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願い事

・・「あ!」
・・・そう思った時には、既に遅かった。




レッシャーの停車場所近くの坂道を急加速で降りてきた数台の自転車を間一髪で避けたカグラは、
避けた弾みで自分が手に持っていた掃除用のモップを飛ばしてしまい、
それが運悪くレッシャーフロント部分に激突、あげくモップの柄が突き刺さり、レッシャーはその修理の為余分にその場所へ足止めを食うこととなった。

それは、シャドータウンと化した街へ向かう為の新たな分岐点について明から連絡があり、この停車が終わったらそこへ向かおうと、皆で士気を挙げていた矢先の出来事だった。

士気をあげるついでに、「じゃあレッシャーも綺麗にしてあげないと!」とカグラが一人掃除を買って出たのは良かったのだが、運の悪い事故、というか出来事に見舞われて出発が遅れることとなってしまった。

実際は、普段乗っているこのトッキュウレッシャーではシャドーラインには乗り入れはできないし、どちらかというと明のドリルレッシャーを掃除してあげることの方が理にかなっているとは思うのだが、
カグラにしてみれば、そう言うことまでは深く考えていなかったようである。

…そんなわけで、トッキュウレッシャーは不運な出来事に見舞われた訳であるが、
当然のことながら、

「あの・・・皆、その、本当にごめんなさい!私が余計なこと言い出さなければ、その・・・」

良かれと思って起こした行動ではあったが、その結果が、皆の士気を少し下げ、更に時間のロスにも繋がってしまった。
いつか自分たちの街へと辿り着く迄、他にもシャドータウンとなってしまった街を救いたい。
自分もその思いが強いわけだが、皆もそれは同じはず。
それが分かっているが故に、この失態はカグラにとって非常に悔やまれた。
勿論、

「なあに、大丈夫だって!こんなのすぐ直るし、どうってことないよ!気にすんな!」
いつも前向きで太陽の様なライトは、逆にカグラを明るく励ますし、

「気にしないで大丈夫だよ!それに、こうでもしなきゃレッシャーをゆっくり点検なんて出来ないでしょ?車掌さんも、カグラに感謝してたよ!」
さりげなくフォローを入れて、「こんなの全然大丈夫だよ」と気をかけてくれるトカッチ、

「気にすることないって!それより、怪我はないの?全く、猛スピードで坂を自転車が下ってくるなんて・・・カグラが怪我でもしてたら、全員ただじゃ置かなかったんだからね!」
気を使いつつ、 女性特有の慰め方で尚且つカグラを怪我させそうになった者たちへ怒りをぶつける、ミオ。

ヒカリに至っては、そんなカグラ達の様子を遠くから眺めている、というか背中越しに皆の会話を聞いている、だけだったのだが。

ともあれ、

「ありがとう・・・皆、でも、ホントにごめんね」
皆それぞれ、形は違ってもカグラに気を使って慰めてくれるのは有難い。

だが、時折その優しさが辛い時もある。
皆が優しければ優しいほど、自分がしてしまったことを認識させられるというか…それがどんなに贅沢で、我儘で自分勝手な思いだとはわかっているけれど。
ただただ、皆に申し訳ない。
カグラは皆に笑顔を見せつつ、心の中でそんなことを思っていた。
が、その内とうとう自分の中の気持ちがどうにもこうにも処理できなくなり、

「あの、私・・・ちょっと点検の様子みてくる!」
「え?ちょ、ちょっとカグラ!?」

居ても立っても居られず、カグラは皆で話していたレッシャー内の共有スペースを飛び出し、外へと飛び出した。
そして、モップの柄が突き刺さり、車掌と明があれこれと何か作業をしているフロント部分・・・ではなく、
それとは全く逆方向の、レッシャー後方部へと最初はダッシュ、徐々にスピードを落として、最終的にはぽてぽて、と歩き出した。

