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口づけはディナーの前に

どんな事でも、きっかけは皆「些細なこと」から始まる。



ただし砂の城の一角が崩れたら、サラサラとその姿を失うのと同じで、
小さな綻びはやがて大きなものへと変化していくものだ。

カグラは、烈車の中の雰囲気が一見和やかに見えつつも、普段と少し違うと感じていた。
とはいえ、誰かが大々的に言い争いをしているわけではなく、
一人離れたところに座っていたヒカリは、たまにみせる「話しかけるな」オーラを身に纏いながら皆に背を向けていて、
そのヒカリのオーラに怯えたトカッチが何故かミオに引っ付き、ミオはそれを怒りつつも、気ままに雑誌を読んでいる。
ライトは、お腹が空いていたらしくワゴンに用意してもらったお弁当を、一心不乱に食べていた。

ここだけ覗うと特に普段と代わりのない光景のようにも思えるが、
ここに至るまでの事情を知る為には、ここから少しだけ時を遡ることとなる。
・・・


遡ること、十分前。

「あ!」
カグラのそんな声とともに、カグラの身体が脚立からふわり、と宙に舞った。

烈車内の共有スペースの掃除をしていたカグラが、脚立の上で背伸びをした瞬間、どうやらバランスを崩したのだ。
脚立自体はそれほど高くないけれど、華奢な身体が床に勢いよく叩きつけられたら怪我をしないわけは、ない。

「危ない!」
当然のことながら、他のメンバーも声と共にカグラの元へと駆けつけた。
そして、

「・・・ほら、気をつけないと!」

その時一番近くに居たライトが、カグラの身体を両腕でしっかりと受け止めて難を逃れることが出来たのだ。
その後に、離れた場所に居たトカッチ、そしてヒカリが駆けつけたわけだが、

「もう、カグラ!脚立の上で背伸びなんてしちゃだめだよ!」
「ごめん、ミオちゃん」
「ライトが受止めてくれなかったら、大怪我していたかもしれないよ?」
「はあい・・・」
「まあまあ。怪我がなかったから、良かったじゃん。な?カグラ」
「うん!ありがとう、ライト」

同じく駆けつけてカグラを嗜めるミオに、ライトが笑顔でそういった。
ミオはそんなライトとカグラにため息をつきつつ、

「・・・ま、怪我がなかったからヨシとするか。それにしても・・・そうしていると、何だか二人とも新婚さんみたいね」

ミオは、自分の前にいる二人についてそんなことを言って、笑った。

Tシャツと着合わせたトップスにデニム姿のラフなライトはともかく、カグラは、白いヒラヒラのエプロンを身に纏い、白い三角巾を頭に巻いている。
しかも、落ちているところを受止めたとはいえ、いわゆる「お姫様だっこ」をした状態なわけで。
さしずめ、新婚生活スタートしたばかりの若夫婦が、妻を抱き上げイチャイチャしている光景とでも、言えるであろうか。
・・・

「はは、それはいいな!」
「新婚さんかー、確かに!じゃあじゃあ、あれも言ってみてよ!お風呂にする、食事にする、それとも・・・」
「トカッチ、想像しすぎ」

ミオの言葉に、ライトも、そして駆け寄ってきていたトカッチも反応して、そんな冗談を言い始めた。

皆まだ「結婚」については聞いただけの知識しかないわけだが、想像するのは、自由。
たまたまカグラが白いヒラヒラエプロン姿だったことも手伝い、話題がそんな方向へと発展していったのだ。

ところが、そんな会話をしている面々を他所に、やはりトカッチと一緒にカグラの元へと駆けつけたヒカリだけは、その会話には加わらなかった。
ヒカリはワイワイと楽しそうに話す四人を一瞥すると、さっさと自分が元いた座席へと戻ってしまった。
そして、それまでと同じように、皆が居る方へ背を向けたまま座る。
ヒカリは普段からそういう所もあるので、他の面々はヒカリのその様子を気にもしなかったのだが、

