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インターバル

ウォータークールの街を後にし、レイディア大陸の港へと到着した一行は、 出掛けにランゼ達にアドバイスをされた通りに旅支度を港の市場で整えながら、宿を取る事にした。
そして、市場で買物をしながら次なる目的地「T&Kアイランド」の情報収集をしようと試みるも、
「T&K?ああ、あの街はなあ・・・できれば素通りして長居はしたくねえな」
・・・聞く人々、皆口を揃えてそんなことを言う始末だ。
なんでも、この「T&Kアイランド」を治めている兄妹の「資質」が問題のようで、聞く人々共通して、この兄妹のことをよくは言わないのだ。
兄は変わり者。そして妹は思い込みが激しく高飛車。
更に、自分の結婚相手を探すべく、若い男を皆城の中に囲ってしまっている為に、
「あたしの友達は、恋人がずっとずっと帰ってこないって・・・泣いてたわ」
「ひどい!でも・・・逃げる事はできないの?」
「逃げようものなら、殺されてしまうよ。あの兄妹は腕も立つんだ」
「・・・」
・・・それゆえ、町に住む娘達は常に涙を飲むハメになり、そして通り過ぎる旅人達も自分の連れ合いを守るべく、めったに「T&Kアイランド」では宿を取らないらしい のだ。
ただ、
「あの領主兄妹の住む城には、何でも物珍しい宝物があるらしいよ。それのおかげであそこは豊かな町になったって」
「へー」
「前にちらっと聞いただけなんだけど、なんでもすっごく珍しいカードなんだってさ。でもカードで富なんてえられるのかねえ?」
「!」
・・・と、情報収集の際に村人の話を聞いたのもあり、
街自体は物騒であるが、乱馬達はその真実を確かめるべくその街に滞在せざるえなかった。
『富を得られる珍しいカード』
言わずと知れた、乱馬達が集めている例のカードに違いない。
「それにしても、恐ろしい待ちあるな。でも、乱馬安心するよろしぞ?乱馬は私が守るある!」
情報収集をした帰り道、食料や雑貨の入った茶色い紙袋を抱えながら、シャンプーがそう言って腕を取った。
「お、俺は別にそんな守られなくても・・・」
乱馬は、シャンプーではなくあかねの方をちらちらと見ながらそんな事を呟くも、
「物騒な街ね・・・すんなりとカードが収集できるとも思えないし・・・」
あかねは、そんな乱馬の事を全く無視してそんなことをぼやいていた。
そんなあかねに、
「あかねさんは、僕が命に代えても、必ずや守ってみせます!」
さりげなく同じ速度で歩きながら、両手に荷物を抱えた良牙が主張するが、
「うるせえ、この方向音痴っ。あかねを守る前に、道を覚えろっ」
「何をー!?このバカ王子っ。貴様なんぞにあかねさんを任せておけるかっ」
「乱馬!私はバカでも乱馬が好きあるぞっ」
「なっ・・・バカは余計だ!」
そんな良牙を乱馬が咎め、そんな乱馬をシャンプーが追う。すぐにいつものドタバタ劇が始まってしまったが、
「・・・」
そんな三人の様子を尻目に、あかねは全く別のことを考えてため息をついていた。
そう・・・あかねには、常に頭の中から離れない事柄があるのだ。
誰にも相談できないその事柄を、どんなに楽しい旅の最中でも、どんなに激しい戦闘の最中でも、あかねは忘れてはいけないのだ。
キリト達のことが一段楽し、次の街へ向かうまでの道のり・・・もちろん次の街への不安もあるのだが、
その「忘れてはいけない事柄」が、しばしあかねの頭を占拠する事は間違いない。
「忘れてはいけない事柄」・・・それは、旅立つ前日にコロンより言い渡された占いの結果なのだが、
その事を思い出すたびに、あかねは、こうして道を歩いている途中でも自然とため息をついてしまうのだった。
「・・・」
・・・そんなあかねの様子に、ドタバタ劇の渦中いるも乱馬だけは気がついていたが、
「・・・」
あかねが何を悩んで、何を考えているのか。彼女自身が話したくないのなら仕方がない。
少し寂しい気もするが、乱馬はそんなあかねを見守るしかなかった。



買物を終えて、本日泊まる事になっている宿に戻った一行は、船でこの街へとつくまでの間に船の上で話し合った事・・・そう、そろそろカードも集まり始 めたので、一度集まったカードについてコロンに聞いてみようと言う事を実行すべく、 シャンプーにあてがわれた部屋に一度皆で集まって、コロンと連絡を取る事にした。
戦いが続いている最中では中々連絡も取れないし、こうして時間に余裕があるときにコロンと話をするのもいいはずだと、皆で話し合った結果だった。
・・・乱馬達が城を出てから手に入れることが出来たカードは、すでに四枚になっていた。
元々城にあったものを含めると、すでに乱馬の手元にあるカードは六枚になる。
「すげえな!もう六枚も集まったのか!」
嬉しそうにそう叫びながら、腰のカードフォルダからカードを取り出しベッドに並べる乱馬に対し、
「二十二枚のうちの、まだ六枚でしょ。あと十六枚もあるのよ。まだまだ」
あかねは、苦笑いをしながらそんな乱馬を諭す。
「まだ数はそんなに多くないあるが、一枚一枚に秘められている力は強いはずね。せっかく持っていても、使いこなさねば意味ないある」
