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Distance(前)

 パーティーの参加者には色々な人が居るってことぐらい、漸く慣れてきた生活で理解しているつもりだった。
 それなのにこんな目に遭ったと言うのは、ひとえに自分の注意不足であることこの上ない。

 この城に来た時にいつもお世話になっている使用人の女性に支えられながら部屋にたどり着いた私は、ふがいない自分をそうやって何度も戒める。
 でも今は戒めるよりももっと単純な、そう、立っている事さえもままならない状況に、更に自分への嫌悪感を増していた。

 「姫様、大丈夫ですか? 今アヴィ王子を呼んで参りますので」
  「い、いいです! 呼ばなくていいですから!」
  「何をおっしゃいますか! こんな目に遭われたのに、黙っているわけにはいきません。それに、姫様のお体が心配です!」

 使用人の女性は、まるで母が子に諭すかのように私にそう言い聞かせると、足早に部屋を出て行った。

 ……こんな状態を、よりにもよってアヴィに見られるとは。

 年頃の女性にとって、自分の好きな人に自分の一番醜い姿を見られることがどれだけ辛い事か。
 こうなったのは全て自分の不徳の所ゆえだけど、それでもやっぱり耐え難い。

 アヴィにがっかりされたら嫌だな。でも、情けないけれど自分ではもうどうにもならない。

 私は更に自分への嫌悪感を深めながら、ソファへたどり着く間もなくドアの直ぐ傍の床にへたり込むと、こうなるまでの経緯をぼんやりと振り返っていた。

 


 アヴィの国である騎士の国・アルストリアに遊びに来るのは、もう何度目になるだろう。
 城の人々やアヴィの父上でもある国王陛下にも良くして頂き、私はこの何度目かの滞在も楽しく過ごしていた。

 

 アヴィにまつわる悲しい秘密を知った後、少しだけ関係が進んだ私達。

 それでも、「友達」では留まらなくて、でも 「恋人」と呼ぶには少し足りなくて。

 それをハッキリさせることが出来るのは私達だけなのに、中々それが出来ずにいた。

 一歩踏み出して、今のこの「心地よい」関係が壊れてしまうのが嫌なのか。
 それとも、アヴィにしてみればこれ以上先に進むつもりがないのか。

 ……確かめてしまえば、きっとそこで何かが変わる。お互いがそれを恐れているのか、それは分からない。
 そういう経緯があり、私たちは一緒に居る時間は多くなったけれど、「不思議な距離感」を保つ関係が続いていた。

 

 そんな中の、今回の私のアルストリア訪問。
 到着して間もない今夜はちょっとしたパーティーがあるというので、国王陛下からも直々にお誘いを受けたのもあり、私はドレスアップしてそのパーティに参加した。

 パーティには勿論、アヴィも参加している。
 一応は「来賓」という立場である私と違い、主催側のアヴィは、この国の第一王子らしく正装し、招待客を持て成している。
 アヴィは昔に比べると女性ともそれなりに接することができるなったようで、彼の成長は国王陛下にとっても喜ばしいらしい。

 なんせ、使用人の女性にも「アヴィ様は奥手で」と噂されていたくらいだ、それまでの彼は相当なものだったのだろう。
 以前、私の怪我の手当てをしながらアヴィの事を教えてくれた使用人の女性を思い出すと、思わず吹き出してしまう私だ。

 でも私にしてみると、「奥手」という割には、アヴィと二人でいると軽いキスくらいはされる。
 唇に触れるか、触れないか。やっぱり触れるか……と思いきや、その唇は頬に落ちる、ような。

 お互い物足りない様な、でもそうでもないような。……そんなことを考えていた私は、「ああ、良い歳をした男女がそんなことを言っているようだから、きっと私たちの関係は進まないんだ」と改めてそこで気が付き、そしてやっぱりアヴィは「奥手」の分類に入るのだという事を確信する。

 別に、強引に先に進みたいわけではない。正直言うと、一緒に居られるだけでそれでいい。
 今のように心地よい関係がこのまま続いてくれれば。私はそんなことを思っていた。

 そんな私は、パーティの最中はほぼ一緒に居ることが出来ないアヴィの姿を、会場で探した。
 と、いた。
 彼は、国王陛下と共に正装で招待客をもてなし、私と一緒に居る時とは「違う種類」の笑顔を浮かべている。
 そこにいるのはアヴィなのに、アヴィじゃないみたい。私は彼に目をやりながらそんなことを思う。

 貴族の女性や、恐らく彼目当ての女性もこのパーティには参加しているだろう。
 国の第一王子であれば、相手への気持ち云々ではなく、付き合いでそういう女性をエスコートするだろう。密着してダンスだって踊るかもしれない。
 彼が例えば結婚して伴侶がいるならば、他の女性をエスコートするようなこともないだろう。公に婚約でもしていれば尚更だ。

