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伝説

・・・とある小さな王国の王子は、容姿端麗なだけでなく、武芸の腕も秀でていた。
近隣の国の姫君や町娘達に実に慕われているこの王子であったが、一つだけ欠点があった。
それは、今のところ女性よりも格闘技にしか興味がないという事。
毎日の様に催されるお妃選びのパーティには、近隣諸国から絶世の美女達がこぞって参加するにも関わらず、
「俺、悪いけどあんたに興味ないから」
・・・そんなことを言っては、王子は迫ってくる女性達を退ける。
いやそればかりか、
「親父、俺今日のパーティ、パスな。何かダルイから」
何だかんだ理由をつけては、そのパーティーすらもサボるようになる。
さすがにこれには父である国王も、母である妃も頭を抱え、
『何とかしてこの王子に妃を見つけられないだろうか』
毎日重臣達と相談をしては、王子のためにと、娘達を城へと招いては宴を繰り返していた。


しかし。
・・・ある時催した、再びお妃選びのパーティにて。
この王子、自分でも驚くぐらいに一人の姫君に惹かれてしまった。
恐ろしく気が強く、そして素直じゃない娘だったが、
「・・・」
自分でも良くわからないけれど、王子はこの娘がやけに気になって。
名前も知らない上に、顔面に靴まで投げつけられたにも関わらず、
「この娘を探せ!」
・・・王子は城をあげてこの娘の行方を探した。
そして。
ひょんな事から、この娘が国王である父の友人の娘で、町道場の跡取娘という事が発覚したものだから、
「俺、毎日ここに通うから」
・・・娘にも逢えるし、それに道場ならば修業も出来るし一石二鳥。
王子は嫌がる娘を強引に説き伏せ、それから毎日毎日・・・この小さな町道場へと通う事になった。
雨の日も風の日も。
「今日は道場は休み」
そう城に使いを出したのにも関わらず、王子は毎日やって来た。
それが長いこと続けば、さすがに男嫌いで頑固で素直じゃない娘も心を開いてくる。
それはたとえ、
「もう!また見たでしょッあたしの着替えッ」
・・・そういって、娘・あかねが王子の乱馬を容赦なく殴り倒せるまでになったとしても。
たとえ、
「だーれがおめえの色気のねえ青い下着なんかみるかよッ・・・あ」
・・・うっかり口を滑らせてしまい、実は着替えを覗いていたのがばれて更に乱馬が床に叩きのめされたとしても。
それでも、いつしか、二人はただ仲が良いと言うだけの関係でなく、
「心」
心を許しあえるそんな関係になっていった。それと同時に乱馬はよりはっきりと、あかねはぼんやりとではあるが、
お互いを「異性」として意識するようになっていた。
それを受け、
「あの王子が!」
「まあ、乱馬が!?」
「あかねが・・・あかねが男の子と普通に話が出来るようになるなんてッ」
そんな二人の姿にいたく感動(?)をした、二人の親達は、
「よし!二人の気が変わらないうちに、二人を婚約させてしまおうッ」
・・・と、勝手に二人を「許婚」の関係にしてしまった。
もちろん、たとえ微妙な間柄とはいえ、本人達の意思も確認せずのその決定に、


「冗談じゃないわよッ迷惑だわッ」
あかねにしてはすぐに反発をしたのだが、
「ふーん」
一方の乱馬にしてみれば、肯定するでもなく否定するわけでもない・・・いや、どちらかといえば嬉しそうな感じもしなくはない。
ただ、何となく意地を張ってしまって、本当は大切で大事にしたいあかねをからかっては怒らせてしまう毎日が続いていた。
・・・よって。
どちらにしろこの王国に、仲むつまじい、若い新国王と美しい妃が誕生するのは・・・どう考えてもまだまだ時間が必要なのであっ た。








