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それは一体、どんな味?

風呂に入ったからと言って、素直に寝付けない日もある。それが、少し蒸し暑い夜なら尚更だ。
そんなことを思いながらヒカリがレッシャーの共有スペースに行くと、そこにはすでに先客がいた。
トカッチ、ミオ、そしてカグラである。

「あれ?ヒカリも眠れないの?」
「あ、まあ…」
「僕たちね、今コレでショートムービー見てたんだよ!」

やって来たからと言って、皆のいる場所に座るわけでも無いヒカリに、トカッチがそんなことを言って自分の手元を指差した。
彼の手元には、ポータブルのDVDプレーヤーが置いてあった。
流石に夜なので、映画をまるまる一本見るのは時間的に気が引けるが、それでも何か皆で時間を潰せるもの、として選出したものなのだろう。

「それにしても、素敵だったね!結果的に両想いになって、安心したよー!」
「そうねえ…でもちょっと現実離れした話よね」

そんなトカッチの傍で、カグラとミオがそんなことを言いながら盛り上がっていた。
見ていたショートムービーは、どうやら恋愛ものの様だ。

正直言って、見なくて良かった。推理小説なりミステリーなり、そういう作品の方が自分には合っていると思うヒカリ故、二人の会話を耳にしながらこっそりとそんなことを考える。
勿論それを口に出すことはないのだが。

「ああ、でも本当に素敵だったー!何か、心がほわほわしちゃうね」
そんなヒカリを余所に、人一倍そういう物語にのめり込んでしまいがちなカグラが、更にそんなことを言いながら、ニコニコとしている。

「カグラはあの話が気に入ったんだね。持ってきてよかったよー」
カグラのその様子にトカッチは嬉しそうに答えるが、よくよく考えてみると男性のトカッチが、カグラが喜びそうな内容のショートムービーを持っていることがヒカリは不思議でならないが、
トカッチの事だ、そういうのも勉強の一つ!とか何とか考えて、色んなものを持っているのだろう。
でも内容はちょっと考えようよ。
一体どんな顔をしてこれをトカッチが選んで買ってきたのかを想像すると、ヒカリは思わず笑ってしまう。


とその内、


「ねえねえ、ミオちゃん。あの女の子が言っていたみたいに、キスって本当に甘い味がするの?どんな?」

トカッチとカグラの会話を笑顔で聞いていたミオに、カグラがそんなことを質問した。
どうやら、ショートムービー内にはそんな表現もあったようだ。
ただし、カグラはその表現について「正しく」は理解していないようで、

「どんなって…あの、それは物理的な甘さじゃないと思うけど…」
「じゃどんな?」
「どんなって…そ、そうね…」

答えに困るミオは何故か…横にいるトカッチに目をやった。
トカッチはそんなミオから慌てて顔を背け、しきりに頬をぽりぽりと掻いている。


…ふーん、なるほど?


そんな二人の様子を見て、ヒカリには何かピン、とくるものがあった。
恐らく二人とも、カグラがいうその「甘さ」が違う「甘さ」であることを説明できる「経験」はしているけれど、
それを上手に説明することが出来ない、と。

…ったく、いつの間に。
まあ、でもなるべくしてなった関係なのかな、とは思うけれど。ヒカリは三人の様子を遠めで伺いながらそんなことを思う。

世話焼きミオと、ドジっこなトカッチ。
足りているもの、足りないものをお互いで補い合って、何だか絶妙な空気感を二人は醸し出しているようにも感じていた。
精神的な世界だけなのかな?と思ってはいたけど、まさか身体的にもとは。
ヒカリはそんなところを妙に感心する。


そんなヒカリとは違い、二人のその様子にカグラは納得できない様で、
「ねえねえ、どんな!?イチゴ!?チョコ!?あっ分かった、メロンだー!」
まるで腹ペコライトのよう。
カグラは次々と自分の好物と思われる甘い菓子やフルーツの名前を挙げて、ミオに詰め寄る。
これには流石にミオもトカッチも困ったようで、何と最終的には、

「あ、ねえヒカリ!ヒカリこういうの詳しいでしょ?教えてあげてよ!」
「はあ!?なんで俺が…そっちの方が手馴れてるんじゃない?」
「な、慣れてなーい!いいから、ね?はい、お願いします!」
ミオがそんなことを良いながら、ヒカリの手を引きカグラの横へと座らせた。
そして自分とトカッチは、「それじゃ、また…」とか何とか、共有スペースからそそくさと出て行ってしまった。
まったく、とんだ逃亡者だ。

「…ったく、あの二人」
ヒカリはやれやれ、と二人が出て行った扉を振り返りながらため息をつくも、
「ねえ、ヒカリ!教えて!」
ミオの「表面上」の言葉を完全に信じきっているカグラは、目をキラキラと輝かせながらヒカリにぐっと詰め寄ってくる。
純真無垢も、ここまでくると犯罪だ。

…俺の方が詳しいとか言われても、実際そんなの良く分からないし。

ヒカリは、キラキラした目で自分を見つめているカグラを見ながら心の中でそうぼやいた。
実際、本や映画などでは知識は豊富かもしれないが、カグラに説明できるか?というレベルではない。
だいたい、「キスの甘さ」をイチゴやチョコ、メロンと同様の甘さだと思っている彼女にどうやってそれは違うよ、と説明できるというのか。
それを言うなら、ミオとトカッチの方が適任のように思えてならないのだが。
ヒカリはそんなことを思う。
ただ、