「……」
 ……例え二人でいる時に少しだけ甘い時間を過ごすからって、今はまだ私も、そう言う存在ではない。
 だから、あくまで今夜は「来賓の一人」。彼が他の女性と笑って何かを話しているのを遠くから見ている一人に過ぎないのだ。

 いいの。私とアヴィは、今のままの関係が望ましい。私は自分にそう言い聞かせる。

 国の第一王子として執務をこなすアヴィの邪魔なんてしてはいけない。
 寧ろ、「偉いね」くらいの余裕を持って構えていなくちゃいけないんじゃないか。
 そうだよね、それがいいはず。それは分かっているんだけれど……この胸に疼くものはなんだろう。
 アヴィの事は見ていたいのに、アヴィと他の誰かが仲良くする姿からは目を逸らしたいなんて。

「……我儘だな、私」

 公に「この人は俺の恋人です」と宣言してもらえれば満たされるのだろうか?

 ……いいや、違う。
 多分私は欲しいんだ。心地よい距離が良いとか、今のままでいいとか、そんな言葉で誤魔化しているけれど、本当は欲しくて堪らないんだ。

 どんなに離れていても、繋がっていられるたった一言を。
 彼の気持ちを素直に表す、たった五文字の言葉を。

 ……奥手の彼が、そう簡単に口にすることが無い言葉を。
 私は会場の隅でそんなことを思いながら一人、華やかな照明の下で輝く彼を眺めていた。

 と、その時だった。

「お一人ですか?」
 そこに、飲み物が入ったグラスを二つもったパーティの参加者の男性が、私に話しかけてきた。
 年は、私よりも少し年上だろうか。上質な燕尾服を身に纏い、強烈な香りの香水をつけている若い男性だった。
 周りには連れの女性等はいない。一人でこのパーティに参加しているのだろうか?
 パーティに居るという事は、それなりの身分の男性ではあるだろうが、胸に名札が付いているわけでも無いので、この人が誰なのかは全く分からない。とはいえ、

「あ、まあ……」

 すでに壁の花と化していた私は、突然話しかけられたことに驚き思わず一歩身を引く。
 男性はそんな私に柔らかにほほ笑むと、手にしていたグラスの一つを私に渡す。

「あ、ありがとうございます……」
 受け取ったグラスには、アイスブルーの液体が入っていた。チェリーに似た果実も浮いている。恐らくカクテルだろう。

「こんな美しいお嬢さんが壁の花では勿体ないですよ」
「わ、私、こういう席は慣れないので……」
「実は私もなんです。どうですか?少し庭でも散歩しませんか。この城は、庭園も広くて手入れも行き届いている」
 でもその前に、まずは出会ったことに乾杯しましょう。男性は私にカクテルを飲むことを勧めた。

「あ……私、お酒はあまり強くなくて」
 男性を警戒しているわけではないのだけれど、実際あまり酒を飲みなれていない私は、カクテルを口にするのを躊躇した。すると、

「なら……魔法をかけてあげましょう。これを入れると、お酒がお酒でなくなりますよ。とても口当たりが良く、美味しく飲める」

 男性はそう言って、燕尾服のポケットから何かの小瓶を取り出した。そして私のカクテルにサラサラサラ……と注ぎこむ。

「あの、これは?」
「魔法です。こういうパーティの席ではわりと多用されるものなのですよ」
「へえ……」

 慣れてはきたとはいえ、そんなに場数をこなしているわけではない。
 こういう「魔法」とやらを使うのが、パーティでは常識なのか……私はたいしてその男性を疑いもせず、カクテルを口にして一気にグラスを空ける。

 男性はそんな私を、先程とは変わらぬ笑顔……でもその瞳は、まるで小動物を狙う獣のようなギラリとした光を帯びて、みつめている。

 私自身はそれに気が付かなかったが、それよりも徐々に身体の奥がじわじわと熱を帯びてきていることが気になった。
 お酒のせいだろうか。でも何だか違うような……そう思いつつ、

「ごちそうさまです」
「いいえ。……さ、お嬢さん。一緒に」
「あ、いえ、私は……」
「顔も赤いですし、火照る身体を冷やすには外に出るのが一番ですよ」
「でも……」

 何だかこの男性、私を外に連れ出そうとしていないか? もしかして、さっきお酒に入れたものって、魔法とか言っていたけどもっと妙なものなんじゃ……

 何故それを、もっと疑って飲まなかったのか。今更ながら自分の無防備さに腹が立つ私だけれど、今はそれを言っている場合ではない。
 声を上げて逃げ出したいけれど、パーティの華やかな会場に流れる音楽のせいで声はかき消されてしまいそうだし、壁の花と化している私の非常事態など、気にかけてくれる参加者なども居るわけがない。

 アヴィだって、気が付いていないくらいだ。それに、この男性はそんな私の身体を他から見えないようにしっかりつかんでいるため、妙な感覚で支配されているこの身体では跳ね除けることが出来ない。

 ……やだ、どうしよう。怖い。怖い……!

