【このページは雑多ジャンル掲載ページです】| INFORMATION | NOVELS |BOOKMARKS | OTHERS | CONTACTS | HOME |web拍手

君に気付いた、その後に

夜もだいぶ深まった頃。烈車からの電力を受けて深夜にそぐわない華やかな光を放つ、共有スペースに設置されたクリスマスツリーの側にカグラは腰を下ろしていた。

闇を照らす鮮やかで暖かな光。楽しみながらやった飾り付け。
それらを思えば、こうして側に座せばクリスマスも近いことで浮かれた気分になりそうなものだが、残念ながら今のカグラはそうではない。
それどころか、幾度となくため息をついては表情を曇らせて…の繰返しだ。

勿論、理由もなく落ち込んでいるわけではない。
普段は明るく、屈託ない笑顔で周りの人間をも元気にするパワーを持つカグラがその顔を曇らせているのには、訳があった。
そう、それは今日の昼間の出来事。

 

 

 

「カグラ、ちょっと休憩しよ」
「うん」
闇減りの時期故にシャドウライン側の活動も大人しくなりつつある。
その合間を見て、カグラ達はクリスマスツリーの飾り付けを行っていた。
飾りつけは男性陣・女性陣で分かれて行う。飾りつけをしていない方のチームはその間は自由時間ということになっている。

勿論、一人レインボーラインを離れた明を思うと晴れやかな気分にはなれないが、明にツリーを見せること、再び共に集えることに祈りを捧げる意味も込めて、皆は飾り付けを続けてツリーを完成させることに決めたのだ。

「はい、カグラ」
「ありがとう、ミオちゃん」

そんな中。
飾りつけの少し手を休めたついでに、ミオがカグラに飲み物を渡した。
カグラはそれを喜んで受け取り口をつける。飾り付けに没頭していたのもあり、喉がからからだったのだ。
ミオもそうなのか、喉を鳴らして飲み物を飲んでいる。
そのついでに、側に置いてあった雑誌に目をやり…何かを急に集中して読み始めていた。

「ミオちゃん?」
カグラがミオの肩越しにその何かを見てみると…それは雑誌の占いコーナーだった。

記憶が戻った今は、いわゆる星座占いも見ることが出来る。
些細なことかもしれないが、女性にとって占いとは「恋愛」「ダイエット」と同列で興味を魅かれる項目なのだ。

「えーと、何々…?今週のミオちゃんは、健康運は好調、恋愛運は…貴方に好意を寄せる人からのサインをいつにもまして見逃しがちです。もしや、と思うことに身を任せてみては?だって」
カグラはミオの代わりに記事を読み上げた。

「私に好意?そんな人いるのかなあ」
…あれだけあからさまなのに、やはりトカッチの気持ちは伝わっていないようである。
無論、それはミオ本人だけでなく、側にいるカグラも気付いていないので同罪であるが。
故に、

「ミオちゃん、ほらあの人じゃない?いつぞやの」
「いつぞや…え、あの人!?表参道なんとかって人!?」
「そう」
「いや、あの人は結局、最終的には明くんにシフトしたから!それにあんなあからさまな態度、サインを見逃したくても見逃せないでしょ」

以前、一目惚れされて追い回された際の顛末が蘇ったのか、ミオはブルリと身を震わせる。

表参道ヨシオ。自分を助けたミオに一目惚れしたあげく猛烈にアプローチをしてきた男性だ。
色々あり、最後は何故か彼のファーストキスを奪った明にその矛先が向いたのだが、ミオには相当なトラウマになっているようである。

ミオは再び身を震わせ、そして「考えたくない」とばかりに、話題を変えるべく、今度はカグラの占い記事を読み始めた。

「えーと、カグラは?…健康面、寝不足に注意。恋愛運…心配事が起こりそうな運気。気になる事があったら聞いてみて。大事なことは二度繰り返す癖をつけると運気があがるかも、だって」
「えー、何それ!あんまり良いこと書いてないなあ…」

