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23時の敵を撃て6

屋敷の中では、例のパーティー会場内で依然として、乱馬と帯刀が剣を構えてにらみ合っていた。
本当はお互い、すぐにでも相手を倒したい気持ちはある。
しかし、本当に格闘術に長けている者と言うのは、向かい合っただけで相手の技量を計る事ができるのだ。
乱馬も帯刀も、お互いが只者ではない実力の持ち主であるという事ぐらい、向かい合った時点で悟っていた。
二人は、無駄ににらみ合っているわけではなかった。
お互いの隙を見つけるべく、精神力を費やしながら相手の動向を覗っていたのだった。
と、そんな中。
「お兄様!」
・・・会場内に蔓延している白煙の中から、一人の女が現れた。
帯刀の妹、小太刀だった。
「!」
漆黒のドレスに身を包んだ、グラマラスで妖艶な娘。その登場に、乱馬はゾクリと背筋を震わせる。
もちろん、彼女の妖艶な美しさに身を震わせたのではない。
小太刀が現れた事で動いた、場の空気に身を竦ませた。そう表現した方が正しいであろう。
空気が、澱んだ。
胸をつくような・・・そう、まるで瘴気だ。小太刀が現れた瞬間、乱馬はそう悟った。
その澱んだ気に、乱馬は背筋を震わせたのだ。
それに、
「お兄様、そのような悪人は、すぐに切り捨てるべきですわ!そやつらは、お父様の遺品を狙う盗賊…」
「何!?」
「さ、早くお兄様の手で…」
小太刀が、帯刀と向かっている乱馬に対してそう言ったこと。それが一番、乱馬の心に引っ掛かっていた。
部屋中に乱馬のパネルを飾るほど、乱馬に心を奪われているはずの小太刀が、乱馬の顔を確認もせずに、帯刀にそう進言した事が引っ掛かった。
普通、心を寄せている相手と瓜二つ(実際には本人であるけれど)の相手が目の前にいれば、少しは驚くのが通常であろう。
「…」
小太刀がそうしない原因は、恐らくたった一つだ。
そう、乱馬に気がつく…という行為自体が心に浮かばないほど、「別の何か」に心を奪われているということだ。
その証拠に乱馬の目に映る小太刀は、瞳を異常にギラギラとさせて帯刀を見つめている。
そして、
「さ、お兄様…お父様が私達に力を貸してくれますわ」
「これは…くっ…このカードは…」
胸元に忍ばせていた例の二枚のカードの内の一枚を、帯刀の手に握らせた。
その瞬間、帯刀の顔が苦痛に歪む。
小太刀は胸元に忍ばせているもう一枚のカードを、そっと手で抑えるように目を閉じた。
すると、
シュウウ…
「!?」
小太刀が抑えた胸の辺りから、はっきりと目に見えるようなどす黒い霧が現れ、小太刀と、そして帯刀を包む。
「なっ…これはっ…僕は…僕は…!」
帯刀はその霧から逃れようとするが、小太刀が手に握らせたカードの影響なのか…その場から一歩も動く事が出来なかった。
「痛い!頭が…頭が割れてしまう…頭が…!」
帯刀が、右へ左へフラフラと霧の中を彷徨う。
「おい、そのカードを手放せ!」
乱馬は、顔を苦痛にゆがめる帯刀に霧の向う側からそう叫ぶも、
「うるさいですわ!」
シュン!
不意に乱馬のすぐ側で、空気を切る音がした。
慌てて乱馬が身を逸らすと、今まで乱馬が立っていたその場所を黒いリボンが通り過ぎた。
まるで鋭利な刃物のようなそのリボンは、辺りに漂っている霧を瞬時に切り裂いてははためいている。
「!」
…弱ったな。女相手には真剣に勝負なんて出来ねえが、そんな情けをかけて倒せる相手でもなさそうだ。
乱馬は、ギリと唇をかみ締める。
そうこうしているうちに、うめいていた帯刀は床へと一度、しゃがみこんでいた。
しかしその内、
「…父の残したこのカードを狙おうとは。許すまじ、この盗人め…」
それまで苦痛に歪めていた顔を緩め、無表情のまま…そう呟き立ち上がった。
表情はないが、目だけは小太刀同様、ギラギラと異常に輝いている。
尋常ではない。人目で乱馬にも分った。
「盗人、成敗!」
目をギラギラとさせ、そしてカードの悪しき力に魅入られた二人は、異様な気を漂わせながらそれぞれの武器を構え乱馬を睨んでいた。
帯刀の剣からも、小太刀のリボンからも…青白い奇妙な光が発せられている。
「…」
まずいな。
二人と対峙する乱馬の背中に、嫌な汗が流れた。
ただ、この汗は今対峙しているこの二人が強いから、流れたわけではない。
…この二人が先ほどから手に、胸に忍ばせているカードは紛れもなく、本物のカードだ。
あたり一帯に異様な気が漂っている事からしてもそれは、間違いがないだろう。
と、言う事はだ。
パーティーが始まってすぐ、あかねはこのカードと偽ものを摩り替えるために、宝物庫へと向かったはずだ。
それがされないままでここにあるという事は…

…あかねの身に何かが起きているという事だ。

そう言えば小太刀はここへ現れたとき、『そやつらは、お父様の遺品を狙う盗賊』と口にした。
『そやつら』と表現するのは、一人の人間に対しての言葉ではない。
少なくても乱馬を含め二人以上の人間を指す。
一人は乱馬は、そうしたらもう一人は・・・!
