
「うるせえ!と、とにかくそれならば一緒に旅をすることを許可する。まあ、シャンプーにはおいおい・・・」
乱馬はそう言って良牙とやりあいながらも、ムースと「仲間」となるべく握手を交わした。
「・・・」
傭兵訓練を受けた、防御系魔導士。
旅のパーティに加えるのならば、これほど強力な相手はいない。
シャンプーは邪険に扱っていたけれど、話せば分るタイプのようだし、それに乱馬や良牙よりも落ち着いたイメージがある。
皆がバラバラの性格で、もしかしたらつりあいの取れたパーティになるかもしれないな・・・あかねは乱馬達の姿を見つめながらそんなことを思っていた。
・・・しかし。それだけを手離しで喜べないあかねも、そこにはいた。
先ほどムースは、「強大な魔導士もいるし、メンバーが多いほうがいい」。自分の合流理由をそう述べていた。
でも、果たしてそうだろうか。
コロンがそれだけの理由で、しかもこんなに急に、ムースを合流させたりするだろうか。
「・・・」
実は、T&Kアイランドを出発する前に、
そこで起った事を、あかねはコロンにだけ報告をしていた。
もしかしたらそれを受けて、コロンはムースをこちらによこしたのかもしれない。
メンバーが多いほうがいい。それはつまり、あかねの抜けた後の事を考えているのかもしれない。
時間が経てば経つほど、あかねは自分がこのパーティで戦力にならないことを感じ取っていくはずだ。
四つだったものが三つになる。残るメンバーにも負担は大きい。
防御系の魔法に長けているのであれば、あかねを守りながら戦う事も可能かもしれない。
「・・・」
おばあさん、まさかそこまで・・・
いや、そうであるならば、ムースはどこまで何を、知っている?
コロンに何かを聞いている可能性は、あるだろう。
「・・・」
あかねはそんなことを思い不安に胸を苛まれていた。
せっかく新しい仲間が増えたのに、こんなに不安になるなんて・・・あかねは楽しそうに話している乱馬達を横目に、一人そんなことを思っていた。

この日の夕方。
一向は、ムースの歓迎会もかねて、宿屋の食堂で少しだけ豪華な夕食を食べるべく、集まった。
「私は別に、ムースなど歓迎していないね」
相変わらずシャンプーはつれない態度をとっていたが、
「これからは、ずっとシャンプーと一緒にいられるだ!」
ムースはつれないシャンプーの態度などもろともせず、シャンプーに近寄っては殴り倒されている。
「ムースの奴、本当にシャンプーに惚れてるんだなあ」
良牙が、殴られてもめげないムースの姿を見つめながら、ぼそっと呟いた。
「それだけ、シャンプーへの愛が深いのね」
羨ましいわ・・・あかねがそう呟くと、その横では何故か乱馬が、「俺だって負けねえ!」とばかりに意気込んでいる。
「それにしても、あのわがままで気の強いシャンプーに首ったけとはなあ。それだけでもある意味できた男だぜ」
「世の中には色んな男がいるもんだ」
さりげなくシャンプーに失礼な事を話しながら、一向は食堂へ入ろうと宿屋の一角へと移動した。
が。
「あら?」
「なんだ?」
「どうした?」
「人だかりある」
「何かあったのかの?」
・・・宿屋の一階、奥に位置する食堂の入り口では、なぜか乱馬達以外の宿泊客たちが、中には入らずドアの外で群れ騒いでいた。
一体何があったのか。一行がその群れに近づき群れの中心部を見ると、
夕刻だと言うのにも関わらず食堂のドアは硬く閉ざされ、その代りに一枚の張り紙が、張ってあった。
【事情により、本日と明日の朝、この宿屋での食事サービスは、なくなりました。申し訳ございません】
紙にはたった一行、それだけが書かれていた。
どうやら、この宿屋の食堂では今夜の夕食も明日の朝食も出ないらしい。
夕食はともかくとして、朝食が出ないのは痛手だ。
それに、
「冗談じゃねえ!高い金を取っておいて、食事も出さねのか、この宿は!」
「主人はどこに行った!?」
宿泊客たちが、張り紙を見て思い思いに叫んでいる。
そう、この宿屋の料金設定は、確か一泊二食付きということで設定されている。
ムースが払い込んでくれた乱馬達はともかく、自腹で泊まりに来ている他の客達にしてみれば大問題だ。
それなりの金額を払って宿泊をしているのに、食事のサービスが全くない素泊まりでは割に合わない。
「今なら他の宿に変えられるかしら・・・」
「おい、そうしようぜ」
「全く、冗談じゃねえ!」
騒いでいた宿泊客たちが、そんなことを言い合いながらそれぞれ部屋へと戻っていく。
「どうする?」
「そうだなー・・・」
乱馬たちとて、その宿泊客たちの気持ちは分からないでもない。
一応宿屋の外にある看板には、食事サービスありと書いてあった気がする。
お金自体はさほど問題では無いが、その客引き看板に嘘があったとなると、信用問題に関わる。
客引きのための嘘だったというのなら許しがたいことだし、そんな宿屋は一泊でも泊まるのはごめんだ。
「まだ少しだけ日もあるし、俺達も宿屋を探すか?」
「そうね・・・」
乱馬たちも、他の宿泊者と同じように宿を変えるべく、部屋に戻ろうとした。
と、その時だった。

