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23時の敵を撃て4

屋敷の奥、円形ドームからは音楽隊の演奏が華やかに流れ出ていた。
廊下には兵、そして屋敷の所々にも物々しい数の兵が配置されている。
赤い絨毯を敷き詰められた廊下を、厨房所属の使用人たちが忙しそうに駆け回っていた。
シルバーのワゴンに乗せられた、豪華な料理が乗った皿も、ほんのわずかな時間で全て空。
働き盛りの男たちが多いパーティなど、使用人泣かせそのものである。
屋敷の主・帯刀の妹、小太刀の結婚相手を選ぶパーティーは、現在の所順調に執り行われていた。
「はっはっはっ・・・小太刀、めぼしい男はいたか?」
「今、見定めておりますわ、お兄様」
ドームの会場の中央奥、少し高台になっている部分より会場を見下ろしながら、
酒を片手にご機嫌な帯刀、そして片思いだが心に決めた相手はいるけれど、とりあえずは相手を探しておこうという小太刀の二人は、そんなことを話していた。
会場の中では、乱馬と、そしてアルファが時計とにらめっこをしながら来たるべき時を待っていた。
これから起こる事を考えると、なんとなくソワソワとしてしまう二人であったが、ここで妙なことを感ずかれても失敗の元。
とりあえずは帯刀や、そして小太刀の目に付かないように、ドームの隅へと身を寄せていた。
そして、それと同時刻。

「・・・」
シャンプーたちからの指示書にあった通り、あかねはひとり、パーティ会場を抜け出して屋敷内を歩いていた。
もちろんメイドの格好をしている為、
「お疲れ様です」
「うむ」
会場付近を警備している兵には、怪しまれる事はない。ただ、
「あかね、どこに行くの?」
「緑子先輩。えっと、その、ちょっとお手洗いに・・・」
まさか、「カードをすり替えに行くんですよ」などとは言う事は出来ない。あかねが、自分を監視しているらしき緑子にそう答えると、
「じゃあ私も一緒に行こうかしら」
緑子も、そんな言い訳では引いてはくれない。
なんせ、小太刀から「目を離すな」と指令を受けているのだ。主人の命と、そして帯刀へのさやかな恋心・・・あかねの事は嫌いではないが、緑子も引くには引けない状況なのだ。
「・・・じゃあ、いっしょに」
ただ、ここで緑子についてこられるとあかねとしても困るところだ。
少々手荒な真似は仕方ないとして、とりあえずあかねは緑子と共に、従業員専用の部屋へと向かい、
「緑子先輩、先にお手洗い使ってください」
「あかねちゃん、先でいいわ」
「そうですか?・・・あれ?アレは何かしら?」
「え?」
「ほら、先輩、お手洗いの壁のところに黒い物が・・・」
乱馬との連絡用に使っていたトイレへとやってくると、そんな事を言いながら緑子の視線をトイレの中へと向けさせた。
「黒い物なんて無いじゃない・・・?」
緑子は、あかねの言葉を信じ素直にトイレの中を覗きこんだ。そして、あかねが指摘した壁をぐるりと一周見回す。
「そうですか?ほら、先輩、もっと上のほうですよ」
あかねはそう言って、緑子の視線をトイレの壁上部に向けさせた。
「ええ?」
緑子はあかねの言葉どおりに視線を上へと向ける。
「・・・」
先輩、ごめんなさい。
あかねはそんな緑子に心の中でこっそりと謝った。
そして・・・
「あっ・・・」
ドスっ。
上を向いている緑子へ当身を食らわせると、床に崩れ落ちた緑子の身体を、従業員専用部屋にある鍵付きロッカーの中へと押し込み鍵をかけた。
緑子には気の毒だが、あかねがカードをすりかえに行っている間は、気を失っていてもらうしかない。
戻ってきたら、適当な事を言って誤魔化そう・・・あかねは、緑子にもう一度心の中で謝りながら、従業員部屋の壁にかかっている鍵の束を素早く持ち出し部屋を出た。
まずは、帯刀の部屋だ。帯刀の部屋の文机の引出しの中にある別の鍵の束・・・その鍵を使わないと、宝物庫は開かないのである。