「おい!あかねはどうした!?あかねはどこだ!」
乱馬は二人に向かってそう叫んだ。
すると小太刀が、
「あかね…あの盗人は今頃、もう死んでいることでしょう」
「何!?」
「盗人には、それ相応の死を」
全ては言わないけれど、ほのかにあかねの危険を匂わせるような言葉を吐き、乱馬に黒いリボンを走らせた。
ガシュ!
乱馬のすぐ側に落ちていた瓦礫が、瞬時にして粉々に砕け散る。
「あかねを返せ!」
乱馬は小太刀に向かって剣を向け叫んだ。しかし、
「・・・盗人にはそれ相応の死を」
・・・あかねの事を気にいっていたはずの帯刀でさえ、
あかねの身を案ぜずに小太刀と同じ事を呟き、小太刀に剣を向ける乱馬に対し切りかかってくる始末だ。
「・・・っ」
本当のところ、もうカードうんぬんよりもあかねを探しにいきたくて仕方がない乱馬だが、
そうしようにも、カードに魅入られたこの兄妹はその邪魔をする。
まずはこの兄妹を早く倒し、元に戻ったところであかねの居場所を小太刀から聞き出す。それしか方法はないのか。
乱馬は、帯刀と小太刀の攻撃を交わしながら、ギリリと唇を噛んだ。
と、その時だった。
「くうっ・・・!」
「ああ・・・!」
「!?」
不意に、乱馬へ切りかかっていた帯刀と小太刀が、小さな叫び声を上げてその場に崩れ落ちた。
「お、おい?」
別段、乱馬が二人の身体を切りつけたわけではない。乱馬が崩れ落ちた二人に声をかけると、
シュウウウ・・・
「!?」
・・・倒れた二人の身体から、なにやら煙らしき物が立ち昇った。
その煙は、なにやらそれぞれの身体の一ヶ所に集中して集まっている。
そう、その場所とは・・・二人がカードを隠し持っている部分だ。小太刀だったら胸元に。帯刀であれば、手に。
その部分に集まった煙は、それぞれのカードを宙に巻き上げるようにして煙を媒体に舞い始めた。
そして・・・
「なっ・・・!?」
宙に舞ったカードはやがて、乱馬の頭上でその動きを止めた。
煙を媒体にしたカードはゆっくい、ゆっくりと姿を変えていく。そして・・・見る見るうちに、二枚のカードを剣の先に携えた、漆黒の騎士へと姿を変えたのだ った。
顔もなく、ただ、甲冑を纏っているかのような漆黒の騎士。
剣を持ち、そして乱馬のそれと同じようにカードを携えているその武器は、漆黒の騎士とは相反した白色にぼんやりと光っている。
ただ良く見るとその白いものは、バチバチ・・・となにやら反応をしている。
ヒュっ・・・
と。漆黒の騎士が、白く鈍く光る剣を振り回した。
すると、
ジュオ!・・・と奇妙な音を立てて、辺りの瓦礫が解けてしまった。
「!?」
・・・どうやら白く光るその剣は、異常な瘴気・・・いや、瘴気を出す魔法なのか。
いずれにせよその剣は、妙なパワーで包まれている事間違いない。
その剣で身体を傷つけられたら、ただの切り傷でも治るまでに時間がかかることも間違いない。乱馬はそう直感した。
二枚の悪しきカードは、帯刀と小太刀の精神を完全に侵食し、その能力を奪った。
そして、「漆黒の騎士」と姿を変えて、こうして乱馬の目の前へと現れたのだ。
その能力は、未知。ただ、帯刀と小太刀の持っていた二枚のカード・・・両方の力を携えた、かなりのつわものである事は確かだ。
もちろん、この漆黒の騎士に負けるという事は・・・乱馬が持っているカードは全て取られてしまう。
そして、乱馬自体もこの騎士、いやカードに魅入られて・・・悪しきものへと姿を変貌していくであろう。
「・・・!」
・・・くそ、あかねを探しにいかなくちゃいけないのに!
