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アクシデント!(後)

もしかしたら、あれは夢の中での出来事なのかもしれない。


最近見た恋愛映画の影響?
雑誌に書かれた恋愛関係の記事を覚えている?

…いずれにせよ、記憶にはしっかり残っているけれど、それが本当に現実での出来事だったのか、と言われると実はそんなに自信がない。
・・・
再び烈車が動き始めて、一時間。
共有スペースの皆から離脱し、一人部屋の窓辺で移り行く景色を眺めながら、カグラはそんなことを考えていた。
「あれ」というのは、勿論この部屋で昼間起こった出来事のことである。


・・・トカッチがやってきた為、一旦「行為」はそこでお預けとなった。
その後はタイミングを見てそれぞれ部屋を出て、その後は特に会話も交わすことはなかった。
皆の中にいるヒカリは、今までのヒカリと何も換わらないように見え、二人で居た時のことなど想像できない。

「何もなかった様に装っている」カグラと、「何もなかった」としか思えない装いのヒカリ。

カグラにはそれが不思議でならない。
それもあり、改めて一人になりこうして考えてみると、あの時の事がまるで幻だったのではないか、と、そんな風にさえ思えるカグラである。

あの時ヒカリはあんな風に言っていたけれど、もしかして雰囲気に流されただけ、とか。
よく考えてみると、「好き」とまだ言われていない気がする、とか。
いや、言われていない。
そうなると、あそこで止まって本当は良かった、とか。
そんな思いが頭の中をぐるぐると回る。

ヒカリのことは、好きだ。
正直言って、それが仲間として好きなのかそれとも異性として好きなのか・・・その境があやふやな部分もあった。
だが、「あれ」が起こったが故、という言い方は少々語弊があるが、そのせいでカグラの中の気持ちははっきりとした。
カグラは、多分異性としてもヒカリのことを意識しているのだ。
でも・・・

「・・・」

・・・ゴツン
カグラは、窓ガラスに自分の額を軽くぶつける。

ヒカリはああ言っていたけれど、カグラはともかく、ヒカリの「本当の気持ち」を確認しないでこの先に進むのには不安があった。
好きだから、進みたいのか。
それとも、成り行きで身体が反応して、進もうとしているのか。
カグラにとっては、それはとても重要なことだった。

確信が持てなくて、何だかもやもやする。
ストレートに聞けばいいのかもしれないが、今のヒカリには何だか聞きづらくもあり…
カグラはうつりゆく景色をぼんやりと眺めながらそんなことを思っていた。

*

別に悪いことをしているつもりではないのに、何だか身体が落ち着かない。
今までにない感覚に戸惑うカグラであったが、やはり部屋の中にいると居心地がどうしても悪いので、再び烈車が止まったタイミングを見て外へ出ることにした。時刻は、夜も八時を回った頃である。
勿論、置いて行かれないように「外出する」と車掌には断った上だ。
とはいえ、行くあてがあるわけではない。
カグラはとりあえず烈車から降りて、歩き出した。と、

「あれ…明君?」
「…あ」

カグラが歩き出してすぐの所で、明とばったり会った。
明はヘルメットを片手に、傍から見ても明らかにご機嫌な様子に見えた。
恐らく、烈車が止まったこのタイミングを見て、近所の銭湯にでも行くつもりなのだろう。

「お風呂に行くの?」
「まあな。俺は銭湯を愛している」

相変わらずの様子で全く躊躇せず明はそう言い切ると、「じゃあな」とか何とか、さっさと歩いて行こうとした。

「あ…待って!」

ところが、カグラはそんな明の腕を咄嗟に掴んだ。
その行為に、カグラは自分でも驚いた。
だが、もっと驚いたのは明で、

「何だ」
表情は変えないも、意外そうな目でカグラを見る。
カグラはそんな明に対し一瞬躊躇するも、

「教えてほしい事があるの!」
「教えてほしい事?何だ。シャドータウンへの切り替えポイントなら、まだ…」
「そ、そうじゃなくて!その…男の人の、事…」
「何の話だ」
「だ、だから…その、お、男の人って、その…」

好きじゃなくても、女の子と…色々出来るの?

言葉の最後に至っては自分でも聞き取れないくらい小さな声になってしまったが、カグラは明にそう尋ねていた。

自分でも良く分からないが、ざっくりとして真っ直ぐな性格の明なら、カグラの質問に正直に答えてくれるような気がしたのだ。
そんなカグラに対し、明は一瞬驚いたような目をした。当然である。
だが、その質問で何かを悟ったのか…明は「ふむ…」と小さく呟く。
そしてその後、答えた。

「それは人によると思うが、少なくとも据え膳なら遠慮はしない」
「すえ、膳…?」
「分からなければ、聞いてみればいい」

明はそう言って、ちらりとカグラの後方に目をやった。
カグラがそちらを振り返ると…なんとそこには、ヒカリが立っていた。

どうやら、夜間外出をしようしていたカグラを見かけ、心配して追ってきたのかもしれない。

ただ、外に出てみればカグラは明と一緒。
明に至ってはヘルメットにそこから覗くタオルと石鹸…を鑑みて、銭湯に行く途中だとすぐに分かったが、
明と一緒に居るカグラを見つめるヒカリの表情は、どことなく心配しているような、むっとしているような…複雑な表情だった。

「まあそういうことだ」
そうこうしている内に、明はカグラにそう声をかけ、銭湯に向かって歩いて行ってしまった。
そう。当然のことながら、明には、カグラの質問内容やカグラとヒカリの関係などよりも、今は銭湯の方が大事なのである。
「あ、ありがとう!明君…!」
カグラは、去っていった明の背中に向かって声をかけた。

と。

「…こんな時間に、散歩?」
ヒカリが、カグラの元へと歩み寄ってきた。その表情は、先程同様複雑なままである。

「そういうわけじゃないんだけど…ちょっと外を歩こうと思って」
「そういうのを、散歩っていうんじゃないの?」
「そ、そっか…」
「…」
「…」

何故か、会話が続かない。
今までは、一緒にいれば考えることなく話をすることが出来たのに、今日は何だかそれが出来ない。

話をしたくないわけじゃない。寧ろ、ちゃんと話したい。
大切なことを、聞きたい。聞きたいのに…。

どうしても一歩踏み込めないでいる自分がもどかしくもあり、腹立たしくもあった。
カグラは、ヒカリの顔をじっと見つめたまま黙り込んでいた。

すると、


「そういえば、明と何を話していたの?」
そんなカグラに、ヒカリが話を振った。
「え?あ、あのね…」
カグラは正直に答えようとするも、ふと思い留まる。

『男の人って、好きじゃなくても、女の子と…色々出来るの?』

そんなことを明に尋ねたと聞いたら、ヒカリはなんて思うだろうか。
自分をそう言う目で見ている訳?と気分を害してしまうかもしれない。
カグラは一瞬考えるも、それを話すのではなく、先程理解が出来なかった「据え膳」について尋ねた。
勿論ヒカリにしてみれば、

「…据え膳て。カグラ、一体何の話をして明とそんな会話をしていたわけ?」
普段のカグラからは絶対に出てこないような言葉を聞き、それこそ余計に不審に感じたようで、

「えっと、その…偶然出てきたというか…」
「…で?明は何て言ってたの?」
「えっ…少なくても据え膳なら遠慮しないって…」

そもそも、頭脳戦でヒカリに太刀打ちしようという所が無謀なのである。
カグラはぼそぼそと小さな声で、ヒカリにそう答えた。
「…」
カグラのその答えに、ヒカリはぴくりと表情を変えた。
どうやらカグラが明とどんな会話をしていたのか、悟ったようである。
「…」
流石にカグラもそれに気が付き、気まずい思いで顔を伏せた。
すると、

「…」
ぽん、ぽん。
ヒカリは一度大きくため息をつくも、顔を伏せているカグラの頭を優しく撫でるように叩いた。
カグラが顔を上げると、

「…とりあえず、明だけじゃなくて、ライトにもトカッチにも、皆が誤解するような仕草は止めた方がいいかもね」
「誤解する…仕草?」
「そ。皆が、『もしかしたらカグラが自分の事を好きなんじゃないか。そのつもりなら』って思うような仕草ってこと」

ヒカリはそれだけ言うと、「カグラもそろそろ戻らない?」と言って、カグラの身体を上手く誘導して烈車の方向へ向かおうとした。そんなヒカリの腕を、カグラは咄嗟に掴む。

「カグラ?」
勿論驚くヒカリに対し、カグラは自分が胸に秘めていたことをぶつけてしまった。
本当は言うつもりなどなかったのに、何故だろうか…頭と心が繋がっていないというか、本能的に「そうしろ」と、カグラを衝動が突き動かしたのだ。

「…ヒカリは?」
「ん?」
「ヒカリも、そういうの…誤解して、その…」
好きじゃない子とでも、そういうコトするの…?