ミオをからかっていたカグラであったが、自らの占い結果を逆に読まれ、その上その結果が散々だったことが不満であった。
だがカグラが不満を漏らしたところで結果や運気が変わるわけではない。

「ま…雑誌に書いてある占いだから当たるかどうかは分からないけれどー…とりあえず、今日はいつもより早めに寝て、大事なことは二回すればいいのかな」
「そうそう。当たるかどうかは分からないけれど、私はもっと、周りを注意してみてアンテナをひろげておくってことね」

当たるも八卦、当たらぬも八卦。
しかしなんだかんだ言いながら、結果を気にしている二人である。
カグラとミオはそんなことを良いながら、お互いの顔を見合わせて笑った。

 

 

 

と、その時だった。

 

 

 

 

「あら?あれは…ヒカリ?」
ふと窓の外に目をやったミオが、そんなことを呟いた。
カグラがその声に導かれ窓の外を見ると、烈車を降りてどこかに行っていたのか、ヒカリが烈車の停車場所へと戻ってくるところだった。
そんなヒカリは、手に紙袋を持っていた。
赤い綺麗な紙袋で、ご丁寧にグリーンのリボンまでついている。
どこからどうみても、クリスマスカラー。いわゆるプレゼントであろう。
ヒカリ自身は、自分自身への贈り物にわざわざラッピングをするタイプではないと思われるので、恐らく誰かへのプレゼントではないだろうか?

「へえ、珍しい…ヒカリが誰かにプレゼントを買ってきたみたい」
ミオが、飲み物を片手で掴み飲みながらそんなことを呟く。
「そうみたいだね…」
カグラは、窓の外のヒカリに完全に目を奪われながらそう返す。

と。

ヒカリが烈車の停車場所へ着くか着かないかのタイミングで、急に立ち止まった。
そして…烈車の停車場所近くでウロウロとしていた女性に声をかけていた。
年の頃は、二十代前半。カグラ達よりも少し年上、だろうか。背中まである髪を真っ直ぐに伸ばし、細身のジーンズとパンプス、そしてキャメルのハーフコートが似合う、カジュアルな感じの女性だった。
ヒカリに声を掛けられた女性は、ヒカリを見るなりとても明るい表情をした。
ヒカリはそんな彼女に対し、笑顔で…なんと、手に持っていたプレゼントらしき紙袋を渡したのだ。

「え!?」

烈車の窓は頑丈なガラスでできているため、残念ながらヒカリとその女性がその後会話を交わしているのその内容までは聞こえては来ない。
だが、プレゼントをヒカリに渡した女性は、プレゼントを受け取り嬉しそうな表情をしただけでなく、何とヒカリにそのまま元気よく抱きついたのだ。
ヒカリは人目を気にしながらその女性の身体をそっと押し返し、笑顔で何やら話を聞いている。
そんなヒカリに対し、女性は今度は自分が持っていた紙袋をヒカリに差し出した。
緑色の袋に、薄赤色のリボンが付いていた。
ヒカリはその紙袋を笑顔で受け取ると…女性とはそこで別れた。
その後女性は烈車の停車場所からは遠ざかり、姿を消した。
ヒカリはそのまま烈車の中へ乗り込んだのか…カグラ達が居る共有スペースと繋がるドアの向こう側で、扉が閉まる音や廊下を自分の烈車の方へと歩いていく音が聞こえた。

「ねえねえ、カグラ!あれって誰だろう!?ヒカリ、いつの間にあんな人…」
自分の恋愛には異常に奥手且つ鈍感だが、人の恋愛にはそれなりに興味はあるのかもしれない。
ミオが、自分同様その光景を見ていたカグラに話しかける。