目の前の漆黒の騎士の剣先に捕われながら、乱馬は気ばかりを焦らせていた。
そうこうしているうちに、漆黒の騎士は乱馬に向かい剣を構えながら走り寄って来た。
乱馬は慌てて剣を構えようとするも、それより早く、漆黒の騎士が乱馬の懐に飛び込み剣を振り下ろそうとしていた。
「!」
やられるっ・・・乱馬はそう直感し、ぎゅっと身を固めてその刃を受けざる得まいとその場に立ち尽くした。
すると、
「紅蓮撃!」
ドオン!
「うわ!」
ビュッ・・・不意に乱馬の後方から深紅の炎の風が吹き、乱馬に向かって剣を振り下ろそうとしていた漆黒の騎士の身体を、吹き飛ばした。
「あちちっ・・・」
その衝撃で、若干乱馬の髪の毛もチリリと焦げた匂いがしたが、今はそんな事をいっている場合ではない。
乱馬は深紅の炎を放った元を振り返った。
そこには、
「何してるか、乱馬!危ないところだったぞ!」
「な、な、な、何だ!?あの黒いお化けは・・・!」
門のところから乱馬とあかねを探すべく屋敷へと入ってきたシャンプーとアルファードが立っていた。
先ほどの「紅蓮撃」・・・炎の突風を放ったのは、どうやらシャンプー。
シャンプーの左手部分に、先ほど放った「紅蓮撃」の残像としてオレンジ色のオーラが微かに残っていた。
さすが、攻撃系の魔法の覇者である。倒すには力が足りないにしても、漆黒の騎士の身体を吹き飛ばすほどの魔力を持っていてくれた事は、非常にあり がたい。
「シャンプー!それにアルファードも・・・すまねえ!」
乱馬は急いで二人の元へ駆け寄り、そう叫ぶ。
「屋敷の男達、皆逃げ切る事が出来たね。あとは乱馬が、私と戻れば大団円ね」
こんな状況にも関わらず、乱馬の腕を取りながらべったりと甘えるシャンプーに、
「あかねがいねえんだ!まだこの屋敷のどこかにいるはずなんだ!」
「あかね・・・本当に足手まといあるな。カードの摩り替え、失敗したのだな?」
「それよりも、早く助けてやらねえと・・・!」
さらっと皮肉を言うシャンプーを交わし、乱馬がそう叫ぶと、
「わああ!またあの黒いバケモノがくるぞ!」
そんな乱馬の背中に隠れるようにして、アルファードが叫んだ。
「!」
乱馬とシャンプーがその声にはっと息を飲むと、先ほどシャンプーの魔法でふっ飛ばされた漆黒の騎士が再び乱馬達に向かって剣を片手に走ってくると ころであった。
「せい!」
先ほどは隙をつかれたが、今度はそうはいかない。乱馬が走ってきた漆黒の騎士を自らの剣で切り裂く。
しかし、
ヒュンッ・・・
「!?」
漆黒の騎士の身体は、乱馬の剣で真っ二つ・・・いや、二つには裂けたが、それはまるで煙を剣で切ったような手ごたえのないものであった。
案の定、漆黒の騎士の身体はすぐにまた一つに戻り、また乱馬達に向かって突進してくる。
「あの騎士、何あるか!?帯刀が用意していた魔物ではないのか?!」
切っても切っても倒れる事のないその騎士の様子に、シャンプーが半分悲鳴のような声を上げた。
「何って・・・あれは、帯刀と小太刀を魅入ったカードが、二人のパワーを混合させて作り出した魔物みたいなもんか?」
乱馬が口早にシャンプーに説明をすると、
「カードの力が生み出した魔物・・・。あの魔物、カードが作り出したものだったあるか」
シャンプーはそう言って、黙った。そして、
「そうあるか、だからさっき、乱馬の攻撃は無効化されて、私の魔法攻撃だけ有効に・・・」
シャンプーはそんな事を呟きながら騎士の振り下ろそうとしている剣や、その姿をじっと観察していたようだが、
「乱馬!そしてそこのお前!」
・・・漆黒の騎士が乱馬達から少し離れた瞬間を見計らって、そう叫んだ。
「え、お、俺?」
シャンプーの声に、乱馬の背中に必死に隠れていたアルファードが驚きの表情を見せる。
「とにかく二人とも、私の後ろに隠れるよろし!」
「へ?!」
「いいから!カードの魔物、大変強力ね!ひいばあちゃんの持たせてくれた魔法書にも色々と書いてあった。
  だったら、普通に剣を振り回して戦っても、体力を消耗するだけね!」
シャンプーは乱馬とアルファードを自分の後ろに走らせそう叫ぶと、左手を天井に向かってゆっくり翳した。
そして、右手で何かの紋章を描くかのように空気を切ると、
