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23時の敵を撃て1

翌朝。
レイディア港でしばしの休息を取り体力・気力とも取り直した一向は、いよいよ「T&Kアイランド」へと出発した。
港から道なりに歩き、小さな森を抜けるとすぐさま、その目的地「T&Kアイランド」はあかね達の目に入る範囲にあった。
乱馬達の居城や、そしてランゼやキリト達とであったウォータークールのあるセルラ大陸の町々に比べ、このレイディア大陸にある街は規模的にもそれ ぞれが小さい。
居住の為の街ではなく、商業の為の街・・・そして、大きな商業都市へと行く為の、それぞれの街が中継点。
そんな感じがした。
面白い事に、乱馬達のいたセルラ大陸では全く無かったのだけれど、このレイディア大陸の町・・・先程の港街でも、
町の入り口には「モンスタードロップ専門」の雑貨屋がある。
町につくまでに出会ったモンスターが落とした品物を専門に買取、鑑定したりする店舗の事だ。
どちらかといえば平和で、そして自給自足が主流だったセルラ大陸では、考えられないような商売である。
裏を返せば、セルラ大陸はそのような店など需要が無い程安全だが、このレイディア大陸では、取引ができるくらいモンスターが多発すると、言う事なの だ。
実際に、港町をついてからさほど遠くない「T&Kアイランド」へ乱馬達が向かう最中も、ひっきり無しと言って良いほど、色々なモンスターとであって戦い つづけていた。
・・・
ただ、
自称「肉体派王子」の乱馬、それに元々体力には定評のある良牙は、格闘慣れしているだけあって、次から次へと襲い掛かってくるモンスターなどおそ るるに足りない。
更に、魔導士ではあるけれど魔法を使わなくても元来格闘術に優れているシャンプーに至っては、モンスターの種類によって、戦闘方法を上手く使い分 けているようだ。
この三人に至っては、モンスターが増えて治安が悪かろうがなんだろうが、その進む道々では大して影響は無いのである。
そうなると、問題はタダ一つ。そう、あかねだ。
「やー!」
「たー!・・・あ、あれ?」
・・・他の三人に比べて、格闘術・体力は数段劣るあかね。
それに加え、人一倍不器用な為に、コロンがせっかく与えてくれた強力な「ムチ」も、使いこなせず一苦労だ。
攻撃が無駄にあたらず、乱打してしまうという事は、必要以上にあかねの体力を削るという事。
その武器が、あかねの潜在能力を十二分に引き出す武器だというのなら、尚更だ。
万全の力で敵と戦うという事は、常に自分の体力の限界値を超えて戦い続けるという事。
「・・・」
そう、皆には迷惑をかけまい、心配はさせまいと頑張ってはいるが、
しっかりと気を持っていないと、今にもあかねは倒れてしまいそうなほど体力を消耗していた。
「・・・」
なので、所々とっている休憩で、あかねは三人に気が疲れないように乱れた呼吸を整えるのに精一杯だった。
「・・・」
そんなあかねの様子にやはり薄々気がついているのか、
休憩のたびに一人皆から離れて景色を見ているふりをしながら呼吸を整えるあかねと、乱馬はよく目があった。
「あかね、お前さ・・・疲れるんだったら戦闘は俺達に任せて、後衛でバックアップしていてくれてもいいんだぜ?」
乱馬の瞳は、あかねに向かってそう問い掛けている。口に出さずとも、あかねはそれを感じ取っていた。
そんな乱馬に対してあかねは、
「変な心配しないでよっ。あたしだって、皆と一緒よ?これくらい全然平気だわ」
そうやって強がり、元気な様子を乱馬に伝えるも、
・・・そうやって気を使われれば使われるほど、あかねは辛いのだ。
自分に残された時間ギリギリまで乱馬の傍にいて、彼を支えてあげたい。
そう思って残っているのに、これでは・・・ただのお荷物だ。
「・・・」
・・・何とかしなくちゃ。
あかねはかくかくと震えている膝を拳でトントンと叩きながら、そんな事を考えていた。




と、その時。