そんな、ある日の事。
(さーて。今日もあかねをからかいに・・・おっと、修行をしにでかけるか・・・)
昨日、あれだけ叩きのめされたにも関わらず、全く懲りていない乱馬。
今日も今日とてあかねに逢いに・・・いや、修行をしに出かけるため部屋で支度をしていると、
「王子。国王がお呼びでございます」
兵の一人が部屋にやってきて、出掛けようとする乱馬を呼びにやって来た。
「後にしろって言っといて。俺、今から出かけなきゃなんねえんだ」
・・・道場へ出かけることは別に義務でも何でもないのだが、そういって兵を無視して出掛けようとする乱馬に、
「は。でも王子をお連れするようにとお妃様も一緒にお待ちですし・・・」
兵も「逃してなるものか」と必死にその進路を阻むように立ちふさがる。
「親父だけじゃなくて、お袋も?」
すちゃらか親父だけじゃねえのか、呼んでるのは。じゃあ、仕方ねえなあ・・・と、
「しょうがねえな」
「はッ。こちらでございます」
乱馬は仕方無しに兵が案内する通りに玄馬達の元へと向かうことにした。
・・・中庭の向こう側に見える、天井が吹きぬけたホールとその少し先にあるエントランスは、朝日が差し込んでまば ゆいばかりに輝いていた。
吹き抜けホールの天井の周りを固めるステンドグラスが、折りしも朝日を反射して、七色の光を乱馬と兵が進む道を 照らし出している。
ホールの右手奥にある厨房からは、しばらく後に給仕されるための朝食の準備の為に慌しく働く召使達のたてる音 が聞こえた。
ほのかに、香ばしい焼きたてのパンの香りも鼻腔をくすぐる。
「あー、腹減った・・・」
乱馬は思わずそんなことをぼやきつつも、通り抜けている中庭からふと、空を見上げた。
・・・今日は天気も良く、雲ひとつない青空が乱馬の瞳にはっきりと映し出された。
(あー・・・こんな日は、修行もそこそこにして、あかねとどっか行きてえよなあ・・・)
「・・・」
そんなことを考え、乱馬が空を見上げたままボーっと立ち止まっていると、
「王子。王子?どうされました?」
立ち止まった乱馬を気遣って、兵が声をかける。
「ああ、なんでもねえ。それより、親父達はこの先の部屋にいるんだろ?だったら分かったからもう案内しなくていい よ」
「は・・・しかし・・・」
「大丈夫、逃げねえって」
乱馬は不安そう・・・というか疑い深そうに見ている兵を何とか説き伏せ自分の持ち場へと帰らせると、
(・・・)
こんな天気のいい日に、こんな晴れ上がった空を見ないなんて損、ソン・・・と、そのまましばらく立ち止まり空を見上 げていた。




・・・容赦なく殴りかかるし、強暴だし不器用だし。更に素直じゃないんだけど・・・でも、あかねのそんな部分がまた 乱馬は気に入っていた。
それに、時折(ほんとに時折)見せる笑顔がやっぱり可愛い。
それを知ってる乱馬は、どんなに叩きのめされようとも反発されようとも・・・間違いなく、パーティで出会った夜よりも あかねに惹かれてしまっていた。
(くそ・・・親父達が勝手に許婚なんて関係にしなけりゃ、もしかしたら今ごろもっと自然に・・・)
乱馬は、中庭の真ん中に座り込み、敷き詰めてある芝生をぶちッ・・・ぶちッ・・・と千切りながらそんな事をぼやいて みる。
「許婚」
何だかそんな響きに照れくさくて。
嬉しい反面、その反動で何だか良くわからないけど反発してしまう。
(あー・・・きっと俺も、あかね同様素直じゃねえんだよなあ・・・)
じゃあ、あかねが他の男に取られたら?・・・そんなことを考えてしまったら、気になって気になって夜も眠れなくなる。
(まだ、はっきりとはお互いの気持ちって声に出して伝えてねえよなあ・・・)
…あかねは一体、俺のことをどう思ってるんだろう?
少なくとも、乱馬については心は決まっているのだが。
(・・・聞いてみようかなあ。今日、どっか誘ったついでに。でもなあ・・・昨日着替え覗いてたのがばれて叩きのめされ たばっかだし・・・でもいい機会だし・・・)
「はあ・・・」
思わずため息をつきながら、乱馬が更に芝生を次から次へとちぎっていると、

・・・ゴツン!