「う・・・」
「まずは、集めたカードについてひいばあちゃんに、聞くある」
更にシャンプーにも留めを刺され、乱馬は「そうだけどさー・・・」と唇を尖らせるも、
「とりあえず、ばあさんと連絡を取ろう。シャンプー、頼むぞ」
乱馬はシャンプーにそう指示を出した。
「了解ね」
シャンプーはそう答えると、自分の荷物の中から「黒い布包み」を取り出した。
そしてそれを窓辺におき、ゆっくりと開く。
中には、キラキラと輝く水晶玉が包まれていた。
「きれい・・・」
窓からは差込む光で部屋の中をキラキラと光が反射するのを見て、あかねが思わずそんな事を呟いた。
「この水晶は、純度の高い石だけを集めて作られた特別なもの。世界に二つしかないね」
「二つ?」
「一つは、これ。ひいばあちゃんが持っていたもの。もう一つは・・・世界のどこかにある、『癒しの里』という場所に祭られているといわれているね。純度の高い水晶、魔術の他に治癒能力にも役立てる」
シャンプーはあかねの呟きに言葉少なくそう答えると、
『●×▽□♂◎・・・』
窓辺の光る水晶に左手を翳し目を閉じて、なにやらあかね達には理解できないような言語でブツブツと呪文を唱え始めた。
「そういや乱馬よ。お前、旅に出るときに魔法辞典と言うか、カードに関する書物ももたされたんだろう?荷物になかったか?確か」
・・・そんなシャンプーが呪文を唱えている近くで、ふと思い出したかのように良牙が乱馬にそう尋ねた。
そう。
旅に出る前に、乱馬はコロンから、「カードの事はこれを見て勉強しろ」と書物を与えられていた。
もちろんそれは荷物の中にもちゃんと入っているので、こんな風にわざわざコロンと通信してまでカードの事を聞かなくても、事は足りそうな気もするが、
「あ・・いや・・」
そんな良牙の問いに対し、何故か乱馬は、歯切れが悪い。
「あのね、良牙君。乱馬も一応は勉強しようと本は開いたの。でもねー・・・読めない文字が多すぎて、すぐに眠くなっちゃうみたいで」
なので、そんな乱馬の代わりにあかねが良牙にため息混じりに説明をする。
「・・・お前、ホントにバカ王子なんだなあ。俺、こんな奴が治める国の騎士なのか?一生・・・」
良牙も、あかねのその説明を聞き「やれやれ」と言った表情をするが、
「し、仕方ねえだろっ。俺は肉体派王子だっ」
「何だそりゃ」
「うるせーっ。大人になったらきっと色々と知識だって増えるっ」
「十六歳の男が大人になるのは一体いつなんだ?」
「う・・・」
乱馬は、どうにもこうにも情けない言い訳をして、更に良牙を呆れさせる。もちろんその横で、あかねもこっそりとため息をついていた。
「・・・それよりも。なあ、わざわざばあさんと通信しなくても、そのカードフォルダって国王とかとも通信できるんじゃなかったっけ?」
これ以上はバカ王子に付き合って入られない・・・と、良牙はふっと話題を変えて乱馬でも答えられるような話題へと話を振った。
「まあ簡単な通信・・・というか、俺達が集めたカードの転送はできる。フォルダ内の空間を『共有』はしているみたいだな。
  もちろん話とかもできるけどさ、俺が常時フォルダを腰に携帯しているのと違って、オヤジもお袋も、いつも居住しているスペースにはそれを置いてない から。
  一国を預かる国王と王妃が、宝物庫に四六時中張り付いているわけには行かないだろ?」
「ああそうか」
「だから、ばあさんと連絡をとって状況を伝えてもらったほうが楽なんだよ。ばあさんはシャンプーと随時連絡が取れる状態みたいだし・・・」
「へー」
乱馬と良牙がそんな事を話をしている、そんな中、

「繋がったある!」

それまで一人窓際で作業をしていたシャンプーが、そう叫んだ。
その声に反応し、乱馬達は慌てて窓際まで走り寄った。
シャンプーは乱馬達が皆自分の元に集まった事を確認すると、
「ひいばあちゃん、久しぶりある!元気だたか?」
窓際に用意した黒い布の上に置かれている透明な水晶玉に向かって、シャンプーが話し掛けた。
すると。
ブブ・・・ブブブブブ・・・・
それまでは日の光を浴びてただキラキラと輝いているだけだったはずの水晶玉から、
奇妙なオレンジ色の光が、そう・・・まるで電気でも発しているかのような音を立てながら現れ初めた。
「!?」
乱馬達が思わずギョッとしながら窓際から一歩、あとずさると、
「大丈夫ある、これが通信中の証拠ね」
シャンプーは、わざとらしく乱馬の腕だけ取って逃げないようにその姿を咎める。
「・・・」
と、そうこうしているうちに、
『・・・おお、シャンプー。それに王子にあかねに・・・そっちは良牙か。無事たどり着いたんじゃなあ。いやはや、よかったのう。』
ブブブ・・・と水晶から発せられたオレンジ色の光は、やがて水晶の上のある一点へと集中していった。
そして、その光はぐるぐると円を描くようにし次第に大きな楕円を描いていくと、
ふっ・・・
ある瞬間その楕円が窓の上の壁・・・部屋の側面いっぱいに光を照らし出すように広がって、
その楕円の中心に、コロンの、懐かしいしわくちゃな顔が映し出された。
「す、すげえ迫力だ・・・」
