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23時の敵を撃て3

ちょうどそれと同時刻。
屋敷の地下にある、屋敷の「宝物庫」となっている薄暗い部屋では。
「お兄様、いよいよ明日ですわ」
豪華なドレスに見を纏った美しい娘が、宝物庫の中心に設置されているガラスケースをじっと見下ろしては薄笑いを浮かべている青年に向かって声をか けていた。
娘の年頃は、乱馬やあかねとほぼ同じだろうか。随分とグラマラスで美しい容姿をしていた。
しかし、 肌は色白、豊かな長い黒髪はとても艶やかで手入れも行き届いてはいるが、その顔つき・・というか目がきゅっとつりあがっているということのほうが、ま ず初めに強い印象を受ける。
元々彼女の目はつりあがっているのかもしれないが、 それが更につり上がり、人にきつめの印象を与えるのは、 彼女の内側にあるその性格や性質に加え ・・・宝物庫の中心のガラスケースの中で、鈍く光を放ちながら並んでいる二枚のカード。
そのカードの影響が、現れているのかもしれない。
・・・
「お前が選ばなかった男以外は、一生この屋敷の中で奴隷として使ってやるさ。反抗したら殺せばいい」
娘に「お兄様」と問い掛けられた青年・・・若い事は若いが、年の頃は乱馬よりも少し、上だろうか。同い年とは見えない。
それなりに整った顔立ちと容姿をしていて、身なりもきちんとしているけれど、
「俺には向かう奴は、皆、切り捨てる」
腰に刺した剣をぎゅっと握り、そしてガラスケースの中に並べられている二枚のカードを見つめるその目は・・・どう考えても尋常ではない。
「力あるものに力なきものが従う・・・これが宇宙の法則だ。・・・くっ・・・」
青年は、少しくせのある髪の毛を指で掻き揚げながらそう呟いた。
が、最後の方は顔をしかめ、よろっ・・・とガラスケースにしなだれかかるような仕草を見せる。
ここ一・二ヶ月というもの、青年は酷い頭痛に悩まされていたのだ。
もちろんそれは、病的な物ではない。
ガラスケースに入れられてはいるものの、強い魔力を持ったカードが青年に及ぼしている悪い影響のせいだ。
心が弱っている所を、魔力というのは上手い具合についてくる。
最愛の父を無くし、悲嘆に暮れているこの領主兄妹の心へ・・・カードは上手く入り込んできたのだ。
「お兄様、大丈夫ですか?ああ、でも私も何だか頭が・・・」
「僕は平気だ。それよりも妹よ、婿選びのパーティーは明日だ。今日は早く休んで体調でも整えておけ」
「ええ、そういたします」
勿論その原因が、父が遺産として残したこのカードのせいだとはこの兄妹は思いもしない。
お互いを気遣うようにそう声を掛け合うと、
「メイドに美容用品でも持ってこさせようかしら」
頭を抑えながら宝物庫をでて、そんなことを呟いている妹と、
「この街も・・・いや、その内この大陸全てを支配する富を得てみせる・・・」
妹の数倍も酷い頭痛に悩まされながらも、ガラスケースに手をついて薄笑いを浮かべながらそう呟く兄。
なんとも異様な光景である。
それぞれが様々な欲望を抱き、屋敷の中の時間はゆっくりと過ぎていったのだった。

一方。
「ほれ!大人しくしておれ!」
「へーへー」
さりげなく屋敷の中に潜入できたあかねとは違い、「脱走者」として兵に捕らえられた乱馬は、何発か殴られるという仕打ちを受けた後、
「いいか!今度逃げたらこんなもんじゃ済まさないからな!」
「はいはい」
「返事は一度!」
「はーい」
「伸ばすなっ」
ボコっ
最後に一度頭を拳で殴られた後、他の男達が捕らえられている牢へと収監された。
普段から鍛え上げられている為、兵に殴られたぐらいじゃ乱馬は別になんともないのだ。
「やれやれ・・・」
ようやく第一段階の目的は達成だな。
顔を殴られた際に少し切れた唇から流れ出た血を手の甲で拭いながら、乱馬はほっと息を吐いた。