「いてッ」
・・・乱馬は、いきなり背後から誰かに頭を殴られた。
「な、何すんだよッ」
不意打ちを食らって驚きつつも、殴られた部分をさすりながら乱馬が振り返ると、
「お前は一体いつまでワシらを待たせるんだッ」
・・・そこには、いつまでたってもやってこない乱馬に痺れを切らせた玄馬が不機嫌そうに立っていた。
「あ、わりーわりー」
乱馬がとりあえず謝りながら、手にしていた芝生の草を放り投げると、
「まあ、良い。それならばこの場で話そうぞ。さ、母さんもそっちへ座りなさい」
「ええ」
玄馬がそう言って、乱馬と、そして自分の後ろに控えめに立っていたのどかに声をかけた。


朝の光さす、のどかな中庭を走る廊下・・・に、急遽設置された長ベンチに、 玄馬・のどか、そして乱馬の三人は腰掛けた。


「実はな、乱馬。お前もそろそろ十六才。良い年になったし、そろそろ我が国民達に、お前が正式な時期王位後継者 として発表しようと思っとるんだ」
「そうなの。お父さんとも相談したんだけど、その時に一緒に乱馬とあかねちゃんとの婚約の件も、皆に正式に発表し ようと思ってるのよ」
ベンチに座り始めた途端、乱馬を真ん中に両端からそんなことをいきなり話し始めた両親に、
「ちょ、ちょっとまて!王位継承はともかく、あかねのとの婚約はッ・・・」
乱馬が慌てて口を挟むと、
「乱馬・・・嫌なの?あかねちゃんが嫌いなの?」
のどかがこっそりと足元に忍ばせていた日本刀をきらりとちらつかせた。
「い、いや別に嫌じゃなくて・・・一応それは俺だけじゃなくてあかねの気持ちも確かめないと・・・」
思わず冷や汗を流す乱馬に、
「あかねちゃんのほうは大丈夫よ。ね?あなた」
「うむ。天道君にその旨は任せてある。それに・・・あかね君とて、お前がこれから為すことを知ればきっと惚れ直して くれるぞ」
のどか、玄馬はそう言って、戸惑っている乱馬に妙に自身満々にそう言って退けた。
「俺が・・・為すこと?」
乱馬が首をかしげると、
「そうじゃ。乱馬よ。これからお前には、お前がどれだけ王位継承するにふさわしい人物であるかということを、形に して国民に表してもらう」
「形?」
「そう。目に見える形じゃ」
玄馬はそう言って一度咳払いをすると、乱馬に詳細を話し始めた。
「乱馬。お前も聞いた事があるじゃろう?この国に昔から伝わるおとぎ話を・・・。22枚揃えると、一つだけ願いを叶え てくれる不思議な力を持つ『カード』の話を・・・」
「カード・・・」
「そうよ。ほら、小さい頃に何度もお話してあげた事があったでしょう?」
ボンヤリトした表情をしていた乱馬に、のどかが更に説明を加える。
それでようやく、
「ああ・・・あのカードを集める勇者の話か・・・」
乱馬はおぼろげながらも、子供の頃、何度も母にせがんで話してもらった「カードを集める勇者」の話を思い出すこと が出来た。



・・・とある小さな国の王子が、悪い魔女に魔法を掛けられ「石」になってしまった両親を助ける為に、「全て集めると何でも一つだけ願いを叶えてくれるカード」を集めるべく、世界中に散りばめられたそのカードを仲間と ともに集めるお話。
途中、ドラゴンと戦ったり、魔法の剣を手に入れたり・・・勇敢に戦いながら全てのカードを集め、そして両親に掛けられた魔法を解いたその勇者の話を、子供ながらにドキドキしながら、乱馬は聞いていた事を思い出した。
最後、両親の魔法を解く事が出来たその瞬間に、カードはまた自然に二十二枚バラバラに飛び散ってしまった所でお話は終わったはずだ。