「そ、そうだね…」
だが、カグラはそれ以上何も答えることが出来ない。
どんなに捻っても、上手い言葉が口を出てくれないのだ。

「もしかして、サクラ先生に会った大学で声でも掛けられたのかなあ。ヒカリ、ああ見えて優しいし、黙っていれば野菜嫌いも分からないし、腕も立つしねえ。それにしても、まさかクリスマスにプレゼント交換し合う相手がいたとは!」
「う、うん…」
「女の人も、私やカグラとは全然違うタイプって感じだったよねえ。ヒカリ自身も大人びている感あるし、年上の女の人が合うのかしら」

野菜嫌い、は関係ないのでは?…とカグラは思いつつも、その後の「私やカグラとは全然違うタイプの女性」というミオの言葉に、何故かカグラは心を乱された。
ミオにばれないようにそっと自分の胸を抑えると、掌には自分の予想以上に早い鼓動が伝わってきた。

「…」
…別に、カグラはヒカリと何か「特別」な関係ではない。
何か共有の「約束」を交わしているわけでも無い。
このクリスマスだって、皆で過ごすことは決まっているし、それまでの間二人でどこかに出かけるなどと約束もしていない。
特別にプレゼントだって、用意はしていない。
だから、ヒカリが他の誰か、と約束をしたりプレゼントをしあったりしていたって、カグラが関知するところではないのだ。
ないのだけれど…

…でも、この胸に走る「苦しさ」は何なのだろう?

「…あの人、ヒカリの彼女かな…」
そう呟いた声は、自分でも驚く位掠れていた。
カグラは、自らのこの感情を悟られないようにしながらミオにそう尋ねる。

「さあ、それは判らないけれど、でもクリスマスプレゼントっぽいものをお互い交換しているところを見ると、何か特別な関係ではありそうだよね」

ミオはカグラの変化には気が付いていないようである。だがそれ故に、ずばりと確信をついた答えを返した。
カグラはその答えで再び胸の鼓動が早くなったことを確信するも、

「ヒ、ヒカリ、いつの間にそういう相手、見つけたんだろうね」
「ね。私達、本当は子供だけれど、新しく出会う人達にしてみればそんなこと、言わなければ分からないしねえ…」

ミオはカグラの問いに深く考えずにそう答えると、「さ、そろそろ続きをしよう。もう一息だよ」と、手に持っていた飲み物をテーブルに置き、再びクリスマスツリーの飾りつけに戻った。

「…」
カグラもミオに続いて同じようにツリーの飾りつけに戻ったのだが、その頭の中は先程見かけた光景でいつの間にか満たされている状態であった。

…その後、烈車も発車し皆が共有スペースで過ごす時間も巡って来たのではあったが、
ヒカリのプライベートでの出来事をミオがわざわざ人前でヒカリに聞くわけでも無く、
また、いつものように一人皆から離れて窓の外を見たりけん玉をしているヒカリの隣にちょこん、とカグラも座ってみるも、
中々、自分が見た事をヒカリ本人に聞くことは出来なかった。

いつものように、そして何事もなかったかのように椅子に坐して過ごすヒカリ。
でも、きっと彼のプライベートスペースであるグリーンレッシャーの中には、例の女性からのプレゼントがきちんと置かれていることをカグラは知っている。

…ねえヒカリ、あれ、誰?

ヒカリは、仲間だ。
だから、何の気兼ねなく、そう聞けばいいだけの話だった。
それなのに、そうさせない「何か」がカグラの心の中にはあった。

…シャドウラインとの戦いの中、時には身を挺してカグラを守ってくれるヒカリ。
そんなヒカリの腕を、傍にあれば無意識にとって身を委ねることもあった、カグラ。
そのことに対して、カグラはいつの間にかそれが「当たり前の光景」になっていた部分があったのかもしれない。
でも、もしもヒカリに「別の誰か」と特別な関係を築いているという事実があるというのならば、カグラが気軽にその腕を取ることを快く思わない「誰か」がどこかに居るということだ。
今まで、自然にとっていたあの腕は、もうカグラの手の届かない所にあるのかもしれない。

「…」

椅子に坐すヒカリと、拳一つ分程離れて坐すカグラ。
角度によっては、服と服が触れ合うような、近い距離。
でも、こんなに近い距離に座っているのに…今まで無意識に掴んでいたその腕が、急に遠く感じるなんて。