「・・・」
極力自然に振る舞いで廊下を歩きながら、あかねは帯刀の部屋へと向かい中へと入った。
そして素早く鍵の束を引出しから出すと、今度は宝物庫のある場所へと向かう。
宝物庫は、ドーム会場とは反対側の廊下に位置している。おかげで、兵の警備もまばらで済む。
「あの、帯刀様がパーティ会場にいらっしゃるようにと、おっしゃっていました」
「しかし警備が・・・」
「警備ばかりではお疲れだろうからと・・・ここは大丈夫ですので、是非会場へ行ってあげてくださいな」
「そうか?ならば・・・」
あかねは警備兵達をわざと会場へと向かわせると、足早に宝物庫への道を急いだ。
その途中、
カツンっ・・・
「え?」
あかねが進んでいく道ではなく、通ってきた道の後方で石が転がるような音がした。
煉瓦造りの地下道だ、上からの隙間風で煉瓦でも捲り上がったのだろうか。
あかねが立ち止まり振り替えるも、そこはただ、明り取りの蝋燭がオレンジの炎をユラユラと揺るがして見えるだけ。
もちろん人影など、ない。
「・・・」
気のせいか。あかねは再び気を取り直すと、煉瓦の道を宝物庫へと走ったいった。
無論あかねは、
「・・・」
あかねが再び走り出した後、蝋燭の影、通路がちょうど折れ曲がってあかねの視界からは見えなかった部分から、
一つの黒影がゆらり、と隙間風とともに床に揺らめき揺れた事など全く、気が付いてはいなかったのだが。

・・・煉瓦の道をしばらく行くと、やがてその突き当りを迎えた。
そこには、絢爛豪華な装飾のドアが一つ、あった。
あかねが昼間見かけたものと、同じもの。宝物庫のドアである。
「・・・」
あかねは、持ち出してきた鍵の束をそのドアの鍵穴へとあわせようとしたのだが、ふと、手を止めた。
そう、昼間このドアを少しだけ開けただけなのに・・・中から、おぞましい「気」が外へと流れ出してきたのだ。
昼間で、思わず胸がつかえるような、おぞましい瘴気を感じたのだ。
一般的に、昼間よりも夜、朝よりも夕、のほうが魔力や魔法は強力になるとされている。
だとすれば、カードの魔力だって朝よりも夕、昼よりも夜のほうが少しは増すはずであるし、そうなればもちろん、カードが放つ「瘴気」も増すはずである。
全く免疫の無い帯刀ほどではないが、昼間の瘴気であかねとて胸を悪くしたのだ。
この夜の時間帯にその瘴気をじかに浴びてしまったら・・・そう考えると、若干の不安があかねの胸を過る。
しかし、シャンプーたちが作戦を仕掛けてくるのは、パーティー開始から二十分後だ。それを考えると、ぐずぐずしたり躊躇している暇など一刻も無いのだ。
「・・・」
あかねは、一度深呼吸をして気持ちを落ち着かせた後、ゆっくりと鍵穴に鍵を差し込んだ。
・・・かちゃん。
静かな空間に、鍵が回る乾いた音が流れる。
ギギギ・・・あかねは、真剣な面持ちで重々しいドアを押していった。そして、薄暗い宝物庫の中へとゆっくり、足を踏み入れた。
とたんに、
「きゃっ・・・」
ブワリ、とあかねの髪や衣装をなびかせるほどの得体の知れない「風」が、あかねを襲った。
「くっ・・・」
顔を撫でる風は生暖かく、そして・・・言い知れぬほど、「重い」。
どう考えても「そよ風」のような爽やかさはない。それどころか、顔に浴びただけでもなぜか、胸をつく。
瘴気だ。あかねはブルリと身を震わせた。
「・・・」
瘴気を浴びつづけると、精神力の弱い人間や一般の人は身体に変調をきたしたりする。
精神までも瘴気に侵されて、やがて魔物のようになっていく・・・カードに人格が支配されるのが良い例だ。
あかねは、普段より道場で体力・そして精神力の修業を重ねてきた。カードに対してだって、乱馬が普段より持ち歩いている為、少しは抵抗力はあるはずだ。