「・・・あれ、おとぎ話じゃなかったのか?」
自分の頭の中に根強く残っているそのおとぎ話を思い出して呆然と呟く乱馬に、
「おとぎ話ではないぞ。あの勇者はな・・・わしと、お前のご先祖様じゃ」
「えー!マジかよッ」
「マジな話じゃ」
玄馬は偉そうに頷いて見せた。
「ほえ・・・」
更に乱馬が驚きボーっとしてしまうと、
「それにね、乱馬。あのおとぎ話には続きがあるのよ」
のどかが、ぼーっとしている乱馬の手を取りながらにこっと笑った。
「つ、続き・・・?」
「そうよ。おとぎ話の方は、願いをかなえたらカードは再び世界中にばらばらに飛び散ったってなっているけど・・・」
「?」
「実はね、その時に1枚だけ飛び散らなかったカードがあってね、それがわが国に昔から保存されてるのよ」
「え!」
「ほら・・・これよ」
驚ろきすぎて既に声も出す事が出来ないらんまに、のどかは笑顔のまま一冊のファイルを手渡した。
「こ、これが勇者のカードッ」
はやる気持ちを抑えきれず、乱馬が勢い良く手渡されたそのファイルを開くと・・・

「・・・なんだ?この浮かれたピエロみたいなカードは」

・・・乱馬の目に早速飛び込んできたのは、思わず「すげえ!かっこいい!」とかそんな感想を口走れるようなカッコいいカードではなく、 ピエロの様な格好で、これまた楽しそうに笛を吹いている妙な男のカードだった。
「おい・・・これ、ほんとに勇者のカードの一部なのか・・・?」
あまりのそのカードの間抜けさに、乱馬が疑いの目を玄馬に向けると、
「本物に決まっとるだろーが。ちなみにそのカードはな、二十二枚のカードのうちの一枚で愚か者(the fool)というんじ ゃ」
玄馬はそう言って、エヘン、と胸を張って答えた。
「愚か者・・・まさに親父にぴったりだな」
乱馬は、妙に感心しつつも呆れた口調でそう呟いた。
そんな乱馬に、のどかが今度は小さなケースのようなものを手渡した。
「これは?」
乱馬がそのケースをのどかから受け取り眺めていると、
「これはね、勇者様が使っていた、旅先で集めたカードを収納しておくカードフォルダなの。乱馬に今渡したカードフォルダにカードを入れると、それと同じカードの情報がさっき見せたファイルに転送され てくるようになってるみたいなの。だから、乱馬がどんどんカードを集めてそのフォルダーに入れれば、それと同じだけの情報が、私達が保管している このファイルでも見ることが出来るって事ね」
のどかはそう言って、乱馬が手にしているカードフォルダーと、先ほど見せたファイルを並べて見せた。
「・・・」
乱馬がカードフォルダを開いてみると、中には先ほどの愚か者のカードが一枚入っていた。
「乱馬の持っているフォルダに入っているものの方が・・・本物よ」
「へえ・・・」
乱馬がフォルダとファイルを見比べながら「ほお・・・」と感嘆の息をつく。
「それにね、このファイルとフォルダには不思議な魔法が架けられているみたい。同じ魔力を込めた繊維で作られてい るから、このファイルとフォルダを持っていれば通信も出来る見たいよ」
「通信・・・どうやって?」
「さ・・・そこまで詳しくは私達にもわからないけど。でもとにかくそれなら乱馬の安否も、乱馬が私達の安否を気遣う 事も出来るって訳よ」
のどかはそう言って、にこりと微笑んだ。
そして、
「とにかく、今日の午後にでも宮廷魔導士のコロンさんの所にいってらっしゃい。コロンさんならこういう事は詳しいは ずよ」
「あ、ああ」
乱馬はとりあえずカードフォルダをポケットにしまいこんで返事をした。
「がんばるのだぞ、乱馬」
「ああ」
「しっかりね、乱馬。それと・・・」
玄馬、のどかとも乱馬に励ましの言葉を送ったのだが、その最後に。
「それと、乱馬。もう一つ最後に大事な事」
のどかが、乱馬に先ほどまでの笑顔とは一転して真面目な表情をしてそう切り出した。
「・・・」
・・・大方、乱馬にはのどかが何を言わんとしているかは分かっていたが、とりあえず黙って母の話を聞くつもりだっ た。
「乱馬。これから貴方はしばらく旅に出るわけだけど・・・そうなると、あかねちゃんにもしばらく逢えなくなるわ。コロンさんのところへ行く時間までに、ちゃんとあかねちゃんにこの事を話しておくのよ?帰ってきたら、盛大に結婚式をあげる事になるんだから、そこともちゃんと話すのよ?」
「・・・」
のどかの言葉に乱馬が何も言葉を発さず黙っていると、
「乱馬よ。あかね君に会えないのは寂しいかもしれんが・・・一応ワンクッション置く意味でも、この話、天道君にも昨 夜の内にしておいたからな。あかね君も今朝、お前同様この話を天道君から聞いてるはずじゃよ」
「え・・・?」
「だからあかね君もある程度、事情は分かってるはずじゃ。ま、でもちゃんとお前の口から話すのが筋ってモンだか ら。それより、思い切ってプロポーズするきっかけにもなるんじゃないか?なあ、母さん」
「まあ。そうですねお父さん」
玄馬とのどかはそんなことを言いながらニコニコと乱馬を見ているが、
「・・・」
乱馬の心の中は今、なんとも言えない思いが渦巻いていた。