「流水壁!」
大きな声で、そう叫んだ。すると・・・
「うわー!」
「み、水がっ・・・!」
シャンプーの声と同時に、乱馬達三人が立っているそのスペースギリギリの所に、まるで円形の壁を描くが如く水柱が激しく立ち上った。
その名の如く、それは水の「壁」。漆黒の騎士の侵入を、跳ね除けるかのように地面から巻き起こっている。
「すげえ!水の壁か!」
乱馬が興奮しながらそう叫ぶと、
「カードの魔物は、そのカードの魔力を使って戦うはずある。あの騎士の持つ剣から、妙な魔力も感じるね」
「やっぱり・・・」
「それに何度切っても身体が元通りになるというのは、通常の魔物ではあり得ないね。そんな相手に、普通の剣では勝てない」
「そ、そうか」
「乱馬のその剣、勇者の剣。でも、カードをスロットに差さずに使用すれば『ただの剣』と同じこと」
シャンプーはそう言って、一息ついた。
「カードの魔物を倒すには、物理攻撃ではなく魔法攻撃も必要ある。
  だから、私の魔法・・・ひいばあちゃんのに比べたら全然微力あるが、漆黒の騎士を跳ね除けるのに有効だった」
「そうだったのか」
「そして、この壁・・・私が作ったのは、水で防御壁を作り出すもの。水属性は、強力な攻撃魔法もあるが、主に防御系の魔法を司る事が多いある」
「みず、ぞくせい?」
「魔法というのは基本的に、自然界のいずれかの属性を有するある。
  火・水・風・土の四大属性と、それとは別に特殊属性・・・光と闇の属性魔法もあるある。大抵の魔導師は、四大属性の魔法を使うある。光と闇の魔法を 使える者は、特殊能力者だけと、昔ひいばあちゃんに教わったね。それに、何百万人に一人、それも何万年に一人の割合でしか使えない特殊魔法。魔 術書も見たけれど、このカードでさえも特殊魔法を属性とするものはなかった」
「へー・・・」
「つまりどんな魔法でも、大まかに言えば四つの属性にわけられる。
  乱馬の持つカードも、それぞれのカードに込められた特殊な魔力の他に、四大属性があるのだぞ」
シャンプーはそう言って、持ってきた魔法書を乱馬に見せた。
魔法書には、カードの説明の他に・・・なるほど、小さな文字で「FIRE」「WATER」「WIND」「EARTH」とそれぞれのカード別に記されていた。
  「つまり・・・例えば俺がもっていた『愚か者』のカードって言うのは、大道芸人みたいな力を持っているのと同時に・・・あった、ええと、『FIRE』だから火か。 火属性の魔法を使えるってことか」
「そうある。もしくは、火属性の攻撃には耐性・・・相手からの火属性攻撃を無効化できるということある。
  特殊能力に四大属性魔法・・・二つの力が込められているから、そのカードの力は絶大なのだな」
シャンプーは、魔法の説明を簡単に乱馬に話すと、
「私が見た所、あの漆黒の騎士・・・素早い動きで攻撃してくる所から見ると、風属性の魔法の使い手かもしれないね。火属性の紅蓮撃は有効だったし、 かろうじてあるが水属性の防御魔法も有効ある。
  となると、二十二枚のうち風属性で、尚且つ乱馬が持っていないカードは・・・」
そう言って、魔法書をパラパラと捲り調べた。
「女帝・皇帝・節制・審判、あるな。その上あの魔物、騎士の姿をしているある。
  カードが暴走するのも、そのカードと全く無関係な出で立ちで暴走する事は考えられないあるから、もしかしたらこの館にあった二枚のカードは、女帝と 皇帝のカードかもしれないね」
シャンプーはそう言って、乱馬を見た。
「あのカードは、確か『持ち主を選ぶ』んだよな?」
「そうある」
「国ほど大きくないけれど、この町を治める領主兄妹の下にあるカード・・・この町の住人たちからすれば、この兄妹がこの町の皇帝でもあり、女帝でもあ るんだもんな。考えられなくはねえ」
乱馬はそう呟いた後、あかねがその事実を知ったときと同じようにブルっと身震いをした。
何とも恐ろしいカードである。
シャンプーもその事実には神妙な表情で頷いていた。そして、
「・・・とにかく。乱馬があの騎士と戦うのには、風属性以外の攻撃・・・土属性は試してないから分らないけれど、火・水属性の魔法を上手く使っていくしか ないね。火ならばさっきも試した通り、間違いなくダメージを与えられるある」
