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時の鍛錬 1

ただただ薄暗い岩の道を、乱馬は一人歩を進めていた。

他のメンバーと別れてからだいぶ時間が経ったようにも感じるのだが、実際はそうでもないのだろうか?
静かで視界の悪い場所を進んでいるせいか、乱馬の正常な感覚が鈍っているような気がした。
入り口から、ただまっすぐに続く一本道。これを進んだ先には、「時の鍛錬」を受ける場所があるという。

『過去に捕らわれず、未来を信じ真実を見抜く心と目。それに耐えられねば、お主らに勝ち目はない 』
時を超える、強い意志。
『どうやらお前は・・・エレーナとルキアが成し得たことをしようとしているようだ。その意思が本物ならば、それを行なうにふさわしい者かどうかを見極めねばならぬ』
そして…エレーナとルキアがなしえたことをする覚悟。

時の鍛錬を受けるからには、これらについてそれぞれ、確固たる意志を持って臨まなければいけないようだ。

・・・正直、世界の平和とかそういうものは乱馬の中では優先順位が低い。
それよりも、まずはラヴィの元に再び渡ってしまったあかねを取り戻すことのほうが大切なのだ。
この時点で、エレーナとルキアとは敵と戦う理由は違うわけだが・・・そういう違う土俵で、同じものを図ることなど出来るのか?
乱馬は道を進みながらそんなことを思っていた。

と、その内。

不意に、乱馬の目に光が飛び込んできた。その光を頼りに更に乱馬が歩を進めると・・・そこは、何やら船の船着場のような場所だった。
鍛錬場の中にあるというのに、そこには乗客の姿も。そして、窓の向こうには大きな船が浮かんで乗船の受付を始めるところだった。
「・・・」
何故、ここに船着場が?勿論そのことも不思議に思った乱馬であった。だが・・・それよりも、この船着場、見覚えがある。
それも、ただ見覚えがあるだけではない。
「・・・ここは・・・」
ドクン
乱馬は無意識に、拳を強く握り締めていた。握り締めた拳からはじっとりと汗が、にじみ出る。
自然と息が荒くなり、そしてまるで何かに殴られたかのような眩暈も感じていた。

・・・乱馬にはこの船着場に記憶があった。
そう、これは「あの船着き場」と同じ場所だ。
全ての事情を隠し、一人でセルラ大陸へと戻ろうとするあかねを送り出した、あの船着き場と。
去り行くあかねの手を掴めずに、彼女を大きく動く運命の荒波へと放り出してしまったあの、船着き場と。

「・・・」

あの時、あの手を強引に離さなければ。
あの時、もっとあかねのことをわかってやれていれば。
あの時。
あの時・・・!

その時の記憶が急激に乱馬の中に蘇ってくる。
グワングワン、と鳴り響く頭痛と、襲い来る眩暈。乱馬は何とかそれに耐えながらも、その時の記憶と戦っている。
乱馬は、辺りへと目をやった。すると、
今までそこに人影はなかったというのに・・・

「!」
かばんを一つ、手にした美少女。今だから分かる、憂いを含んだ笑み。
華奢な身体が一段とまた小さく見えて、大抵の男ならその肩を抱き寄せてしまいたくなる衝動に駆られるだろう。

「あかね・・・どうして・・・」

・・・乱馬の視線の先には、あの日あの時のままの「あかね」が立っていた。
船着き場で対峙する二人。
もしもこの風景が、この時間が「あの日のあの時」へと戻ったというのならば・・・あかねはこの後一人旅立ってしまう。
そして、そして・・・想像もつかないような過酷な運命の波に飲まれる、始まりとなるのだ。

「・・・」
ドクン、ドクンと大きく鼓動する心臓の音を感じながら、乱馬はあかねの方へと吸い寄せられて行く。

今手を伸ばせば、届く距離。
もしも自分が今、あの日あの時の時間まで戻ってきたというのなら、
結末を知っている今、もしかするとあかねをここで捕まえれば、これから先に起こるはずの出来事を阻止できるのではないか?
あかねにもう、あんなつらい思いをさせなくて良いのではないか・・・

「あかね!」

乱馬は、自分の目に映るあかねにまっすぐ手を伸ばした。
するとその手に向かって、あかねもゆっくりと手を伸ばす。

もしかすると、あかねも本当はこうなりたかったのではないか・・・そう思うと、乱馬の気持ちは逸る。
この旅を通し、何度もあかねの手を掴めなかった事を悔やんできた。
今度こそ、今度こそは必ず・・・!そう誓いはするものの、チャンスは早々巡ってはこない。
それが、ようやく巡ってきたのだ。
これを逃して、なるものか!・・・乱馬は必死で手を伸ばし続け、自分へと伸びているあかねのその手を掴もうと、手を開いた。
そして、手が触れるか・・・指と指が触れ合うか、そのタイミングだった。

『・・・乱馬・・・』
乱馬に向かって、あかねが小さな声でそう呟いた。いや正確に言うと、そう言ったように、感じた。
なんて、物悲しく寂しそうな声なのか。あまりのその声色に、乱馬まで胸が締め付けられるような思いだ。
そうこうしている内に、あかねの姿は乱馬の目の前から消えてしまった。
あかねの手を取ろうとしていた乱馬の手が、悲しく宙を舞った。
「!?」
ハッとわれに返り慌てた乱馬は辺りを見回すも、あかねの姿が再び現れることはなかった。
乱馬は、またあかねの手をとり損ねたようだった。
しかもそればかりか、何故か一人その場所に佇む乱馬の脳裏に・・・あの日あれからあかねが体験した恐ろしい出来事が、まるで何かに映し出されるかのように鮮明に描き出される。