乱馬と一緒にいる時には、このような瘴気はカードから感じられない。それはもちろん、乱馬の所持しているカードフォルダーや、カードの瘴気を分散させてしまうほどの強い魔力を持つ人間・・・シャンプーや、カード継承者の乱馬が側にいるからだろうとは思うけれど。
でも、その人々と別れ、実際に今あかねは、カードの瘴気をもろに浴びている事になる。一体どこまで耐える事が出来るだろうか。
「・・・」
シャンプーのように、自分の身を守るような魔法は持ち合わせてはいない。あかねには、魔力など無いのだ。
あかねは、それが有効的なのかどうかは分らないけれど、とりあえず体内にその瘴気を流れ込ませないように・・・と片手で口と鼻をカバーした。
そして、いよいよカードが収められている部屋の中央のガラスケースへと、歩み寄った。
・・・宝物庫の中は、屋敷の内部のようにこうこうとした明かりなど、ない。
それこそ、石の壁に数箇所、蝋燭のあかりがともされているだけだった。
部屋に満ちている瘴気のせいで、元々オレンジ色の光のはずなのにも関わらず、揺らめく光はグリーンだ。
そして、目には見えない気の流れに煽られて、時折ボウっ・・・と大きな火の手を天井に向かって伸ばしている。
「・・・」
床に映る影が、時折奇妙な形であかねの目に映る・・・何だか自分が、魔物にでもなってしまったような錯覚だ。
ここに長くいたら、間違いなくあかねとて、瘴気に冒されておかしくなってしまう・・・危機感を感じたあかねは、カードが収められているガラスケースへ素早く手をかける。
透明なガラスケースの中には、漆黒の艶やかな布に守られるようにして、二枚のカードが収められていた。
カードの上部・・・数字をあらわすところには、「W」そして「V」と描かれている。
国王のような出で立ちをした男性の絵柄と、これは姫君だろうか・・・煌びやかな衣装に身を纏った女性の絵柄が描かれていた。
絵柄のタッチは、乱馬の持っているカードと全く同じだ。
「何のカードなんだろう・・・」
あかねは、ガラスケースを外し床に置くと、すりかえように・・・とシャンプーから預かっていたダミーのカードをエプロンのポケットから取り出して、同じ「V」「W」のカードを取り出した。
カードの下部には、「V」は「THE EMPRESS」、そして「W」は「THE EMPEROR」と記されている。
THE EMPRESSは「女帝」、THE EMPERORは「皇帝」だ。
「・・・」
そのカードの名称を目にした瞬間、あかねの背中にゾワリ、とした悪寒が走った。
・・・カードは、持ち主を選ぶ。コロンはそう言っていた。
「THE FOOL(愚か者)」が乱馬と玄馬の所にあったのはおいておいてだ、
だから、「STRENGTH(力)」のカードはクマ型モンスターをも倒す屈強な木こり達の下にあった。
「THE MAGICIAN(魔術師)」は、強力な魔法使いでもあるコロンの下にあった。
世界を又にかけて金銀財宝を奪ってきた古代の海賊キリトは、「法皇」「星」「戦車」・・・力や戦争、そしてモラルを象徴するカードを守っていた。
全てのカードは、あるべきところに、ある。
「女帝」も「皇帝」も・・・意味合いとしては、力を持って民を支配するということだ。
小さいながらも、町を支配し収めてきた若き領主と、その妹・・・ここの町の人々にしてみれば、二人は「皇帝」であり「女帝」そのもの。
が、カードには以前コロンに聞いたように、二つの意味・・・「正位置」と「逆位置」がある。
カードの瘴気にさらされた二人は、知を持って統治する、愛を持って民を守る「正位置」の「皇帝」「女帝」ではなく、
我侭で、自己中心的、そして横暴で民を苦しめる「独裁者」。つまり「逆位置」の象徴になりつつあるのだ。
まさに、収まるべきところにカードは収まっているのである。
「・・・」
このままでは、絶対にいけない。あかねはゴクリと喉を鳴らした。
そして、シャンプーから預かったダミーのカードを、ケースに収められていた本物のカードと擦りかえるべく、そっと手 を伸ばした。