・・・タダでさえ歳をとり、そして『齢三百歳』と噂されるコロンのその顔のアップに、思わず乱馬がそんな言葉を洩らすと、
「乱馬っ」
ムギュっ
そんな乱馬を戒めるべく、あかねは乱馬の足をつま先でぎゅっと踏みつけた。
「いてっ」
乱馬は、「だってよー・・・」とばかりに顔をしかめるも、
「失礼でしょっ」
あかねはやれやれとため息をつく。
「ははは、よいよい。それよりも王子、旅は順調かの?」
コロンはそんな乱馬とあかねの様子を笑顔で見つめながらさっそく、乱馬に話し掛けてきた。
「え、ああ、まあな。とりあえず城を出てから今までで四枚のカード、集めたぜ」
「ほう。それは良い出だしじゃな」
「おう」
乱馬はコロンにそう報告をし、コロンのちょうど目線の届く位置に部屋の隅にあったサイドテーブルを移動させてくると、
「これと・・・これ、それにこれ・・・」
と、自分達がそれまで集める事が出来たカードを並べて見せた。
「ほうほう・・・」
コロンは乱馬が並べたカードをそんな声を洩らしながら見つめると、
「・・・よし、それでは今からちょっと説明をしてやろうかの。さ、皆そのあたりに腰でも下ろせ。立っていると疲れるぞ」
と、乱馬達に適当に腰を下ろすように勧めた。
乱馬だけはサイドテーブルの傍にあった椅子に腰掛け、その他の面々は適当に床やソファ、ベッドなどに腰をかけて再びコロンのほうへと臨むと、
「では、まず・・・」
コロンはそう言って、一度咳払いをした。そして、
「旅立つ前に少しだけカードについて話をした事は覚えておるか?王子」
「ああ。カードにはそれぞれ強力な力が込められているって言う奴だろ?」
「そうじゃ。でもその説明だけでは実は不完全でな・・・正しくは、一枚のカードにはそれぞれ強力な力が『二種類』込められているんじゃよ」
と、言った。
「え?二種類の力・・・?」
乱馬がその言葉に首をかしげると、
「そうじゃ。だから、二十二枚のカードを集めるということは、すなわち四十四の強力な力を手に入れるということなんじゃよ。
  だから、昔からこのカードを廻る争い事が耐えなかったんじゃな・・・タダでさえ強力なのに、きちんと使いこなせば四十四もの力を手に入れられるのじゃ からな・・・。
  それゆえ、このカードは全て集まった時点でそう長い事時間を共有しあう事が出来なくて・・・それぞれのカードの力が反発しあって、ばらばらに飛び散 ってしまうのじゃよ」
「へえ・・・」
「さ、王子。まずはどのカードでも良いから一枚、手にとって見よ」
コロンは、乱馬に向かって軽く説明をすると、まず一枚のカードを手に取らせるべく指示を出した。
「えーと、じゃあ・・・これ」
乱馬はテーブルに並べられているカードをパパっと見渡し、とりあえずは・・・と、「迷いの森」で大五郎より譲り受けた「力-STRENGTH-」のカードを手に取 った。
「これ」
乱馬はその手にしたカードをコロンに見せると、
「ほほう。それは『力』を象徴するカードじゃな。王子、それはどこで手に入れたのじゃ?」
「え、これか?えっと、これは・・・『迷いの森』の傍にある木こりの村に住む大五郎って人を助けた時にもらったんだ。
  元々、この木こりの村に住んでた熊八ってきこりが、大昔森でモンスターと戦って勝った時の証として手に入れたんだって」
と、カードがそれまで置かれていた環境をコロンへと説明した。
するとコロンは、
「ほほう。それはいかにも、その『力』のカードに相応しいような環境に置かれていたのじゃな」
「あ、そういえばそうだな。偶然でもすごいな」
「偶然では無いぞ、王子」
「え?」
「・・・それぞれの力を反発しあってばらばらになるカードたちは、別に無造作に世界各地へと飛んでいくわけでは無いのじゃ。そのカードが司る「象徴」や「意味」・・・それらが何らかの形で関係している場所へとおさまっていくのじゃ。きっとその『力』のカードもそうじゃったろうて。屈強な木こり達の村にあったことを考えると、偶然では無い。カードがその場所を選んだのじゃ」
と、乱馬に説明をした。
「へー・・・すごい」
「不思議なカードね・・・」
「世の中には不思議なものもあるんだな・・」
その話をそれまで黙って聞いていたあかねやシャンプー、良牙も思わずそんな声を洩らす。
「ふーん・・・」
乱馬も『力』のカードを眺めながらそんな声を洩らしていたのだが、そのうちふと、あることに気が付いた。
「・・・。なあ、ばあさん」
「どうした?王子」
「このカード、カードが収まる場所を選ぶんだろ?」
「そうじゃよ」
「・・・俺の城にあったカード・・・」
「ん?」
「・・・『愚か者』だったんだけど・・・」
乱馬がぼそぼそっとそう呟くと、
「あ、そういえば・・・なんか大道芸人みたいなカードだったわねえ・・・」
「芸は身を助けるある」
「バカ王子は生まれる前から運命付けられてたのか?」
そんな乱馬の後ろで、あかね達がひそひそとそんな会話を交わしていた。
「くっ・・・」
乱馬がそんな三人をじろっとにらみつけると、
「よいではないか、明るくて」
コロンも、それに対して特に否定はせずカラカラと笑っていた。
「ちぇえっ・・・」
