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真冬の帰り道

タイプ・デッドヒートの影響で暴走しがちだった進ノ介もようやく落ち着き、 「今日は直帰をする」という霧子と別れた進ノ介と剛は、木枯らしが吹きすさぶ夕暮れ時の道をゆっくりと歩いていた。

だがその帰り道、いつも陽気な剛の表情が何故か晴れない。

女心を弄ぶかのようなロイミュード、そしてハートとの先程の戦いを思えば早々明るい気分になれないのは分かるが、それでもその様子はどことなく気になる。

「剛、どうした?」
進ノ介は彼愛用のバイクを押して横を歩く剛に声をかけた。

すると剛は、徐に足を止め…先ほどよりも深刻な表情で進ノ介を見つめる。
やはり、彼はいつもと違う。若干だが、進ノ介は剛のその様子に気持ちを強張らせた。
と、

「進兄さん、姉ちゃんのことだけど・・・」
剛はそう言って、一旦口を閉ざした。どうやら彼が悩んでいるのは、彼の姉であり進ノ介のバディである霧子の事の様だ。

剛は進ノ介に続きを話そうと一旦は口を開いたが、また閉じ…だが再び何かを振り切るかように、進ノ介に語りかけてきた。

「ボイスロイミュードに姉ちゃんが惑わされそうになった時、どうやら姉ちゃん、アイツの姿をみたっぽいんだよ」

…剛のいうアイツ、というのは勿論チェイスのことである。

ボイスロイミュードは、特殊な音波でターゲットの女性の理想のタイプの男性の姿を見せ惑わし、財産を貢がせるというまさに「女性の敵」だった。

霧子はその音波の威力を半減させるべく耳栓をすることで自らの意思を保つことが出来、ピンチを逃れることが出来た。
剛は、その時の事を進ノ介に話しだしたのだ。

剛によると、霧子は肯定はしなかったが、剛が霧子を助けに入ったとき、確かにボイスロイミュードが「何故死神を知っている」と叫んだのが聞こえた、というのだ。
死神、というのは勿論チェイスのこと。つまり・・・

「姉ちゃんが幻想で見たのはアイツ。つまり姉ちゃんの理想の男は、アイツってこと」

剛は、深いため息をつきながらそう呟いた。
進ノ介はそれに対し、「そうか」としか答えることが出来なかった。

霧子が、グローバルフリーズの際に自分を救ってくれた恩人を、「王子様」のように思っていることは知っていたし、
それがチェイスだと明らかになった今、その感情が「理想の人」=チェイスへスライドしてもなんら不思議ではないと思うからだ。

ただ、進ノ介自身も良く分からない「複雑な感情」が、進ノ介の胸の奥に疼いているのも事実であり、
でもだからといって、今はそれを前面に押し出すほどのことでもない、と思っている状況だった。

だがそんな進ノ介に対して、剛は感情的に叫んだ・・・というか、
一方的に励ましてきた、というか、いきなり自分の胸の内を語り始めた。

「進兄さん、アイツになんて負けんなよ!姉ちゃんは今、幻想に恋をしているだけなんだから!」
「負けるも何も、俺と霧子は別に・・・」

「進兄さん、考えたことある!?もし姉ちゃんがアイツと結婚したら・・・アイツが例え俺達側に戻ってきたとしても、アイツが通常の人間の中でコミュニケーションを取れるなんて思えないだろ!?職無し、ニートがオチだろ!?暇さえあればバイクで海まで走って、夕陽を背に物思いにふけるのがオチだろ!?姉ちゃんはあの性格だから、そんなアイツを健気に養いつつ、俺達には強気で笑顔とか見せて・・・何だよ、現代版おしんかよ、小公女かよ、コートの中では平気なのかよ!もう俺、見てらんないよ!」

「ちょ、ちょっと待て、剛!というかお前、死神の旦那をどういうイメージで…」

「それに比べて進兄さんは公務員だろ!?美男美女・・・いや、公務員と美女の夫婦なら将来だって安泰じゃないか!両親が公務員の子供の金銭的恵まれっぷりといったら!」

「おい、何で今美男美女ってところを言い直した?」

「大体、アイツと姉ちゃんが結婚でもしたら、俺の夢はどうなるんだよ!『アメリカに居る剛おじさん』として、老後ロッキングチェアーに揺られながら、進兄さんと姉ちゃんとその子供の家族写真を、目を細めながら見るのが夢だというのに!俺の夢はどうなるんだ!」