と、その瞬間だった。
パシュっ・・・
「きゃ!」
あかねが本物のカードに指で触れた瞬間、指で触れた部分が白く、光った。
あかねは慌てて、指を引っ込めた。
触れた部分はしばらく白く発光していたが、やがてその光を闇に吸収されるが如く、するすると溶けて馴染んでいった。
「な、何・・・?」
あかねは、カードに触れた指をぎゅっと握り締めた。
指には特に異常はないのだけれど、まさか光るとは思っていなかったが為に、あかねもこれには驚いた。
本物のカードに触るのは、今が初めてだ。今までは、カードを見つけたり出された時は全て、乱馬、もしくはシャンプー がそれを手にしていた。
二人がカードに触れるときは、このような光を発光した事が無い。
いや、コロンが乱馬に魔術師のカードを手渡した時だって、このような現象は無かった。
だとしたらなぜか。あかねが、魔力を持っていないからだろうか。それとも、乱馬のように正式継承者ではないからだろ うか。
ただ、魔力を持ち合わせていなくても、継承者でなくても・・・以前にであったキリト、そして木こりの大五郎とて、あかね 達にカードを手渡す時、このように発光などさせなかったはずだ。
「・・・」
一体、何が違うのか。あかねは胸をとくとくと鼓動させながらあれこれと考えてみたが、今はゆっくりとそんなことを考 えている暇はない。
事が落ち付いたら、コロンにでも聞いてみよう。あかねはそう心に決めて、再びカードに手を伸ばした。
パシュっ・・・
あかねが再びカードに触れた瞬間、もう一度カードが白く光った。
あかねはそのまま、もう一枚のカードにも触れた。そちらのカードも、白く光った。
あかねは、白くそして鈍く光りつづけるカードをまとめ、自分が用意してきたダミーのカードとすりかえた。
そしてガラスケースを再び閉めて、とりあえずため息をつく。ようやく、任務終了である。
すりかえた方の本物のカードは、あかねの手の中でずっと、白く発光しつづけている。
それどころか、あかねの手の中で収まっていたはずの光が、徐々に徐々に、あかねの手首、そして腕・・・その範囲を広めな がら光りつづけている。
「え・・・ちょっとなに・・・?」
あかねは慌ててそのカードの光を消そうと布に包んだが、布の下でも、カードは光りつづけている。
何だか気色が悪いというか、このままどうしたらよいのか。あかねは内心焦ったのだが・・・焦りながらも、妙なことにふと
、気が付いた。
・・・部屋に入ってきたときは瘴気で満ち溢れていたこの宝物庫、胸をつくような瘴気にあかねも抵抗あったのだが、今は・・・口を覆っていなくても、その瘴気が気にはならない。
暗闇に目が馴染むように、瘴気に慣れてしまった証拠だろうか。だとしたらかなり危険だ。あかねははっと息を飲むも、ふと目をやった壁の蝋燭の光が、グリーンからオレンジに変化しているのに気がつき首をかしげる。
「・・・消えた?」
胸をつくような瘴気も、そういえば今はあまり感じられない。
カードをすりかえた瞬間、もしや瘴気が消えたのか・・・?そんなことあるのだろうか。
あかねは布に包んだカードをもう一度自分の目にさらしながら、そんなことを考えた。

しかし、次の瞬間だった。

「い、いやあ!」

・・・それまで白く全体を光らせていたそのカード。
皇帝と女帝の描かれているそのカード・・・描かれているのは、人物の絵。絵なのだ。
それなのに、あかねが目を落とした瞬間、「目」をギロリ、と動かしたのだ。
ギロリ、と目玉を動かした二つの絵柄は、くすんだ黄色の目玉であかねをじっと見つめている。
そう、それはまるで・・・生きているとでも言いたいが如くに。
「いやあ!」
腕から顔にかけて、さっと鳥肌があかねを襲う。
カードはぽとり、と床に落ちた。その瞬間、ブワ・・・と今度はあかねの目にも見えるような黒い瘴気が、カードの中から溢れ出した。