「・・・」
ライトの腕の中でそれを見送っていたカグラだけは、どうしてかそんなヒカリの様子が気になり・・・皆と話をしつつも、様子を窺いだしたのだった。
・・・



それが、十分前の出来事である。
カグラはその時の事を思い出しながら、皆の元からそっと離れてヒカリの座っている座席の傍まで移動した。

ヒカリは、カグラの背を向けて窓の外を眺めて座っている。
座席の横には窓があるし、そこにカグラの姿も映っているので、カグラがそこに来たことはすぐに気がついたはずだ。
だが、表情も変えず、いつものように「座ったら?」と話かける素振りもないまま動かない。
・・・トカッチが先ほどから妙に怯えていた「話しかけるなオーラ」程まではいかないけれど、確かに今のヒカリには普段と違う雰囲気を感じるカグラである。

一体、どうしたというのだろうか。
それを考え始めたカグラであったが、「あれ」と、徐々にあることを思い出した。



先程カグラが脚立から落ちそうになった時、「危ない!」と叫んだ声の中にヒカリの声もあった。
脚立から落ちながらも一瞬見えたヒカリの表情は、明らかにカグラを心配している表情だった。
でも…ライトに抱き留められた時、
ライトの腕の向こう側に見えたヒカリの表情は、少し困ったかの様な…不思議な表情に見えた気がした。
その時は、「何でそんな表情?」というよりも、そそっかしいカグラを心配し、一応は怪我をしなくてすんだという安堵感も混じった表情なのかな?と思ったのだけれど。
そしてヒカリは、その後皆の会話には混じらず、皆から離れて一人、元の席に戻っていった。


もしかして、ヒカリの表情が変わったあの時から、カグラが気が付かない何かを、ヒカリにしていたのだろうか?
いや、でもヒカリと直接話はしていないし、ヒカリの話題だって出ていなかったし、カグラには想像がつかない。
カグラがそそっかしく、他の人に迷惑をかけたことが腹立たしいのか?…いや、それならばもっと、怒りのオーラが漂ってもよさそうに思える。
そう言うのとはちょっと、違うような気がするのだ。

「…」
カグラは、ヒカリにそれを尋ねようと口を開こうとした。
だが、いざ話しかけようとすると、上手く言葉が出てこない。

普段は他愛のない会話を意識なくしているのに、いざ聞きたい事があって話そうとすると、上手く出来ない自分がもどかしい。

たった一言、「ねえどうしたの?」と何故聞けないのか。
カグラは、ヒカリの背後でどうにも出来ぬまま、立ち尽くしていた。


と、その時だ。


「…何?」

そんなカグラに、ヒカリが表情を変えず振り返って一言そういった。
思いもよらぬ、ラッキーパスだ。カグラはこのチャンスを逃すものか、と素早くヒカリの隣に回り込んで座った。
そして、

「ねえ…ヒカリ、機嫌悪い?」

と、思い切って聞いてみた。
が、ヒカリはそんなカグラの顔は見ず、また別の方向を見ている。カグラの問いにも答えない。

「ねえ、どうしたの?私ヒカリに何か…」

カグラは、答えないヒカリに再びそう尋ねようとした。
が、ヒカリはカグラの問いに、先程よりも更に機嫌を悪くしたのか、突然立ち上がってスペースから出て行ってしまった。

「ま、待って…」

あまり声を荒立てると、他のメンバーが心配する。カグラは声を抑えて冷静を装いながら、自分もヒカリを追ってスペースを出た。
そして出た瞬間に小走りでヒカリの後を追う。

ヒカリは、スタスタと歩いて自分のレッシャーの中に入っていこうとしていた。

「あ、だめ!」

カグラはスピードを速めると、ヒカリがレッシャーのドアを閉めようとしたタイミングで、何とか先に部屋の中へと滑り込んだ。
カグラはドサッ…と、勢いよく床に倒れこんで、危うく設置してあるテーブルに頭をぶつけそうになった。

「ちょっ…ドアに挟まったら、ていうか、ぶつかって怪我するだろ!?」

そんなカグラを、ヒカリが驚いた表情で見つめながら咎める。
だがカグラはそんなことをもろともせずに、床から立ち上がりヒカリを見つめた。そして、

「だって…ヒカリ、どうして機嫌が悪いのか全然教えてくれないんだもん!」
「カグラ…」
「私が何かしちゃったのなら謝るし、それに言ってくれなきゃ分かんない…」

白いエプロンのフリフリをきゅっ…と手で掴みながら、カグラは小さな声で呟いた。

原因もわからず腹を立てられていては、謝ることも出来ないし辛い。
その相手が、ヒカリなら尚更だ。

「…」

…そんなカグラに対し、ヒカリは初めは何も返さなかった。
それは無視をしていたわけでも、話をしたくなかったわけでも無い。
カグラに、自分が不機嫌になった原因を何て説明しようかと迷っていたからだ。