・・・乱馬が連れてこられた牢があるのは、屋敷の地下だった。
屋敷の中央にある階段の、影にある木の戸。
そこを開けて続いている石の階段。降りていくたびにひんやりとした空気が、乱馬の肌に張り付いてきた。
その階段を降りきると、蝋燭で灯りを所々とっている、レンガ作りの道があった。
くねくねと長く続く煉瓦造りの道を歩いたその先・・・そこが、乱馬が今いるこの牢である。
牢は、全部で二つ。大人数を収容できるように・・・と配慮されているのか、それなりの広さ、そう、宿屋で言うとトリプルルームくらいの広さはある。
だいたい、牢といっても中は絨毯が張られ、空調機も着いている。
中央にはテーブルもあり、そこには身だしなみを整える為の櫛やら洗髪料なんかも用意されている。
風呂やトイレだって、ちゃんと個室で用意されているのだ。何だか牢というよりは、ホテルの一室のような印象だ。
ただ、立っている分には構わないかもしれないが、実際にここで大の男達が寝泊りする事を考えると、十分な広さではない事は確かだ。
大体一人あたり、そう・・・横になって足を伸ばせるか伸ばせないか。そんなスペースが、牢の中で与えられているようだった。
ホテルはホテルでも、これじゃあ大部屋か。乱馬はそんな風に感じた。
「・・・」
とりあえず収監された乱馬は、入り口付近に立って、牢の中を観察することにした。
「・・・」
捉えられた男達は、皆悲嘆にくれているんだろうか。
そんな予想をしていた乱馬であったが、実際にこうして乱馬が牢の入り口で中を見回していると、
「・・・」
何故だろうか。男達のほとんどは、牢の中に設置されている姿身の鏡に向かってポーズをとったり、櫛などで髪の毛を梳かしたり、肉体自慢をするような 格好で決めてみたり。
どちらかといえば、何だか「なにかの控え室」にでも居るかのような、妙な印象を受けた。
だいたい、悲嘆にくれている人間なんて、
「・・・」
乱馬が見る限り、牢の隅で膝を抱えて座っている青年が一人だけ見受けられたが、その青年くらいしかいない。
これは、一体どういうことなのだろうか?
不思議に思った乱馬は、
「なあ、皆なんでそんなに身だしなみを整えているんだ?」
とりあえずその中の一人を捕まえ、尋ねてみた。すると、
「領主の妹の婿になれば、ここから出してもらえるし、自由になれるんだっ。自由になって家族の元に戻るには、妹の婿になるしかねえ。だから、男を磨 いてんじゃねえか」
・・・と、何とも短絡的な答えが返ってきた。
「でも、そうやって家族の元に戻ろうとしたって、領主の妹とは結婚してんだろ?牢からは出ることが出来るかもしれないが、その後すんなりと元通りの生 活なんて出来るわけねえんじゃねえか?」
思わず乱馬が冷静にそう質問を返すと、
「ああ!?そ、そうだ・・・そうじゃないか!てことは、俺達がこうして頑張ってもやっぱり家族には・・・ああああ!」
・・・それまで張り切っていたその男も、
そして周りで色々とポーズをとったり身だしなみを整えていた男達も、ようやくそれに気がついたのか、パタッと動きを止めて、一気にがくっと肩を落として しまった。
「・・・」
こんな当たり前の事に気がつかないなんて、やはり閉じ込められている内に皆、思考が麻痺してしまったのか。
それとも、ほんの少しでも外に出たいがゆえの、アイデアだったのか・・・乱馬は思わず、ため息をつく。
乱馬は、うなだれ始めた男達の間を縫って、牢の中をゆっくりと歩き回った。
そして、
「・・・」
先ほど入り口から見たとき、一人だけ牢の隅で膝を抱えて座っていた青年。
この青年は、もしかしたらまだまともな思考を持っているのかもしれない。だからきっと、無駄な抵抗はしないのか。・・・そんな事を思いながら、その青年 の傍まで行って、わざわざその横に腰を下ろした。
「よっ」
乱馬は、その青年にわざと陽気に声をかけた。
「・・・」
青年は、ゆっくりと乱馬のほうを向いた。