「…何だその夢」
「負けちゃだめだ、進兄さん!姉ちゃんと、俺の為にも・・・!」

どうやら剛の中では老後の人生計画まで明確にビジョンがあるらしい。
一気に自分の夢、というか、霧子に負けず劣らない幻想、いや妄想を叫んだ剛は、
あっけにとられている進ノ介の手をぎゅっと握ると、

「俺、後で姉ちゃんのところに寄って、目を覚ますように言っとくよ!」
「え、ちょ、ちょっと待て剛!お前一方的にそんなっ・・・」
「じゃあね、進兄さん!俺、ちょっとニトリ行ってくるから!ロッキングチェアーの候補、今の内から見つけないと!」
「ま、待て!待ってくれ、剛ー!・・・って、もう行っちまったよ、アイツ」

ていうか、ニトリにアメリカンロッキングチェアーは売ってねえ!

…突っ込みたいところは多々あったのだが、進ノ介が口を挟むまもなく剛はバイクにまたがった後。
剛は颯爽とした姿で愛用のバイクでどんどん進ノ介から遠ざかって行った。



と。

『進ノ介』

それまでの二人の会話を聞いていたベルトが、不意に進ノ介に語りかけてきた。
「どうした?ベルトさん」
不毛な・・・というか、進ノ介はともかく、剛のあの話はどう思っただろうか。
進ノ介がそれまで静かに二人の話を聴いていたベルトに話しかけると、

『・・・剛がロッキングチェアーに揺られてみる写真には、私も一緒に写してもらえるのかな?』
「・・・家族写真に写るつもりなのか。というより、気になったのはそこかよ!」

・・・どうやら、ベルトに至っては自分も進ノ介たちの家族写真に一緒に写っているかどうかが気になっただけのようである。

「知らねえよ!」

どいつもこいつも、自分勝手なことばっかりだ。
ていうか、俺の意思は誰一人として尊重なしなのか・・・ああ、何だか早瀬に会いたくなってきた。
辛いときには、もう一人の相棒。早瀬ならきっと、俺の話をちゃんと聞いてくれるはず…!

「…この間行ったばかりだけど、また寄ってくか」

進ノ介は大きなため息をつき、もう一人の相棒・早瀬が入院する病院へと歩き出したのだった。










・・・一方その頃。
現場から直帰します、とはいえど、素直にまっすぐ家に帰るつもりはなかった霧子は、帰り道途中のカフェで一人お茶をしながら、ぼんやりと考え事をしていた。
考えていたのは、例のボイスロイミュードとのやりとりのこと。

『こっちに来て』
霧子の耳に飛び込んできた、甘く優しい男性の声。

耳栓をしていたから威力は半減だったけれど、その声に導かれていった先に立っていたのは・・・笑顔の、彼。
そう、チェイスだった。

ただ残念なことに、チェイスはいわゆる普通の男性ではなく、
尚且つ再び敵幹部の手にかかり豹変してしまったので、そんな風に霧子に対して笑顔を浮かべて優しく囁くなど今はあり得ない。
故に、霧子はそこに立っていたのがチェイス本人ではないとすぐに見破ることは出来た。

・・・でも。

「・・・」
霧子は、着ているコートの上から自分の胸をぎゅっと押さえる。

ボイスロイミュードは、特殊な音波を発する際、ターゲットの女性の心の中に居る「理想の男」の情報を盗み取る。

ということは、ボイスロイミュードのせいで霧子にとって理想の人、というのが・・・チェイスだと。それが図らずも判明した瞬間であった。

---ロイミュードと人間は分かり合える。私は信じているの!
---姉ちゃんは甘い!ロイミュードと人間が分かり合える日なんてくるわけないんだ!

剛と真っ向から意見も対立した。
進ノ介はそれについて何も言わなかったが、でも否定はしなくても肯定もしなかった。

・・・もしも心が通じて、分かり合える日が来たら。
そうしたら、幻の姿であったけれど、あの笑顔を浮かべてくれる本物の彼に出会うことが出来るの?
もし会えるなら、私・・・
・・・

そっと俯く霧子の顔が、カフェでオーダーした飲み物の表面に映って見えた。

職場で見せるクールなそれ一転、まるで恥じらいに彩られた少女の顔。
静かだけれど確実に感じる胸の鼓動と、恥じらいに満ちた表情。

その表情を見る限り、
「もう一度あの笑顔が・・・本物の彼の笑顔が見たい」と願う霧子に、チェイスに対して特別な感情が確実に生まれているのは間違いなかった。
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