「は、離して! 誰か……!」
 男性と共にパーティ会場から外に出されそうになりながら、私は必死でもがき声を出した。
 ……するとそこへ、

「ああ、姫様! こんなところにいらっしゃいました!」

 以前怪我を手当てしてくれた例の使用人の女性が、私を追いかけて会場から飛び出してきた。私を捕まえている男性が、ジロリと女性を睨むも、

「国王陛下がお探しでございました。すぐに参りましょう。大切なお話があるとのことです……ということで、姫様をお連れしてもよろしいでしょうか?」

 女性は怯むことなくそういうと、男性から私をひったくるように引き寄せた。
 男性は「チッ」と舌打ちをすると、会場には戻らずにそのままどこかへと歩いて行ってしまった。
 それを見た私は、安堵からかヘナヘナ……と床へとへたり込んでしまう。

「姫様! ああ、良かった……あの男と外に出て行くのを見かけて、慌てて追いかけてまいりました。陛下のお名前を使わせて頂きましたが、姫様をお守りするためなら、きっと陛下も許してくださるはず」
「え?」
「あの男……一応はそれなりの身分がある貴族の子息ではあるのですが、少々困った癖がございまして、今までたくさんの女性が危険な目に」
「……」
「姫様、何か飲まされませんでした? あの男、いわゆる媚薬のようなもので女性の身体の自由を奪い、そのまま……」
「お酒……お酒に何か入れてました。魔法だって……」
「まあ、やっぱり! 街の酒場などで、女性を口説く時や火遊びをする際に用いる薬の様ですね。酒に混ぜると口当たりも良くなるので、知らずに飲むと大変なことに……ああ、姫様がご無事で良かった!」

 使用人の女性はそう言うと、床にへたり込んでいる私の手を取ってぎゅっと握る。

 ……まさか先程飲まされたものが、そんな危険な飲み物だったとは。警戒心が足りない自分に腹が立ちつつも、この女性が来てくれなかったらと思うと、思わず身震いするほど身体が竦む。

「姫様、お酒は飲まれてしまったんですよね?」

 そんな私の手を取りゆっくり立たせながら、女性は私に改めて質問をする。
 私が「ええ」と答えると、

「良くは分かりませんが、今まで被害に遭った女性の話を聞いたことがあります。効き目は恐らく小一時間程。ですので姫様、パーティ会場には戻らずに、しばらくお部屋でお休みください。良いですね?」

 女性は私の身体を支え、そっと会場から離れた。そして私にあてがわれている部屋まで、連れてきてくれたのだった。

 部屋までやって来た私は、いよいよ媚薬が効いてきたのか歩くことも、いや立っていることもままならない状態になっていた。

 身体も奥底から熱くなり、頭もボーっとしている。

 ドアを開けた瞬間に今にも床に倒れ込みそうな私を見た女性は、私を一人にすることを酷く懸念していた。
 とはいえ、誰かに頼むにも早々適任はいない。そこで、姫の一大事ならば「あの人」しかいないと……アヴィを呼んでくると言って出て行ってしまったのだった。
 ……

 

 

 床に座り込んだ私は何とか立ち上がってソファへと移動しようとするも、薬の効き目が強すぎて歩くこともままならない。
 身体の奥はジンジンと熱くなるし、呼吸も自然に荒くなる。

 熱い……服、脱ぎたい。でも、手が上手く動かない……

 今着ているのは、パーティー用のドレス。普段着ている服とは構造も違うし脱ぐのにも手がかかる。
 肩は出ているけれど、それだけではこの身体中を襲う熱さは拭い去れないし……

「もうっ……バカなんだからっ……」
 バカなのは、自分。怒ったってどうにもならないのに、それでも怒らずにはいられない。

 媚薬の効き目は小一時間。何とか乗り切らないと……震える身体を必死に支えつつ、私は何とかソファまでたどり着き、そのクッションへと身体を横たえた。

 

 そんな中の、出来事だった。

 部屋の外の廊下をバタバタと慌ただしく走る音がしたかと思うと、勢いよくドアが開いた。
 そしてその直後、ソファにぼんやりとした表情で横たわる私の身体が勢いよく抱き起された。