青年の顔には、乱馬が先ほど兵に殴られた時に出来たのと同じような跡がついていた。
唇も、かさぶたになってはいるが横が切れている。
「・・・」
他の男達の顔にはそんな風な跡はついていなかった。ということは、
「・・・あんた、逃げ出そうとしたのか?」
乱馬が青年にそう尋ねると、
「・・・俺、剣とか格闘の才能ないから、すぐに見つかっちまって・・・」
青年は、消え入りそうな小さな声で、そう呟いた。
「・・・」
牢に忍び込む為に自ら兵に自分を捕らえさせた乱馬とは違って、自分で牢を突破して逃げ出そうとしたこの青年。
乱馬は、じっくりと話を聞いてみる事にした。
「よく牢から出れたな」
「ちょっと頭を使えばそんな事は簡単さ。風呂場の天井を伝えば、隣の牢にだって出入りできる」
「へー」
「建物の構造とか、鍵の開け方とか、屋敷の人の配置とか・・・前に商業の街でやってきた修行で得た事を活かせばすぐに役に立ったけど、最後、門から 出ようとしたところで見つかっちまって・・・走って逃げようとしたけど、俺、足も速くないから・・・」
「修行?」
「ああ。俺、数日前までヒルダって街で商売の修行をしていたんだ。だから、店の経営をするための様々な知識をフル活用して・・・」
青年は、乱馬にそう説明しながら、困ったような笑顔を見せた。
何だか、どこかで聞いた話だ。
「なあ、あんた何で、そうまでして逃げ出したかったんだ?」
乱馬が更に質問を続けると、
「気になる事があったんだ」
「気になる事?」
「俺,

明日結婚式を挙げる予定だったんだ。俺の子供が腹の中にいて、結婚式に飾る為の花を俺がもって帰る事を、今でもそいつ、待ってるんだ。 修行に行っている俺を信じて、ずっと待っていてくれたんだ、そいつ・・・。だから、その約束を破るような事はしたくなくて・・・」
青年はそう言って、大きなため息をついた。
「・・・」
やはり、どこかで聞いた話だ。いや、間違いない。これは、ベッキーとハミルトが乱馬達にしてくれた話と完全に符合している。
「あんたもしかして・・・アルファードか?」
なので、
乱馬が思わず、青年にそう尋ねると、
「な、なんであんた、俺の名を・・・」
もちろん、青年・アルファードの方は乱馬の事など全く知らない。
なので、乱馬のその質問にギョッとしたような表情をしている。
「ああ、安心してくれ。実は俺、ベッキーとハミルトに頼まれてここに着たんだ」
「え?」
「実はな・・・」
乱馬はとりあえず、アルファードに自分達が依頼を受けた内容について、そして依頼を受けた経緯について詳しく説明をした。
すると、
「ベッキーは!?ベッキーは無事なのか!?」
「ああ。最初妙に思い詰めてて、川に身投げしようとしてたけどな」
「!ベッキー!ああ・・・」
依頼を受けた内容うんぬんよりも、ベッキーが身投げをしようとしていたという事実がショックだったのか、アルファードは頭を抱えてしまった。
「でも、生きてるから。飯も食ってたし、持ち直したぞ。あんたが、明日帰ってくるって信じているからだ」
「ベッキー・・・」
「俺達は、ベッキーにハミルト・・そして街中の女達から、ここに捕らえられている男達を解放して欲しいと、依頼を受けているんだ」
「・・・解放したって、またすぐ同じことの繰り返しさ。俺が連れ戻されたように、一時的に外に逃げ出したって、あんた達が街から去った跡、また俺達は捕 らえられる」
悲観的にそう呟くアルファードに対し、
「二度と領主がバカな行動を起こさないように出来る作戦が、俺達にはあるのさ」
「え?」
「だから、本気でベッキーの元に返りたいというのなら、俺に協力してくれ。な?」
例のカードの事はアルファードには告げず、乱馬は力強い口調でそう言うと、
「屋敷の内部の構造とか、鍵の開け方とか、人の配置とか・・・そういう情報を、外で待っている俺の仲間達と、ベッキー達に伝える必要があるんだ」
「・・・」