「あ!見えたあるぞ!」
休憩所から少し離れたところで、薬草を摘んでいたシャンプーが不意に大きな声を上げた。
どうやら、いよいよ目的地「T&Kアイランド」の入り口を示す立て札までもが見える位置まで来たらしい。
「よーし、それじゃあ集めたアイテムを換金して、宿を確保しようか」
「おう」
目的地が見えれば、不思議と減っていた体力も復活するものだ。
一向は最後の一ふんばり・・・と、再び現れるモンスターを倒しながら町の入り口までやってきて、
「ほほう、お客さんたち随分と戦ったんだねえ。あたしゃ、こんなにたくさんのモンスターアイテムを鑑定した事が無いよ」
「だろ?腕だけは確かなんだよ」
・・・町の入り口にある,、モンスタードロップアイテム換金所【サンライズアイテム】(どうやら全世界に支店があるらしい)にて集めたアイテムを換金すると、 まずは宿屋を探すべく、「T&Kアイランド」へと足を踏み入れた。







白い壁に、赤や黄色のカラフルな屋根。家々の入り口には、季節の花が植えられているプランター。
港町ほどの賑やかさは無いが、煉瓦たたみの道を行き交う人々。
所々にあるワゴンの中に詰め込まれているたくさんの花の匂いが、町の端々まで行き届いている。
子供達はボールを追いかけて駆け回り、母親達は、買物や洗濯をしながら子供達を眺めている。
露天商として品物を道に広げている婆は、柔らかい陽射にその身を委ねて目を細め、 治安を維持する為に町の中央の交差点に佇む女性の兵士は、時折子供達の姿に笑顔を見せるも、険しい表情でそこに立ちつづけていた。
・・・
「・・・おかしいわ」
一見、昔読んだ事のある童話のような世界。
パッと見はのどかな風景だが、
宿屋を探して町を歩いている最中、あかねがぼそっとそう呟いた。
「なにが?のどかな街じゃねえか」
そんなあかねに対して、ボーっと街を歩いていた乱馬がそう呟くと、
「おかしいわよ」
「だから何が?」
「街に入ってから、乱馬と良牙君以外の男の人に会ってないのよ。町の中央にいた兵士だって女性だった」
「あ」
「やっぱり港町で言っていたとおり、この町、おかしいわ」
あかねは、港町で聞いた噂を確かめるべくそう呟いた。
「!」
そんなあかねの言葉に、それまでぼーっと街を歩いていた乱馬や良牙、シャンプーははっとなって改めて街を見回した。
・・・なるほど、言われてみればその通りかもしれない。
街で遊ぶ子供達も、行き交う人々も。治安を守る兵士も。
そういえば、「女」ばかりで「男」はいない。それに加え、
「・・・」
道行く人々も、子供達も。乱馬達とすれ違うたびに、じろじろとその姿を見入っているのだ。
「・・・」
男性が街で散歩する事など、珍しいのだろう。
なんだか居心地が悪いその空間に、乱馬達は少し足を速めてようやく見つけた宿屋へと向かう事にした。
「やれやれ、奇妙な街だぜ」
「領主兄妹のせいかしらね・・・」
「やたらに歩き回らないほうがいいのかもしれないですね」
「変な街ある」
町の中央、少し入り組んだ路地の入り口にある、宿屋【パヒューム】。
居心地の悪い散歩を止めて、乱馬達がようやくたどり着いた宿屋へと入り、チェックインをするべくカウンターの前へと歩いていくが、
「なんだあ?誰もいねえじゃねえか」
「商業の町にしては、物騒あるな」
カウンターには、受付らしき人物は誰もいない。
「しかたねえなあ」
乱馬が、カウンターの隅に置いてあった「呼び鈴」らしきチャイムをチリンチリン、と鳴らしてみると。
と。
「死んでやるー!」
「はあ!?」
カウンターの置く、「staffonly」とかかれた扉が勢い良く開いたかと思うと、
次の瞬間、宿屋の主人・・・ではなく、そんな物騒な言葉を叫びながら、若い女性が飛び出してきた。
そして、
「死んでやるんだからー!」
「うわっ」
「きゃっ」
カウンターの前で呆気に取られていた乱馬達を突き飛ばし、その若い女性はそのまま宿屋の入り口から飛び出していってしまった。