「……」
 何が、起こっているんだろう。
 ぼんやりとした表情で私がじっとしていると、

「おい、大丈夫か!? 変なもんを飲まされたって……!」
「……アヴィ?」
「……」
 目の前で声をかけているのに反応が薄い私に、アヴィは危機感でも感じたのだろうか。一瞬、その表情を強張らせた。でも、

「……大丈夫」
「どこがだよ! お前、全然いつもと……!」
「……大丈夫、一時間くらいで効き目がなくなる……みたいだから」

 そう言いながら再びソファへと横たわる私を見て、「一応会話は出来る程度ではある」と判断したのだろうか。

「……」
 アヴィは大きなため息をついていた。そして、くるりと身を翻してドアの方へと歩いていく。

 ……一時間すれば元に戻るなら、放っておけば大丈夫。そう判断したのかもしれない。
 考えてみれば、彼は今夜のパーティの主催側の人間。しかも王子様なわけで。
 こんな、知らなかったとはいえ媚薬を飲まされてダウンしている情けない女に付き合っている暇は無い筈だ。フワリ、と翻る正装用のマントが私にそう語っているかのように感じた。

「……」
 ああ、アヴィにはこんな恥ずかしくて情けない姿、見られたくなかった。
 幻滅、されちゃったかな。
 顔、隠したいけれどそれさえも今は出来ない。
  ……

 そっと目を閉じると、じんわりと熱いものが瞼の下から滲み出ていく。
 私は頬を伝い唇まで零れてきた大きな涙の粒を飲み込みながら、そんなことを考えていた。

 ところが。

 一旦ドアまで歩いて行ったアヴィは、何故かドアの内側から鍵をしっかりかけると、再びソファまで戻ってきた。
 そして横たわっている私の身体を軽々と抱き上げると、部屋の奥にあるベッドの上まで運び、そこで降ろす。

「……」
 どうして、ドアに鍵をかけたんだろう。いやそれよりも、どうしてベッドに運んでくれたんだろう。
 ソファだと休むにも休みずらいからかなあ……私は涙で濡らした頬をそのまま、ぼんやりとアヴィを見上げた。
 するとアヴィはそんな私の頬を大きな手でそっと、触れた。そして、

「……泣くほど辛いのか?」
「え?」
「大丈夫だから。その……辛いの、俺が何とかするから……」

 少し掠れた声でアヴィはそう言うと、濡れた私の頬にそっと唇を落とす。その柔らかくて突然の行為に思わず私が身を震わせると、アヴィは私のドレスの胸元にそっと、手を置いた。

「ひっ……」
 徐々に強く全身に回り始めた媚薬のせいで、予想外の部分に触れられただけで全身が跳ねるように飛び上がる。

 アヴィはそのままドレスの胸元をぐっとはだけさせると、ドレスの下に隠れていた既に熱を帯びている白い肌を露わにさせる。
 覆われたものが無くなり、そして締め付けていたものが無くなったのもあり、それまでそこに収まっていた部分がぶるん、と揺れながら外に飛び出した。

 決して大きくはないけれど、小さすぎず。あくまで弾力が楽しめる程度には大きさを保つ形の良い乳房が、部屋の灯りに照らされて微かに揺れる。

「なっ……」
 外気に肌が広く触れ、身体の温度は若干下がった。だが、身体の奥底はまだまだ熱い。

 とはいっても、今までキス位しかしたことが無い相手にこんな姿を見られるなんて……と、私は自由にならないながらも、少し身を捩って身体を隠そうとする。

 でもアヴィはそれを許してはくれず、私の手首を掴みベッドに押し付けると、そのまま微かに揺れている胸の膨らみへと唇を下ろした。

 柔らかな肌に唇を滑らせながら、徐々にそれは膨らみの頂へ。その頂にあるまだ淡い紅色で柔らかな肉芯へと唇がたどり着いた後は、その芯を丁寧に、いや執拗に舌が這うように動いて、徐々に硬さを増すその存在を感じているようだ。

「ひあっ……! そんなのだめっ……あんっ……」

 ……私、一体今、彼に何をされているんだろう。俺が何とかするって、まさか……ちゃんと考えたいのに、媚薬で身体も頭も麻痺していて良く分からない。

 そうこうしている内に、片方の膨らみに舌が這い、もう片方にはその内、私の手首を抑えていない方の手が、這いまわりはじめた。

 それなりに小ぶりではあるけれど、でもアヴィの大きな手にはそれなりにフィットする大きさ。

 アヴィの手がその弾力を楽しむように動きつつ、指はもう片方のように徐々に硬さを増してきた肉芯へと触れて……わざと軽く爪でひっかくようにして刺激をする。

 私の身体がびくん、と大きく弓なりにベッドから飛び跳ねた。身体中がまるで、電気でも流れるかのように痺れていた。
 特に触れられているその部分は痺れているのに熱く…自分の意思ではどうにもならず、いつの間にか甘い声しか発していないのに気が付いた。