「剣や格闘の腕が足りないのなら、俺があんたの足りない部分を補ってやるよ。その代り、あんたは俺達にその修行で培ってきた頭脳を提供してくれ」
アルファードの肩をしっかりと掴み、真剣な眼差しでその瞳を見つめる。
「・・・」
乱馬の、透きとおるような強い瞳に、アルファードはゴクっと喉を鳴らした。
その瞳が真剣か真剣でないか。
そして真か偽りか・・・じっと見つめれば、自然に相手には伝わるのだ。
「・・・わかった。絶対に、ベッキーの元に戻れるんだな?」
「ああ、約束する。他の奴らも、無事に皆家に帰す。二度と同じ事は繰り返させない」
「・・・」
アルファードは、そんな乱馬の言葉に、大きく一度頷いた。
乱馬は、ほっと胸を撫で下ろした。
「・・・で?俺が得ている屋敷の構造の情報とか、人員配置とか・・・そういう情報はどうやって外に出すんだ」
アルファードが、乱馬に尋ねる。
「この屋敷には一日五回、街の郵便配達屋が出入りしているんだろ?えっと、テリー・・・だっけ?」
「ああ、テリーか。俺とベッキーの幼馴染さ。テリーの恋人は隣の牢に閉じ込められているよ」
「そのテリーに、こちらからの情報を渡してもらうつもりだ。もう一人、その・・・俺の許婚がメイドとして屋敷に忍び込んでいるから、俺達が得た情報を上手 く彼女に手渡して彼女からテリーに渡すようにしてもらう」
乱馬はそうアルファードに説明するも、
「あ、でもあかねに俺達の情報を渡すにはどうしたら・・・」
しまった、肝心な部分をあかねと相談していなかった・・・そんなことに気がつき頭を抱えてしまったが、
「風呂場の天井からずっと伝っていくと、メイドたちが利用している部屋の天井へ入り込むことが出来る」
「そうなのか?」
「ああ。だから、一度そこを使ってメイドの部屋へと行って彼女と打ち合わせをすればいい」
アルファードはさらっと乱馬のその悩みを解決してくれた。
「ありがてえ」
「上手く情報をやり取りする場所を作ることが出来れば、テリーが運んできた情報だって、すんなりと俺達が手にする事だって出来るだろう」
そして、
「・・・さ、のんびりはしてられねえよな。ベッキー達が待ってるんだ」
「ああ」
「とりあえずあんたは、風呂場の天井から天井伝いにメイドの部屋に行って、その許婚と連絡を取り合う手段を相談してきてくれ。
俺は、牢の中にいる皆に明日の計画の事を説明する」
先ほどまでの悲嘆にくれていた表情を一蹴し、きりっとした表情でそう呟くと、
「・・・」
少し何かを考えた後、何を思ったか・・・アルファードは、牢の中央に置かれていたテーブルの上にある手鏡を手にして、
鏡の表面部分に、そこら辺に落ちていた煉瓦のカケラでギっ・・・ギっ・・・と傷をつけながら何やら文字を、書き始めた。
「なに書いてんだ?」
一体何を始めるつもりなのか?不思議に思った乱馬がアルファードにそう尋ねると、
「明日の婿選びパーティーを利用して、俺達が全員、永遠に無事帰れるよう手配してくれている奴らがいる。
ばれたら二度とチャンスはない。最後のチャンスだ、だから俺達に協力してくれ・・・そう書いたのさ」
フっ・・・と鏡に溜まった煉瓦の粉を拭き払いながら、アルファードはそう答える。
「書くのはいいけど、何で鏡に?」
「牢の傍にいる兵に、この計画がばれたらまずいんだろ?だから、声に出さないでこれを伝える為には、取っていても別におかしくない行動をしながらで ないと難しいだろ」
「ああ、そうか」
「鏡を見ている仕草なら、『身だしなみを整えている』くらいにしか思われないし、不自然じゃない」
「なるほど・・・お前、頭いいな」
まさにそれは、自分が思いつかなかった事。乱馬が心から感心して思わずそう呟くと、
「俺、剣は苦手だけど、商売や頭を使う事は昔から得意なんだ」
アルファードは、ちょっと照れたような口調で笑った。そして、
「なあ、ちょっとこの鏡見てくれねえか?」
時間がもったいない・・・と、さっそく他の人々にメッセージを書いた鏡を見せて回っていた。