と、乱馬にアドバイスをした。
乱馬は、シャンプーのアドバイスに素直に頷いた。が、
「あのよー、シャンプー」
「何あるか?」
「あのさ・・・魔法の仕組みとかカードの仕組みとかは良く分ったんだけど・・・。
  俺、魔法なんて使ったことないんだけど・・・。ていうかさ、属性攻撃とかは理解したけど、実際にカードをスロットに差し込んで構えた後は、どうしたら良いんだ?」
「え?」
「その・・・構えただけじゃ魔法って出ないんだろ?どうやって魔法を出したらいいんだ?ただ切りつけるだけじゃ、物理攻撃だよ・・・な?」
「・・・い、言われてみればそうあるな」
・・・格闘と名のつくものならば、大抵は乗り越えて来た乱馬だ。
しかし、集めたカードを剣に差し、実際に魔物と戦うのは今日が初めてだ。
どのカードを使って、どんな風に戦えば良いのか。乱馬にはまるでイメージが出来なかった。
「そうあるな・・・一応ここに、カードの説明が載っている本も持っては来ているが・・・」
シャンプーとて、魔法関係には詳しいが、カードそのものを使っての戦闘に参加する事は初めてだ。
「カードをスロットに入れて、そのカードの力を借りて戦う」…大まかな方法は乱馬とてわかっている。
だけれど、
カードの力・・・剣にそのパワーを感じる所までは、この町にくる前にコロンと学習をした。
だが、魔法を「どうやって」実際に出したらよいのかまでは・・・聞いてないのである。
「・・・」
・・・漆黒の騎士に対抗するだけの秘めた力は、目の前にある。
しかし、それを有効利用する術を知らない。
それでは、全くこの場ではどうにもすることが出来ない事間違いない。
「うーん、多分頭の中で魔法を使って戦闘する姿とかを思い浮かべれば、勝手に出てくれるとは思うのだが・・・」
「そ、そう言うもんか?」
「本にもそこまでは書いてないあるし・・・」
乱馬とシャンプーは、思わずお互いの顔を見合わせてため息をついてしまった。
と、その時。
ジュオ!
・・・それまで乱馬達を守っていた水の壁が、漆黒の騎士の剣先が放つ瘴気のせいで崩れ始めていた。
「乱馬、時間がないある!早く作戦を立てないと・・・!」
「わ、分かってるって!ええと・・・」
乱馬は剣先の攻撃を警戒しつつも、必死に手元の剣と、腰のカードフォルダのカードとにらめっこしていた。
が、忘れてはいけない。彼は通称「バカ王子」・・・理論で戦いが出来るようなタイプではないのだ。
しかも、カードの意味自体も良く理解していないというのに、この状況を切り開く作戦など立てられるわけがない。
「乱馬!早くするよろし!」
「う、うるせえ!今考えてる!」
崩れかけた防御壁中で、シャンプーと乱馬はお互い必死になりながらそう叫んでいた。
と、その時だった。
「その本、俺に見せてくれないか!?」
それまで乱馬の後ろで隠れているだけだったアルファードが、剣とカードとにらめっこをしている乱馬に声をかけてきた。
「見せてくれないかって・・・お前、魔術なんてわかるのかよ」
商人だろ?---乱馬がそうアルファードに返すと、
「魔術自体は良くわからんが、  俺、商人の修行をしている時に、魔術書とか・・・市場には珍しい本を鑑定したり、売りさばく為の資格を取る為に、魔法用語とかの勉強もしていたんだよ。資格ももっている。まさかそれがこんなところで役に立つとは思わなかったけれど」
「へー・・・商人て、オールマイティなんだなあ。商人の道は一日にしてならずってか?」
「まあな。それよりも早く!俺が、打開策を考えてやるよ。俺、体力とか腕力は自信ないけど、そういうの得意なんだ!」
「ああ、頼むよ」
乱馬は素直にアルファードに本を渡した。
アルファードは、その本を読み始めた。
「俺が持っているカードは、二十二枚の内の六枚。力・法皇・戦車・星・魔術師・愚か者だ。
「分った。じゃあ、俺が作戦を考えている間、なんとか攻撃を凌いでくれ。そうだな、とりあえずこのカードをスロットに差して」
アルファードは本を読む傍ら、乱馬に一枚のカードを差し出した。
それは、「魔術師」のカード。コロンが旅の初めに乱馬に渡したカードだ。