カグラはそう言って、ヒカリの腕を取ったまま、俯いた。

…据え膳、というのがカグラにはきちんと理解できていないかもしれないけれど、
でもヒカリの説明のような事を「据え膳」というのなら、
昼間のあの出来事は、ヒカリにとってはその、…


「…」
好きとか、そういうのとはまた別なんだ。そう言われたら…そう思うと、カグラの胸はまるで早鐘のように鼓動する。
自分の気持ちははっきりしている。
相手の気持ちが分からない状況で、もしも自分が想定する最悪の状況が「真実」となりえるのなら、
こんな風に一人で思い悩むことほど、間抜けなことはない。

「…」
着ているブラウスの胸元に結ばれているリボンを掴む手に、力が入る。
カグラはぎゅっと目を瞑ったまま、ヒカリの答えを待った。
ヒカリは、そんなカグラを少しの間じっと見つめていたが、やがて…ゆっくりと口を開いた。


「カグラはどう思うの?」
「え…」
「カグラは、俺がそういうコトする風に見える?」


ヒカリは、穏やかだけれどでもはっきりとした口調でカグラにそう返した。
…カグラにしてみれば勿論、そんな風には思いたくない。
ただ…「そんなことないと思う!」と断言しきれるほど、まだ自分はヒカリの気持ちを掴み切れていないような気がしていた。


きっと確信があったら、「信じているから」って言えるのかもしれない。
でも、まだその確信が。ヒカリもカグラの事を本当に好きだという、確信が…足りない気がした。
カグラの事を「女の子」だと、一人の女性だとみてくれているのは、分かっている。
でも、じゃあカグラと同じ意味での「好き」なのか。その確信が、足りないのだ。


「…私…」
「うん…」
「私…ヒカリの事、そうやって流されてソウイウコトするって言う風には思いたくない。でも…」
「でも?」
「そう信じるためには、足りない…気がして…」
「足りないって?」
「ヒカリと私が、その、同じ気持ちでそれをお互いが解っているなら…信じる気持ちも凄く強いと思うの。でも…」
今のままじゃ、一方通行な気がして…カグラは、再び語尾が聞き取れない程小さな声でそう呟いた。

そんなカグラの言葉に、ヒカリは最初合点がいっていない様子だった。
だが、すぐにカグラが本当は何を言いたいのかに気が付いた様だった。


…ヒカリにしてみれば、昼間の「あの」出来事で、自分の気持ちはてっきりカグラに伝わっていると思っていたのだ。
ヒカリとて、中途半端な、しかも状況に流されるだけであんな行為はしない。
逆に、雰囲気に流されて行うような人間なら、タオル一枚でシャワールームで倒れたカグラを部屋に運んだ時点で襲っている。

大切だから傷つけたくなくて、強引にそういうことを行うのが嫌だから…当初は煮え湯を飲まされている拷問同様に、冷静を装ってカグラと話をしていたのだ。

でも、ある時点から制御するのが難しくなって、それで…本能のまま強引にキスをした。
その後は、カグラの反応を見て事を進めていたつもりだったのだが…ヒカリが油断していた、「大切なこと」を御座なりにした結果、こんなことになってしまったようである。

大切なことというのは勿論、カグラにちゃんと自分の気持ちを伝えることである。
たった二文字、行為云々の前に何故「好き」と伝えなかったのか。今更ながらだが、ヒカリは後悔をする。

それゆえ、カグラが明にまで妙なことを質問するような状況になり、あまつさえ彼女を悩ませる原因となっていた。

言ったつもり、伝わったつもり…それが出来る相手と出来ない相手が居る。
カグラに至っては、そういうのを察するのが得意なタイプではないはず…それを自分は知っていたはずなのに、すっかり油断していた自分自身に、ヒカリは腹立たしかった。

とはいえ、ここでいきなり「カグラが好きだ」とか言った所で、はいそうですか、と信じてもらえるような気がしない。
なのでヒカリは少しだけ考え…そして、カグラに向かってこう言った。


「…じゃあさ、こうしない?俺が、カグラの事を本当にその、好きで…ちゃんと気持ちがあって昼間のあの出来事に発展させたって言う場合は、今夜、カグラの部屋にもう一度行く。でも、ただ状況に流されて、それこそ本能だけでああしてしまった、ってだけだったら、部屋にはいかない。そういう状況だったら、こんな話した後おいそれと行けるもんじゃないしね」
「…ヒカリ…」
「カグラは、それで俺の気持ちを量ればいい。それなら、簡単でしょ?」


ヒカリはそう言うと、「先、烈車に戻るよ」とカグラから離れて一人行ってしまった。
カグラはヒカリに声をかけようとするも、思い留まり一人、その場に立ち尽くす。


…確かにヒカリが言う方法は簡単だし、答えが明白だけれど。
逆にそれが、カグラの心に影を落とす。
もしも…後者の方であったらどうしよう。明日からどうやって接すればいいのかさえも、分からなくなる。


カグラは、所持していたレインボーパスへと目をやった。
時刻は、夜の八時半だった。

ヒカリが言う「今夜」は、一体いつまでの事なんだろう。
こういう時に限って、後ろ向きな想像しかできない自分が嫌になる。
カグラは重い足取りで自分も烈車へと戻っていった。

*

「あれ?カグラ、出かけていたの?」
カグラが烈車に戻ると。ちょうどシャワーを浴びてきたのか、風呂上りのミオと通路でばったりと出くわした。

「夜に出歩くなんて危ないよ?いくらカグラが強くたって、カグラは女の子なんだからね」
いつものように、優しい姉のようにカグラに接するミオ。

「ミオちゃん…」
その優しくて包み込むような笑顔に、思わずカグラは涙ぐむ。
当然のことながら、いきなり目の前でカグラに涙ぐまれたらミオとて驚く。

「どうした?何か…あった?」
「…」
「…ちょっと、お話しする?」

ミオは、今にも泣き出しそうなカグラの肩を優しく抱き、自らのイエローレッシャーの室内へと招き入れた。
そして、ベッドに腰掛けさせたカグラの手を優しく握ると、

「どうしたの?何か、あった?」
改めてカグラにそう尋ねた。
カグラは最初は話すことを躊躇したが…やがて自分の胸には抱えきれない不安に苛まれ、「実は…」とミオに包み隠さず話をしたのだった。
無論、

「ええ!?ちょっ…ヒカリってばなんてことをっ」
「み、ミオちゃん!声が大きいようっ…」
「ご、ごめん。でも…ああ、そう…あのヒカリがねえ…」

昼間に起こった事、そして先ほどの事。
すべての状況を知ったミオは、そんなことを呟いている。
しかしすぐに、

「でもね、カグラ。私は…何の心配もないと思うよ?」
「え?」
「だって、ヒカリは自分の本能に任せて他の誰かに簡単に靡くようなタイプじゃないもの。それは、カグラだってわかっているでしょう?」
「うん…でも…」
最後の一押し、が足りなくて。カグラが小さな声でミオにそう呟くと、

「そっちも心配ないんじゃないかな?ヒカリがカグラにソウイウコトをしたのは、本当に好きだったからじゃないのかな」
「ミオちゃん…」
「なるべくして、そうなったと思うけどな。それよりも、トカッチが邪魔して申し訳ないと、そっちの方が私は強く思う」

ミオはそう言って、カグラにため息をつく。
それは別にミオが謝ることではない筈だけれど、謝るところがまた、ミオらしい。

「ううん、それはいいの」
カグラがミオにそう答えると、

「カグラ?私は、ヒカリを信じていいと思うな。だから…もう部屋に戻りな。シャワー浴びて気持ち切り替えて、待っていればいいんじゃないかな」
「ミオちゃん…」
「大丈夫。きっと、カグラが心配するようなことにはならないよ」