カグラは、今までと同じように「気軽」に、傍にあるヒカリの腕をとってみようと試みた。
だが、確か今朝方までは「何気なく」「何となく」出来ていたはずなのに、今、いざこうして「腕をとろう」としてみると、それをどうやって良いのか全く分からない。
勿論そんなカグラの妙な様子に気が付いたのか、

「…あのさ、さっきから何やってるわけ?俺の服に何かついてる?」
ヒカリが横にいるカグラにそう声をかける。
カグラは慌てて頭を振るが、

「あ、う、ううん、別に!あの…そうだ、さ、寒いねー、今日」
「…今日は、昨日よりだいぶあったかいと思うけど」
「えっ…あ、そうだったね!暑いよね!そうだ、暑い!」
「いや、暑いって程じゃないけど…カグラ、何か変だよ?熱でもあるの?」

…そう言って、何の抵抗もなしにカグラの額に自分の額をつけて温度を測るヒカリに、カグラは思わず口を噤んだ。

それは、ほんの一瞬だった。

一瞬だったし、二人が座っている位置が、ちょうどワゴンが車内販売用に持ってきておいて行った移動ワゴン車で皆の死角となっていたため、その光景を皆に気付かれることはなかった。

ほんの一瞬だったけれど、お互いの額に触れる前髪、呼吸と呼吸が交わるほどの距離。
油断したら、唇が触れてしまいそうなその距離に…カグラは自分の胸が大きく鼓動したのを感じた。
体温も一気に上昇したような感覚に見舞われた。もしかしたら、顔だってたった一瞬で真っ赤になったかもしれない。
だが、そんなカグラとは相反して、ヒカリは冷静沈着なその姿勢を崩さないままス…とカグラから離れた。
そして、「別に熱はなさそうだけど…今日は早く寝たら?」とか何とか。カグラにそう声をかけ、先程までと同様にけん玉をしながら窓の外を眺めたりしはじめた。
そんなヒカリにばれないように彼の横顔を盗み見するカグラであったが、その胸中はざわざわと音を立てて揺れていた。

…ヒカリにとって、自分はあくまで「仲間」であって。
あんなことがあって急激にヒカリの事を意識している自分とは、全く感情の捉え方が違っていて。
だから、近づこうが何をしようが、別に意識するところのものではないのかもしれない。
そう、だって昼間ヒカリがプレゼントを交換していた女性は、『カグラやミオとは全く違うタイプの女性』だったのだから。

あんなことが無ければ、クリスマスに誰か特別の相手にプレゼントを渡すことや、あまつさえ誰かを「異性」として急激に意識することなどまだなかったかもしれない。
でも、もう、遅い。…

カグラは、ヒカリの相変わらずのポーカーフェイスを盗み見しながらそっと、小さくため息をついたのだった。

 

 

 

 


…と、こんなことが昼間あったのである。
それ故、本当はミオと「今日はいつもより早めに寝て…」なんて言っていたのにもかかわらず、皆が寝静まった深夜も色々と考え事をして眠りにつくことが出来ず、こうして一人、クリスマスツリーの傍に座って考え事をしていたのであった。

あの時は「当たるかどうかわからない」なんて言っていたけれど、「寝不足注意」や「心配事」の項目など完全に当たってる。
あの雑誌、これから定期的に買っておくべきか…そんなことを考えて気を紛らわせようともしたカグラではあったが、「当たる」ということはやはり「そういう状況がおこった」ということで、それを考えるとまたそのことをあれこれと深く考えては落ち込み、の繰り返しになるのである。完全な、悪循環のループであった。
ただ、カグラが落ち込んだところでヒカリが他の誰かと特別な関係になる、いやなったというのは変わらないことで、
あとは、自分がどのように今更気が付いた気持ちに「ケリ」をつけるかだけの問題。