「なっ・・・なにこれっ・・・」
部屋中が、見る見るうちに再び瘴気に満たされていく。
オレンジ色の炎は、再びグリーンに変った。いや、グリーンから、青白い炎に変化し、今にも壁中を覆い尽くしてしまうが如くその火の手を伸ばしている。
「げほっ・・・げほげほっ・・・」
言い知れぬ重い「何か」が、あかねの身体にずん、とのしかかってきた。目に見えないその重みに耐え切れず、あかねは床へと崩れ落ちる。
「くっ・・・」
とにかく、カードを拾わなくては。あかねは床を這いつくばるようにして、黒い瘴気を放っているそのカードへと手を伸ばそうとした。
しかし。
「あら、随分といいざまですわね」
「!」
「お兄様の部屋に忍び込んだだけでなく、盗みまで働こうとは・・・無事にここから出て行くことが出来るとお思いになって?」
グシュっ。
カードに手を伸ばそうとしたあかねの手を、何ものかが容赦なく、踏みつけた。
あかねは慌ててその手を払い、踏まれた手を胸の前で握り締める。
そして身体をよろめかせながら床から立ち上がると、自分の手を踏んだ人物と向かい合った。
小太刀だった。
どうやら、カードがすでに身体を悪しき気で侵食されている小太刀に反応したようだ。
あかねよりも、瘴気を浴びつづけて魔物に近づきつつある小太刀が部屋に入ってきたために、カードが妙な動きをしたのだろうか。
・・・
「・・・小太刀様、パーティーは宜しいんですの?」
まずい。
あかねは一歩、また一歩と後ずさりながら、小太刀にそう尋ねる。
「盗人が気にすることではありませんわ」
小太刀はあかねに一歩一歩詰寄りながら、床で黒い瘴気を放っているカードを、拾う。
小太刀がカードを拾い上げた瞬間、瘴気がブワリ、と小太刀の身体を覆い包み、そして彼女の体の中へと消えていった。
「!」
あかねははっと息を飲んだ。
少し吸うだけで、胸をつくような気なのだ。そんなものを体内に吸収させて、無事で済むはずが無い。
しかも、だ。
小太刀の手の中に収められたそのカードの絵柄・・・先程よりも顕著、そして不気味に目玉だけをぎろぎろと動かしている。
もしかすると、小太刀の手の中のカード。あのカードが、小太刀の体内に吸収させた瘴気を操っているのかもしれない。
カードに人格を乗っ取られるとはこうなのか。あかねは、ぞっと身を凍らせる。
小太刀は、少し眩暈を抑えるような素振をして見せたが、それを振り切るかのように再びあかねをにらみつけると、
「お父様の残してくださった大切な遺品を盗むとは・・・しかも、お兄様にまで色目を使うとは、許せませんわ」
そう言って、身に纏っている漆黒のドレスの胸元から、何かを取り出した。
シュン、と小太刀がその何かで空を切ると、フワっ・・・とドレスと同じ漆黒のリボンのようなものがそこに現われた。
リボンと言っても、髪を結うような短い物ではない。
あかねがコロンから授けられたムチと同じく、殺傷能力をうかがわせるほどの長さが、ある。
どうやら、小太刀の胸元に隠されていたのは、そのリボンが装着しているスティック。
伸縮機能があるようで、いざという時の為に胸元に隠していたのだろう。
「お優しいお兄様に変って、私がお前を始末します」
ビュっ・・・
片手ではスティックを。そして片手の指で漆黒のリボンをぴん、と張らせた小太刀。
瘴気を吸って体が重いあかねに向かって、構えた。
「・・・」
まずい。あかねは、身の危険を悟った。
あかねも格闘技の心得はあるし、もちろんコロンから授けられたムチ型武器は携帯している。
しかし、瘴気を思い切り身体に浴びてけだるくなっている今、小太刀の攻撃を交わしながら小太刀をねじ伏せる事など不 可能に近い。
「・・・」
何とか、カードだけでも小太刀の手から奪い取る事は出来ないか。あかねは必死に頭を巡らせた。
しかし、小太刀は容赦なくそんなあかねに攻撃の手を仕掛ける。
「それ!」
ビュ!