ミオはそう言って、いつも以上に小さく見えるカグラの身体をそっと抱きしめた。
ふんわりとした石鹸の香りと、そして優しく温かいミオの体温がカグラにも伝わる。

まるで、心も温められるようだ。カグラは、小さく頷きながらミオのその温かさを感じる。
ミオはカグラから離れると、カグラをドアの所まで歩かせた。
そして、

「それより、カグラ。ちゃんと明日、今日の顛末は報告してもらうからね」
「そ、そんな。まだ、どうなるかは…」
「なるよ。きっと、なる。…あーあ、まさかカグラに先越されるなんてなあ?」

ミオはそう言って、おどけた表情でウィンクした。ミオなりに、カグラを安心させ、そして励ましているのだ。
「…ミオちゃん、ありがとう」
カグラはミオに心から礼を言うと、自らのピンクレッシャーへと戻った。
途中、グリーンレッシャーの前を通ったが、中にヒカリがいる気配はなさそうだ。
ピンクレッシャーの前にもいないし、ということは、まだ別にヒカリが来る気配もない。


「…」
ミオはああ言ってくれたけれど、どうなるんだろう…。
烈車に戻る前に比べるとだいぶ不安も和らいだが、それでも完全にそれが払拭されたわけではない。
でも、ミオが言うように…シャワーでも浴びて、気持ちを切り替えて少し、待ってみようかな
カグラは大きくため息を一度つきつつも、ミオのアドバイス通りにシャワーを浴びるべく、支度をしてシャワー室へと向かったのだった。

*

レインボーパスの時計は、午後十一時半を表示していた。




あと三十分もすれば、日付が変わる。
あまり夜更かししないカグラが、こんな時間に時計を気にしてベッドに転がったり座ったりを繰り返しているのは、普段の彼女にしてみればおかしな話だ。
だが今日に至っては、仕方がないのである。




『俺が、カグラの事を本当にその、好きで…ちゃんと気持ちがあって昼間のあの出来事に発展させたって言う場合は、今夜、カグラの部屋にもう一度行く。でも、ただ状況に流されて、それこそ本能だけでああしてしまった、ってだけだったら、部屋にはいかない』




ヒカリがそう言ってカグラと別れてから、三時間は経過していた。
とりあえず今のところは、ヒカリがこの部屋に来る気配は、ない。

「今夜」というのは、いつまでのことを言うのだろう。
日付が変わるまで?夜が明けるまで?それとも…皆が起きる時間まで?
たった数時間、されど数時間。
良い想像と悪い想像がかわるがわるにカグラの胸を訪れては、ため息をつかせたり胸を熱くさせる。

「…」

やるせなく、時を過ごす。
何度目かに横になったベッドの上で大きなため息をつきながら、カグラはぼんやりと時をやり過ごしていた。



と、その時だった。


…トン


カグラの耳に、なにやら乾いた音が飛び込んできた。
烈車が走行する際に揺れて何かが倒れたのだろうか?
そう思ってカグラが部屋の中を見回すも、別に何かが倒れたわけではなさそうだ。
カグラが首を傾げていると、

…トン、トン

再び、先程と同じような乾いた音がした。しかも今度は二度。
…ドアの方から、聞こえたような気がした。

「…!」
誰かが、ドアをノックしているんだ…それに気が付いた時、カグラの体温は一気に上昇した。

カグラは時計へと目をやった。時刻は、先程よりも進み、午後十一時五十九分を差していた。
こんな時間に、よほどの用が無ければ普通は部屋を訪れたりは、しない。
ただ…カグラには、深夜の訪問者に心当たりがある。

「…」
カグラは、震えていた自分の手をぎゅっと一度、強く握り合わせた。
そして気持ちを少し鎮めると、ゆっくりとドアへと近づく。
そして大きく深呼吸をして…ドアを少し開いた。


「…入って、いい?」


ドアの外には、カグラが待ち焦がれていた来訪者の姿。
その姿を見つめるだけで、カグラは身体中が熱くなる。
自然と瞳にも熱いものがこみ上げて、上手く言葉が出てこない。

「…今夜行くって、言ったでしょ。何で泣いてるわけ?」
「べ、別に泣いてなんて…」
「どうかな」

そんなカグラに対して、来訪者は人差し指でそっとカグラの目元に触れた。
その途端、大きな涙の粒がポロ…と瞳から飛び出てきた。
来訪者は、少し身を屈めてその涙の粒を舌でそっと掬うと、もう一度「入っていい?」とカグラに尋ねた。
カグラは、黙って一度、でもしっかりと頷いた。
来訪者はカグラのその答えに一瞬安堵の表情を見せた後、辺りを気にしながら静かに室内に入りドアの内鍵を締めた。
そして薄暗い室内の中央まで歩いた後…、二人は何も言わぬまま、そっとお互いの体温を求めあうかのように抱き合う。


ミオはああ言ってくれたし、カグラもヒカリを信じようと思っていた。
だが、刻一刻と時が進むにつれ、未だ現れないヒカリに不安も大きく感じていたのは、嘘ではない。
それ故に、ドアの外にヒカリの顔を見た時、カグラは言い様の無い感情に心を占拠された。
ヒカリは、来た。カグラの心に、小さな灯りが灯ったような気がした。


と。


「…」
ヒカリが、カグラの身体をそっと自分から離した。
カグラがヒカリをじっと見つめると、

「…あのさ。昼間あんなことになったから、ちょっと順番が逆になっちゃったんだけど」
「うん…」
「俺…」
カグラの事、好きだよ。ヒカリは、自分を見つめるカグラの瞳をまっすぐに見つめながら、そう呟いた。

「!」
…待っていた筈の言葉なのに、いざそれを耳にすると頭が真っ白になる。
それと同時に、トクトクトク…と胸が普段以上に早く鼓動しているのを、カグラは感じていた。
するとヒカリはそんなカグラの頬にそっと、手で触れる。

ビクン、とカグラがくすぐったさに身を竦めると、

「…カグラは?」
ヒカリは、真っ直ぐにカグラを見つめながらそう尋ねた。

「…」
その問いに、カグラはカアッ…と頬を赤らめる。

「…カグラは?」
ヒカリは、そんなカグラに対しもう一度そう尋ねた。
頬を触れながらヒカリは親指でカグラの唇に触れる。

薄暗くい空間に、静かな時が流れる。
絡み合う視線が、お互いの身体の自由を奪ってしまうような感覚さえ覚える。

ヒカリの真っ直ぐな視線に、カグラはまるでその身を溶かされてしまうかのように感じていた。
だが、このまま答えないでやり過ごすことは出来ない。

「…私も」
「…」
「私も、好き…私、ヒカリが好き」

情熱的なのに、包み込むような視線。
その視線に抱かれながら、カグラはヒカリに自分の想いを伝える。
ヒカリはそのカグラの答えに、安堵の表情を見せた。カグラも、そのヒカリの表情に安堵する。


…信じているけれど、大切なことが足りなくて最後の「確信」が持てなくて。
不安を感じて時を過ごしていたけれど…いまやっと、それらが全て解消されたような気がした。


「…分かった?」
ヒカリはそう言って、カグラの身体を再び抱き寄せた。そして、カグラの額と自分の額をコツンと合わせる。
「うん」
カグラはそっと目を閉じてそう答える。

「…だから、俺は気持ちが無いのにそういうことはしないってこと」
「私とは違うってこと?」
「そう」
ヒカリはそう言って、自分も目を閉じる。
そして、
「…カグラ」
ヒカリは再び目を開けた。カグラも、その問いかけにそっと目を開く。

「…続き、しようか」

ヒカリは、小さいけれどでもはっきりとした声で、カグラにそう呟いた。
続き、というのは、勿論昼間の「あれ」の続きの事である。
その問いかけに、カグラははっと息をのんだ。

勿論、ヒカリとてここでカグラが「今日はちょっと」と言えば無理に事を進めることはしないつもりだった。
お互いの気持ちは分かったのだ。それならば機会はいつだってある。焦る必要などないのだ。

ただ…勿論、中途半端に昼間あんなことになり、正直なところ、いくら精神力を鍛えているとはいえ「身体」は中途半端だった。
本当は心の中では躊躇していたのだが、思わずヒカリも口にしまったのだ。