子供の頃に夢にまで見た、憧れの勇者の話。
それと同じ事を今から自分も体験するんだ・・・そう思えば、きっと昔の乱馬ならば手離しで喜んだはずだ。
でも。
今の乱馬は、手離しでそれを喜べない理由があった。
・・・カードを全て集めて、たった一つだけ願いをかなえる。
例えばそれは、この国を豊かにすること。
例えばそれは、自分に絶対的な力を与えてもらう事。
例えばそれは、巨万の富を手に入れること。
それに加えて正式に王位を継承者として認められるわけだから、乱馬にとってはこの上ない幸せだった。
・・・しかし。
一体どのくらいの期間でカードを全て集められるのか。
そして、一体どのくらい・・・あかねと会わずに過ごさなくてはいけないのか。
(俺、あかねに出会う前って・・・どうやってすごしてきたっけ?時間・・・)
それさえも思い出せないくらい、今の乱馬には、自分の隣にあかねがいるのが当然の日々を過ごしてきていた。
そのあかねに、これからしばらく逢う事が出来なくなる。
(・・・)
何だかそれは、妙な感じがしてならなかった。
それに、例え旅から帰ってきて乱馬が全てのカードを手に入れたとしても。
もしもそれまでに、あかねが自分を待っていてくれなかったら・・・そう思うと、乱馬は心が痛んだ。
両親達はああは言っていたが、まだお互いにお互いの気持ちを口に出してはきちんと伝え合っていない。
「長い間ほったらかししするくせに、何が許婚よ。冗談じゃないわ」
・・・そう言って、あかねが自分との婚約を破棄する事だってもしかしたらありえるのかもしれない。
「・・・」
ずっと、一緒にいたい。
出来れば毎日喧嘩して、それでまた仲直りして・・・少しでも一緒に時間を共有したい。
(・・・)
しかし。
これから旅立つ、決して安らかとはいえないだろう長い旅に、やっぱりどうしてもあかねを連れて行くわけには・・・い かない。
もしかしたら・・・あかねと今まで楽しく過ごしてきた時間は、今日で終わってしまうのかもしれない。
そう思うと何だか急に胸が締め付けられる乱馬だったが、
「・・・でも、ちゃんと話さないとな」
・・・玄馬とのどかが去ってしまった中庭のベンチに、乱馬はいつまでも腰掛けながらそんなことを考えていた。