ため息をつきながらふと顔を上げて空を見上げると、ブルーオレンジに染まった空のところどころに、ぼんやりと白く小さな星が浮かび上がって見えた。
ただし「ぼんやり」と星が見えたのは、自分の瞳が涙で曇っているせいではあるのだが、

「・・・」
カグラは手の甲で両目をゴシゴシとこすりながら、空をじっと見あげる。

・・・自分のせいで皆が足止めを食い、なのに皆が自分を責めずに優しくフォローをしてくれている。
その優しさがありがたくもあり、辛くもあり・・・なんて自分は我がままなのだろう。
じゃあ、「なにやってんの!」と怒鳴られれば良かったのか。いや、それならそれで、落ち込んだのだろうが。

一体みんなにどうして欲しいのか。自分でも、良く分からなくなる時があるのだ。
でもあえて言うのなら…そう、こういう時は皆の「妹」分としてカグラに接するのではなく、「仲間」として接して欲しいと。
そう思っているのかもしれない。
しょうがない、仕方がない、大丈夫だよ…それだけじゃなくて、怒るところは怒る、そしてその上で「しっかりしろよ!」と言ってほしい。
そんな風に思っているのかもしれない。
・・・
時々、自分の間の悪さというか、無力さというか…嫌になる時がある。
そんな自分さえ、皆は優しく接してくれる。
皆と喧嘩したいわけではない。
ただ、こんな時にこんな失態をやらかした自分でさえも優しく包んでくれる皆と、自分の無力さが全然釣り合いが取れていない気がするのだ。

もっともっとしっかりしないと、これから飛び込んでいくであろう戦いの渦の中でだって流されてしまう。
皆の足を引っ張るわけにはいかないのに…!


「…」
最強のイマジネーションガールだって、度々みんなの足を引っ張ってばっかりいたら…

ああ、でもあんな風にレッシャーから外に出てきてしまったら、また皆を余計に心配させてしまう。
自分が思っているような方向からはどんどんと逸れてしまうよ…。
「…」
ブルーオレンジからダークブルーへと徐々に変化していく空を見上げながら、カグラはそんなことを考えていた。


と、その時だった。


「いつまでそこでそうしてるの?」
そんなカグラの背後から、聞きなれた少し低い声がした。
カグラがはっと息をのみ振り返ると、

「もうすぐ夕食だって」
「あ、うん…」
「ここで道に迷って、星の観測でもしていたの?レッシャーのフロントは逆方向なんだけど」

…先ほどの場では一言も発さずカグラ達に背を向けていたヒカリが、そう言ってゆっくりとカグラの目の前に歩み寄ってきた。

ヒカリとて、先程の皆との会話は聞いていたはずだ。だからこそ、ここにいるカグラに対して「レッシャ―のフロントは逆方向」と言っているのだ。
ただ、当たり前だが本当にあの時、カグラがレッシャ―の点検に行くとは思ってはいなかったようで、こうして外に来たカグラを、一人様子を見に来たのだろう。

「…」
カグラは、歩み寄ってきたヒカリと目を合わせないかのように、そっと俯いた。
ヒカリはカグラの前で立ち止まると、
「ほら、行くよ」
ポン、と、大きな手の平でカグラの頭を一度優しく叩いただけで、何を咎めることもない。
そればかりか、そのことには何も触れずにカグラをレッシャーに誘おうとその手をそっと取った。

そんなヒカリに、カグラは小さな声で「…どうして?」と、呟く。

「どうしてって?」
カグラのその予想外の言葉にヒカリが思わず聞き返すと、

「…何で言わないの?お前のせいで出発が遅れて迷惑しているって、何で責めないの?」
カグラは、俯いたまま小さな声でそう続ける。

「カグラ?」
明らかに普段のカグラとは様子が違う。ヒカリがカグラの俯いた顔を覗き込んでみると、

「…カグラ?」
「何で…何で皆優しいの?何で怒んないの?ヒカリもっ…何で責めないの?お前のせいで出発が遅れて迷惑だって…!」

…ヒカリの温かい掌に触れられたことで、先ほどまで心に秘めていたことが、フツリと溢れ出てしまったのだろうか。
カグラは俯いたままポタポタと涙を流しながら、くぐもった声でそう叫ぶように呟いた。
そして、そのままぺたん、と地面に座り込んでしまう。