 どうしよう。何、これ……。私、何でアヴィとこんなことしているんだろう。

 ふと気が付くと、アヴィはもう、私の手は抑えていなかった。
 私はベッドのシーツをきゅっと握りしめ、身体中に流れる甘い刺激に耐えている状況だった。

 気付けばドレスはもう剥ぎ取られ、身体を覆っているのはガーターベルトで吊られたレースがあしらわれたタイツと、身体中のどこよりも熱く、ジンジンと熱を伝えている部分にあてがわれている布だけだった。

 ……こうなるまえ、『泣くほど辛いのか』と言ってくれたアヴィだったけれど、泣いていたのは情けない自分をアヴィに見せることが恥ずかしくて、幻滅されたら嫌だって思っていたからだったのに。何で、何でこんなことに。

 そうこうしている内に、アヴィがそっと身体を離し、素早く上着を脱ぎ捨てる。
 細身に見えるのに、普段から真面目に剣の鍛錬をしているせいかしっかりとした筋肉が目の毒なほど主張している。

 俯いて私の身体をじっと見つめているせいでアヴィの今の表情は見えないけれど、呼吸がいつも以上に荒いのと、頬が紅潮しているのは確かだ。

 アヴィは、それまでずっと舌と指で弄んでいた胸の膨らみをそっと一度触れた後、スルスル……と身体のラインをなぞるように指を下に移動させる。

 私がびくびくと身体を捩らせてそれに耐えると、やがてその指は、布で覆われているその部分で止まった。
 アヴィはその布にそっと指をかけてそれを外そうとするも、私は咄嗟に身を捩ってそれを嫌がった。

「……」
 アヴィは無言で、そんな私の身体を正面へと戻す。そして、布を外す……と思いきや、そのままその布の奥、既に熱を十分に帯びたその部分へと指を一本滑り込ませた。

 その瞬間、ぐちゅ……と潤んだ音が室内に響く。
 それはまるで、蜜壺に満たされた蜜。指で掻きまわす度に壺から蜜が溢れだす。

 媚薬のせい、はもう通用しない言い訳なのかもしれない。

 勿論媚薬のせいもあるけれど、明らかに先程まで執拗に愛撫され続けたのが、こうなった原因なのは明らかだ。

 一本、そして二本……指の数が増え、中で動くその動きも速さもどんどん激しくなる。
 それと同時に、無防備に開かれた白く弾力のある大腿へとビチュ、ビチュと溢れ出た蜜が飛び散っていた。

 独特の匂いのある、熱いその蜜。いつの間にか剥ぎ取られていたその布の下から溢れ出るその蜜を、気付けばアヴィが指と舌で弄んでいる。柔らかくて白い大腿は指が食い込むようにして抑えられ、無情にも大きく左右に開かれていた。そうすることで露わになった、蜜壺のすぐ傍にある、小さな肉芽。震えるそれを戯れに味わうかのようにアヴィが軽く歯を立てれば、

「……あん!」
 身体を撓らせて、私が大きく動いた。かあっと身体中の血液が頭に向かって湧き上がるかのような感覚を覚える。

 ……気が、狂ってしまいそうだった。
 媚薬のせいで恐らく通常以上に身体が反応しているのもあるけれど、今までキス程度しかしていなかったアヴィと、どうして私はこんなことをしているんだろう。アヴィって、奥手だったはずじゃ……? そう思うと、更に頭が混乱した。

 こんなこと、させちゃいけない。
 アヴィはもしかしたら、私が「辛くて可哀想」だと思って、こんな風にして身体を楽にしてくれようとしているのかもしれない。

 私は身体を快楽で震わせつつも、必死にアヴィに叫ぶ。

「だめだよっ……アヴィ、もう大丈夫だから! 私、何とかするから……」
「何とかって、どうするんだよ」
「自分で……あと他に……」
「なっ……こんなこと、他の誰に頼むんだよ!」

 アヴィは少しむっとした表情でそう叫ぶと、身体を起こし、私の顔を見た。
 そして指は蜜壺を掻き回しながら、少し乱暴に私の唇を奪う。

「んっ……」
 普段しているような、軽くてふんわりしたキスとは違った。

 舌を絡ませ、逃れようとしても逃れることが出来ないそれは、彼の剥きだしの感情をそのまま感じるような錯覚さえ覚える。
 まるで呼吸さえも奪われるような、激しくて長いキス。
 唇も支配され、そして身体の奥底に届くような激しい指の動きが媚薬に充てられている私の身体を支配する。先程の私の言葉が気に入らなかったのだろうか。その行為は酷く乱暴にも思える。でも、そんな扱いをされているのに、身体はそれを求めて反応していた。心と身体がちくはぐで、いっそのことバラバラになればいいとさえ思う。