「…」
ならば、気が付かない方が楽だったのか?
いや、きっと遅かれ早かれ気が付くことにはなったはず。
問題は、「じゃあどうする?」ってことな訳で、
ヒカリの相手が自分ではない以上、それを受け入れる以外に方法はない。時間がかかったとしても、だ。

「…」
いつものように、すぐそこにあるからって、ヒカリの腕、とっちゃいけないんだよね…もう。

ヒカリの相手云々もそうなのだが、相手の素性が分からない今は、ヒカリとの「距離」を自分なりに感じることでその「寂しさ」を痛いほど感じるカグラであった。

 

 

 

 

と、その時だった。


「こんな真夜中に、何してるわけ?」

クリスマスツリーの鮮やかな光だけだった空間に、そんな声が流れたかと思うと薄明かりがフッ…と灯った。

カグラにとって、聞き覚えのある声。そしてすぐに分かる、聞きなれた声。でも…今は聞くのが苦しい声。

「ヒカリ、どうしたの…こんな時間に」
「あのさ、俺が今質問しているんだけど。カグラ、普段はもうとっくに寝ている時間でしょ?」

パジャマの上にパーカーを羽織った姿のヒカリはそう言って、薄明かりが灯った共有スペースに入ってきた。そして、ツリーの横に坐していたカグラの横に腰を下ろす。
ただ横にヒカリが座っただけだといのに、どくん、とカグラの胸が大きく一度鼓動した。
今までとは明らかに異なる自分の変化に、カグラは内心驚いていた。
だが驚いてばかりもいられない。

「えっと…その、ちょっと…」

…ヒカリの事を悩んでいたのに、おいそれとそれを口に出すのもどうかと思う。
カグラはヒカリの質問に対し何と返答してよいのか困ってしまった。
するとヒカリはそんなカグラに対して小さくため息をつくと、
「じゃあ…先に俺がカグラの質問に答えようか」
そう言って、カグラの顔をじっと見つめた。

「質問?」
「そう、質問。『どうしてこんな時間にここにきたのか』ってカグラ、俺に聞いたでしょ?」
「そ、そうだけど…」

カグラがヒカリの問いにそう答えると、ヒカリはそんなカグラに対して一度大きくため息をついた。
そして、「ちょっと寝付けなくて外に出たら、ここにカグラの姿が見えたからっていうのと…あとは」ヒカリはそういうと、何故か自分の羽織っていたパーカーのポケットに手を突っ込んだ。

今更ながら、寒いのだろうか?

カグラがそんなヒカリの行動に首を傾げていると、ヒカリはポケットに突っこんでいた手を出してカグラに見せた。
その手には、綺麗な緑色の包装紙にピンク色のリボンがぐるりとまかれた小さな「箱」が乗っていた。

「これは…?」
同じような色合いのものを、昼間、カグラは目にしていた。ただしそれは紙袋だったし、何よりカグラにではなく「別の誰か」に渡していたものであったが。
カグラがそんなことを思いながらヒカリにそう問うと、

「ちょっと早いけど…カグラにプレゼント」
ヒカリはそう言って、それをカグラに手渡した。そして「開けてみたら?」と促す。

「あ、う、うん…」
カグラは、おぼつかない手つきでピンク色のリボンを解き、緑色の包装紙を外した。
そして中から現れた小さな箱の蓋をあけると…そこには、綺麗な石のついた「髪留め」が入っていた。