「皆が早く先に進もうって、そう気持ちを強く持ったばっかりなのに、こんな風に足止めさせちゃって…私、迷惑かけてばっかり…」
肩を震わせて、ぺしゃん、と地面に広がったスカートの裾を小さな手でぎゅっと握りしめるカグラは、
ヒカリに向かって言っているのか、それとも自分自身の不甲斐なさを責めているのか…もうどちらか分からなくなっているかの如く、呟き続ける。

「…」
そんなカグラを、ヒカリは何も言わずしばらく見つめていた。
が、カグラが口をつぐんで溢れ出る涙を手の甲でごしごしと拭い始めたタイミングを見計らって、ゆっくりと動き出した。

ヒカリは、カグラが座り込んでいる背後にゆっくりと回った。
そして…ヒカリ自身も、カグラと同じように地面にしゃがみ込む。

「…?」
それまで泣くのに一生懸命だったカグラであったが、不意に背後に気配を感じたことで、ヒカリがそこに移動していることに流石に気が付いた。
そんなカグラが、ゆっくりと背後に居るはずのヒカリを振り返ろうとした…ちょうど、その時だった。


ふわり


カグラの周りの空気が、ゆっくりと動いたような気がした。そしてそれと同時に、何か温かいものが優しく、そして強くカグラの身体を包み込む。
背中に感じる少しだけ早い胸の鼓動が、薄手のブラウスから驚くほど強くカグラに伝わってきた。
トクトクと早い鼓動は、やがてカグラのそれと相まって…二人分のより強い胸の鼓動がカグラの身体に流れ込んでくるようだ。


カグラは今、ヒカリの腕の中に居た。
正確には、背後から腕を回され肩の辺りからぎゅっと抱きしめられている、というのが正しい表現かもしれない。
いずれにせよ、そうそう起こりえるシチュエーションではない。



「…ヒカリ?」
突然の出来事に、それまで拭っても拭っても止まらなかった涙でさえ、止まってしまった。

そっと自分に回された腕に触れると、とてもずっしりとして随分と力強いものにさえ思える。
普段、何かあると気軽にとってしまうその腕とは、だいぶ印象が違う。
カグラは、意識していないと上ずってしまう声をなんとかコントロールしながら、ヒカリの名を呼んだ。
ヒカリはそれに対しては何も答えず、それよりも自らの腕で捉えたカグラの身体をうまく誘導し、ヒカリがレッシャーの車輪部分に背でもたれるように座った。もちろん、カグラの身体は抱いたままだ。

「…ヒカリ?」
カグラは、再びすぐ傍に感じるヒカリへと語りかけた。
「ちょっと落ち着いた?」
「え?あ、うん…」
確かにヒカリが言うように、こうされたことで先程よりも不思議だがだいぶ気持ちが落ち着いたような気がした。
そんなカグラに対し、今度はヒカリも答えるべく…ゆっくりと、口を開いた。

「…あのさ、俺達は別にカグラに対して変な気を使っているわけじゃないよ」
「でも…」
「そりゃ、カグラだからしょうがないって、全く思ったことがない訳じゃないけど。でも、だからと言って特別扱いしている訳でも無いし、きちんと仲間として見ていない訳じゃない」
「ヒカリ…」
「それに、反省しているのが解っているのに、それ以上責めた所で何になる?」

ヒカリはそう言って、そっと…抱きしめているカグラの背中に自らの額をつける。
そのくすぐったい様な不思議な感覚にカグラは身を竦める。
ヒカリはそんなカグラに対し、ゆっくりと語りかけた。