せっかく勇者の剣と、そして勇者のカードを集めているのに。なんで始まりが『愚か者』なのだろうか。
「そういえば、一番初めに使えた力も、大道芸だったしなあ・・・」
どう考えても、「ヒーロー」には程遠い乱馬がガックシと肩を落とすと、
「まあまあ。それが王子らしくて何だか微笑ましいぞ」
「そうか?」
「そうじゃよ。さあ、それよりも王子。カードの説明を続けようぞ」
コロンはそんな乱馬をやんわりとなだめ、再び咳払いをして説明をはじめた。



コロンの説明によると、こうだった。
『力』(STRENGTH)*迷いの森で入手*−−−力の象徴のカード。その名のとおり、勇気や、強大な力や、そして包容力を司るカード。
もう一つの意味は、その逆で弱気や非力、そして独裁横暴さを示す。
『法皇』(THE HIEROPHANT)*海賊キリトの秘宝島で入手*−−−法皇、という立場を象徴すべく秩序の象徴のカード。秩序や伝統、保守、そして慈愛のカード。もう一つの意味はその逆で、無秩序・頑固。周りを気遣い統治する余裕のないありさまを示す。
『戦車』(THE CHARIOT)*海賊キリトの秘宝島で入手*−−−その名のとおり、戦いの象徴。行動的であり攻撃的、そして堅実的で自信に満ち溢れている「戦い」を司るカード。 もう一つの意味は、横暴やそれと表裏一体の自信の無さ。力の怯えや消極的な行動を示す。
『星』(THE STAR)*海賊キリトの秘宝島で入手*−−−その名のとおり、「星」・・・つまりそれは人々の希望であり、夢であり、憧れという耀かしい感情を司るカード。もう一つの意味は、 高望みや空想、驕りからの先走り・・・等を意味する。
『魔術師』(THE MAGICIAN)*コロンが所有していた。旅開始より入手*−−−大地の象徴を示す水・風・地・火そして「無限大」を象徴する「レミスカーフ」の元に、強力な魔術と、知恵や巧みな技術等を司るカード。 もう一つの意味は、それらの力に溺れたものの末路・・・悪巧みや詐欺などの悪事を示す。
『愚か者』(THE FOOL)*玄馬が所持し、継承。旅開始時より入手*−−−その名のとおり愚か者、むしろ「自由」を司るカード。大道芸人や旅人を代表するカード。無鉄砲さ好奇心の多さ。もう一つの意味はそれらと表裏一体の、自分勝手やわがまま、そして無気力さを示す。まさに「愚か者」。


「へえ・・・カード一枚にも色々な意味が含まれているんだなあ・・・」
乱馬が一通りのカードの説明を聞いたあとでそのような感想を洩らすと、
「そうじゃろ?」
コロンは軽く頷いて見せた後、
「カードはただ所持しているだけでも勿論強大な力をもたらすがな、王子の持っている勇者の剣に差し込んで戦いや必要な局面で利用する事によって真 の力を発揮してくれるはずじゃよ。そのときに・・・このカードがそれぞれ持つ意味を『使い分ける』ことが大切なんじゃよ」
「使い分ける・・・」
「そうじゃ。カードスロットにカードを差し込んだとき、カードが示すただし絵柄の向き・・・それを一般的には『正位置』というんじゃが、『正位置』かそれとも 反対の『逆位置』かで、剣から発揮される力が変わるのじゃ」
と、呟いた。
「位置、か」
「そうじゃ。カードは、カードスロットに差し込む方向によって、同じカードでも別の力を発揮するという事なんじゃよ」
コロンはそういって、再び乱馬の手にしていた『力』のカードを指差した。
・・・つまり。
「力」のカードを例にして考えて見ると、 乱馬の持つ剣のカードスロットに、その「力」のカードを差しこむ時、 剣に対して正しい向き(「正位置」)でカードをスロットに差し込めば、カードの本来の意味どおりに「強大なる力」の援助を得る事ができるのだ。
例えば、『自分の力を少しの間だけパワーアップさせたい』と願いながらこのカードを『正位置』で差し込めば、その願いどおりにその力を得る事ができ る。
しかしもしも、剣に対して逆の向き(『逆位置』)にカードを差し込んでしまった場合は、カード本来の「強大な力」を得るどころか、自分の力を半減させてし まうような・・・そんな効果を自分自身にもたらしてしまうという事だ。
カードはそれぞれ正反対の二つの意味を持っているので、戦いの局面では気をつけてそのカードを利用しなければいけないということなのである。
・・・
「王子、利き手はどっちじゃ?」
「え?み、右手だけど・・・」
「じゃったら、剣を握る時、右手のほうが左手よりも刃先に近い位置で手を握るな?」
「そうだよ」
「では、カードスロットに対し、絵柄が右側に。そして刃先に向かってカードの絵柄が正しく見えるように差し込むのじゃ」
「えーと・・・」
「カードの上部には、二十二枚のカードのそれぞれの番号が書かれているはずじゃ。その番号がかかれているのがカードの上部じゃから、そちらが刃先 に向くようにカードを差し込めば、それがそのカードの『正位置』という事になる」
「こ、こうだな・・・」
カシュっ・・・
乱馬は、コロンの指示どおりに、腰に差していた「勇者の剣」を引き抜き、そのカードスロットに、試しにその「力」のカードを差し込んでみた」
その途端、