リボンの形をした本体に、緑や黄色、そして青に赤。
綺麗だが、決して本体の輝きを邪魔しない程度の飾り石が付いた美しいものだった。

「わあ…!綺麗!」
カグラが思わず本心からそう声を上げると、ヒカリは少しホッとした様な表情をして見せた。
そして、

「軍資金もそんなにないし、何よりこういうの選ぶの初めてだから不安だったんだよ」
「え?」
「おかげで、面倒に巻き込まれるし」
そう言って、カグラに優しく微笑む。

「面倒…?」
カグラが髪留めを手に取りつつヒカリに尋ねると、

「ラッピングカウンターでコレを受け取って帰ろうとした時に、隣のカウンターで別のプレゼントを買った人とぶつかっちゃって。プレゼントを床に落としたんだけど、その人慌ててたみたいで、間違えて俺が買った袋を持って行っちゃったんだよね」
「!」
「慌てて追いかけて、烈車の近くでようやく見つけてプレゼントを返した」
「もしかして、昼間、その、抱きついてた…人?」
「そう。その人も彼氏へのプレゼントだったらしくて困っていたみたいで。喜びを体で表すタイプらしくて…って、なんでそれを?」
「えっ!あの、そ、その、窓から見えて、それで…」

カグラはそう言ったきり口を噤み下を向いた。

今に今までそれに関して悩んでいたカグラであったが、それを伝えれば、「なんでそれで悩むの?」という方向にきっと話が発展する。
そうなると、今の自分の気持ちをヒカリに話さないと話が収まらなくなる。カグラはそう考えたのだ。
だが、そんなカグラの考えは既にヒカリは見抜いているのか、

「…あのさ。なんで不確かなことで勝手に悩むわけ?そう言うのって、時間の無駄だし自分が苦しいだけでしょ?」
ヒカリは少し怒ったような口調でカグラにそう言った。

確かに、そのとおりである。

「ご、ごめん…」
カグラは、ヒカリに素直に謝った。そして、

「あの…じゃあこれ、私がもらってもいいの?」
「ああ。だってカグラの為に買って来たんだし」
「ありがとう!あ、でも…」

カグラはそこまで言って、はっと気が付いた。

今まで色々と悩んでいて、まさかこんな風に話が流れていくとは思わなかったカグラ。
なので…こうしてヒカリにプレゼントをもらったのは良いのだが、自分自身は彼にプレゼントを用意していなかったのだ。
なんせ、昼間まで「特別に誰かにプレゼントを用意する」という考えがなかった。
彼を意識し始めて初めて、それがどういうことなのか、そしてそれが何を意味するのかと考えるようになったくらいだ。

「あ、わ、私、ヒカリにプレゼント用意してなくて…あ!でもクリスマスまでもう少しあるから、当日まで待って!私っ…」
明日の停車時間とか、探してくる!…カグラはそうヒカリに伝えようとした。
だが、そんなカグラの口にそっと、ヒカリが人差し指を押し付けた。

「!」
不意の事に驚いたカグラが思わず口を噤むと、ヒカリはそんなカグラに対し小さな笑みを浮かべた。

その表情の柔らかさに、カグラの胸がドキ、と強く鼓動する。
カグラが真っ直ぐにヒカリを見つめていると、

「いいよ、わざわざ買いに行かなくたって」
「で、でも!」
「これは、俺がカグラに渡したくて勝手に買いに行ったものだから。それに…」

ヒカリはそう言って、カグラが手にしていた髪飾りをそっと自分の元へと取り寄せた。そしてその髪飾りをそっとカグラの髪につける。
カグラがそれを手で触れると、

「ちょうどリボンの形をしているみたいだから、コレをもらおうかな」

ヒカリはそう言って、カグラの手にそっと触れた。
その言葉に、カグラが一瞬でかあっと頬を赤らめる。

「せっかくくれるなら、俺はその方が嬉しい」
ヒカリは頬を赤らめているカグラにそう言うと、大きな手でぽん、と優しくカグラの頭を叩いた。

…それがどういう意味かぐらい、カグラにだって想像はついた。
でも、想像がついたところでどう答えて良いのか分からない。
それに、今日の昼間に彼を改めて意識し始めて自分の気持ちに気が付いた位だ。いきなり映画やドラマのようなご都合展開でいわゆる「大人の関係」に発展するのには、抵抗もある。
カグラがそんなことを思っていると、ヒカリはそれも見越しているのか、カグラの頭を優しく撫でながら言った。

