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時の鍛錬 3

一方で。
禍々しい光が全身を追い始め、
そして自分を包んでいる闇にまるで同化するかのような感覚に見舞われている乱馬は、崩れ落ちた地面でそれらに抵抗する気力もなくして横たわってしまっていた。

 

繰り返される、あの日の映像。
自分の無力さをこれでもかと思い知らされる感覚。
そして、時を戻せば新しく記憶を作れるかもしれないという・・・願望。

その願望に身を委ねれば、もしかしたら自分はもっと楽になれるかもしれない。
地面に横たわりながら、乱馬はそんなことまで考え出す始末だ。

カードから溢れ出てくる禍々しい光は、乱馬の横たえている身体を這うように全身へと広がって行く。

『力が欲しいか・・・』
『己の欲望を満たす術が欲しいか・・・』

甘美な囁きを伴い、徐々に徐々に乱馬の身体を満たしていく。

 

・・・力を手に入れたら、何もかもが思い通りになるかもしれない。
時を操る力を得られれば、自分が消したい過去は葬り去り、自分が望んだ未来のみを描けるのかもしれない。
そうすれば、あかねを失わずに済む?
また、前みたいな幸せな時間が・・・

 

「・・・それも、いいかもな・・・」

 

自分は、何の試練を受けに来たんだっけ?
いや、もうそういうのはどうでもいい。とにかく、自由に時間を操れればそんなことどうだって・・・
・・・
乱馬は、黒く禍々しい光に身を包まれながら、ぼんやりとそんなことを考え始めていた。

 

 

と、その時だった。

 

『・・・大丈夫。あなたは、負けない』
闇に身を委ねる乱馬の頭の中に、そんな声が響いた。
その声に、虚ろになっていた乱馬の瞳が大きく見開かれる。
・・・この声は。

「あかね・・・?」

そう、この声はあかねの声だ。
あかねはラヴィの元に居るので、乱馬に直接声をかけてくれることなどない。
ということは、幻聴だろうか?

「・・・」
とはいえ、幻聴でも何でも、愛しい人の声を聞いた気になれば心が逸るものだ。
乱馬は、ゆっくりと身体を起こして辺りを見回す。
当然のことながら、辺りには誰も居ないし、依然としてただ「闇」が広がるのみだ。
乱馬は、再び目を閉じた。そして一度大きく深呼吸をして、再び心を落ち着かせる。
そんな乱馬の耳に、再びあかねの声が飛び込んできた。

『乱馬は、大丈夫・・・大丈夫だよ』

柔らかくて、そしてじんわりと心の奥に染み入る暖かい声。
悲しそうな声でなく、久しぶりに聞く暖かくて優しいその声に、乱馬の胸にぐっとこみ上げるものがある。

「あかね・・・」
乱馬はあかねの名を再び呼んだ。
するとそんな乱馬の脳裏に・・・先ほどまでとは違う光景が浮かんだ。

・・・小さい納屋のような場所で、オレンジ色の小さな明かりの元、あかねの身体を強く抱きしめる乱馬の姿。
乱馬には、この光景に見覚えがあった。
これはそう、癒しの里で・・・一度だけでよいからと、まだ記憶が戻っていないあかねを抱きしめさせてもらった時の映像。
一体何故あの時のことが今・・・?

「・・・」

乱馬にはすぐにその理由が分からなかった。
だが・・・あの時のことを思い出したとき、その理由が分かった。
そう、「あの時」。先ほどとは違う「あの時」、やはり今日みたいに乱馬の心が闇に堕ちそうになった時・・・その時はあかねが、乱馬に語りかけてくれたのだ。

 

『確かに、禁忌を犯して時の魔法を使えばその時、へ戻れるかもしれません。でも、今の王子がその時へと戻っても、もしかしたら別の結論を見いだせないかもしれない…未来は、予測できない。だったら、痛みを知り、その方への気持ちの強さを知り、大切さを十分に感じている今のままの王子が、きっとこの世界のどこかにいらっしゃる…んですよね?その方を迎えに行って差し上げてください。それに、きっとその方もまた、王子と会えるのを待っている気がします』

 

その言葉で、乱馬は救われたのだ。

心の痛みを知り、成長した今だからこそ・・・進める未来がある。
成長した自分だからこそ、大切なものを取り戻す強い力を発揮することが出来る。
たとえ過去に戻ったからといって、幸せな未来を築ける確証などない。
一時的にそうなったとしても、今後もそうやって時空を曲げてはそれを繰り返すのか?
それに・・・

 

---そんな風に手に入れた未来は、誰の心にも本当の幸せを与えない。

 

・・・パアン!