「そのカードは、魔術を司るカードなんだろ。てことは、他のどんなカードよりも、魔法に関しては頼もしいだろ。それにちょうど属性も『FIRE』って書いてあ るし。例え火属性のカードでも、きっとそのカードなら、他の属性の魔法も少しは使えるはずだろうし」
「お、おう」
乱馬はアルファードからカーどを受け取り、さっそく剣のスロット部分にカードを差し込む。
「おい、これはえっと・・・」
「正位置方向に差し込むんだ。逆位置(リバース)だと、すぐにあの黒お化けにやられちまうぞ」
「わかった」
そう、カードには「正位置」「逆位置」がある。乱馬は「魔術師」のカードをスロットに正位置方向に差し込んだ。
その瞬間、
ヴオン・・・と、剣を握る手にズシッとした重力がかかった。剣先も、以前見たのと同じように、ポウッ・・・と光る。
乱馬は一瞬剣を手離してしまいそうになるが、ここで剣を落としてしまっては意味がない。
とりあえずはその感覚に耐え、改めて剣の柄から伝わってくるそのカードの「力」を感じるようしっかりと柄を握り締める。
そんな乱馬に対し、再び漆黒の騎士は切りかかってきた。
ヒュッ・・・
再び、瘴気を伴なう魔法攻撃だ。
「・・・」
乱馬はその攻撃を素早く交わし、シャンプーやアルファード達から少し離れた場所へとジャンプした。
そして、
(・・・えーと?攻撃するにはまず、火属性の魔法・・・)
・・・まずは、あやふやではあるが、火属性の魔法をあの騎士へと向ける・・・というあやふやなイメージを頭の中に描きつつ、
「頼む、剣よ・・・あの漆黒の騎士に火の魔法を!」
そう強く願いながら、漆黒の騎士に虹色に光る剣先を向けた。
すると次の瞬間、
ゴオオオッ・・・
乱馬が剣から飛び出す火を頭の中にぼんやりと描いた、それと同じ構図。
乱馬の握る虹色の剣先から、まるで竜が飛び出していくかのような形を描き、炎が漆黒の騎士へと襲い掛かった。
あまりの勢いに、
「うわ!」
炎を出したはずの乱馬の方が、ペタン、と後ろにふっ飛ばされて尻餅を着いたほどだ。
ゴオオオオッ・・・
乱馬の剣先から飛び出した赤い火の竜の姿をした炎は、漆黒の騎士を一瞬で包んだ。
漆黒の騎士はその炎の中で悶えるように苦しみ、そして再び煙のように消えて別の場所へと姿を表し剣を構えたのだが、
一番初めに乱馬が普通の剣でその身体を切りつけた時とは大分反応も違う。
元通りの姿に再生するまでに、何倍も時間がかかっていた。それに、
「!?」
・・・良く見ると、今の攻撃により、漆黒の騎士の左足部分が消えていた。
どうやら、姿は再生しているとはいえ、何かしらのダメージを与えている事には間違いない。
ふっ飛ばすだけだったシャンプーの火属性の魔法よりも格段に威力が上だった。
属性攻撃の他に、魔術師のカード自体が持つ魔力が反映された結果である。
「すげえ!このカードすげえぞ!」
・・・城で「愚か者」のカードを使用した時は、大道芸人のような旗とか紙ふぶきとかしか生み出す事が出来なかった乱馬は、思わずこの「魔術師」のカード の威力に感激し、背後で援護をしてくれる予定の仲間達を振り返るが、
「乱馬!戦いの最中に油断は禁物ね!手負いの獣、一番凶暴あるぞ!」
シャンプーがすかさずそう叫ぶ。
「そ、そうだった・・・」
乱馬は慌てて前を振り向き、再び漆黒の騎士と向かい合う。
漆黒の騎士は、先程よりも素早い動きで、再び乱馬に向かって走り寄って来た。
「よ、よし・・・今度は・・・」
乱馬は再びしっかりと剣を構えると、今度は頭の中できちんと攻撃図を描いてみる。
「頼む、剣よ・・・あの漆黒の騎士を炎の渦で包め!」
そして、自分が思い描いたように剣へと念じてみた。
剣は、乱馬の声を聞き入れるかのように一度、ヴォン・・・と重力を手にかけた。
そして、乱馬が念じたように・・・先ほどは竜の形をした炎が向っていっただけであったが、今度は剣先から渦巻状の細い炎が幾筋も漆黒の騎士めがけ て飛んでいき、その身体を包んだ。
漆黒の騎士は先程よりも悶え苦しみ、そして時間をかけてまた、再生する。
今度は、右足だけではなく両足・・・いや、下半身全体が消えていた。
ちりちりと燃え上がる深紅の炎の中で、上半身だけの漆黒の騎士がボーっと浮かび上がる。
異様な光景だった。
「すげえ!このカードすげえぞ!なあ、今の技の名前、紅蓮旋風破っての、どうだ!?」