小太刀が、漆黒のリボンをまるで命を持っている蛇のごとくあかねに仕向けた。
あかねは慌てて、リボンの攻撃を避けた。
すると、あかねが今まで立っていた場所にふわり、と舞い落ちたリボンは、ドゴ!と音を立てて床を壊していく。
「!」
あかねははっと息を飲んだ。
見た目は柔らかく優雅なリボン。しかし実際は、小太刀の体の中から溢れる瘴気と、そしてカードの魔力・・・それらが合わ
さって、剃刀よりもハンマーよりも鋭利で強靭な武器へと変化しているのだ。
「・・・っ」
小太刀のリボンにより破壊された床は、シュウシュウ・・・と音を立てて崩れる、というよりも溶けていく。
瘴気のリボンが当たっただけでも、石が溶けるのだ。そんなものが身体に当たったら、無事で済むはずが無い。
とにかく、逃げよう。逃げて、カードを取り戻す方法を考えなくては。
あかねは、にじり寄る小太刀から逃れるべく、壁を入り口の方へと進むように回り込みながら移動していった。
「お待ちなさい!」
ビュ!ビュ!
そんなあかねに、小太刀は容赦なくリボンの刃先を浴びせ掛ける。
あかねの足元は瘴気の影響で溶け、ボコボコと穴が空いている。身につけている衣装も、シュパっ・・・と所々破けていた。
一瞬触れただけで、布をも断ち切るその威力・・・まさに凶器だ。
あかねは、それでもなんとか小太刀から逃れるべく、部屋の中を移動していった。そして、
「くっ・・・!」
ようやく入り口のドアまで走りこめばあと一歩。その部分まできたあかね。
しかし、
「逃がしませんわ!」
ドゴっ・・・
入り口のドアへ走りこもうとしたあかねの足元を、小太刀は素早く狙った。
ジュワっ・・・と音を立てて、あかねの足元の床が溶けた。
「きゃあ!」
ドテっ・・・不意に足元を崩され、そして瘴気で溶けた部分に足を取られたあかねは、足を捻りながらその場へと倒れこんで しまった。
「しまった・・・!」
あかねが慌てて起き上がろうとするも、
「逃がさない、といったでしょう?」
コツ、コツ、コツ・・・とヒールの音を部屋に響かせ、リボンを片手に小太刀があかねの元へとゆっくり歩み寄ってきた。
「っ・・・」
起き上がろうにも、捻った足の激痛が身体中に走る。ならば、と這いつくばるようにドアへと向かうが、
「・・・諦めが悪い女は、本当に哀れで無様ですわね。こうはなりたくないですわ」
・・・そんなあかねのすぐ目の前に、小太刀がちょうど、立ち止まった。
小太刀は、床に這っていたあかねを見下ろしていた。
その目は、先ほどカードの中の絵柄があかねを睨んでいたのと同じような・・・黄色く不気味に光っている。
人間の目ではない。もはや、魔物の目だ。身を竦ませるような恐怖と対面をしながら、あかねはそう悟った。
「一瞬で、楽にしてさしあげますわ」
小太刀は、あかねの首の上でピン、とリボンを張らせた。どうやら、鋭いリボンの刃先で首でも殺ぎ落とすつもりだろう か。
「・・・!」
こんなところで死にたくはない・・・しかし、この状況ではどう考えても、逃げる事は出来ない。
あかねは、ぎゅっと目をつぶってその時を待った。
そんなあかねの様子を、小太刀は乾いた瞳で見下ろすと、
「それ!」
ビュっ・・・
・・・処刑を待つ罪人の心境など、きっと一生かかっても味わう事などないと信じていた。
しかし、もしかしたらこれがそうなのかもしれない。あかねはふとそんな事を思った。
直後、断頭台で振り下ろされる、ギロチン刃がごとく。
小太刀はあかねの首に向かって、漆黒のリボンを振り下ろした。
が、次の瞬間。

カカっ・・・!

「な、なんですの!?」
「!?」
刃と化した漆黒のリボンが、あかねの首を立つべくその肌に触れた瞬間だった。
あかねが先ほどカードに触れたときに起こした光の、何倍もまぶしい光・・・そう、まさに閃光、だ。
あたりが真っ白になり、目を開いていられないほど強烈な光が、二人の身体を包んだ。
そして、
「きゃああ!」
「い、いやあ!」
ドオオン!