ブウンっ・・・
「うわっ・・・・」
剣の柄を両手で握っていた乱馬の手に、何か得たいの知れないものが「流れ込んでくる」ような感覚が走りぬけた。
そしてそれと同時に、ポウっ・・・とその剣先に虹色の光が帯び始めた。
ただその光はまだ手のひらよりも小さい光で、ジジジジジ・・・と、剣先で今にも拡散されてしまいそうな、うっすらとした光だ。
「これはっ・・・」
乱馬が緊張と驚きで掠れた声を出すと、
「それが、『力』のカードが王子にもたらした、『正位置』の力じゃよ。王子がもっと強くなれば、強くなった分だけその虹色の光は大きくなる。  カードがもたらしてくれる強大な力は、王子の強さに比例しているという事じゃ」
「!」
「強大な力を援助して欲しかったら、王子がもっと強くなるという事じゃ」
「・・・わかった!」
「精進しろよ。そして、使い方を間違えるのでは無いぞ?」
コロンはそういって、最後に乱馬にそう諭した。
乱馬は真剣な面持ちで頷いてみせると、
「これが力・・・じゃあこれが魔術師で・・・」
と、コロンから説明を受けたカードを、それぞれスロットに差し込んではその力の有無を確かめていた。
カードを集めてはいたものの、その方法や効果がよく分からなかった乱馬は、「勇者の剣」もただの「剣」としてしか利用をしていなかったのだ。
とりあえずこうしてコロンに説明を受けたので、これからは少しづつ、このカードを利用しながら戦いもすることができる。
そう考えた乱馬は、とりあえずあれこれと試してカードになれようとしていたのだった。
「さっきは簡単な説明しかしなかったが、そのカードが発揮する力がどんなものかは、前に渡した書物に書いてある。戦いの参考にするがよいぞ」
コロンは、そんな乱馬に対してそう笑顔でアドバイスをした。
が、
「あー、えっと・・・」
・・・まさか、読めない文字が多すぎて本を読んでいる最中に飽きて眠ってしまう。
堂々とそれをいえなくて乱馬が口を濁していると、
「おばあさん、あの書物は専門用語が多すぎて読むのに時間がかかるの。もっと簡単に本を読み進められる方法は無いかしら?」
そんな乱馬に助け舟を出すべく、あかねがコロンにそう提案すると、
「そうか、そうじゃな・・・一般のものに読ませるには少々酷じゃなあ。だったら、シャンプー」
コロンは不意に、シャンプーの名を呼んだ。
そして、
「王子に、魔術用語が簡単に理解できるような『魔法フィルター』を作ってやるといい。おぬしも子供の頃はそれを使って勉強したじゃろ?」
というと、
「了解ね。じゃあ、あとで乱馬と一緒に作るある。乱馬にぴったりのもの、私がつくってあげるある!」
また『乱馬と一緒に』という部分を主張しながら、シャンプーが嬉しそうに叫んだ。
「フィルターってどんなのなんだ?」
良牙がシャンプーに尋ねると、
「媒体を通すと、魔法用語が翻訳されるようなものね。例えば眼鏡を使ってそのフィルターを作れば、その眼鏡をかけるだけで魔法用語が読めるようにな るものあるな」
「へー。便利だな。だったら最初からバカ王子にそれ作ってやればよかったじゃねえか」
「まさか読めないとは思わなかったある。だから魔法用語のフィルターというよりは、難しい言葉を簡単なものにするフィルターをまずは作るね」
「・・・だろうな」
シャンプーが、困ったように笑いながらちらっと乱馬を見てため息を付く。
良牙も、呆れるというよりは哀れむといった表情で乱馬の事を見つめる。
「くっ・・・お、おまえらっ・・・」
馬鹿にされているといえども、本を読めなかったことは事実であった。
乱馬はぶるぶると拳を震わせながらも、「はあ・・・」と自分の勉強不足さを改めて感じ取り、ため息をついていた。
「ははは・・・。
コロンはそんな乱馬達の様子を、しばらく微笑ましく見守っていた。
しかしそのうち、
「・・・さ、カードのことはそれぐらいでよかろう。それじゃあこれからお主ら全員、わしが占いをしてくれようぞ」
ようやく話も一段楽したし、そろそろこの通信を終わりにしようとした矢先、それまで笑顔で乱馬達を見守っていたコロンが、不意にそう切り出した。
「ホントあるか!?ひいばあちゃんの占い、久し振りね!」
子供の頃からコロンの占いに慣れ親しんでいるシャンプーは、コロンのその提案に嬉しそうに飛び跳ねる。
「占い?あたるのかよ」
まだ一度もコロンに占ってもらった事のない良牙がボソッとそんなことを呟くと、
「ひいばあちゃんの占いは、世界一あるぞ!」
シャンプーは、良牙に向かって強い口調で叫ぶ。
「へいへい」
シャンプーの迫力に、良牙もたじたじとしながら前言撤回をすると、
「順番はそうじゃな・・・王子・シャンプー・良牙、最後にあかねの順がいいのう」
コロンはそんなシャンプー達の様子をカラカラと笑いながら見つめ、さりげなくそんな順番づけをした。
そして、
「それでは占いをしている間は、占われているもの以外は部屋の外に出ておれ」
そういって、まずは乱馬だけ部屋の中に残し、他のものを部屋の外へと出してしまった。
「さ、王子。さっそく占いを初めようかの」
他のものが部屋から出て行ったのを見計らい、コロンは早速乱馬へ占いを施そうと占い道具を準備し始めたようだったが、