というのも、ヒカリが不機嫌になっていたのは、カグラが直接的にヒカリに何かをしたから、というわけではないのだ。
どちらかというと、ヒカリの内面的な問題なのである。


カグラが脚立から落ちそうになったあの時。
それに気が付いて、ヒカリと、そしてヒカリの近くにいたトカッチも、カグラの方へと駆けだした。
カグラはそそっかしいし、注意力が散漫な時もある。
それに、いくらそれほど高くない脚立とはいえ、落ちれば怪我をしない訳がない。
カグラの元へ駆け寄ろうとしたヒカリの胸中は、そんなカグラを気遣う思いでいっぱいだった。

ところが、そんなカグラの身体を、その時一番近くにいたライトが、タイミングよく抱き上げることで助けた。
それに関して、カグラが怪我をせず無事でいてくれた事に対しては、ヒカリも心から安堵した。
だがそれと同時に…自分の目の前で、カグラが、
例え相手がライトとはいえ…いや、ライトだからかもしれないけれど、他の誰かの胸に抱かれて笑顔を見せたことに対して、とても複雑な思いを抱いていた。
ライトがそうしなければカグラは怪我をしていたかもしれないのに、素直にそれを受け入れられない自分がいたのだ。

そして、更に。
その後ライトの腕に抱かれたままのカグラと、他の周りが交わしていた会話を聞いていたら…心の中が急速にもやもやとして、居ても経ってもいられなくなり、元の席に早々と戻ったのだ。
ただ、戻ったところでそのもやもやは解消されることはなく、よけいに醜い形となって、ヒカリの心の中に留まってしまったのだが。…


…そう。ヒカリが不機嫌になった原因は「嫉妬」。
勿論、そんなことをカグラに言えるはずもなく、こうして一人部屋に籠ろうとしたのに、カグラが来てしまってはどうにもしようがない。

しかもこれを、正直に説明しろというのか。ヒカリはそれで迷っていたのである。
ただ、目の前で今にも泣きだしそうなカグラを見ていたら、それはそれで胸が締め付けられる。
自分の勝手な醜い嫉妬のせいで、彼女を泣かせるなんて…そう思えば尚更だ。


「…カグラ、おいで」


ヒカリは、エプロンを掴んだまま俯いてじっとしているカグラの、その手にそっと触れた。
驚いたカグラが、その瞬間にはっと顔を上げた。その目には、うっすらと涙が滲んでいた。
ヒカリはそんなカグラを誘うようにして、自分のベッドに腰掛けた。そして、その膝の上にカグラをそっと座らせる。

ヒカリの膝の上で、カグラは不安そうな表情をしていた。
ヒカリはそんなカグラの目から今にも零れ落ちそうな涙の粒をチョン、と指でつついてから拭ってやると、

「…」

そんなカグラの腰からウエストラインに腕をまわしつつ、そっとその体に寄り添うように身を寄せた。

「ヒカリ…?どうしたの?」

ヒカリが自分の胸元に頬を寄せるように身を寄せてきたので、カグラは驚きつつも、その頭をそっと撫でる。
普段とは、まったく逆の装いである。
ヒカリはしばらく、何も言わずにじっとそうしていた。
だがその内、たった一言だけ、カグラに向かってこう言った。


「…カグラは、俺のお嫁さんになるんじゃなかったっけ?」

「…」
…その、一言で。
カグラは、ヒカリがどうして不機嫌になったのかを理解した。
そしてヒカリも、その一言で全てが伝わるようにと、自分の複雑な気持ちを全て込めたのだ。