一人船室で泣いていたあかね。
何かに気がつき部屋の外に出、甲板に上がると繰り広げられていた惨状・・・目の前で絶命する人々、そして魔物に追いかけられて覚悟を決める、あかね。
・・・

「っ・・・」
何故、こんな風景を自分に見せる?乱馬は今自分が巻き込まれているこの現状に戸惑いを隠せない。
そうこうしている内に、映像はどんどん動いて行く。

・・・魔物にやられそうだったあかねを助けた・・・ラヴィ。
あかねと対峙したラヴィは、乱馬達が見ていた厚ぼったいフードを被ったラヴィではなく、
「!真之介・・・」
正確にはそうではないのだが、今ではわかる例の顔をしていた男として、そこに居た。
あかねと何かを話す、ラヴィ。そして、あかねの目の前で・・・罪のない人々の首や手足を平気で刎ねて見せる。
泣き叫ぶあかねに、何かを言うラヴィ。絶望し、そして思いつめたあかねがやがて「白い光」を身体から放つと・・・なんと船の上に居たラヴィ以外の魔物は一層され、船が白い光に包まれた。
そこかしこに倒れていた人々・・・首や四肢を刎ねられた者以外だが・・・も、生の息吹を取り戻した。
それと同時にあかねは倒れ、そんなあかねに触れようとしたラヴィ。が、あかねの光はラヴィを拒絶して・・・あかねは海に消えた。
・・・

乱馬の頭の中の映像は、そこで途切れた。そしてそれと同時に、乱馬の周りは真っ暗闇へと姿を変えた。
先ほどまでの港の待合室の影など、跡形もない。
乱馬はただ、その暗闇の中に佇んでいる状態だった。

「・・・」
人づてに話を聞いてはいたし、だいたいどんなことが起こったのかはもちろん想像していた。
だが・・・想像以上だった。
泣き叫びラヴィと対峙していたあかねのあの表情、そしてその姿・・・映像のみだというのに、乱馬の頭から離れない。
あの時自分が行かせなければ、あかねはこんな思いをしなくて済んだのに。そう思えば尚更だった。

「・・・」

俺がもっともっと大人で、あかねのことをちゃんと理解してやっていればあんなことにはならなかった?
つまらない嫉妬や、浅はかな思いで行動を突き動かされていなければあんなことにはならなかった?
あの時、俺があかねを行かせないように手を掴んでいればこんなことには・・・!

底のない暗闇の中に佇む乱馬に、後悔の念が襲い掛かる。
「あの時」・・・そのキーワードが何度も何度も、乱馬を闇の世界へと引きずり込もうとしているような気がした。
何故、自分は。何故、あの時。
過ぎてしまった時間を思い通りに出来るなら、絶対に「あの日」「あの時」のあの空間へ戻るというのに・・・
・・・

「・・・」

ぼんやりと闇の中に佇む乱馬の脳裏に、再びあの日のあかねとの別れのシーンが蘇る。
まるで、何かが意図的に乱馬の記憶の中に手を伸ばしてそれを引きずり出してきているかのように。

『あの日、あの時に思うがままに戻れたら、絶対にもう後悔などしないというのに・・・』

底のない暗闇の中に一人佇みながら、乱馬はそんなことを思い続けていた。

 

・・・そんな乱馬は、腰につけているカードフォルダから微弱な光・・・そう、それは白い光ではなく澱んだ光が漏れ出しているのに気がつかないでいた。

カードは、人の心に入り込み良くも悪くも心を魅了する。
意志が弱ければ、邪悪な心を持っていれば、すぐにカードに取り込まれてその精神を蝕まれた上に乗っ取られてしまうのだ。
強く前向きな心持を持つ乱馬ではあったが、ことあかねのことになるとその部分が脆い。
以前、癒しの里でまだ記憶が戻らないで居たあかねと話している際に一度このような状況になったことはあったが、その時はかろうじてあかねが手を差し伸べて心を蝕まれずに住んだことがあった。
だが、今回はそれがない。
忌まわしい記憶を何度も頭の中に植えつけられ、心が自然に後ろ向きになる。
『あの日あの時に時間を戻すことが出来たら・・・』
私利私欲のためにそれを願い、そして己の願望を遂げようとする。
そんな乱馬の心を、カード達はいち早く察知したようである。

暗闇に紛れ、黒い光が乱馬を包み始める。
『そう願え。あの日に戻りたいと願え。さすればうぬが願望は遂げられようぞ・・・』
忌まわしく禍々しい低い声が、乱馬の心の中に流れ込んでくる。それと同時に、何度も何度も「あの日の記憶」が乱馬の心を支配していた。

「くっ・・・」

・・・だめだと分かっているのに、でも本心はそれを願っている。
乱馬の薄っぺらな「建前」はいとも簡単にカードたちにも見破られ、そして乱馬自身を急速に蝕んでいった。
乱馬はいつの間にか、その空間の中、頭を抱えたまま膝をつくように地に崩れ落ちていた。
カードに飲み込まれてその精神と心を完全に蝕まれ取り込まれるのも、時間の問題かと思われた。

 

 

時の試練。
それは古に生きたエレーナとルキアがなしえたことをする覚悟があるか、資格があるかを図る試練であると同時に、
試練を受ける者の心の隙間に入り込み、その者が私利私欲で「時の魔法」を使う意思がないかどうかを見極める試練である。

『過去に捕らわれず、未来を信じ真実を見抜く心と目。それに耐えられねば、お主らに勝ち目はない 』
というのは、そういうことなのである。

もしそこで己の欲望に負けてしまえば、そのまま闇の世界に精神を引きずり込まれ・・・「時の狭間」に気持ちを固定され、抜け出すことが出来ない苦しみに永遠に身をおくことになる。

 

乱馬は今、正念場を迎えているのである。


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