「んんっ……やっ……もう私っ……」

 徐々に湧き上がる熱い波に、私の身体が小刻みに震えていた。
 アヴィはそれでも指を止めてくれることも、キスを止めてくれることはない。

 耳に入ってくるのは、溢れ出て止まらない蜜壺を掻き回している音。
 口元では絡み合う舌と舌が、お互いの呼吸を奪い合うかのように動いている。
 そっと目を開けると、いつもと違って余裕のない表情をしたアヴィの瞳。
 蒼く澄んだ瞳の奥には、同じように余裕のない表情で甘い刺激に身を委ねた私。
 二人の途切れ途切れの呼吸も、広い室内にただただ響く。その内、

「ふあ……んあっ……いやああ!」

 アヴィの指に弄ばれていた私の身体が、自分の意思に反してビクビクと大きく震えた。身体を支配していた熱い波が、まるで竜のように身体を上り詰めたような……そして、それが上り詰めたあとは、ふわふわとした感覚だけが身体に残る。
 私が上り詰めたのと同時に、アヴィはねじ込んでいた指をくっと曲げたようだった。アヴィがゆっくりその指をその後に中で動かす。そうすることで二度目の甘い刺激が私を襲い、「あ……あん……」と、吐息と共に私の身体が小刻みに震える。

「……」
 アヴィは暫くそうしていた後、そんな私からそっと、それまでその身体を弄んでいた指を引き抜いた。
 透明だけど少し白みを帯びた液体が、どろりと指にまとわりついていた。

「……」
 何、あれ…もしかしてあれ、私の…?

 朦朧とした意識でその指を見つめていた私に、アヴィはそっと額に近づいて口づけをする。そしてその指を自分でもぺろりと舌で舐めた後、私の唇にもそっと寄せた。

 ツン、とした独特な匂いに一瞬つまるも、私も同じようにそっと、舌でその指を舐める。

 アヴィはその様子をじっと見つめていた。でもその内、朦朧とベッドに身体を横たえている私にその身体をかぶせる様に身を寄せてきた。

 ふわりと感じる肌の感触。どうやら、既に衣服をまとっていない私同様、アヴィも身に纏っていた洋服を脱ぎ捨てていたようだった。

「……」
 媚薬の効力は、時間的にまだ私の中で続いているはず。でも、今のアヴィのおかげで大分熱は引いていた。
 このまま横たわっていれば、きっと媚薬は消えるだろう。アヴィもきっと安心してくれる。私はそんなことを考える。

 でも……そんな私の予想とは違い、アヴィは私の耳元にそっと囁いた。

「……これからだからな、姫」

 そう囁いたアヴィの瞳は、今まで見たことが無い光を灯しているかのように見えた。
 まるで、別人の瞳。本能に突き動かされた獣。その表現はきっと、大げさではない。

 ……正直、そこからは覚えていない。
 覚えていないけれど……私の朦朧とした意識が完全に飛んでしまうまでの間、私はアヴィと何度も何度も交わりを持っていたことだけは確かだった。

 言葉もろくに交わさず、ただただ、身体を交わらせる。
 聞こえるのは、お互いの荒い呼吸と、激しく腰を打ち付けている肌の乾いた音。そして…甘い吐息。

 ……ああ。なんでこうなったんだっけ。
 私が辛いだろうからって、アヴィが気を使ってくれたんだっけ。
 この行為に……それ以外の気持ちがあるんだろうか。
 そういえばアヴィは、こんなにも激しく何度も交わっているというのに、まだ一度も私に甘い言葉を囁いてはくれない。
 いや……媚薬を不注意で飲んでしまうような相手に、囁く気持ちなど、ないのかもしれない。
 そうだ、だってこれは「辛いから」何とかしてあげるとアヴィがしてくれていることなんだから。でも……

 朦朧とした意識の中、押し寄せる甘い刺激に耐えるようにアヴィの背中に必死に抱きつきながら、そんなことを考える。

 もしかしたらこれは、夢なのかもしれない。
 目が覚めたら、またいつも通りにアヴィと過ごすことが出来る。丁度良い距離で、心地よい時間を、きっと。
 媚薬を飲まされたことも、アヴィに迷惑かけたことも、きっと夢。
 ああだから。夢ならば、早く覚めて……
  ……

 私はそんなことを考えながら、意識を手放したのだった。


「ん……」
 ふと目を覚ますと、白い光がベッドへと柔らかに降り注いでいた。

 ゆっくりと身体を起こした私は、自分が一糸まとわぬ姿で眠り込んでいたことに気が付き慌てる。

 ……そうだ、私昨日あのまま!