そんなヒカリに対し…カグラも一瞬迷うも、小さく一度だけ頷いた。
別に、断っても良かったのだ。だが、自分でも何故か分からないが、それをしなかった。
その理由は判らないままだが、だが…お互い出会ったばかりという訳でもなく、そして相手の事を半端な気持ちで好きだというわけでも無いというのだけは、良く分かっていた。


「…ホントに、良い?」
「…うん」
「昼間も言ったけど、これからカグラにとって、その…痛くて辛い事するかもしれないけど…」
「…それでも、良いの」
「…」
「…」


二人の間に、静かな時間が流れた。
言いたいことも、これから何が起ころうとしているかも。
そういうことには疎いカグラであっても、それは判った。
でもそれでも、身を委ねることを選択したのだ。この選択に、後悔は…ない。


二人は、くっつけている額を一度そっと離した。
そして改めてお互いの顔を見て小さく笑いあうと…まるで吸い寄せられるようにお互いの身体を抱き寄せ、そして唇を重ねた。

温かくて、柔らかい唇。ぎゅっと押し付けては離れ、また軽く押し付けて。
そうしている内に、カグラの唇の間にぐっと…熱い舌が割り込んできた。

「んっ…」
熱くて、苦しい…なのに、絡まり合う舌の動きに身体がゾワリと震え、その行為を辞めることが出来ない。
昼間唇を重ねた時とは、全然違う。気をしっかり保ていないと立っていられないような、感覚。

カグラは、ヒカリの身体に回している腕の力をぎゅっと、強めた。
ヒカリはそんなカグラに回している自分の腕の力を、逆に少し弱めた。
その代り、自分にしがみつくように抱きついているカグラの身体を素早く抱き上げると、そのままカグラの身体をベッドへと運んで寝ころばせた。

カグラがぼーっとした表情をしていると、ヒカリはそんなカグラの身体を上から見下ろすように、同じようにベッドに乗る。
顔の両サイドに、置かれるヒカリの手。上から見下ろされるようにみられる感覚に慣れていないカグラは、思わずそんなヒカリから目を反らす。
ヒカリはそんなカグラの頬に優しく指で触れると、

「…ヤダって言っても、ここからじゃもう止められないからね」

小さな声で、そう呟いた。口調自体は冷静ではあるが、少しだけヒカリの呼吸が乱れている様な気が、した。
カグラはそんなヒカリに、目は合わせずも小さく頷いて見せた。
ヒカリはそんなカグラを確認すると、カグラの逸らした顔を指で自分の方に向けさせて…再びカグラの唇を奪った。


「んんっ…」
一瞬離れて、また吸い付く唇。
先ほどとは比べ物にならない「熱さ」に、思わず声が洩れる。
先程よりも執拗に絡みつく舌と、重なることで感じるヒカリの生身の重さと温かさ、そして…少しづつカグラの肌の上で動き始めた指の感触に、カグラはビクン身体を竦める。
耳に、首筋に。唇から離れたヒカリが触れる度、カグラはゾワリとした感覚に身体を震わせる。
その感覚に思わず身を捩って逃げ出そうとすると、

「だめだよ」
そんなカグラの身体を腕でしっかりと抱き留めるようにしながら、ヒカリが耳元に囁いた。
それだけで、カグラの中の何かが弾けそうな感覚に見舞われる。
それでも恥ずかしいので、カグラはヒカリに背を向けたままでいた。
ヒカリはそんなカグラに腕を回し抱きしめつつ、首や、耳や、頬…そして肩に。まるで滑らせるように唇を滑らせていく。

「あっ…」

自分でも驚く位悩ましげな吐息が、カグラの口から洩れた。
カグラは、ベッドのシーツを片手でぎゅっと掴み、片手では自分の口を塞ぐ様に手の甲を押し付ける。
ヒカリはそんなカグラの身体を一度ぎゅっと抱きしめると、少し力を入れてカグラの身体をもう一度自分の下へと組み敷いた。
そして昼間はバスタオル一枚だったが、今はパジャマを着ているカグラの、そのパジャマのボタンを一つ、また一つと外した。

…ボタンが一つ外れる度、暗闇にぼんやりと映えるように、カグラの肌が露出する。
カグラがその恥ずかしさにカタカタと小さく震えていると、ヒカリは一度優しくカグラにキスをした。
そして…唇が離れたタイミングで、カグラの身体を少し捩らせ、カグラの背中で止まっていたブラジャーのホックを、スッと外した。途端に、それまで固定し持ち上げていた未成熟な乳房が緩やかに、空間に放たれる。
ブルン…と、少し揺れて止まったその様子を、ヒカリはじっと見つめていた。

「…」
…恥かしい。
とてもじゃないけど、ヒカリと顔を合わせられない。
恥ずかしさに耐えられなくて、涙さえもじんわりとあがってくる。
カグラは手の甲で両目を抑えながら、再び身体を小さく震わせた。

「…」
そんなカグラの唇に、ヒカリが再びそっとキスをした。
それはまるで、不安や恥かしさを全て、全て吸い取ってくれるような優しくて熱いもの。
カグラがゆっくりと目を開けると、ヒカリはそんなカグラに再びキスをしつつ…昼間と同様、素早く来ていた上着を脱ぎ捨てた。
暗闇にぼんやりと浮かび上がる、しっかりと引き締まった裸体。
カグラはその裸体にゆっくりと…腕を回した。そして、そっと身を任せるように寄り添う。

ヒカリはそんなカグラと再び唇を重ねた。
そして自らもカグラの身体に腕をまわしつつ…片方の手を徐々に首、肩、そして胸…と滑らせる。
ヒカリの身体に押し潰され、変形していた柔らかい乳房。その形を再び元に戻すかのように・・・ヒカリは掌でそれを包み込んだ。

包み込んでいるその指の間からは、未成熟ではあるが十分な柔らかさを持つ乳房が溢れだすかのように垣間見えていた。
そして、それは収縮しては元に戻りを繰り返している。
時折、硬度を増し始めた胸の先端部分に触れられれば、いつの間に芯芽となり主張しているその部分から、説明できないような刺激が、カグラの全身を駆け巡る。

「ひゃっ…!」

何て、声を出していいかわからない。
でも、勝手に吐息が口を洩れていく。


「あ…だ、だめ…」
手だけではなく、気が付いたらいつの間にか唇も乳房へと降りていた。
更に、芯芽から肉芯へと硬度も大きさも変わりつつある敏感なその部分へと舌を這わされたら、自分の意思を反して吐息が口を出る。
「あんっ…っはあっ…」
カグラは、自分の胸に舌を這わせるヒカリの頭をぎゅっと、抱きしめた。
そうすることで、カグラはヒカリの肌をより自分に近く感じていた。
くすぐったいくらい滑らかで、温かい肌。なのに、自然にカグラの肌に纏わりつく。

頭の中は、真っ白だ。でも、こうしているだけで、少し安心して満たされるのは何故だろう?
カグラは、時折走り抜ける刺激にビクンと身体を竦ませながらも、そんなことを思っていた。



と、その内。
柔らかで弾力のあるその場所で弄んでいたヒカリの手が、するすると下に、移動し始めた。
程よくくびれたウエストを、まずは優しく撫でられる。カグラはそのくすぐったさに、小さく身を捩った。
ヒカリはそのまま、腰の辺りを撫でていく。やがてその手は、まだカグラが身につけているパジャマのズボンのウエスト部分からすっ…と中に入り込んだ。

「っ…」
素手で大腿を撫でまわされる、慣れない感触。カグラの身体が大きく弓なりに竦んだ。
昼間は、ここまではしていなかった。ここからは、もうカグラにとっては未知の領域。
テレビや映画でも、ここから先が描かれた物などは、カグラが見る機会などほぼ、無い。


「…」
湧き上がった不安を隠すように、カグラはヒカリにぎゅっと抱き付いた。
ヒカリはそんなカグラの唇に軽く一度キスをすると、

「大丈夫…」
ヒカリが、カグラの目を真っ直ぐに見つめてそう呟き、手際よくそのパジャマのズボンを剥ぎ取った。
ヒヤリ、と太腿に感じる空気の流れを感じつつ、その真っ直ぐな瞳に、カグラは小さく頷く。
ヒカリはそんなカグラにもう一度軽くキスをすると、耳元に唇をつけた。
そして、
「足…ちょっと開いて」
と囁いた。その声にカグラはかあっと、頭に血が上る。