「なにあるかあれ」
主人を呼んだはずが、奇妙な女が飛び出してきた。
一体何の宿屋だ・・・・と、シャンプーが怪訝そうな表情をしていると、
「で、でも、死んでやるって言ってたわよ。放って置けないわよっ」
「え?」
「も、もしかしたら本当に死んじゃうかもしれないじゃないっ・・・理由はわからないけどっ」
・・・死んでやるといって飛び出していった娘を、放っておく事は出来ない。
優しさというよりは、それがあかねのおせっかい病。
面倒見がいいというか、困っている人を見過ごせないというか。
「あ!おい、あかね!」
「行ってくる!」
自分だってわけも分からず突き飛ばされたにも関わらず、そして事情だって良く分からないにも関わらず。
あかねは、飛び出していった女性を追ってそのまま宿屋の外へと飛び出していってしまった。
自分の荷物を乱馬へと押し付けて、だ。
「あー、もうっ。しょうがねえなっ」
もちろん、そんな無鉄砲なあかねを、一人で放っておくわけには行かない。
ただでさえ、奇妙な町なのだ。
「おい、良牙っ。お前、かわりに宿屋にチェックインしとけ!おれ、あかねを連れ戻してくるから!お前らはここで待機っ」
「えっ・・・あ、ああ」
乱馬は押し付けられた荷物と自分の荷物を良牙に預けると、先に飛び出していったあかねを追って自分も宿屋を飛び出していった。
「乱馬!待つよろしっ・・・」
そんな乱馬をシャンプーが慌てて呼び止めるも、すでに乱馬は宿屋から遠のいていったあと。
ドアのところについている小さなベルが、チリリン・・・と虚しく音を立てているだけだ。
「ったく、何なんだこの宿は・・」
「これだけ受付で大騒ぎしていても、まだ誰も出てこないあるか。なんて宿あるか」
乱馬とあかねの分の荷物をまとめつつ、
良牙はロビーのソファへと腰を下ろし、シャンプーは、再び受付に置いてあった呼び出しベルをチリンチリンと鳴らした。
そして、
「とりあえず、そこに広げてある宿帳に記入だけでもしておくか」
「そうあるな。えーと・・・」
シャンプーがカウンターの上に広げてある宿帳に記入をしようとペンを向けると、
「・・・もし、旅のお方」
「ん?」
「中々の腕前がある方々と、お見受けします」
「は?」
「先程はお見苦しい所をお見せして申し訳ありませんでした」
がちゃっ。
それまでずっと閉じられていた「staffonly」の扉が、不意に開いた。
そして、なかからそんな事を言いながら一人の老人が出てきたのだ。
珍しい事に、その老人は男性だ。腰は大分曲がっているが、ロマンスグレーがとても似合っている爺だった。
「あんた、主人か?」
良牙がロビーのソファから立ち上がり、カウンターの中にいる爺に話し掛けると、
「いかにも。それよりも・・・少し、この爺の話を聞いてはくれませんか?勿論、話次第では宿泊料・・・タダにさせていただきます」
「・・・」
・・・初めて宿を取る旅人に、話次第で宿代はタダ。
どう考えても、胡散臭い話である。
「・・・」
良牙と、そしてシャンプーも。すぐには返事をしないでその爺をじっと見つめていた。
が、
「・・・」
カウンターの横にある、宿屋の料金表。一泊、1000レフとなっている。
乱馬達の所持金は、現在50000レフ。金額的にはまだまだ余裕はあるが、もしもこの街で武器や防具、それに薬草類をそろえるというのなら、そんなに 余裕がある金額でもない。
もちろん城のほうに援助を頼めば金額はいくらでも援助してもらえるだろうが、乱馬も、そして良牙たちも。それは極力避けたかった。
四人で宿泊をするならば、この宿屋の料金は4000レフ。
「・・・」
その4000レフを節約できるのであれば、なんとも魅力的な話である。
「・・・その話、本当だろうな」
一応はシャンプーと目を合わせてみるも、良牙が爺にそう返事をすると、
「勿論です。でしたら、夕食・朝食もお付けします」
「素泊まりで1000レフあるか。ぼったくりね」
「この街の宿屋は、皆そうです」
「・・・しょうがねえな」