「ねえねえ…ヒカリ!」


…風呂上りで、いつもと違いツインテールの髪を解き、クセのある長髪を背中までおろしているカグラ。
風呂上りと興奮しているのと相まって、頬を桜色にぽお、と染め上げながら目を輝かせてるその姿は、少なからず、いやかなりの確率でヒカリの胸の中の何かを擽っていた。
普段の愛らしい彼女を、より魅力的に、そして大人っぽく彩るこの状況を思うと、
…本当は自分だって良く分からないことだけど、知識部分だけでの事ならまあ、何となく教えてあげてもいいのかな、なんて。
俺も知りたいとは思うし…なんて。ほんのちょっと悪戯心も覚えつつ、ヒカリでもそんな事さえ考えてしまうようになる。
なので、

「…知りたい?カグラ」
「うん!」
「じゃあさ、ちょっと動かないで」

ヒカリは、笑顔のカグラに一言そう言って…カグラの左頬にそっと、自分の掌を添えた。
カグラの下ろしている長い髪が触れている手に触れて、少しだけこそばゆい。

「ヒカリ?」
カグラは、自分の左頬に添えられているヒカリの手を意識しながら、笑顔のままヒカリに話しかける。

「…」
…きっとカグラは、ヒカリが今からカグラに何をしようとしているのかなんて、想像もしていないだろう。
でも、
さっきカグラが「うん!」と頷いたあの瞬間に、こうしようともう決めたことだ。
コウイウのは知識しかまだないヒカリではあるが、唯一それでもカグラに教えてあげられるとするなら、この方法しかないと。
そして自分も知るならば、この方法かな、と。

ヒカリは、ゆっくりとカグラに話しかけた。

「…ショートムービーでは、何て言ってたの?」
「ん?えーとね、『彼とのキスはとっても甘くて、溶けちゃうかも』って。溶けちゃう位の甘さって、どんななんだろうって!」
「ふーん…」
「メロンも甘いと、ほっぺた落ちちゃうくらいでしょう?だから、それくら…」
だから、それ位の甘さってことなのかな。カグラはきっと、そう続けようとしたのかもしれない。

…そんなカグラの言葉を、ヒカリは途中で遮った。
話をしていたカグラの唇にそっと、頬に触れていた手の親指で触れその言葉を遮ったヒカリは、そのままそこを自らの唇で塞いだのだ。

それは、一瞬だけれどもきっと一瞬よりも長い時間の出来事。
スッ…と近づいてあっという間に触れ合って、そして…離れた。
勿論、


「…っ」
突然の出来事に驚いたカグラは、それまでのような話をすることを忘れて身体を固まらせている。
ただし眼だけはちゃんと動くようで、せわしなく何度も何度もパチパチと瞬きさせている。
そんなカグラの頬に手を添えたままで、ヒカリはカグラに話しかける。

「味、した?」
「えっ…な、なんの…」
「何のって、だから甘い味、しなかったの?」

…本当は、カグラの顔を見るのも何だか照れるし、冷静そうに装ってはるが、今にも心臓が服の下から飛び出してきそうなほど胸がドキドキしていた。
それに、こうカグラに聞いてはいるけれど、自分に至ってはこの出来事自体に動揺して、味何て全く感じていない。
唯一感じたのは、触れ合い一瞬押し付けた唇の柔らかさだけ。
つまり見るとやる、もとい、知識と体験では大違いってことだ。
ただそれはカグラも同じだったようで、

「…わかんなかった」
「そう…」
「あ、で、でも!もしかしたらもう一度したらわかるかも…」
「も、もう一度?」
「だ、だって…突然だったから、びっくりしちゃって…そっちの方に気を取られちゃったんだよう」

カグラはそう言って、恥ずかしそうな表情をしながら頬をピンクに染めていた。
どうやら、そうそう映画や本の中の出来事の様にはいかないらしい。そのことだけは、お互いわかった。
それに、「好きな人じゃないから」甘い味がしなかった、というわけでもなさそうである。
そうでなければきっと、「もう一度したらわかる」なんて言わないだろうし。
まあここで「ライトとしたらわかるかも」なんて言われたら、堪らないところだったけれど。


「…じゃあ、もう一度、する?」
ヒカリは、ゆっくりとカグラにそう問いかけた。自分でも驚くほど、その言葉は自然に口を出た。
…ただし、さっきは不意打ちだったけれど、今度は事前の意思確認ありきだ。
もしかしたら、拒絶されるかも、しれない。
ヒカリは一瞬そんなことを考えるも、
カグラはそんなヒカリに対し、「…うん」と声に出さずとも小さく頷いて見せた。
そんなカグラの様子に、表情には出さずともほっと胸を撫で下ろしたヒカリは、

「…やっぱり止めた、とか言っても止めないよ?」
「うん…」
「あと…味、分かるまで続けるよ?」
「うん…ヒカリも、わかったらちゃんと教えてよ?イチゴとか、メロンとか…」
「だから、そういうのじゃないと思うんだけど。そんなんじゃいつまで経っても…止められないでしょ」
「へへ…」

カグラとそんな会話を交わし、二人で小さく笑った。

…きっとカグラはこんな状況になったからと言って、それでも全てをまだ理解して悟るのは無理なのかもしれない。
でも、ちょっとづつ一緒に理解していく為に傍にいてあげることは、出来る。

と、

「…」
カグラが、ヒカリの、自分の頬に触れていない方の腕の袖をきゅっと、ひっぱった。
そして、そっと目を閉じる。

どうやらショートムービーの中では、そうやって登場人物たちがキスをしていたのかもしれない。
それに、目を閉じた方が感覚が研ぎ澄まされる、とでも思っているのか。

いやもしかしてこれって、もしかしてショートムービーの登場人物になりきり、なのか?
あーあ、それだと味、ちゃんとわかるようになるのかなあ。ヒカリはそんなカグラの様子を微笑ましく思いつつも、
今度は先程よりもゆっくりと時を感じながら、再び目の前の彼女の柔らかい唇へとそっと顔を近づけた。
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