と、その時だった。

「失礼いたします。王子、王子にお客様が見えておりますが・・・」
ベンチでガックリと肩を落としている乱馬を、再び一人の兵士が呼びに来た。
「悪いけど・・・俺今から重要な用事があるから・・・」
今は他の人と逢っている余裕はない、と乱馬が面会者の謁見を断ろうとすると、
「そうですか。ではお引取り願うように伝えてまいります」
兵士はそう言って乱馬に一礼した。
「後で連絡するからって伝えておいてくれ。えーと、名前は聞いているか?その人の・・・」
乱馬は去り行く兵士の背中にそう叫ぶと、
「はい。女性の方で、あかね様と聞いております。大変美しい方でしたが・・・」
兵は立ち止まりながら乱馬にそう伝えた。
「あ!待て。帰さなくていいから、俺の部屋に案内してくれ。俺もすぐ行く」
「は、はい。分かりました・・・。?」
乱馬は立ち止まった兵に慌てて指示内容を変えると、急にドキドキし始めた胸を抑えていろいろなことを考えてしまった。
・・・ あかねが、自分から城にやってくるなんて。初めて出逢ったあのパーティの夜以来初めてだった。
(おじさんから話を聞いたんだな・・・)
そう考えると、乱馬の心臓は自分でも驚くくらい鼓動していた。
「・・・」
ちゃんと、あかねにはなすことが出来るのだろうか・・・。
もしも、
「あんたなんて待ってられないわ。何で待たなきゃいけないのよ?」
・・・そんな風に言われた時、自分は冷静でいられるんだろうか?
「・・・」
・・・どちらにしても、ちゃんとあかねには自分の口からも話さなければ。
乱馬は決意を固めて、あかねが待つ自分の部屋へと向った。
が。
(・・・あれ?)
乱馬があかねが待っているはずの部屋のドアを開けても、そこに何故かあかねの姿はなかった。
(あれ・・・おかしいな、先に来てるはずなのに・・・)
乱馬はキョロキョロと部屋の中を見回した。
すると、ベランダへの扉が少し開いているのに気が付いた。
(ここか?)
乱馬がひょっこりとベランダへ顔を出すと・・・
「・・・」
そこでは、乱馬がやって来たことなど全く気が付いていない様子のあかねが、ベランダの手すりにやってきた小鳥に 餌付けをしている姿があった。

朝の陽射しに照らされて、まるで透きとおるように見える白い肌。
それに、一応城にやってくるということもあって、普段の道着姿ではなく女性らしい服を着ているその姿。
恐らく父の早雲に言われてしぶしぶと化粧したり服を着替えたりしたんだろうが、
そこにいるあかねは、恐らく百人いたら百人が「美しい」・・・そう答えるに決まってる、そう確信がもてるくらい乱馬 には美しく見えていた。

(・・・)
・・・ドキドキしていた。
そんなあかねをこっそり覗いている自分の胸は、もう少しで張り裂けて飛び出してしまうのではないかと思われるくら いドキドキしていた。
が。
それと同時に、 これからあかねに自分が話さなくてはいけないことや、明日からしばらく逢えなくなることを思うと・・・
「・・・」
乱馬の胸は、シク・・・胸が締め付けられるように痛んだ。



「・・・何見てんのよ」
と。
乱馬があかねの事を見ているのに気がついたあかねが、「ほら・・・もう行きなさい・・・」餌付けをしていた小鳥を空にはばたかせてから、乱馬のほうへと歩み寄ってきた。
「あんまり遅いから、ベランダで時間潰してたの。それに、広い部屋は慣れなくて」
あかねはそう言って、乱馬に笑ってみせる。
「・・・」
乱馬がそれに対しなんと答えてよいか分からずモゴモゴしていると、
「・・・話があるの」
あかねはそう言って、乱馬を真っ直ぐと見た。
「・・・俺も」
不安と緊張でドキドキと高鳴る胸を抑えながら乱馬もそう呟いた。
二人はそのまま部屋の中に入ると、テーブルに備え付けられた椅子に並んで座った。
「・・・お父さんから、大体の話は聞いたわ。乱馬、明日から旅に出るんでしょ?」
・・・席について五分くらいは、お互い俯いたままで何も言葉を交わしはしなかったが、その緊張感に耐えられなくなったのか、まずはあかねが口火を切った。
「ああ・・・」
乱馬は、あかねのその問に完結に答える。
「・・・」
あかねはそんな乱馬の顔をじっと見詰めていた。
・・・まるでその目は、
「何かあたしに言いたい事はないの?」
そう、問い掛けているかのようだった。
「・・・」
乱馬は、黙ってそんなあかねを見詰め返す。
「あの・・・俺・・・」
何とかして、話さなければならない事を口に出そうとはするものの、
「あの・・あのさ・・・」
乱馬はどうしても上手く切り出す事が出来なかった。


言いたい事は、山ほどあった。
伝えなければいけないことも、たくさんある。
なのに・・・
なのに、
「明日からしばらく・・・逢えなくなる」
その気持ちが強すぎて、上手く言葉が前へと出てこなかった。