「・・・では、こちらへどうぞ。詳しい事をお話いたします」
爺は、二人に一度頭を下げて、二人をカウンターの中へと招きいれた。
良牙たちは、爺に連れられるままカウンターの奥・先程娘が飛び出してきた「staffonly」の扉の向こうへと入っていった。



一方。
「死なせてよー!あの人がいないくらいなら、あたしはっ・・・」
「ちょ、ちょっと、落ち着いてっ・・・」
「放っておいてよ!」
・・・宿屋のある路地から飛び出し、少し道なりに行ったところに流れる橋の上で。
下に流れる穏かな川の流れとは正反対の物騒なセリフを叫びながら、一人の女性が、橋の手すりから身を乗り出していた。
そんな女性に必死に思いとどまらせるように声をかけているのは、もちろん彼女を追って宿屋を飛び出してきたあかね。
そして、
「・・・」
そんなあかねにようやく追いついた乱馬だった。
「ほら!乱馬も止めてよっ」
「止めるったって・・・」
事情も知らないし、なによりも彼女は興奮していてやたらな事は出来ないのだ。
なので乱馬は、まずはその女性を良く観察してみる。
・・・年齢は、自分達よりも少し年上だろか。いいところ、ハタチすぎくらいだ。
頬にはそばかす、髪は長く左右に分けてお下げにしていた。
カントリー風の少女趣味のワンピースが、なんともいえない取り合わせだが、まあそれもそこはかとなく似合っている。
何となく、古風な感じのする女性である事は間違いない。
それに、
「・・・」
着ているワンピースのお腹のあたりが、緩やかに出っ張っているような気がした。
身体はあかねよりも華奢。なのにお腹は膨らんでいる・・・単なる食べ過ぎや胃下垂とは思えないその出っ張り方は、彼女が妊娠している事を物語ってい た。
妊娠している女性が、「死なせてくれ」と身を投げようとしている。
ようやく乱馬は、今この状況が穏かでは無いことを悟った。
・・・
と、その内。
「あたしなんてっ・・・」 
乱馬達の前で、更に感情的にそう叫びながら、手すりから半分以上身体を川の方へと乗り出した女性に対して、
「ばか!」
バチン!
・・・初対面。しかも、ちゃんと「対面」しているわけでは無い。
さらに、外見だけしか推測できずに良く知らないその女性に対して、あかねは慌てて駆け寄って彼女をてすりから内側へと引き戻すと、小気味がいい音 を立てて、彼女の頬をひっぱたいてしまった。
「あっ・・・お、おい、あかねっ」
そんなあかねを、乱馬は慌てて取り押さえてその女性から引き剥がすも、
「何するのよ!彼がいないくらいならっ・・・父親のいない子供を産むくらいならっ・・・死んだほうがいいのよっ」
「貴方が死ぬのは勝手よ。でも、お腹の子供まで道ずれにするのは許せない!貴方は女性であると同時に、もう母親なのよ!」」
「っ・・・・」
「・・・どんな理由があっても、自ら命を絶つなんてだめよ。自ら死のうと思える勇気があるならば、どんな事があっても生き抜いていける勇気だってあるは ずよ?」
「う・・・うう・・・・わああああ!」
あかねのそんな言葉に、ひっぱたかれた女性の方は、頬を抑えて唇を食いしばっていた。
そして、やがて道の真ん中に蹲るようにして、激しく堰を切ったように泣き始めた。
いい年をした女性が、いくらひっぱたかれたとはいえ、道の真ん中で声を上げて泣きじゃくる。それは、異様な光景だった。
とりあえず自殺する事は止められたにしろ、なにやらこの女性が問題を抱えている事は明らかであった。
「ねえ、もう少し落ち付いたらちょっとお話しましょう?」
あかねは、泣きじゃくる彼女の肩にぽんと手を置きながら、そんな声をかけていた。
「お、おいあかね・・・」
・・・心配なのは分かるけど、あまり深入りしないほうが・・・。
乱馬はそんなあかねに小さな声で囁いてみるも、
「でも、放って置けないじゃない」
「そうだけど・・・」
「乗りかかった船よ、さ、乱馬も行きましょう」
「・・・」
乗りかかったというか、強引に乗り込んだんじゃねえのか?