乱馬がその思いをそうはっきりと心に描いた時。乱馬の目の前で何かが弾けた様な音が聞こえた。
その瞬間、シュルシュル・・・と音を立てて、乱馬の身体を這い回っていた禍々しい光が急速にその姿を消滅させて行く。
禍々しく光っていたカードフォルダの光も、元通りに戻った。

「っと・・・」

一瞬ガクン、と身体の力が抜けて倒れそうになるも持ち直してゆっくり立ち上がると、
それまで辺りは深く冷たい闇が乱馬の周りに広がっていたのに、それらが霧が晴れるかのようにスー・・・と消えていく。

「・・・」
乱馬は、一度目を閉じて心を落ち着けると、再び目を見開いた。
そして、しっかりと前を見据えて地に足を置く。

 

「・・・時を戻したいって思いは、無いとはいえない。でも、そんなことをして得た幸せは本当の幸せじゃねえ!例えどんなことがあったって、俺は絶対にあかねを取り戻す。
どんなことがあっても、どんな運命に巻き込まれても、俺は・・・諦めねえ!あの日の悲しみや迷いを何度も繰り返さない為に成長して、絶対にあかねを・・・!」

 

霧の合間に見える白い空間に向かって、乱馬は叫んだ。
それは、何かに向かって叫ぶというよりも、自分自身に確認の意味をこめて叫ぶという表現のほうが正しいだろうか?

一部の迷いも無い、その強い思い。
紆余曲折はしたけれど、たどり着いたその結論は大事にしたい。乱馬は強い心をこめてそう叫んだ。

 

と、その時だった。

 

『・・・鍛錬は終わりだ』

不意に、乱馬の耳に静かな声が流れ込んできた。
そしてそれと同時に、乱馬の目の前に大きな白い光と、一振りの剣が姿を現した。
白銀の剣。柄の部分に見たこともない様な紺碧の宝玉が埋め込まれている。
そして何より…剣の刃部分から、傍にいるだけで身体にしみこんでくるような波動を、感じる。

見たこともない、そして触れたことのない剣だ。

「…」
乱馬は、ゆっくりと剣へと手を伸ばした。
一瞬、剣から感じる波動で剣に拒絶されるかとも考えたが、不思議と乱馬の手に触れた瞬間、まるでその手に吸い込まれるかのように剣は吸い付いてきた。

乱馬は、剣の柄をぎゅっと握りしめた。
柄からは、握っているだけだというのに乱馬の身体の中に不思議な力を送り込んでくるように感じる。

まるで、「生きている」剣。乱馬はそんなことを思っていた。

と。

『鍛錬を終えた証に、お前にそれを授けよう…』

剣を握る乱馬の耳に、再び静かな声が流れ込んできた。
乱馬がはっと顔を上げると、

『…エレーナとルキアのなしえたことをする者は、私利私欲の為に時空を超えるような者では成らぬ。人は誰でも、心の奥底に封じ込めた辛い思い出やや過去に触れられると心を砕かれる。それを乗り越える力は、想像以上に強い力が必要なのだ』
「…」
『お前はそれを乗り越えた…だから、その証を授ける』
「これが、その証か?」
『そうだ。それは、古の時にエレーナが力を注ぎ込んだ、ルキアの剣。時空のひずみを作り出し、ゼロスを倒した剣…エクスカリバー』

声はそう乱馬に告げると、小さな白い光を空間に一つ作り出した。
乱馬はその光にそっと指で触れる。
するとその光はポン、と弾けて乱馬の指に散らばった。散らばったその光は、乱馬の指の上でじりじりと動いたかと思うと…なんと自動的に指輪となってそのままとどまった。
シルバーのリングに、白く光り輝く鉱石が付いたもの。
リング部分には、何やら呪文のようなものがびっしりと刻まれていた。
そして石。
リングにしっかりと石はついているが、煌びやかな色鮮やかなものではなく、意外にシンプルなものだった。