…先ほどから大腿を這いまわっている、ヒカリの大きな手。
大腿の表面を撫でていたけれど、いよいよ内側も撫でようというのか。
となると、カグラが身体に力を入れて足を閉じていると、不都合があるのかもしれない。

でも足を開くって…どの位開けばいいのか?
全く未知の経験および知識のないカグラは、ヒカリのその言葉に少し戸惑いの表情を見せた。

「…こう?」
その度合いが分からないまま、カグラは少しだけ足を開いてみる。
するとヒカリは、その少し開いた足をぐっと…両手で左右に広げ降り曲がらせるように固定した。
カグラが考えていた比ではなかった。

「きゃっ…」
そのあまりの開き度合いにカグラが驚き怯んでいると、ヒカリは素早くその開き折れ曲がった足の、大腿の内側をぐっと、手で抑えている。

それはまるで、子どものおむつ交換時に足を開かれるみたい…いや、もはや蛙?
いずれにせよ、いくらまだ下着を着けているとはいえ、他人に見せることのない部分が露わになるこの姿に、流石にカグラも戸惑った。

…こんな恥かしい格好、なんでヒカリに見られているんだろう。
そう思うと、不安よりも恥かしさが勝って涙が出そうになるカグラであった。

そんなカグラが、ぎゅっと目を瞑り小さく震えていると、ヒカリが一旦太腿から手を離し、カグラの頬にキスをした。
そして、

「ごめん、恥かしいよね…でも、もうちょっとだから」
何が「もうちょっと」なのかは語らずも、ヒカリは小さく震えているカグラの瞼に優しく、唇で触れた。
ヒカリとて、カグラにとってこの格好がどれだけ恥ずかしいかは判っているのだ。
だが、もう止めることは出来ない。ならば、カグラに少しでも安心してもらえるように配慮するほかない。


「うん…」
…恥かしい。ヒカリの優しさに触れつつも、カグラの頭はそんな思いでいっぱいだ。
だが、今日、先に進むと決めたのは、カグラ自身。
カグラも恥ずかしいが、きっとヒカリだってそういう思いはあるはずだ。
室内が薄暗いことがせめてもの救い。…カグラは必死に自分にそう言いきかせて、小さく頷いた。

ヒカリは、それを受けて自分も頷くと、再び先程同様、太腿を手で捉えた。
そしてゆっくりと…手を指を、滑らせていく。
大腿の内側を撫で、ゆっくりとその位置をずらしていき…徐々に内側の更に内側へと指が、動く。

とその内、下着でかろうじて覆われている、場所…決して他人に見られることが無いその部分へと、指がたどり着き…止まった。

「んっ…」
カグラが大きく身体を撓らせるように震えると、ヒカリはたどり着いたその部分…布越しだというのに緩やかな膨らみがくっきりとわかるその部分に、指で触れた。

「ひゃっ…」
ビクンっ…とカグラの身体が大きく撓った。
その反応を見るように、もう一度ヒカリがその部分に触れた。
そして今度はすぐに指を離さずに、下着の布の上からその部分を、何度も何度も撫で始める。

「っあっ…んっ…はあっ…」
先程、硬度を増した芯芽を執拗に指で刺激されていた時と同じような、蕩けるような刺激が全身に走り抜けていく。
そしてそれと同時に…よく分らないけれど、カグラの身体は疼いていた。

熱い。何だか熱い。触れられている部分が、熱い。
そして触れられているその奥さえも…熱くて堪らない。

指で触れているその部分は、次第にその形をくっきりと、布の下で現すようになった。
しかも、触れるたびに何故か…じんわりと下着に違和感を感じる。
それに加え、何かこう潤んだ音が聞こえたような聞こえないような…?

「?!」
一体自分の身体に何が起こっているのか。
恥ずかしさに耐えながらカグラがヒカリを見ると、
「…濡れてる」
ヒカリはそう言って、そのじっとりと湿り始めたその部分にあてがわれている布を、くいっと持ち上げた。
「きゃっ…」
カグラがビックリして腰を浮かせると、そのタイミングでヒカリは手際よく、布を取り去った。

…そうされることで、いよいよカグラは一糸纏わぬ姿となった。しかも、ヒカリに足を広げられたまま、だ。
全くの無防備な姿勢でカグラは今、自分の好きな人の前にいるのだ。


「…」
そのあまりの恥ずかしさに耐えきれず、カグラは頬を茜色に一気に染め上げて目を瞑る。
ヒカリはそんなカグラの太腿を優しく撫でつつ、先程まで布で覆われていた部分へと、今度は指ではなく直接唇で、触れた。

「あん!っ…」
ビクンっ…
今までの比にならないくらい、カグラの身体が弓状に跳ね上がった。

「だ、だめえっ…ヒカリ、やめ…」
唇で触れるだけではなく、先程布の上からの執拗な愛撫でくっきりと形を現した肉芽にまでも、舌で触れられる。

他人に触れられることが無い、恐らく身体中のどこよりも一番敏感なその部分。
まるで飴を舐めるかのように口に含まれて舌で転がされては、湧き上がる感覚をセーブできない。

「あっ…んっ…んっ…」
舌が動くたびに、自然に、腰が持ち上がって身体が震える。
ゾワゾワと、触れられている部分から伝わる感覚が、全身に駆け巡る。

声が、出てしまう。
このままでは、万が一声が外に漏れて誰かに聞かれてしまったら…カグラは、片手の甲を自分の口へぎゅっ…と押し付けた。

それでも、甘い吐息は洩れてしまうのだが、一方のヒカリは、そんなカグラの反応を楽しむかのように、以前として舌を這いまわらせる。
そのせいなのか、先程は「気のせい」と思っていた潤んだ音が、徐々にはっきりと、カグラの耳に飛び込んできた。

暗闇に、ヒカリの乱れた息とカグラの甘い声。
そして…まるで密で満たされた壷を指で弄んでいるかのような、音。

かなり乱れた息を平静に保つようにしながら、ヒカリはその充分に湿ったその部分へ、今度は唇だけではなく、指も一緒に触れ始めた。

舌は、突起して敏感に震えている小さな肉芽へと。
そして指は…初めはその周囲を撫でまわっていたのに、いつの間にか十分に満たされた蜜壺へとゆっくり侵入し始める。


「い、いやあっ…」
まるで、その中を手繰るかのごとく。熱い蜜で満たされた壺へと指が入った。


「…はっ…」
…身体の中に、しかも、こんなところから。
自分の今の状況を考えると、 頭の中が、再び真っ白になった。

でも…信じられないような恥かしい事をされているのに、不思議と嫌悪感が無い。
潤んだ音と共に中身の満たされた蜜壺へと進入してきた指は、いつの間にか本数が増えていた。

中に入り込んだ二本の指は、カグラの身体の中を刺激するかのように…動いている。
時折きゅっと、壁を押したり。そうかと思えばぐっと、曲がったり。

「初めて」と言っていたはずなのに、一体、どこでこんなことを知ったのだろう…一瞬だけそれを恨めしく思うも、思った所でカグラの身体はその刺激に購うことが出来ない。

「あっ…あっあっんっ…」
舌は敏感な部分を常に刺激し、指は身体を翻弄している。
薄暗い室内には、蜜壺をまるで掻き混ぜる様な音が響き渡っていた。
自然に口から洩れる甘い声が、それらの音とあいまってカグラの、そしてヒカリの耳にも届く。

「あっあっ…」
カグラの口を抑えているはずの手の甲が、いつの間にか半分外れていた。
声が、洩れている。
それは判っているのに、カグラにはもうそれを抑えることが出来なくなっていた。

身体中が、熱かった。
それまでは恥かしくて、「足を開く」なんて考えられなかったに、気が付けばいつの間にか自ら足を開いていた。
そう、だってヒカリはもうカグラの足を抑えていないのだ。指は、別の部分を触れているのだから。


腰が、浮く。身体が、疼く。
熱い。熱くてたまらない。


頭の先から足の指の先まで、今まで感じたことのない刺激と、感覚がカグラの中に流れていくような気がした。
そうこうしている内に、


何かが、「来る」。
ゾワゾワして熱い感覚が、身体中を駆け巡って何かを「やって来させる」。
そんな感覚が、カグラの身体を、まるで大蛇が身体に急激に這い上がってくるかのよう襲ってきた。