「・・・」
おせっかいというか、心配性というか。
それがあかねのイイトコロでもあるけれど、乱馬は思わず大きな為息をつきながらも、
「さ、行きましょう」
「・・・」
泣きじゃくる彼女を連れて近所の喫茶店へと入るあかねの後について、歩きだした。





「・・・私の名は、ベッキー。宿屋【パヒューム】の跡取娘です。両親は私が小さい頃に流行り病で死んでしまったから、今は祖父と一緒に宿屋を経営してい るの・・・」
・・・ほどなくして入った、近くの喫茶店。
妙にファンシーな小物と、ピンク色で統一された店内。それにレースをあしらったカーテンにふかふかの椅子。
「お待たせしましたー、ご注文のアップルティーとミントティーです。そちらの男性は・・・お水でいいんですか?」
「は、はあ・・・」
店員さえも、ヒラヒラふわふわのドレスを着ている。妙に丸文字なメニューに若干頭痛を覚えた乱馬は、本当は甘い物が好きなのだけれど今日は水でお 腹がいっぱいだ。
何だか居心地が悪く、そわそわとしながらも、あかねと、そして先程の女性・ベッキーの話を、傍らで聞いていた。
「私・・・明日、結婚式を挙げる予定だったんです」
「・・・だった?」
「はい・・・」
ベッキーはそう言って、しゅん、とした表情で俯いてしまった。
・・・ベッキーは、宿屋の娘で年齢は二十一。
現在妊娠四ヶ月。そして本来なら明日、結婚式を挙げる予定だったようだ。
「できちゃった結婚か・・・。愛がなけりゃあなあ。いや、でも事が先か結婚が先かは深刻な問題だ。まあうちの場合は俺が我慢できるか出来ないか・・・」
そんなベッキーに対し、妙に真剣な面持ちで乱馬がぼそっと呟くと、
「そうじゃないでしょ!」
ゲシっ
あかねは、そんな乱馬の脛をテーブルの下で思い切り蹴飛ばしてやった。
「いてっ。大切な事なのにー」
顔をしかめながらもそんな事をぼやく乱馬にため息をつきつつ、
「えっと・・・。あ、この人の事は気にしないでね」
とりあえずは自分の許婚の無礼をベッキーに謝り、あかねが咳払いをしながらも再び話題を戻すと、
「で?明日挙式予定・・・と言ってらっしゃったけど、彼・・・どうかされたんですか?」
と、ベッキーに尋ねた。
橋の所にいた時、ベッキーはしきりに【父親のいない子供を産むくらいなら】と言っていた。
もしや、不慮の事故か何かで・・・と、あかねが恐る恐るベッキーに尋ねてみるも、
「彼・・・・アルファードと言うのですが、アルファは私と結婚の約束をした数ヶ月前から昨日まで、別の街へと商いの修行に出ていたんです」
「まあ」
「それで結婚式を挙げるために戻ってきて、昨日はその会場を見にいったりして・・・会場に花を飾ろうかって話をしていたんです。結婚式用の、綺麗な 花・・・」
「・・・」
「その花を、大量に栽培している領主様のお屋敷から分けてもらおうと、昨日の昼、彼は領主様の所へと行きました。
  でも・・・それっきり帰ってこない」
「・・・」
「嫌な予感がして、領主様のお屋敷に私、行ったんです。そしたら、【彼は妹君の婚約者候補としてここに残ってもらう】って・・・。
  おじいちゃんにもその事を伝えて、彼を返してもらいましょうって頼んでも、【諦めろ、運が無かった】って・・・」
ベッキーはそう言って、再び自分の瞳にじんわりと溜まった涙を、指で何度も拭っていた。
あかねと乱馬は、そんなベッキーに気遣いつつも思わず顔を合わせてしまう。
・・・港町で噂になっていた事は、本当なのだ。実際にこうして被害にあった女性を目の当たりしに、乱馬達はなんだか心苦しかった。
「・・・この国の領主兄妹の事はご存知ですか?」
ベッキーはそれでも、あかね達に必死に状況を説明しようと、話を続ける。
「少しだけ・・・でも詳しくはしりません」
涙でこもるベッキーの声を必死に聞き取りながら、あかねはそう答える。
「妹の婿を見つけるために、兄が若い男を屋敷へと監禁しているのです。とにかくたくさん集めて、婿選びのパーティーをすると・・・」
「・・・」
「もしも逃げ出そうとすれば、殺されてしまいます。先代が無くなった二ヶ月前から、この街の若い男達は皆、攫われてしまいました。アルファは、先代が亡くなる前に修行に出たので、このことを知らなかったんです。だからどんなに止めても【大丈夫だ】って・・・。止めきれなかった、あたしにも責任がある・・・」