「・・・」
自分で逃げ出そうとしていただけあり、本当にここから逃出したいと、そしてベッキーの元に帰りたいと願っているんだな。
乱馬は、改めてアルファードのベッキーへの思いを感じ取ってしんみりとしていたが、
「おっと、俺もぼやぼやしてられねえや」
そんな風に、しんみりとしている場合ではない。
乱馬はこっそりと牢の中に設置されている風呂場へと入り込むと、
ガタっ・・・
外の兵にばれないように静かに天井板を外し天井に入り込むと、慎重に慎重に・・・この先にあるという、メイドたちの集う部屋の天井へと向かって移動していった。

さて、その一方では。
「へえ・・・領主の妹には、本当は憧れの殿方がいたわけなのね」
「そうなのよ。だけど、随分と身分の違う人だから、叶う事なんてまず無理よ。だから、その相手の代わりにってことで、こうして新しい相手を探してるみたいだけどさ、どうも婿、というより僕探し?そんな感じなのよね」
・・・メイドたちが集まる部屋で、先輩メイド達にちゃっかり紛れ込みながら、あかねはさりげない情報収集に勤しんでいた。
あかねがこうして情報収集をすることで明らかになってきたのだが、
この街の領主妹には、どうも身分の違う相手に恋をしているようなのだ。
街の領主の妹・・・という事であればそれなりに身分もあるはずなのだが、それでもつりあいが取れない相手というのは一体、どんな相手なのだろう。
「でも最近急激にこの家も羽振りがよくなったというか・・・だから、対等の身分になる事はなくても、謁見してもらえるくらいの身分にはなったんじゃないか しら。 妹様は、兄の領主様に常々、その事ばかりをねだっていたし・・・」
「へー・・・ねえねえ、身分の違う人って、どれくらい違うの?」
謁見、なんて言葉は、かなりの高い身分の人間に対して使う言葉だ。あかねが興味津々で先輩メイドにそう尋ねると、
「なんでもね、国の名前は分からないんだけど、どっかの国の王子なんですって」
「王子様?」
「ええ。船で大陸を渡った先に、セルラ大陸ってあるでしょ?そこのどこかの国の王子様みたいよ。容姿端麗なだけでなく、随分と格闘技が強いみたいで。旅行でそちらに出掛けた時に、偶然お見かけしたみたいよ。だから、完全に一方的な妹様の片 思いなんだけど」
そんな人、妹様じゃなくたって憧れるわよねえ・・・と、先輩メイドはうっとりとした表情で呟いている。
「・・・」
セルラ大陸の王子で、格闘技にたけそれなりに容姿端麗。
なんだか、何処かで聞いた事があるような人物だ。
あかねは、その王子の説明に何だか妙な汗を掻いてしまった。
「・・・」
これはとりあえず、皆にも報告はしておこう・・・あかねは妹について語られた全ての情報をこっそりとメモを取ると、
「さて・・・それじゃあ私は領主様の部屋にお食事を運ぶけれど、新入りのあなた、一緒に来る?」
「はい!お願いします」
「郵便の集荷や屋敷の掃除、それにお食事係・・・あなた、そんなに仕事を引き受けてくれるなんて、本当に働きものね」
「そ、そうですか?動くの大好きなんです」
まずは何でも仕事を引き受けて屋敷の中を動き回ってみよう、と、
自らが屋敷の仕事を一手に引き受けることにしたあかねは、更に先輩メイドにくっついて、領主がいる部屋へと食事を持って向かう事にした。
乱馬には、
「領主には近づくな」
と釘を刺されているけれど、先輩メイドと一緒ならば別に何も起こる事もないだろうし問題もないだろう・・・あかねは心の中で乱馬に謝る。
そしてとりあえずは情報収集に集中しようと、豪華な食事が載せられたシルバーのワゴンをガタン、ガタン、とゆっくりと押して赤い絨毯が敷かれた廊下 を歩きながら、
「あのー、先輩」
「私は緑子よ。ええ、貴方は・・・」
「あかねです、緑子先輩」
「なあに、あかねちゃん」
「領主様のお名前、何でしたっけ?」
「まー、貴方雇い主の名前を忘れるようじゃダメでしょ?