 慌てて辺りを見回すと、ベッドサイドのテーブルに白いガウンが畳んで置かれていた。
 私はそれに素早く手を伸ばすと、さっと羽織る。そして……

「……」

 テーブルの向こう側。バルコニーへと続く大きな窓へと目をやった。
 そこには、アヴィが立っていた。
 アヴィは昨夜着ていた衣装を身に纏い、ぼんやりと外を眺めているようだった。
 私に背を向けているのでその表情は見えないけれど、その背中には話しかけづらいオーラを感じた。

「……アヴィ」

 それでも、同じ部屋にいるのに何も語らない訳にはいかない。
 それに、昨日アヴィは自分を心配して部屋に駆け付けてくれたのだ。パーティの主催者なのに、その場を放棄して。私は、そっと彼の名を呼んだ。

「……おはよう」

 彼は、一瞬びくりと身を竦めるも、ゆっくりと振り返って私に朝の挨拶をする。
 でも、何故かすぐに目を逸らされてしまった。しかも、表情が何だか……固い。

「……アヴィ?」
 一体、どうしたのだろう。
 いやどうしたというか、昨日の出来事を思えば照れずに話をする方が無茶な話かもしれないが、彼のこの表情は照れ隠しとは少し違う気がする。

「アヴィ、昨日は……」
 昨日は、迷惑かけて本当にごめんなさい。私はベッドから起き上がりまずは昨夜の事を謝ろうとした。
 ところが、

「俺、行くよ。着替えないといけないし、それに朝稽古もあるし」
 アヴィは私の言葉をすべて聞く前に、そう言って部屋から出て行ってしまった。
 ろくに顔も見ず、しかも一方的。明らかにいつもの彼とは様子が違った。

「え、アヴィ、ちょっと……」
  一人部屋に残された私は、そんなアヴィの態度が酷く気になった。

 ……もしかして、昨日意識がもうろうとしている内に何かしてしまったのだろうか。
 いや冷静になって考えると、「だらしない女」とか、思うようになったのか。
 これまでどんなことがあっても、アヴィは話をする時は必ず私の目を見て話をしてくれた。
 褒める時も怒る時も、どんな時も。
 それなのに、先程の態度…あれではまるで、腫物に触るかのようなそんな感覚と同じだ。

 アヴィは窓の外を見て、何か考え事をしていたようだった。
 もしかして、私の事やっぱり幻滅したなあって……考えていたのかな。
 一晩経って、昨日の事を激しく後悔しているのかな……。
 ……

 考えれば考えるほど、悪い方に考えが及んでしまう。
 でも、このままではいけない気がする。とにかく、もう一度後でアヴィに話を聞いてみるしかない。

「……」
 時間が経ったおかげで、例の媚薬の効き目は完全にきれたようだった。
 でも、媚薬が引き金でおこっった出来事は、まだまだ終わる気がしない。

 私は白いガウンを羽織ったまま、先程のアヴィと同じように窓辺に立った。そして、先程のアヴィの表情を思い出しては落ち着かない胸の鼓動を感じてため息をついたのだった。

 

 軽くシャワーを浴びて身支度を整えると、私はアヴィが城の騎士たちと朝稽古をしている場所へと向かった。

「わん!」
「おはよう、フラフ」

 私がその場所に行くと、アヴィの愛犬・フラフが元気よく駆け寄ってきて私に飛びついた。
 私はそんなフラフの頭を撫でて、フラフと一緒にその場へと腰を下ろす。

 アルストリアの騎士たちは、その鍛錬を欠かさない。故に、何か非常事態が起きても、すぐに対応できる戦力を維持することが出来るのだ。
 それに加え、この国の第一王子であるアヴィはその上に立つものさながらの力量の持ち主。
 そして誰よりも鍛錬に熱心であり、毎朝毎晩の鍛錬を、こうして行っている。