「やめとき。こんなの、どこの宿屋にいっても同じや」

部屋に戻ろうとした乱馬達に聞こえるように、誰かが声をかけてきた。
「?」
見知らぬ声だ。そう思い声がした方向を見ると、食堂のドアの前に一人の少女が立っていた。
茶色い背中まである長い髪に、きりっとした顔立ち。
ムースのそれとは違う、妙なイントネーションの言葉が印象的だった。
年の頃は、乱馬たちと同じ頃だろう。
ずっと東の方の国でよく見られると聞いた事のある、「着物」・・・前が合わさるような襟形で出来ている、あでやかな布地で作られた衣類を纏っていた。
衣類の色も、紫と随分シックな感じだ。
背中には、銀色の大きな武器らしきものを背負っている。
よく、フライパンで肉などをひっくり返す「フライ返し」を変形させた物だろうか。
なんにせよ、見た事の無いようなものを見につけているのがとても印象的だ。
「あの、同じって、どういうことですか?」
・・・見知らぬ者が現れたとき、その人物と交渉するのはほぼあかねの役目。
あかねは皆を代表して、その少女に尋ねた。
「・・・この街の食料、というか市場はな、今やっかいなことになってんねん」
「やっかいなこと?」
「でも、うちら商人組合のもんは、それに泣く泣く従わなあかん・・・それが不服でも」
「どういうことですか?」
「この宿屋のおかみやて、別に客を初めから騙すつもりでこうしたんやないで。色々と事情があって、急遽こうせなあかんことになったってことや」
すると少女はそう言って、ため息をついた。
「うちは、商品の仕入れでここの宿を使わせてもらうことが多いんよ。だから、ここのおかみの事はよう知ってる。ここのおかみも、それに他の宿屋やレストランの主人も、皆困ってるんや」
少女は、何かを思い出したかのように「チっ」と舌をならす。
どうやら、何かよほどの事情があるようだ。
「・・・」
あかねは皆を振り返り「どうする?」と意思を確認したが、どうするも何も、関わってしまったのだから仕方がない。
それに、こんな中途半端な状態で「はい、さよなら」というわけにも行かない。
「ねえ、良かったら話してくれない?あたし達、旅人だけれど腕は、結構たつのよ?」
あくまでもまだ身分や旅の目的はあかさずに、あかねはその少女にそう語りかけた。
すると少女は、
「ふーん・・・せやったら、ちょっとアドバイスしてくれへん?」
「アドバイス?」
「うち、その悪の根源をぶっつぶしに行こうと思ってん」
「は!?」
何とも物騒な事を言って、ニッコリと微笑んだ。
悪の根源をぶっつぶしに行くとは、穏かでは無い。
いやそれよりも、この村の市場はそんなに厄介な事になっているのか?
「・・・」
一行が思わずお互いの顔を見合していると、
「良かったら、うちの部屋にきいへん?色々と事情、話たるわ」
少女が笑顔のままそう言って、一行の顔をぐるりと見回す。
「わかったわ、ええと・・・」
「うちは、右京。商売で身ィ立ててる女。年は十六」
少女・右京は笑顔で自己紹介をすると、戸惑っている一行を連れて自分が取っている部屋へと向かった。
十六歳で、商売人。そして無謀な計画を立てている少女・・・
旅のメンバーが一人増えたばかりだというのに、増えたら増えたでいきなり厄介な事件に関わってしまった。
「うちのことは、右京でもうっちゃんでもどちらでも好きな呼び方で呼んだって」
明るく自己紹介をしながら皆を部屋へと連れて行く少女に気付かれぬように、あかねもそして乱馬も、ため息をついた。


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