領主様は帯刀様でしょ?妹様は、小太刀様。忘れちゃダメよ」
そういえば領主の名前を聞いていなかった、と、あかねはこっそりと先輩メイド・緑子にカマをかけて聞き出してメモをとる。
「帯刀様も、とても端正な容姿をされているわよね」
「そ、そうですね・・・」
「これで性格というか思考がまともだったら本当に問題ないんだけど」
緑子はそんなことをぼやきながら、あかねの前をゆっくりと歩いていく。
そして、赤い絨毯が敷き詰められた屋敷の奥・・・長い廊下の突き当たりの部屋の前で立ち止まると、ドアをコンコン、とノックした。
どうやらここが、領主・帯刀の部屋なのだろう。
あかねは、シルバーのワゴンを握る手にぎゅっと力を込めて、表情を引き締める。
「帯刀様、お食事をお持ちしました」
「入れ」
緑子がドアの中へと声をかけると、中から帯刀の声が返ってきた。
低くて、澄んだ声だった。
「さ、運びましょう」
「はい」
がちゃがちゃがちゃ・・・
あかねは緑子と一緒に部屋へと入り、シルバーのワゴンを部屋の中央に置かれているテーブルの横へとつける。
そして、テーブルにクロスを引いたり持ってきた料理を並べたりしながら、さりげなく帯刀の部屋を見回した。
・・・壁中に並べられた本棚に、文机。
剣に興味があるのか、何本も研ぎ澄まされた大剣が、ガラスケースの中に立てかけられて展示されていた。
どれもこれもきちんと手入れされていて、とても整頓されている。
しかし
「・・・」
・・・問題の「カード」は、部屋のどこにも見受けられなかった。
金庫らしきものもないし、もしかしたら別の場所・・・そう、乱馬の城にあったような「宝物庫」のような所に保管されているのかもしれないな。
「・・・」
あかねは、そんな事を考え、再びこっそりメモを取った。
「・・・」
本当はもっともっとこの部屋を観察したいけれど、あまりじろじろと部屋を見ると、怪しまれてしまうかもしれない。
そうなると厄介なので、
「失礼いたしました」
「お食事が終わる頃になりましたら、下げに参ります」
とりあえず今回はこれで外に出よう。
食事の準備を整えた緑子と共に、まずは部屋の外に出ようとしたが、
「・・・」
あかね達が部屋を出ようとしたのと同時にテーブルに近づこうとした帯刀が、ふらっと、床に崩れ落ちた。
そう、それはカードが彼の身体へと及ぼしている影響の一貫だ。このところ帯刀を悩ませている頭痛が原因だった。
「あっ・・・ちょっと、大丈夫ですか!?」
帯刀が床に崩れ落ちた事に気がついたあかねは、慌てて帯刀の元に駆け寄って、彼の身体を抱き起こす。
そして、
「緑子先輩、布を水で濡らしてくださいっ」
「あ、え、ええっ」
緑子に食事のために運んだデキャンタの水で布を濡らさせ持ってこさせると、
「しっかりしてください?」