 数列にならぶ騎士たち。アヴィの号令で振り下ろされる剣。少しでも動きが遅れれば、アヴィの檄が飛ぶ。
 何回も、何十回もそれを続け、そして最後は簡単な手合わせ。

「……次! 遅い! もっと剣先を上に向けて動かせ! ……次!」
 いつも以上に気合が入っているアヴィは、次々と手合わせする騎士たちをなぎ倒していく。

「今日の王子、気合はいってんなあ」
 それは、稽古終わりの騎士がそんな言葉を呟いたほどである。

 確かに今日のアヴィは、額に滲む汗を拭うのも惜しむほど、手合わせに集中しているように見えた。
 まるで何かを忘れたい、振り払いたいかのように、一心不乱に剣を振る。

「……」

 そんなアヴィの様子に若干の不安を覚えつつも、私は鍛錬が終了した後にいつものようにアヴィに近寄って行こうとした。
 ところが、アヴィは鍛錬が終わると他の騎士たちよりも早くその場から去って行ってしまった。
 鍛錬後はいつも、私とフラフの所に来て汗をタオルで拭きながら、話をするのに。
 もうだいぶ前から、それが日課になっていたというのに。
 それなのに、今日に限ってどうして。
 ……

「アヴィ……」

 ……もしかして、何か怒っているんだろうか。
 あんなことをさせたから、幻滅しただけでなくて、怒って?
 だとしたら謝りたいけど、でもまずは話をしたいのに。
  ……
 小さく彼の名を呟く私に、普段と違う何かを感じたのだろうか。くーん、と鼻を鳴らしながらフラウがすり寄ってくる。

「フラフ……」
 私、もしかしたらアヴィに嫌われちゃったかもしれない。
 フラフにはこんなことを言っても伝わらないし、アドバイスなんてもらえない。
 でも、そうだったらとてつもなく悲しいの。その気持ちだけは伝わったらいい。
 フラフは私のそんな思いを感じ取ったのか、もう一度小さく鼻を鳴らした。そして私に寄り添う。
 私はフラフに身を寄せると、そっと目を閉じてその温もりを感じていた。

 

 ……結局それからというもの、アヴィとは全く話が出来ない状況だった。
 朝食も昼食もアヴィは部屋で摂ったみたいだし、午前中は国王陛下と何か話をしていたようだった。
 午後はきっと話せる、そう思って彼の部屋を訪ねたけれど、アヴィは居なかった。
 使用人に聞いたところ、何やら夕方には戻る、とどこかへ出かけたとのことだった。
 私がアルストリアに来ている時は、今までは少なくても鍛錬の時以外はほぼ一緒に過ごしていた。
 どこか行くにしても、必ずそれを教えてくれていたのに。明らかに今日のアヴィはいつもと違う。

「……アヴィ」
 幻滅させたのか。怒らせたのか。それとも嫌いになったのか。
 どうして話してくれないのか、それを話したいのにその機会さえももう与えてくれない。

 昨日の私が、私の不注意であんなことになったのは消せない事実で。
 だったらせめてそれを謝らせてほしいのに、その機会ももらえないのは辛かった。

「……」
 門の所で待っていれば、帰ってきたアヴィとお話しできるかな。
 私はノロノロと部屋を出ると、門へ向かうべく廊下を歩きだした。

 と、そこへ。

「姫様、どうされました? お顔の色が悪いようですが…」
 昨夜私を部屋まで運んでくれたあの使用人の女性が、声をかけてきた。
 自分では顔色が悪いこと等全く気が付かなかった私が少し慌てた様子で自分の顔を手で触ると、

「アルストリアに御着きになってすぐにあのようなことになったので、お疲れなのかもしれませんね」
「……」
「今日は、アヴィ王子も街に出られているみたいですし、少しお部屋で休まれては」

 女性はそう言って、笑顔を見せる。
 ……その包み込むような柔らかい笑顔に、気を緩めると私は泣き出してしまいそうな感覚に陥った。
 でも、人前で涙を流すのはあまり好きではないし、泣きそうなのは自業自得ゆえ。私はぐっと気持ちを抑えて「ありがとう」と告げる。

「ありがとう。でも具合が悪い訳じゃないの……ちょっと気分が晴れなくて」
「それは大変ですね。あ、それならば少しお散歩をされたらどうでしょう? まだ日もありますし、ここから少し行った所に王家の別荘があるんですが、その傍に綺麗な湖があるんですよ」
  湖底まで良く見える、とても澄んだ湖です。女性は私にそう告げると、「失礼します」と去っていった。

「……」
 湖を見たところでこの気持ちが晴れるとも思わないけれど、でも気分転換にはなるかもしれない。
 それに、何かいいアイデアが浮かぶだろうか。
 顔色が悪いというのは言われるまで気が付かなかったけれど、良く考えるとそんな顔で門の所で待たれたら、アヴィだって余計に嫌になってしまうかもしれない。
  ……

 赤い絨毯が敷かれた廊下から窓の外を見ると、確かにまだ日は高かった。
 私は大きなため息をつくと、その湖に向かうべく再びゆっくりと廊下を歩き出したのだった。

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