乱馬は、先ほどと同じように素直にカードの魔法に感動し後ろを援護している仲間達を振り返った。
もちろん、
「乱馬、技の名前なんて後で決めるある!とにかく早く、その敵を倒すよろし!」
「そ、そうだった・・・」
シャンプーにくわっと威嚇されて、再び前を向き直る。
なんとも緊張感に欠ける戦闘だが、それでも初めての魔法戦闘に乱馬は興奮を隠せなかった。
もちろん、カードから魔法を放つという事はそれなりに術者の体力を削っている事になるのだけれど、今の乱馬が勿論それに気がついているわけもな い。
「さ、次はどんな魔法か・・・」
両足を消す事が出来たのならば、もう半分はダメージを与えたという事。あと少しだ。
乱馬は再び頭の中で攻撃をイメージするべく、攻撃図を思い描こうとした。
しかし・・・
「あ!」
ビュッ・・・
深紅の炎の中、上半身だけの姿で宙に浮いていた漆黒の騎士が、急にふわり、ふわりと部屋の奥・・・そう、パーティ会場の中央部分へと移動してしまっ た。
「待て!トドメを・・・!」
それまでは、会場の端、壊れた壁の付近で戦闘をしていた乱馬であったが、ここで逃げられてはたまらない・・・と騎士を追って会場の中央まで走ってい く。
会場の中央の床には、瓦礫の中に埋もれるようにしてあるものがまだしっかりと描かれていた。
あるもの・・・そう、昼間あかねがこの場所を偵察に来た時にメモに記した、見慣れない魔法陣である。
漆黒の騎士は、ふわりふわりと揺れながら飛んで来て、うまく乱馬をその魔法陣の中央へと誘っていたのだ。
乱馬がその魔法陣の中へと足を踏み入れた瞬間、一瞬だがその魔法陣が「ヴォン」と音をたてて光った。
「今、一瞬あの魔法陣・・・光ったな」
その乱馬の姿を、
まさか乱馬が誘導されているとは気がつかないシャンプーは、はじめはじっと、流水壁の中で見守っていた。
が、魔法陣が光ったそのすぐ後、
「・・・あれ?あの床・・・」
シャンプーの隣で先ほどから魔法書とにらめっこしていたアルファードが、ぼそっと呟いたことではっと息を飲んだ。
「床がどうしたのか?」
シャンプーがアルファードに尋ねると、
「いや、あの床の図形・・・この本に載っている図形にそっくりだと思って」
アルファードはそう言って、今読んでいるその魔法書のとあるページを、シャンプーに見せた。
「・・・?」
シャンプーがそのページを見ると、
そこにはカードの生まれた経緯と、そのカードを作るきっかけとなった王の姿が描かれていた。。
アルファードが指摘したのは、その王が被っている王冠の額部分に描かれた紋章。
珍しい事にその紋章、紋章にしては複雑な絵柄・・・そう、まさに魔法陣のような作り。
・・・
「しまったある!」
その図を見た瞬間、シャンプーは叫んだ。
「だめある!乱馬、そこにいってはいけない!」
「は?」
魔法陣の中央にすでに誘われていた乱馬は、シャンプーの声を聞いて首を傾げるが、時すでに遅し。
シャンプーが叫んだ時にはもう、乱馬はその魔法陣の中心エリアへと入ってしまった後。
そうこうしている内に、
ジジジジジジ・・・
無気味な音が、あたり一体に響いた。そして、
「なっ・・・こ、これは!?」
次の瞬間、それまでふわりふわりと宙に浮いて乱馬の側を飛んでいた漆黒の騎士が、何と・・・十二体に分裂してしまったのだ。
しかも、
ヒュンッ・・・ヒュンッ・・・
「手負いの獣ほど、凶暴になる」
その言葉を裏付けるかのように、先ほどまでとは比べ物にならないくらいのスピードで、乱馬に切りかかってくる。
魔法陣の上で、より活発な動きを見せるようになったのだ。
乱馬は慌ててその場から逃げようとするが、
「!?」
なんと、魔法陣の外へ逃げようにも、そこから出ることが出来ない。
どうやら、「魔法陣」という名の元のトラップに、閉じ込められてしまったようだ。
魔法陣は、乱馬が足を踏み入れた瞬間に光りを放った。
それは、乱馬を「敵」・・・閉じ込める相手、と認識した証拠だった。
「乱馬!その魔法陣、そのカードを作るきっかけとなった王の、王家の紋章と一緒ね!だから私、見覚えがあった!」
「!」
「王家の紋章、ということは、カードの魔物の魔法に大いに関係あるぞ!