と、青い顔をして目を閉じている帯刀の額に、その布をつけた。
「・・・」
そのおかげで、帯刀が、ゆっくりと目を開き気がついた。
「あ・・・」
「急に倒れられたので驚きました。少し、お休みになられたほうがいいですわ」
あかねは目を開けた帯刀にそう声をかけて、ゆっくりと立ち上がらせてテーブルにセットされている椅子へと腰かけらせると、
「それじゃあ私達はこれで・・・」
やれやれ、と改めて部屋を出て行こうとしたが、
「・・・ちょっと待て」
不意に、帯刀が口を開いてあかね達を呼び止めた。
「!」
・・・しまった、何か怪しい素振がばれたのか。
「・・・はい」
ビクン。
こんな事なら、倒れたのをほっておいてさっさと戻ればよかったか。あかねがそんな事を思いつつ、ゆっくり、ゆっくりと帯刀のほうを振り返ると、
「お前、名前は?」
まだフラフラとしている身体を、テーブルの傍にあった木刀を杖代わりにして支えながらあかねの前まで歩いてきて、帯刀が呟いた。
「え・・・わ、私ですか?」
「そうだ。お前だ」
「あの・・・あ、あかねです・・・」
とぼけようとしたが、それも無理だと感じたあかねは、しぶしぶと自分の名前を名乗った。
すると、
「あかね、君か。・・・よし、たった今からお前は、僕の専属メイドになるんだ」
「はあ!?」
「おい、そこのメイドA」
「緑子です」
「メイドA、悪いが他のメイド達にもそう言い聞かせてくれ。僕の世話は、このあかね君がすべて見ると」
「かしこまりました」
あくまでも、あかね以外はメイドAなのか。緑子は素直にそう返事をして先に部屋から出て行ってしまった。
「あ、あのっ・・・」
何?一体、何がどうなってこんな事になったんだろう。
あかねがオロオロとしていると、
「先ほどの僕への献身的な介護・・・僕は胸を打たれた」
「献身的って・・・別にゴク当たり前の事をしただけなんですが・・・」
「いや、照れなくてもよいぞ。僕は君の気持ちを全て受け取った。だから僕もそれに答えて、こうして君を僕専属のメイドにしたんじゃないか」
帯刀は一方的にそんな事を言って、ガシっ・・・とあかねの肩を掴む。
その目は、何だかやけに情熱的、そして「男」の目だ。
「!」
ゾクっ・・・とあかねの背筋に言い知れぬ悪寒が走る。それと同時に、
『指一本触れられるなよ』
あかねの脳裏に、乱馬の言葉が過ぎていった。
「あ、あれはそんな意味じゃないんですっ。し、失礼しますっ・・・」
このままここに長居をしたら、危険だ。あかねは慌てて帯刀の手を払いのけると、
「お、お食事が終わった頃にまた来ますからっ」
「あ、待ちたまえあかね君っ」
「さ、さよならっ」
まるで逃だすように部屋から飛び出た。
そして、
「・・・っ」
・・・潜入した事がばれなかった事はよいことだけれど、それよりももっと状況は悪い方向に行ってやしないか?