「・・・ばあさん」
乱馬は、自分の占いを聞くよりもまず、コロンに聞いておきたい事があった。
「どうした、王子。ムズカシイ話の連続で知恵熱でも出たのか?」
「ち、違うっ。あの・・・」
「なんじゃ」
「・・・あかねのことなんだけど・・・」
「・・・」
「その・・・。何か、様子がおかしいんだ」
乱馬は、コロンに対してモジモジと、口を開く。
・・・そう。
旅をはじめる前の占いの直後から、何となくあかねの様子がおかしい事を、乱馬だって気にならないわけがなかった。
旅をしている間は、他のものに気付かれないようにしているのだろうけれど、いつもあかねのことを見ている乱馬には、どことなくおかしい部分があること ぐらいすぐにわかっていた。
事件や戦いの最中は、何事もないように振舞っている。でも、たとえば街から町への移動とか、ふとした瞬間に見せるあかねの表情。
どう見ても憂いを帯びているその表情が、乱馬とて気にならないわけではなかった。
あかねが自分がからはなしてくれないのなら、強引にその悩みを聞き出す事なんて出来ない。
だったら、占いをしたコロンになにかを聞き出す事は出来ないか。
乱馬はそう思って思い切ってコロンに尋ねたのだ。
が。
「・・・占いの結果を他人に洩らす事はできぬ。たとえそれが、王子であってもだ」
「でも・・・」
「占いは、結果を知った瞬間から、それまでなぞらわれてきた運命を変えるチャンスを、得る事ができるのじゃ。・・・わしにはそれぐらいしか言えぬ」
「それ、どういう意味だ?」
「・・・。一般論かもな。王子はとにかく、わしが旅立つ前に聞かせた占いの結果を、忘れるな」
「え?」
「満月の夜に王子が下す決断・・・それには気をつけるのじゃ。決断を誤ると、王子。取り返しがつかないくらい大切な物を失うぞ」
「ばあさん・・・それ・・・」
「・・・さ、それよりも王子、占いをはじめるぞ。他のものが待ているのじゃから」
コロンは、意味ありげな言葉のみを乱馬に残し、それ以上はあかねのことについて、語ろうとはしなかった。
「・・・」
・・・それは、どういう意味なのだろうか。
話は上手くごまかされてしまったが、乱馬の胸はドクン、と大きく鼓動をする。
取り返しがつかないくらい大切な物?
・・・失うなんて、考えたくもないものだろうか。
傍にいるのが当たり前のものなのだろうか。
まさか、そんな事ないだろう?
「・・・」
自分の、当り障りのない占いの結果をコロンから言い渡されながらも、乱馬はそれが気になって気になって仕方がなかった。



乱馬の占いは、コロンが初めに提案した通りに五分足らずで終了した。
そのあと、シャンプー・良牙と次々と部屋に入り、
「あいやー!私、しばらくは恋愛運が上昇中ある」
「俺は、祖国に手紙を書くといい事があるらしいな・・。どれ、久し振りに書いてみるか」
・・・と、
初めは占い事体を信じていなかった良牙でさえも、その結果がよかったのだろうか。ニコニコとしながらそんなことを呟き、嬉しそうな表情をしていた。
「それじゃああたしで最後ね」
あかねはそんな二人を横目に、スっ・・・と部屋の中に入っていく。
「あ、あかねっ・・・」
そんなあかねを、すでに占いを終えた乱馬がすかさず呼び止めた。
「なあに?」
「あ・・・いや・・・」
「乱馬、時間があるんだったら、シャンプーに今のうちに魔術フィルター、作ってもらったら?ね?シャンプー」
あかねはもごもごとどもっている乱馬にそう提案して、シャンプーにも声をかける。
「そうある!乱馬は私と一緒にくるあるぞ!」
シャンプーは「チャンス」とばかりに乱馬の腕を取ると、
「さ、乱馬の部屋に行くあるぞっ」
と、まだ何か言いたそうだった乱馬の腕を引っ張って歩きだした。
「えっ・・・あ、ちょっと・・・」
「あいやー、良牙も来るのか」
「女部屋と違って、俺達は同室だからなあ」
乱馬はすかさず良牙の腕を掴んで、自分と一緒にシャンプーに引きずらせ部屋へ行ってしまった。
「・・・」
あかねはそんな乱馬達の姿にため息をつくと、
「・・・」
がちゃ。
静かに、部屋のドアを開けた。とりあえずは人払い、成功である。
あかねがドアを開け、再びコロンの正面に置かれている、乱馬が座って説明を聞いていた椅子に腰掛けると、
「・・・久し振りじゃの。元気か?」
そんなあかねに対し、コロンが優しい口調で声をかけた。
「はい・・・」
あかねが静かな口調でそう答えると、
「・・・他の者には簡単な占いはしてやったが、おぬしには占いはせぬ」
「・・・」
「おぬしの占い結果は、旅立つ前も旅立ってからも変わらない・・・。おぬしがこれから辿る運命は変わらないということか。・・・酷じゃな」
コロンはそう言って、大きく一度深呼吸をした。
そして、
「なあ、あかねよ。王子もうすうす、おぬしの様子がおかしい事を気づいておる」
「乱馬が!?どうして・・・」
「・・・いつもおぬしを見ている証拠じゃろう?」
「おばあさん・・・」
「なあ、あかねよ。今ならまだ、運命は最悪の状況から少しでも、帰ることができるかも知れぬぞ?この街へ、戻ってはこぬか?