閃光と共に、言い知れぬ空気圧が二人の身体を襲った。
それはまさに、磁力を反発されるが如く。
洋服を切り刻む時にはこのような事は無かったが、直接リボンが肌に触れた瞬間、あかねと、そして小太刀の身体は間逆 の方向へと吹っ飛ばされてしまった。
空気圧は、二人の足元の床をも捲り上げ、瓦礫を室内へ舞い上がらせる。
もうもうとした粉塵が薄暗い室内を覆い、ただでさえ悪い視界をさらに劣悪にさせる。
あかねも小太刀も、空気圧に煽られて部屋の隅のほうまで飛ばされてしまった。
が、
「な、なんですの!?」
ふっ飛ばされてもなんなく床に着地する事が出来た小太刀に対し、
「うっ・・・」
ゴス!
・・・体の自由が聞かないあかねは、勢いよくふっ飛ばされたその勢いでそのまま壁にその身体を叩きつけられた。
しかもその反動で、頭を強く壁に叩きつけてしまい、ビリリっ・・・と電気のような衝撃が、身体中へと走りぬけた。
ドサリ、と床にそのまま崩れ落ちるも、身体を叩きつけられた衝撃よりも、頭を叩きつけられた衝撃で、体が麻痺してし まい動く事が出来ない。
「あ・・・く・・・」
立ち上がりたくても、体が上手く動かす事が出来ない。あかねがうめき声を上げていると、
「・・・気を取り直してもう一度、トドメをさして差し上げますわ」
そんなあかねに対し、小太刀が再び歩み寄ろうとした。
「・・・」
・・・先ほどはなんとか凌げたけれど、今回はもうだめだろう。
あかねは覚悟を決め、きゅっと口をつぐんだつもりだったのだが、
「乱馬・・・」
つぐんだはずの唇が、あかねの意思に反して無意識にそう呟くべく動いた。
これには、さすがのあかねも驚いてしまった。
命の最期を迎える瞬間、呟いた言葉。それが乱馬の名前だった・・・なんだか不思議な気分だった。
何で彼の名前なのか。何故なのかは分らない。でも、すんなり口を出た名前がそうだった。それが事実だった。
ああ、もしかしたら。あかねはふと、考えた。
さっき死にかけた時呼び忘れたから、もしかしたら神様がこれを呼ばせるために一度、奇跡を起こしてくれたのか・・・。
身体中に走り抜けるジリジリとした感覚を味わいながら、あかねはそんな事を思った。
そんなに乱馬の名前を呼ばせたかったのか、神様は。なんでかな・・・それは良くわからない。
でも、
乱馬にこれを話したら、ビックリするだろうか。どんな反応をするか、見たかったな。あかねはそう思った。
でも・・・これが最期だ。そんなもの見れるわけが無い。残酷な現実が、あかねを再びこの場へと引き戻した。
あかねは、そっと目を閉じた。
小太刀は、目を閉じて動かなくなったあかねに向かって再度、漆黒のリボンを振り下ろそうとした。
しかし、
ドドドドド・・・
ドドドドド・・・ドオン!
「!?」
そんな小太刀の頭上で、妙な地響き、そして爆発音がした。
おまけに、先ほどの空気圧のせいで内装が脆くなっている宝物庫は、パラパラパラ・・・とその地響きと爆音で崩れ始めてい た。
「・・・」
小太刀は、リボンを胸元へしまうとカードやその他の宝物を素早く宝物庫の外へと出した。
そして、あかねのポケットから宝物庫の鍵を乱暴に奪い取り、中にあかねを残したままドアの鍵を閉めた。

地下の宝物庫の上・・・屋敷の一階部分で、何か起こった証拠。
宝物庫のほうは、恐らく放っておけば崩れ落ちてめちゃくちゃになる。中にあかねを放置していても、瓦礫で潰されて逃 げる事もできずに死んでいくだろう。
わざわざ自分の手を汚すまでも無い・・・小太刀はそう考えたのだ。
「一体何が・・・」
小太刀は漆黒のドレスをヒラリと翻すと、薄暗い通路を屋敷の地上部分へと戻っていった。

屋敷の地上部分・・・そう、一階では、いよいよ乱馬達の作戦が始まった所であった。
しかし、 地下の崩れかけの宝物庫であかねが倒れている事、そしてカードは小太刀に持ち去られてしまった事。
そう簡単には作戦が遂行されてはいけないことを、彼らがまだ知る由は、ない。


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