「・・・」
そんな乱馬を、あかねは不安そうな表情で見詰めていた。
そして。

「・・・私・・・乱馬が旅から帰ってくるまで、この町で大人しく待ってるつもりなんてないから」

いつまでも煮え切らない乱馬に向って、ついにあかねがその一言を言い放った。
「・・・」
乱馬は、声を返すことが出来なかった。
胸が、先ほどとは比べ物にならないくらいドキドキしていた。
・・・聞きたくない。出来れば聞きたくない言葉だったのに。
「・・・そうか・・・」
・・・言い返すことなんか、出来なかった。
情けないけれど、ショックを受けてしまって、乱馬はそれだけしか発する事が出来なかった。
「そうか・・・」
乱馬は、明らかに肩をガックリと落としながらもう一度そう呟いていた。
・・・が。
「・・・だから、あたしも一緒に行く」
「・・・は?」
「だから、あたしも一緒にそのたびについていくって言ってんのよ」
あかねが、そう言葉を続けたのを受けて、
「なッ・・・だ、だめだよそんなのッ」
・・・乱馬はようやく正気を取り戻した。
「ダメに決まってんだろッ」
慌ててそう否定する乱馬に、
「だれがダメって決めたのよ!おとぎ話で昔聞いた、伝説の勇者様と同じ旅が出来るんでしょ!だったらあたしも行き たいわッ」
あかねはそう言って、目をキラキラと輝かせていた。
「無茶ゆうな!第一な、何があるかわかんねえんだぞ!そんなところにおめーみたいな鈍い奴、つれてけるわけね ーだろ!」
「鈍いって何よッ」
「鈍いから鈍いって言ってんだよッ」
乱馬はそんなあかねを一喝するが、
「大丈夫よ!あたしだって格闘家なのよッ絶対に乱馬の役に立つわよッ」
あかねは、頑としてそう言って譲らない。
「役に立つとか,たたねえとかの問題じゃねえよ!命の危険だってあるかも知れねえんだ!そんなところにオメーを 連れてけるわけねえだろッ」
乱馬はあかねを説得するべく、少し強い口調でそう言って、あかねの肩をガシッとつかんだ。
あかねはその台詞を受けて,一瞬口を閉ざした。
(・・・分かってくれたかな・・・)
少しきつい口調だったけれど、これであかねも分かってくれたかな・・・と乱馬はあかねの様子を覗ったが。
「・・・だから一緒に行くって言ってんのよッ」
が。
あかねは、そんな乱馬の説得に全く懲りずに、あかねの肩をつかんだ乱馬の手を払いのけるように身をよじると、
「命の危険がある危険な旅だから、一緒に行くって言ってるのよッ」
「え?」
「いつ帰ってくるかも分からなくて、運が悪かったら死んじゃうかもしれない危険な旅なんでしょ?だったら・・・だったら余計に、ここで一人でなんて待ってられないわよッ。危険な目にあう時だから、助けてあげたいのよッ。そう思うのは当然の事でしょう!?」
あかねはそう言って、乱馬の顔をきりっとした顔立ちで見詰めた。
「じゃあ乱馬は・・・乱馬は逆の立場だったら、どうするの?あたしが旅から帰ってくるまで一人であたしの帰りを待てる?」
「そ、それは・・・」
そんなことできるわけがねえ。・・・乱馬は思わずそう口に出してしまいそうになった。
「それと同じ事じゃない・・・」
あかねは、口をつぐんだ乱馬同様、そう言って俯いてしまった。
「それに・・・お父さんが言ってた。乱馬が帰ってきたら・・・あたしと乱馬が許婚だってことを国民に正式に発表して結 婚式を行うんだって」
「あ・・・」
「それならなお更、乱馬と一緒にいて、ちゃんと考えたいのよ。・・・乱馬のこと。自分の事」
「・・・」
・・・あかねのその言葉に、乱馬は何も返す事が出来なかった。