「…あのさ、焦らなくていいから、カグラはカグラのままで、前に進めばいいよ」
「ヒカリ…」
「皆も言ってただろ?どうってことないって。こんな機会がなければ点検出来ないって。それに、怪我しなくて良かったって。俺達の町にたどり着くまで、まだどのくらいかかるか分からないんだ。それは出発が少し遅れたところで変わるものじゃない。それに…」
「それに?」
「ゆっくり休めば、レッシャ―も俺達も、よりフルパワーで戦えるだろ?」
「…うん!」
「フルパワーになった俺達皆をイマジネーションして、前に進もうよ。カグラ」
「うん!」

ヒカリの言葉に、カグラはいつの間にか笑顔で、そして素直に返事をしていた。

…ヒカリの言葉は不思議だ。
時に厳しく、時に鋭くもあるけれど、でもどこか温かくて、自然に心の中に入り込んでくる。
カグラが多くを語らなくても、いつの間にか言いたいことを汲んでくれて、そして…それに対して優しく語りかけてくれる。
今回、こうしてカグラがヒカリに感情を素直にぶつけてしまったのも、
もしかしたら、そういうヒカリの感覚を自分も理解していたからなのだろうか…。
抱きしめられたのだって、最初は胸が激しく鼓動して息が止まりそうだったけど、
背中越しに感じる体温と鼓動と、そして身体を包む温もりが、
時間が経つにつれてどんどんそれが「自然」な状況のように感じるようになって、いつしかその腕の中で、素の自分として話が出来るようになった。


ライトも、トカッチも、ミオも、勿論皆大好きだ。
ヒカリの事も、大好きだ。でもヒカリは…何か、ちょっと、もっと「近い」ような気がする。カグラはふと、そんなことを思った。
時に厳しく、時に優しく。そしてこんな時に温かく包み込んでくれる。
ヒカリの名前と同じように、カグラを温かく包み込む「光」をもつ彼。
そう、しいて言うのなら何だか、ヒカリはまるで…

「…ヒカリは、何だか私の…お兄ちゃんみたいね」
「カグラ、お兄ちゃんいたっけ?」
「いないけど…でも、何かお兄ちゃんが居たらこんな感じなのかなって」
「皆に妹みたいに思われているのから、成長したいんじゃなかったっけ?」
「そ、それはそうだけど…そう思っただけだよ」

カグラはそう言って、頬をふくらまして拗ねたような表情をした。
…それそれ、そういう所が「妹気質」というか、皆のそれをくすぐるんだよな。
ヒカリはそんなカグラを見て心の中では苦笑いだ。
だが、

「でもね、カグラ。妹みたいに思ってはいるけれど、俺はカグラが本当に妹じゃなくて良かったとは思うよ」
「えー?手がかかるから、そういうのはパスってこと?」
「そうじゃなくて。だって本当の妹だったら…」
いつか結婚、できないでしょ?…ヒカリは最後の言葉だけカグラの耳元で小さく囁くと、
「…さ、そろそろ皆の元に戻ろう?夕食、食べ損ねる」
そう言って、最後にぎゅっとカグラの身体を抱く腕に力を入れると、そっとその後離した。

「ヒカリ、ねえ…」
最後の言葉、どういう意味?

カグラは本当はその先をヒカリに尋ねたかったのだが、

「食事の時間に遅れると、ライトに全部食べられるから」
「えっ…それは大変!」
「だろ?だから、早く戻ろう」
「うん」

ヒカリに上手く話題を逸らされたというか、本当にライトに食事を全て食べられる危機感を感じているのか、空腹には勝てないのか。どれが正解とは言えないが、


まだ、今はいいや。
うん…今は。あの言葉の意味はきっと、その内もっと自然にわかるはずだから。



二人はそれ以上は先程までの事には触れず、
でも少なくても先程この場所へ来た時とは正反対の明るい表情で、皆の待つレッシャー内の共有スペースへと戻っていったのだった。
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