  王子とて、このことを知ったらば絶対にそうさせるはずじゃ・・・。おぬしを守る為に」
と、呟いた。
「・・・」
あかねは、その問いかけにはじっと歯を食いしばって答えない。
そんなあかねに対し、更にあかねを諭すようにコロンは続ける。
「おぬしも、そして王子もまだ若い。
  ・・・消えてしまうと分かっている命を、このままこの運命の委ねてしまっていてよいのか?
  このまま王子にも黙ったまま時が過ぎ、そしてその時がやってきてしまったら。おぬし、その事を考えた事はあるか?」
「おばあさん・・・」
「おぬしは勿論、王子はどうなる。王子がおぬしのことを真剣に思っていればいるほど、王子が受ける悲しみも衝撃も多いのじゃぞ。あの若さでそれを体 験させるのは、気の毒じゃろ・・・」
「・・・」
コロンのその言葉に、あかねはビクッと身を竦め、そっと目を閉じた。
そして、
「・・・でも・・・このまま戻るなんて出来ない・・・」
「あかね・・・」
「戻っても戻らなくても同じ結果かもしれないのに・・・それだったら、ギリギリまで傍にいて助けてあげたいんです。
  私にできることを、してあげたいんです」
と、震える声で小さく、そう呟いた。


・・・乱馬とあかねが旅立つ前の、コロンの占い。
乱馬の占いは、それほど当り障りのないものだったようだが、
あかねに関しては、その結果はあまりにも酷なものだった。
「あたる」と評判のコロンの占い。
そのコロンが、なんど占っても同じ結果を導き出す。
それはつまり、「それが運命付けられていること」を意味していると、あかねも、そしてコロンも感じていた。
『このままあかねが乱馬と旅立てば、あかねは大きな怪我・もしくは病気をすることになる。  それは、あかねが耐えていれば他の人には分からないかもしれない。でもその怪我や病気の具合を誰かに伝えれば、必ずあかねは居住していた街へ と戻される羽目になる程度の重大な疾患だ。その病状を乱馬に伝えないあかねと、あかねの具合がどこかおかしいと心配している乱馬は、やがて大喧嘩をする。  結局は、乱馬はあかねを街へ返す事を決断し、あかねもそれを承諾し皆と別れ一人、街へと帰ろうとするが、あかねはその帰り道で大きな事故に巻き込まれ、そして・・・・』
・・・占いはそんな結果だった。
旅立つ前に聞く内容にしてみれば、大変酷な内容である。


「たとえ何度も導かれた運命でも、その運命を知った瞬間から努力をすれば、それを代えられるチャンスとて生まれるはずじゃ」
「・・・」
「じゃから、せめておぬしが戦闘で怪我などしないようにと、わしはおぬしに強力な武器を与えた。でももしも病気、というのであれば、そんな武器では防ぐ事はできないじゃろ・・・大丈夫なのか?身体は・・・」
心配そうに声をかけるコロンに、
「平気です・・・あは、道場で鍛えていた事もあって頑丈に出来てるし・・・」
あかねは、わざと元気に笑って見せた。もちろん、その笑顔とて心から見せている物では無いことぐらい、あかねもコロンも分かっていた。
「・・・ねえ、おばあさん。私はこんなに頑丈なのに・・・どんな疾患を患うの?」
「・・・光」
「え?」
「光を失うと、出ておる。・・・もしかしたらおぬし、目を・・・」
「・・・」
コロンのその言葉に、あかねはゾワっ・・・と嫌な汗を背中に掻いてしまった。

・・・あかねは、身体の頑丈さと共にその視力だけは自信があった。
それが、 こうして今とて、訪れたいろいろな町でたくさんの世界を目にし感動しているこの瞳が、光を失う・・・あかねには、それがいまいち信じられなかった。

「帰る途中の事故って・・・?」
見えない目のせいで、何かに巻き込まれてしまうのだろうか・・・あかねが声を震わせそう呟くと、
「残念じゃが、そこまではわからぬ。でも、いまならばきっと・・・」
コロンは再度、あかねにそうアドバイスをするも、
「だめよっ・・・そうなるのなら尚更、あたしは乱馬の傍を離れられないっ・・・」
「あかね・・・」
「そうなるのだったら、乱馬の顔もっ・・・ちゃんとこの目に焼き付けておかなくちゃっ・・・乱馬が頑張っているその姿だって、目に焼き付けなくちゃっ・・・  一緒に過ごした時間を、絶対に忘れないようにしなくちゃいけないのっ・・・じゃないとあたし・・・」
・・・一人で先には。
あかねはそう言って、ぎゅっと閉じている瞳から、大粒の涙をボロボロとこぼした。
泣くまい、と必死に歯を食いしばっているのは、見つめているコロンとて感じていた。
でも、そんな事ぐらいではその涙を防ぐ事など出来ないのだ。
この酷な運命を受け止める為には、あかねという小さな身体では全然足りない。
神は、時には残酷な事をなさるのだな・・・コロンは、涙をこぼすあかねを見つめながらそう感じていた。
「・・・とにかく、おぬしは怪我や病気をしないことだけを心がけよ。何か状況が変わったらすぐに、連絡するのじゃぞ」
「・・・はい・・・」
「悪い事は言わぬ。一人で抱えないで、王子と話をしてみるのじゃ。・・・良いな?」
「・・」
そして、あかねが泣き止むのを待ってそのように再びあかねへと助言をすると、
「さ、予定の五分から大幅に過ぎてしまったな。これではまた王子に怪しまれる」
「・・・」