ベッキーはそこまで言って、再び声を上げて泣き出した。
・・・ベッキーと同じように、婚約者や恋人、そして父親を奪われてしまった街娘達は大勢いるようだ。
領主のターゲットは、青年から成人男性まで。老人は除外されている為に、宿屋の主人は無事だったようだ。
そして少年や子供はまだターゲットにはされていないのだが、子を持つ親達は「もしも」の事を考えて家の外へは出さないようにしているらしい。
つれあいや父親を奪われて、更に最愛の子供まで奪われたらたまらないからである。
・・・
「どうやら、私達が結婚式を挙げる予定だった明日、領主の館では妹の婿選びのパーティーがあるようなのです」
「・・・」
「もしもアルファが、本当に妹の婿になんてなってしまったら私・・・」
ベッキーはそう言って、更に両手で顔を覆って泣きじゃくる。
「・・・アルファードさんがそう簡単に心変わりをするとは思えないけれど、でもこんなの許されない事だわ」
あかねはそんなベッキーの姿を見つめながら、怒りを露わにそう呟く。
「許されない事だわって、お前まさか・・・」
「アルファードさんを取り戻すのに、協力してあげましょうよ!」
「してあげましょうよっ・・・て、お前そんな簡単に言うけど・・・」
「なによっ。じゃあ乱馬はもしもあたしがこのベッキーさんと同じ状況だったら、見捨ててどっか行っちゃう訳?」
そして乱馬にそんな風に主張をするが、
「同じ状況って、なるわけねえだろ」
「わからないじゃないっ」
「わかるだろーが。おめーが同じ状況だったら、俺は監禁されてなきゃおかしいだろ」
「あれえ?」
「あれ?じゃねーよ」
・・・それに、そんなヘマしでかしてあかねとお腹の子供を泣かせるなんて、絶対にするもんか。
「・・・」
最後の一言はあかねには言わなかったものの、
「・・・ったく、しょうがねえなあ。とりあえず宿屋に戻って、良牙たちにもこのことを話さないと」
「そ、そうよね」
「あ、ありがとうございますっ」
「礼はこの無鉄砲女に言ってくれ」
乱馬はやれやれ、と大きなため息をつくと、
「必ずアルファードさんを取り戻しましょうね」
「ええ!」
・・・そんな風に自分の後ろで手を取り合っているあかねとベッキーをつれて、再び宿屋へと向かって歩き出したのだった。





その頃、宿屋では。
「私は、この宿屋の主人でハミルトと申します。先程泣きながらこの宿屋を飛び出していったのは、私の孫娘のベッキーです・・・」
「ふーん」
「ベッキーの両親は、あれが小さい頃に流行り病で亡くなりましてね。だから私が親代わりにあれを育てているのです」
・・・奥の部屋へと通された良牙とシャンプーが、宿屋の主人・ハミルトから詳しい話を聞いていた。
「で?俺達に何を頼みたいんだ?爺さん。単なる話相手をして欲しいって訳じゃねえだろ?」
「無論。・・・旅のお方、あなた達は、この町の領主兄妹のことを知っていますかね?」
「噂は聞いた程度だけど・・・」
「・・・噂どおり、ちょっと困った者達でしてね」
ハミルトはそう言って、良牙とシャンプーに温かい紅茶を勧めると、
「先代が亡くなってから兄妹力を合わせてこの街を守ろうと勤めるのはありがたいが、それ以外のところが問題で」
「問題?」
「年頃の妹君の婿を選ぶべく、この街の若い男を攫っては屋敷に監禁してしまったいるのですよ」
「・・・」
「孫のベッキーは、明日が結婚式でした。でも、その婚約者も昨日・・・攫われてしまった。
  ベッキーは身ごもってましてね・・・ちょうど精神的にも不安定な時期なのです。私のアドバイスも聞かず、さっきも飛び出していった」
「その婚約者、なんで昨日まで攫われなかったんだよ?他の奴らはとっくに攫われてたんだろ?」
「考えてみれば妙な話ね」
勧められた紅茶をすすりながら、良牙とシャンプーがそれぞれハミルトに質問するも、
「ベッキーの婚約者・・・アルファードと言うのですが、奴はこの宿を継ぐ為に、ここから少し離れたヒルダ、という商業都市へと商いの修行に出ていたので す。商売の筋のいい、青年です。それが、数ヶ月前・・・先代の領主が、まだ存命の頃でした」
「そういうことか」