その言いえて妙な感覚にカグラの腰はガクガクと震えるのだが、何故か「やめて」と口から出ない。

「んんっ…」
…正体不明の感覚に身体が震え、カグラはまるで何かに耐えるかのように、ヒカリの頭をぎゅっと、自分に押し付けた。

その様子にヒカリは何を思ったのか、舌の動きも指の動きも、少し速度を速めた。
そんなことをされたら、すでに敏感になっているこの身体はおかしくなってしまうというのに。

「だ、だめっ…ヒカリ、もうっ…」
カグラがガクガクと震えながらそう息を洩らすも、ヒカリはやめるどころか更に動きを早める。
更に、それまで舌で弄んでいた肉芽に、何を思ったか軽く歯を立てるように口に含んだ。
身体を翻弄している指は、手の甲がその受け入れ口を乱暴に叩きつけるくらい奥深くまで、既にカグラの中に入り込んでいる。

「あ、あ、っあ…」
一体、自分は何をされているのだろうか…それを考えると、それだけで頭が真っ白になった。
そんなカグラの身体を、「何か」が急速にその頭から足の先まで駆け抜けていった。
それまで身体を包んでいた感覚の比では、ない。
それと同時に、既に中身が溢れている蜜壺の蜜らしきものが大量に、広げているカグラの足に飛び散った気がした。
少し、冷たかった。それも更にカグラを真っ白にさせる手伝いをした。
やがて、


「あんっ…!」
ビクン、ビクンビクンッ…
ヒカリの頭をぎゅっと、自分に押さえつけたまま、カグラは何度か大きく、身体を震わせた。
身体を急激に這い上がってきた大蛇のようなあの感覚が、一気に頭の先から突き抜けて行ったような…そんな感覚に身体が変化したのだ。


「ああ…はあっ…はあッ…」
頭の中が、ボンヤリとしていた。視界もぼやけ、肩で呼吸をするほど、息も乱れる。
身体中の力が抜けて、それでも何だか下半身だけ震えているような…ふわふわした感覚。

…なんで、だろう…。
何とか呼吸を整えながら、抑えていたヒカリの頭を離しカグラがヒカリを見つめると、

「…」
ヒカリはゆっくりと指を蜜壺から抜いた。そして、脱力しているカグラの頬に優しく触れ…鼻先に優しくキスをし、そっとその身体を抱きしめる。

「…カグラ」
ヒカリが、優しい声でカグラの名を呼んだ。

「…」
恥かしい。なんてなんて言葉を返したらいいか、全然分からない。
カグラは、ヒカリの声に何も答えることが出来なかった。
だが…別に彼に嫌悪感を抱いているわけではない。
ただ、味わったことのない感覚への戸惑いと、そしてただた、恥ずかしいだけなのだ。

「…」
カグラは、紅潮している顔を隠すようにヒカリに抱きついた。
ヒカリもそんなカグラを更に強く抱きしめる。

密着した二人の裸体には、うっすらと汗が滲んでいた。
そして、それまで以上に…敏感でも、あった。

冷静かつ慣れているかのような素振りをしているが、ヒカリとて知識はあっても実際に行動するのは初めてなのだ。

恥ずかしいのは自分も同様であり、そして、こうしてカグラを腕に抱きしめている今も、その胸の鼓動は驚くほど、早い。

今まで抑えていた気持ちが、お互いその気持ちが通じ合ったことで、形を変えて枷が外れたとでもいうべきなのだろうか。

もう、「嫌だ」と仮に言われたとしても、どんなにカグラを思って強引なことはしないと決めてはいたとしても、
それが出来ない所まで、来ていた。


…そんなカグラの裸体に、ヒカリが自分の身体をぎゅ…と押し付ける。

熱い、身体。その中でも、特に…布越しではあるけれど、カグラはその一部分だけは特に熱を帯びている気がした。

ものすごく熱くて、そして…くっきりと形どっているのが服越しでも分る。
カグラの胸が、大きく鼓動する。

「ヒカリ…すごく熱い」
カグラが小さな声で呟くと、
「カグラのせいだよ」
ヒカリが、乱れた息をなんとか正常に保とうとしながら、そう呟く。
そしてその直後、ヒカリが驚くほど強い力で、カグラのことを抱きしめた。そして、カグラの唇を再び奪う。

「はっ…」
あまりにも強引で、そして熱いキス。息をするものもどかしかった。
強引に割り込み絡められる舌が、痺れそうだ。

ちょっと離れると、ツ…と二人の間にうっすらと唾液が伸びた。
思わずその官能的な情景にカグラが小さく声を洩らすと、

「カグラ…」
ヒカリが、カグラの身体をぎゅっと抱きしめながら、カグラの名を呼んだ。
先程カグラが感じた特に熱く感じるその部分が、服越しにドクン、ドクンと脈打つほど滾っているのが分った。

「ヒカリ…」

…ヒカリは、カグラが答えるのを待っている。
鈍いカグラも、この時ばかりはすぐに察知した。
ヒカリは、この先に進む事をカグラが了承するのを、待っている。

勿論、そのつもりで今迄こうして二人は行為に及んできたわけであるが、でも「ここまで」と「ここから」は大きく違う。
それは、カグラにもわかった。だからこそ…ヒカリはカグラに、最終確認をしているのだ。

力で強引に奪うのは簡単だ。
ヒカリ自体は、もうここまで来たら後戻りすることが出来ない気持ちで、いる。
それに物理的に考えて、ヒカリの方がカグラより数倍も強いのだから、しようと思えば出来ないことではない。寧ろ、この状況で容易いかもしれない。
でも…

「…」
過る不安とか、恥かしさとか、戸惑いとか。
全てを取り除く事は勿論無理だ。
でもある程度カグラが、それらを振り切って自分の意思もそうだと決めてからでないと、ここから先は、「ただ痛いくて辛い行為」だけで終わりかねない。
ヒカリはそう思っている。カグラはその優しさと想いを感じていた。

…一度だけ読み流したことがある何かの雑誌に、書いてあった。
どんなに好きでも、痛いものは痛い、と。
回数を重ねれば慣れては来るけど、それでも最初は痛いと。
実際は、いわゆるビデオや漫画よく見かけるような、ご都合主義ではないと。

でも、それを超えないと先には勧めない。
正直言って怖いし、勿論不安であった。
だけど…そうする相手がヒカリだから、もう少し、勇気を出してみようか。カグラはそんなことを思っていた。

頑張れる。うん、きっと大丈夫。
ヒカリが決めたように、カグラももう、決めたのだ。
恥ずかしくもあり、怖いし不安でもあるが…その部分は揺るがないのである。


「…」
カグラは、ヒカリにぎゅうっと抱きついたまま小さく一度頷いた。
「…ホントにいいの?」
乱れた息の中、ヒカリが再度カグラに問う。
「うん…」
カグラはそんなヒカリに対し、小さいけれどはっきりとした声で答えた。

「…わかった」
ヒカリは、そんなカグラをもう一度だけぎゅっと抱きしめると、一度離して先程同様、ベッドに横たわらせた。
そして、素早い素振で穿いていたズボンと、その下の下着を脱ぎ捨てる。

すぐカグラの方へ倒れてくるのかな、と思ったのだが、ヒカリは少しカグラに背を向け何かをしていた。

「…」
一体、何をしているのだろう。
始めはそれが分からなかったカグラだったが、すぐにそれに気が付き、頬を赤らめる。

コウイウコトには疎いカグラではあるが、でも最低限の知識は、持っている。
手放しで行為を行うような無責任なことは、出来ない。いわゆる、避妊具を準備しているのかなと、察したのである。

「…ヒカリ、持ってたんだ」
勿論、無いと困るけれども、ただ、そうそう簡単に購入したり手に入れているモノでは無い筈だ。

ゆっくりと身体を起き上がらせ、薄い布団で身体を隠すようにしながらカグラがヒカリに問うと、

「…まあね。これを手に入れるためにあれこれしていたら、ちょっと来るのが遅くなったんだけどね」

ヒカリは照れくさそうな様子で、カグラに向かってそう言った。

「手に入れるって?」
烈車はあの後ほどなくして出発したわけだし、一体どうやって。
まさか…車内販売!?そんなものまでここでは販売!?
カグラがそんなことを思っていると、