そう。
ヒカリが不機嫌になった原因は、カグラがライトに助けられた後に皆でしていた会話、の方に主たるものがあったのである。

たかが会話、されど会話。
例えそれが「例え話」だったとしても、自分の想い人が他の男の腕に抱かれて「新婚さん」なんて言われて楽しそうにしていたら、面白い訳がない。

とはいえ、それであからさまに不機嫌さ丸出しでいたら、心が狭いどころか恥ずかしい限り。
ただ、そうではあっても割り切れない。…そんな思いがあった故に、ヒカリはこの一連の行動をとっていたのである。


「ふ…ふふふ…」

そんなヒカリに対し、ヒカリの頭を優しく撫でていたカグラが、小さく笑った。

「…」
ヒカリが、ちょっと拗ねたような表情でカグラを見ると、

「そうだよ…それは変わらないよ?」
さっきのは、例え話でしょ?と、カグラは普段とは逆の、まるで子供に言い聞かせるかのようにヒカリに優しい口調でそう言った。

「それは判ってるけど」
でも、面白くないものは面白くない。ヒカリは恥ずかしさと照れを隠すかのようにカグラにそう言い放つと、

「新婚さんごっこは、俺としていればいーの」
そう言って、カグラを膝から下ろし隣に座らせた。

「はーい」
「本当に分かった?」
「わかったよー」
「あと、脚立に乗る時は気を付けること。分かった?」

そもそも今回の事も、カグラが脚立から落ちなければこんな事にはならなかった。
ヒカリがそんなことを思いながらカグラにそう言うも、

「もー、ヒカリってばお母さんみたいなんだから」
カグラはそんな反論をしつつ、頬を膨らませて見せるも…やがて笑っていた。

「お母さんじゃなくて、旦那さん、な」
「えへへ…そうでした」
だって新婚さんごっこは、今度はヒカリとするんだもんね。カグラはそう言って、すっかり普段通りの優しい表情に戻ったヒカリの顔を見つめる。
ヒカリはそんなカグラに「そうだよ」と答えた。
二人はそんなやりとりをしながら、久方ぶりに笑った。
そして、

「ね、皆の所にそろそろ戻ろう。いなくなったままだと、もしかしたら心配するかもしれないし」
あらかた笑った後、普段通りに戻ったヒカリを確認したカグラは、そう言ってベッドから立ち上がろうとした。
が、何故かその手をヒカリが掴んでカグラを引き戻した。

「ヒカリ?」
カグラが不思議に思いヒカリに問うと、

「ねえ、カグラ。せっかくだから戻る前に少しだけ、遊んでから行こうよ」
ヒカリはカグラにそう提案してきた。

遊んで、というのはもしや「新婚さんごっこ」のことだろうか。

「…ヒカリ、そんなにしたかったの?」
それがちょっと可笑しくて、カグラが小さく笑いながらヒカリに問うと、

「そうじゃないけど…せっかく二人でこうしているんだし、カグラもエプロン着ていることだし」
「何それ。…でも、ま、いっか。じゃあ私、新婚さんになりきるね!」
「そうそう」
「じゃあねー…ご飯にする?お風呂にする?それとも…」

そんなヒカリに対し、カグラはさっそく「定番の文句」を口にした。
ところが、ヒカリはそれを全部聞き終わる前に、カグラの身体をそっとベッドに押し倒した。そしてその上にゆっくりと自分の身体も移動すると、

「じゃ、『それとも』にしようかな」
「えっ!?」
「だって、だから聞いたんでしょ?」
「それは…そうかもしれないけど」
「じゃ、決まり」

ヒカリはそう言って、ベッドに無造作に置かれたカグラの指に、ゆっくりと自分の指を絡める。
そしてぎゅっ…と一度強く握ると、カグラをじっと見つめる。そんなヒカリに、

「…手のかかる旦那さんで困るなあ」
「お互い様」
「だ、ね」

軽い気持ちの新婚さんごっこが、何だか大それたことに発展しちゃったなあ。カグラがぼそっと呟いた言葉に、思わずヒカリは笑ってしまう。
でも…やめるつもりも、ない訳で。

…皆の元に戻る前の、ほんのわずかな時間だけ。
『口づけは、ディナーの前に』
ヒカリは繋いでいない方の手でカグラの頬を優しく一度撫でると、目を瞑っているカグラの唇に、そっと自分の唇を近づけていった。

 


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