「ゆび…わ?」

アクセサリーなど早々する機会も、趣味もない乱馬が驚いていると、
『お前は普段、別の剣を腰に差している。それに、エクスカリバーは未知なる力を秘めた剣…早々簡易な戦いで使用するようなものではない』
「まあそうだけど…」
『その指輪は、エクスカリバーの鞘だと考えればよい。普段は、剣はその石の中で力を貯めている。もしもその剣が必要な状況になった時は…強く願え。お前の願いが強く、そして真っ直ぐなものであれば剣は再びお前の手の中に現れる』

声がそう言った瞬間だった。
乱馬が手にしていた剣は、一瞬で指輪の石の中へと吸い込まれていった。
「わっ…」
驚いた乱馬が石の中をじっと見つめると、なるほど、うっすらとではあるが、小さくなった剣の姿が認められる。
試に剣を再び出そうとしたが、気持ちが足りないのか、当然のことながら剣は外には出てこなかった。

 

『その指輪は、時が来るまではお前の意思では外れない。もしも外す場合は、お前の指を切断するほかない』
「…。時って?」
『それは、お前がエレーナとルキアと同じことをなしえた時』

声はそこまで言って…消えた。
そしてそれと同時に、乱馬の目の前に分厚い岩の壁が現れた。
この壁は、乱馬が最初に通ってきたあの岩の道と同じ。
「…」
指輪にそっと触れた乱馬は、目の前に現れた岩の壁にそっと触れた。
ひんやりとして、そして屈強な感触。この先に進むことはもうできない。
乱馬は、そっと後ろを振り返った。
そこには、ぼんやりとした明かりが見える。どうやら、皆がいる場所へとつながる出口の様だ。
鍛錬を受けるときには果てしないくらいの距離を歩いていたような気がしていたのだが、今こうしてみると、たわいのない距離のように思えた。
時空が捻じ曲げられていたのだろうか。何とも不思議極まりない。

「…」

乱馬は、ゆっくりと出口に向かって歩き出した。そして歩きながらそっと、先程授けられた指輪に触れる。

…乱馬が鍛錬を乗り越えられたのは、勿論乱馬自身の強い心もそうなのだが、あかねの言葉があったからだ。
以前にも闇に取り込まれそうになった時に語りかけられた、あかねの言葉。
そして…何故だかわからないが、自分に呼びかけられたような気もした。
あれがあったから、乱馬は心を持ちなおしたのだ。

じんわりと心の奥に染み入る暖かい声。
柔らかく優しいその声に、乱馬はまた救われたのだ。

「…」
…例え遠く離れていても、自分たちはきっと、繋がっている。
だからこそ、心だけでなく今度は物理的な距離も繋がれるように、前に進まなければいけない。

「…待ってろよ、あかね」

乱馬は前を見据えながら強い気持ちでそう呟いた。

…乱馬と同様、きっと他の仲間たちも苦しく厳しい鍛錬を乗り越えている筈。
今回のこの鍛錬で、それぞれがきっと、今まで以上に強力な力を手に入れることが出来た。。
この先、きっと厳しく辛い戦いが待っているとは思うが、それを乗り越えるための力は得たのだ。
だったら後は、それを思う存分発揮するのみ。
一時は八方塞がりだと思っていたが、これでようやく、本当の意味での道も開かれたのだ。

 

 

 

「あ、来たあるぞ!」
「随分とのんびりした鍛錬じゃな」
「くたばったかと思ったぜ」
「無事で何よりだ」

乱馬の目に、ようやく仲間達の姿が映ってきた。
どうやら他の仲間はもう、皆集まっているようだ。

ちぇっ。俺が一番最後か。それに対しては悔しい乱馬であったが、今日に限ってはそれでも良いかと思う乱馬でもあった。
「…時が来たら、頼むぜ」
乱馬は最後にもう一度指にはめられた指輪を撫でると、既に鍛錬を終えていた心強い仲間たちの元へと、一歩一歩地を踏みしめながら戻っていったのだった。


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