  元々そのカード、王の無念や恨みなんかも込められているある。そんな王の紋章、そこらへんの魔法陣なんかよりもずっと、魔法をかけるのに有効 的!」
「・・・!」
「そこから出るには、魔法をかけたものを倒さないと解けない!」
「何!?それじゃあ・・・」
「乱馬、その騎士を倒す、じゃないと出れないね!」
「何ー!?」
乱馬がそう叫んだところで、不意に乱馬の視界が遮られた・・・いや正確には、十二体の漆黒の騎士が乱馬の周りに円を描くように配置しあうと、 それぞれが一斉に攻撃をし始めたのだ。
「うわ!」
四方八方からの激しい攻撃に、乱馬は反撃どころか逃げるのに精一杯だ。
取りあえず適当に剣を振り回してみるも、魔法を使わなければ何度切りつけても元通りに戻ってしまうし、魔法を使おうにも頭の中にイメージを描いてい る余裕がない。
ただ運がいいことに、攻撃スピードは早いが、攻撃力は先程よりは若干、落ちているのか。乱馬はそう感じた。
しかしそうは言ってもこのままでは、やられてしまう。
乱馬はまずは体制を立て直すべく、先ほどのシャンプーがそうしたように、自分も防御壁を作ってみようと考える。
このカード自体は、火属性。火の魔法で防御壁は作れないけれど、
でも先ほどアルファードが言っていた通り、このカードは「魔術師」のカード。
属性魔法以外でも、きっと少しは使えるはずだ。
「えっと確か水属性は防御の属性・・・ならば・・・!」
先ほど覚えた知識を生かし、乱馬は水属性の魔法で自分の身を守る「壁」を作るイメージを頭の中で描いてみた。
「頼む、剣よ・・・俺の身を守る壁を作れ!」
すると、
ゴオオオッ・・・
念じた瞬間、剣先から水の竜巻が飛び出し宙を舞った。
その竜巻は一瞬にして漆黒の騎士達を吹き飛ばし、その隙に乱馬を、クリアブルーのピラミッドの中に囲むように姿を変えた。
どうやら、防御壁を作る事に成功したようだ。
ただ、属性魔法ではない上に、
敵が十二体もいると、いくら強力な魔法が使える剣を持っているからとはいえ、防御できるのにも限界がある。
一応は乱馬の身を守るべく防御壁は存在しているが、今にも突き破られそうな勢いで、吹き飛ばされた騎士達が再び、攻撃を仕掛けてくる。
この防御壁が破られるのは、間違いなく時間の問題だ。
「・・・」
一時凌ぎのこの防御壁が消えてしまう前に、次の策を考えなくてはいけない。乱馬は焦った。
「シャンプー!アルファード!次はどうすれば良いんだ?」
乱馬は、防御壁の中から、部屋の端にいる仲間達に向かって叫んだ。
「今考えているね!」
しかし、お互い気が焦るだけで、中々的確なアイデアが出てこない。
「早く何か考えねば、わたしの乱馬が危ないね!」
シャンプーが、魔法陣の中にいる乱馬の背中に向かって叫ぶ。
「・・・」
その呟きを聞きながら、「乱馬の奴、あかねって子が許婚だとか言ってたのに、この人とも付き合ってんのか?」・・・アルファードはそんな事を思うも、
「早く考えるよろし!」
「は、はい・・・」
横にいるシャンプーの迫力に、ビクビクしながら魔法書をめくった。


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