「いや、ちょっと前にライトとトカッチと、そんな話になって。トカッチが『社会勉強』とか何とか言いながら、買ったのを見せてくれたんだよね」
「しゃ、社会勉強…?」

確かに、トカッチの部屋にはありとあらゆるものが置いてありそうだが、まさかそんなものまで。
カグラが苦笑いをすると、

「でも、ストレートに言って分けてもらうのもあれだし、何とか話を誤魔化しながら、その、社会勉強をするってことで分配してもらって」
「…」
「…今度は、自分で用意しておく」

ヒカリはそう言って、カグラの身体をそっとベッドに押し倒した。
準備が済んで、時が来た。カグラは改めて、胸を大きく鼓動させる。

静かな空間、二人の少しだけ乱れた息だけが響いていた。

ヒカリはカグラを組み敷いて、じっとカグラを見つめている。

熱く滾るものが、カグラの大腿に触れていた。カグラの身体が、ビクン、大きく竦む。
と、そうこうしている内に、ヒカリが先程同様、カグラの足をぐっと左右に開いた。

「っ…」
カグラが緊張と不安のあまり身体に力を入れると、
「ゆっくりするから…力、抜いて」
ヒカリが、息を乱しながらカグラにそう囁いた。
「うん…」
カグラが小さく頷くと、ヒカリはそのまま、広げた足の中心部へ、何かをぴたっとくっつけた。

熱いけれど、素肌とは違うその感覚。それが何かすぐに気が付いて、カグラの頭が真っ白になる。

先ほど充分なほど潤んで溢れた蜜壺の入り口は、ゆっくりと、ヒカリを受け入れるように思えた。
しかし、

「ひっ…」

…痛かった。
先程あれだけ蜜で溢れて十分潤っていたというのに、ものすごい圧迫感がカグラを襲った。
指を受け入れるのとは訳が違う。改めてそれを感じる。

「い、いたっ…痛い…」
ヒカリが奥に入り込むごとに、増す痛み。
明らかに異物で、明らかに大きさだってある。

何かが壊れる痛さではなく、そうこれはきっと…擦れる痛さだ。
それまでぎゅっと閉じられていた所に急に異物を挿入すれば、そりゃ痛いだろう。

「慣れてたって痛い」
…その意味が、カグラはようやく実感できたような気がする。

「ご、ごめん…でももうちょっとだから…」
痛がって顔をゆがめるカグラを、その行為自体はやめないまま、ヒカリがぎゅっと抱きしめる。

「うん…うん…」
痛い。でも、もう少し。でも…痛いものは痛い。

「はあっ…はあっ…」
ぎゅッ…と手の甲で口を押えつつ、反対側の手では枕元のシーツを掴む。
更に少しでも痛さをこらえようと、カグラは大きく息を吸った。

そうこうしている内に、カグラの中に入り込むヒカリの動きが、止まった。
もしかしたら、一番奥深くまで到達したのかもしれない。

「…」
カグラがヒカリを見ると、カグラの唇はすぐに奪われた。

「…俺、カグラに何しているんだろう…」
カグラから唇を離したヒカリが、カグラの唇に触れるようにしながら、そんなことを呟く。

「…わ、私も何されてるんだろう…」
カグラも、同じようにヒカリにそう呟く。

カグラの身体が震えるように、ヒカリも微かに震えているような気がした。

それは、不安からなのかそれとも別の意味なのか。それは良くわからない。
カグラがそんなヒカリの身体にぎゅっと抱きつくと、ヒカリもそれに答えるように、カグラをぎゅっと、抱きしめた。

…正直言って、今は状況の理解よりも「痛さ」のほうが強い。
この身体中に感じる温もりと、身体を突き抜ける痛さが、カグラを現実の世界に引き戻す。

カグラがそんなことを考えていると、ヒカリがカグラの身体から上半身を離した。
その代りカグラを寝かせたまま、自分だけ体を起こし腰をぐっと、押さえつけている。
カグラの開いた足を下から抱えるように腕を通し、そのまま手はカグラの腰の辺りをグッと掴んだ。

しなやかで張り切った白い肌が、ヒカリの手の力でグニッと歪んだ。
ゾワゾワとした感触がカグラの身体中に走り抜ける。

「…」
カグラがそのままの状態でヒカリを見つめると、ヒカリはすっと片手でカグラの身体をゆっくり、上から撫でた。

「ん…」
くすぐったくて、柔らかい。その感触にカグラが身体を震わせると、

「…動かすよ」
ヒカリが、少し掠れた声でカグラにそう、声をかけた。
うん。…言葉にならない声でカグラは答え、再び枕元のシーツを掴む。
それと同時くらいに、ヒカリが一度腰を引き、そして又奥に押し入れ…と、ゆっくりと動き始めた。

「いっ…痛っ…」
痛い。
何だか、擦り傷部分を、更に擦られているような感じだ。

…あれだけ先ほどすんなりと指を受け入れたのに、同じように動くだけで、どうしてこんなに痛みが走るのか。
カグラが痛さに身を捩ろうとするも、ヒカリはそんなカグラの腰をぐっと掴み、自分の方へと引き寄せる。

その乱暴で本能的な行為に、ヒカリもカグラも頭では分かっているがどうすることも出来ないでいた。

「ご、ごめん…で、でも…」
カグラが痛さに顔をしかめているのに、ヒカリも気が付いている。

でも、心と身体はもはや別。

ヒカリは、初めはゆっくりと前後に腰を動かしていたのに、徐々にその動きのペースをあげていた。

それは本能がブレーキ出来ないのも勿論だけれど、
沸き起こる痛さと同時に、カグラのその部分がすこし慣れ始めたのも、あるのだろう。
当のカグラには、良くわからない。

…でも。 人間というのは不思議なものだ。
どれくらい、そうやってヒカリと繋がっているだろう…少し時間が過ぎてくると、

「んっ…んっ…」
痛さにも少しだけ慣れてきたカグラには、痛みの合間に、徐々に、痛みとは別の刺激が感じられるようになった。

それは、先ほど味わったあの、身体の中を一気に上り詰めたあの感覚に似ている。

痛いのは痛いのだが…それと同時に、ぼうっ…とカグラの肌が紅潮する。
部分的にまだジンジンと熱いけれど、先ほど指を受けれたのと同じように、明らかにその部分が潤滑しだした。

「あ、カグラ…」
カグラの耳に、吐息交じりの、ヒカリの声が聞こえる。

その部分が潤滑すればするほど、ヒカリが少し動くだけで、ぐっ…と彼が奥まで入り込む。

カグラは、ヒカリの身体に抱きつく力を強めた。そうすることで、余計にヒカリが動きを強めた。

カグラと、ヒカリのその結合している部分の肌が激しくぶつかり合う。
繋がっているその部分から溢れる潤んだ音と、肌を叩き付け合う乾いた音。相反する音があたりに響きあう。

「あっ…あっ…」
ベッドのシーツをぎゅっ…と握り締め、カグラは夢中でヒカリの身体に抱きついていた。

未だ感じる、鈍痛。でも、少しだけ生まれ始めた、痺れるような刺激。
しかも、ヒカリが動けば動くほど、その刺激はぞわぞわと、カグラの全身を駆け抜ける。

「カグラ…」
「ん…」

…乱暴に腰を擦り付けられるような行為なのに、その名を呼ぶのは相反した優しく切ない吐息交じりの声。

動きに合わせて揺れる柔らかな胸に触れられれば、何だか意識が飛びそうになる。
虚ろな表情のまま、二人は何度も唇を塞いでは、離れる。

その最中、ヒカリが片方の手でカグラの片足を少し、上に持ち上げた。
そうする事で、より深く、ヒカリがカグラの中に入り込む。

「あっ…」
ビクン、とカグラの身体が震えた。
ヒカリはそのまま、先程よりもスピードを増すかのように腰を動かす。

一見乱暴で本能的なその行為。
しかし、身体の奥深くを突き上げるその行為のせいで、とうとうカグラの身体の奥が疼き始めた。

「あっ…あんっあんっ…」
肌を打ちつけあう乾いた音と相反した湿潤した音が、より辺りに響き渡る。

そうこうしている内に…先程同様、何かが這い上がるような不思議な感覚が、繋がっているその部分からカグラの身体の中を駆け上り始めた。

うねるように大きな波を伴い、それは足の指先から、手の指、首を伝って耳元へ。そして…もっと上へ。

「やっ…ヒカリっ…」
カグラは、その身体を時折しなやかに跳ね上がらせながら、必死にその湧き上がる感覚に耐えようとヒカリにしがみつくも、勿論ヒカリは動きを止めるどころか、動きを早める。

