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この胸、いっぱいの愛を

一体自分は何故、彼女を守りたいという衝動に駈られるのだろう?

 

本来の自分達の姿を知り、昔に出会った人にも再び出逢い、ついには探し求めていた昴が浜にもたどり着いた。
そんな日々一刻と状況が変わり行く中、 目まぐるしい日々の合間に、ヒカリはそれをよく考えるようになった。

大人の姿で戦う日々の中に、何かそう言う特徴的な出来事があったのだろうか?
それとも…

「…」

ヒカリは、「それとも」の先を敢えて言葉にだすことを何故か躊躇した。
いや、何故かではない。
はっきりと口にしない理由はわかっている。
【認めたくない】のだ。

 

 

俺なら、いつも側にいる。
俺なら、絶対にあの笑顔を守れる。
だからこそ、今よりもっと強くなりたい。
大切な人の心も身体も守れるように、強く。
そう。俺なら、俺なら…

記憶は失っていたのに、今まで彼女を守りたいと思っていたのは、そう言う思いが心のどこかに強くあって、今の自分に影響していたのかもしれない。

大人だからとか、子供だからとか。
彼女を思っているその気持ちには、そう言うのはきっと関係ないんだろう。
ヒカリはそんなことを考える。

…多分。
自分は子供の頃も彼女を思っていたのだろう。
その気持ちやそれを伴い生まれるコンプレックスが強ければ強いほど、それは記憶を無くしていた間に影響した。
心のどこかに、それが強く影を落としていたのだろう。
だが…

その逆を考えた時。
ヒカリは胸がぎゅっと締め付けられるような感覚を覚えた。
服の上からでも分かるほど、ドクン、ドクンと強く心臓が鼓動する。

 

今まで失われてた記憶の中で、流れていた時間。
その中で…もしも、だ。
もしも自分の大切な人の心が、すでに他の誰かを求めていたら?

 

今はヒカリを思い、その笑顔も身体も心も自分に委ねてくれている、彼女。
だが、もしも全ての戦いが終わって昴が浜戻ったら?

もしかしたら、人として成長した分、元の子供の姿には戻れないかもしれない。
大人のままでずっと過ごすかもしれない。
ならそうなった時、彼女は一体誰を選ぶ?

帰りたい町に帰れ、会いたかった人達にも出逢う。
元の町で元の生活に戻った時、もしかしたら「心」も、元にもどるのではないか。
例えあの頃は彼女の一方通行だったとしても、
例え今、別の相手と関係を築いていたとしても…
こうして大人として過ごしてきた時間も思い出も、元の生活に戻った時、まるで波打ち際で砂が海へと還るように、消えてしまうのではないだろうか…。

それならば、いっそのこと彼女を好きでいるのを止めた方がよいのだろうか?

いや、それができるならこんなには悩まない。
それができない所まで、来ているから、
そんなことでは消し去ることが出来ない位彼女が自分の心を占拠しているから、足掻いているのだ。

…まだ、そうなると決まった訳ではない。
だが、可能性がないわけではない。
町に戻れたら、もしかしたらこの戦いの事自体も徐々に忘れていくかもしれない。
そうなれば、今築いている思い出や絆もそれと共に薄れていく可能性とて否定できないのだ。

 

 

正解の分からない問答ほど、気持ちが焦れるものはない。

ヒカリそんな事を考えながら、一人時間をやり過ごしていた。

 

 

 

と、その時。

 

 

 

「あ、ヒカリみーつけ!」
今のヒカリの心境などお構いなしな明るい声が、ヒカリの耳に飛び込んできた。
カグラだ。

たった今も彼女の事を考えていたヒカリはその愛しい声に一瞬気持ちを沸き立たせるも、それまで考えていた事が尾を引き、ついつい素っ気ない態度を取ってしまう。
勿論それにはカグラも不服な様で、

「ねぇ、どうしたの?元気ないよ?」
空気を決して読まない台詞を口にしながら、いつものように、ヒカリに身を寄せて無邪気な笑みを浮かべている。

…この笑顔が、本当は俺以外の奴のもので、本来なら俺はそれを見守っているだけのポジション。
そう、だってカグラはあの時ライトを…

カグラの笑顔が眩しければ眩しいほど、
愛らしければ愛らしいほど、オーバーラップするかのように自分にとって辛い記憶が蘇る。

「…本当、何でもないから」

ヒカリには、そう呟くのがやっとだった。
ヒカリに、カグラが誰を好きでいたかまで束縛する権利はないのだ。
酷い言葉で、何の非のない彼女を傷つける前に場をやりすごさないと。

ヒカリはカグラからわざと目を背けるように振る舞った。
「…」
カグラはそんなヒカリを暫く見つめていたようだった。
だが、

「…」

遠ざけたいと思うヒカリの心中とは逆に、カグラはそんなヒカリの背中に黙ってぎゅっ…と抱きついた。

「か、カグラ…?」
ヒカリがカグラに驚き慌てて目を遣ろうとすると、そんなヒカリの動きを塞き止めるように、カグラは小さいがゆっくりとした口調で話始めた。

「…私は、絶対に忘れない」
「え?」
「元の町に戻って、もしも今のままの姿でいられなくなったとしても…もしも大人の姿でいた時の記憶が代わりに消えることになったとしても、私は絶対に忘れないから!きっと忘れられないくらい…私、今ヒカリの事大好きだからっ…」
「カグラ…」
「心の中に強く思っていれば、本当に大切な気持ちは絶対に消えない…私、そう信じたい…」

カグラはそう言って口を嗣ぐんだ。
カグラには、ヒカリが考えていた事が分かったようだ。
いや、もしかしたらカグラ自身も、ボンヤリではあるが同じことを考えていたのかもしれない。

いや、カグラの方が複雑で深刻なはずだ。なんせ決断する本人なのだから。

…でも、声に出して言い切る事が出来る分、カグラの方がきっと心が強い。

「…」

こんな彼女に応えて遣らずして、一体どうせよというのか。
ヒカリははっと胸を突かれる。

彼女の言う通りだ。
強い想いだからこそ、記憶を失っていても尚心に残る。
ならば、逆も然りだ。
迷いや戸惑いの分強さが減るのなら、そんなものは捨て去らなければ容量が足りなくなる。

「そうだよな、カグラ。俺も同じだよ」
「ヒカリ…」
「こんな風にうじうじ悩んでる時間があったら、もっとカグラと思い出を作って、それで…」

…もっともっと、カグラの心の中に俺の記憶を刻みたい。
ヒカリはカグラにそう語りかけた。

「…私も」
そんなヒカリに対し、カグラもふっと顔を挙げながらそう応えて微笑んでいた。

ヒカリはカグラの頬に優しく手を添えると、そっと顔を近づけて唇を重ねる。
カグラはその行為に一瞬びくりと身を竦めていたが、やがてヒカリの身体にしがみつく力を強くしてヒカリ受け入れた。
ヒカリもそんなカグラの身体をぎゅっ…と強く抱き寄せて離さない。

 

 

時に真実は、残酷な場合もある。
でも、ほんの一握でも希望の光があるのなら、それに賭けてみたいと思う。

君を想う気持ちは、今も昔も変わらない。
ならば、その想いが少しでもたくさん君に残るように、俺はその日が来るまで君に刻み続けよう。

 

この胸、いっぱいの愛を君に。

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