「はい・・・。ベッキーと結婚する為に帰ってきて、式場に飾る花を、ベッキーと私が止めるのも聞かずに領主の屋敷へと調達に行ってしまったのです。
  そしたら、案の定・・・」
ハミルトはそう言って、大きなため息をついた。
良牙とシャンプーは、思わず顔を見合わせる。
「・・・で?話ってのは・・・要はそのアルファードって奴を取り返すって事か」
「それを私達に依頼したいあるか?」
そしてハミルトにそう尋ねると、ハミルトは首を左右に振った。
「え?」
「・・・攫われているのは、アルファードだけではない。この街の男達、殆どだ。働き手を失った家庭がどれだけ大変か・・・」
「・・・」
「どうにかして、他の男達もそれぞれ、家に帰してやりたいのです。もちろん、アルファードと一緒に」
驚いていた良牙にハミルトがそう補足すると、
「監禁されている男達を解放するのは簡単ある。でも、私達がこの街を去った後、また同じ事、繰り返される可能性、あるあるぞ」
紅茶を飲みながら話を聞いていたシャンプーが、ハミルトにそう釘をさすと、
「ええ、もちろん分かっています。だからこそ、こうしてあなた達に相談しているのです。普段街にいる人間ではないあなた達に、彼らを懲らしめてもらいた いのです。・・・」
「・・・」
「先代の領主が死ぬまでは、本当に普通の兄妹だったのです。でも、先代の遺産を相続してから代わってしまった」
「へー・・・」
「遺産の中に、なにやら由緒正しいカードがあったみたいですね。それを継承してからというものの、人格が代わってしまったのです。人は富を得るとこうも 変ってしまうのか・・・」
ハミルトはそう言って、ため息をついた。
「カード・・・?」
「・・・」
もしや、と思い、良牙とシャンプーは顔を見合わせた。
「昔と比べると、兄も妹もまるで別人ですよ・・・」
「・・・」
・・・乱馬や良牙たちが集めている例のカード。
今回、その領主兄妹が相続した「由緒正しきカード」というのは、まさにそれなのでは無いだろうか。
だとしたら、カードが人間に及ぼした、まさに悪い例。二人はそう確信した。
カードの力は、強大だ。
その兄妹のことは詳しくは分からないが、すでに現在、人格はカードに支配されかかっているのかもしれない。
それをこのまま放っておけば、今以上の酷い状況をこの街にもたらすようになる・・・それは明白だった。
「・・・ま、こちらとしては一石二鳥だがな」。
「やっかいだけど、カードが手に入る可能性があるならば仕方がないね」
正義の味方を気取るつもりは無いが、カードが手に入るかもしれない可能性をみすみす捨てる事は無いだろう。
良牙とシャンプーは一瞬でそんな意思疎通を図り頷きあった。
そしてハミルトに返事をする。
ハミルトは良牙たちの返事にぱあっと表情を明るくすると、
「ありがたい!武器や薬草なんかの調達は私達街の者が責任を持ってやらせてもらいますよ」
「頼む」
「事を起こす狙い目は、明日の婿選びのパーティー・・・お願いします!」
そう言って、ガタン、と座っていた椅子を後ろに倒して立ち上がった。
「ああ、バカ王子があかねさんを連れて帰ってきたら、相談してみよう」
良牙は、立ち上がったハミルトと握手を交わしながらそう呟いた。
「・・・だから、宿の料金と食事の件は忘れるなよ?じいさん」
「ああ、まかせておいてください!」
そして、ちゃっかりと例の条件のほうも念を押す。
「・・・ついでに部屋も広めならばありがたいが」
「喜んで!」
シャンプーもこっそりとハミルトにそう注文をすると、
「ああ、早く乱馬達戻ってこないあるかな・・・広い部屋で、少し体を休めたいある」
と、残った紅茶をグビッと飲み干しながらそう呟いたのだった。



・・・こうして。


「おー、待たせたな、良牙・シャンプー。実はさー・・・」
「乱馬、あかねさん。いや、実は・・・」
それから少しして、ようやく宿屋に戻った乱馬達と、そして彼らを待っていた良牙達は、顔を合わせるなりそれぞれが勧めていた話を口にし、
「よーし、じゃあ婚約者奪還と、カードの奪取作戦でも練ろうぜ!」
と、 ハミルト・ベッキーと共に、今後の事を相談し始めたのだった。

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