自分が思うよりも、あかねがちゃんと乱馬との事を考えていてくれたと言う事が乱馬には嬉しかった。
がそれと同時に・・・どうしたらよいか分からなくなってしまった。
自分としては、あかねと同じ気持ちだ。
出来るなら一緒にいたい。これからもずっと。
でも、決して安全ではない旅と分かっていながらあかねを連れて行くのは心苦しかった。
「絶対に着いて行くッ。置いてこうとしてもダメなんだからッ」
・・・そう言って、少し潤んだ瞳を見せるあかねを、
「そんな事を言ってもダメだ!お前は大人しく俺の帰りを待っててくれ!」
・・・そんな風に突き放す事、乱馬には出来るわけがなかった。


「はあ・・・もうしょうがねえなあ・・・」
乱馬は、はあ・・・と大きなため息をついた。そして、
「分かったよ・・・あかねも一緒に、旅に連れてく」
「ほんと!?やったーッ」
乱馬の決定に、あかねがそう言って嬉しそうな顔をしたが、
「ただし!」
「ただし?」
「・・・俺が、これ以上旅を続けさせるのは危険だって判断した時は・・・素直にこの町に帰って来るんだぞ?いい な?」
乱馬は、そんなあかねに真面目な顔でそう言い放った。
「・・・」
乱馬の見たことのないようなその真面目な表情に、さすがのあかねも表情を改め、
「・・・分かった。約束する」
乱馬とちゃんと約束を交わした。
「・・・よし」
そんなあかねの約束を受けて、乱馬が表情をほっと柔らかいものに変えた。
そして、
「そ、それよりもさ・・・その・・・俺との事をちゃんと考えたいって・・・ほんと?」
先ほどあかねが言った言葉に乱馬がドキドキソワソワと思い出しながらあかねに問い掛けるが、
「あら?あたしそんなこと言った?最近物忘れがひどくて。こまっちゃうわ」
・・・当のあかねはそんなことを言いながらしれッ・・・とした表情をしていた。
「なッ・・・お、お前言っただろッ。俺と一緒に旅して、俺との婚約の事とか俺自身のこととか、自分の事を考えたいっ てッ」
乱馬が真っ赤になったままワナワナと震えていると、
「そうだったかしら? まあでも、乱馬と一緒に旅をしてー、乱馬が本当に国王にふさわしい人物かどうか見極めたいし?あたしはどれくら い強い女の子かってのも知りたいし?そーゆー意味合いで言ったかもしれないわねえ」
あかねはそう言って、ワナワナと真っ赤なまま震えている乱馬の耳元でこそっとそう囁いた。
「だ、だ、騙したなーッこいつッ」
俺の純情な男心をッ・・・と、乱馬が悔しそうな顔であかねを睨むと、
「騙してないわよ。それを知るのは重要な事じゃない?」
あかねは全く悪びれもせずにそう言ってのける。
「くッ・・・」
乱馬が苦虫を潰したような顔で更にあかねをにらむと、
「もー。そんな顔しないでよね。それにそれをちゃんと知っておかないと・・・」
あかねはいたずらっ子のような表情で笑って見せると、むっとしている乱馬の耳元で再度、
「・・・安心して結婚、出来ないでしょ?」
小さな声でそう囁いた。
「・・・」
その言葉に、「え?」と乱馬が表情を緩めると、
「ま、そーゆー事よ。それよりも、あんた午後からどっかでかけるんでしょ?さっき、廊下でおば様に逢った時に聞いた んだけど。その前に、あたしにもそのカードに付いて乱馬が教えてもらった事を教えてよ」
あかねはそんな乱馬の頬を両側ににゅーッと引っ張りながら、そう言って微笑んだ。
「ひ、ひたい・・・(痛い)」
・・・どうも、あかねのペースに引き込まれてる気がしてならない。
乱馬はいささかそんな気もしていたが、
(でも・・・これであかねとまた一緒にいれるんだよなあ・・・)
とりあえず、
「あかねともう一緒にいることは出来ないのかもしれない」
・・・乱馬にとって最大の不安が消えたことだけは確かだった。


「このカードってのはな・・・」

そして。
午後、のどかが言ったように、宮廷魔導士のコロンの元を訪れる前に。
乱馬は先ほどのどかと玄馬から託された例のカードについての説明を、あかねにも話して聞かせたのだった。

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