あかねは、使用人専用のトイレへと駆け込んで中から鍵をかけ、思わずため息をついてしまった。
・・・と。
「こら!」
「きゃ!」
あかねがため息をついているそのトイレの天井が、突然ぱかっと空いた。
そして、
「お前っあれだけ直接領主とコンタクトを取るなって言ったろっ」
「ら、乱馬!?あんた何でそんなところからっ・・・」
と、
埃まみれの顔で不意に天井から顔を出し、そしてあかねの立っているトイレの内側へと乱馬が降りてきた。
「領主に気にいられちまって、専属メイドにされてどうすんだっ。あいつが下心持ってることぐらい、分かるだろっ」
乱馬はあかねの問に答えず、声を極力押さえつけながら、あかねにそう叫ぶ。
・・・そう、あかねに会う為にメイドの部屋を目指していた乱馬だったが、移動中にあかねの姿を見つけ、進路を変更して彼女の姿をおっていたのだ。
そのおかげで、帯刀の部屋でのやり取りを全て知るところとなったのだが。
・・・
「だ、だって・・・」
あかねが、乱馬の頭についたクモの巣を指で払いながら言い訳をしようとするも、
「だって、じゃねえ!あんな奴をわざわざ抱き起こしやがってっ。俺だってあんな風に膝に抱かれた事ないのにっ」
「は?」
「と、とにかく!いいか、もう二度とあいつの部屋に行くなよっ。わかったなっ」
乱馬は、そのあかねの指をぎゅっと掴むと、真剣な表情で詰め寄る。
「でも・・・」
「わかったのか、って聞いてるんだ」
「わ、分かったわよ・・・」
普段の乱馬とはまるで別人のようなその態度に、あかねは若干戸惑いつつも今度こそはと約束をした。
そして、
「それよりも乱馬、どうしてこんな所に?」
「え?ああ、実はさ・・・」
ようやく少し興奮が収まった乱馬に改めてそう尋ねると、乱馬は牢でアルファードと出会ったことや,そこで交わした会話の内容をあかねに説明をしてくれ た。
そして、
「俺とアルファードが得た情報を、お前に伝える手段をさ、相談していなかったと思って」
「ああ、そう言えばそうね」
「テリーに情報を渡してもらうのと、テリーからきた指示を俺が得るのと。その手段を相談しようと思って」
乱馬はそう言って、あかねの顔を見た。
「あ、じゃあここ、使いましょうよ」
あかねは乱馬の埃まみれの顔を、ポケットから取り出した白いふきんで丁寧に拭いてやりながら、そう呟いた。
「え?ここって・・・トイレか?」
「そう。ここなら鍵もかかるし、ほら、こうやって・・・」
あかねはそこまで言うと、トイレについている水洗用のスイッチをがちゃん、と動かした。
すると、ザー・・・っと水が流れる音があたりに響く。
「水を流してしまえば、ある程度音とか声とかもわからないでしょ?」
「ああ、そうだな」
「テリーが屋敷にやってくるのは一日五回・・・八時・十一時・二時・五時・夜の八時よ。情報をあたしに渡す時は集荷の十分前にここに来て。あたしから
情報を渡すのは集配の十分後。私が中に入って鍵をかけたら、手を三回、叩いて合図をするから」
「ああ、分かった」
「じゃあ、明日七時五十分にここで」
「ああ」
あかねと乱馬は軽く打ち合わせをした。そして、
「さ、そろそろ戻らなくちゃ」
あかねが乱馬を再び天井へと戻そうとその身体をとん、と押すと、
「・・・」
乱馬は初めは素直に天井裏へと戻ろうとあかねから背を向けたものの、
「ん?どうしたの?乱馬」
「・・・」
何を思ったのか、再びあかねの方を向き直った。
そして、
「・・・」
ぎゅっ。
狭いトイレの中で逃げる事もできないあかねの身体を一度だけぎゅっと抱き締めると、
「妙な男避けのおまじない」
そう言って名残惜しそうに離れ、再び天井裏へと戻っていった。
「・・・」
よっぽど、あかねが帯刀を抱き起こして膝に抱いたことや、専属メイドとして迫られたこととかが気に食わなかったのだろう。
しかも、気に食わない上に心配でしょうがないのかもしれない。
「・・・もー」
そりゃさっきは驚いてしまったけれど、でもあかねとてあんな風に乱馬に、再び約束させられてしまったらこれからは気をつけざる得ない。
「・・・」
何とかして、緑子先輩に助けてもらおう。
あかねはそんな事を思いながら、トイレの外へと出た。

こうして、乱馬はアルファードと協力をとること、 あかねは屋敷のメイドとして、情報を集める事、 それぞれが役割分担を担いながら、来るあすのパーティーへ向けて夜を越す事になった。
が、領主があかねを気にいってしまった事から明日のパーティーが更にややこしい事になってしまう事になるとは、この時点ではまだあかねも、そして乱馬も・・・想像もできない事であった。


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