ヒカリはその間に、吸い付くようなキスを時折交える。それによっても、ゾワリと、刺激が身体に走った。

「あっんっ…」
「くっ…は…」

二人の乱れた息と、汗ばんだ身体。それでも、止まる事の無い、動き。
自分たちはこの暗闇の中、何て淫らな行為を続けているのか…頭の片隅で、かろうじて残っていた理性がそんなことをカグラに語りかけるが、もう、頭は真っ白だ。
時は既に遅いのである。



と、その内。




「んんっ…」
身体中をうねるように這い上がってきていたその波が、再び大きさを増し、カグラの身体全体に広がり始めた。

「ヒ、ヒカリっ…」
カグラが、ヒカリを求めるように彼の名を呼ぶと、ヒカリは求められるがままにカグラの汗ばんだ身体を、抱きしめた。

「い、いやあっ…な、何か…何か変だようっ…」
身体を襲う、それまでとは比べ物にならない刺激。そして…熱さ。

来る。また、何かが来る。
正体不明のそれは、そうカグラが思った瞬間、一瞬で足先から頭のてっぺんまでカグラの中を満たす。
「ひっ…」
カグラの身体が、ビクンビクンッ…と大きく撓った。
そして…



「あっ…あああ!!」
それは一気にカグラの身体の中から突き抜けるようにして…消えた。
それと同時に、ぎゅうっ…と、何度も身体の奥が締め付けられるようにしてビクン、と締めつけられる。



「あっ…カグラ…」
それを受けたせいもあるのか、それから少しの後、震えて撓るカグラの身体を強く抱きしめながら、それまで夢中で腰を動かしていたヒカリが、同じように大きく震えて…じっとその動きを止めた。

「あ…」
ボンヤリとした頭と、朦朧とした意識。
繋がったまま違和感のある結合部分の感覚。
そのギャップのあるいくつもの感覚が、自分の身体が自分のもので無いような、妙な感覚をカグラに覚えさせる。

「…」
その内。ヒカリが、そんなカグラの唇をそっと塞いだ。
カグラは、それを求められるがままに受け止めては…ヒカリを求める。
まだ頭が朦朧としていても、それが本能なのだろうか。カグラにヒカリを求めさせる。

「…」
言葉も発しないまま、ただ二人を求め合った。
チュ、チュ…と唇を吸いあうそんな音だけが、辺りに響く。
汗ばんだ身体と、熱いくらいの、肌温度。
まだ、お互いの身体に残る鈍い感覚。

お互い何も言わずとも、先ほどまで繋がっていたその感覚を求めるかのように、自然に足を絡めるようにして横たわっていた。

…今でも身体の奥はまだ、ちょっと痛い。その感覚が無いといったら嘘になる。
でも、痛いけど…別にそれだけがカグラに残ったというわけでも、ない。

カグラは、ヒカリにギュッと抱きつきながらそんなことをぼんやり思う。
ただし、先程までの疲労からなのか、時折フッ…と一瞬だが意識が何度も飛んでしまう。

最初はすぐにそれに気づき意識を保とうとしたが、やがてそれも出来ずに…とうとう、フッとその意識を飛ばしてしまった。
なので、次に気が付いた時には、


「あ、あれ?」

…薄暗くしていた室内に、仄かな明るい光が差し込んでいた。
烈車の走行で揺れるカーテンの隙間から、日が差し込んでいたのである。

確か、行為を始めたのは深夜だったような気が…というより、もしかしてあれは夢?
カグラがそんなことを思っていると、

「ん…」
その朝の光がたまたまタイミングで顔にあたったのだろうか。すぐ傍で、小さな呻き声が聞こえた。

これは、ヒカリの声だ。カグラが声のした方を見ると、カグラのすぐ傍でヒカリが横たわっていた。
ヒカリは昨夜同様…ではあるが、きちんと衣服を身に纏っていた。

「っ…」
そういえば、カグラは途中で意識を失って…ようやく昨夜の事を思い出したカグラが慌てて自分の恰好を見ると、上半身だけパジャマをきちんと羽織っていた。
これは、もしかしてヒカリが羽織らせた…?そう思うと、カグラは体中の血が湧き上がるかのような感覚に見舞われる。

カグラは、ヒカリを起こさないように脱ぎ捨てていた下着を拾い、素早く装着する。そして、ベッドから降りようとすると、
「…」
そうやってカグラが動く気配を感じたのか、ヒカリがふっと目を覚ました。
そして、既に起きていたカグラを見て…ゆっくりと起き上がる。

「…おはよう」
「あ、お、おはよう…」
「…」
「…」

とりあえず挨拶はするも、それ以降の会話が続かない。
話したいことはいっぱいあるのだが、何だかこう、照れくささが勝り上手く言葉が出てこないのだ。
ただ…別に昨夜の行為を後悔しているわけではないので、やがて顔を合わせて黙り込んでいた二人は、いつしか小さく笑い合っていた。
そして、昨夜同様お互いを求めあうかのように、吸い寄せられるように抱き合う。



こうなる前は、あれこれと色んなことを考えては悩み、些細なことで一喜一憂。
昨日までの事だというのに、何だか妙に懐かしくもあり、甘酸っぱくも思える。


「私、あれから寝ちゃったの?」
「そう。だからとりあえず色々と…風邪引いちゃうから、上着だけは羽織らせてみたんだけど」
「ご、ごめん」
「いいよ、別に。俺も今回はその方がその、都合が良かったというか…」
「?」
「こっちの話」

ヒカリが言うのは、いわゆる男性側の「その後」のこと。
初めてだった故に、不手際があったら嫌だ…とでも考えていたのだろうか。
なので、カグラに見られることなく事後処理が手際よく出来たことについては、ヒカリは安堵しているようだった。
勿論それは、カグラの知るところではないのだが。


「…そういえば、昨日ね、ミオちゃんに『今日の顛末は報告するように』て言われたの」
「…。しなくていいからね」
「え、何で?」
「何でも。それにミオに報告すると…恐らく状況がもっと厄介になる」

ヒカリはそう言って、何故か遠い目をしていた。
ヒカリは、ミオからトカッチに話が流れるのではないかと予測をしているのだ。その上、トカッチにはヒカリも昨日物資提供を受けているわけだし、すべてをミオが語らなくても、流石のトカッチだって気が付くはずだ。
そうなれば、事態は瞬く間に皆の知るところとなり…厄介極まりない。

「わ、わかった…」
「今日の事は、二人だけの秘密。ずっと、秘密。それに…」
「それに?」
「…」
これ、今日だけで終わることじゃないし。ヒカリはそう言って、カグラの額に優しくキスをした。
カグラはかあっと頬を赤く染め上げる。そして、小さく頷く。


…そう。
こうやって夜明けを迎えたわけではあるが、昨夜の出来事が今回限りで終わる、というわけではないのだ。
二人の関係が緩やかに続いていくのなら、それと共にずっと、今回のようなことも続いていくのである。
カグラは改めて、それを感じた。


「…さて。気付かれない内に、自分の所に戻らないと」
「え…もう行っちゃうの?」
「…。あのさ、カグラ。我慢してるんだから、そんなこと言わないでくれる?そんなこと言われたら…」
多分、いつまで経っても帰れない。ヒカリはそう言って、カグラの身体をぎゅっと抱きしめる。
カグラもその身体に自分からも強く抱きつくと、

「じゃあ、あと五分だけ」
「五分で良い訳?」
「うー、じゃあ一時間」
「それは流石に不味いかな。残念だけど、あと二十分くらいかな」
「…」
「拗ねないの。またいつでも、こうすればいいんだから…さ?」
「…うん!」

…時刻は、午前五時四十分を指していた。
とりあえずは皆が起き出す時間の前までの、ぎりぎりの時間。
二人はお互いの身体に腕を回して互いの体温を感じ合いながら、甘くて優しい時間を過ごしたのだった。

 

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