「…あのさ。ゆっくりでいいから」
「え…?」
「きっと、俺が『カグラの事を想う気持ち』と同じ強さになるほどカグラが追い付くまで、多分まだ時間かかると思うし。だから、その…同じ方向に気持ちが向いているってわかれば、今はそれで十分」

…そんなヒカリの言葉に。カグラはその胸を先程の比ではない程に、鼓動させていた。
先程まで、カグラは自分の気持ちについて再認識し、そしてそれが「届かない想い」になると思い思い悩んでいた。
ところが自分の勘違いが発覚し、想い人の気持ちが実は自分に向いていたことを知った。
確かに、その気持ちにそれぞれが気が付いた日数は、明らかに違う。
こうして何かのイベントに贈り物を渡したい、と思うほどそれが強い想いとなって表れていることもそうだ。
実際の所、ヒカリのカグラへの想いの強さは測れない。
だが…今この瞬間は確かにそこに追い付いていないかもしれない。でも…

「きっと…私、きっとすぐに追いつく」
「え?」
「だって、私…今日はっきりとわかったから。私の勘違いだったけれど、昼間のヒカリの姿を見た時から私」
悩んで苦しかったけれど、でもずっとヒカリの事ばかり考えていた。カグラはそう言って、自分の頭を撫でているヒカリの手をそっと取った。
「ヒカリに『他の誰かがいる』って思ったら、こんな風にヒカリの手を取ることにだって躊躇した。でも…今は違うよ?私、この手を離したくない」
「カグラ…」
「私鈍いから、スタートはいつだってみんなに遅れちゃう。でも、きっと追い付くから!そして絶対に追い付いて、追い抜いて、それで…!」

カグラがそこまで言うと、ヒカリはカグラが取っていない方の手をそっと、カグラの頬に添えた。
カグラがビクン、と身を震わせると、

「俺、追い抜かれない自信あるから」
「絶対に追い抜くよ!あ、もしかしたら明日にも追い抜けるかも…!」
「そんな簡単に追い抜かれる程、半端な気持ちじゃないんで」

ヒカリはそう言って、にいっと笑った。その笑顔に、悔しいやら嬉しいやら照れるやら。カグラも思わず笑ってしまう。
二人は暫くの間そんな風に笑っていたが、その内、どちらともなくその身を寄せるようにして寄り添った。
そして寄り添ったカグラの耳元に、ヒカリが一言言葉を囁いた。
その言葉に、カグラは今度は頬だけではなく耳まで赤くしたのだが、ふと考え、ヒカリに言った。

「ねえ、ヒカリ…今のもう一回言ってくれる?」
「は?なんでさ。聞こえなかったの?」
「ううん、そうじゃなくて…あのね、実は」

今日の占いに、大事なことは二度繰り返す癖をつけると運気があがるかもって書いてあったから。

カグラがそう言うと、ヒカリは声を出して笑った。
カグラは「そんなに笑うなんて!」と膨れるも、

「別に二回だけじゃなくてもっともっと繰り返してあげる」
「え?」
「それに繰り返して言うよりも、もっと運気が上がること、教えてあげようか」
ヒカリはそう言って、むくれているカグラの額にそっと、唇を押し付けた。
カグラが驚いてヒカリをじっと見つめると、
「…ね?これなら繰り返さなくても忘れないし、きっともっと運気が上がる」
ヒカリはそう言って、カグラの頭をそっと抱き寄せるようにして頭を擡げた。
カグラも最初は戸惑ったが、やがて「うん」と答えてそんな彼に身を任せる。

 

いつしか薄明かりのついていた室内の照明は、鮮やかに光を放つクリスマスツリーだけの照明となり、
寄り添う二つの影も、時に重なり時に離れ、いつしかその眩くも薄暗いその夜の空間へと溶け込んでいった。

RUMIK'S NOVELS LINK

パラレル
糖度2
糖度3
糖度4
糖度5
企画

OTHER CONTENTS

■オリジナル作品(外部サイト)
お仕事情報

Thanks!

TOTAL: HITS(Y:)