「それでは、わしはこれで通信を切るが・・・がんばれよ」
あかねに柔らかい表情でそう助言をし、フっ・・・と、その姿を部屋より消した。
その瞬間、窓の上部の壁に広がっていたオレンジ色の楕円の光も姿を消した。通信が切れた証拠だった。
「・・・」
あかねは、まだ少し濡れている瞳をゴシゴシ・・・と洋服の袖でこすると、大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、部屋を出た。
・・・すると。
「あっ・・・」
・・・先程、シャンプーに魔術フィルターを作ってもらうべくシャンプー達と部屋に行った乱馬が、なぜか、この部屋に向かって歩いてくる所だった。
「あ、その・・・」
乱馬は、あかねが部屋から出てきたのを見つけ小走りに近づいてくると、なんだかモジモジソワソワと、声をかけてくる。
どうやら、先程コロンがいっていたように、あかねの様子を気遣っているのだろう。
余計な心配は、旅の邪魔になるだけだ・・・。あかねは自分の不安を強引に掻き消すように自分にそう言い聞かせると、
「ねえ乱馬、今、暇?」
「え?あ、ああまあ・・・。シャンプーの奴、フィルター作るのに材料が足りないとか行って、市場に行っちまったから」
「じゃあ、シャンプーが戻る前に、ちょっとあたりを散歩しない?」
と、そう提案して乱馬の手を引いて宿の外へと出た。
「・・・なあ、どうかしたのか?」
手を引かれて歩きながら、乱馬があかねにそう声をかける。
普段のあかねなら、こんな風に自分の手を引いて散歩に誘う事などない。
その行動がより一掃乱馬の不安を掻き立てるも、
「なによー、あたしが誘っちゃいけないの?」
「え、そ、そそそんなことっ・・・」
「せかっく乱馬と散歩した行って思っただけなのにー・・・じゃあ辞める」
「な、なんでだよっ。行こうぜっ。うん、行こうよ、邪魔者がこないうちにっ」
あかねに機嫌を損ねられてそっぽを向かれるほうが、乱馬は耐えられない。
「さ、行こうぜっ」
乱馬は、今度は逆にあかねの手を引いて宿の外へと連れ出した。
そして、宿の近く・・・港町から海が一望できる一角へとやってくると、しばしそこに立ち止まって、その景色を堪能する。
石畳の道。そして、夕暮れ時のオレンジに染まった海。
時折吹き抜ける風が、潮の香りを二人の元へと運んでくる。
夕食時もあり、海の付近に立ち並ぶ岩づくりの家の窓からは、真っ白い煙が幾筋も立ち上っていた。
そして、そこかしこから、夕食を食べる為に家へと戻っていく子供達の笑い声が聞こえていた。
「夕暮れ時の景色は、街によって全然違うのね・・・」
昨日までいたウォータークールの街では、夕暮れ時は時を知らせる鐘が、鳴り響いていた気がした。
このレイディア港に隣接する港町は、ウォータークールに比べると規模がとても小さな町だ。
大きな教会もないし、少し高台に登ればこうして、町全体を見回す事ができる。
「これから訪れる色んな街を眺めながら、そんなことをきっと、また思うんだろうなあ・・・」
「そうね・・・」
「城にいた頃のことを考えると、俺、本当に狭い範囲でしかいろいろなことを知らなかったんだなって・・・そう思うよ」
オレンジ色の夕陽に頬を染めながら、乱馬が懐かしむような表情をして、そう呟いた。
生まれてから、街の中は自由に動き回れても、外には出ることが無かった乱馬のその言葉は、ズッシリとした重みがあった。
「・・・たくさんの景色を、たくさん、瞳に焼き付けて忘れないようにしようね」
あかねが、そんな乱馬に向かってそう呟くと、
「そうだな。それで、旅が終わったらその事思い出して、話すんだ。ずっとずっと、そうやって俺達は一緒にいるんだからな」
乱馬は、あかねの方をふっと振り返ってそう微笑んだ。
それは、まるで乱馬の不安を吹き消そうとしているような言葉。
彼は、顔こそ笑顔だが瞳は真剣だ。自分が失うかもしれない大切な物は、彼女では無い。そう思い込もうとして必死なのだ。
・・・運命とは、酷な物である。
一方、
「・・・そうだね」
・・・旅の終わり。
本当に自分はそれを、迎えることが出来るのか。
乱馬が旅を終えた時、こうして景色を思い浮かべて語らい会う相手は、別の誰かなのかもしれない。
ずっと一緒にいて語らいあう相手は、あかねでは無い事がおおいにあるのだ。
途中で自分がこの旅を終えてしまった場合は、あかねはそれを咎める事など出来ないのだ。
「・・・」
あかねは、乱馬の嬉しそうな笑顔に笑顔でそう返しながら呟くも、気を許したら再び涙がこぼれてしまう。
そう思い、ぐっと堪える努力をした。
「忘れないようにしなきゃね・・・」
「ああ」
乱馬と手を繋いだまま、オレンジ色の夕陽に頬も身体も染める。
目に映る、眩いばかりの見慣れない景色。
・・・どうか、私の今考えている事が、この時間は乱馬に伝わりませんように。
繋いだ手を、更にぎゅっと力を込めて、あかねはそう願った。
あかねと二人きりでちょっとした時間でも過ごせば幸せになれる乱馬と、そしてそんな乱馬に最後の瞬間まで傍にいたいと願うあかねと。
目には見えない複雑な運命を抱えながら、二人は夕暮れ時の港町をいつまでも眺めていた。

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